東京ドラグナーズ   作:タク@DMP

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前話からラストシーンを大幅加筆しました。


第20話:解決/極まりし真の龍魂

 ※※※

 

 

 

「良いよなあ……お前達は……どうせ俺は──」

「──最初っから俺様は強かった訳じゃねェし、サクラもそうだ。何度も失敗したし、やらかす。でも、その度にやり直せる……それが人の強さって奴じゃねェか?」

「……俺には……出来ないッスよ……」

「だろうな。最初ッからテメェの限界をテメェで決めていたあんたには無理な話だった」

 

 北村はアスファルトに叩き伏せられ、間もなく力無く横たわる。後は並行して捜査に当たっていた警察に任せるべきだ。

 彼の手からはドラグハートが離れ、ソラの手に渡る。

 だが、《ボアロアックス》を手に取った途端、ソラは顔を顰めた。

 そのカードから伝わってくる悪意に、そして身の毛のよだつ未知の力に身体を震わせた。

 

「ッ……何なの、これっ……!?」

「ソラ、大丈夫か!?」

「大丈夫……この子は、ヴェロキボアロスは……もっと辛い、から……今、楽にしてあげます」

 

 辛そうに顔を顰めていた彼女だったが、祈るようにカードを両手で持つと──周囲に仄かな光が灯る。

 それを浴びると、心なしか咢斗も心地が良かった。

 まるでそよ風に吹かれているような、そんな居心地の良さを感じた。

 

 

 

「ッ……龍の子よ、我が掌の中でその荒魂を鎮めよ──」

 

 

 

 

 しばらくしただろうか。

 ソラはいきなり膝を突いたかと思うと、息を切らせた。

 思わず咢斗は駆け寄る。

 100m走を全力疾走した後のように、彼女は何度も肩で息をしていた。

 

「ッ……はぁっ……!」

「オイッ、ソラ……!」

 

 ソラは手で咢斗を制す。

 心配は要らないと言わんばかりに。

 しかし、見るからに彼女は疲弊しきっていた。

 

「大丈夫……大丈夫です……!」

「大丈夫じゃねェだろ! 汗びっしょりじゃねェか……! デュエルの時より疲れてどうするンだ!」

「いいの……これが、私の仕事ですから」

 

 そう言った彼女は腰のデッキケースに《ボアロアックス》のカードを入れると、そのまま鍵をかけてしまった。

 その中には《ザンテツ・ビッグホーン》と《ガイハート》も一緒に入っている。

 これで、真のドラグハートは3枚目となる。

 しかし、その度に彼女は激しく疲弊している。

 直接戦っている自分よりも、消耗しているようにさえ見える。

 だが彼女は一途にそれが自らの使命だと信じて疑わない。

 姫様を逃がしてしまったのは、ドラグハートを東京にばら撒いてしまったのは、自分の責任だと考えているのか、自らの受ける痛みに躊躇と言うものがない。

 

「ソラ──頑張ったな……だけど」

 

 凶悪な形相に似合わぬ切なさを滲ませた表情で寂しげに彼は笑ってみせる。

 

「無茶苦茶はすンじゃねーぞ。テメェにもしもの事があったら……」

 

 笑顔が過る。

 

 ()()()笑顔が過っては消える。

 

 それは在りし日の泡沫の夢。

 それが点滅する度に彼の心臓は握り潰されていく。

 

 さぁっと血の気が引いていき、彼の唇が蒼褪めた。

 

「もしもの、事があったら……」

「……?」

 

 口に出すだけなら簡単なはずだった。

 しかし、喉につっかえたまま出はしなかった。

 自分に()()()()を吐く資格など微塵もないと咢斗は知っていた。

 

「俺様は──」

 

 

 

「それでは、ラストの曲、いっきまーす!!」

 

 

 

「あッ……!」

「……サクラ! そういえば、サクラのライブ、全然聞けてません……」

「……ま、ライブは守れたから良しとしようや」

「……それもそう、ですね」

 

 此処からでも聞こえてくる。

 サクラが元気よく、最後の歌を歌おうとしていた。

 ライブも佳境。彼女も喉は枯れ果てているはずだが、全くそんな素振りは見せない。

 観客に希望と笑顔を振りまき続ける──

 

「アギト! 素敵……ですねっ」

「……ああ」

 

 振り向きざまに屈託のない笑みを浮かべるソラに、暴君は思わず見惚れそうになった。

 そして──思わず頷いてしまった。

 無量の歓声と野太い応援に包まれながら彼女の歌はネキバ中に響く。

 その中で、暴君と少女は自らが守った光景をずっと見守り続けていた──

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──数日後。

 ドラグハートを引き剥がされて気絶した北村は、目を醒ましてすぐに逮捕されることになった。

 犯行計画が自宅から見つかった事。

 そして、火炎瓶の材料が彼のロッカーから押収されたこと、何より完全に気力を失ってしまった北村が自白したことで、その日のうちに彼はお縄となったのである。

 尚、犯人が北村であったことを知り、サクラは少なからずショックを受けていたようだった。北村が思っている程、サクラは彼の事を悪く思っていなかったのである。

 結局の所、卑屈な若者が鬱屈を溜め込んだが為に起こってしまった事件であった。「最も、彼のしたことは許される事ではないが」とは琥珀の弁であるが。

 彼は自分が脅迫状の送り主であったことも自供しており、後はスタジオ襲撃事件の全貌が明らかになるのを待つだけだという。

 そして──ライブは無事に終わり、後に彼女は無事両親と再会できたという。

 

「”あの甘ったれが見違えたようだった”、”大変な事もあるだろうけど親として見守らせてほしい”だとな。数年越しの仲直りだ」

「ま、良かったじゃねェか。如月サンも大分思い悩んでたみてーだからな。しがらみも無くなって万事解決だろ」

「そして、サクラは次の休みに両親の元へ久々に帰るつもりらしい。私も招かれてしまってな……」

「お前が?」

「彼女を預かっていた時期があったからな。改めて礼がしたいんだと。しかし、今でも思うんだ。これで本当に良かったのか、と」

「良かったンじゃねェか? 見ろよ如月サンのあの顔」

 

 咢斗はブティックの試着室の前で服を抱えるサクラと、くたびれた様子のソラが言い合っているのを指差す。

 ライブの後日、服が燃えてしまってショックだというソラの話を聞き、サクラが新しく服を選んでやっているのだ。

 しかし、サクラの拘りはすさまじく試着に試着を重ねた所為かソラも参ってしまっているが満更でもないようだ。

 傍から見れば、さながら二人は仲の良い姉妹のようだった。

 

「だから言ったじゃない! 服なんかでそんなに気に病むことないッて! 幾らでも私が貴女向けのコーデ探してあげるんだから!」

「ふぇ!? もう良いですよサクラーッ! 私、着せ替え人形じゃないですーッ!?」

「うちに来たら幾らでも可愛い服着せたげるからねッ!」

「おいソラはやらねーぞ」

「……仲が良いようで何よりだ」

「おう、ソラも日本で初めての友達が出来て嬉しそうだからなー、良かったなー、うんうん」

「外野でとやかく言ってる暇があったら助けてくださいよっ! もうっ!」

 

 ともあれ──これで、脅迫状の事件は一旦幕を閉じた。

 閉じたのであるが──

 

「ところで──アパートが燃えてしまったが、これからどうするんだ? 君は」

「……まだ考えてねェ」

「折角の報酬がホテルに消えるのは勿体ないだろう」

 

 結局、自宅は燃えてしまったままだ。

 当分、アパートに戻れそうにはない。

 かと言ってホテル暮らしを続けているわけにもいかない。このままでは何時資金が尽きるか分からない。

 そして──

 

「──もう一つ腑に落ちねェ事がある」

「何だ?」

「北村は……何でわざわざ俺様の家を放火したんだ? 放火するならわざわざ俺様達を狙う必要は無かった気がするンだよな……」

「ああ、その件については今取調が行われている。だが、一つ他人事ではないことが分かってね」

「どうしたンだ?」

 

 琥珀は──何時になく真剣な表情で言ってのける。

 

 

 

 

「北村が、【JOKER】と関わっていた可能性がある」

 

 

 

 そうか、と咢斗は軽く返した。しかし琥珀はそれ以上言葉を重ねることをしなかった。

 暴君の眉間には──幾つもの皺が寄っており、彼が【JOEKR】について頭を悩ませているのは誰が見ても明らかであった。

 NEO東京に蔓延る犯罪シンジケート。

 そして、咢斗の元に入ってきた匿名のタレコミ。

 東京中に散らばった強大なドラグハート。

 未だに見つからないお姫様──全ての点と点が繋がった時。

 

 

 

「……ヤベーかもな……今度ばかりは──」

 

 

 それらが意味するのは、東京どころか世界の破滅だった──

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──数日前。

 サクラのライブが終わろうとしていた時の事。

 

「ところでアギト、さっきは何て言いかけたんですか?」

「ッえ?」

 

 今更それを掘り返すのか、と咢斗は顔を顰める。

 狡い気はしたが、さっきの言葉を掘り返そうとすると、再び思考の螺旋に嵌ってしまう。

 だから──暴君は誤魔化した。

 

「──残りのドラグハートは後何枚なのかなァって……」

「……そんな話でしたっけ?」

「細けェ事ァ良いンだよ! 重要な事だろーが!」

「そう、ですね……それもそうです。それを伝えずに手伝わせるのは筋が通っていませんね」

 

 咢斗の圧に半ば押されるようにして──彼女は答えた。

 

 

 

「残るドラグハートは──6枚です」

 

 

 

 6枚、と咢斗は息を呑んだ。  

 多いのか少ないのか、よく分からない数字だ。

 もし1枚1枚が強力なドラグハートならば、相手の強さもそれに比例する。苦戦は免れないだろう。

 そして、それらが引き起こす事件の大きさもまた例外ではない。

 

「──私が持ってきたものは残り1枚。そして、姫様が持ち出したドラグハートは──後5枚あります」

「多いわッ!! どんだけ持ち出したンだあの姫様ッ!!」

「正確に言えば、彼女が秘密裏に集めていたというべきものです。《ボアロアックス》以外の姫様が持ち出したドラグハートは、大昔に国中にバラバラにして封印されていたもので、誰にも所在が掴めなかったものでしたから」

「ヤバげなのは間違いねェな」

「そして、あのドラグハートは5枚でようやく1つとなる代物……1つ1つではまともな戦力になり得ません。魔法が使えない姫様なら猶更です」

「ほッ……良かったァ……俺様、あと6回もドラグハートの相手をしないといけないのかとヒヤヒヤしたぜ──ん? 5枚で1つ?」

「はい……それが問題なのです」

 

 咢斗はふと思案した。 

 5枚で1つとなるドラグハートなど──咢斗の知る限り一つしかない。

 

「光、水、闇、火、自然、禁じられし五つのドラグハート……極まりし真の龍の魂」

「オイオイオイ、それって──」

 

 全ドラグハートの中でも最大のパワーを誇る、文字通りの怪物。

 動けば世界を破壊するとも言われる強大なドラゴン。

 咢斗も勿論覚えがある。

 もしそれが実体化しようものならば──

 

 

「世界を壊す龍の魂……その名は《極真龍魂 オールオーバー・ザ・ワールド》……ッ!」

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