東方呉爾羅伝   作:2147483647の塊

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初投稿です。至らぬ点もあるかと思いますが、ご了承いただければ幸いです。


godzilla in to hell

此処は八大地獄の第八、最下層に当たる阿鼻、又の名は無間地獄。

 

此処では、最も罪の深い者に地獄中最も苦しく苛酷な責め苦がほぼ永劫に渡り課せられ続ける。

 

地上には存在し得ないほどの高温の炎熱が罪人を焼き尽くし、人間より遥かに屈強な獄卒がその腕力を持って責め苦を与え、蛇や鴉が体の至る所を貪り、聳え立つ巨大な剣山が鳴動して、その剣のどんな名刀にも勝る鋭利さを持って罪人を切り刻み、人では対抗しようもない圧倒的な質量を持って咎人を押し潰す。しかしそれすらもがこの地獄に存在する責め苦の一角に過ぎず、その他にもここに存在するあらゆる器具や生物が情け容赦無く腸を掻き回し、胴を両断し、四肢を捥ぎ取る。罪人は他の地獄とは比較にならぬ責め苦を受けてその名に叫喚を冠する第四・第五層の地獄すら名前負けと思える程の絶叫を上げ、それを聞いた獄卒達は怒り狂い、極まったと思われた刑罰を更に激しい物にし、更に絶望と苦痛と恐怖に満ちた大叫喚を上げる。地は生理的な嫌悪感を掻き立てる程に赤黒く、あらゆる物を呑み込めると錯覚させる程の巨大さを持つ裂け目からはあらゆる物を飲み込み灼熱に取り込む溶岩が覗き、空すらも血の赤色に染まり、視界に映るあらゆる物が赤みがかって映り、いよいよこれを見ただけで常人なら嘔吐、卒倒はおろか発狂してしまう程の凄惨な、まさしく阿鼻叫喚の地獄絵図の様相を呈している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

呈している、筈だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このまともに直視することも憚られる空間において、嫌でも意識してしまう程の存在感と威圧感を放ち乍ら闊歩している巨大な怪物が居た。

 

 

 

 

 

 

体格は山と見紛う程に大きく、体表はこの地獄中においても赤く染まらぬ漆黒であった。姿勢は直立に近く、脚は大樹の幹を優に上回る太さであり、腕も脚程の太さはないものの、華奢と言うには余りにも強靭であった。双眸もまた人間が余裕を持って入る事の出来る大きさで、凡そ計り知れぬ憤怒と憎悪に満ちて炯々と光り、大きく裂けた口の中からはやはり一尺を超える大きさの、この世にこれで切り裂けぬ物無しと言わんばかりに鋭く体表と対比するような純白に輝く歯がびっしりと並んださまが覗いている。体より長大な尾はまるで意思を持ち自律しているかの如く揺らめき、背には地獄の剣山にも決して引けを取らぬ大きさの背鰭が五列に連なっている。

 

怪物は歩みを進める。怪物が脚を踏み締める度、巨大な質量が押し付けられた地面は一溜まりもなく叩き割られてゆく。全身に縛り付けられた黒縄は、拘束と痛覚の刺激を期待して付けられたもので有っただろうが、其の怪力に対しては一瞬の拮抗もすることなく解け、千切れた。解け落ちた長大な縄が重力に従って地面に叩きつけられ、重い音を立てた。黒く巨大な脱走者が現れたことに気付いた屈強な獄卒達が怪物に向けて有らん限りの速度で向かい、怪物の足元にしがみ付き、出し得る限りの力で止めようとした。しかしながら、多数の獄卒に止められたにも関わらず、怪物の歩みは一切止まることは無かった。巨大な脚に蹴り飛ばされた獄卒達は一瞬にして原型を失い、肉片と臓物と大量の血飛沫となって広範囲に降りかかる。先程までの自分の同僚や先輩、或いは後輩が幾つもの部位に分かれて降りかかって来たことが皮切りとなり、獄卒達は罪人に責め苦を与えていた時の怒りはどこへやら、顔色を失い、パニックを起こして一目散に怪物の居る方向と逆に逃げ出した。それに乗じて先程まで責め苦を受けていた罪人までもが或る者は地獄から脱出しようと、或る者は怪物から遠ざかろうと逃げ出した。こうなれば先程までの地獄絵図ながらも獄卒が大罪を犯した者を処罰すると言う秩序立てられた地獄ではなく、巨大な化け物を中心とした全く意味も道理も存在しない攻撃によって、獄卒も咎人も関係のない完全に混沌とした地獄と成り果てた。幾らかの平静を保っている、ベテランと思われる獄卒が声を張り上げて制止するも、パニックに陥った者達に対しては鼓膜を震わせども脳で言葉の意味を理解する余裕などは無く、咎人と獄卒の入り混じった怒濤の中に忽ち飲みこまれた。制止していた獄卒は突き飛ばされ、地に仰向けに倒れ、逃げる者共に踏まれ続けた。百人は優に通っただろうか。後に残されていたのは、足で蹂躙され、ほとんど平らにまで群衆に踏み潰された獄卒の屍があるのみであった。逃げる群衆の視野の内にはただ目の前に現れた破壊と殺戮の権化のみが映り、その他のあらゆるものを気にすることも出来ない程に狭窄していた。躓いたり、遅れたりした者は即座に人の波に飲みこまれ、踏み潰された。それにすら気付かなかった。ただ攻撃を逃れるために自ら炎や鉄の処刑器具に飛び込み、惨たらしく死んでゆく者も少なからずいた。怪獣の動きは、見掛けから想像することの出来るような鈍重かつ緩慢なものであったが、その大きさ故に歩幅はとても大きなものであり、一歩歩んだだけでも容易に必死に逃げる地獄の住民に追いつき、巨大な地鳴りを響かせ、地盤を踏み砕いた。すぐ隣で並走していた顔見知りの獄卒が踏み潰された或る獄卒の感じた恐怖は計り知れないもので有ったに違いない。目の前で容易に自らを殺し得る力が振るわれ、友を地面ごと踏み抜き、其の近くに居た自分は内蔵を揺さぶるような激烈な揺れに襲われ、動くどころか立ち上がることすらままならず、直ちに怪獣はもう一歩、自分を、いや、自分の居る位置を含めた範囲を破壊するであろう。そう妙に冴えた頭で自分の死が避けらぬものであることを悟った獄卒に、それを肯定するかのように足の裏が迫り、踏み締めた範囲の一切を形も残さず粉砕した。

 

 

地獄を蹂躙した怪獣は、尚も足元に恐怖と狂気に満ちた光景を作り乍ら行進する。逃げ惑う群衆を塵芥の如く蹴り飛ばし踏み潰し、あらゆる物を焼き尽くす地獄の業火も微風ほどの効き目すらなく、もはや怪獣を止める事は不可能に思えた。しかし、怪獣めがけ切り刻み、突き刺し、圧し潰さんとでも言う様に凄まじい速度で巨大な剣山が迫ってゆく。逃げる群衆を容赦なく圧し潰し轢殺し、麓を赤く染め乍ら尚も怪獣を殺すべく加速してゆく。怪獣の鼻先にまで棘塗れの殺意の塊が迫った時、やっとかの怪獣の意識が向けられた。しかし怪獣自身とも比肩する剣山が驚くべき速度で迫っているにも関わらず、その精悍ながら凶悪な爬虫類を変形させたような顔面には些かも動揺や驚愕の表情は浮かばず、相も変わらず憤懣に満ちた表情で迫る剣山を一瞥した後、見かけより更に遥かに力強い動きで地を踏んだ。今までのものとは比較にならぬ程の振動が地獄全土を震撼させ、半径数キロメートルにもなる亀裂が走り、半径数百メートルに至ってはクレーターすら出来ている。これによって凄まじい規模の土煙が生じ、全く全ての物を覆い隠してしまった。これが晴れた後に最初に見えた光景は、これを起こした怪獣が体を捻り、何かをする準備をしているものであった。次の瞬間、捻った体の反動で尾の先端を加速させ、その見かけからは想像も出来ぬ程の豪速で長大な尾が振るわれた。空気を切り裂くというより潰すという表現が適しているであろう鼓膜を破る程の轟音を響かせ、剣山を薙ぎ払った。尾が当たった途端、鋭利な剣はその切れ味を発揮することなく拉げ、巨大な質量は呆気なく跳ね返され、剣山は一瞬にして粉々に打ち砕かれ、その余波で周囲の地形、群衆、建物問わず範囲内の一切が例外無く粉砕された。

 

 

 

 

 

この怪獣は過去にも地上で破壊の限りを尽くし、或る島の伝承より『ゴジラ』という名で呼ばれていた。地獄に堕ちようともその力は変わらず、気性にも一切の変化が見られず、地上と同じように破壊を繰り返すが、地上とは違うところがただ一つのみ有る。それは、ただ一方のみを見据え、それ以外は眼中に無いように進軍していることである。まるで向かう先に何かが有るかの様に…

 

 

 

 

 

巨大な障壁をいとも簡単に突破した、ゴジラが先程自分で作り出したクレーターから出で来た直後、大音響を聴覚で感知した地獄の鴉や蛇や鼠の大群が天を、地を黒く染め上げ埋め尽くし、遂にその視覚でゴジラを捕捉し、進撃を続けるゴジラによじ登り、止まり、統一された漆黒の体表を混沌とした暗色の肉塊ですっかり覆い隠してしまった。完全にゴジラの巨体が畜生共によって完全に覆われて尚地獄の動物はその塊に飛び込んで自ら塊の一部と成りて、あっという間にそれは元のゴジラの数倍の大きさの悍ましい蠢く肉塊となった。中に居るであろうゴジラがどうなったのか、今となっては伺い知る方法は無い。肉を貪られ、骨格を露わにしているか、躰の中に這入られ表皮を、臓物を、神経を弄ばれ得も言われぬ地獄の苦痛を味わっているか。答えは次の瞬間に明らかとなった。肉塊の中から、生物では色を判別することすら出来ない刹那の間、されどその一瞬で網膜を焼き焦がす程の烈しい光が放たれた。その輝きより視界が平常を取り戻した時、映り込んでいた物は、数多の獣に貪られ骸となって斃れた巨獣ではなく、血の一滴たりとも流れた痕跡は無く、一分の疵の一つたりとも有りはしない無傷のゴジラであった。先程まで夥多と犇いていた畜生は一片の灰すら残らずに消し飛び、後には黒く巨きな一体の怪獣が残るのみであった。

剣山も人海、いや『獣海』とでもいうのだろうか、兎も角地獄最下層の洗礼の悉くを無傷で突破していたゴジラであったが、またしつこくもかの怪獣の行く手を阻もうとする刺客が待ち受けていた。流石にこう何度も何度も邪魔をされて嫌気が差してくるころだろうが、ゴジラの表情は相も変わらずとても言葉には言い表せない憤激を顕わし、そのような感情は端にも浮かんでいない。今回の刺客は、巨大な鬼であった。背格好のみであればゴジラを凌駕し、相当な筋骨をその体に備えているものの、縦に引き伸ばしたかのような異常なプロポーションであり、そのひょろ長い体に比しても長いと言える腕は力なくだらりと垂れ下がり、顔面に至っては、過剰な程巨大な犬歯を備えた口は半開きとなって涎を垂らし、ただ顔中に散りばめられたような数十の目のみが爛々ときらめき、その体には腰に布を巻いている以外は何も纏っていない、というような強靭、というよりは不気味という感想の浮かぶ見た目である。鬼はその骨ばった手で握り拳をつくり、ぶおん、というようなやはり神経を逆撫でする不気味な音を立てて殴りつけた。拳はゴジラの顔面めがけて直進し、そして拍子抜けするほど簡単に顔面に命中した。しかし、ゴジラは顔面を殴打されたにも関わらず、悲鳴の一つも上げず、怯みもせず、何事も無かったかのように直立している。数秒の後、ゴジラは何の障害も無いかの様に前進する。何度も何度も鬼は不快な雄叫びを上げ乍ら殴りつけるも微生物が大山に攻撃しているかの如く効果は無い。やがてゴジラが肉薄と言っていい距離まで前進すると、引き締まった筋肉が山のように付いた腕を徐に振り上げ、鬼に向けて振り下ろした。今まで地獄で一回も使われていなかった腕の爪が表皮に食い込み、そのまま筋肉を引き裂いた。鬼のもう形を失った右肩から鬼の腕が零れ落ち、夥しい量の血が噴き出る。とうとうゴジラの腕は骨に到達し、其の剛力のままに骨を砕く。そして臓物を何の抵抗も無く潰し、脊椎を圧し折り、また骨を砕き筋肉を裂き、反対側の脇腹から血に塗れた腕が姿を現した。鬼の體は一撃で上下二つに裂かれ、上半身が地に落ち、下半身が後ろに斃れ、腸が血と共に地面に広がる。そして鬼の痙攣する上半身に近寄り、あらぬ方向を向いた数多の目の付いた頭蓋の上にゴジラはその太い足を持ち上げ、載せた。体重が掛かった途端、水風船のように頭蓋が破裂し、血と脳漿と肉片がびちゃびちゃと悪感情を植え付ける音と共に飛び散る。顎も踏まれた途端に歪み、全ての歯が脱落し、ゴジラの脚が地面に着いた瞬間に砕けた。顔に付いていた数多の眼球は半数が脚に潰され、もう半分は血や肉片と一緒に飛び散り、虚しく転がっている。この刺客もあっさりと斃したゴジラは凄惨な屍となった鬼に目もくれずに歩き出したが、直ぐに歩みを止めた。目の前で、先程叩き殺した巨大な鬼が多数、十を超え、百に迫ろうかと言う圧倒的な多数を持って再び現れた。ゴジラに凄まじい勢いを持って飛び掛かり、同胞の敵とばかりに殴り、蹴る。それを受けたゴジラは殴り返しも蹴り返しもせず、ただ仁王立ちをしている。いままでと全く性質を異にする行動を、しかし何の警戒も違和感も無く、鬼共は渾身の暴力を浴びせかける。やがて、ゴジラの背鰭が光り始まる。最初は弱弱しい光であったが、徐々に強く暴力的なまでの明るさを持ち始める。光の色は青白い。地獄の赤黒さと対比を為しているように見え、見方によっては神聖な光とも見えるかも知れない。しかし地獄の赤黒さは怪獣より出づる蒼白の光とコントラストを描くことなく蒼白に塗りつぶされる。鬼はこのはっきりと異常と言える相手の変化を目にして尚、行動は変わらない。光は尚も強くなり、直視すれば失明するほどの光量になって尚、明るく強くなってゆく。やがて燦然と輝いていた背鰭の発光は急速に弱まり、遂に光が無くなる。しかしそれと同時に大きく裂けた口の中から、先程以上に明るい光が漏れだす。

 

 

 

 

 

 

不意に、ゴジラがその光の漏れ出す口を開いた。

 

 

その途端に光は指向性を持って特大出力の極太レーザーとでも言うべきものとなって前方へと打ち出される。余程ぶつける粒子が高密度なのか、不運にも正面に陣取り、光の餌食となった鬼を跡形も無く消し飛ばし、それだけに留まらず地を抉り、その軌道にあった鬼の後方を、地平線の彼方まで消し飛ばした。光を放ったまま、ゴジラは体を横に捻じり、先程消し飛んだ鬼は、不運ではなく必然だったのだ、と言わんばかりに、光を薙ぎ払い、横に居た鬼はおろか、その先に見えていた逃げ惑う群衆、聳え立つ建造物、地形、先に見える山までもが跡形も無く焼き払われた。更に後ろを向き、前に向き直り、一回転して、文字通り、鬼毎望む景色全てを、見る影も無く破壊した。この光は、地上においては『放射熱線』と呼ばれ、ゴジラを脅威たらしめる大きな要因の一つである。自分を取り囲んだ獣を一掃した時に放った光も、これから派生したものである。

 

 

 

 

 

 

 

放射熱線を放って鬼達を鏖殺してどの程度の時間歩き続けただろうか。逃げ惑っていた群衆は命尽きてもう存在せず、地獄からの刺客も既に全て損耗した。もはや何も足を止めるに能うものは存在せず、とうとう地獄の端に到達するかに思われた時、突如として幾筋もの黒いオーラが放たれ、一つに集まり、形を成してゆく。そして出てきたものは、この地獄に凡そふさわしくない格好をした少女であった。その背格好こそ人間であったが、そこから放たれる威圧感や力は目の前の大怪獣に勝るとも劣らぬ程の物であった。少女が口を開く。

 

 

「『貴方は私の目に留まった』それだけの理由で貴方を地獄()()堕とす。死んでも悔しがれ!!」

 

 

少女、いや、少女の姿をした何かが口を開いた途端、まるで重力が突然強くなったかのような重圧が圧し掛かるが、ゴジラも一切怯むことなく、地獄中に響き渡る程の咆哮で少女の言葉に応酬する。

ゴジラの咆哮もまた、響くのではなく空間に残留して重圧を掛けるかのように感じられた。

 

今、怪獣王と地獄の女神の戦いの火蓋が、切って落とされようとしていた。




次の話は多分ほのぼの回です。
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