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「ンだァ? いきなりあの車、衝突しやがったぞ……!?」
本当に武装している私兵が乗り込んでいるとは思わなかったが、相手からの激しい攻撃も呆気なく終わってしまった。
電柱にいきなり衝突して、そのまま沈黙してしまったのである。
どの道彼らは銃火器規制法でお縄には違いないので、この件を琥珀に報告してお終い。
問題は、彼らが件のクロニクルデッキ盗難事件の犯人であるか否か、であるが……。
「おーいもう終わったぞォ」
「あばばばばばば、死ぬかと思いましたぁ……」
「まあNEO東京ではよくある事だぜ」
「よくある事って何ですかぁ、ううう……それに、相手の人まだ車内にいるんですよね? もしさっきのがまた来たら……」
「だから遠くから見張ってンだろーが」
見た所、逃げ出す気配は見られない。
琥珀にこの場所を連絡し、後は警察の車両が来た辺りで自分達もトンズラするだけだ。
そのまま、睨み合うようにして相手の車両を見張っていたが──ふらふらと誰かが車から降りてくる。
「ッ……レッドクイーン!! あいつ、こんな所に居やがったのかッ!?」
しかし、様子がおかしい。
その手には、身の丈に余る程の長い刀が握られている。
そして、その目は何処か虚ろだ。
咢斗は思わず、バイクで
「待ってください! あれは危険です!」
「はぁ!? 何言ってやがる、あいつは逃亡犯だッ! 逃がすわけには──」
「龍・解」
ノイズ混じりの不気味な声が聞こえてきた。
その時、刀から炎が巻き起こり、レッドクイーンの身体を喰い尽くす。
バイクで突っ込んでいた咢斗は思わず急ブレーキをかけた。
炎の形は徐々に、龍の形を取っていく。
そして、焼けるような熱が肌に襲い掛かった。
「な、何だァ……ッ!? 何だってんだ、ありゃ、バケモンじゃねェかよッ!?」
「そんな、龍解してしまった……!」
「龍解だと!? じゃあアレって……クリーチャーだってのか!?」
炎が飛び散り──レッドクイーンだったものは、龍の姿と成った。
クリーチャーの姿には見覚えがあった。
《熱血龍ザンテツ・ビッグホーン》──口に刀を咥えた四足歩行のガイアール・コマンド・ドラゴンだ。
しかし、それ以上に目の前で怪物が実体化しているという信じ難い事実に咢斗は直面し、衝撃を受けていた。
<オーッホッホッホッホッホッホッ!! よくも私のカジノを潰してくれたわね、ボウヤッ!!>
声が響いてくる。
これは──レッドクイーンのものだ。
最早、何がどうなっているのか、と問う暇も無かった。
<あんた達纏めて、踏み潰してやるわッ!!>
ドラゴンは──目を光らせると、こちら目掛けて追いかけてきたのである。
すぐさま咢斗はバイクを逆走させて逃走する。
完全に追う側と追われる側の立場が逆転してしまった。
(マジで怪獣映画じゃねェかよ、どうなってンだ──ッ!?)
「おいっ、何なんだよあのバケモンはッ!! お前何か知ってンだろッ!!」
「そ、それはっ、きゃああああ!?」
「ンだぁ!?」
地面が大きく揺れる。
振り向くと、アスファルトに巨大な刀傷が出来ていた。
咢斗の額に汗が伝う。CGやハッタリではない。
<オーッホッホッホッホッホッホッ!! 切り刻んでやるのだわよッ!!>
ザンテツ・ビッグホーンの放つ斬撃が、今度はアスファルトを両断していく。
その衝撃波が地面を揺らし、斬撃のように伝っていく。
車を吹き飛ばし、ビルの窓を叩き割り、まさに怪獣のように暴れていく。
「きゃああああっ!?」
「ま、まずいっ、このままじゃ被害が──オイ!! どうすれば良いんだ!! 早くッ!!」
「ッ……無理ですッ! 昨日会ったばかりの貴方に、頼むなんて──」
「ンな事言ってる場合かッ!! 俺様はな──」
<これでお終いよッ!!>
刀によって生まれた亀裂が、アスファルトを奔る。
それがバイクの真下まで伝わり、熱を帯びた。
凡そ、温度は4000度。そこまで膨張した熱のエネルギーが──脈絡も、科学的根拠もなく、
※※※
「っ……痛ったたた……何が、どうなったの……!?」
少女は起き上がる。
しかし、身動きが取れない事に気付いた。
ぎゅうっ、と強く抱きしめている咢斗の腕がそこにあった。
ぬるぬると生暖かい感覚が伝わってくる。
赤い、液体が掌にべっとりと付いていて、さぁっと体中が冷たくなった。
「ああっ……そ、そんなっ……!」
「クッソがよォ……世話ァ焼かせやがって……ッ!」
「ご、ごめんなさい、ごめんなさい、私の、所為で……!」
「……やべーかもしれねぇ……!」
炎上するバイク。
血塗れの咢斗。
そして──背後からは迫りくる斬龍の姿。
<お終いよ。大人しく、此処で死になさいなッ!!>
「ッ……オイ、オメー」
「はいッ……!」
「何とかする手段、あるのか……ッ!?」
「っ……お願いです、此処から逃げてくださいっ!!」
「ッて言われても……ってオイ!! バカ!! 死んじまうぞッ!!」
背中に刺さったバイクの破片が、激しい痛みを誘発する。
動こうとすれば、滲むような鋭い刺激が襲い掛かる。
逃げようにも、逃げることが出来ない。
少女はザンテツ・ビッグホーンの前に立つ。
そして掲げるのは──《銀河大剣ガイハート》のカードだった。
「お願いっ……力を貸して、ガイハートッ……!!」
次の瞬間だった。
少女の掌に──炎が灯る。
それが剣の形となるが──
<猪口才なァァァーッッッ!!>
それよりも先にザンテツ・ビッグホーンが動いた。
再びあの剣の斬撃が襲い掛かる。
しかし、それをすんでのところで飛んで躱し、彼女は龍に向かっていく──
(なんなんだよあの子……ッ!! 何でそこまでしてッ……!!)
息も絶え絶えに、咢斗は少女の方へ手を伸ばす。
(もう、何も抱え込まねェつもりだった。
剣の形となった炎を龍に向かって振り上げていく少女。
怯えてばかりだった少女は、既に覚悟を決めてしまっている。
例え、その命を捨てたとしても──龍を止めようとしている。
(あの子は、俺様とは違う……まだ、何にも諦めてねェ……ッ!!)
<小娘ェェェ!! 一人でチャンバラごっこも大概にしなさいなァァァーッ!!>
「例え味方が居なくってもッ!! 孤軍だったとしてもッ!! 私は……私は、既に覚悟を決めてるんですッ!! 刺し違えてでも、貴方を──」
少女が炎の剣を振り下ろそうとした瞬間だった。
剣は、その場で掻き消えてしまう。
「そんな……!!」
<死ねいッッッ!!>
反撃手段も失い、ギリギリまで近付いてしまった少女。
最早、避ける事も敵わない。
逃げることも出来ない。
無防備な彼女目掛けて、ザンテツ・ビッグホーンの刀が振り下ろされる。
地面を抉り、そして焼き切る程の熱。
それが、道路の先の先まで伝わった──
<やったわッ!! 次は黒鉄咢斗を──!?>
感じない。
手応えが無い。
ザンテツ・ビッグホーンは、その場に亡骸が無い事に気付いた時。
自らの刀が地面に刺さって抜けない事に気付いた。
<しっ、しまッ──あの子達は何処に……ッ!!>
「嬢ちゃん、覚悟って言葉をよ……死にに行くのに使うのは三流のやることだぜ」
死角に、少女を抱きかかえる黒鉄咢斗が立っていた。
青年は──再び、諦めずに前に進む選択を選び取ったのである。
「覚悟ってのはな、ハートを燃やして死ぬ気で生きるのに使うモンなんだよ」
「っ……死ぬ気で、生きる……!?」
「そうだ。嬢ちゃん、まだ何にも諦めてねェんだろ!?」
少女は──決心がついたのか、咢斗の目を見て頷く。
「はい……でも、私だけでは、あのドラグハートは止められません……でも、私と、
「その契約ってのを俺にしてくれッ! 俺様はもう……何も諦めたくねェンだよッ!! 仲間もデッキも、カードも全部諦めてきたッ!! でもッ……今なら前に進める気がするンだッ!!」
「その覚悟……確かに受け取りました」
その刹那だった。
少女の身体が押し倒すようにして咢斗に倒れ込む。
ふわりとした髪が頬に当たり、そして──柔らかい感触が、唇を奪っていた。
「ッ……!?」
妖精のような瞳はきゅっと閉じており、鼻腔からはクチナシの香りがくすぐる。
何が起こったのか分からなかった。しばらく、時が止まったようだった。
心が、胸が高鳴り、熱を帯びていく。
そして──「ぷはっ」と息を継ぐ声が聞こえてくると、カッと目を開いた少女が恥じる素振りも見せず、機械のように告げる。
「……確かに受諾しました」
「な、何だ、いきなりッ……!?」
「捧げるは
迸る光、そして熱。
辺りに炎が巻き起こる。
刀を引き抜いたザンテツ・ビッグホーンだったが、思わず目を見張った。
黒鉄咢斗を核にして、爆炎が巻き起こっている。
<何なの!? これは一体!?>
「……ンなモン、俺も知らねェよ。でもな──」
バチバチッ、と音を立てて閃光が彼の掌から走る。
咢斗、そして少女の腕に刻まれたのは歯車の紋章だった。
ザンテツ・ビッグホーンは狼狽した。
今までとは何かが違う。自らの力と全く同じ力を持つ彼らに慄いているのだ。
傲岸不遜に、そして大胆不敵に黒鉄咢斗は笑みを浮かべて言ってのける。
まだ、自分は諦めずに済みそうだ、とッ!!
「やっと、テメェをぶちのめせるみてェだからよッ!! こっからは、俺様達の時間だぜッ!!」
「契約完了。これより──星に誓い、デュエルを開始しますッ!!」
少女の目が光る。
その時、道路は