東京ドラグナーズ   作:タク@DMP

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第4話:消失/クロニクルハート

 ※※※

 

 

 

 琥珀が帰った後、とんでもない事になってしまった、と咢斗は玄関の扉にへたり込んでしまう。

 もし、今までの話が全て繋がっているならば、彼女は今現在、【SWORD】に指名手配されているも同然だ。

 

(いや、いやいやいや待て。たまたま顔の似たそっくりさんかもしれねぇだろ? そもそも、飛行船からパラシュートも無しに飛び降りて生きてられるわけがねェ)

 

 きっと、悪い偶然か何かが重なったのだろう、と咢斗は自分を誤魔化す。

 流石に自分が他所の国の国家転覆罪に足を突っ込んでいるだなんて考えたくも無かった。

 あまりにも話が出来過ぎている。そう心を落ち着けて、

 

「おーい、着替え終わったかー……?」

 

 コンコン、と扉を叩く。

 返事が無い。まさか今の話を聞いて逃げ出したか? とゾッと顔が蒼褪める。

 勢いよく扉を開けると──

 

「んーッ! んーッ!」

 

 ドレスに頭がくるまれている少女の姿がそこにあった。

 見ていられないので、仕方なくドレスを頭から脱がしてやる。フリルが大きい上にひらひらが邪魔だったが、何とか退かしてやると水面から出て来たかのような「ぷはっ」と息を継ぐ声が聞こえてきた。

 

「ふぇっ、あっ、すみませんッ!?」

「オメーさ、自分で服も脱げねえの……?」

「あ、あぅ、お恥ずかしながら身の回りの世話は……召使達がしてくれて」

「あー、そうかよ……」

 

 白い素肌と、やけに豪奢な下着を惜しげもなく晒しながら少女は、はにかんだ。

 これでお姫様疑惑に更に拍車が掛かってしまった。道理で、あまり恥ずかしがらない訳である。 

 先程も彼女は咢斗の前で脱ぐのにあまり躊躇していなかったのも、人前で脱ぐどころか他人に脱がされるのが当たり前だったからだった。

 出来るだけ今の彼女を見ないようにしながら、咢斗は自分のスーツケースから合いそうな服を選んでいく。

 取り合えず適当に取り出したシワの付いたシャツを彼女の頭にすっぽりと被せると、ぶかぶかなのか既に太腿まで隠れてしまっていた。

 恥ずかしそうに内股を擦り合わせる少女。慣れない格好に戸惑いを感じているようだった。

 

「あのう、これ……スカートが無くてすーすーします……」

「これがNEO東京の最先端スタイルだ、俺様のファッションセンスを信じろ。ファッションは理屈じゃねえ、情熱(パッション)だ」

 

 嘘である。

 咢斗は服に金をつぎ込むくらいならカードにぶち込むくらいのデュエマバカである。

 

「髪も長いままだと目立つし……ゴムで結ぶか。後は、帽子被せて、っと」

 

 野球帽をかぶせると、見事にサイズが合ってなかったのでこれも留め具を調整して大きさを合わせる。

 これで、ドレス姿のお姫様はパンクガールに早変わり。

 

「……これで、良いのか……?」

 

 正直、咢斗も全く自信は無かった。

 しかし、あのドレスで出歩くよりはよっぽど目立たないはずだ。

 髪色に関してはもう諦めよう。今時、NEO東京では10に満たない子供でも髪を染めるのが当たり前になっているのだから。

 尚、咢斗も【ワイルドハート】時代は金髪に染めていたが、ハゲるらしいと聞いたので途中でやめた。オシャレと毛根を天秤にかけた時、彼は毛根とヘアカラー分の浮いたカード代を選んだのである。

 

「……で、こっからオメーはどうしたい?」

「どうしたい? ですか? ……決まってますッ! 残りのドラグハートを集めないと……いけないんです」

「集めないと……どうなるんだよ?」

「……それは」

 

 このままだと話が進まない、と咢斗は腕を組む。

 やはり、さっきの話を切るべきかと悩むが、それでも彼にはまだ踏み込めない理由があった。

 

(国宝を持ち出したお嬢様が、どうしてドラグハートなんか探してるのかね……?)

 

「なあ嬢ちゃん。残りのドラグハートを何処に落としたのか目星は付いてンのかよ?」

「……付いて、ないです」

「マジかよ……」

 

 所詮、カードは紙切れである。現代社会にとっては、紙幣と同等の価値を持つデュエマのカードだが、それでも所詮は日本国内で使われるカードゲームのカードに過ぎない。

 それが他所の国の国宝と繋がっているとは考えづらい。

 

(難しい事は分かんねーけど……やっぱり俺は──)

 

 

 

 

 ♪~~~

 

 

 

 ぷつり、とそこで思考は途切れる。

 ポケットの中のスマートフォンから、着信音が聞こえてきた。

 人形のようにペタン座りして不安な表情を浮かべていた少女だったが、咢斗の追及を逃れたからかほっと溜息を吐いたようだった。本当にころころと表情が変わる。

 少し気まずかったが、通話相手の電話番号を見ることもせずにさっさと応対する。

 

「チーッス、黒鉄だけど……」

『おほぉー↑ アギト殿ですかなぁー? 今日は何の日か、当然覚えておりますかなッ!』

 

 聞こえてきたのは妙に上機嫌で鼻に障る男の声。

 しかし、慣れたものなのか咢斗は「何の日」を必死に思い出そうとし、すぐさま頭の中で電流が走る。

 今日は──8月22日。

 

「……ハッ……!!」

『およよ、アギト殿ォ? まさか忘れていたのでありますかな? 今日は、全デュエリスト待望のッ! クロニクルデッキ発売日でありますぞッ!』

「しまっ完全に忘れてたッ! おいテンチョ、在庫はバッチシ俺様の分用意してんだよなッ!? 各箱二個ずつッ!」

『ご心配なくッ! 既に店に在庫は置いてますぞッ! 後は店を開けるだけですぞッ!』

「開けるだけ?」

『じ、実は、不覚ながら寝坊してしまって……ファントム・オブ・ツシマが楽しくてですな、んほほほほ』

「アホかッ! こっちも今すぐ行く! 俺様たちが着くまでに店ェ開けとけよッ!」

『のほほ、了解ですぞーッ! でも、本日の首都高(シュトコー)は生憎ご機嫌ナナメ、大渋滞ですぞ……』

「バカ言え、テメェの特技は何だッ!? 目隠しマサオカートだろうがよッ! ショートカットしてでも店に着くんだ、いいなッ!?」

『相変わらず滅茶苦茶ですぞォーッ!?』

 

 一方的に要求だけ突きつけて電話をさっさと切ってしまった彼の姿は流石の傍若無人っぷりだった。

 そして、自ずと目的地も決まって来る。

 餅は餅屋、野菜は八百屋、カードの事を調べるならカードショップである。

 

「よしッ、おい嬢ちゃん。今からカドショ行くぞ」

「か、かどしょ? かどしょとは何ですか? 東京の流行最先端のスイーツ店でしょうか……?」

「丸っきりちげーよ! カドショに行けば、ドラグハートも沢山売ってンぞ」

「売ってる……? カードが、ですか?」

「そりゃそうだろ。もしかしたら1枚くらい、あんたの探してるモンがあるかもしれねェぜ」

「……」

 

 少女は不安そうに顔を歪めた。

 そして、恐る恐る口に出す。

 

 

 

「……私、そういう場所に行くのは初めてなのですが、ドレスコードとかはあるのでしょうか?」

 

 

 

 思わず咢斗は噴き出してしまい、その後しばらく少女は口を利いてくれなかった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

「っ……これが、NEO東京……!」

 

 

 

 

 アパートを出た瞬間、彼女は言葉を失う。

 NEO時代の日本の中枢となる、首都にして最重要拠点。

 そして、少女の眼前には幾たびにも重ねられた開発によって、電光走る摩天楼と化した【NEO渋谷区】。【NEOアカシック・ツリー】を中心に円錐状にビルが立ち並び、文字通りのサイバーパンク街と化した鋼の街だ。

 初めて目の当たりにする超科学都市を前に、少女はあんぐりと口を開けるしかなかった。

 

「何呆けてやがる、さっさと行くぞ」

「……」

「何時までむくれてんだよ、笑ったのは悪かったって……オラ、さっさと後ろ乗れ」

「……はッ! ご、ごめんなさいっ、ちょっと放心してて」

「都会は初めてか? これしきで呆けてたら何時まで経ってもドラグハートなんざ見つからねェぜ」

「むぅ……そんな言い方しなくても」

 

 オートバイのエンジンを掛ける咢斗。

 その後ろの席に少女を乗せると「しっかり掴まってろ」と促す。 

 少女は若干不安そうに「これ大丈夫なんですか?」と問うた。

 バイクに乗るのは初めてなのか、少女の表情は未だに険しいままだった。

 タンデム用の予備ヘルメットを手渡すと「手を離さねェ限りな」と返す。祈るように、咢斗の胴に腕を回すのを見届けると、咢斗は愛車のエンジンに火を点けた。

 咢斗にしては珍しく、カード以外にお金を掛けた自慢の1台だった。イガサキ社のハイヒートBN-MEA。とにかくデカい、頑丈をコンセプトに掲げた車種である。選んだ理由は勿論「多少無茶しても壊れない」であった。

 

「……リムジンと飛行船以外の乗り物に乗るのは初めてです」

「そうかい良かったな、これでお嬢ちゃんも東京ガールデビューだぜッ」

「何ですかそれ──待って待って速い速い速い──ッ!?」

「さァ、掴まってろよ死にたくなけりゃァなッ!!」

 

 アパートを出たバイクは、すぐさま国道に出る。 

 咢斗は背中から悲鳴が聞こえてくるのを感じた。身体が浮くような慣れない感覚に驚かされたのだろう。

 

「だだだだだだだ大丈夫なんですかコレェェェーッ!? だだだだだだ大丈夫ですよねッ!?」

「飛ばさねェと追突されんぞッ!」

「ひゃ、ひゃわああああああああああああ!?」

 

 少女の悲鳴が絶えた頃。

 咢斗はようやく目的地のカードショップに辿り着く事が出来た。

 ヘルメットを脱いでみると、少女が手をなかなか離さない。

 顔を覗いてみると、グロッキーなのか完全に目が死んでいた。

 恨めしそうな顔で彼女はこっちを睨んでくる。

 

「死んだ……十回くらい死んだ……ギュインッ、て、ブーンって、ギャリギャリって……もう二度と乗らない……」

「オーイ、戻って来いや」

「これが東京クォリティ……コレがジャパニーズ暴走族!?」

「失礼な、安全運転だ。道中一回も事故らなかったろーがよ」

「さ、最悪です……」

「あんだとコラ! ドラグハートを探してやってる上に、タダで乗せてやってんだぜッ! 文句言ってンじゃねェよ」

 

 反省の色無し。

 これでも人を乗せている以上は安全運転に気を使った方であるのが非常にタチが悪かった。どうして免許を取得できたのか疑問が浮かぶレベルの荒さである。

 咢斗はスマホの時計を見やる。1時間ほど走っただろうか。青い顔をして少女を横目に、そろそろ店も開いている頃か、と店先を覗く。

 カードショップ”MOEL”は、古いバーを改造した店だった。

 何処か胡散臭さの漂う個人経営店だが、これでも全盛期は【ワイルドハート】の戦力強化に注力していた。

 古いカードが高騰すれば、すぐさまそのカードを探し出して、多くのデュエリストに提供していたのである。

 

(会うのは久々だが、また太ってねェだろうな……あの人)

 

「おーい邪魔するぜー、テンチョ──」

 

 

 

「アァァァギト殿ォォォーッ!!」

 

 

 

 突如、肉塊が飛び込んできて、咢斗は地面に叩き伏せられる。

 吃驚して飛び退く少女。現れたのは、小太りでドーナツを片手に持った中年の眼鏡を掛けた大男だった。

 バーを改造した店に合わせたのか、バーテンダー服に身を包んでいるが、ボタンが一つ飛んでいる。腹がまた大きくなってしまったらしい。

 

「テンチョッ!! あんたデケェんだから走って出てくンじゃねェ! 何時か死人を出すぜッ!」

「それどころじゃないのですぞッ!」

「良いから退きやがれッ! どーせロクでもねェ事だろうがよッ!」

 

 巨大な肉の塊を押しのけ、咢斗は軽く引いている少女の袖を引っ張って、店の中に押し込んだ。

 起き上がった店長(テンチョ)は、彼女を見るなり眼鏡を輝かせる。

 

「んほォッ!? ア、アギト殿ッ!? そ、そこの超絶奇跡級美少女は一体何方でありますかなッ!? 某、あまりの神々しさに失明しそうですぞッ!」

「失明ッ!?」

「ドン引きしてンだろーが。今日はクロニクル買うついでに、この子のカード探しに来たんだ、悶えるのは後にしろ」

「えっ、あの、私は別に──あっ……!」

 

 少女は店に入るなり、ショーケースに並べられた数々のカードに目を輝かせる。

 初めて見る光景なのか、その数に、そして1枚1枚のカードが放つ煌きに圧倒されているようだった。

 

「すごい……こんなにいっぱい……ッ!」

「んッんッ、気に入っていただけましたかな? 某が集めた、自慢の商品でありますぞッ!」

「こんなに沢山のカード、初めて見た……!」

「嬢ちゃん、シングル見ンのは初めてかよ?」

「うんっ……! どの子も、キラキラしてる……!」

 

 カードを見る少女の目もまた──輝いていた。

 まるで宝石屋にでも来たかのように、胸に手を当ててときめかせている。

 はしゃいでいる彼女を見てか、咢斗は何処か微笑ましくなった。

 デュエマを始めた頃──咢斗もシングルのショーケースに胸を躍らせていた一人だった。

 新品のキラキラしたカード、そして傷の付いた歴戦のカード。

 それぞれが宝物のようだった。

 

「シングルに売られてるカードってのはな、中古のカードが多い。傷物は新品より安くなる。だけど……俺様は傷物の方が好きだ。それは確かに、誰かの切札だったカードだからな」

「はい。思いが……伝わってきます。それに、新しいカードたちも……早く誰かの手で戦いたいって言ってるみたいです」

 

 1枚1枚を少女は本当に愛おしそうに眺めていた。

 何処かそれが遠くの情景のようだった。

 

「……カードって、お星様みたいですね。キラキラ輝いてて、それぞれに物語がある……」

「カードは星、か……あんた本当に面白ェな」

「むぅ! またバカにして!」

「……いーや、気に入った」

 

 悪くない気分だった。カードは星……それを輝かせるのも燻ぶらせるのもプレイヤー次第。

 しかし、それとは関係なく、それぞれに物語があり、そしてそれぞれが瞬く星だ。

 珍しく同意が得られたのか、少女は得意げに笑ってみせる。

 そして何より、このやり取りに感化されたのは──

 

「んッッッほォォォーッ! このような美少女に褒められるなんて、某もう死んでも構わないですぞォーッ! よろしければッ、何か買っていってくだされ! オマケしときますぞォ!」

 

 ──テンチョであった。

 凄まじい勢いで両目から滝のような涙を垂れ流しており、床に手を突いているからか床下はびしょびしょであった。

 一人だけ異次元のハイテンションに、当然咢斗も少女も付いていけるわけがなく。

 

「えっ、あ、あの──」

「落ち着かねェかテンチョ! ドン引きしてンだろが!」

「んッんッ、こんなに良い子がまだNEO東京にもいたなんて……某感動ですぞ!」

「えーと、大丈夫ですか?」

店長(テンチョ)はいっつもこんなんだから気にすンな。俺様の昔馴染みだから怪しいヤツじゃねェ」

「は、はあ……」

 

 しばらくして、ようやく落ち着いたのか眼鏡をくいっと元に戻すと、テンチョは何事も無かったのかのように椅子に座る。

 少女の前だから取り繕っているのだろうが、もう何もかもが遅い。

 

「それでアギト殿、そこの美少女は一体? 明日は隕石でも降ってくるんですかな?」

「失礼が過ぎるぞテメェ、ただの従妹だ」

「んほォッ!? 従妹!? 悪鬼羅刹のような顔と引き換えに、そのよう愛らしい従妹を授かるなんて……某、憤死しそうですぞォーッ!」

「ンな事ァ良いんだよ」

 

 咢斗は興奮しているテンチョを捨て置き、少女に目配せした。

 彼女も自分の目的のドラグハートを思い出したのか、はっとした後に店の中を歩き回るが──しばらくして、沈んだ顔で帰ってきた。

 

「無い、です……」

「そうか……」

「何かお探しのものがあるのですかな?」

「いや、こいつどうやら此処に来てからドラグハートのカードを落としちまったみてェでな」

「なんと! しかし、落し物は警察の管轄では……」

「あーうん、そうなんだがそっちでも何かあったら教えてくれないか?」

「お願いします……大事なものなんです……」

 

 少女に上目遣いで懇願されたからか、テンチョは胸を押さえて倒れ伏せる。

 「大丈夫ですか!?」と駆け寄ろうとする彼女を咢斗は手で制した。

 流石に悶えているこの男に近づけるのは気が引けていた。

 しばらくして復活したテンチョは眼鏡を再びかけ直すと白い歯を見せて得意げに言ってのける。

 

「コホン……では、この店に来るお客様から某が話を聞いておきますぞ!」

「本当ですか!?」

「カードの情報はカードショップに須らく集まると言いますからな!」

 

 しかし──咢斗には一つ、引っ掛かる点があった。

 

「……なあテンチョ。一つ聞いて良いか? 今日、クロニクルの発売日だよな? 何で客が一人もいねェンだ?」

「あっ、そ、それは──」

「えーと、くろにくるでっき、って何ですか?」

 

 きょとん、とした表情で少女が問うてくる。

 カードの心が分かっても、彼女はデュエマ初心者も同然だった。 

 

「クロニクルデッキ、ってのはな。毎年夏になると発売される、クソ強いデッキだ」

「デッキ……ゲームで使うカードのまとまり、のことですよね?」

「あー、うん。まあ……随分と噛み砕いた認識だけど、もうそれで良いか」

 

 デュエマに限らず、カードゲームに於いて公式が出す商品ってのは大きく分けて2つ。

 一つは構築済みデッキ。ゲームですぐ使える40枚のデッキがそのまま販売されている商品だ。

 一つは拡張パック。100種類程のカードの中からランダムに5枚を収録しているため、目当てのものが手に入るかは運次第の商品である……と、軽く解説をしてやると、流石覚えは良いのか成程、と少女は頷いていた。

 

「では、クロニクルデッキは構築済みデッキの商品なのですね?」

「ああ。それもクッソ強い。だから毎年激戦になる。沢山のプレイヤーが買い求めるからな。だからカードショップは何処も満員になってなきゃおかしいンだよ」

「あっ、確かに……」

 

 しかし、今日の”MOEL”は閑古鳥が鳴いていた。

 それどころか──表にはまだ”OPEN”の看板すら出ていなかった。

 

「何があった?」

「実は……大変なことになっていて、今日は店を閉める事にしたのですぞ……」

「はァ!? 馬鹿言ってんじゃねェ、クロニクルの発売日だろ!?」

「それが、これを見るのですぞッ!」

 

 テンチョはタブレットを持ってくる。

 咢斗と少女は身を乗り出して画面を覗いた。

 そこには──NEO東京の知事が会見を開いていた。

 

「えー、本日……NEO東京の各カードショップ及び小売店にて”クロニクル最終決戦(ファイナルウォーズ)デッキ”の在庫が全て盗まれるという事件が発生しており……警察の手が現在回っていない状態が発生しています」

 

 咢斗はテンチョの方を睨む。

 

「おい、これってどういう──まさか、お宅も……!?」

「つ、通報したのですぞ……先程……でも、クロニクルの在庫が消えていて、先程SNSの告知で臨時休業にしたのですぞ……」

「マジかよ!?」

 

 蒼褪めた表情で──テンチョは頷いた。

 この店だけではない。

 NEO東京の店中からクロニクルデッキが消えたのだ。

 そして、都知事の会見はまだ続く──

 

 

 

 

「これにより、デュエマプレイヤーが各地で暴徒と化しており……また、更なる混迷と混乱をもたらすと考えられるため……本日、NEO東京全域で緊急事態宣言を発令しますッ!

 

 

 

 

 ──比喩ではない。本当にクロニクルデッキで最終決戦(ファイナルウォーズ)が始まろうとしていたのである。

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