東京ドラグナーズ   作:タク@DMP

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第18話:龍解/爆銀一閃(前編)

 ずっとサクラを心配していたはずのAD北村の手には、ドラグハート・ウェポンのカードが握られていた。

 彼は困った様子でこちらを見やる。

 番組の雑用で忙しいはずの彼が、仕事を抜け出してライブ会場に居る事自体が不審だ。

 しかし、それだけでは唯の状況証拠でしかない。

 咢斗は3つ、と指を立てた。

 

「俺様、偶然は二つまで見逃す事にしてンだ。一つは──スタジオ襲撃の事件があった時、あんただけだったンだよ。”スタジオを襲ったのはドラゴンだ”って言ってたのはな」

「……ハァ?」

「あんたはあの怪物がドラゴンだって知ってたンだ」

 

 半身が四足の獣。

 そして人間の如き腕と胴を持ち、龍としての目だった特徴は頭部だけ。言うなれば異形。ドラゴンと言うよりは怪物。

 あれだけの時間の間に、あれをドラゴンと認識できたものはそう居ないはずだ、と指摘する。

 

「あれは《我臥牙ヴェロキボアロス》……確かに俺ほどのマニアが見ればドラゴンって分かるが、まさかカードゲームのカードが実体化するだなんて思ってねェテレビ局のパンピーは、アレがドラゴンだなんて一発で分かるはずもねェ」

「ドラグハート・クリーチャーの姿はドラゴンの一般的なイメージから、比較的乖離しているとされています。《ヴェロキボアロス》の体型はケンタウロスに近い上に人間に近い胴と腕を持っていますからね」

「ましてやあの短時間じゃムリな話だろ。怪物をドラゴンって認識した奴らは現場に居なかった。でも、何でよりによって現場に居なかったアンタが怪物がドラゴンなのを知っている?」

「ッ……」

 

 北村は言葉を失った。

 己が喋り過ぎたことを悟った。

 

「あと二つある。もう一つは、あんたが”よく追っ払えたッスね”って言った事だ。あんとき、ドラゴンと俺達の戦闘を見てたやつは他に居ねェ。普通は”よく逃げられたッスね”って言う所だろ?」

「貴方は察したんです。ヴェロキボアロスの前足が両断された辺りで、実体化が長くは持たないって」

「これは犯人にしか分かンねェ事だ」

「……ハハッ、そんな所まで。意外と頭良いンすね?」

「最後に一つ。テメェがサクラのライブを”何てことはない”って言った事だ」

「……」

「アイドルが、それに携わるスタッフが、訪れるファンが、ライブにどれだけ魂を燃やしてンのか知ってる業界の人間が……例えそれがいつもの定例ライブだったとしても”何てことはない”なんて一番言っちゃいけねェ言葉なんじゃねーのか?」

「それが例え普通のライブだったとしても、お客さんにとっては……トクベツかもしれないのだから」

 

 

 

「あーあーあーあー、うぜーンだよ、クソがよ」

 

 

 

 北村は──本性を現したように吐き捨てた。

 全てが気怠そうに彼は頭をボリボリ掻くとドラグハートのカードを再び突きつける。

 

「あんたも如月も……表舞台でキラキラキラキラ、ああ……うっとおしいったらありゃしないッス。テレビの世界に入って5年……俺は何時までこんな雑用やらされなきゃならねーんだ?」

「本性現したな、北村サンよォ」

「……まさか、それでサクラを僻んで……ッ!」

「俺だって俳優になりたかったッスよ!! だけどダメだった! 顔が冴えない、演技もダメ、やることは電話番ばかりッ! それなのに、俺よりも若い小娘共が、ガキどもが、どんどんテレビに出てやがる、俺は何時まで指を咥えてそいつらを見ていればいい!?」

「……典型的な年下への嫉妬か。見苦しいねェェェ~~~!!」

「黙れッ!! 黙れよォ!! 如月が、如月が悪いんだッ!! いっつもニコニコと俺に近付いてきて──心底ッッッ、気持ちが悪かったッ! アイドルなんざ、心の底じゃ雑用の俺の事を見下してる癖にッ! うっとおしかったんスよッ!」

「ひどいッ……! サクラはそんな事思ってませんッ!」

「アイドルなんて一皮剥けりゃあ、汚ェ人間。金目の物とSEXにしか興味がねェメス猿共が、笑顔を振りまいて客を元気にするだァ!? バカバカしいよな、虚構の癖によッ!!」

 

 北村は激するとカードを掲げた。

 咢斗とソラは目を見合わせる。 

 北村の身体に無数の蔓が絡まっていく──

 

 

 

「龍・解ッッッ!!」

 

 

 

 ──蔓に絡まった身体は、四足の巨龍と化す。

 左腕には巨大な投げ斧が握られていた。

 暴走する生命は、周囲に蔓を広げていく。

 周囲に人が居なかったのが幸いだが──すぐさま倒さなければ、また被害が出てしまう。

 

<如月の前にお前達を真っ二つにしてやるッスよ!! 俺の邪魔をするなァァァーッ!!>

 

「……邪魔をするなは、こっちのセリフだぜッ!! 行くぞソラッ!!」

「はい……アギトッ!」

 

 ソラの腕と、咢斗の腕が光り輝く。

 目の前には火文明の歯車に剣が差し込まれた紋章が浮かび上がった。

 

 

 

<アギト・クロガネ──ドラグ・オンッ!!>

 

「これより、星に誓って──デュエルを開始しますッ!!」

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

<2マナをタップ──《珊瑚妖精キユリ》を召喚ッ!! コイツは効果でクリーチャーのコストを1軽減するッス!>

 

 

 

 妖精が現れ、ヴェロキボアロスと化した北村の周囲を舞う。

 クリーチャーや呪文の効果以外で《キユリ》は選ばれない。

 これだけではまだ相手のデッキを読み切る事は出来ないが──

 

「《ボアロアックス》が超次元ゾーンにある事は確実……ならば、イメンかハラグロのどっちかだが……!」

「いめん? はらぐろ?」

「ドラグナーの名前だ。《ボアロアックス》を出すドラグナーは《龍覇イメン=ブーゴ》か《龍覇少女隊ハラグロX》のどっちかだからな。そして、どっちに寄せるかで構築が変わってくる」

「……なるほど?」

「まあ俺様が先に奴を倒すから問題ねェけどなッ! 2マナで《メンデルスゾーン》を使うッ!」

 

 山札の上から2枚が表向きになる。

 それら全てがドラゴンならマナに置かれるが──

 

「捲れたのは《ジャックポット・エントリー》に《フェアリー・ミラクル》……」

「……両方共、呪文ですよね?」

「駄メンデルッッッ!! クソッ、ターン終了だッ!!」

 

 ──不幸にも両方とも外れ。

 最も、咢斗のデッキには呪文がある程度積まれていてハズレが比較的多いものの、それでも両方ハズレは稀だ。

 完全に墓地を2枚肥やすだけになってしまった。通称、《葬爪》。またの名を駄メンデルスゾーン。

 

<ザマァ無ェッスね、紅蓮の暴君ッ!! こっちは3マナで《ウマキン☆プロジェクト》を出して、バズレンダ能力でマナと手札を増やすッス!!>

 

「ゲッ、そいつは……ウワサの超高額カードッ……!?」

 

<監督のデッキケースから盗み出したんスよ。こんなカード、ADが買える訳ねェだろーがァァァーッ!!>

 

「何処までも擁護のしようがねェ外道だなテメェはッ!」

 

 現れた巨大な馬の如きクリーチャー、《ウマキン☆プロジェクト》はマナが増えた分だけパワーが増えるクリーチャーだ。

 しかも、場に出た時にマナと手札を増やすという便利な能力を持つ。その為、多くのデッキに投入される汎用カード。お値段も相当なものだ。

 これにより、北村の次のマナは5枚。

 更に、《キユリ》の効果で北村のクリーチャーのコストは1減っている。

 

<バカみてーだよなァ、カード如きで1枚5千円か……こんな紙切れに、命を掛けちまって虚しいとは思わねェんスか、デュエリスト君はよォーッ!>

「ッ……お金の問題ではありません! カードには……その人の思いが詰まってるんですッ! それを盗むなんて……ッ!」

<薄っぺらいねェ。薄っぺらすぎて、反吐が出ちまうよッ!!>

「テメェには分かンねーだろ。人の努力を簡単に吐き捨てるテメェには──何かに熱意をかけてる人間の思いが分かンねーんだろ。寂しいなァ北村!! 何年社会人やってても分かンねーのかよッ!!」

<ほざけよッ! 芸能界なんて、テレビの業界なんて一番汚い所ッスよ。それを綺麗事で勝手に舗装するなよなァ!!>

「綺麗事で語れねえ所はあンだろーな……だけど、汚くてもそこには確かに熱意があるッ!! ハートが燃えてンだよッ!!」

 

 胸を親指で指した咢斗。

 しかし、先程の《メンデルスゾーン》失敗は余りにも手痛い。

 

「クソッ、2マナで《メンデルスゾーン》をもう1発撃つッ!! 効果で……今度は2回ヒットだッ!」

「次のターンで、やっと6マナです……!」

「だけど手札に《ジャクポ》がねェ……!」

<もう遅いぞ紅蓮の暴君ッ……!! 次のターンで、俺のステージが完成する……今まで誰も見向きもしなかった、俺だけのステージがッ!>

「やっぱりオメー、俺様の正体に最初から気付いてやがったのか……! 道理で俺様の顔見てビビんなかった訳だぜ」

<そうだともッ! 髪を変えても無駄だぞ、黒鉄咢斗ッ! 何でお前がボディーガードなんだよ!? そんなにアイドルとイイコトしたかったんスかァ!!>

「ンだとテメェ……人をバカにするのも大概に……!」

「イイコト……?」

「そっちに反応しなくて良いのッ! クソッ、教育に悪い奴ッ!」

「教育って何ですか!? また子供扱いしてッ!」

<うるせェッ!! ドラグハートを呼び出し、お前達を滅ぼす……!! 怨、怨怨怨怨……ッ!!>

 

 北村は5枚のマナをタップする。

 彼の中にあるのは、芸能人のみならず有名人皆に対する嫉妬。

 注目されず、表舞台に立つ事のない雑用への反動をぶつけんとばかりに彼は己の切札を繰り出す──

 

 

 

<怨……怨怨怨……ッ!! 呪怨スイッチ、怨怨(オンオン)ッッッ!! 殺る気スイッチ怨怨(オンオン)ッッッ!! ドラグハート、怨怨(オンオン)ッッッ!!>

 

 

 

 彼の恨みに呼応すべく、仮面が現れる。

 そこに無数の植物が絡みつき、リスの獣人が現れた──

 

 

 

<その仮面に俺の恨みを込めるッス!! 《龍覇サソリス》をステージ(オン)ッ!!>

 

 

 咢斗は驚愕の表情を浮かべた。

 《イメン》でもなければ《ハラグロX》でもない。

 むしろ、パワー4000と、ステータス面とシールドのブレイク数で《ハラグロX》に劣る《サソリス》だった。

 

「効果でドラグハート・ウェポンの《邪帝斧(イビルトマホーク) ボアロアックス》>を装備するッス!! さあ、そのド頭ァカチ割ってやるッスよォ!!」

 

 超次元ゾーンに原初の欲望が集っていく。

 それは、ありとあらゆる衝動を集めたドラグハート。

 大地を割り、地面を暴走させる力を持つ──ッ!

 

(出来ることは《ハラグロ》とそう変わりはしねーが……ッ!)

 

「ッ……なに、この……憎悪……!?」

「ソラ!?」

 

 実体化した《サソリス》を見るなり、ソラは縮こまってしゃがんでしまう。

 咢斗には分からないが、恐ろしいものを感じ取っているようだった。

 彼女にはカードの言葉が分かる。だから、北村の悪意をカードを通して直に触れてしまったのだろう。

 

「こんなの、カードが、《ボアロアックス》が、《サソリス》が……可哀想……ッ!」

「テメェ。このサソリスに並々ならねェ思いがあるみてーだな」

<ハラグロXのセンター……マリニャンっているよな……?>

「あン? ああ……」

 

 《龍覇少女隊ハラグロX》はアイドルグループと言う設定のクリーチャー。

 それぞれ名前のある3体のクリーチャーが集まった姿だ。

 黄色い衣装に身を包んだ《応援妖精サエポヨ》、青い衣装に身を包んだ《歌姫の面 エリカッチュ》。

 そして──センター、ピンク色の衣装に身を包んだ《龍覇マリニャン》の3人組で構成されている。

 特に《マリニャン》の髪色は鮮やかなピンク色、そしてツインテールの髪型だ。

 思い当たる節が──咢斗にはあった。

 

「まさか……ッ!!」

 

<あのカードを見ると、如月を思いだす……アイドルなんてうぜーだけッスからねェ!!>

 

「そんな理由かよッ……! だから《ハラグロ》じゃなくて《サソリス》かッ! テメェ、どんだけアイドルが嫌いなんだッ!!」

 

<嫌いなモンは嫌いッスからね……しゃーねェよなァ!!>

 

 《サソリス》が《ボアロアックス》を地面に突き立てることで、マナが暴走していく。

 邪帝のドラグハート、《ボアロアックス》は欲望のドラグハート。

 マナがある限り、際限なくそこから生命を暴走させていく。

 

<《ボアロアックス》の効果で、コスト5以下の自然のクリーチャーを1体場に出すッ! 《鎧亜の咆哮 キリュー・ジルヴェス》だッ!」

「《キリュー》、だとッ……!?」

<効果で《サソリス》はスピードアタッカーだッ! 《サソリス》で攻撃する時、《ボアロアックス》の効果を再び発動ッ! マナゾーンから《自撮の超人(セルフィー・ジャイアント)》を場に出して、俺の自然と水のクリーチャーを全てブロッカー化するッ!>

 

 斧が再び地面をカチ割り、現れたのは自撮り棒を手に持ったジャイアントだった。

 しかし、バカバカしい外見に効果は見合わない。

 能力によって、北村のクリーチャーは全てブロッカーと化した──!

 

「ッ……これは、まさかッ……!」

 

 斧によって咢斗のシールドが1枚叩き割られる。

 凄まじい勢いの大量展開だ。

 《ウマキン☆プロジェクト》、《サソリス》に《キリュー》、《キユリ》、そして《自撮の超人》が場には並んでいる。

 そのコストの合計は21。《ボアロアックス》は彼らの生命を吸い尽くして、龍解する──

 

<そのまさかッスよッ!! ターン終了時に《ボアロアックス》の効果発動ッ! 場のクリーチャーのコストは合計20以上ッ! 龍解条件達成ッ!>

「来るかッ……!!」

<怨……怨怨怨……ッ!! >

 

 サソリスの手から呪怨に塗れた斧が離れた時、それは巨大な遺跡と成り──北村の背後に現れる。

 それは絶対不滅、永遠不落のドラグハート・フォートレスだ。

 

 

 

<集え、原初の欲望の元にッ!! 2D龍解、怨怨(オンオン)ッッッ!! 《邪帝遺跡 ボアロパゴス》ッ!!>

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