東方呉爾羅伝   作:2147483647の塊

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呉爾羅対魏怒羅/鎧を纏いし極彩

熱線は天を揺るがし、雷霆は地を焼く。

 

ゴジラと魏怒羅との戦いは、熾烈を極めていた。

 

接近したゴジラが腕を振るう。空気が押されて破裂音を響かせる。それを魏怒羅は翼で受け止めた。腕が翼に触れた瞬間、岩塊は吹き飛び地が裂けた。旧地獄の残骸を捲り挙げ、視界の届く限り何層も地獄が吹き飛んだ。

 

然し魏怒羅の翼はその恐ろしい衝撃に耐え、寧ろ押し返してさえいたが、ゴジラが爪を突き立てて更に力を入れると、その腕に付いた鋭い爪によって翼膜が裂かれる。

魏怒羅が反撃に頭突きを放ち、打撃音と共にゴジラの巨体が後退した。更に怒りのボルテージを上げたゴジラに魏怒羅の頸が摑まれるも、右首が雷霆をゴジラの腕に撃ち込み、無理矢理に解放させる。

ゴジラは尾による攻撃を繰り出そうとするも、魏怒羅は二叉の尾を絡み付けて阻止した。カウンターに魏怒羅が巨大な翼を叩き付ければ、ゴジラも前肢で殴り付けた。余りにも巨大。余りにも強靭。余りにも剛力。その膂力は小さな幻想郷など一撃にして跡形も無く壊滅させる程であり、今幻想郷が滅んでいない理由は、互いの力が拮抗し、常に相殺し続けている為でしかない。

 

然しそれでも高密度に圧縮され行き場の無くなったエネルギーが一部逃げ出し、腕と翼の接している点を中心に、都市一つまるまる入る範囲が岩盤層まで破砕され、溶岩が噴き出し、それすらもが蒸発した。

 

それ程の一撃を貰いながらも両雄は一歩も退かずに肉弾をぶつけ合う。時に尾を振るい切り裂き突き刺し、時に口に備えた牙で噛み砕かんと試み、時に相手をその剛力を以って投げ飛ばさんとする。

 

肉弾戦ではゴジラに幾らかの分が有り、魏怒羅が如何なる攻撃を仕掛けようとも、無尽蔵のタフネスと凄まじい怪力で耐えられてしまう。

それを悟った魏怒羅は翼を大きく羽ばたかせ、肉弾の届く範囲から脱出した。

 

魏怒羅は咆哮を一つ上げると、その三つ頸から同時に、ゴジラの喉笛めがけ雷霆を出した。バリバリと天が裂ける音を出し、視界を閃光に染める。着弾したゴジラは威力の雷を三つ同時に喰らい、僅かに怯む。ありとあらゆる兵器を上回るエネルギーを一点に集中させた雷霆も、ゴジラの余りにも高い防御の前には余り威力がある様には見えなくなっている。攻撃の手が緩んだ一瞬の隙に翼を振るい風を起こし乍らゴジラの間合いから脱出した。翼が裂かれようとも飛行能力は損なわれず、その巨大な影は一瞬で雷雲の中に姿を消した。

 

ゴジラの背鰭が光り、放射熱線の予備動作に入る。周囲が放射線で汚染されるのも構わず、青白い閃光を燦然と煌かす。光が牙の間より漏れ出、口を開くと凄まじい勢いで青い熱線が上空に放たれ、衝撃で空に充満した鈍色の雲を吹き飛ばした。その反作用を身一つで相殺し、その不条理に耐えられず地面が砕け散る。

 

然し熱線の先には魏怒羅は居らず、易々と避け、咆哮の後に翼を振るえば一瞬で超音速まで加速され、ソニックブームを発生させ乍ら飛行する。熱線が魏怒羅を追尾する様に薙ぎ払われるがその悉くを回避し、僅か数秒にしてゴジラの背後へと移動し、雷霆を熱線に向けて撃ち放った。一筋の蒼き熱線と三条の黄金の雷霆が空中で激突した途端、超新星爆発の如き爆ぜる音と共に、両者は互いに次元を歪め音響を放ち光を引き留めて掻き消され、暴走する衝撃波が遥か霧の湖まで跡形も無く粉々にし、その1%にも満たぬ威力の光線の残り滓が幾筋に分かれ、威力が遥かに減衰した状態でも、一つ一つが着弾した緑を跡形も無く消し去り、崖崩れを容易に引き起こした。

 

衝撃の後、初動を取ったのは魏怒羅であった。即座にゴジラに向けて突撃し、頭蓋に足を叩き付けた。しかし地面に放てば一撃で地獄の最下層まで威力が届く其れを受けてすら地に伏せることは無く、脚が退かれる前に異常な握力で握りしめ、力任せに振り回し、そのまま放り投げた。

 

然しさしもの魏怒羅もただ蹂躙されるばかりでは無く、ゴジラの首に牙を突き立て、直ちに体勢を立て直し、再び熱線の予備動作に入ったゴジラの首を上方に押し上げた。上に向いた口から放たれた熱線は何も破壊することは無かった。

 

ゴジラは喉笛に牙を突き立てられているにも拘らず、血走った山吹色の眼で魏怒羅を見下ろし睥睨する。左右の首を掴み取り、強引に引き剥がした。そのまま長い首を握り潰さんと握力を掛けた。黄金の鱗が緋色に染まり、破砕音が響いた。魏怒羅も又負けじと、中央の首は咬合を強め、頸動脈を掻き切る程に深く突き刺し、更に長さを余していた首を巻き付け、縊り殺さんと締め付け、持ち上げようとする。

 

魏怒羅の左右の頸の四の眼より光が消え、重力に従い項垂れる。

 

ゴジラの首より血が噴き出し、両者を鮮血に染める。

 

ゴジラの喉笛に顎を埋め込ませたまま、魏怒羅の喉が神々しい黄金に煌き、そしてゴジラの体内に、直接雷霆を撃った。魏怒羅を埋め込んで再生しようとしていた首の肉を蒸発させて吹き飛ばし、うなじを貫通して背鰭を散らした。超高圧の電流が内蔵を焼き尽くし、顰め面を更に歪ませた。

 

それと同時にぐちゃりと音が響き、ゴジラは両の頸を引き千切った。ぐちゃぐちゃになった断面からは夥しい量の血が噴き出し、引き摺り出された脊椎が垂れる。

 

魏怒羅は少々不格好な姿になり乍らも、首を解いて後ろに飛び退き、再び雷雲を渦巻かせ、そして、両の頸を一瞬にして再生させ、元の神々しくも奇怪な龍神の姿に戻った。そればかりか眩いばかりの黄金の光を全身より放ち、いよいよその神々しさは増すばかりである。通常の生物には到底不可能な所業を当然の如く行い、そして仕切り直しだとばかりに翼から、顎から、雨霰と雷霆を撒き散らし、遥か上の天界を貫き、直下の地獄を破壊し尽す。一発一発が何にも阻まれずに、軌道上の全てを打ち砕き灼き焦がし、地殻のコア、若しくは大気の層を掻き乱し乍ら宇宙まで届き、羽ばたく度に生じる大風が木を、岩盤を、空気さえ巻き上げ細く切り刻む。

 

それに相対するゴジラは血の雨の中、夜闇を思わせる漆黒に爛々と輝く瞳は蒼に光り、体を上下に揺すり乍ら魏怒羅に向かって悠々と歩く。一歩を進む度に巨大な質量により隕石が落ちた何の様な轟音が鳴る。既に首の傷は外からは一切確認出来ない程度に恢復し、その怒りは今までに見たことがない程に増大し、そして背鰭より蒼いスパークが迸り、感情の昂ぶりを示す様にチェレンコフ光が瓦礫を照らす。

 

ゴジラが前傾姿勢を形作り、長大な尾を撓らせる。

刻一刻と蒼い閃光は増し、構えた尾はまるで巨大な神剣の様である。

 

脚を踏み出した直後に尾の先端は加速される。其処から繰り出される一撃は、極大の質量による打撃で在った。尾の撓りによる鞭でも在った。全てを両断する斬撃でも在った。ソニックブームと思しき轟音が鳴る。

 

大質量が高速で動いた事により、極限まで破壊された地盤は巻き上げられ、津波の如き様相となる。余りの速さに、音を凌駕する速度で移動出来る魏怒羅でさえ、僅かに仰け反り、致命となる、完全に両断される事を辛うじて避けるのみしか抵抗らしい抵抗は出来ず、硬い鱗を易々と引き裂き、胸骨は粉砕され、肉は千切れ、体の厚みの半分程度が抉れ、数キロの上空に大きく吹き飛ばされた。

 

大きな痛手を負った魏怒羅であったが、その意思は未だ戦闘続行を貫き通し、合計六つの眼は未だゴジラを睨み付けていた。翼膜が破れ、骨格が折れた翼を無理矢理に再生させ、全身の光を喉元に集中させ、極大のエネルギーを込めた電撃を、三つ頸より同時に放った。

 

それは驚くべき速度でゴジラに迫り、胸部に直撃し、重量を感じさせぬ程に後退させた。肋から紅い液体が零れ、白く濁った色の、太い骨が覗いた。吹き飛ばされぬよう脚に有らん限りの力を入れて制動を取ろうとするも、衝撃に押されて止まる事は出来ず、数百メートル以上後退し、軌道の悉くを轢き潰して漸く停止した。

 

そのまま動きを止めたゴジラを見下ろし、魏怒羅は勝ち誇る様に、三重にタイミングのずれた、無機質な咆哮を幻想郷中に轟かせた。

 

ゴジラからは光が失せ、最早その眼光さえ輝きを失い、項垂れていた。黒い、ケロイドの様な悍しい皮膚に冷たい雨が叩きつけられ、黄金に照らされた。

 

魏怒羅がもう一度、強く喉を煌かせる。エネルギーの総量は測る事も馬鹿馬鹿しい程であり、この攻撃で地球が崩壊し、大地に生きとし生ける生命が鏖殺されるかに思われた。

 

そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

蹂躙し尽くされ、抉れた地が、蒼い光を放った。

 

その鋭く、且つ重圧で潰す様な眼光を両の目に取り戻し、背鰭も先程を上回るエネルギーを纏い直した。

 

魏怒羅より雷霆が撃たれた。およそ雷と聞いて思い浮かべる軌道では無く、ほぼ完全な直線を描いてゴジラに迫る。

 

ゴジラは魏怒羅に向かい、一歩を踏み出した。形容し難く鼓膜を壊す轟音と共に、地球そのものが震える様な局地地震、と言うには範囲が広い揺れが襲った。

 

魏怒羅と迫る雷霆を、見上げているにも拘らず見下ろす様に睥睨し、裂けた口に備えた頑丈な顎を開き、咆哮を一つ放った。

 

その音域は可聴域を超え、名状し難き響きを残した。今までの咆哮よりも明らかに強力なそれであったが、かえって周囲への被害は無く、その絶大な威力は極限の指向性を持って一点に破壊を繰り出した。

 

それは音速で直進し、雷霆と衝突する。

圧倒的な音響の暴力は、黄金の電撃を、呑み込み削り、一方的に威力を殺し、貫通した。

 

魏怒羅は横に大きく回避し、反撃を繰り出そうと電流を貯めたが、それは叶わなかった。

 

彼の咆哮も只の威嚇に過ぎず、開いた顎の中より太陽もかくやと言う程の輝きが漏れ、ストロボの様な破裂音が何度も鳴り、尾から頭まで一列に光る。

 

放射熱線は大結界を貫き、避ける余裕も無く魏怒羅の半身を消し飛ばし、更に宇宙に先が見えない光の柱を作り出した。宇宙に数多浮遊する人工衛星とスペースデブリを、東の半球全体の範囲で塵一つ残さず破壊し、地球全体の気温が一時的に上昇した。

 

光が消え、ゴジラは口を閉じ、見上げた姿勢で暫く固まる。

 

軈てずんと音が響き、褪せた金の肉塊が落ちて来た。魏怒羅の死体であった。

 

頸は三つ共に根本から消失し、胴体も右半分が抉れ、翼は翼膜と肉が完全に消失して骨組みに成り果て、尾も不揃いに千切れていた。

 

かくして幻想郷の最高神と因果に沿って理不尽に破壊を齎す怪物の闘いは、幻想郷にとって最悪の形で幕を下ろした。

 

最早生命の兆候の見られぬ魏怒羅の胴体に足を掛け、一挙に踏み潰す。露出した内臓が血泡と共に溢れ出し、形を維持していた骨格と肉を完全に潰した。

 

示威と赫怒の、ゴジラの勝鬨が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

繭はその厚い糸の塊からでも判る程の、然し眼に焼き付かない、優しい虹の光を発していた。それと同時に、暖かい抱擁の様な神力が空間を満たす。

小美人達は目を閉じて繭に片手を添え、神力を与える。

 

 

傍に座った幽々子は、何時に無く目を輝かせ、繭を覗き込む。彼女の積み重ねた時間はとても長いが、今の彼女はまるで玩具を弄ぶ童女の様な表情を浮かべ、待ち遠しく羽化を待ち続ける。

 

顕界での怪獣大戦争の余波が冥界まで届き、白玉楼を揺らす。

何度もくぐもった轟音が響き、それは段々と激しくなってゆくのが冥界からでも判る。

 

幽々子ほ数百年の年月を死した幽霊として過ごし、生命の鼓動とは縁遠かった為に、彼女の目にはこの生命の神秘に満ち溢れ、移ろい行く神の光景を美しく映り、羨みの様な無常感すら抱いているのだろう。

 

 

 

時間の経過に連れ、段々と充満する神力の密度は増大して行き、繭の光も靄掛かったぼんやりしたものからはっきりとしたものとなる。

 

 

顕界から今までで最も大きい衝撃が伝わり、その後何かが落ちて来た音と共に、それはぱたりと止んだ。

 

幽々子が促す様に言った。

「龍神様もやられてしまいましたわ。もう躊躇する理由なんて何も無い。そろそろ私にモスラの雄姿を見せてくれてもいい頃ですのに。」

 

小美人は分かっていますとだけ返し、異国の言語の歌を繭に捧げた。

 

いよいよ羽化の刻が迫る。

 

絹の繭がうごめき解けて内より眩い光が解き放たれ、裂け目から緑の翅が出で来る。軟かく頼り無いそれは色を虹に変えながらパピヨンの翅と同様の形を成し、極彩色で彩られた模様を見せた。

 

幽々子の可憐な唇を感嘆の吐息が突いて出た。命の織り成す藝術に完全に魅了され、心奪われていた。その翅は蝶や蛾と言うには余りに大きく、西行妖を凌ぐ高さになった。

 

二対四枚の翅がゆっくりと開くと、それに連動する様に繭の中から、モスラが完全に姿を現した。

 

その姿は蝶や蛾と大差は無いものの、全身に生えた純白の毛が、節足動物の不気味さを打ち消し、可愛らしいシルエットを描く。

 

幽々子は蕩けた羨望を混ぜ込んだ声で呟いた。

 

「綺麗ね…。吸い込まれそうな程綺麗。ずうっと観ていたいわ。」

 

人差し指を出すと、其処から桃の実体を保たぬ蝶が飛び立った。

 

小美人は言った。

 

「「モスラの魂は一所に留まる事はありません。戦いに向かう今なら尚更、此処に居続ける事は出来ません。」」

 

蝶がモスラに止まった直後、蝶は儚く桃色の光と散った。

 

幽々子は少し残念そうに肩を落としたが、生命の美しさは流動にこそ在るのだと納得し、死に拠って引き留めるのはその美しき生を全うしてからでも良かろうと思い直した。

 

モスラの体が外気に触れて酸化したかの様に、光沢のある外殻に覆われ始めた。

 

抱擁するかの様な神力は、凶悪な敵を打ち倒す槍の如き鋭さを帯びるが、優しさは失われなかった。

 

極彩の翅は金属質の鋭利な刃と化し、柔らかい毛に包まれた体は、堅牢な鎧に覆われた。

 

美しい姿が無骨な甲冑に覆われ、見えなくなった事に、幽々子はモスラが戦いに行く事を再認識し、悲しむでも嘆くでも無し、微笑みを以って、この勇敢な女神を送り出す事にした。

 

モスラが羽ばたけば、風が桃色に龍をあしらった着物が風に吹かれてはためき、大きな体が空中に浮き上がった。そのままモスラは冥界を飛び立ち、戦場に身を投じに行った。

 

小美人が頭を下げ、礼を述べた。幽々子が礼を返すと、その姿は消えた。

 

暫く上を見つめていた幽々子だったが、視線を変えずに言った。

「妖夢、お茶を頂戴。」

 

すると、物陰から銀髪の少女が姿を現した。彼女が妖夢なのだろう。

彼女はモスラが白玉楼に姿を現した途端に叫び声を上げて隠れてしまったが、羽化の辺りでモスラの瞠目せんばかりの美しさに見とれ、再び庭園に出ていた。

 

幽々子は出された茶を啜りながら、何も無くなった繭を見つめた。

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