東方呉爾羅伝   作:2147483647の塊

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今回は短めです。


盤上へ上がる大駒

不気味な目玉が覗く空間の内、空間は非常に異質なものであり、その中の全てを紫色に反射させる。其れは凡そまともな存在の上に立脚されたものでは無く、次元と次元の"スキマ"に無理矢理開かれたもので有る。其処に建つは一見して普通の木造の平屋であった。

 

その中の一室には十人を超える少女の姿の人妖神魔が揃って顔を突き合わせて居り、人間は疎か、中堅の妖怪でも空気に押し潰されてしまいそうな、正しく魑魅魍魎の一室と化していた。場は通夜の最中かと思われる程沈鬱な雰囲気に包まれ、少女達は誰も一言たりとも口を開く事は無い。

 

目的は、言うまでも無くゴジラの対策会議である。特殊な手段により人妖を避難させ、流血は少なかったが、ゴジラ襲撃により受けた爪痕は大きく、更に拡大する前に何としても止めなければならない。然し、其の会議は一向に進展を見ない。

 

摩多羅は脇に控えさせた二童子と小声で何かを囁き合い、時に悲壮、時に憤怒と百面相を切り替えるが、この場において皆に聞こえる声では無い。上座に座る紫は何時に無く焦燥を浮かべ、誰かしらの発言を待っている。鬼達は敗北を喫し、幻想郷そのものの危機だと言うのにも拘らず余り真剣さは見えない。表情こそ真面目なものの、力で負ければ別段の考えも無く、諦めに近い言葉を交わし合っている。執着が無く潔いと言えば聞こえは良いが、逆に今は力以外何の働きも無い。どうやら鬼は内政にはとんと向かぬらしい。

 

幽々子は何かに心寄せている様に扇子で顔を隠し、全く動揺していない。この場において完全に冷静であるのは彼女だけであり、尽く尽く肚の内は読めない。

 

この空気に耐えかね、最初にレミリアが口を開いた。

 

「あれを倒す為の作戦を立てる為に此処に集まったんでしょう?誰か何か言いなさいよ。これじゃあれに時間を与えてるだけよ。」

 

目を瞑り胡坐をかいていた神奈子が目を開き応酬する。

 

「誰も彼もあんたみたいに何も考えていないと思うな。其れが簡単に出せれば苦労はしないんだ。」

 

レミリアは反駁する。

 

「だからその考えを出すんでしょうが。知恵を寄せ合わないで一人でうんうん考えているんじゃ何の生産性もありゃしないわ。」

 

その発言を皮切りに、ぽつりぽつりと意見を出す者が出始める。その一人、茨木華仙が言った。

 

「今戦闘中の龍神、魏怒羅様を支援する形ではだめなのでしょうか?」

 

すると紫や隠岐奈、神奈子や永琳までもの表情が忽ち苦渋に歪み、婉曲な否定の言葉を並べた。

 

彼の怪獣に対抗するとすれば、幻想郷の最高神となる龍神が最も良いだろう。されば其れは何故かと問えば、更に表情を顰め、しばし言葉に窮し、そして尤もらしい説明を述べた。

 

曰く、龍神の雷の中では我々は足手纏いにしかならぬと。

 

曰く、その強大さ故に龍神に巻き込まれる恐れが在ると。

 

其れは確かにそうなので有ろうが、頑なに龍神との共闘を許さず、魏怒羅と言う単語が出た途端に四人は顔を歪めた。その様子は、この場の面子に不信を買うのに充分過ぎた。

 

華仙はこの他にも何か隠された物が在ると見た。遥か昔より幻想郷の賢者をしている二人と、神代より存在し続ける神奈子、遥か古代より存在した永琳が反応した事から見るに、遥か太古にその何かが在ったのだろう。

 

そう思い考えに耽る華仙を置いて、紫達によって再び会議は元の流れに戻った。

 

彼女等は口角から泡を飛ばす事無く、停滞は何だったのだろうと言う円滑さで決まって行く。其れは矢張り魏怒羅をサポートしようと言う方向へ進んで行った。紫や神奈子が流れを変えようとするも、方向は変えられない。

 

だが、紫の傍に出現した九尾、八雲藍の報告により、場の空気は再び奈落の底に叩き落された。

 

「魏怒羅が敗北、死亡しました。」

 

ただ其れだけの、とても短い報告を残して再び消え去った。

 

其れ切り、先程までの円滑な議論は無に帰し、再び沈黙に支配された。

 

華仙は、其れを聞いた時の、紫が扇子の裏で一瞬笑みを浮かべたのを確かに見た。華仙は矢張り魏怒羅の裏に何かが在るのを確信した。

 

唯一に近い希望が潰え、この場のほぼ全員の顔に影が差した。ただ一人、幽々子のみが泰然とした態度を崩さぬ。

 

其れに気付いた者が不気味がって尋ねると、幽々子は"モスラ"なる存在に満幅の信頼を置き、其れがゴジラをも斃し得ると考えているらしい。然しあれと同等以上の存在が居るなどとは俄には信じ難く、議論に流された。

 

魏怒羅が滅せられた現状での案は、それ以前のものより遥かに勝算の低いものとなった。

 

元より戦術とは主に多対多を前提としたものが多く、巨大な個との戦争はどうしても取り得る戦術の幅は狭まる。彼に攻撃が効かず、又どのようにすれば突破できるのかと言う情報も完全にブラックボックスの中である現状では打撃を与えられる存在は希少であり、其れを失ったとなれば無理も無い事で有ろう。

 

頭を抱えていた時、再び藍が報告に出現した。

 

「友好的な怪獣三体が出現し、霊夢と純狐と共に怪獣と交戦を始めました。」

 

この報告の全ての要素の一つ一つが、場をざわつかせた。何故か永琳のみの顏が蒼白に染まった。

 

先ず霊夢が再びゴジラと交戦している事。本来霊夢は永遠亭に居る筈だが、何故そんな所に居るのか。その追及は当然永琳に向いた。

 

幾つかの殺気さえ受けるも永琳の様子は全く変わらぬ。

 

蒼白の顏を上げ、説明を始めた。

 

魏怒羅は森羅万象を創り出した神などでは無く、宇宙から来襲した怪獣であると。

 

元は護国三聖獣━永琳はその怪獣をそれだと考えている━と言うものは、数千年前に朝廷が調伏した怪獣を護国の神として奉ったもので有った。然し、外宇宙からの終焉によってその内二体は滅ぼされた。星を息をする何の如く滅ぼす高次元の龍は桁違いの力を持ち、護国三聖獣の内二体をあっという間に殺し、或る助力と婆羅護吽によって暫しの間抑え込む事こそ出来たものの、完全に倒す事は疎か、疵一つ付ける事は出来なかった。

 

其処で取った手段が、信仰による封印である。

 

神が時と共に性質を異とする事は、大いにあり得る。其れを利用して封じ込めたのだ。通常であれば神格を得ると言うのは強大な事の証左でも有るのだが、相手はその埒外に座する者で在る。

 

絶大な神力を持つ助力の存在が、黄金の龍に神格を与え、世界中の者の認識を歪め、善神としての信仰を植え付けた。神の力を得た龍は、信仰により善なる存在へと変質し、更に信仰が永遠に失われぬ様、助力の存在と魏怒羅も護国三聖獣に数え、偉大な龍神として祀った。

 

然し斃された事により偉大なる龍神としての信仰は弱まり、何らかの信仰を受けて真の護国三聖獣が現れた事により、護国三聖獣としての信仰は彼らに移ってしまった。只の神ならば僅かに残った信仰で事なきを得る事が出来るのだが、魏怒羅の場合は弱まった神力の枷を食い破り、元の終焉が鎌首をもたげ、この星を刈り取ってしまうだろうと。

 

霊夢はその終焉に刃を届かせる可能性を秘め、終焉に打ち克つ事が出来る為行かせたと説明した。

 

幻想郷の最高神である龍神がカムフラージュに過ぎない事に、場に大きな動揺が走った。

 

紫が魏怒羅は死んだ、もう脅威は無いだろうと言えば、永琳は終焉は文字通り次元の違う存在、不死身の存在など特に珍しくも無い中、其れで完全に殺したとは言えないだろうと返した。

 

二つの謎は解けた。残る謎は一つ、何故幻想郷に月に仇為す神霊、純狐が居て、しかもゴジラと交戦しているのだろうか、と言うもの。

 

これに関してはこの場の誰も何も知らず、答えられる者は誰も居なかったが、直ぐに謎は解けた。

 

この空間において異質な存在が、部屋の中央に突如として現れた。明らかにこの場に則わぬ、通常取るに足らぬ妖精と言う存在。然し、此処に降り立った、松明を持ち、妙な恰好をした妖精は、全員の注目を集めるに充分値した。

 

どうやら彼女は何か伝言を伝えに来た様である。彼女は口を開いた。

 

「もうすぐ御主人様が怪獣を倒しに来る。準備しておいて、だって。御友人様にも伝えて、ここにも伝えたから、これであたいの仕事は全部かー。じゃあねー。」

 

とだけ言うと、出て来たばかりだと言うのに、直ぐに姿を消してしまった。

 

あの妖精の主人と言えばただ一人、地獄の女神、へカーティア・ラピスラズリ一人である。

 

単独で幻想郷と月を滅ぼせる絶大な力を持つ、超越的な神。

 

超弩級の味方と敵が同時に出て来た事に、紫は頭を抱えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴジラの眼光は、極彩を映して鋭く光る。不倶戴天の敵に向け、余りに強い憎悪と憤怒と殺気を込めた威嚇をぶつけ、音の数十倍を超える速度で、虹と光沢の残像を残して迫る翅に向けて剛腕を振るう。

 

モスラの巨大な翅の金属質な縁が鋭く光を反射する。あらゆる攻撃を弾く鎧は、それと同時に相手を引き裂く刃ともなり、攻守一体の戦闘態勢の最たる要素の一つである。上に向けられた腕が翅に当たる。広さに反して非常に薄い翅は、肉と皮、骨の組み合わさった、如何な鐵を幾ら積もうとも及ばぬ堅牢さを持つ體を容易に切り裂いた。

 

腕を両断し、次に頭蓋、胸部、腰部、尾部と何の抵抗も無く切り下げ、両断した。

 

だがゴジラとてただではやられぬ。振りかぶった腕は、容易に数百キロ先まで巻き込む衝撃波を上方に発し、モスラに絶大な衝撃を与え、成層圏まで吹き飛ばした。

 

モスラの、比すればロンズデーライトを豆腐と称して良い程の硬度と、重金属を遥かに上回る靭性を持つ鎧を以ってしても、幾らかのダメージを受ける強さのゴジラの攻撃。糸で威力を殺した訳でも無い状態なら、只腕を振るうだけでもこれ程。モスラとてそう何度も受け続けは出来ない。

 

更に宇宙の果てへと押し出そうとするのを翅を広げて押し留め、極光を放ち、ゴジラに向けて突進する。其れは千分の一秒にも満たぬ間に音速を突破する勢いで加速し、光の速度へ達した途端に姿を消した。

 

ゴジラは體を一刀両断されたにも拘らず、一切のダメージを受ける遠慮は無い。刃が通り過ぎた傍から接合し、何も無かった何の如く熱線をチャージする。

 

明るく明るく、何処まで行っても明度は極まらぬ。異常に鋭敏な視界に宇宙に飛ばしたモスラを収め、加速度的に極大のエネルギーを生成し、集中し、蒼い光が口から漏れ出した時、不意に絶大な衝撃が走った。

その衝撃に、ゴジラは熱線の準備を中断せざるを得なかった。

 

ゴジラはその脚力を用いて吹き飛ばされぬ様にし、前方に見えるモスラに向けて咆哮を上げて駆けだすも、腕が突如破裂した事により驚愕に歩みを止めた。頑強さ故腕が千切れ飛ぶ様な事は無かったが、傷口から大量の小さなモスラが飛び出し、鱗粉と糸をゴジラに纏わり付かせて母体に戻る。分身を体内に仕込み、攻撃を中断させたのだ。

 

糸に拘束され、猛毒の鱗粉に包まれた様子で尚もゴジラの怒気は場に重圧を掛ける。翻弄された苛立ちと怒りは力となってモスラに向けられる。強靭極まる糸も軋む音を上げて引き千切れ、踏み出した一歩はクレーターを作り、怨念と放射線を撒き散らし、二万四千年の死を与乍ら突き進む。

 

再び切り裂こうとした翅は僅かに手に切り傷を付けたのみで終わり、確りと掴まれてしまった。モスラは巨大な隕石や大陸をも一撃で打ち砕く程の威力の熱光線をゴジラの顔面に放つも、放射熱線により相殺され、何の効果も齎さなかった。ゴジラが掴んだ指に力を入れれば、纏った鎧毎翅が拉げ、金色の鱗粉が舞った。そのまま何度も叩き付け、投げ飛ばす。

 

モスラは空中で制動を取ろうとするも、傷害を負った翅では完全に梶を取る事は出来ず、六の肢を地に着ける事となった。

 

散った鱗粉を収束させ翅を修復させ、咆哮するゴジラと向き合う。

 

竜騰虎闘とは正にこの戦いの為に在ると言っても過言ではない。強者同士の闘いとは、得てして一瞬で終わるものが多いが、規格外の存在となれば今度は逆となる。

 

モスラの纏う鎧はあらゆる攻撃を寄せ付けぬ。ゴジラの體は頑強極まり、更に異常と言わざるを得ない再生力も備えている。然し互いの持つ最大の矛は膝を付かせる絶望の盾をも貫き得るものの、互いにそれを理解している為、みすみす使わせる様な真似はしない。

 

ゴジラが熱線の予兆である輝きを放ち、モスラが光をも上回る速度で、時空を歪める程の突進をしようとした時、其れは現れた。

 

火花処かあらゆる生物が一瞬で死滅する毒鱗粉と、致死量を鼻で笑える量の放射線、そして肌に突き刺さり、心を打ち砕く、この世のものとはとても信じられぬ鋭利で濃厚な殺意。その中において平然と浮いている、キトンを着た少女。

 

彼女は下方で金のオーラに包まれ、安らかに眠っている純狐を確認すると、ゴジラの方へ向き直った。背後からは彼女の表情を窺い知る事は出来ない。

 

次の瞬間、幻想郷からゴジラは消失した。少女も又、姿を消していた。

 

 

 

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