一球に、一振りに 作:しぶき
それは、藤井先生から1週間後に練習試合を組んだことを知らせれた2日後の昼休みの教室でのこと。
この2日間みんなのモチベーションはぐんぐん上がっている。やっぱり試合があるっていうのは大きいよね。
詠深「ねぇ芳乃ちゃん、練習試合の相手ってどこなの?」
希「強かとこ?それとも凄かピッチャーがおるとこ?」
芳乃「それはねぇ・・・当日のお楽しみだよ!」
息吹「もったいつけることないじゃない。それに、強いとこが今の
希「それもそうやなあ・・・」
いけない!希ちゃんのモチベーションが明らかに下がっている・・・
芳乃「だ、大丈夫だよ希ちゃん!今は言えないけどその・・・」
珠姫「芳乃ちゃん、私も知っておきたい。相手の情報が全く無い状態で試合に臨むのはキャッチャーとしてちょっとね」
芳乃「うーん、それもそうだね。・・・わかった、珠姫ちゃんと希ちゃんには教える」
本当は明日か明後日くらいにしようかと思ったけど1日、2日早くなったところで問題ないよね。
詠深「えぇ~、私と息吹ちゃんには教えてくれないの~?」
希「ありがとう、芳乃ちゃん!」
息吹ちゃんはやれやれみたいな顔で見てるけどみんな練習試合に向けてモチベーションが上がっている、ここで相手が柳大川越だって知ったら委縮しちゃうかもしれない。ここは対戦相手の情報が必要なキャッチャーの珠姫ちゃんと相手が好投手であればモチベーションの上がるタイプの希ちゃんには教えても大丈夫かな。
芳乃「希ちゃん、でも珠姫ちゃんのほかには当日まで秘密にしていてね」
希「わかっt」
??「ねぇ、あなたが川口さん?」
希ちゃんが「わかった」と言いかけたとき、知らない人が会話に入って来た。「あなたが川口さん?」と聞くその人の目は明らかに希ちゃんを見ていた。
希「私やなかばい。それに川口ってここしゃぃは2人おるばい」
??「ば、ばい?え2人?あーだから聞きに行ったとき川口さんだけフルネームで教えてくれたのね」
珠姫(この人、ヨミちゃんよりも大きい・・・)
息吹「で、どっちに用なの?私は姉の息吹、こっちが妹の芳乃よ」
??「双子なの?」
息吹「ええ、そうよ」
??「にしては・・・そんなに似てないわね。それじゃあ芳乃さん、それから武田さん」
詠深「わ、私?」
??「そう、武田さんと芳乃さんに折り入って頼みたい事があって」
珠姫「ちょっと待って、その前に・・・どちら様ですか?」
詠深「もうタマちゃん警戒しすぎじゃない?」
珠姫「警戒しているとかじゃなくて、あまり見かけたこと無いし、先輩たちやヨミちゃんよりも大きいから上級生かもしれないと思って・・・」
希「じょ、上級生!?」
芳乃「す、すいませんでした」
希ちゃんが驚いて私が頭を下げると周りがザワつきはじめる。
??「ちょ、待ってあたしみんなと同じ1年よ!?」
詠深「ほら同級生じゃん」
芳乃(私たちと同い年の割には・・・その・・・)
珠姫(大きい・・・)※身長が
息吹(大きいわね・・・)※胸が
希(大きか・・・)※お尻が
3人ともそれぞれ「大きい」と思った箇所に視線がいく。そしてその視線に謎の同級生さんが気付かないわけもなく。
??「ごほんっ!」
息吹「あ、ごめんなさい!」
希「悪気はのうて・・・」
珠姫「気にしてたなら謝らせて」
詠深「みんなどうしたの?」
芳乃「ヨミちゃんは平気だよ」
??「もう慣れたことだし、この身体で得してきたこともあるから・・・それに女同士じゃない、見られて減るもんじゃないから見る分には平気よ」
詠深「なぁんだ、そういうこと。へぇ~」
そういうとヨミちゃんは謎の同級生さんの身体をまじまじと観賞する。
珠姫(ヨミちゃん、なんか悪い顔している)
息吹「って話が脱線してるじゃない!あなた一体誰なの?」
??「・・・忘れてたわ」
??→晃子「あたしの名前は
希「芳乃ちゃんとヨミちゃんに頼みごとがあるってとこばい」
晃子「ありがとう。えーっと・・・」
希「中村希、3組ばい」
晃子「中村さん、その『ばい』って?」
希「親ん仕事ん都合で高校に上がる時に福岡から
晃子「へぇ~福岡なんだ、それで・・・」
穴岡さん、今度は珠姫ちゃんを見つめている。
珠姫「そうね、ヨミちゃんと芳乃ちゃんに会いに来たわけだし、息吹ちゃんも希ちゃんも自己紹介して私だけしないのも変よね。私は山崎珠姫、6組よ」
晃子「中村さんも山崎さんも別のクラスだけど、何の集まりなの?」
息吹「同じ部活、野球部なの」
晃子「や、野球・・・」
穴岡さんの顔色が変わった。何かバツの悪そうな顔をしてる。
晃子「野球部って、廃部になったんじゃなかったの?」
芳乃「活動自粛にはなっていたけど2年生の先輩が2人退部しないで残っていてくれて廃部にはなっていなかったの。それでこの春に私たちとほかに1年生が3人入って10人になったんだよ」
希「芳乃ちゃんなマネージャーやけん選手は9人ギリギリなんやけどね」
晃子「そう・・・廃部じゃなかったんだ・・・・・」
詠深「あの、もしかして穴岡さん、野球嫌いなの?」
晃子「いやそういう訳じゃないんだけど・・・あーごめんごめん!また話が逸れちゃったわね」
そういうと穴岡さんは真剣な顔つきで詠深ちゃんと私を見つめる。
晃子「芳乃さん、武田さん・・・あたしに勉強教えてほしいの!」
珠姫「勉強?」
晃子「そう勉強!あたし小学校の時から全然勉強してこなかったのぉ~!だから今度の中間ピンチどころか絶望なの!お願い!」
息吹「ちなみにどの教科g」
晃子「全部!」
珠姫と希(えぇ・・・)
芳乃「穴岡さん、試しに簡単な分数から・・・」
晃子「『ぶんすう』って何?」
私が試しに簡単な分数の問題を書こうとしたら信じられない答えが返ってきた。多分、分数って文字に起こしたら平仮名になってる。これは・・・
詠深「えっとね穴岡さん、さすがにこれは大丈夫だよね?」
そういってヨミちゃんが鞄から世界史の教科書を取り出して最初の方のページを開こうとするが・・・
晃子「ごめん武田さん、あたし歴史上の人物で名前知ってるの美空ひばりと松田聖子だけなの・・・」
息吹(歴史上の人物!?)
希「勉強してこんかった以前ん問題やなかかて思うっちゃけど・・・」
珠姫「ねえ、失礼かもしれないけど穴岡さんてちゃんと学校通ってた?」
珠姫ちゃんそれ聞いちゃうんだ・・・
晃子「あまり・・・行ってなかった・・・・・」
息吹「やっぱり・・・」
詠深「不良?」
晃子「とはちょっと違うかな・・・多分」
芳乃「ねぇ、私とヨミちゃんに勉強教わった方が良いって誰に聞いてきたの?」
晃子「家庭科の藤井先生」
希「あぁ」
晃子「え?なんかマズかった?」
息吹「藤井先生、野球部の顧問なの」
珠姫「穴岡さんが聞いたときに野球部の中で勉強が出来る人でヨミちゃんと芳乃ちゃんが浮かんだのかも」
藤井先生、穴岡さんがどれくらい勉強できるか知らないで私たちのこと紹介したんだろうね。
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その頃職員室では、
杏夏(これは、武田さんと芳乃さんにとんでもないことを押し付けてしまったかもしれませんね・・・)
昼食を終え、そういえば肝心の晃子の成績を見ていなかったと思い、小テストなどの結果を見て頭を抱える杏夏であった。
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再び1年2組の教室に戻って、
晃子「わかってるわ・・・ホントは自分がもう手遅れだってことくらい」
詠深「手遅れだなんて、よし!ここは私と芳乃ちゃんにドーンと任せてっ」
珠姫「ヨミちゃん!?」
詠深「大丈夫だって。この間芳乃ちゃんがくれた練習スケジュールにはちゃんと休みも入ってるからその時間を使って少しずつ教えていけばどうにかなると思うよ」
希「ばってんちゃんと休みとらんで大丈夫?」
芳乃「そのへんはヨミちゃんじゃなくて私が多めに教えれば大丈夫だと思うよ」
それに、藤井先生がわざわざ私とヨミちゃんを指名してきたってことは何か意図があるはず・・・
希「そ、それじゃあ困るんっ!」
晃子「困るって、芳乃さんは選手じゃなくてただのマネージャーじゃないの?」
息吹「『ただの』じゃないわ」
晃子「え?」
珠姫「芳乃ちゃんはチームの参謀役だからいてもらわなきゃ困るの」
晃子「そっか・・・じゃあ他の人をあたr」
芳乃「いいよ」
息吹と希と珠姫「え?」
芳乃「その代わり、次の中間ですぐに結果を出すのは無理だから長い目で考えて」
晃子「わかったわ、それくらいの覚悟はしないとね・・・それで、」
詠深「それで?」
晃子「勉強を教えてもらうお礼なんだけど、長いスパンになるっていうんなら月1で何か欲しいものをプレゼントするっていうのでどうかしら?」
詠深「って言っても飲み物かお昼くらいでしょう?」
晃子「そんなことないわ、今の所額にそこまでの上限は無いしそうね、野球部なら最初はフルオーダーメイドのグローブやスパイクなんてどうかしら?」
その言葉に私も息吹ちゃんも希ちゃんも珠姫ちゃんも言葉を失っている。ヨミちゃんだけ嬉しそうに喰いついている。
芳乃「そ、それはありがたいけどそんな高価なもの貰えないよ」
晃子「あら?だって2人は家庭教師みたいなものよ。世間にお金をもらわないで教えてる家庭教師なんていな・・・あっ!」
何かに気付いたように穴岡さんはポケットから何かを取り出す。
晃子「『モノ』がだめだったらココに好きな数字書いて私に頂戴」
希「これって」
珠姫「小切手よね?」
もしかして穴岡さんのおうちって、お金持ち?
息吹「いい加減にしなさいっ!」
い、息吹ちゃん?
息吹「さっきから聞いてれば、私穴岡さんみたいにお金でどうにでもなるって考えてる人、はっきり言ってきr晃子「そんなことわかってるわ!」
晃子「世の中ね、お金でどうにでもなることなんてほんの雀の涙ほどのことぐらいなの!だからその僅かなどうにでもなることにお金を惜しんじゃいけないの!!2人にはその報酬を受け取る義務があるわ!!!」
芳乃「2人ともストップストップ」
慌てて止めに入ったけどちょっと遅かったかも。
珠姫「ちょっと周りをみて」
珠姫ちゃんに促されて2人が教室を見渡すとみんなこっちをみている。教室の外から覗いている人も少なくない、「野球部また何か事件起こしてるの?」といったニュアンスの話し声が聞こえてくる。
希「穴岡しゃん、悪かばってんそん提案はどっちも受けられんばい」
晃子「あなたが決めること?」
芳乃「ううん、希ちゃんの言う通り。
晃子「あっ・・・」
息吹「そう、だから同級生の間でそういう生々しいことはやめて」
晃子「でもその貴重な野球部の練習時間、たとえ休みの間の時間でもあたしに割いてくれるのにそのあたしが何も返さないなんて納得できないわ」
芳乃「それだったら、あとあt」
詠深「じゃあさ!」
ここまで沈黙を守り通していたヨミちゃんが口を開く。
詠深「週末の練習試合の応援に来てほしいな」
晃子「練習試合?」
詠深「そう!初めての試合なの。私がピッチャーで、先発なんだよ」
珠姫「ヨミちゃん、いきなりピッチャーとか先発とか言っても分からないでしょ?」
息吹「そうよ、むしろ野球嫌ってそうな感じだったじゃない」
詠深「そうかなぁ、だってさっき『フルオーダーメイドのグローブやスパイク』って言ってたじゃん。野球知ってなかったらそんなこと言えないと思うよ?」
珠姫と息吹と芳乃と希「!」
晃子(あ、しまった・・・)
ヨミちゃんの言うとおりだ、バットやボールならまだしもグローブとスパイク、それもフルオーダーメイドでなんて言葉、もしかして・・・
芳乃「ねぇ、穴岡さんってもしかして野ky」
晃子「乗った乗った!その提案にしましょう。週末ね、土曜?日曜?何時から?」
詠深「日曜の10時半、場所はここのグラウンドだよ」
晃子(良かった、予定は朝で学校の近くの公園だし、午後は『流し』のつもりだったから依頼は入ってない)
晃子「わかったわ、じゃあまた放課後、練習が終わるまで待ってるから勉強のほう、よろしくね♪じゃ♬」
そういうと穴岡さんは少し慌てた感じで教室を後にした。
希「何だか、嵐んような人やったね」
息吹「よかったの?あんなことOKしちゃって?」
芳乃「大丈夫だと思うよ。それに、」
珠姫「それに?」
芳乃「穴岡さんて、もしかしたら・・・」
私の中には、微かで漠然と、だけどはっきりとした『何か』があった。
全く野球していない・・・
数字やアルファベットなどを全角にしているのですが半角の方がいいでしょうか?
勝負師