猫の王   作:にゃんにゃん

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第1話

 

 

 

 暗闇の中でカタカタとキーボードを打つ男がいた。その男の顔は複雑な表情で歪められており何度もキーボードを打つ手が止まっていた。

 

「クソ……! おもいつかない」

 

 今の男の現状を語るのは難しいことではない。彼は休暇を使って二次創作小説投稿サイトに投稿する二次創作小説を作っている最中である。

 

 HUNTER×HUNTERという漫画がある。その漫画の面白さに魅入られた彼は、初めて湧いた創作意欲をどうにかして昇華しようと躍起になっていた。しかし初心者故の問題を解決出来ないでいた。

 

 時系列の矛盾。

 彼はHUNTER×HUNTER内で登場するキャラクターを主人公に据えて二次創作に挑戦するが、壁にぶち当たる。そのキャラクターが生まれるのがHUNTER×HUNTER原作の中盤なのだ。彼は原作序盤からそのキャラクターを主人公組と行動させたいと考えていたが、如何も解決案が見出せない。

 

 彼は創作意欲こそ湧いて今執筆に勤しんでいるが、この様な行動を取ること事態が初の試みである。つまり書き物はそこまで得意ではなく、だからこそ下地のある原作に沿いたい気持ちがあった。そもそも原作から離れすぎるとオリキャラばかり出さなきゃいけなくなる。彼は主人公の周りがオリキャラばかりというのが好きではなかった。

 

 そうやって如何しようか考えていた時だ。パソコンの画面が突如光り辺りを光量が包んだ。男は思わず目を閉じる。暫くして男が目を開くと其処に老人がいた。スパッツに白Tシャツと中々攻めた服装をしている。Tシャツには『神』とプリントされていた。

 

「神として助言を与えよう……」

 

 いきなり何か言い始めた。

 

「お主は二次創作で抱える時系列の矛盾点をどうにかしたいと悩んでおる。

 …………なるほど、生後数ヶ月銀髪猫耳球体関節少女ネフェルピトーを修行させることで超強化し俺tueeeしたいんじゃな」

 

 ドンピシャである。何故考えを読めたのか問いただしたくなったが、もしかして本当に神様なのであろうか。

 

 ネフェルピトーとはHUNTER×HUNTERの19巻で登場する敵キャラの幹部の一人である。生後数ヶ月銀髪猫耳球体関節少女は主人公にぎっちょんぎっちょんに殺されてしまうこともあって、人気キャラクターの一人である。コイツは多くの少年に母性とケモナーとリョナの性癖を植え付けたのだ。

 

「然しネフェルピトーは王の護衛軍の一人。キメラアント側につく時点で人類との敵対は必至。

 しかも生後数ヶ月だから主人公組のハンター試験ではそもそも生まれておらん」

 

 その通りで、男が今ぶち当たっている問題はそれであった。ネフェルピトーを主人公に据えるならば人類と戦争するのは不可避なのだ。男はそんな重い題材を扱いたいわけではない。強くて可愛い女の子が勧善懲悪する水戸黄門的な話を書きたいのだ。

 

「発想が固い。…………古今東西にそれを解決する方法はあるというのに」

 

 そんな馬鹿な。あり得ないと男は断じた。

 

「…………神様転生しちゃえよ」

 

 天啓が走る。そうか、その通りだ。

 時系列の矛盾を解決するには、そのまま超越した存在の介入を許せばいいのだ。二次創作に神様転生は溢れているし、大体はそんなチンケな矛盾を吹き飛ばしてくれる。fateの能力をどんな原作内でも扱えるのと一緒だ。神様とは都合のいい存在なのだ。

 

「ネフェルピトーの身体をオリ主が動かす憑依転生でHUNTER×HUNTERの過去世界に設置する。そしたらオリジナルのネフェルピトーと被らんし、何故其処にと理由をくっつけなくても良い。

 神様転生は作者の便利な道具なのじゃ」

 

 と自称神様が仰っている。だがそれは本当にネフェルピトーなのか。神様転生で肉体的にはネフェルピトーだとしても精神がオリ主なのはネフェルピトーと呼べるのか。

 

「本物になろうとする意思があれば良いのじゃ。

 本物になろうとする意志があるだけ、偽物の方が本物より本物なのじゃよ」

 

 なんか語り始めた。聞いたことある言葉だが、ちょっと良いこと言ってますよ風にドヤ顔で諭されたのはムカついた。でも偽物じゃんと返すとグヌヌと自称神は歯軋りをした。

 

「何ならこれはどうじゃ? 

 原作知識を持ったネフェルピトーをキメラアントの使命を持たずに原作前に生まれ落ちさせる」

 

 ……悪くはないが成長以前のネフェルピトーは凶暴でハッキリ言って人類と敵対する魔獣に登録されてもおかしくない。いきなり人類と仲良くするイメージが浮かばないので却下だ。

 

「めんどくせ」

 

 そう言わないで欲しい。こっちも考えているのだから。

 

「もうお前がネフェルピトーになっちゃえよ」

 

 ……それはどういうことだろうか? 言っている意味がよくわからない。そしてやっと男は違和感に気づく。当たり前のことだが男は誰と喋っているのだ。先ほどまで男は自宅内で小説のプロットを組み合わせていて……。では目の前にいる老人は誰だ? 男が言葉を話さずとも会話が成立する不可思議な力を持つこの老人は──。

 

「神様じゃよ。ほいなら、これ以上神様転生の儀に文字数さくのもアレなんでネフェルピトーに転生しましょうね──」

 

 

 そして男は意識を失った。

 

 

 

「…………流石に可哀想だから言語特典だけはつけてってと。…………この作品は銀髪猫耳球体関節TS憑依オリ主が俺tueeeする話じゃ。

 何か合わなさそうだなと思ったらここで引き返すことじゃな」

 

 

 

 

 

 

 パチクリと目を開ける。俺はベンチを寝具にして仰向けに寝ていた。何処だここは? 周りを見渡すとポツポツと人影が見える。遠くに看板があったのでそれを読むとシメジ中央公園と書かれていた。見たことない記憶にない場所だ。看板の横には時計台があり時刻は朝6時を指している。

 

 

 意識がちゃんと覚醒したことで今置かれている状況を再確認する。俺は確か自室で二次創作を書いていて、突如光に包まれたかと思うと何か変な老人が現れて、老人が言いたいこと言って気を失って、そして今公園にいる。老人は最後に変なことを言っていたな。アレは確か──。

 

 ネフェルピトーに転生しましょうね──

 

「……嘘だろ」

 

 疑問を浮かべた言葉が自分の声でないものと気付く。確かに声帯を震わせて喋ったのに、俺の、男の声ではない。少しずつ予感する事態、恐る恐る自分の手を見る。障がいを持つ人はその限りではないが、人間の指は基本五つだ。然し自分の手に指は四つしかついていなかった。それも不格好に一本少ないのではなく、初めから四本指ですという様に自然についている。

 

 脳裏に過ぎる予感は確信に迫っていた。だが、まだ確かめてないことがある。近くに公衆便所があったので男子トイレの方に駆け込む。鏡があったので自身の姿を確認してみると、鏡に写っているのは俺じゃなかった。俺じゃないが見たことはあった。確信の通りだった。

 

「ネフェルピトー……」

 

 銀髪。

 猫耳。

 球体関節。

 少女。

 

 俺はネフェルピトーになっていた。紛れもない事実にショックを受ける。ネフェルピトーの姿をした俺は上下黒のジャージと猫耳を隠すためかキャップを被っていた。身体を弄ると尻尾もあった。間違いなく人間ではない。

 

「おいお嬢ちゃん。ここは男子トイレだぜ」

 

 成人男性が俺の姿を見て咎める。何故ネフェルピトーを見て女性と決めつけたのか疑問に思ったがすぐに解決する。胸がジャージ越しからでもわかる程度に盛り上がっているのだ。それを見て成人男性は俺のことを女性と判断したのだろう。

 

「ねえ、おじさん。ここは何処か聞いてもいい?」

「男子トイレ」

「違う! この場所! この国!」

「……変なこと聞く嬢ちゃんだな。此処はサヘルタ合衆国のヨークシンシティ。なんだ、嬢ちゃん記憶喪失かい?」

 

 

「………………おーまいが」

 

 ふぁっきゅーごっと。

 ここはHUNTER×HUNTERの世界で、俺はネフェルピトーに憑依したってか。

 

 

 

 

 シメジ中央公園から出て行く宛てもなくストリートを歩く。辺りは薄暗くも人は多い。そりゃそうかニューヨークをモデルにしたのがヨークシンと言われてるのだ、活気があるに決まってる。俺は4本指が他人から見られないようにポッケに手を入れるとポッケの違和感に気付く。ズボンのポッケの中には3枚の紙幣とメモが入っていた。

 

『初期費用 3万ジェニー。 後は自分で。 by神様』

 

 ハンター文字で書かれたメモの内容を何故か読み取ることが出来た。だがその理由を追求する気分にもなれず、メモ用紙はくしゃくしゃにして道路に投げ捨てた。この世界に誰も知り合いはいないし咎める者もいない。

 

 俺は死んだのか? 生きているのか? そこのとこが分からない。普通、手違いで俺を殺して転生させるんじゃないのか。俺、死んでなくねーか。アイツいきなり現れて俺をこんなにしやがった。

 

 然しそこまで落ち込んでない自分がいる。可笑しくはない。元々俺は生きていても仕方がないダメな人間だった。会社では隅っこで息を潜めて仕事をしていた。リアルでの生の執着は既になかった。俺は夢を掴み取るだけの才能が無かった。何の才能かって言われたら、子供の頃に憧れたスポーツ選手や宇宙飛行士なんかの才能だ。才能を持って努力した奴らの一握りが至れる夢に、どうして凡人の俺が目指そうと思えるのか。学生のころから諦め癖は既についてた。

 

 専ら青春をフィクションに注いだ。他人が描く妄想を共有することが出来るこのコンテンツは俺にとって救いだった。もしこの世界に生まれていたらなんて一度は誰しも考えることだろう。

 

 それが現実に自分の身に起こった、ただそれだけのこと。このネフェルピトーの肉体は才能の塊だ。人の限界を優に超えた人の形をした怪物、それが亜人型キメラアント。その肉体を俺が自由に扱える快楽。俺が書こうとしてた美少女俺tueeeは俺が成せばいい、そういう妄想をしていたのだから。

 

「悲観することじゃない…………ニャ?」

 

 誰にも聞かれぬよう小声で猫っぽく語尾にニャとつけてみた。ネフェルピトーと言えば僕っ子でにゃんにゃん言葉が有名だが余りしっくりは来ない。原作のネフェルピトーもシリアスな場面と日常パターンで使い分けていたし、自分のキャラ付けとかはとにかく後にするべきか。

 

間違いなく気分は浮ついている。足取りがフワフワしていて未だに現実味を帯びていない。落ち着け、落ち着く為に自分は休める場所を求めることにした。先ずは今晩の宿が先決だ。宿を決めてから行動指針を考えることにしよう。

 

 ……クッソ高いな、流石ヨークシンシティ。3万ジェニーあれば安い宿で数泊出来ると考えていたが、とにかく物価が高い。一番安い宿一泊で2万ジェニーはする、今持っている全財産を潰したくないので躊躇った挙句泊まることはしなかった。結局宿にしたのは前世でいうネカフェみたいなとこ。ベットスペースもないがリクライニングソファが有り、ネット雑誌使い放題で12時間使用9800ジェニー。シャワー料金は別だ。

 

 俺はこの身体を改めて確認するために今度は女子トイレに忍び込んだ。忍び込んだは語弊か、精神的には男だが今の肉体は女っぽいから堂々と入室した。

 

 ネフェルピトーの肉体は原作では性別不明とされていた、新作アニメでは女性。登場当初の見た目こそ中性的な容姿だったが物語が進むにつれ美少女化していった。ネットでは女だ男だ論争が偶に勃発しているが、主流の意見は女性で、男だと言っている連中も、男の方が萌えるからと下劣極まりない理由だった。男であるちゃんとした理由に、本来のキメラアントは女王以外全員雄であるからというのもあった。少数意見にどうせリョナられるんだから意味無くねという奴らもいた。そいつらは殺された。

 

 個室トイレに入ってジャージとキャップを脱ぐ。下着はつけてなく直でジャージを履いていた状態だった。個室トイレは狭く鏡もないのでペタペタ手で触って確認するしかない。全身を触り終わって大体の事はわかった。先ず、ネフェルピトーの肉体は雌だ。これは男性の生殖器がついてなく女性の生殖器がついてたから間違いないだろう。主に人間と違う部分は手と耳と尻尾と脚関節全体だろうか。全体の肌触り自体は人間の皮膚かと問われたら首を傾げるが、確かに温かみは感じるし、誤魔化しは出来るだろう。だが、手と耳と尻尾と脚関節は明確に人間と異なる。手は4本指だし尻尾と耳は生えていて、膝辺りは外骨格かってぐらい硬い。やっぱ人型キメラアントなだけあって、俺を人間だと主張するのは無理がある。

 

他にも検証すべき事は残っているが、ネカフェの中でやることではない。

 

 席に戻ってパソコンを開き電脳ページにアクセスする。

この世界の言語はハンター文字と言ってHUNTER×HUNTER熟練のファンなら解読出来るが俺は覚えてはいなかった(覚えてるやつらはハッキリ言ってキモい)。けれど覚えてはいないはずなのにハンター文字を読める。ここで気づいたがこれも神様転生あるあるの言語特典とか何とかなのか。

 

「今日の日付は……1998年10月29日」

 

 ……確か原作開始時点も1998年だったような気がする。何か原作知識を活かせる情報がないかと頭を捻らせば、『ザバン市』という単語が浮かんで来た。原作一巻で登場するハンター試験がザバン市で開催される。毎年試験会場は変更する為、試験会場がザバン市ならば原作開始と同時に自分はこの世界に放り込まれたことになる。

今年度の試験会場は……ビンゴ、ザバン市だ。

 

 次に魔獣や亜人のwikiに飛ぶ。ネフェルピトーを解析すればキメラアントと診断されるだろうが、見た目で判断するなら完璧に人型で言葉を話す魔獣に分類されるだろう。魔獣や亜人がこの世界でどんな立ち位置にいるか俺は知らない。次に気になるのが魔獣の立場だった。

 

 

 魔獣

 人語を操れる獣を総称して魔獣と呼ぶ。人間と近い知能を持つため友好を築くことは可能。獣よりも人に近い姿の魔獣を亜人と呼ぶこともある。人と同じく性格も十人十色で、「いい魔獣」もいるし「悪い魔獣」もいる。世界にある国の2割が魔獣に人権を持たせていて、一部の魔獣は人間と共に生活をしている。尚、国際的に活動しているハンター協会では魔獣もハンター試験を受けることが可能。今までに数人の魔獣・亜人がプロライセンスを所持している。

 詳細は……

 

 

 

 原作で案内人を務めていた凶狸狐も居たからそこまで悲観しなかったが、なるほど。……国際人民データ機構に登録されている一部の魔獣は人権を有しているが、他の魔獣は人間とは違う扱いなのか。喋る分、もちろんただの獣と扱いは違うようだけど。

 

 今、自分が必要としているのは金と身分だ。衣食住の問題を解決するにはまず金、そしてその金を自由に扱える身分。その両方の問題を解決する方法を俺は知っていた。ハンターになることだ。

 

 魔獣・亜人でもハンターに応募することは可能と書いてある。つまりハンターになれと。ハンターライセンスは殆どの公共機関をただで扱うことが出来、身分証の代わりにもなる。プロのハンターになれば大抵は金に困らない。

 

「ま、HUNTER×HUNTERの世界来てハンターにならないのはちょっと」

 

 せっかくネフェルピトーの肉体を手に入れたんだ。この才能を有効活用しないわけにはいかないだろう。ハンター試験は電脳ページで応募が可能なので、早速応募した。参加費用は2万ジェニー。初日にして3万ジェニー近く使っちゃったな。

 

 そんな愚痴を溢しても仕方ないと思いつつ、俺はハンター試験に挑む為に電脳ページでハンター試験の情報を集めるのであった。

 

 

 

 

 




感想乞食
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