東方呉爾羅伝   作:2147483647の塊

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高次元を飛翔せし龍

霊夢は意識を取り戻した。周囲には鱗粉。空にはモスラが飛翔し、幻想郷の修復の芽を吹かせている。

 

……先程の、異常にして凄絶なるカタストロフは、夢だったのだろうか。いや、違う。確かに夢だった事にしたい出来事ではあったが、この現象には覚えがある。霊夢が永琳に飲まされた紺珠の薬によるものだ。

 

この薬の域を遥かに逸脱した薬の効果は、飲んだ者の目的が達成されるまで、失敗した際にはやり直す事が出来る、と言うものである。

 

霊夢の目的は、ゴジラを退治し、幻想郷を滅ぼされない様にする、と言うものである。ゴジラ達によって幻想郷どころか宇宙まで滅ぼされた事は、言うまでも無く失敗と判断され、意識を取り戻した地点へと戻されたのだろう。

 

となれば、この後にはへカーティアと変質した龍神とゴジラが出現し、あの破壊光線を以って全てを破壊されてしまう事だろう。あれを防ぐ事など、到底霊夢一人に出来る業では無い。蟻が鳴動する大山に立ち向かう様なものだ。

 

となれば、あれを止められるのは、この場においてあの大怪獣二体に対抗し得る存在である、モスラとへカーティアを置いて他には居まい。

 

その様に考えていると、矢張り先程と同じくへカーティアが出現し、宇宙を握り潰した。すると、全く同じ様に二体の怪獣が出現し、圧し潰される様な気迫を撒き散らしながら闘争を始め、互いにあの途轍もない破壊を生み出す光線のチャージに入った。霊夢はゴジラに相対する三つ頸の龍に向け、光弾を打ち出した。怪獣のそれには遠く及ばずとも、かなりの霊力が籠められている。

 

それは龍に近付き、カウンターの様に放たれた引力光線にあっさりと撃ち落とされた。然し、霊夢の狙いは其処では無く、そして、既に達成された。

 

放たれた引力光線に気付いたモスラとへカーティアは、先程より数秒早く対処に向かった。

 

モスラがキングギドラに向けて鱗粉と極光を放ち、更に念動力を用いて、キングギドラの引力光線を霧散させ、減衰させ、被害を最小限に押し留めた。

放射熱線を最大まで溜め、後は発射するだけと言うゴジラの頭にへカーティアは異常な程の威力を持った一撃を叩き込み、顎門の半分から上を千切り飛ばして熱線の発射を阻止した。再生した頭部はキングギドラの歯型を残し、隻眼のままだった。

 

霊夢の狙いとは、一刻も早くモスラとへカーティアを動かす事だったのだ。狙いが達成し、霊夢は肚の裡でガッツポーズをした。

 

だが、モスラとへカーティアを叩き落とさんとゴジラが尾を振るえば、衝撃波が空間を伝い、地面を粉々に粉砕し、幻想郷の全ては瓦礫と化した。

 

戻った。再び鱗粉の中から立ち上がり、先程と同様の動作をした。今度はモスラが翅を使ってゴジラを地面に倒し押し付け、キングギドラに向かって七色の極光を放つ。

キングギドラの眼前まで迫った極光は突如出現した闇に飲み込まれ、ベクトルを変えてこちらに飛んで来たと思うや否や、太平洋諸共に日本は蒸発した。

 

もう一度。モスラの極光はへカーティアが弾いたが、背後にキングギドラの頸が出現し、彼女を喰らわんと襲い掛かる。へカーティアは苦も無く避けたが、その頸の喉笛は黄金に輝いていた。それは放たれ、金色の引力光線として地殻から全てを巻き上げ、終末を感じさせる光景を創り出した。その威力は進む先の物を例外なく消し、遂には幻想郷を消し飛ばした。

 

やりなおし。引力光線に対抗する様に、ゴジラが体内放射を放った。蒼き炎の壁が眼前に広がる。それに触れただけでも耐えられる物質などは無く、圧倒的な破壊力が回避の隙間など無く、全方位を焼き尽くし、崩し、轟音と閃光の津波に呑み込まれ、全ては灰燼に帰した。

 

……。モスラが鱗粉を撒いて光線を撃たせず、へカーティアがこの場に有用であろう、有りっ丈の魔法を使い、ゴジラとキングギドラを抑え込む。怨嵳に燃える隻眼がモスラを睥睨し、長大な尾を叩き付けるも、その軌道には数万数億と言う防護魔法が出現し、その衝撃を削り殺す。僅か数秒で、隕石をも容易に防ぐ魔力の壁は壊されたが、神なるパピヨンの纏う鎧は飾りなどでは無く、逆に尾を弾き返した。

 

その隙を突いてキングギドラが破滅なる三の顎門をけしかけて全員を抹殺しようとする。モスラとへカーティアは苦も無く避けたが、機動力には乏しいゴジラは、胴体部を大きく抉られた。その傷は治癒する事は無く、不滅の再生力を誇るゴジラに、明確な傷跡を残した。

 

更にキングギドラは重力を操作し宇宙を潰そうとするも、モスラは念動力で対処出来、へカーティアなどは元より重力を司る神ともされる。重力操作は、二柱の神により、全く効果を為さなかった。

 

その刹那、ゴジラが確りと脚を踏み締め、地面を砕きながら脚を上げ、また前方に脚を叩き付けて突撃する。それだけでも衝撃波が駆け抜け、中空を舞う鱗粉も、地形も吹き飛ばし、へカーティアの魔法とモスラの念動力で押し留めて尚破壊を続け、須臾なれど悠久の時が過ぎた何の様な緊張を伴い、とうとうその體が届く。

 

避ける事は容易であるが、それを行えば幻想郷は破壊される。であれば残る選択肢は受け止めることしか残されては居なかった。

 

モスラが突進する。その速度は光速に肉薄し、そこから生み出される破壊力は計り知れない。更にへカーティアが加速させ、速度を更に上げる。一瞬にして衝突した。本来飛散する筈の衝撃は、槍が如しモスラの突進がベクトルそのものと言える程に加速している故ただ一点に集まり、凄まじい力と力が鍔競り合う。

 

だがゴジラは、尚も怪力無双であり、剛健にして並ぶ者の無い力を持って居た。ゆっくりと、実にゆっくりと、均衡がゴジラ側に傾いて行きそれは徐々に加速する。ゴジラはモスラを叩き伏せ、そして力一杯踏み付けた。幻想郷が衝撃により殆ど壊滅し、そして見下ろしたゴジラは蒼い光を放っていた。

 

鱗粉は既に吹き飛ばされ、効果を失っていたのだ。

 

ゴジラが動けないモスラに放射熱線を放つと同時に、へカーティアの姿がその場から消え、先程までへカーティアの居た場所に、引力光線の軌跡が描かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

鱗粉を物理的干渉から飛ばす事で、吹き飛ばされてしまわぬ様にした。だが決まり手が変わっただけであった。モスラが動けぬ事は変わらず、へカーティアはモスラを補助していた隙を突かれ、キングギドラの在るかも判らぬ臓腑の中へと消えた。

 

 

へカーティアに危機を伝えた。彼女は避けたものの、モスラを援けていた魔法は解けてしまった。メキメキと言う音が響き、最後に砕ける様な、金属質の音が響いた。モスラの纏う鎧は金城鉄壁のそれであれども、ゴジラの力はそれすら上回った。

幾らへカーティアが強くとも、ゴジラとキングギドラの二体共を斃す事は不可能に近かった。

 

 

 

 

 

……………キングギドラが引力光線を放った。幻想郷は滅亡した。ゴジラが放射熱線を放った。幻想郷は滅亡した。一体何度紺珠の薬を使ったのか、最早当の本人である霊夢ですら途中でを勘定を止めた。

幾ら手を尽くそうと、あちらが立てばこちらが立たず、モスラとへカーティアと言う、敵を単騎で抑え込む事が出来る強力な味方が居るにも関わらず、一挙一動のみで幻想郷が崩壊する。

 

 

 

 

ゴジラは幾ら攻撃を叩き込もうとも、一向斃れぬ程の耐久力と、一撃の余波ですら地面を粉々に粉砕し、脈打たせ、破滅を齎す、圧倒的な破壊力を持ち、キングギドラに関してはそもそも一撃たりとも有効打を入れられない状態であり、如何な力を持つのかも判らなければ、倒す方法すら分かりはしない。あたかも霊夢の能力の様に、あらゆる干渉はすり抜けてしまい、何の効果も無いのである。

 

夢想天生の攻略などと言うのは、その張本人である霊夢は考えた事も無い。そんなものを考える意味なんて無いとも思い、それが必要になる、しかもこんな重要な局面で必要になるとは夢にも思わなかった。そもそもキングギドラは霊夢のそれとは全く別の方法を取っている可能性も多いにあり、そうなればとうとう一縷の希望も潰える事となる。

 

霊夢はやり直した。やり直した。やり直した。やり直した。もう数千回、数万回とやり直した。だが達成する事は一度だって無く、霊夢の精魂は最早尽き果て、絶望に沈もうとしていた。

 

 

 

 

 

やり直し……。霊夢は、再び眼を覚ました。然し、その視界は幻想郷の光景を映し出す事は無かった。床も壁も天井も空も、地平線も区別の付かぬ、一筋の影すら無い白い空間に居た。広さも果ても解らない事は恐怖を誘い、光とも影とも付かぬ空間は、幻想郷処かこの世界ですら無い事をありありと示していた。

 

紺珠の薬の効力とは到底思えず、霊夢は狼狽したが、このまま何もしない事にはどうしようもないと考え、歩き始めた。霊夢は確かに立って歩いて居たのだが、その空間に居る中では、まるで這い蹲っている何の様な感覚を覚えた。

 

飛ぶことも適わなかった。この空間においては、霊夢の能力は無効化されている…と言う事は無い様だ。先程の徒歩が地面に押し付けられ這い蹲る感覚だとすれば、飛行している現在は、立ち上がっている様な感覚であった。

 

しかし一体どう言う事なのだろうか。限りなく広い筈の元の世界が妙にちっぽけで窮屈に見え、今目に見えている不可解な世界に飛び立ち、自由に移動する事が出来ないのがとても口惜しく感じる。

 

上空に瞬間移動をしても、相変わらずどこまで続くとも知れぬ床の上にしか出ない。否、"高度が変わった"と言う現象こそ起きたものの、それも平面上のテクスチャーを張り替えただけの様なものであった。

 

まるで仰角を付けて世界を見ている様だ。高次元を見ている何の様だ。

 

そんな事を考えていると、何の変化も無く、然し霊夢の意識を惹き付けてやまない純白の虚無の世界に、大きな変化が現れた。

 

翼を羽ばたかせ飛翔する三頭二尾の黄金の龍。それは霊夢が入る事の出来なかった領域に、呼吸をするより容易く縦横無尽に移動し、そして霊夢に、不気味で悍ましい三対六の眼を向けた。

 

恐怖が脳裡に巣食い、身が震える程の気迫に押し潰されそうになりつつも、脳のもう片方では、自分でも驚くほど冷静に、高次の世界に君臨するキングギドラを観察していた。

 

その龍の姿の空間の統べる高貴さと支配、絶対者たる威容もさることながら、霊夢にはそれすらがホログラムの様な朧さを纏い、その後ろには、脳が認識を拒否する程の巨大な、"本体"が覗いていた。その姿こそ龍のそれであったが、世界そのものを一飲みにする程の途方も無い大きさと力を持つ。三つ頸の龍の像を通して、矢張り三つ頸の高次元の龍が此方をはっきりと認識して見据える。

 

 

紺珠の薬の効果にさえも軽々と干渉するキングギドラが、その顎門を大きく開いた。然し霊夢はどうにもならない事を、本能的に知り過ぎる程知っていたので、寧ろ焦る事無く自分でも訳の判らぬ事を考えていた。

 

彼の外宇宙怪獣は、高次元を飛んでいる。そう、飛んでいるのだ。確かに飛んでいる。

 

ただそれだけが、脳内で反芻する様にぐるぐると回る。霊夢が鬱陶しいそれを脳内から追い出そうとした時、霊夢はその意味を真に理解した。

 

 

 

 

 

 

 

 

神を降ろす。その神は、八百万のどれでも無く、先程まで霊夢と共に戦っていた内の一体。

 

霊夢の背に、美しい翅が生えた。その柄は極彩なれども、色彩には霊夢を象徴する紅白が多分に含まれている。それと同時に、霊夢の華奢な身体に似つかわしくない、強大極まる力が溢れ出す。

 

霊夢は飛んだ。この世界より。この次元より。同じく高次元を飛ぶキングギドラに向かい、モスラの翅の神力を存分に発揮し、"空を飛ぶ"能力を発動させた。霊夢はキングギドラに近付き、今まで影を掴む様なものであったキングギドラの余りにも巨大な體を掴み、高次の世界より、元の"地上"へと引き摺り下ろす。

 

本来であれば、霊夢が幾ら高次の存在と成りてもキングギドラとの力の差は歴然、同じ土俵に立ったと言うだけで、どうする事も出来ない筈であった。

だが霊夢は、ゴジラにも比肩し得る大怪獣、モスラをその身に宿している。その力は非常に強力であり、それはキングギドラを引き摺り下ろすには充分なものであった。

 

どんどんと世界が近付く。手にはキングギドラを掴み、モスラの異常なる力が宿された状態で。そして、モスラを宿した霊夢とキングギドラは、基底の次元の世界に飛び込んだ。

 

最早キングギドラは高次元より空爆染みた一方的な攻撃を加えるのみの存在では無く、実体を持ち、触れ、壊せる存在となったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴジラがキングギドラに飛び掛かる。またすり抜けて意味も無く終わると考えられた腕による一撃は、然しキングギドラの體を捉えた。圧倒的な破壊力がキングギドラを蹂躙し、頸を千切り、肉を引き裂き、骨を砕き、そして自らを凌駕する巨体を、腕一本で大きく吹き飛ばし、嘘の様に空中で数回転もし、地面に叩き付けられた。へカーティアが驚愕に満ちた表情を浮かべた。

 

然しキングギドラはすぐさま起き上がり、続けざまに迫るゴジラの一撃を大きく広げた翼で受け止めた。衝撃が殺され、尾を押し退けた翼で隠れた體が再び現れた時には、もう既に欠損箇所は全て修復されていた。

 

ゴジラに向けて、翼の先端より光線が放たれる。それは一撃でゴジラを土煙の中に沈めた。

 

 

 

キングギドラは目一杯翼を広げて咆哮する。仕切り直しだと言わんばかりに、その六の眼球には怒りを浮かべて。

 

土煙の中から這い出たゴジラが咆哮を応酬する。

 

浮いていた霊夢の背後よりモスラの巨大な極彩の翅が現れ、ゴジラに潰された身体の代わりに霊体となって顕現した。

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