東京ドラグナーズ   作:タク@DMP

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第13話:潜入/クラブゾン・TV

 ※※※

 

 

 

「──貴方()があたしの護衛?」 

 

 

 

 ──数日後。

 アイドル・如月サクラの前には顔面デビルマスク/グランドデビルのボディーガードと銀髪美少女のボディーガードが座っていた。

 燃えるような赤髪、憂鬱そうな瞼。

 何処か憂いの籠った表情はアイドルという肩書には似つかわない。

 しかし、その仕草の一つ一つに人を引き付ける魅力を咢斗は感じていた。

 如月サクラの人気は急上昇。テレビ番組への出演も増えており、ドラマの主演にも抜擢されたとのことだった。

 そして──

 

 

 

(おっぱいデッカ!!)

 

 

 

 口には出さないが、サクラのスタイルは抜群。

 机の上に二つのお餅が乗っかっていた。

 アイドル活動のみならず、モデルの仕事もしているのだという。

 身長は170cm、なかなかの長身だ。

 そのうちグラビアの仕事にも声が掛かるのでは、と言われているのだとか。

 

()は黒鉄咢斗。荒事には慣れているから安心して仕事を引き受けさせてほしい」

 

(おっぱいデッカ!!)

 

 いつもの一人称は封印し、咢斗はクライアントに向き合っていてもこの有様であった。

 そんな事はつゆ知らず、サクラは驚いたようにパチリと目を開ける。

 

「……貴方はッ、もしかして【ワイルドハート】の──」

「あんたが入ったのは組織の末期も末期。悪いけどメンバーの数なんて多すぎて覚えてねェよ」

「そう……で、どうしたの? さっきから」

「アギト、目が泳いでます」

「そ、そそそ、そんな事ねーよ!?」

 

 じとっ、と隣でソラが睨んで来る。

 流石に挙動不審が過ぎたか、と咳払いして誤魔化し、咢斗は再びサクラに向き合った。

 やはり視界に入るのは、そのたわわな餅二つであった。

 

「……コホン。如月さん、アンタに聞いておきたい事がある」

「何かしら?」

「最近、身の回りで変わった事が無いか、だ」

「あら? あたしは探偵を雇った覚えはないのだけど」

「便利屋時代の癖だよ。依頼人の異変は出来るだけ聞いておきてェンでな」

 

 【ワイルドハート】が組織としての形を成すようになってからは、その運営費を稼ぐために咢斗達は便利屋稼業も行っていた。

 依頼に応じてメンバーの中から仕事に合いそうな者をピックアップする、というシステムを考案していたが荒事が多すぎて結局咢斗と琥珀が稼ぎ柱なのだった。

 

「へェ、バッドボーイのイメージがあったのだけど意外と丁寧なのね」

「何とでも言え、顔だけはどうしようもねェからな。見落としがあって何かありました、じゃァ取り返しが付かねェ」

「正直、あたしはイタズラだって言ったの」

 

 ぽつり、とサクラは零した。

 遡るは2週間前。

 それが最初の脅迫状が届いた時期だったという。

 何時の間にか事務所に送りつけられていたらしく、差出人不明だったらしい。

 

「でも、マネージャーが聞かなくてね。【SWORD】の立ち合いの元、ボディーガードを付ける事になった」

「はァ。しっかしよ、頼むなら警察とかに護衛を頼むべきだッたンじゃねェ?」

「琥珀さんならともかく、【SWORD】や警察に借りを作るのはイヤだったから」

 

 わざわざボディーガードを民間で雇おうとしていた理由は、サクラの警察嫌いであった。

 同じ組織で顔を合わせる機会の多かった琥珀の事は一応信用しているのだろう。

 しかし、それ以外の警察の人間とは目を合わせるのも嫌なのだという。

 

「そうなのか? 昔ならともかく今ならそうでもねェと思うンだけどよ」

「だとしても嫌なモンは嫌なのよ。貴方の方がまだマシだわ」

「マシ、ねェ」

「まあその時は断ったのよ。でも、一週間くらい前から……何処に居ても尾けられているような気がしてて。そうね、丁度違法カジノが逮捕された辺りだったかしら? あれ凄いニュースになってた」

「あ、そ、そーだなァ」

 

 そう言えば大々的に報道されていたのを思い出す。

 【クラブゾン・ネットワーク】管轄の局でも大きく話題に取り上げられていた。

 

「最初は気の所為だと思ってたけど、あまりにも続くから流石のあたしの不安になったって訳。ハッキリ言って、脅迫状にビビってるみたいで嫌だけど……次のライブは出ない訳にはいかないから」

 

 サクラの瞳は真剣だった。

 琥珀から聞いていた通り、プロ意識が非常に強いのだろう。

 だが、それ以上に──次のライブに何故か並々ならぬ熱意を注いでいるようだった。

 

「で──そこの子供は何? 新しいアイドル?」

「こっ、子供でもアイドルでもないです。列記としたボディーガードです!」

「いや、子供じゃない」

「も・う・す・ぐッ! 20歳ですッ!」 

 

 キッ、とソラはサクラを睨む。

 子ども扱いされたのが気に食わないのだろう。

 

「こいつはソラ。俺様の……今の仕事仲間? みてーなモンだ。一応タメなンだよ」

「……大丈夫なの? 武道経験者には見えないけど? むしろ武道館でライブしてない?」

「ゲイシャではないですッ!」

「ゲイシャ?」

「こいつを連れてきた理由は二つ」

 

 咢斗は人差し指と中指を立てた。

 

「先ず、仕事内容はあんたの外出時の同伴及び護衛、公私問わず……だったよな?」

「そうなるわね……何? あんた一人だと不安だから、そんな子を数合わせで付けるって言うの?」

「何言ってやがる、年の近そうな男女が一緒に歩いてたらそれこそ週刊誌の餌食だぜ」

「出歩く時変装はしているわ」

「バレないとは限らねェだろ? あんた、自分がアイドルッて分かッてンのか? こないだも【クラブゾン・ネットワーク】のアイドルは炎上してたろーがよ」

「此処のアイドルじゃないわ」

「にしても、だ」

 

 別のテレビ局のスタッフと一緒にホテルに入ったのが週刊誌に激写されてしまった、ヴァーチャルアイドルの裏垢発見、SNSへの誤爆などなど……。

 事務所は別々とはいえ、今月だけで3つも不祥事が続いている。とはいえ、別に珍しい事ではないのだが。

 

「お節介かもしれねェけど、あんたにもイメージッてモンがあンだろ。俺様と二人ッきりだと何て報道されるか分からねェ」

「まぁ、確かに……」

「だから、コイツを付ける。あんたも男と二人ッきりは嫌だろーが」

 

 というのは半ば建前であった。

 本当は、合法的にソラを【デュエライブ】ビルに入れる為の策である。

 こうでもしなければ、恐らくビル内部に潜んでいるであろうドラグハートと憑依者を捕えることは出来ない。

 

「……構わないけど、大丈夫なのかしら?」

「ご安心を! 要人警護は慣れていますからッ!」

 

 影武者だけどな、と付け加えようとした自分の口を咢斗は塞いだ。

 ついつい余計な事を言おうとしてしまうのは彼の悪い癖だった。

 

「貴女にはアイドルの方が合うわ」

「なッ、バカにしないでください!」

「あら。これは本音なのだけど? ハッキリ言って素養は私よりあると思うわ」

 

 冗談交じりに言ってみせるサクラ。

 しかし、その表情には何処か翳りがあった。

 

「とにかく、次のライブには出なきゃいけないの。何が何でも、ね」

 

 彼女は目を伏せる。

 やはり、次のライブに並々ならぬ情熱を掛けているのだろう。

 

 

 

「サクラちゃーん、次の撮影の準備良いスかー?」

 

 

 

 その時、部屋が空く。

 現れたのは首にタオルを掛けたシャツ姿の男。

 額には冷えピタが貼られていた。

 

「これ台本の変更点スね」

「ありがと。バスの中で読み込んでおくわ」

「うん頼むっス。……その人たちはボディーガードの……?」

「ええ。ちょっと頼りないけど、そういう事だからよろしく頼むわ。何なら仕事ついでにスタジオの中でも案内したげて」

 

 そう言うと、サクラは走って部屋から出て行ってしまう。

 男は「相変わらず足速いなー」と言いながら咢斗とソラに向き直った。

 

「あんたは……?」

「ああ、自分は【クラブゾン・ネットワーク】所属、ADの北村って言うんス。つっても駆け出しなんで怒られてばかりっスけど」

「えーでぃー? アギト、えーでぃーって何ですか?」

「テレビ局の助監督だな」

「監督!? 凄い人なんですねッ!

「と、とんでもねェッス! ADってのはテレビ撮影や動画の手伝いをするのが主な仕事ッス。要は雑用ッス」

「で、そのADがなんか用か? 忙しいンじゃねェか?」

「ああ、自分、よくサクラちゃんと仕事で一緒になる事が多いンすけど……それで出来るだけ力になりたくって」

「ハァ。って事は、もしかして最近あの子の周りで何か気になってることがあンのかよ?」

「そすそす」

 

 北村は頷くと言った。

 

 

 

「サクラちゃん最近……スランプみたいなんスよ」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「貴女達の企みも此処までよッ! この学園探偵・或瀬ブランが居る限り、学園に悪はさかえなガリッ」

「カァァァーッッット!! 如月ィ、何でそこで噛んだァッ!!」

 

 

 

 北村に案内され、一緒にマイクロバスに乗り込んで咢斗達は近くのテレビスタジオを訪れていた。

 そこでは、今放送されている学園連続ドラマ「学園探偵ワイルドカーズ」の撮影が行われている。

 スタジオは教室セットとなっており、主演であるサクラは学園で悪事を働く新聞部部長に推理を突きつける場面だったのであるが、サクラは肝心のシーンでNG連発。

 

「またやり直しです……テレビの撮影って大変なんですね……」

 

 ソラは飛んで来る監督の怒号に肩を震わせながらも、撮影現場に見入っていた。

 しかしだんだん、怒られているサクラが哀れになってくる。

 

「まァ監督だって期待して激飛ばしてンだろーけどよ」

「ああ、ちょっと前はああじゃなかったんだよ、サクラちゃん……脅迫状が届いた辺りからかなあ、調子悪くなったの」

「本人は口に出さないけど、やはり不安に感じてるのかもしれませんね」

 

 そしてその後、午後6時からは、ネキバ全体で放映される定期ライブの撮影だった。

 こちらは【デュエライブ】の特設CGスタジオで歌の収録を行う事になったのだが──

 

「サクラちゃん、もう1回録り直し出来るー?」

「はっ、ハイ……」

「サクラちゃん、喉スプレー!」

「ありがと……」

 

 声がカラカラになっても歌の録音を続けるサクラ。

 収録は彼女自身が納得いっていないのもあってか、結局夜遅くまで敢行された。

 咢斗には正直違いが分からなかったのであるが、やはり調子が悪いらしい。

 

「とまあ、見ての通りッス」

「スランプか……俺様は歌が分からンから、全くだがな」

「いいえ」

 

 ソラが首を振った。

 険しい顔で何度も収録するサクラを、彼女はずっと見つめていた。

 

 

 

「サクラ……何か思いつめてるみたい……まるで、悲鳴のような歌です」

 

 

 

 理屈ではなく感覚で物事を推し量ることが多いソラは彼女の歌をそう評した。

 咢斗は歌が分からぬ。イマイチ、ソラの言う事には共感し兼ねていたが──彼女のカードの声を聴くことが出来る能力を思い出す。

 巫女は、普通の人間よりも第六感というものが鋭敏なのではないか、と推測する。

 

「そう言うモン、なのかねェ……」

 

 結局、仕事が終わったのは夜22時頃。

 帰宅する彼女をマンションの部屋前まで護衛し、咢斗達のボディーガード初日は終わった。

 マンションの部屋の入り口で、サクラは気まずそうに二人の方に向き直る。

 今日の芳しくない仕事ぶりを見られたからだろうか。決まりが悪そうに口を開いた。

 

「……悪かったわね、情けないところ見せちゃって」

「俺様は何とも思ってねーよ。テレビの華やかな姿だけがアイドルじゃねンだからよ」

「バカね、大勢の目の前で失敗なんて恥ずかしいじゃない。正直、嫌になるわね」

「……私は、サクラが頑張っていたと思います。上手くはいってなかったけど、本気で打ち込んでいるのは伝わってきました」

「当り前よ。あたしは何時だって本気だわ。本気でやらなきゃ……いけないの」

 

 そう言ってサクラは部屋の扉を閉じた。

 その数秒後、「あひゃぁっ!? 痛ったァ!?」と悲鳴が飛んで来る。

 バタン、と音が聞こえたので何かに蹴っ躓いたのだろう。

 

 

 

「……先が思いやられンなあ」

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