東方呉爾羅伝   作:2147483647の塊

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モスラ・レオ

澄んだ空、雲は無し。月は西で輝き、天鵞絨の様な黒に、星々が煌めく。

 

星々が見守る元、幾つかの巨大な影と、其れより遥かに小さき影が躍動する。

 

婆羅陀巍が翼膜の付いた前肢を掲げれば、数秒で幻想郷全体を通過する速度の暴風が吹き荒れ、その風に乗りて自身も遥か上空へ飛んだ。それはゴジラをも押し出す力を秘め、一度巻き込まれれば其れは刃となって一瞬で対象を切り刻み、飛ばされた砂粒ですらもが艦砲射撃を凌駕する超音速の弾丸となる。

 

庵魏羅珠が一度咆哮すれば、冷気が世界を満たして空中が凝結し、無数の本体にも匹敵する大きさの氷の剣が生み出され、ただ一体の敵目掛け加速される。周囲は極低温にされて凍り付き、庵魏羅珠以外の生物は生存すら許されない過酷極まる環境と化す。

 

婆羅護吽が地中へと姿を消せば、庵魏羅珠と対を為す様に炎獄が顔を出し、流動する溶岩の質量が押し潰し焦がさんと襲い掛かる。噴水の如く地を割り噴き出し、正に地獄としか言いようの無い光景を作り出す。

 

純狐が、華奢な爪の長い指を標的に向ける。女性らしく弱弱しい其の肢体にも拘らず

、並ぶ三柱の聖獣にも匹敵する強圧を、尾を象るオーラに迸らせるその姿は、規格外の強者である事を十分に証明している。指先に、何の色にも染まらぬ、純粋なエネルギーの塊を一直線に発射する。

 

これ程の強者を相手取るのは、それと同等、いやそれ以上の強者。

 

氷柱が空気を切り裂き、彼の者に迫るも、その體に当たった途端に勢いを完全に失い、却って鋭い冷気の剣は砕け散った。その體は鋼で覆われているでも無し、神秘の力で守られているでも無し。ただ己が筋骨のみで、神の力を弾き返す。

 

地中より融けた世界と共に、炎と地の神が飛び出し、莫大な熱と質量に任せゴジラを巻き込む。庵魏羅珠の放つ冷気と婆羅護吽の放つ熱気がぶつかり空が爆ぜ、氷が蒸発し溶岩は地形と化した。

 

婆羅陀巍の風刄に表皮を傷付けられ、石礫が全身を強く打ち付ける。固まった溶岩が身を埋め固め、或る所は凍て付き、また或る所は炙られる。誰がどう見ても、例え千万人に聞いたとしても、その全てが最悪の、苛烈極まる環境と答えるであろうそれに晒され続け、尚もゴジラの眼は燃える。

 

その怒りは治まる所を知らず、最早その感情が精神の本質とまでなっている。

 

時と共に鋭く、大きく、激しく、深くなって行く怒りを乗せ、爬虫のそれとはかけ離れた大咆哮を唸らせる。吹き荒れる暴風は一瞬で吹き飛ばされ、体を埋めた岩山はがらがらと音を立てて崩れ落ちる。只の一声で場は支配され、黒き怪獣を中心に音波と憤怒の渦を掻き回す。

 

然し、其れに飲み込まれる様な脆弱な精神の者などこの場には居らず、その中でも一際異常なのが、霊夢であった。威圧、音響、衝撃の干渉から完全に逃れ、自然体のまま毫も有効には見えない。

彼女が体に満つ霊力を集中すれば、ゴジラを覆える程の大きさの、色とりどりの光弾がまるで意思を持った何の様にゴジラに突撃し、破裂せんばかりに詰め込まれた霊力が炸裂する。だが其処では終わらず、第二第三の仕掛けが発動する。ゴジラを覆う様に巨大な結界が発動する。それはゴジラの怪力を以ってすれば簡単に突き破れる程度の強度しか無く、現にゴジラもその威力を振るい視界を遮る結界を破壊せんとする。

 

だが其処で霊夢の攻撃が尽きた訳では無い。霊夢の後ろに、絶大な規模の神格が出現した。神降ろしで呼び出されたのは太陽の化身、八百万の神の頂点、天照大神。最高神より放たれた陽光は、太陽の熱そのもの。あらゆる生命を生み育てた暖かさは、それと同時にあまねく命を一瞬にして奪う苛烈さも秘める。ゴジラの身が焼かれ、煙が上がって行く。一度ばかりでは無い。光を鏡の様に反射する結界によって、炎熱を携えた光は再びゴジラを軌道に入れる。太陽の中心温度は遥かに千万摂氏度を超え、また此処に生じた小さな太陽の核部分も、それと同等の灼熱となる。一切の光を月の如く反射する結界に全ての光が弾かれ、外から見ても失明はしないが、ゴジラの様子も伺い知れぬ。

 

結界の上方が突き破られ、直後に、轟音と結界の割れる耳障りな音と共に、天に向かって極光が走った。天照の陽光が漏れ出し、その余りの明度に霊夢は瞠目し、更に両の手で眼球を保護した。それで尚掌と瞼を貫き差してくる光の眩しさに、すわ失明すら覚悟した。これで飽くまで光は此方に差して来た物では無いのだから、天照大神の力が分かるという物。

兎も角今の霊夢の関心は、この力の前に怪獣王が斃れたのかと言う一点である。

 

一瞬で光は虚空へと消え失せ、視界を通さぬ結界も消失し、彼との間を隔てる物は透明な空気のみになった。透明と言えどもそれは泰平を指すものでは無い。暴風に掻き乱され、高温と低温により視界は歪み、怒りの圧に皮膚を欹てられる。

 

果たして怒りを放つのは、ゴジラであった。怒りの波動や極光の中に青の光が混じっていた事等、其れを示唆する事項は数多く有ったが、霊夢の脳はバイアスで弾いていた。だがその実物を見れば幻覚とも錯覚とも言わせぬ存在感に、ゴジラの健在を無理矢理に認めさせられた。流石に天照の陽光を何百何千と受け続けた事により肉が焦げる鼻が曲がる様な臭いと、炭素の昇華した丼鼠の煙を全身から発し、皮膚は黒いままであったが、其れが炭化し、変わり果てたものとなった事は、ぼやける光景を挟んでも判った。

 

然し彼の者は依然として大木の如し隆々と聳え立つ両の脚で確りと地面を踏み締め、筋肉と鋭い牙、そして目一杯に開かれた眼球を備えた顰みの怒り面は、蜃気楼に朧と歪んだ先からでも威圧を与える。それは本来力に屈服しべからざる異能を抱え、全力で発動させている霊夢ですら、額に脂汗が浮かび、口角が引き攣った。

 

天照大神、それは分霊と言えども圧倒的な力を持ち、其れに敵う力を持つ神は八百万の神の中でも数える程であり、完全に勝る神などその外に位置する神にしか居ないだろう。その行使は現状霊夢が降ろせる最終手段、更に其れを反射する月夜見の模倣効果の結界で増幅してすら未だ斃れぬ。其れは太陽の陽光を授かる衆生よりの逸脱を意味する。人妖神魔を圧倒して退けた時点で薄々こうなるのでは無いかと考えぬでも無かったが、彼女は能天気にもその懸念を擦り潰していた。

 

以前の戦いが幻想郷の強者としての参戦に対し、今回は調停者・博麗の巫女としての単独の、義務が被さった戦闘。霊夢はこの時ばかりは、自分の地位を心底呪った。

 

 

動き出す。只それだけでも、世界そのものが鳴動するかの様な感覚を覚える。炭化した表皮は身を揺り動かす度に零れ落ち、その奥よりは宵闇に溶け込む黒が見える。足跡はクレーターとなり、黒を取り戻した長大な尾は體の動きに連動して振られた。

 

胸部が幾筋もの光に貫かれる。純粋な殺意は臓器を狙い撃ちし、更に切り刻んだ。純狐の五指より純粋な力が放たれた。横に両断され、巨体が少しずれ、鮮血が撒かれたものの、その半身は泣き別れをするでも無く、骨が接合され、肉が再生され、皮膚が生成され、遂には完全に何の欠陥も無く元通りに戻ってしまった。更に怨嵳と神力の渦が取り巻くも、其の渦中においてゴジラは同じく怨嵳を放ち、耐え続けている。

 

ごうごうと常に吹き荒れていた暴風がふと、完全に停止する。暴風の風切り音はこの場に響く音響の何割かを占めていたので、場は少々の静寂の感が漂う。鎌鼬が地を削るのを止め、高速で吹き飛ばされていた石礫が推進力を失い重力に曳かれ、それ程の重さも無い砂は土煙となって暫しの間その場に留まった。

 

止めたのは勿論婆羅陀巍である。空を翔けていた巨体は重量を感じさせず地に降り立ち、体内放射で半分が爛れ乍らも精悍さと獰猛さ、神々しさを保った顏に埋まった眼を引き絞り、飛び掛かる体勢を整えた。対するゴジラは対照的に眼を皿の様に見開き、仁王も竦む仁王立ちで受け止める体勢を作った。

 

静寂の時間は終わった。今までの比では無い、荒れ狂い指向性を持った突風が鼓膜を劈き空気を飛ばす。その風を起こした婆羅陀巍は一瞬で音速を超え、更に加速する。狙うはゴジラ一つ。数キロの距離は一秒と要さずに詰められた。

その様子は正しく弾丸の如し、ただそれにしては巨大に過ぎる風神は、ゴジラに真正面から一撃を入れると、最早地平に隠れてしまう程まで一挙に吹き飛ばした。

 

婆羅陀巍は次いでニ撃目三撃目と肉弾を繰り出す。ゴジラの表情は窺い知れず、其れが尚恐ろしい。ゴジラの腕に力が入った。恐るべき力、一撃にして幻想郷を壊滅せしめる一撃。それは形ある動きとなって腕を振り上げ、勢い良く振り下ろした。

 

 

婆羅陀巍が一つ意思さえ浮かべれば、何十もの風が受け流し、切り刻み、受け止める堅くも柔らかい障壁がほぼ密着した両者の間に出現した。然し関係ないとでも言う様に、腕は障壁にめり込み、力のままに突破した。無数の切り傷を負うも負った傍から傷は塞がり、遂に婆羅陀巍の顔面に直撃した。

 

風の障壁はその機能を十全に発揮し、極限まで致命の一撃を弱める事に成功していたが、頭蓋の骨格が拉げ、肉が爪に引き裂かれ、其処からは鮮血が噴き出した。衝撃で婆羅陀巍の巨体は風に吹かれる紙切れの様に吹き飛ばされた。

 

それも音速を超え、血液を撒き、空中で何回も回転し乍ら、元の場所に叩き付けられた。それと同時に、骨が折れ、肉が裂け、血が落ち、痛みの余りの悲痛な咆哮の、痛々しい四重奏が奏でられ、一帯は婆羅陀巍の一部で赤く染められた。中心には変わり果てた婆羅陀巍の姿。まだ息は有る様であるが、勇ましく神々しい姿の面影は消し飛び、動く事も満足に出来ぬ体であった。

 

巫女服がどす黒い赤に染まり、のみならず体中が鮮血で染まった霊夢は、目の前に突然出現した地獄絵図が脳に入って来るまでに少しのタイムラグが有った。その暫しの間、全くと言っていい程体が動かなかった。

 

然し三聖獣は退かぬ。護国の為、その身であれば幾らでも差し出さんとばかりに、婆羅護吽と庵魏羅珠がゴジラに肉薄する。婆羅護吽が潜った先は全て融解し、庵魏羅珠は空中を氷結させ氷の道を作り、空中を駆ける。

 

ゴジラの周囲が融解し、ぐつぐつと煮えたぎる溶岩へと変化して行く。熱は一層の強さとなり、陽炎が限界まで視界を歪め、既に視覚で捉える形はまともな物では無く、黒に立ち昇る煙が映える空と赤熱し流動する地面との境すら混じり見えぬ。

 

だがゴジラにはその程度の熱など微風にも思われず、五感は何も視覚のみでは無い。鋭敏なる嗅覚、聴覚は視界が潰えた事により、寧ろ研ぎ澄まされ、地中に蠢き飛び掛からんとする婆羅護吽の鼓動一つすらもが手に取る様に把握出来た。ともすれば感情は一つ、近づく婆羅護吽を憤懣のまま、その剛脚で蹴る。

 

然し婆羅護吽も条件は同じ、寧ろこの環境下では婆羅護吽の方に有利とさえ言える。溶岩の中、大きく鈍まった蹴撃を難無く回避し、即座に逆方向に廻り飛び掛かった。

婆羅護吽はただでさえ巨体では有るが、共に跳梁した溶岩を纏い、婆羅護吽を中核としたその流動する、化生の姿の威容はゴジラをも上回った。

 

溶岩流がゴジラを飲み込み、水より高圧高密度の溶岩流がゴジラを押し流す。だがゴジラの命は更に脈動を強め、眼光はそれだけで生命を射殺すまでに強まった。

そして、咆哮を一つ。その威力はとても威嚇などとは言える代物では無く、衝撃波で迫る溶岩は吹き飛び、ゴジラの全身が露わとなる。地形は微細に粉砕され、婆羅護吽も負った傷から破壊され、半身が大きく抉られ、大きく吹き飛ばされて地べたに這いつくばる形となった。最早戦闘続行などは疎か、息も絶え絶え、満身創痍の状態にまでされた。

 

直後、ゴジラを襲うは絶対零度の冷気。吹き飛んだ溶岩、灼熱に熱せられた空間、そしてゴジラをそのままの形で凍り付かせた。婆羅護吽の残した灼熱で温度が上昇するも、庵魏羅珠の放つ冷却は即座に冷やし、絶対零度を維持する。ゴジラが身動きする度に巨大な氷塊全体が罅割れ、砕け散ろうとするものの、空いた隙間も又氷で修復される。

 

ゴジラが熱線を放つ。上方へと突き進む其れは、身を包み突き刺さる氷を打ち砕き、停止した分子を破壊し乍ら直進する。中途半端に溶けた氷で乱反射し、分化した内の幾つかは庵魏羅珠の體を削り、表皮の下の赤い血肉を曝け出させる。尚も庵魏羅珠は冷却を続けるも、最早熱線を止める術は無く、直前に庵魏羅珠が空中に創り出した氷塊を蹴り避けた直後、その氷塊は跡形も無く蒸発させられた。

 

庵魏羅珠が瞬時に創り出した山より巨大な氷塊は、それと同時に数多の破片となって完全に形を失った。直後、體を球状に丸め、棘を全方向へ突き出した庵魏羅珠が吶喊する。ゴジラは難無く片腕で受け止めると、その形は庵魏羅珠へと戻り、そのまま腕から飛び退くと、腕が氷漬けにされる。

 

ゴジラが軽く腕に力を入れれば、氷は砕け地に硬質な音を響かせ落ちる。

冷気は白い靄に変じ、あらゆる感覚からの情報を遮断された。熱気の次は冷気。一向瑩徹と成らず感覚を制限し続ける空間にゴジラは苛立ち、顎をかち合わせ牙を擦る。其れは靄の中の庵魏羅珠に先制を許すのに充分なものであった。靄を掻き分け、七本の角を湛え、鋭い牙がゴジラの喉笛に突き刺さる。

 

其れは決死の攻撃であった。朽ちた姿より折角信仰で蘇り、神を取り戻したにも拘らず其の命を捨つ時こそ、護国の使命を果たす時。其れは幻想郷は疎か、世界そのものに対するゴジラの脅威が存亡を見据えなければならない程強大な事を示している。

 

庵魏羅珠はゴジラの懐に潜り込み、牙によって抉り出した頸動脈を始点とし、自分毎包み込む程の冷気を放出する。庵魏羅珠は氷の鎧を纏った様に見え、ゴジラは凍り付き体内から機能を止められ、動きが鈍くなる。其れは停止に向かって行く。

 

だがゴジラとてあっさりと封じられる程に往生際は良く無く、精製し続けられる氷を腕っ節一つで砕き、庵魏羅珠の火傷し糜爛する顔面に手を掛け、重い切り叩き殺そうと甲羅に腕を打ち込んだ。頭部に掛けた爪は即座に鮮血で赤く染まり、撃ち込んだ腕は氷の壁を貫き、甲羅毎肩を抉り、庵魏羅珠の右上半身であった巨大な肉塊が吹き飛んでいった。支える肩を失った右上肢がドバドバと流れ出る血と共に零れ落ちる。

 

そのまま庵魏羅珠はがっぷり四つになってゴジラを止めようと組み付くも、庵魏羅珠は隻腕の状態で深手を負い、対するゴジラの怪力は例え庵魏羅珠が万全であろうとも及ばぬ程、結果は最初から火を見るより明らかである。

 

氷を砕き乍ら脚を踏み出し、庵魏羅珠に肉弾を叩き付け、一撃一撃が庵魏羅珠を破壊

する。喉に噛み付いた下顎が腕に引き千切られ、そのまま眼球まで抉り出す。掴んだ上肢は握り潰され、原型も残らず垂れ下がった。押し出され、轢き潰された下半身は肉と骨が砕け混じり、ミンチとなって砕けた地面に散らばり赤く染める。だが庵魏羅珠は全身を氷で固め、限界を超えて尚斃れ吹き飛ばぬ様に姿勢を固定し、血が零れぬ様にする。だが斃れぬという事はゴジラの破壊に晒され続けるという事、純化されたエネルギーと霊力弾の一斉砲撃にも毫も堪えた様子は無く、ゴジラは婆羅陀巍に突き飛ばされた軌道に向かい、氷塊と聖獣を壊し乍ら進撃し、霊夢達との距離が一キロメートルを切った辺りで、庵魏羅珠の肋骨を抉って腕を埋め込ませ、そのまま持ち上げ、留めに叩き付けた。

 

最早庵魏羅珠が満足に動かせる四肢は一つも無く、背甲が歪み、顏は筆舌に尽くし難く凄惨に壊され、とても直視に耐えうる状態では無くなった。

 

而して封じられた護国三聖獣は、その神性と肉体を犠牲にしてすら、ゴジラを止める事能わず潰滅した。竜頭蛇尾と蔑むは容易いが、其の神力と様相をありありと見た霊夢にはとてもそうには思えなかった。

 

只々ゴジラの力が護国三聖獣でも伯仲出来ぬ程強い、其れだけ。

 

遂に彼の者に匹敵する者は現れぬ様に見えた。庵魏羅珠の冷気が薄まり金剛、或いは水晶の塵の奥に見えたのは、尾を揺らめかせ、背に山と生えた背鰭は月光と冷気に照らされ、眼光は全く別な憤怒の輝きを見せ、絶対の破壊者として君臨するゴジラである。霊夢は嫌と言う程その威容を視界に収めたが、何度見ようとその度に気押される感覚が有る。

 

然し如何にゴジラが絶対に見えようと、陰の対に陽が或るが如く、その存在に対応した存在が在る。勿論、ゴジラにもその対の存在は在る。それらは互いに何らかで対に立する。

 

畢竟、その存在が此処に降臨した。

 

 

 

 

 

霊夢が金の光に包まれた。見れば、護国三聖獣や純狐も同様に包み込んでいる。負傷や疲弊がみるみる内に癒え、ものの数秒で完全に恢復した。だが意思に反して体が動く事は無く、意識が薄らいで行く。其処に不快感は無く、眠りに就いた様な感覚に身を委ね、霊夢は意識を手放した。

 

極彩に鎧を纏った翅を優雅にはためかせ、天照の陽光にも匹敵する、月夜を朝と見紛わせる後光を天から照らし、光速に限りなく近い速度で飛来し、虹色の極光を放ち乍らゴジラに其れは肉薄する。

 

その姿は大きな蝶、或いは蛾の様であった。最初に見えた翅の付け根は白銀の堅牢な鎧に覆われ、六対の脚を伴う躰も又同様に、金属質の硬質な鎧の煌きに包まれている。翅の長大さはゴジラを優に覆い隠せる程であり、その全てに漆黒の破壊のゴジラと対を為す様に、生命と輪廻を示す色とりどりの華麗な模様が刻まれている。

 

その雰囲気には何故か死の香りが渦巻いていたものの、虫の聖なる神が羽ばたく度に死は落ち、生に塗り潰されてゆく。

 

生の化身が放った極光はゴジラの頭部を深々と抉り、片目を潰した。側頭から血を流し、初めて破壊の化身は怒り以外の、苦痛に満ちた呻き声を上げた。更にその偉大にして巨大な姿がぶれたかと思えば、仄明るい閃光がゴジラの體を通り抜け、その巨体は吹き飛ばされた。横向きに倒れ、轟音と土煙が広がる。だがゴジラは其処で尾を振るい、背後に抜け出た極彩の神を殴り付けた。墜落する天の翅を、立ち上がったゴジラはその"双眸"で見降ろした。

 

止めを刺すべく一歩を踏み出そうとしたゴジラは、その一歩を踏み出せない事に気付いた。腕も動かぬ、尾も動かぬ。見れば白絹が纏わり付き、體を拘束している。

 

再び翔び上がり此方を見下ろす極彩に苛立ちと怒り、そして殺意を宿した視線を投げやると、邪魔な絹糸もろとも全て吹き飛ばさんと蒼い光を纏わせた。頑丈な顎は開かれず、放たれるは周囲の全てを破壊する大波。

 

対抗する様に巨大な翅から金色の鱗粉が落ち、送られる風に沿って空間中に広がる。

 

黒の全身が蒼く光ると、巻き付いた糸は即座に焼け落ち、更に周囲に広がる…

 

事は無かった。青いエネルギーは、舞い散る鱗粉に当たる度に拡散・減衰し、破壊を齎す事は無かった。更にゴジラは放射熱線を翅の中央の躰目掛けて放つ。極大の破壊と熱すらもが鱗粉に当たると幾筋に分かれ、その破壊力をも大きく衰えさせた。

 

熱線は鱗粉を以ってしても完全に防ぐ事は出来ず、重力に逆らう流星群の如く直線状に迸る熱線の内幾つかが直撃するも、躰に纏う鎧は強固極まり、減衰した熱線程度では墜落は疎か、まともにダメージすら受ける様子は無い。

 

お返しとばかりに高速で飛翔し乍ら翅から数千の極光を放つ。ゴジラは迫る光を見据え、咆哮を放ち迎撃する。喉が震え、粉砕の振動を大気に伝える。極光は掻き乱され、前半はゴジラに届く事は無かったが、圧倒的な手数は空を完全に昼の明るさとし、その光は一向途切れる様子すら無い。

 

咆哮が残響を残して消え去ると共に、ゴジラの巨体は呑み込まれた。引っ切り無しに轟音と閃光が放ち続けられる。数分経って漸く其れは止まり、白煙に包まれた。

 

白煙が大きく吹き飛び、ズンと一際大きな音が場を支配する。

轟音は一定間隔で鳴り続け、軈て全ての白煙が吹き飛び、背鰭が浮き出る。背、頭、尾と姿を顕し、重く鈍く尾を叩き付けた。巨大な黒い影が徐々に形を明瞭にし、疵一つ無い怪獣の姿が現れる。

 

下降し攻撃せんとする極彩を睨み付け、ゴジラは體を起こし、垂れた腕に力を入れ、大きく咆哮した。

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