東京ドラグナーズ   作:タク@DMP

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第10話:対決/ソード・オブ・クイーン

 ※※※

 

 

 

 アイドルの護衛については一先ず「考えておく、謝礼次第でな」で済ませておいたものの、消極的だった。

 【ワイルドハート】時代は便利屋稼業もやっていたので、彼女はそのつもりで頼んできたのだろう。

 実際荒事には慣れているので、ボディーガードくらいは何てことはないと思っていた。

 思っていたのだが──脳裏に過るのはドラグハートの件。こちらが厄介過ぎる。

 さしもの咢斗も、先日の事件は強烈に印象に残っていた。バイクは修理に出したまま、全身は擦り傷塗れである。

 寧ろこれだけで済んだのが不思議であった。

 

(……金庫破りはドラグハートの仕業、そして──影響を与えるのは憑依した本人のみならず、周囲にも。厄介だぜェェェ~~~)

 

 ドラグハートに憑依された人間は凶暴化し、更に周囲の精神も自らと同調させてしまう力を持つと少女(ソラ)は語った。

 そして、ドラグハートを真のデュエルで打ち負かせば浄化することが出来、憑依された人間はその間の記憶を失う……。

 オマケに、憑依先の力を限界まで吸い取ればドラグハートはクリーチャーとして実体化する。それが引き起こす災害はこの間のザンテツ・ビッグホーンが証明した通りだ。

 

(難しい事は分かンねーけど、とっとと姫様を捕まえねェとな……ソラも国に帰れねェのは気の毒だ。それに──)

 

 ニターッ、と暴君が笑みを浮かべた。

 

 

 

(もし俺様、この事件を解決出来たら、アルカナ王国から謝礼金貰ってガッポガッポ大儲け、それで家とカードが山ほど買えるンじゃねェェェかァァァーッ!?)

 

「おかーさん、あの人すっごい顔して笑ってるよー」

「シッ!! 見ちゃいけませんッ!!」

 

 

 これで全部台無しである。

 人助けはするが、自分に帰って来るリターンもきっちり勘定に入れるのが黒鉄咢斗という男であった。それは金に限ったものではないが、自分のアクションには見返りを求めていくのが彼なりのスタンスである。

 少なくとも「()()()()()()()()()()」みたいな奴は得体が知れないと考えていた。

 相手は国家の要人、集めているのは国の宝、請求さえきっちりすればボディーガードよりもガッポリ儲かる未来しか見えない、と咢斗は不敵に笑う。

 

(とッ、巫女様待たせてたら世話ねェわな)

 

 咢斗は軽くなった足取りで近くのカードショップに急いだ。

 あの汚いアパートにソラを一人で置いていくのは忍びなかったのと、彼女が「もっとカードショップを見て回りたいです!」とキラキラした目で懇願するので連れ出したのである。

 此処ネキバはNEO千代田区の管轄というだけあって、女子供が一人で出歩ける程度には比較的治安が良い。そのため、メイド喫茶でMTG(ミーティング)している間、ソラは近くのカドショに置いていた。

 

「まッ、少なくとも攫われたり絡まれたりとかはねェだろ……」

 

 俺様としたことが心配性だな、と頭を掻く。

 以前はこんな気持ちになる事は無かった。

 

 

 

(変わったな、俺様……)

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「アギト、まだかな……」

 

 

 

 カードショップの一角で、ショーケースのカードを見ながらソラは溜息を吐く。

 この街に来てから発見や驚きの連続だ。

 咢斗は「ドラグハートを探す為」という理由込みではあるが、ソラを色んな所に連れ出した。

 正直、同い年と知らせた後も、まだ保護者のような目で見てくるのさえ除けば不満は無い。

 

「《灰になるほどヒート》から《バーンメア・ザ・シルバー》を召喚ッ!」

「《正義帝》をギャラクシールド・セットオン!」

「《コギリーザ》で攻撃するときに、墓地から《英知と追撃の宝剣》を唱えるよッ!」

「ホイ来た! S・トリガー、《襲来!!鬼札王国》だッ!」

 

 賑やかな声が聞こえてくる。

 ショーケースの向こうからソラはデュエルスペースの様子を覗き見ていた。

 それに合わせて、カード達の声も聞こえてくる。

 

 

 

(うん……聞こえてくるよ、皆の声。とても、楽しそう。今のご主人様と一緒に戦えるのが、嬉しいんだね)

 

 

 

 

「おーい嬢ちゃん、ちょっと良いかァ?」

 

 嬢ちゃんはやめてください、と言いかけた口をソラは抑える。

 そこに居たのは金髪のチャラそうな男二人組。シルバーチェーンを付けた黒いシャツの若者だ。全く知らない顔に話しかけられたからか、少女は硬直する。

 

「え、えと、何です、か……?」

「嬢ちゃんさァ可愛くて綺麗だよねー、その銀髪何処で染めたの?」

「こ、これは、別に染めてるわけじゃ──」

「え? マジ? それじゃあ自毛? スッゲー! マジモンのガイジンじゃん、日本語達者だねー」

 

(何かこの人たち、嫌だ……)

 

 軽薄な笑みの後ろに見え隠れする卑しい欲望。

 おずおずと後ろに下がろうとするが、そこはショーケースで逃げる事は出来ない。

 

「ねえ嬢ちゃん、この後俺達と楽しい所でイイことしない?」

「い、イイこと、ですか?」

「そうそう、NEO歌舞伎町って所なんだけど──」

 

 

 

「──テメェらなかなか目の付け所が良いな?」

 

 

 

 直後、二人の男よりも高い影がすっと後ろから現れる。

 男達は振り返るなり「ヒッ」と小さな悲鳴を漏らした。

 鬼のような形相の黒鉄咢斗がそこには立っていた。

 男達の肩には、咢斗の指がくっきりと食い込んでおり、思わずソラも怯えて竦んでしまった。

 

「な、何だオメ──」

「そころでソイツはツレなんだが、当然俺様も同伴で構わねェな?」

「ヒッ──!?」

「ゲェッ、お前は確か”紅蓮の暴──」

「無駄口叩くなやァ。10数えてやるからよォ、とっとと失せな──じゅーう、さーん、にィィィいィィィー──」

「「すンませんでしたーッ!!!!」」

 

 逃亡する男達。

 腰を抜かしたソラを引っ張り上げてやると、彼女は怯えを隠せない表情でこちらを見つめていた。

 怖がらせてしまったか、と彼は肩を竦める。

 現役時代ばりに凄んだからか、顔が引きつっていた。

 

「立てるかよ?」

「だ、ダイジョブです……え、えと、あの、ありがとうございます、アギト」

「顔が怖いから昔から凄んだだけで大概のチンピラは逃げてくンだ。役には立つだろ?」

 

 ハハッ、と自嘲気味に咢斗は嗤ってみせた。

 それを見てか、恐れを一瞬でも抱いてしまった事に彼女は罪悪感を覚える。

 

「……まあ、悪かったな。此処のカドショならちったァ安全かと思ってたンだがタチの悪ィ輩も居るモンだな。帰るか」

「わ、私はッ! 大丈夫ですッ!」

 

 だからか、せめて彼にこれ以上気を遣わせまいと強がるようにソラは言った。

 

 

 

「それよりも……私、デュエマを覚えてみたいです、アギト」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「デュエマを教えるのは別に良いんだけどよ……」

 

 

 

 カードショップのデュエルスペースの一角で、咢斗とソラは向かい合っていた。周囲の喧騒に掻き消され、二人の会話は誰にも聞こえていない。

 

「──何で巫女様がデュエマのルール知らないンだ?」

「巫女は直接戦う事を禁じられているからです。戒律、のようなものですね」

「ほーん、成程ね。それでデュエマも知らなかった、と」

「でも咢斗が戦ってる横で、咢斗が何をしているのかよく分からないままなのは……イヤなので」

「そっか……置いてけぼりだもンな」

 

 咢斗はソラがカードの事は知っていてもデュエマそのもののルールは知らなかった事を納得した。

 曰く、巫女である龍戦士に力を貸す立ち位置でしかないからだ。理由はどうあれ、そのような仕組みになっているのだろう。

 

(この先一緒に戦うなら、デュエマのルール知らないままってのは訳分かンねェだろうしな)

 

「じゃあ行くぞ。デュエマには何種類かのカードがある。その中でもよく使うのが、生き物……”クリーチャー”と、使い切りのカードである”呪文”だ」

 

 使うと場に残り続ける生き物(クリーチャー)は、相手プレイヤーを攻撃したり相手のクリーチャーとバトルする、プレイヤーの頼もしい仲間である。 

 一方、呪文は唱えるとすぐに墓地に置かれる魔法のカードである。自分を補助したり、相手のクリーチャーを退かせたり、クリーチャーを呼び出したり、と様々な局面で呪文は影響してくる。

 

「デュエマってのは基本的に、自分の仲間であるクリーチャーで相手のシールドを5枚全部割り、その上でトドメを刺すことで勝利となるゲームだ」

「そして、その補助として呪文が使われるんですね」

「まあ基本的にはな」

 

 今まで相手にしてきた数々の凶悪デッキを思い出しながら咢斗は答えた。

 脳裏に走るのは、呪文が補助のカードとは思えない程に目立ったデッキの数々。

 デッキによれば呪文もまた主役のカードであるが、初心者に教えるのは酷な話だった。

 

「ゲームに必要なものは何ですか?」

「同じカードを4枚まで入れた40枚のデッキだけだ。最低限ラインは此処になる」

「それだけですか? コインとか計算機とかは──」

「要らねェな。先攻後攻はジャンケンで決めるのが公式のルールッてことになってるしよ」

 

 このように、デュエル・マスターズというゲームに必要なものは基本的に少ない。

 ゲームに最低限必要なデッキくらいなものだ。

 

「もう1つ、俺様はよくドラグハートを使うから超次元だけ教えておく」

「超次元……ですか?」

「ゲームに必ず必要って訳じゃねェが、強力なカード達だ。使う時はデッキとは別に用意する」

「デッキの外に、ってことですか?」

「そうだ。ドラグハートやサイキック・クリーチャー……要するに裏表両方にイラストがあるカードはデッキの中に入れたらすぐに分かっちまうだろ?」

「あ、確かに……では、裏表があるカードはデッキには入れずに別に用意する、って覚えれば良いんですね」

「ああ。そして、俺様がこの間やってみせたように、使う時はデッキの中に入れた専用のカードで呼び出すンだが……後は実際にやってみりゃ良いだろ」

 

 ぽん、と咢斗は1つのデッキを彼女に渡す。

 初心者用のスターターデッキを咢斗なりに改造したものだ。

 その年の新ギミックに慣れるという意味合いもあり、咢斗は毎年スターターデッキを買っていた。

 

「先ずはこれ使って覚えるのが一番だな。書いてる事も簡単だしよ。超次元も何も入ってねェけど」

「えーと……火と自然のカードのデッキ、ですか?」

「ああ。相手は俺様が──」

 

 

 

「おやァ、咢斗君じゃないか! 君も此処のカドショに目を付けているとは」

 

 

 

 胸がキュッと縮こまった。恐らく寿命が2年ほど短くなっただろう。

 振り返ると──そこには先程メイド喫茶で別れたはずの琥珀が気さくに手を振っている。

 そう言えば彼女、今日は完全にオフだと言っていた。

 マズい。完全に最悪のマッチングである。

 目の前には警察が追っているリィンフォース姫に瓜二つなソラが座っているのだから。

 

「ムッ、咢斗君──その女の子は!?」

「あ、いや、こいつは──」

 

 

 

「あの咢斗君が女の子に逃げられずにデュエマしているッ!? 明日は槍が降るぞ!?」

「あ”ァ?」

 

 

 いっぺん咢斗は彼女をしばき倒したくなった。

 真っ先に浮かべた感想がこれである辺り、現役時代は本当に女子供から避けられていたのである。

 これも数々の武勇伝に加え、彼の顔と態度と目付きのイカつさが原因であるのだが。

 

「それで咢斗君、その女の子は一体? 銀髪がかわいらしい綺麗な子じゃァないか」

「あッ……そ、それは、ありがとうございます」

「フフッ、礼には及ばないさ。丁度最近似たような顔を見たもので……銀髪?」

 

 ふと琥珀は秒でタブレットを取り出し、ソラの顔とタブレットの画像を見比べる。

 銀髪。色白。整った顔立ちの少女。

 

「……オイ、咢斗君。今度は何に手を出し──」

 

 そこで琥珀の声は途切れた。

 既にその場に黒鉄咢斗は居なかった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「ど、どうして逃げるんですかッ!?」

「どうもこうもねェッ!! あの女はタチの悪い事に公僕なンだよッ!!」

「公僕って何ですか!?」

「お巡りさんッッッ!!」

「えええーッッッ!?」

 

 お米様抱っこをご存知だろうか。 

 お姫様ではなくお米様である。

 さながらソラは俵のように肩から担がれていたのである。

 それほどまでに黒鉄咢斗は焦っていた。しかし、幸いあの女はどん臭い所があり、毎度のように自分に逃げられる。

 だから、レンタルバイクを止めている駐車場まで逃げることが出来ればこちらのものと思われていたのだが、上からバイクの音が聞こえてくる。

 

 

 

 

ハァい アーギトォ……

「ギャアアアアアアアアーッッッ!!」

 

 

 

 

 ──剣琥珀は予想の斜め上から現れた。

 近くの建物からバイク諸共落ちてきたのである。

 流石に【ワイルドハート】在籍当時は『護法の蒼剣』、『M豚』、『ドM女』、『変態』、『変態ドM女』、『変態ドM豚女』と呼ばれていただけはある。

 バイクのテクニックはタダ乱暴に乗り回すだけの咢斗を遥かに上回っており、高所からの落下も何のその。

 事故って自分が大怪我するところまで勘定に入れているのがドMの恐ろしい所である。

 尚、滅茶苦茶をして死ぬ事を想定していないのは、殺しても死なない【ワイルドハート】元幹部メンバー共通である。

 

「まさか君に話した矢先からこんな事になるとはな、ええ? 彼女は何処からどう見てもリィンフォース姫だろう」

「あ、あの、人違いですッ! ほ、本当にッ!」

「そうッ! 人違いッ! こいつは黒鉄ソラって言って、俺様の従妹なんだッて!」

顔面デビルマスク/グランド・デビルの君にそんな綺麗な従妹が居る訳がないだろうッ!

ブッ殺すぞ変態ドM豚女ッ!!

 

 非常にマズい。

 今此処で捕まっても、ソラは姫本人ではないのでいつかは解放してもらえるだろうが、問題はその間だ。

 留置所に居る間、代用監獄の中で咢斗は三日三晩琥珀からのデュエルを受けなければならないのは確実。

 それだけは絶対に避けなければならなかった。

 

「……しかし、君がまさかお姫様を匿っているとはな。どういう風の吹き回しだ? 理不尽と不条理の塊だった紅蓮の暴君が、お姫様の御守りか?」

「だから匿ってねンだって! 俺様の従妹!」

 

 かと言ってドラグハートの事を今話しても彼女には与太話と言われるがオチだ。

 そもそも、影武者が存在している事自体が秘密なので、説明が非常に難易度が高くなってしまう。

 何とか彼女が従妹であるという証明をしなければならない。

 

「──こいつはな、こないだから俺様がデュエマを仕込んでいてな、琥珀くらいなら簡単に倒せるくらい鍛えてるンだよ」

「なッ、アギト!?」

シッ、話を合わせろ!

「ほう? どういう意味だ?」

「他所の国のお姫様が、日本のカードゲームのデュエマでオメーに勝てる訳ねェだろって話だぜ」

「嗤わせるッ!! 私を誰だと思っている? 『モルネクに調教された変態ドM豚女』、剣琥珀だぞ? 君の言う通り、私の守りを貫ける者はそうそう居ない」

オメー次その二つ名使ったら殺すぞ

 

 高笑いする変態ドM豚女。

 咢斗は彼女の友達をやめたくなるのを我慢し、更に舌戦に持ち込んだ。

 傍ではソラが真っ青になっているが、気にしない。

 

「ッ……だからよ、こうしねェか? 琥珀さんよ。ソラがオメーに勝ったら、ソラとお姫様が別人って認めるのはどうだ?」

「ええええ!? 私、初心──むががが」

「どうだ?」

「成程。此処NEO東京はデュエマで全てを決めるイカれた街。元より、デュエマ以外の決着を付ける術は無かったなッ!」

 

 言った琥珀は、何やらボールを空高く投げ込む。

 それは光を放ち──周囲に光の柵を、地面には極彩色のフィールドを展開した。

 咢斗とソラの眼前には瞬時にテーブルのようなものが浮かび上がる。琥珀も同じだ。

 

「な、何ですかコレッ!?」

「出たな、デュエルスフィア……ッ!」

 

 咢斗はすかさず、デッキケースから1つの束を取り出すと、すぐさま光がデッキの中身をスキャンした。

 

「互いのデッキをデータ化し、AR空間内に投影する新時代のデュエル……これがNEO東京のスタンダードスタイルッ!!」

「えーあーるとかよく分からないんですけどッ!?」

 

 即座に目の前に5枚のシールドが浮かび上がる。

 琥珀は高らかに笑ってみせた。

 

 

 

「ハッハハハハ、デュエルスフィア起動ッ!! これより被疑者をデュエルで拘束するッ!!」

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