東京ドラグナーズ   作:タク@DMP

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第5話:事変/赤の女王を追え

「えー、大変誠に遺憾ですが……既に各市場にも影響が出てきており、都の経済レベルが非常にイカン事になっていますね、あっ、違っ、今のは只のジョーク! ジョークだから! 場を和ませようとしただけ──」

 

 

 

 ぷつり、と咢斗はそこで放送の再生を止めた。

 そして──叫ぶ。

 

 

 

「緊急事態宣言、だとォ~~~ッ!?」

 

 

 

 暴徒と化したデュエマプレイヤーが暴れているだけではない。

 クロニクルデッキに収録・再録されているカードは、市場に大きな影響を齎すものが殆どだ。

 加えて、クロニクルデッキが発売されるだけで、それに関する別のカードの値段にも影響する。

 しかし問題の商品全てが在庫から消えたとなると、事は重大であった。

 元々メーカー少数生産の高額商品。予約すら一苦労という有様だったため、今回の大規模盗難はプレイヤー達に波紋を呼んだ。

 すでに各地では混乱が巻き起こっている──

 

「カドショだけじゃないですぞッ! 大手通販サイトの在庫拠点からもデッキが消えていますぞッ!」

「ンだとォ~~~!? 何処のどいつだか知らねェが、誰だ在庫を盗んでいきやがった奴はッ!?」

 

 とはいえ、多くのカードショップや小売店から在庫が消滅するなんて尋常ではない。

 

「相手は相当な手練れですぞッ! 店の金庫の守りは完璧だったはず……咢斗殿も分かっているでありましょうッ!?」

「どうやって盗まれたんだッ!?」

「壁をぶち破られて、物理的に……」

「そうか……物理じゃ仕方ねェな……だけど妙だな。犯人はクロニクルデッキにだけ手ェ付けて、他のモノには手を出さなかったのかよ?」

「見た所は……店の資金は持ち帰っているので手の付けようがないし、他のシングルも無事……恐らく、目的のモノだけ集中的に収集して、後でネットフリマで売りさばくつもりでしょうぞ!」

「とにかく、犯人を捜すしかねーな……」

「む、無茶ですぞォ!? こういうのは警察に任せて……」

「無茶もクソもあるかよッ! 俺様はこの日をずっと楽しみにしてたンだ、それを泥棒如きに邪魔されて堪るかってンだ!」

 

 言った咢斗は店を飛び出すと、バイクに飛び乗ろうとする。

 しかし、すぐさま──追うようにして、少女が後部席に乗り込んだ。

 先程、あれほどバイクに揺らされて蒼褪めていた彼女が進んで、である。

 

「どうしたッ!?」

「私も行きますッ! ……この事件は、放っておいたら嫌な予感がするンです」

「俺様はテメェを庇えねェぞッ!」

「自分の身は自分で守りますッ! ……そう、決めましたから」

 

 決意の籠った声が静かに聞こえてくる。

 少女の尋常ではない覚悟が伝わってきた。

 それに、このカードショップに居ればいずれは警察が来てしまう。

 彼らと出くわすのは彼女としても避けたいのだろう。

 ならば仕方がない。今この時だけは──共犯者だ。

 

「アギト殿ォ!? 気を付けるんですぞォーッ!」

「おうよッ! とっ捕まえてくるぜッ!」

 

 最早、咢斗の無茶をテンチョは止めはしない。

 昔からそういう男だと知っているからだ。

 そして咢斗もまた、振り返ることなく混乱が進む国道へと走り出すのだった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「カードが市場から消えるのは、都市レベルで大変な事なのですね……」

「ああ、この街は何でもデュエマで決めたがる傾向があるからな……ンっ?」

 

 

 

「ヒャッハァァァァァァァァァァーッ!!」

 

 

 

 響いてくる金切り声たち。

 既に暴徒と化したデュエマプレイヤー達がバイクに乗って暴れ回っている。

 しかも物凄い数だ。恐らく、向かう先は各小売店や、デュエマ運営の本部。

 早く止めなければ本当に暴動となってしまう。

 

「まずいんじゃないですか!?」

「この街じゃよくある事だ、気にすンな!」

「この街の治安はどうなってるんですかッ!?」

「しっかし手掛かりがねェ! 組織だった犯行の上に、これだけの大規模盗難を同時多発的に起こせる奴なんて居やしねェだろッ! しかも力業でなんてよ──」

「っ……普通じゃない……もしかして……痛ッ……!?」

 

 

 

 

<チカラヲ……チカラヲ……オレニ、ヨコセェ……>

 

 

 

 

 その時だった。

 ノイズの掛かった声が咢斗の頭の中で響き渡る。

 そして、何処か痛みに耐えるような少女の声も後ろから聞こえてくる。

 抱き締める彼女の腕の力が一段と強くなった。

 

<ホシイ……ホシイ……ウバッテデモ……>

 

「ンだっ、この声……ッ!?」

「聞こえてくる……あの子の声が……ッ」

「声ッ!? テメェも今のが聞こえたのかよッ!?」

「行かないと……私が助けないと……!」

「何なんだ、()()()ってのは……!」

 

 

 

 

『そこの暴走車たち、止まりなさーいッッッ!!』

 

 

 

 

 次の瞬間だった。

 後ろの方からパトカーのサイレンが聞こえてくる。

 しかも、全て純白の車体に【SWORD(ソード)】のロゴを付けたものばかり。

 そして、そのうちの1台がこちらに横付けしてくる。

 窓が開き、こちらに顔を向けてきた警官は──琥珀だった。

 

「咢斗君ッ!? 咢斗君も暴動にッ!?」

「違ェよ人聞きの悪いッ! テメェこそ非番じゃなかったのかよッ!?」

「盗難事件の捜査と暴動の鎮圧で手が足りんのだよっ! 折角の休日だったのにッ……」

 

 どのみち、よろしくない状況であることは確かだった。

 後ろからは次々にパトカーが飛んできている。

 このままでは犯人捜しどころではない。少女について聞かれたら、今は何も言い逃れができない。

 

「あぁそうかいッ! じゃあそのままバカ共止めててくれやッ! 俺様犯人捕まえに行くからよッ!」

「あっ、咢斗君ッッッ!? その後ろの女の子は──」

 

 そのまま脇道に逸れて咢斗は何とか琥珀の乗ったパトカーから逃れた彼は、路地裏にバイクを止めた。

 そして──未だに苦しそうに呻く少女を降ろすと問い質す。

 

「答えやがれッ! 昨日からオメーが来てから不思議な事だらけだぜッ! さっきの声……テメェも聞こえたのかよ!?」

「……はい」

「あれは何だ!? 何だってンだよ!?」

「ッ……近くに」

「あン!?」

「近くにいるんです……きっと」

「だからそれは何だって──」

 

 少女は道路の方を振り向く。

 その時だった。

 裏路地を通り過ぎていく1台のバン。普段は車が通らないような場所に大型車が走っているところに、咢斗は一抹の不審さを覚えた。

 そして──

 

 

 

<モット……モットダァ……オレニチカラヲ……>

 

 

 

 

 あの不気味な声が一際強く、頭に響いてくる。

 少女も蟀谷を抑え、あの白いバンを指差し叫んだ。

 

「あれです! あの車を追いかけてくださいッ!」

「……良いんだな? 本当にッ!」

 

 どうしてその時、彼女の声を信じたのか咢斗にも分からなかった。

 荒唐無稽で、無茶苦茶なファンタジーだ。しかし──何か掴むための糸が欲しかったのかもしれない。

 事件の足掛かりだけではない。

 自分が信じるに足る、何かを──

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

「オーッホッホッホッホッ! カジノ経営は失敗したけど、今回のクロニクルを全て売りさばけば、またカジノが立つのだわよ、オーッホッホッホッホッ!」

 

 

 

 

 往々にしてデュエルによって決着を付けたがるこのNEO時代に於いて、新カードが手に入らない事は大飢饉にも匹敵する緊急事態。

 暴徒が湧き、カードショップが打ち壊され、大混乱が起こることは避けられない悲劇である。

 そんな中、盗んだクロニクルデッキを超高額でネットフリマに出品すればどうなるか。

 それが盗品かもしれないと分かっていても、必ず買い手は付くのである。

 現在、クロニクル最終決戦(ファイナルウォーズ)デッキの相場は凡そ10倍の1箱5万円。

 更に、デッキに2枚3枚しか入ってないカードを、デッキに入れられる上限である4枚に揃えるために複数箱買う人が多いため、客一人の単価は非常に高くなる。

 まさに文字通りのボロ儲けであった。

 カジノをぶっ潰されたレッドクイーンだったが、最初からこの会心の一手を計画に入れていたため、未だに彼女の野望は潰えてなどなかったのである。

 

(所詮デュエマプレイヤーは来月の新弾と明日のCSの事しか頭に無い脳みそスカスカチンパンジー共ッ! プレミア10倍価格でも買うなんてチョロいのだわよッ! オーッホッホッホッホッ!)

 

 高笑いを上げて、車内の椅子でふんぞり返るレッドクイーンの手元には1枚のカード。

 不気味にその刃を煌かせる刀のイラストが爛々と輝いていた。

 

(それもこれも、このカードのおかげだわねッ……! 予想以上の収穫ッ……!)

 

「レッドクイーン様ッ! 大変ですッ!」

「ん?」

 

 カードを見て高笑いを上げていたレッドクイーンだったが、運転手の蒼褪めた声を聴いて、それは途切れた。

 ふと、モニターから車体後部の映像を映し出すと──大型オートバイに乗った男が、猛追しているのである。

 そして、ヘルメット越しに見えた顔を見てレッドクイーンの顔から血の気が引く。

 

 

 

「ゲェッ!! あれは昨晩の小僧ォーッ!?」

「ちょっと止まれや、そこのホワイトナンバァァァーッ!!」

 

 

 

 よりによって、自分のカジノを壊滅させた相手(尚、厳密には介入した【SWORD】)が追ってくる様にレッドクイーンは最早恐怖さえ覚えていた。

 彼の所為で客及びスタッフの殆どが逮捕され、シノギの一部を失ってしまったのだから。

 おまけに、どうやって突き止めたのか分からないが、この車を執拗に追ってくる。

 

「ど、どうすればッ……!?」

<アンズルナァ、ニンゲン……キサマカラ奪オウトスル不届キナ輩ハ、チカラデネジフセレバヨカロウ……!>

「そ、そうねッ! あんた達ッ! あの男をやっちゃいなさいッ!」

「はっ、はぁッ!」

 

 車から身体を乗り出した部下の男が持ち出したのは──対車両用ロケットランチャー。 

 戦車も粉砕できるトンデモ威力を誇る徹甲弾を装填している。とてもではないがオートバイに向けて撃って良いものではない。

 しかし、レッドクイーンの命令に部下は当然逆らえるわけもなく、躊躇はしたもののバイク目掛けてぶっ放したのだった。

 弾頭は煙を噴き出しながら飛んで行き──爆音と共に地面へ着弾。

 アスファルトが吹き飛び、爆炎が上がった──

 

「やったか!?」

「やったのだわよッ!! これであのボーイも粗挽きミンチねッ!!」

 

 ──しかし。

 

 

 

「え”ッッッ!?」

 

 

 

 煙の中から飛び出してくるバイク。

 ヘルメットこそ吹き飛んでいたが、今度はその凶悪な人相が露になっている。

 

 

 

「何すンじゃゴルァァァァァァァァァーッ!!」

 

 

 

「バカな、躱したっていうの、ロケットランチャーを──!!」

「ダメです! 何度撃っても避けられますッ!」

「黒鉄咢斗ォ……! かつて【ワイルドハート】のリーダーとして暴れていたチンピラねッ! この私に歯向かおうなんて……ッ!」

 

<アア、ジレッテェナ……ッ!!>

 

 次の瞬間、刀のカードが妖しく光る。

 そして、レッドクイーンの周囲に居た男達がいきなり、力が抜けたかのようにバタバタと倒れていく。

 それは──運転手も例外ではない。いきなり車のコントロールが効かなくなり──

 

 

 

「なっ、何が起きてるのォォォー……ホゲェッ!?」

 

 

 

 

 ──衝突。凄まじい衝撃が車内に襲い掛かったのだった。

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