東京ドラグナーズ   作:タク@DMP

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EPISORD2「アイドルと龍解と潜入調査」
第9話:依頼/クラブゾン・アイドル


 ──科学よりも魔法が研究されている国に、それはたいそう可愛らしいお姫様が産まれました。

 

 お姫様はたいそうかわいらがられ、かしこく、たくましく、きれいに育ちました。

 

 でも、ただひとつ、代々王族は皆使える魔法だけが使えませんでした。

 

 お姫様が魔法が使えないことを国の皆に知られたら大変です。

 

 だから、王様は一計を案じました。

 

 お姫様に似た女の子を影武者に仕立て上げ、魔法を使わなければならない時は彼女をお姫様によく似せて表に立たせたのです。

 

 二人は姉妹のように育てられました。

 

 でも、お姫様はいつも懊悩していました。

 

 何故、自分には何も無いのか、腫物のように扱われなければならないのか、皆は私ではなく私の持つはずだった魔法が欲しかっただけではないか、と──

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「というわけだから、君にはアイドルの護衛をしてもらいたいのだが」

「何がというわけだよ」

 

 

 

 此処はNEO東京──金・暴力・SEX、そしてデュエル・マスターズが蔓延するイカれた都。 

 そんなこの街の中でも比較的治安の良い場所とそうではない場所がある。

 例えば、このNEO千代田区は古くから都心で政治の中心だったこともあり、比較的【SWORD】による治安維持が行き届いている街だ。

 その中でもNEO秋葉原、通称ネキバはオタクたちの聖地であり、同時にスートの一つである【クラブゾン・ネットワーク】によって電子都市化が進んでいた。

 街にはホログラム掲示板が入り乱れ、電脳アイドル達が舞い踊る。

 そんなネキバの一角のメイド喫茶に咢斗は呼び出されていた。

 

「つか良いのかよ? 公僕がメイド喫茶でミーティングなんてよ」

「たまには良いだろう。何なら追加料金でメイドさんと遊べるぞ」

 

 妙におっさん臭い所のある姉貴分は禁煙パイポを咥えた。

 タバコ好きだった彼女だったが、最近は控えているらしかった。

 

「何で金払ってデュエマしなきゃいけねンだよ。てかあのメイドさんのデッキのトップ見えちゃったンだけど、《焦土と開拓の天変》だったンだけど」

「悠久チェンジを握ってランデスデッキに苛められるのも、それはそれでオツだな。興奮するッ!!」

「このM豚女め……で? 何でアイドル護衛?」

 

 咢斗は髪を掻くと本題に無理矢理戻す。

 何故アイドルの護衛なんて話になったのか、と言えば元同僚で今は警察の特殊部隊【SWORD】に所属している琥珀から呼び出されたからである。

 曰く、バイトでアイドルの護衛をしてくれないかとのことだ。

 

「どうせプー太郎だろう?」

「ぐッ、確かに今はそうだが……」

「ならば受けてみる価値はあるだろう」

「……あのなァ、何で俺様なんだ? 俺様アイドルなんざ興味ねェぞ?」

「だからだよ」

「ハァ?」

 

 彼女はタブレット端末を咢斗に差し出す。

 そこには──新聞紙の文字を切り抜いて貼って文章を継ぎはぎした手紙があった。

 

「えーと何々、『きさらぎさくらはつぎのらいぶにはでられない』……?」

「”如月サクラは次のライブには出られない”。届いたのは数日前でね。【クラブゾン・ネットワーク】が抱える生アイドルの如月サクラ宛てだ」

 

 【クラブゾン・ネットワーク】は、巨大SNSを運営しているのみならずアイドルのプロデュースを行っている。

 普通のアイドルからヴァーチャルアイドル……つまりVtuberまで幅広く在籍しており、ジャンル、人材の幅には枚挙に暇がない。

 そんな中、今回の事件は起こった。

 よりによって次のライブを控えた如月サクラに脅迫状が届いたのである。

 

「物騒だねェー、しかもこんなアナログな脅迫状とはご苦労なこって」

「メールだと足が着くからな。アナログも使いようさ。しかも切り抜きだから筆跡も残らん」

「カッハッハッハ、無駄に賢いじゃねェか。突発的な犯行って訳じゃあなさそうだぜ」

 

 犯人は完全に計画立ててこの脅迫状を作成したに違いない、と咢斗は推測する。

 そうでなければ、最も足が着きにくいタイプの手紙など作りはしない。

 

「……しっかし如月サクラねェ。どっかで聞いた事があるような気がすンだよな……」

 

 計画状に書かれている名前に咢斗は見覚えがあった。

 アイドルといったものに興味がないのは自分が一番分かっているにも関わらず、だ。

 

「そうだ。彼女はかつて【ワイルドハート】のメンバーだった」

「全く顔を憶えてねェ。そんな名前の奴を引き入れた気もするが、女は基本的にテメェが相手してたし」

「だから未だに童貞なんだぞ君は」

「ど、童貞ちゃうわッ!!」

 

 嘘である。

 黒鉄咢斗はバリバリの童貞である。

 そもそも女よりもカードに貢いできた男が、今更真っ当な恋愛など出来る訳がなかった。

 【ワイルドハート】時代は「黒鉄リーダーはカードの効果は分かる癖に乙女心は分からないんだよねーwww」と陰で女メンバーに言われていた始末である。

 結論から言えば、そもそも異性が苦手なので避けていたというのが正しい。あのキャピキャピとした雰囲気に突っ込んでいく勇気は彼には無かった。

 

「如月サクラは5年前に【ワイルドハート】に所属していた少女だ。まあ一時期の【ワイルドハート】はNEO東京の若者たちを多く抱えていたから顔も知らないのは当然か」

「最初は身内の集まりだったはずなのになァ。それで? 何で俺様が護衛なんだ?」

「サクラはこんな脅迫状が送られてきても尚、次の秋葉原でのライブを決行するつもりらしい」

「ハァ。ワガママっつーか、聞くからに気の強そうな女だな」

「プロ志向が強いからとも云う。せめて、ライブの準備期間中は護衛を付けろという条件で事務所も承諾したが、荒事に慣れていてなるべく同年代に近い人物が良いとのことで」

「それで俺様かァ?」

「君なら丁度良い。妄りに女に手を出す事も無い。そもそも出せない。何より頭も見かけほど悪くない上に、腕っぷしも無駄に強い」

 

 そんな所で信用されていても困る、と咢斗は返答に詰まった。

 腕っぷしと身体の頑丈さに関しては否定出来ないにせよ、若干悪意の籠った説明であった。

 

「とにかく考えておいてくれ。仮に君が死んだら骨は投げ捨てておいてやる」

「人にモノを頼む態度じゃねェッ!! そもそも、琥珀さんよ。分かってンだろうな? SPッてのは命懸けなンだろ?」

「地下の電撃デスマッチよか100倍マシだ。なんだまさかビビってるのか? 君ともあろう者が」

「それなりの対価ってモンが要るだろ──俺様はレアだぜ。報酬は弾んで貰うぞ」

「ふふっ、()()()()()()()()()だ──あっ、帰らないで。ジョークッ! ジョークだからッ! 警部補ジョークだからマジでッ!」

「付き合ってられねェ」

「きっちり現ナマを支払っておく、うちの経費から出るから心配するな」

「本当かァ~~~?」

 

 疑わしい目で彼女を睨みながら咢斗は腕を組む。

 彼女は心配してるものの、【SWORD】とは【ワイルドハート】時代に何度かカチあったのでイマイチ信用しかねるところがあるのだ。

 

「ところで咢斗君? この間のクロニクルのデッキの件だが」

「あ? あァ……確か、レッドクイーンが捕まったアレだろ?」

「彼は違法カジノ経営とクロニクルデッキ盗難については容疑を認めている。しかし、彼の部下も含めて”どうやって盗んだのか”と”逮捕される前後のこと”を覚えていない」

「……やっぱ、そうか」

「やっぱ? 何か身に覚えでもあるのか?」

「……いや、何でもねェ」

 

 ──咢斗は数日前の事を思いだす

 NEO東京に散らばった数々のドラグハートの事。

 そして──影武者である彼女の事を。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──数日前。

 レッドクイーンの事件を解決した次の日の事だった。

 

 

 

「我が国では、実体化するドラグハートを国の宝としてきました」

「もう突ッ込まねえぞ?」

 

 

 

 何故遠い異国のアルカナ王国にデュエマのカードがあるのか。

 そもそも何故当たり前のように実体化しているのか。

 一先ず彼は考えるのを辞めた。

 曰く。世界の中でも、魔法を秘匿している国は数多く存在しているのだという。

 そのうちの一つがアルカナ王国だと言われているが、実在しているとは。

 

「そもそも何で国宝なんざ飛行船に積んでたんだ? お宅ら国賓で呼ばれてたンだよな?」

「国宝……ではありますが、日本のそれとは意味が違ってきます。ドラグハートはアルカナ王国の戦士が持つ伝統的な武器なんです」

「武器か。そりゃまた物騒だな」

「でも、飛行船に乗っている途中で姫様が……大量のドラグハートを所持していたことが発覚したんです。勿論、勝手に持ち出したものです」

「マジかよ……ッ!?」

 

 曰く、理由は分からないという。

 NEO東京上空に上がった時、影武者である彼女は姫が持つ何枚ものドラグハートの気配を感じ取ったのだという。

 護衛と一緒に問い詰めると、彼女は飛行船のハッチを開け、そのまま空へ──というわけだそうだ。

 

「ドラグハートは、妙な魔術で暴走していています。実体化したいがために、人に憑りついて暴れるんです」

「……なあ、《ザンテツ・ビッグホーン》はもう大丈夫なのか?」

「……可哀想に。とても怖かった、って言ってます」

 

 当たり前のようにカードと会話する少女だが、今となっては全て納得してしまっていた。

 クリーチャーが実体化したのだから、咢斗はもう大抵の不条理は見過ごせる気がした。

 

「にしてもその姫様何が目的なんだろな……迷惑な話だぜッ!」

「分かりません。姫様は……私には見せないだけで、思い詰めたことがあったのかもしれません」

 

 私が止めていれば……と彼女の顔が暗くなる。

 咢斗にも思い当たる事があった。

 思い詰めていた親友を止められず、結果的に組織を崩壊させる原因を作ってしまった事。

 それは自分の責任だ、と思い詰め続け、結果的に自分が全てを捨てるきっかけになってしまった事。

 

(同じか……親しい奴の苦しみに気が付けなかった……)

 

「姫様の目的が何だったのかも分からず仕舞い。そもそもどうやって盗み出したのかも分からないんです」

「……それで……あんたは? 何であんな所に倒れてたんだ?」

「私は姫様を助けようとして、ガイハートの力を無理矢理解放して飛び出したんです。でも、ダメでした。姫様が持っていたドラグハートのエネルギーに撃ち落とされて……その後は貴方が知っている通りです」

「ガイハートがあんたを助けてくれたのか……」

「そう、みたいですね。そして姫様も恐らくは……ドラグハートが目覚めかけていた以上、生きていると……思います」

「……」

 

 ともすれば、火球の正体は一時的に主を助ける為に実体化したガイハートと考えるべきだろう。

 空から降ってきたのは、飛び降りた姫様を追いかけていたから、落ちてきたのは撃ち落とされたから……。

 

「……成程な。しかし良いのかよ? 影武者のあんたが姫様探しってことは、今完全に姫様の代わりが出来る人はいないんだろ? それに、あんた……見つかったら面倒なんじゃねェか?」

「大丈夫ですよ。私と姫様は年齢も違いますし、血も繋がっていません。飛行船の中では姫様と同じ化粧をしていましたが、今は……全部落としてしまったのでそんなに似てないはずですよ?」

「本当か……?」

 

 ふふっ、と悪戯っ子のように彼女は微笑んでみせた。  

 タブレットにダウンロードしたリィンフォース姫の写真と、目の前にいる彼女を見比べる。

 確かに今となっては、瓜二つというほどではないが……それでもやはり、ガラスのような銀髪が印象に出るのだろう。同一人物ではないか? と思わせている。 

 強いて言うならば、影武者の彼女の方が少し大人びているように見える。

 やはり、二人は似ている。日本人が欧米人の見分けがあまり付かないものかもしれない、と思いつつも、影武者ならばこれで十分だったのかもしれない。

 

「同時に、今ドラグハートを集める事が出来るのは私しかいません」

「何だって?」

「私は……代理である以前に名も無き星の巫女です。カードの声を聴き、そして龍戦士(ドラグナー)と契約して真のデュエルを行う……それが巫女の役目です。カードの声を聴き、ドラグハートを探せるのは私しか居ません」

「……龍戦士(ドラグナー)、ねえ。じゃあ俺様とやった契約ってのが、()()()

 

 咢斗はシャツを捲って腕を見せた。

 歯車に剣が突き刺さったような紋章だ。

 

「しかし、何であんたしか居ないンだ? 巫女ってンのはあんたしか居ねェのかよ」

 

 少女は──口を噤んでしまった。

 それは、触れられたくなかった事柄だったのだろう。

 しばらく、静寂がその場を包んだ。

 そして、

 

「……数年前、アルカナ王国では巫女のみ発症する奇病が蔓延しました」

「奇病?」

「……はい。それで巫女は……皆死にました」

 

 曰く。

 治療法も打つ手も無い文字通りの「奇病」だったという。

 巫女たちは皆、それぞれの形で苦しみ息絶えていったと少女は回想する。

 

「ンなッ……! マジかよ……」

「幸い私は国外で病を逃れていましたが……今、アルカナ王国で修業を終えている巫女は私しか居ません。だから、私がドラグハートを集めるしかないんです」

「……そうか。だから、影武者も使えねェ。姫様は行方不明になるしかなかったッて訳か」

 

 まだ煮え切らない所はあるが、咢斗はそれ以前に少女の抱えているものに絶句する。

 見た所、年端もいかないはずなのに、あまりにも背負っているものが大きすぎる。

 

「見も知らずの異国人の私を助けてくれた貴方に感謝してます。でも、私は大丈夫です。だから……」

「その話、俺様にも請け負わせろ」

「えッ……!?」

 

 彼女が言わんとしていることは何となく分かっていた。

 だが──放っておけなかった。

 

「……な、何でッ──貴方が私に付き合う道理はないですよねッ!?」

「仮にも契約をしちまッたンだ。途中で降りるのは筋が通らねェし、何より巻き込んだって思ってンなら最後まで責任以て俺様を暴れさせろ」

「暴れさせろって──危険なんですよッ!? 昨日の件で分かったでしょうッ!?」

「それにNEO東京は俺様の庭だ。都会に疎そうなあんたらに任せてたら、何百年掛かってもドラグハートなんて集まりゃしねェよ」

「そ、それは……」

「オマケに、あんなドラゴン共がウロウロしてたら安心して寝れやしねェ」

 

 それに──と言いかけて咢斗は止めた。

 親友の事を持ち出すと湿っぽくなりそうだったからだ。

 言葉は必要ない。

 少女は、姫様の事を「生きているかもしれない」と言った。

 国に背き、災厄を他所の国にばら撒いた姫様だったとしても、彼女にとってはどんなに大切な人かは想像に難くない。

 ならば、自分のように手遅れになる前に──どうにかしてやりたいと思ってしまうのはエゴだろうか、と自問する。

 

(いや、きっと俺様のエゴだ。でも……俺様みてーな思いする奴が出てくるのは、二度とゴメンだぜ──)

 

「……良いんですか?」

「嬢ちゃん一人に任せてたらどうなるか分かったモンじゃねーしな。大人にちったァ恰好付けさせろや」

 

 ギリギリ成人ではない咢斗は精一杯の見栄を張ってみせる。

 しかし、子供扱いされるのが気に食わないのか、少女はまた頬を膨らませてみせた。

 

「……子供じゃないです。嬢ちゃん呼びもやめてください」

「何で。確か、リィンフォースの姫様は確かまだ15歳……だろ? じゃああんたも──」

 

 確か琥珀に渡された資料にはそう書かれていたはずだ。

 まだ15歳。中学生。

 そして影武者である彼女も、同い年のはず──だったのだが、少女は唇を震わせ、キッと翠色の瞳で咢斗を睨みつけた。

 

 

 

「19!! 私は19ですッ!! 祖国では、お酒も飲めるし結婚も出来るし、何なら子供も……作れますッ!! 戒律で全部禁止ですけどッ!!」

「……え? エェェェェッ!? ……同い年(タメ)ェッ!?」

 

 

 

 マズい事になった、と咢斗は頭を抱える。

 相手がずっと年下だったならまだ良かった。

 相手は子供相手は子供相手は子供と暗示をかけることで手を出さずに済んだというのに。

 

(俺様、何時かどうかなっちまうんじゃ……手を出したら死、だし……)

 

「どうしたんですか?」

「あっ、いや、何でもねェ、そ、それじゃァ、なんて呼べばいいのかなッて……」

 

 邪な思考を振り払い、咢斗は咄嗟に思いついた質問を振る。

 結局、少女の名前は分からず仕舞いだった。

 

「呼び名? ……確かに。影武者様とか、姫様の名前でしか呼ばれた事は無かったです」

「待て待て。それじゃァパスポートは? 多分、偽名使ってンだろ?」

「ひ、飛行船の中に置いてきちゃって……でも、偽りの名(コードネーム)は毎回変わるので……結局、私に名前は無いんです」

 

 ……咢斗はふと思案した。

  

「影武者様って呼ぶわけにゃいかねェし──じゃァ俺様が付ける」

「付けるって……私の名前を? そんな別に良いのに」

「いいや、ちゃんと決めておかねェと呼び辛ェだろ。余計な手間かけるくらいなら、今此処で決める」

「名前……」

 

 しばらく考えた末、彼はポツリと呟く。

 しかしなかなかいい名前が思いつかない。

 

(うーん、ポチ、タマ、ミケ、クロ、犬と猫の名前しか付けた事ねーし……)

 

 星一つない黒い空を見上げた。

 そういえばあの日、少女は──火の球と共に空から降ってきた。

 ガイハートのカードと共に──

 

 

 

「銀河、宇宙(ソラ)……空……」

 

 

 

 ぽつり、と彼は呟く。

 

 

 

「──(ソラ)、空から降ってきたから(ソラ)とかどうだ?」

 

 

 

 少女はしばらくポカン、としていたが──しばらくして「何ですかソレ」とイタズラっ子のように笑った。

 必死で考えた名前なのに笑われた気がして、咢斗はそっぽを向いてしまう。

 

「うるせェ、ガマンしろやッ! 気に食わねェなら、自分で考えろ。どうせ……偽りの名(コードネーム)なんだからよッ」

「……ソラ……ふふっ、ソラ、か」

「ンだよ、嬉しそうじゃねェか」

「名前をこうやって付けて貰うの……初めてだから。何で私達には名前が無いんだろうッてずっと思ってたから。嬉しいんです」

 

 少女の微笑みを見て、咢斗は「巫女」の歪さを垣間見た気がした。

 アルカナ王国の戦士の契約者。

 しかし、そのためには個人の権利は全て剥奪され、名前さえも与えられない。

 ならばせめて、自分と一緒に居る時くらいは──決まった名前で呼んでやってもいいのではないか、と。

 

「……咢斗」

「?」

「俺様は咢斗。黒鉄咢斗、だ」

 

 少女が屈託のない笑みで伸ばしてきた手を、咢斗はそっと手に取る。

 その手はあまりにも華奢だった。

 一国の危機を背負うにはあまりにも──小さい。

 

 

 

「ハイッ、よろしくお願いします、契約者……アギト」

「あァ、せいぜい仲良くしようや──ソラ」

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