「へえ、今のをよく避けたわね。」
「まあ、よけたり、逃げたりするのは得意なんでね。」
俺は大量の本の攻撃を、間一髪よけることに成功した。
俺の能力は相手に対峙していれば勝手に発動される。相手が自分から出てきたので、少し油断していたみたいだ。まさか本から攻撃されるとは。
彼女の眼を見ていなければ、今頃この世にはいなかっただろう。
しかし、今の攻撃で上空を取られてしまった。遠距離攻撃主体の相手にこれはまずい。
空から大量の弾が飛んでくる。赤、緑、黄などと毛もカラフルだ。思わず見とれそうにもなる。
そして、その密度はとても凶悪だ。本気で殺しに来ているのがよくわかる。
一応、俺も弾幕を張ることはできるが、基本近接攻撃主体の俺が魔法使いに遠距離攻撃で勝てるはずはない。
今のところよけられてはいるが、じり貧である。
「よけるのはうまいけど、弾幕勝負は全然のようね。」
「くっ」
何か、何かこの状況を打破する一手はないか?
俺に考える余裕を与える間もなく、弾幕の嵐が降り注ぐ。
~~~~
「あらあら。よけてばかりじゃどうにもならないわよ。」
勝気な笑みを浮かべてはいるが、その魔法使い、パチュリー・ノーレッジは眼下の人間に舌を巻いていた。
その身体能力、弾幕、そしてなによりまるで未来予知のような回避、どれもが人間のそれをはるかに凌いでいるからだ。
正直、最初の不意打ちをよけたとき、少しヒヤッとしてしまった。あの攻撃を避けた人間をパチュリーは一人しか知らない。
(まるで咲夜みたい。)
持っている武器こそ違うが、弾を撃った時すでにそこにいないような、時間をいじってこそできる回避能力は、彼女を彷彿とさせる。
(となると咲夜と同系統の能力か)
そうなると厄介だ。スペルカードのみ無駄に消費させられる。
だが、パチュリーは負けるとは微塵とも思わなかった。
いつか、咲夜にこんなことを聞いたことがある。
「私は通常の弾幕なら時を止めて避けられますけど、よける隙間もない弾幕となるとさすがに死にますね。」
当たり前のことを言っているようだが、こう言うのには訳がある。
現状、他人の撃った弾を消すのは、特殊な条件もしくはボムと呼ばれるものを使わなければならない。
そして、咲夜をはじめ多くの人間、および妖怪はボムを使うことができない。
私が知っているのは、今、こいつの他に紅魔館に来ている博麗の巫女と白黒の人間だけだ。
そしておそらくこの人間はボムを使えない。もし使えるのなら今制空権を持っている私に、状況を変えるために使ってくるだろう。
さて、よける隙間もない弾幕だがもちろん私一人では無理である。
しかし、私にはこの本たちがある。これを使えば、疑似的ではあるが、隙間ない弾幕を作れるだろう。
もう残っているスペカも少ない。これで決めてしまおう。
「賢者の石!」
呪文を唱えると、四方八方から弾幕が降り注ぐ。自分が作った中では最も強力な魔法だ。
見れば、男は観念したかのように弾幕の中心で木刀を担ぎ止まっている。
そして弾幕が男を包み込み消滅させる、はずだった。
「なっ!!」
あろうことか、その男は弾幕を木刀で叩き落し始めたのである。
(まさか、ボムを持っていたとでもいうの?いや、あれは違う。そんなんじゃない。おそらく・・)
パチュリーが考えている間にスペルカード「賢者の石」の持つすべての弾幕を打ち終えてしまった。
しかし、男は地に伏せていない。いや、怪我をしているかどうかも怪しい。
パチュリーの最高の魔法を使ってもその男を倒せなかったのである。
突然、男は話し始めた。
「陰陽術の応用か・・」
パチュリーはその言葉に今日一番の驚愕を覚えた。魔法使いでもないような人間に、自分の術について見破られたからである。
男は続ける。
「古来、日本で万物を生成すると信じられてきた五大要素、すなわち木、火、土、金、そして水。これらは単体では強い攻撃性を持つが、それぞれがそれぞれの攻撃性を打ち消しあってこの世にあるものを形づくっている、だったかな?
そしてその単体での攻撃性を利用して敵を攻撃する。それが陰陽術。だからそれを打ち消すにはそれぞれに対応する要素を当てさえすればいい。違うか?」
余裕そうな表情で見つめる男がパチュリーには憎たらしくて仕方ない。魔法を生み出すために生まれてきた種族である魔法使いが、たった数年しか生きていないような人間に自身の魔法を看破されたのである。魔法使いとしてのプライドが許すはずもない。
しかし、パチュリーはさっきの男の言葉に勝機を得た。
男に言うとおり、陰陽道では五つの要素で世界が成り立つと信じられてきた。
だが、パチュリーは長年の研究の末、新たに二つの要素を発見していたのだ。
それが、月と日。
未だ、それらの要素の単体の抽出には成功していないため「賢者の石」ほどの威力は出ないであろうが、それでも人間を倒すには十分な威力は出る。
「フフフ、わざわざご説明ありがとう。お礼に私もあなたにこんなことを教えてあげるわ。・・敵の前でわざわざ技の説明をするような奴には、とっくに死亡フラグがたってるのよ!!」
そして放つ
「ロイヤルダイヤモンドリング!!」
瞬間、部屋にまばゆい光がほとばしった。
この時パチュリーは頭に血が上っていた。
故に気づかなかったのであろう。男の足元が揺れていたことに。
あたりに煙が立ち込める。後で片付けるのが大変だとパチュリーはため息をついた。
ようやく煙が晴れていき、男の遺体を確かめるため地上に降りてみる。だが・・
(いない?)
おかしい。あの魔法は確かに強力だが、体を消滅させるほどの威力は出ないはずだ。
(まさか!?
パチュリーが焦燥にかられたとき、後ろから聞こえるはずのない声が聞こえた。
「ああ、俺もも一つ教えとく。そんな説明を何の目的もなくやる奴は演劇にしかいねえよ」
振り返った時には遅かった。
「未来永劫斬」
その声を最後にパチュリーの意識は暗転した。
~~~~
「危なかったな・・」
挑発に乗ってくれて助かった。あのまま続いていたらほぼ確実に負けていただろう。
蜃気楼による分身。師匠が教えてくれたとっておきの技だ。初めて使った。
それほどに強い相手だった。しかし、赤い空はまだ治らない。つまり主犯はほかにいるのだ。
そしておそらくそいつはこの魔法使いを超えてくる力を持っているだろう。
「死ぬ・・かもな」
だが彼は足を止めない。自分の死ぬ恐怖の意思より異変を止めたい意志の方が強いから。
その意思が善であることを信じて次のドアに手をかけた。
そこは食堂のようだった。そして・・
ガキン!!
すでに何者かが戦闘を開始しているようであった。
(巫女服・・そしてメイド服・・コスプレ大会か?)
一人は紅白の巫女服・・これはアリスの言っていた博麗の巫女という奴だろう。
そしてもう一方、これまた危ないメイド服(何が危ないかって?スカートの長さが、うん、まあ、ちょっとね・・)を着た少女だ。この館のメイドだろう。
この場は大丈夫だろう。そう思いつつもその戦いに見惚れてしまった。これがいけなかった。
何かの能力を使ったのだろう。メイド服の少女の目が赤くなった。
そしてその瞬間・・俺は意識を失った。
いや、自分の意思に奪われた。
彼の技名を見て彼が誰に師事していたのか分かった人もいるかもしれません。