「それで、異変ってのは何なんだ?確かにこの空の色は変だが・・」
魔法の森の家に帰った俺は真っ先にアリスに聞いた。
「意味はそのままよ。けど幻想郷では基本、妖怪が環境に大きな影響をもたらしたときに使うわ。」
アリスは窓を開けながら続けた。
「さっき飛びながら調べてみたけど、あの霧、特定の光を完璧に遮るのよ。なんなのかしらね。」
彼女の話によると、空が赤いのは魔力のこもった霧のせいで、相当強い魔法使いによるものらしい。
だが、この霧自体は魔法使いに何もメリットがないようだ。
「それでさっき言ってた巫女様っていうのは何だ?」
俺はさっきから気になっていたことを聞いてみた。
すると彼女は驚いた顔をしてこちらを見てきた。
「あなた、ほんとに何も知らないのね。・・まあいいわ、幻想郷にはたくさんの強力な妖怪がいるの。その妖怪たちが好き勝手暴れないように治安を維持する人間の巫女、博麗の巫女っていうのがいるの。」
アリスが教えてくれた。どうやらここでは知ってて当たり前のことらしい。まあ許してほしい。忘れっぽいから。
ここでふと疑問がわいた。
「なあ、さっき人間の巫女って言ったよな。なんで人間なんだ?人間と妖怪なら妖怪のほうが強いだろ?それこそお前が行けばすぐに解決するんじゃないのか?」
するとアリスは心底つまらなそうな顔をしながら答えた。
「なんでそんなこと私がしなくちゃいけないのよ。大体、妖怪を退治するのは人間っていう決まりがあるでしょう。とにかくそんなめんどくさいのは嫌いなの。」
冷たいな・・まあ俺も何もする気がないから人のこと言えないんだけど。
まあ、そのうちその何タラの巫女っていうのが解決するだろ。
「ふあ~あ、暗いせいで眠くなっちった。アリス、ちょっと寝るわ。飯になったら呼んでくれ。」
「・・・・・」
アリスは黙って、言葉と裏腹に部屋から愛刀を取っていく俺を見ているだけだった。
~~~~
私が彼を見つけたのは、人形劇の帰り道だった。
魔法使いとして早30年、人間であった時は1日1日が魔法の研究で忙しく、退屈だと思ったことはあまり無かったのだが、歳をとらなく成ってからそうした新鮮味は無くなったように感じる。要するに私は刺激を求めていた。妖怪が多いこの道から帰っていたのもそれが理由だったにかもしれない。
申未の刻、鬼が一番活発となる時間帯であり、霧の湖の近くにも子鬼たちがいた。
さすがの私でも鬼と戯れるのは疲れるので、飛んで帰ろうと思った矢先、小鬼たちに押し倒されている見知った妖精たちを見つけた。
(はあ、あの子はまたちょっかいをかけたのかしら。)
鬼とかかわり合いになるのはごめんだが、さすがに知り合いをほっておくことはできないので面倒くさいが助けてやろうと思ったときだった。剣呑な空気であるのにかかわらず、コートに木刀というなんともちぐはぐな格好をした男が呑気に現れたのだ。
鬼たちもさすがに戸惑い、男を威嚇し始めた。だがしかし、男は自分が威嚇されているのにまったく気付いていないようで、あたかも近所の人であるかのように対応し始めたのだ。
(人間...よね?)
幻想郷には様々な種族がいるが、人間はその中でも最弱であるとよく言われる。対して鬼は持ち前の力で幻想郷を征服しかけたこともあるといわれ、名実とも最強の部類にはいる種族だ。
私が知っている中で鬼とまともに戦える人間は一人だけである。
つまり、私から出た結論は、
(あいつばかじゃねえの?)
もちろんそんな態度をとられて、怒らない鬼はいない。5人ほどいる小鬼の中で下っ端と思しき小鬼が男に殴りかかった。
(やばっ、あいつ殺される!)
しかし次の瞬間私の見た光景は、私の想像とは異なっていた。
ドコっ!そんな音が聞こえると道端に何かが倒れた。小鬼だった。
見れば男は先ほどまで背中にかけていた木刀を抜き、ふるっていた。
(嘘!?)
鬼たちも私同様に驚愕の表情を浮かべていたが、状況を理解するとその顔色は赤く変わっていった。
今度は、四人で同時に仕掛ける。その身体能力から生み出されるスピードは、人の見ることのできる速さを優に超えていた。
しかし、攻撃は当たらない。まるで鬼たちの拳が男を避けているかのようにみえる。
男の動きは決して速いわけではない。鬼たちの動きは視認できないことも多々あるが、奴の動きは私にでも見切ることができる。自分より速い相手の動きを見てよけることができるはずはない。
つまり、奴は動きを先読みしてよけているのだ。
だがここで疑問がふと湧く。
昔本で読んだことがある。相手の動きを完全に先読みできるようになるのには少なくとも50年かかるらしい。自分自身試したことがないので、本当なのかはわからないが、それでも先読みに途方もない経験が必要であることぐらいはわかる。
だが、目の前の男はどうか。見た感じ成人しているかしていないかくらいの身長で、顔にニキビも残っている。そんな奴にそれほどの経験があるとはとても思えない。
(先読みでないとすると・・・ただのあてずっぽう!?)
馬鹿な。そんな強運があってたまるか。博麗の巫女の子孫かなんかかよ。
私があーだこーだ考えているうちに、男はすべての鬼を伸してしまっていた。
と、そこまですると男も私に気づいたようで、こちらに寄ってきた。
そしてその男は申し訳なさそうな顔をしながらこんなことを宣ってきた。
「すみません。この人たちが起きたら、俺が謝っていたと伝えておいてくれませんか?自分の気まぐれのせいでこんなことになってしまったので。」
・・・は?
「あなた、戦闘狂なの?そこまでして鬼に喧嘩売りたいの?大体倒しておいてなんで謝るのよ・・」
すると、男は顔に疑問を浮かべながら返してきた。
「?なんで謝ったら戦うことになるんですか?」
・・幻想郷には常識に縛られないものが多いというがいくらなんでも縛られなさすぎではないだろうか。
私はそんな答えに呆れつつ、もう一つ気になっていたことを聞いてみた。
「あと気まぐれって何よ。あなたいつも気まぐれで妖怪を倒しているの?」
彼は恥ずかしそうに頭を掻きながら、こう答えた。
「ああ、それは、なんていうかその、ほんとはこんな喧嘩するつもりがなかったっていうか、そういうわけではないんだけど・・こんなこと言っても信じてもらえないかもしれないですが、実は俺、自分の意思がないんですよ。」
意思がない?
彼は続けていった。
「正確には、意思がないんじゃなくて自分が何がしたいのかわからないんです。」
彼の話によると、彼には四年前以前の記憶がほとんど残っていないらしい。四年前、彼が目覚めた時からなぜか彼の頭の中には複数の意識が存在していたという。
「今も、たくさんの意思が自分に呼び掛けています。例えばあなたと話せてうれしい、とか恥ずかしい、とか・・どれが自分の意思なのか、はたまた俺には最初から意思なんかなかったのか、自分でもわからないんです。ほんとは最初は泊めてもらえるか聞くつもりだったんですけど、そこで妖精が押しとされているのを見て、他の意志が強くなりこんな結果になってしまったんです。」
つまり、無性に人を殺したいという意志が強くなると、本当に殺してしまうかもしれないということだ。
・・なんとも信じがたい話だが、この幻想郷では何が起こってもおかしくない。だとすると本当なのかもしれない。
それにしても・・
「それにしてもどうして鬼の家に泊めてもらおうとしたのよ。」
それに対し彼は困った顔でこう返した。
「実はずっとここで長期滞在できるところを探していたんですけど・・この世界って男の人が本当に少ないじゃないですか。泊めてもらえそうなところがどこにもなくて・・」
だからって鬼に泊めてもらおうとするのは、こいつだけなのではないのだろうか。
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そのあと私は条件付きで彼を自分の家(の倉庫)で泊めてあげた。
私は別に男をホイホイ泊める軽い女ではない。断じてない。
彼の得体の知れなさの興味を惹かれてしまった。私の衝動的なものだ。
ただ、今でもつくづく思う・・
余計なことを考えている間にご飯ができてしまった。
「上海、アイツ起こしてきて。」
私が命令すると上海が元気よく出て行った。
けど、いつまでたってもアイツは来ない。
と、上海が何かを持って帰ってきた。書置きだった。
文面はこうだ。
ごめんアリス
ちょっと出かけたくなった。
明日の朝までには帰ってくるから。
ふぅ~ 思わずため息が出た。
「私を置いていったら暇つぶしにならないじゃない・・」
いまでもつくづく思う、本当に変な奴を泊めてしまったと。