東方蓮咲譚   作:インドぱん

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春の雪

妖夢の助けもあった聖夜祭は無事に終わり、年も明け、4月。

旧暦の上で1月にあたるこの時期は、季節の始まり、つまり春が始まる月である。

春というと真っ先に思い浮かぶのは桜ではないだろうか。3月中頃から咲き始めるその花は、4月に入ると満開となり、花びらも散り始める。その花吹雪は見る人によれば、雪のように見えるかもしれない。

視界には白くきれいなものが降っているのが見える。しかし、部屋の窓から見えるそれは、雪のようなもの、ではなく雪そのものであった。

「春・・だよな?」

部屋の外を眺めながら蓮斗は、机を挟み反対にいるアリスに話しかけた。

眼鏡をかけ、毛糸を編んでいる彼女は、季節ごとの温度の変化を感じられない。もともとの体質ゆえのものらしいが、彼女は季節の変わり目にはよく博麗や霧雨のもとを訪れその服装からそれぞれの季節を感じる。

だがこの雪だ。彼女も温度の変化が表れていないことを視覚で判断できたのだろう。今年は神社に訪れていない。

「春なのかしら・・」

彼女もまた、窓に目を向け、ぽつりと呟いた。

 

 

~~~~

 

 

「よう霊夢。そこで氷の妖精をつかまえたぜ!」

ここは博麗神社。霊夢がいつものように炬燵にはいり、みかんを食べていたところ、腐れ縁である魔理沙が訪ねてきた。

「あー・・いらっしゃい魔理沙。ほんと妖精って油断するとどこにでも湧くんだから・・」

霊夢は彼女に正対せずに、みかんを食べながら答える。

「寒いから早く締めてくれる?・・」

霊夢は彼女が何を求めてここまで来たのか分かっていた。それゆえに、自分が彼女の求めることはしないと、態度で示す。

「むぅ~~!」

どうやらその態度がお気に召さなかったらしい。魔理沙はむくれ顔となってふすまの外を指さす。

「見ろよ、春だってのにこの雪景色!冬の妖精やら妖怪やら。いい加減認めろよ!これは異変だ!」

ふすまの外には春だというのに一面の雪。魔理沙はこれが異変であると断定し、異変解決に赴くことを要求しているのだ。

霊夢とて、この状況が異常であることは理解している。しかし・・

(めんどくさい・・)

極度の面倒くさがりかつ、寒がりである霊夢は炬燵から抜けようという意志さえわかなかった。

(何か言い逃れるすべは・・)

そう思い、霊夢は弁解を試みる。

「今年は春が遅いってだけ

「いいや!どこかに犯人の妖怪がいる!異変解決、妖怪退治が巫女の役目だろ!?」

(ちっ!)

こうなった魔理沙は何を言っても聞き入れてはくれないだろう。霊夢は魔理沙があきらめるまで無視を決め込むことにした。

しばらくすると我慢の限界に達した魔理沙が箒を持って外に飛び出した。

「ああそうかよ!それならこんな異変私だけで解決してやるよ!」

そういい、魔理沙は再び空にかけていく。

霊夢はその様子を目で追いながらみかんをまた口に入れるのであった。

 

 

 

 

~~~~

 

 

 

「そういえば、妖夢はどうしたの?」

アリスはふと作業をする手を止め、この前出会った友人について聞いてくる。

「このところあってないなあ。」

最後にあったのは正月であったか。その時も彼女の買い物の手伝いのために人里まで行っていた。

「なぜかいつもの三倍くらいの量の食料を買い込んでたんだよな。」

団子のような荷物を抱えていたことを思い出す。いつも彼女とはこの家の近くで別れているのだが、どうやってあの荷物を家まで運んでいるのだろうか。

「どっかで料亭でもやってるのかもな。」

あれだけの量を一世帯で消費しているとは考えづらい。大方、店に出す食料の買いためを行っていたのだろう。

となると彼女はこの春の雪を読んでいたわけだ。まあ不思議な話ではない。ここにきて日は浅いが、特異な能力を持った人妖はたくさん見てきた。天候を読むといった能力も当然あるだろう。

「あいつ、裁縫もうまかったし料理もうまそうだな。」

と、思案に暮れていると目の前からアリスが消えていることに気が付いた。

あたりを見回すとアリスは窓の外をジト目で見ている。

「どうしたんだ?」

アリスは無言で窓の外を指さす。彼女の指の先をたどってみると、アリスの家の敷地内できょろきょろとしている、見慣れた白黒の魔法使いを発見した。

 

 

 

 

「何やってんだ、霧雨?」

「おわっ!!」

俺が声をかけるとその魔法使い、霧雨魔理沙は大げさに飛び跳ねて振り返った。

「まさか盗みか?」

彼女の手癖の悪さは大図書館様から聞いている。そのうえこの挙動不審さ。怪しさはマックスである。

霧雨は手を振りながら答えた。

「違う違う。いくら私でもこんな何もないところで盗みを働く気はないぜ。って痛て!!」

「家主の目の前でよくそんな失礼なことが言えるわね」

霧雨の脳天にはアリスの鉄拳が落とされた。

 

このまま外で話を続けるわけにもいかず、とりあえず霧雨を家に招くこととなった。

「はいどうぞ。」

「おっサンキュー♪」

霧雨の前に紅茶が出される。霧雨にあんな態度をとりながら、それでも丁重にもてなすアリスは、やはり霧雨のことを大切に思っているのだろう。

霧雨曰く、アリスは彼女の魔法の師匠であるようだが、だとするとアリスは一体いくつなんだろう?

ふと浮かんだ疑問は隣からの冷たい視線によってさえぎられた。心を読まれたのだろうか。

「それで、どうしてここに来たの?」

アリスはもう一度霧雨のほうを向き、ことの顛末を訪ねた。

「あーそうだった。私は今、この春雪異変について知らべてるんだ。」

「春雪異変?」

霧雨の説明はこうだ。

現在起きている不可解な気象は妖怪の起こしたものであり、霧雨はそれについて調査しているということ。

紅魔館での情報や冬の妖精の分布から、この近くに異変の原因となったものがあるということ。

それを調べるためにここを訪れたということらしい。

霧雨の説明はもっともなものだったが、俺には一つ腑に落ちない点があった。

「異変なら博麗はどうした?」

妖怪が起こした異変ということならあの巫女が黙っているはずがない。その巫女がここに現れていないというのは不可解である。

俺がそう言うと霧雨はため息を吐きながら答えた。

「それが霊夢のやつがこれを異変だと認めないんだよ・・」

どうやら博麗は面倒くさがって出てこないらしい。いささか頭の痛くなるような回答だったが、アリスも同様だったようだ。こめかみに手を当ててうつむいた。

「まったく、あの子ったら・・」

普段の会話から霧雨や博麗は同年代のように見えるが、こういった反応からアリスは彼女らの母親に見えてくる。まあ、彼女に言ったら怒られるだろうが。

「それでアリス。ここに来たついでだ。空間魔法の探知をお願いできるか?」

霧雨は考えていても仕方がないと本題へと再び話を向ける。

「まあいいわ。それくらいやってあげる。けど、私あなたにこの魔法の使い方教えたでしょう?」

「使えるには使えるんだが、この魔法苦手だからなあ。」

「ちゃんと攻撃魔法以外も練習しなきゃダメよ。」

「へいへーい。」

アリスは霧雨と雑談しながら、魔方陣を組み立てる。数分もすると直径2メートルほどの魔方陣が光りはじめ、一筋の光が放たれた。

「どうやらあそこみたいね。」

アリスは光のさすほうを見つめながら言った。

「これほど違和感なくあれほどの次元のはざまを作っている相手よ。魔理沙、これは弾除けのお守り。分かっていると思うけど気を付けていきなさい。」

「もちろんだぜ!サンキューなアリス!」

アリスが霧雨を気遣う様子をほほえましく見つめていると、アリスは振り返り霧雨に渡したものと同じものを渡してきた。

「これは?」

「どうせあなたも行くんでしょ?だからこれを渡しておくわ。まあ気休めにもならないでしょうけど・・」

「そんな・・ありがとうアリス。」

アリスは俺が木刀を持ったことに気づいていたらしい。心配をかけないようにこっそりと出発するつもりだったが裏目だったか。

「おーい!蓮斗も行くなら早くしろよー!」

上空から霧雨の待ちくたびれた声が聞こえている。

「それじゃあ行ってくる。」

「ええ、行ってらっしゃい。」

そうして俺は次元のはざまへと出発した。

 

 

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