<──《レッドギラゾーン》でW・ブレイクよッ!!>
車輪の拳が残る咢斗のシールドを全て叩き割る。
破片が次々に降りかかり──それが刃のように二人の腕を、太腿を、的確に突き刺し貫いていく。
「ぐゥゥゥーッ!?」
「痛ッッッ……!?」
鮮血が迸り、互いの服を汚す。
激痛が二人の思考能力を奪っていく。
その様をレッドクイーンは笑い飛ばす。
完全に生死与奪を握ったのは自分だ、と言わんばかりに。
<オホホホホホホ!! ザマァ無いわねッ!! 私のコマンドは《レッドギラゾーン》の効果でブロックされないわッ! これでお終いよォォォーッ!>
迫る斬鉄龍の刀剣。
それが、咢斗の首を撥ねんとばかりにゆっくりと振り上げた。
死を直感してもおかしくない状況の中──咢斗は嗤っていた。
「ッ……オイ……この程度か? 地下決闘場の電撃デスマッチの方がまだマシだったぜ……ッ!!」
<オホホホホッ! 強がっても無駄よッ! 《レッドギラゾーン》の革命号令の前に貴方は押し潰されるのよッ!」
「見てろよ、今に押し潰されるのはテメェだ」
「何か……策があるんですかッ……?」
咢斗の余裕に、血塗れの少女は問いかけた。
そして──ひとつ、思い当たる節がある。
「そうか……ドラグハート! この《ガイハート》を使えば──」
少女が指差す通り、超次元ゾーンには彼女が持っていた《ガイハート》が置かれていた。
しかし、彼はゆっくりと首を振った。
「悪ィな嬢ちゃん。俺様はな、その《ガイハート》を使う事は出来ねえ。いや、使えねえンだ」
「えっ……!? どうして……ッ! もしかして、過去が──」
「ねぇんだよ」
「え?」
「俺様のデッキには今、ドラグハートを呼び出せるカードは1枚も入ってねェッ!!」
「ええええええええええええ!?」
実際その通りだった。
例え無敵のドラグハートと言えど、それを呼び出すドラグナーが無ければ呼びようがない。
「な、何でですかッ!?」
「そのドラグナーのカードが入ってンのがクロニクルデッキだったンだよッ! 5Cジャクポに入るドラグナーが何か知ってっか!? 《龍覇サソリスレイジ》と《龍覇ザ=デッドマン》だッ!」
「は、はぁ」
「こいつらは確かに強ェが速攻性もフィニッシュ力もイマイチ足りねンだよッ! オマケに出せるのは自然のドラグハートだけだ! かと言ってモルネクは売っちまったし、ロージアもあんまり噛み合わねェしで、俺様がどれだけこの構築で悩んだと思ってやがるッ!! そして、あいつの盗んだクロニクルデッキのカードがどれだけピタッとハマってたかッ!!」
「そ、それは……すみませんでした……よく分からないけど……」
「いや……俺様も悪かった……そもそもドラグハートがあったところで、この状況はどうにもならねェ」
「え、えええ……」
<オホホホホホホッ!! 仲良くくっちゃべってるのは、お終いかしらッ!! カジノの恨みッ、晴らさせて貰うわよッ!! ケツアゴと共にッ!!>
「わりーけど……テメェのケツアゴは知らねえよッ!!」
次の瞬間だった。
咢斗の手に、砕け散ったシールドの破片が集まっていく。
<ッ……それはッ!?>
「嬢ちゃん、教えてやるよ。あんたはまだ、デュエマには沢山のカードがある事を知らねンだ。そっから生み出されるデュエマの可能性は無限大だッ!!」
「無限大……!?」
「組み合わせ次第で、どんな絶望的な状況もひっくり返しちまう──なんてなッ!!
シールドが破壊された時、そのカードがS・トリガーならば──プレイヤーはタダでそのカードを使うことが出来る。
文字通り、逆転の一手だ。
そして、彼が繰り出したのは──
「呪文、《ナウ・オア・ネバー》ッ!! 手札からコスト7以下のクリーチャーを場に出して、その後すぐに自分の手札に戻すッ!」
<今更それが何だって云うのかしらッ! 止められるクリーチャーなんて居やしないわよッ!>
「本当にそう思ってンのかよ?」
「ッ……!?」
「その能力で俺様は手札から、《魔龍バベルギヌス》をバトルゾーンに出すぜッ!!」
咢斗の手札から現れたのは、無数の龍の尾を携えた歪な悪魔だった。
龍の咢は命を喰らい、対価として冥府より命を呼び戻す。
この能力は《バベルギヌス》以外の、いずれかのプレイヤーのクリーチャーを破壊して、墓地からクリーチャーを呼び出すというもの。
当然相手にも使う事が出来──
「その能力で、《ザンテツ・ビッグホーン》を破壊するぜッ! そして墓地から蘇生する能力は……相手の墓地にクリーチャーが居ないので発動しねえッ!!」
<ぐぬッ……! で、でも、まだ終わって無いわよッ……! S・トリガーが一つ出たくらいで──>
「一つ出りゃ十分だ」
更に、咢斗は追い討ちと言わんばかりに1枚のカードを手札から投げ入れる。
幾つもの頭を持つ、邪悪なる界王龍として──顕現した。
「ついでに、オマケだッ! 今割られたもう1枚のシールドを墓地に置いて、《界王類邪龍目 ザ=デッドブラッキオ》をスーパー・S・バックで場に出すぜッ!!」
<ゲェッ!! そいつはッ!!>
「《デッドブラッキオ》の効果発動ッ! こいつは俺様のブレイクされたシールドを捨てる事で場に出てくる……その上、場に出た時、相手のクリーチャーを喰らうぜッ!!」
「そ、そんな、滅茶苦茶ですッ!? 相手のターンにやりたい放題じゃないですか……ッ!」
「相手もやりたい放題したんだ、俺様が何したって文句は無しだぜぜッ! カッハハハハハッ!!」
咢斗が高笑いを上げる傍ら、斧を掲げた邪龍が《レッドギラゾーン》の頭を一振りで叩き割る。
場に出た《ザ=デッドブラッキオ》は、相手のクリーチャー1体をマナゾーンに突き落とす能力を持つ。
速攻で進軍してきた侵略者の軍勢は、ドラゴンデッキとは思えない程の手痛いカウンターを喰らって完全に機能停止してしまったのだった。
残るは《レッドゾーンZ》のみ。しかし、ブロッカーの《初不》がいる所為でトドメを刺す事は出来ない。
<ぐぬうッ!! 《レッドゾーンZ》でダイレクトアタックよッ!>
「《初不》でブロックッ!! 残念、トドメまで行けなかったなァ」
「凄い、全部止めてしまった……!」
「さァて、覚悟は出来たかよッ!! 先ずはもう1回、さっきの《ジャックポット・エントリー》を使うぜッ!!」
捲れる7枚の山札。
マナのドラゴン達が咆哮を上げ、更なる巨龍を呼びよせた。
その中から渾身の1枚を掴み取り、戦場へと叩きつける。
「呼び出すのはコスト8以下のドラゴンッ! 紅蓮の鬼が哭く時、龍の
天から降り落ちた1つの剣。
それを握り締めるようにして、炎が龍の形を象っていく──
「陽昇る所に灼熱の龍帝、在りッ!! 《
──現れたのは日輪を背負った紅蓮の鬼龍。
その剣に炎が次々に灯っていく様を、少女は──目を見開き、見つめていた。
そして、脳裏に焼き付く一つの名が──
「グレン、モルト……?」
「行くぜッ!! 《「
剣を振り上げた《「王牙」》。
それは大地を断ち、斬撃の余波はレッドクイーン達にまで及ぶ──
<一体何を──ッ!!>
「コイツが攻撃するとき、ガチンコ・ジャッジを行うッ! 互いの山札の上を表向きにし、俺の方のコストが大きければ効果が発動するッ!!」
<そ、そんなのッ、ドラゴンデッキのそっちが有利じゃないィィィーッ!?>
「インチキ賭博よか100倍マシだッ!! そら捲るぜッ!!」
咢斗の山札の上のカードは《雷龍ヴァリヴァリウス》の8。
一方、レッドクイーンの山札の上のカードは《轟く侵略 レッドゾーン》の6。
咢斗の勝ちとなり、《「王牙」》の効果が発動する。
「ガチンコ・ジャッジに勝ったから、山札の上から3枚を見るッ! その中からドラゴンを1体場に出すぜェェェーッ!! 出すのは、《勝熱英雄 モモキング》ッ!」
<んまッ!? そ、そいつは最初の攻撃の後にアンタップするドラゴン……!?>
「ご名答ッ!! 先ずは《「王牙」》でシールドをW・ブレイクッ!」
トリガーは無い。
此処でタップ系のS・トリガーを引いてしまえば全てが水の泡だったが、何も来なかったようである。
<ぐ、ぐぬうううううッ!! おのれ、小僧ッ!! 破らせるものか、私の夢を、カジノの夢を──>
「弱い奴踏み躙って手に入れた夢に、何の意味があンだァ?」
<ッ……!>
「そんなのは、テメェを裏切った奴らと何にも変わりゃァしねェ。何より弱い奴いじめても面白くもなんともねェだろーが! 《モモキング》で攻撃ッ! T・ブレイクだッ!」
二刀を掲げた鎧武者の如きドラゴンの《モモキング》が突貫する。
その二閃で、レッドクイーンのシールドは全て叩き壊された──
<S・トリガー、《閃光の守護者 ホーリー》──ッ!!>
「無駄無駄ァッ!! 《モモキング》は攻撃の終わりにアンタップするんだぜッ!!」
<でも、こっちにはブロッカーが居るわよッ!!>
「そうですっ、此処で止められたら──」
「止めさせやしねェよッ!!」
二度目の《モモキング》による攻撃。
突貫する武者龍は、手札にある咢斗の切札とバトンタッチする。
黄金の剣が太陽の炎と共にバトルゾーンに突き刺さる──
「革命チェンジ──コスト5以上の火のドラゴンが攻撃したので、条件を達成ッ!! 黄金の夜明けが来たる時、翼は刃となってテメェをぶち抜くッ!!」
彼の手札から、入れ替わるようにして──太陽の如き龍帝が飛び出す。
「降臨せよッ、《
<何ですってェェェェーッ!?>
革命チェンジには革命チェンジだ、と言わんばかりに繰り出した《ドギラゴールデン》。
その能力は、登場時に相手のクリーチャーを一体、マナゾーンに送る事──《ホーリー》は一瞬で、太陽龍の剣で消し飛ばされてしまう。
「残念。これで頼みの綱のブロッカーは居なくなったッ!!」
<そ、そんなッ、この私が何故──>
「何時まで経っても下ばっか見てっからだよッ!!」
<ッ……!!>
これで、敵を守る者は何も無い。
S・トリガーが発動した様子も無い──ただただ力に溺れた孤独な女王がそこに残っていた。
「人間、頂点を掴みてンならよ──結局、上見て歩いて強い奴らに喰らいついていくしかねェンだよなァッ!!」
龍の首が幾つも吼え、それぞれ五色の炎を噴き出す。
それが、レッドクイーンを──そして、斬鉄龍の身体を焼き尽くしたのだった。
「《ドギラゴールデン》でトドメだぜッ!!」
※※※
『昨日起こった謎の爆発事故周辺で倒れていたレッドクイーンこと赤井 轟容疑者を逮捕しました。付近で追突していた車から、盗まれたクロニクルデッキが押収されており、【SWORD】は大規模窃盗の疑いで捜査を──』
プツッ
そこで咢斗はニュースの映像を止めた。
盗まれたクロニクルデッキは全て見つかったという。
カードショップに在庫も戻っており、暴動は鎮圧されつつあるようだった。
結局、昨日はあの後ふらふらのまま【SWORD】の車両が来る前にその場から逃げ去ってしまい、事の顛末は確認できなかったが万事うまくいったようである。
しかし──
(こいつは、寝たままか……)
──肝心の少女は、力尽きたかのように眠ってしまい、今の今までずっとこのままだ。
布団の上で静かに寝息を立てている。
(結局こいつは何なんだ……? 契約、実体化したドラゴン……そして、アルカナ王国のお姫様……全部コイツが……?)
「……んぅ……」
わしゃわしゃっ、と髪を撫でてやる。
ザンテツ・ビッグホーンに、決死の勢いで立ち向かっていった彼女の姿を思い出した。
この小さな体に、果たしてどれ程大きな決意と覚悟を秘めて、彼女は出奔したのだろうか。
咢斗には想像もつかなかった。
(並々ならないものを秘めているのは確かだけど……)
「……んー……」
「わり、起こしちまったか?」
呻き声と共に、少女はゆっくりと目を開ける。
「グレン……モルト……」
「ぁん?」
「……ひゃいッ!? ちっ、ちがっ、今のは違くて──ッて、ああ……貴方でしたか」
「……目覚めた所悪いが、一つ聞きてェ」
「……良いですよ。巻き込んでしまいましたから」
少女は申し訳なさそうに言った。
胡坐を掻いた咢斗は、鞄から1枚のカードを取り出す。
それは、もう既に物言わぬ《ザンテツ・ビッグホーン》のカードだった。
「嬢ちゃんの探してたドラグハートってのは……これか?」
「……はい。ですが、この街にばら撒かれたドラグハートは……これだけではないはずです」
「まだあるのかよッ……!? 嬢ちゃん、あんたは何者なんだ!?」
「あの、一つ気になってたんですけど」
「あン?」
「嬢ちゃんと呼ぶのは……いい加減やめてください」
ぷすぅ、と彼女は頬を膨らませた。
かわいい。
しかし、子ども扱いされるのが気に食わない年頃なのだろう。
「悪かったよ。じゃあ単刀直入に聞く──何者だ」
まあ答えは分かり切っているがな、と咢斗は既に驚くフリをする準備をしていた。
ありとあらゆる状況証拠が、彼女を王族ないし高貴な身分であることを示している。
「今回の事件、そして空から火の球と一緒に降ってきた事……そして、俺の手の痣……契約とやら。もう他人事とは言わせねェぜ」
問い詰めるようで悪いがな、と彼は続けた。
しばらく、不安そうに口を結んでいた彼女だったが、意を決して口を紡ぎだす。
「私はアルカナ王国第一皇女、リィンフォース・アルカナハート──」
(だろーな……)
「──の
「……ん?」
ピシッ、と亀裂が入ったような音が頭で鳴った気がした。
咢斗はもう一度聞き返す。
「待って? 代理? じゃああんたの名前は……」
「だから、名前なんてものはありません。私は皇女のミガワリでニセモノ。それだけですから」
「ちょっと、ちょっと待て。お姫様、じゃねェの!? 飛行船から飛び降りたっていう──」
「あッ、いや、それは本当なんですッ! ……姫様が飛び降りたのは……本当、なんです。私が……力及ばず」
「じゃあ、あんたは──マジで姫様じゃねェの!? 追われる身じゃねェの!? むしろ追う方だったのッ!?」
「そ、そっちこそッ! 何で姫様の件を知っているのですかッ!? 公にはなってないはず……」
少女に馬乗りにされながら咢斗は回る頭で必死に考える。
そうなると──今までの仮説が全て覆る。
「私は……日本で言う所の
この少女は指名手配されている、お姫様ではない。
「ッて、何じゃそりゃああああああああああああああああああッ!?」
──EPISORD1「暴君と姫とドラグハート」(END)
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