時系列的には大覇星祭前。
主人公はにわかです。アニメ知識とネットで回ってくるような知識しか持ってません。
気が付くと、俺は大都会のど真ん中、人が犇めく駅前の歩道橋の路上で突っ立っていた。多分。陽射しや雨を避ける屋根にはモノレール乗り場を示す道案内の看板が吊り下がってたり、すぐ右へ顔を向けるとこの辺り一帯の地図が掲載された看板もあることから、恐らくそうであろうと推測したのだが、どうやらそれは当たりらしい。モノレールがホームに入ることを知らせるメロディが、背後の建物から聞こえてきた。
通路の脇に寄って、道行く人々――学生がとても多いな、殆どが学生服を着ている――を避けながら進んで歩道橋を降りると、それまで歩道橋の屋根に塞がれて一部を垣間見ることしか出来なかった街のその圧倒的な姿が露になり、俺はそれにとても驚いた。
全面ガラス張りのビル群は太陽の光を鬱陶しい程に反射し、こちらの目を容赦なく痛めつけるし、その隙間を縫うように飛ぶ飛行船からは、『大覇星祭』とかいう祭り?が開催予定だのということを気嚢部分にあるモニターを伴って甲高いスピーカーから告知している。
都会とはこうもけたたましく、眩しいものなのか。
さて、と。と、心の中で区切りをつけながら、俺は今しがた自分の置かれた状況について整理し始める。
さっきまで、俺――
バス停から自宅までも少し道があり、歩道もない山道を歩いて登っていくことになる。
自動車免許? 言ってなかったが、まだ高校生なんだわ、勘弁してくれ。
とにかく、俺はさっきまで学校からの帰りで、雨に濡れた道路の上を歩いていた。買い物バッグの中身は夕飯だ。ついでに買ってきた。
――――だが、そこから俺は家に帰り着くことは、無かった。
クラクションの音に気付いて、後ろを振り返ったら、ライトバンを光らせた車が眼前まで迫っていた。そこから先の記憶は欠落し、気が付けば雲の上にいた。
雲の上は雲の上だ。まあ、あれだ、通俗的に言えば天国って奴だったのかもな。真っ白い煙に包まれた世界で、自分以外がとてもぼんやりしている世界だった。
それはともかく、最期に見た白い車を思い返しながら「ああ、死んだんだな」って思ってると、急に神を自称する老爺が現れて、
「あれは自分のミスじゃった。お詫びとして別の世界へ行かせる権利をあげよう」
とか謝ってきて、懐から帳簿を取り出してきた。
そこからは流されるままに行き先だとか転生特典だとか、なんだか最近流行っているんですなとか、そんな話をしているうちに、この
『とある魔術の禁書目録』
の世界へ来てしまった。
ごく簡潔に言ってしまえば、
死んだ。
神様に出会った。
転移した。
という具合である。
そうそう、よくある特典だとかはおいおい話すとしよう。
そしてここはこの物語における二大勢力のうちの一つである科学サイドの『学園都市』である。
人口230万人の大都市で、総人口の8割を学生が占めている、常に世界の最先端を行き、学園都市とその周りの技術革新は十年以上もの差があるという。
学園都市中の実験のシュミレーションの傍ら一週間分の天気を正確に予測するバケモノコンピュータ『
そして学園都市の特徴で特筆すべきは、『超能力』の開発が行われていることだ。
学園都市に在住する学生を中心にそれは施されるそれは、脳にある『
種類以外にも
超能力者はとても貴重で、学園都市内の様々な企業・機関から様々な優遇措置が取られることもある。そのため、生徒は各人日々パーソナルリアリティを拡充するために努力しているのだ。
……現実を言っちゃえば、素養格付なんてものがあるわけだが……。
それで俺の能力なのだが、と言おうと思ったところで、彼はふっとあることに気付いた。
…………ちょっと待て。
悠長に学園都市について語っている場合ではなかった。
安易に決めちまったけど禁書目録の世界って、とんでもなく一触即発の、超危険な世界だよな!?
巻を折ってくごとに科学サイドも対を成す魔術サイドも能力がインフレしてくし、というかそもそも陣営内ですら血みどろの抗争が繰り広げられてるし、最終的に時空を破壊してくる奴らも出てくるらしいし、風呂敷が包まれては広がっていくし、
その後は戦争用に軍事開発が進んでもうエ〇ァの空白の14年みたいなことになってるもうわけがわからないよ。アレイスターさんはお亡くなりになるらしいけど、まだ創約もあるしなぁ……。
神様が教えてくれた俺の異能『
先程の飛行船から、今が大覇星祭前……つまり、
この後のスケジュールはジャッジメント事件簿に雷神御坂、前方のナンタラに木原神拳あたりだっけ?超電磁砲はアニメ見てたからなんとなく分かるけど、禁書目録については完全ににわかだから分かんないや……。新約突入してないのが幸いといったところか。
俺はこの先何があるか頭の中を探りながら歩を進めていたが、やがてその足を止めた。
――――考えるのやーめた。
俺は、とりあえず好き勝手に生きる! ベツレヘムとか魔人とか知ったことか!
大抵のことは主人公の上条さんが上手くやってくれる、下手に突っ込んで地球が蒸発でもしたら困るし。
あとはアレイスターさんに見つからないように慎ましく生きる、以上。転移した余波でバレてるかしれんが、その場合はもうどうしようもない。なるようになるしかならん。
そう考えてしばらく歩いていたらだいぶ気が楽になったので、とりあえず近くの公園に寄って、自販機で缶ジュースでも買うことにした。
そういえば、飲み物に関しても実験目的でよく分からない味の飲み物が陳列されているんだっけ。『いちごおでん』とか『ヤシの実サイダー』とか。一方通行が愛飲しているブラックコーヒー以外、まともな飲み物は存在しないと聞く。
え? 三ツ〇サイダーとかカル〇スソーダとかないの? それは結構まずい気がする。最悪ミネラルウォーターで我慢する可能性もある。学園都市の外にはあるかもしれないけど、そもそも学園都市から外に出ること自体難しいもんなぁ……。自分の異能だったら難しくもないかもしれないけれど。
階段を降りてすぐの場所にある自販機の前で対峙する俺。外観は至って普通の、赤く塗装された鉄の装甲で覆われた自販機だ。ついでに言えば、すぐ側には空き缶を捨てるゴミ箱さえある。
元の世界とほぼ変わらぬそれ。だが、やはり問題は陳列内容であった。
『ガラナ青汁』
『きな粉練乳』
『黒豆サイダー』
『ハバネロパイナップルジュース』
…………。
一体何なんだ、これは。美味しい、のか!? いや、そもそもの話だ、とあるのキャラと我々では味覚が根本的に違うという可能性もある。
能力開発を受けたもの達は味覚障害が出て、これらの飲料は実は規定されたレベルまでの上昇を助けるための特殊栄養剤……?
いや、そういうことを考えるのはやめよう、学園都市は何が行われていてもおかしくはないのだから。
しかし、百聞は一見にしかず、とりあえず購入して飲んでみなければどういう味かは分からない。
俺は肩掛けカバンから財布をまさぐり、それを取り出す。これらは初期装備として渡されたものだ。先程調べたところ、中には財布や筆記用具、学園都市製のデバイス、身分証明書等必要最低限のものらしきものが入っていた。あとは自宅への道筋を書いたメモ用紙が一枚。家なし一文無しスキルアウトにはならないらしい。よかった。
そして財布の中身は、一万円札が一枚。いや、自宅とかも用意してくれたのに少ないな。あれか、『お前はチート能力持ってんだからさっさと暗部にでも接触して稼いで来い』ってことなのか?
……いや、そこまでは考えすぎか。身分証明書もあることだし、ちびちびコンビニでバイトしながら小銭を稼ぐことだって出来る。
そんなことを考えながら、俺はお札を紙幣を入れる。
無難にヤシの実サイダーでも買おうかな。
ウィーン。
……。
…………。
………………。
……………………ん?
紙幣を中に入れたのだが、その後全く持って反応がない。ボタンの部分にランプが点るはずなのだが。俺は紙幣を入れる入り口を見る。中に入ってる。
そうだ、紙幣の読み取りが上手く行かなかったのかな?そう思って俺はお金の返却レバーを引いてみる。
くいっ。
…………。
くいっ。
…………。
くいっ。
…………。
――――ちょっと待て。
これってあの『お札を呑み込む自販機』じゃないか!?
『お札を呑み込む自販機』
その名の通り、紙幣挿入口にお札を入れても何も反応せずに、お札を盗む、魔の自販機。
喉が渇いた上条さんのなけなしの二千円札を飲み込んで彼を絶望の淵へ追い込み、よく御坂美琴に側面を蹴られている
そして今、俺の全財産を掠め取った張本人、ということになる。
ま、ま、まさかコイツがあの魔の自販機だったというのか。確かに周りの風景を見ても、ここがどう見ても
油断大敵、一寸先は闇とは言ったものか。まさかこんなところに落とし穴があるとは思いもしなかった。
「あれ……ま、まさかアンタ!?」
項垂れていた俺だったが、不意に後ろから声がしたことに気付いて立ち上がる。
「え?」
「ねえ、貴方、お札呑まれたの?」
そこにいたのは、かのお嬢様学校『常盤台中学』の制服を着た茶髪の少女。
御坂美琴だった。
ちょっと待て。
何故御坂美琴がここにいる!?
学園都市が誇るレベル5の第三位、上条さんのメインヒロイン『
必死に脳を回転させながら、俺は平静を装って目の前にいる御坂美琴(
「えっと、ごめんなさい。どちら様ですか?」
「私は御坂美琴よ。常盤台中学の二年生」
「あ、確か常盤台の超電磁砲と呼ばれている、あの」
「まあ、そうね。そんなにかしこまらなくてもいいわ」
「それでは。俺は真珠渡だ。。……それで、飲まれた、とは?」
「アンタ、あの自販機の中に紙幣入れたでしょ?あれ、お札帰って来ないのよ」
「……ああ、そういうことか。それを『飲まれる』って言うわけか。いやいや、俺もその噂を聞いて来たんだけどね、まさか本当に持っていかれるとは思わなかったよ」
「で、貴方、いくら飲まれたのよ?」
御坂美琴がずいずい顔を寄せて聞いてくる。
お前本当に哀れんでいるのか。目が凄いキラキラしてるぞ。
「え、ああ…………、一万円、持ってかれました」
「一万円!? アンタ、それ大丈夫なわけ!?」
「まあ、お金は適当にあるから、大丈夫だろう」
嘘です、あれで全財産です。
「あー、あとね、噂だと自販機を蹴って中にある飲料を取り出してる少女がいるらしいんだよ。御坂さんは何か知ってる?」
「えっ!? えー、えーっと…………私は、知らない、ですね……」
嘘つけ、張本人。
「実はね、その人からその飲料の取り出し方を教わりたいと思っていてね。まあ、その子みたいに悪用するつもりはないんだけど、何か役に立つかもしれないんじゃなかな」「はぁ……」
(しまった! これじゃあもう私だって名乗り出せないじゃない!さっさと蹴って中身貰っていくべきだったわ)
「分かった。ありがとう、御坂さん。それでは」
あまり彼女と関わりたくない。御坂美琴はさっさと上条さんと結ばれてしまえ。
そう思いながらこの場を退散しようと思ったその時だった。
「あーっ、あーっ!! そ、そーいえばネットに自販機の蹴り方が書いてあったの思い出したー!」
いきなりこちらに聞こえるような大声を出す御坂。
いやいや、めっちゃ白々しいな!
「え、そうなのか?」
「私もやったことはないけど、多分出来ると思うわ」
「ならやり方を教えてくれないか?」
「分かったわ。離れてなさい」
俺は数歩だけ後ずさって御坂の様子を見る。凄いな、やる気満タンじゃないか。
……というか、そんなに自販機蹴りたかったのか。
御坂は何回か小刻みにジャンプして身体をゆすり、衝撃に備える。
そして。
「……チェイサーッッッ!!」
衝撃音。
身体の回転と共に勢いをつけた、渾身の蹴りが炸裂する。
そしてその一撃は鋼鉄の箱の右脇腹(?)に見事に直撃した。
これには幾人ものお金を飲み込んだ自動販売機も耐えられず、遂にその取り出し口に一つの缶を吐き出した。
御坂は勢いよくガッツポーズをする。
「よし!」
はえー。すぐ側で見るこの奥義は、とても迫力があった。流石エレクトロマスター、流石御坂美琴とは言ったものか。そのしなやかな身体から繰り出される脚技は、恐らく人に向けていいものではない。ありゃレールガン以上の威力を持っていると言っても過言ではないだろう。
……余談だが、俺は断じてMではない。ただ感じたことをそのまま口に出しただけだからな!
「どう? 参考になった?」
「めっちゃ参考になったわ。ありがとな」
「コツとかあるけど、聞かなくていい?」
「コツなんてあるのか?」
「あるわよ。そうね、足の動かし方とか、言い出したらひっきりなしに」
「そら弟子入りを所望したいな」
「生憎私は忙しいのよ。無理だわ」
さっきから自分が自販機蹴り魔だと赤裸々に告白してるんだけど、それはいいのか。
「ま、今度お金飲まれたら試してみることね」
取り出し口に落ちたいちごおでんを口にしながら、にかっと笑う御坂。最終的に勧誘までしてるよ。もう一度言うけど、それでいいのかレベル5。
……それにしてもこの先、彼女に苦しい出来事が幾つも待っていると考えると、少し胸が痛くなる。助けてやりたい……とは思うが、それは俺の役目ではない。
「今日はありがとう、御坂さん。貴重なことを教わった」
「どういたしまして……って、私!」
いや今気付いたか。
「気付くのが遅せぇよ」
「アンタ、最初から知ってたの?」
「お札を呑み込む自販機に執着する人間なんざ、自販機からタダで飲み物出せる奴だけだ」
「〜〜〜!!」
アハハ、耳まで真っ赤にしてやがる。
しかし、そんな時間も足早に過ぎ去っていく。日は西へ傾き、最終下校時刻が迫る。
とりあえず自宅に戻って休息をとりたいし、色々と調べたいこともある。主に求人。
「もう時間か。それじゃあな」
俺は御坂の横を通って、この場を去る。
それにしても、最初はどうなるかと思ったけど、何とかなって良かった。本当に御坂美琴って奴は可愛いもんだな。
「木原幻生には、気を付けとけ」
「!? どういうこと? 木原幻生って一体……」
御坂美琴の声を最後まで聞く前に、俺はワープゲートを作り、その中へ消えることにした。
……さてと。御坂はもういないよな。
俺は目の前に作ったワープゲートを覗いて周りを見回し、周囲に誰もいないことを確かめる。
もう外は真っ暗で、街灯が自販機を照らしているのみ。最終下校時刻も過ぎてるから、普通だったら誰もいない。
よーし。
俺の異能『
メインはワープゲートの方なんだけどなぁ……。
そして現在、このワープゲートを使ってあの自販機の側面と自宅を繋いでいる。
何故かって?
俺もやるんだよ、自販機蹴り。
アイツには全財産かっ攫われて煮え湯を飲まされているからな。流石に一発返さないと気が済まないのだ。
俺はワープゲートの目の前、つまり自販機の前に立ち、構える。
そして、次元断裂によって、一部の脳細胞の接続を切る。つまり――リミッター解除。
「チェストォォォォッッッッ!!!!」
俺は雄叫びと共に、右足を自販機側面に蹴りつける!!
大きな手応え。確実に当たったと俺は確信した。
バァンッ!
ズドォォォン!!!
轟音が鳴り響き、俺は顔を上げる。この威力ならば、流石に一個や二個くらい落としてくれるんじゃなかろうか。さて、取り出し口にジュースは……。
ん?
目の前の取り出し口に手を伸ばそうと思ったが、取り出し口にジュースは無かった。
というか、そもそも
あれ、自販機はどこに。
そう思いながらワープゲートから身を乗り出して左右を見回す。
そして、左側を見た時に俺の顔は青ざめた。
右側が大きく窪んでひしゃげた鉄塊。それは、大穴が空いたコンクリートの石垣の中心に倒れていた。そして、その鉄塊からは幾つもの缶が転がって、いくつかは中からおぞましくも見える液体を零している。
ヤバい。
俺は一言、そう思ったと同時に密かにワープゲートを閉める。
残ったものといえば、嘗てお札を吸い込む魔の自販機と呼ばれていた残骸だけが転がっているのみだった……。
続かない。