咆哮と同時にキングギドラが飛び立つ。今までの実体の無い飛行方法では無く、確りと質量と風を伴う飛翔である。いの一番に飛び立ったキングギドラに向けて、虹の極光に、赤の魔弾に、蒼の熱線が殺到する。
キングギドラ程度の質量であれば容易に消し炭に出来る威力の攻撃が三方向より迫り、逃げ場や避ける猶予など一分も無く、本来ならこれで勝利を確信しても良い所であるが、キングギドラの強大さはこのようにあっさりと斃される程一筋縄で行くものでは無いと解って居るので、三者三様に油断無くキングギドラを消し飛ばさんと進行する光に鋭い警戒を走らせる。そして、それはやはり現実となった。
キングギドラが顎を開けば、忽ち闇が光線との間に展開され、それに触れた苛烈なる光は呑み込まれ、爆発も貫通も引き起こす事無くそのエネルギーは無に帰した。
そしてお返しとばかりにキングギドラの喉元が煌々と光を放ち、そして引力光線が放たれた。三つ首の内一つはモスラ、もう一つはゴジラ、最後はへカーティアに向き、一撃にして幻想郷を破壊出来る威力の金の光線が向かう。
モスラは鱗粉を散布して光線を反射し、へカーティアは重力を操作して打ち消し、ゴジラはその剛健たる肉体のみで耐え忍ぶ事で、各々異なる方法で対処する。
更にへカーティアの異様な密度と威力の弾幕を潜り抜け、キングギドラは急降下する。
潜り抜けと言っても、避ける訳では無い。地獄の女神が殺傷のみを目的として生成した、視界を埋め尽くす弾幕が絶え間なく直撃し、一発につきツァーリ・ボンバもかくやと言う程の爆轟が金の鱗に立て続けに殺到する中、特に堪えた様子も無く突き抜けるのである。
空中に一瞬で生じた光が蠢く海が一点に集中し、炸裂して発生した視界の上を全て覆い隠す様な爆煙を付き破り、キングギドラは突進する。その速度は実に音の数十倍、六つの眼の先が示す、攻撃の目標はゴジラ。二本の脚を突き出し、その隕石をも上回る衝撃を以って、眼前まで近付いた黒き巨神を葬らんと、巨大なる黄金と暗黒の一閃がゴジラの眉間目掛けて衝突した。ゴジラも又降下するキングギドラを些かの動揺も無く睥睨し、腕を掲げて迎撃の体勢をとった。
凄まじい衝撃により、周囲は吹き飛ばされ、轟音が衝撃波となって同心円状に駆け回った。本来であればキングギドラの一撃は、容易に幻想郷を壊滅し得る絶大なる威力を持っていたが、ゴジラがそれを迎え撃つべく、その身で受け止めた事により、図らずも破滅を防いだのである。
紺珠の薬の効果がキングギドラにより無効化された現状では、やり直しは効かず、又キングギドラに攻撃が通じるようになった事で、却って怒り狂ったキングギドラの攻撃はより激烈になり、それに応酬する様に、ゴジラの攻撃も苛烈になって行く。元々一挙一動が破滅を招く程の化け物であったのが、更に激しく力を振るう今は、キングギドラが一応の撃破可能な状態になっている事以外は、寧ろ状況は悪くなっている。
両脚と両腕が互いに攫み合い、恐るべき怪力を以って握り潰さんとし、更に圧倒的な殺意を籠めた視線をぶつけ合う。睨みあう合計八つの眼球は、全てが獰猛にして極めて強圧な、心の臓を鷲摑みにするが如し憤怒と殺意を隠す事も無く剥き出しにしていた。
そのままキングギドラは急速に體を近付け、頸の額を鈍い音と共にゴジラの頭蓋に叩き付け、更にもう一つの頭で胸部を削り、残りの頸は絡み付いて縊り殺さんとする。ゴジラは脚を掴んでいた腕を放し、此方を塵も残さず消そうとする頸に、鋭利で凶悪な爪を突き立てて鱗を剥がし、内の光と闇を綯い交ぜにした様な不気味な中身が露出する。
そしてその怪力を駆使し、キングギドラを振り回し叩き付ける。その衝撃による被害を危惧したへカーティアが即席で作った結界にそのまま叩き付けられ、ある程度の衝撃を殺して割られ、キングギドラが地に伏した。衝撃を吸収しても尚、その着弾点にはクレーターが生じた。
地に伏す屈辱を受けて憤怒し、虚空の景色を浮かべた翼全体が発光する。モスラが鱗粉を散布して来たる光線を防ごうとするも、それはたった一度の羽ばたきによって無に帰した。
大きく広げた翼から幾多もの引力光線が放たれ、キングギドラが屹立し睥睨する地点より上方数十粁の悉くが破壊される。閃光が瞬き、次の瞬間にはドーム状の光線が縦横無尽に駆け、その軌跡に在った物を消し飛ばす。その中心に立つキングギドラの姿は、まさしく魔王や神といった言葉を連想せずにはいられない威厳と神々しさを持って居る。不幸にも範囲に入った天界の一部は次元を歪められて塵一つ残らず消滅し、上方の全方位に隙間無く引力光線が通る。
へカーティアはすかさず別次元へと退避するも、終焉の光線は、その先の世界までを消滅させる。彼女は更に何回か次元歪曲を繰り返して、漸く引力光線から逃れた。モスラは吹き飛ばされた鱗粉を再び自分の周囲に展開し、引力光線を防いだ。流石のモスラも、即座に空間全体に鱗粉を充満させる事は難しい様だ。
そして標的となったゴジラは、為す術も無く引力光線に體を削られ、副次的に発生したブラックホールに引き裂かれ、闇の中に呑み込まれ、その行方を眩ました。
莫大な重力が集中し、この世の理を無視して顕現したシュバルツシルト特異点の先に、キングギドラとゴジラは姿をすっかり隠している。このまま行けば太陽系はあの闇の中に吸い込まれて消えて無くなってしまうため、モスラが念動力を使って出来るだけ重力を散らし、へカーティアはキングギドラの作った数十粁の闇を取り囲む様に、重力圏外までの異空間を作成し、幻想郷の崩壊を防いでいる。
道理に従えば二体は細く伸ばされ、最早命処か形も残って居らず、一瞬が永遠にも引き伸ばされているのだろうが、どう言う訳か時折黒色矮星を貫いた時と殆ど変わらぬ威力を持った熱線が撃ち出され、又あらゆる物を貫き、次元を引き裂き、無茶苦茶に歪めて、然しそれでも"直進"し続ける引力光線が、闇の内より引力を振り切り飛び出して来るのを見ると、とてもそうは思えない。
考えて見ればゴジラはクエーサー銀河核相当の超重力の中を平然と耐え、キングギドラに至っては同じ次元に堕とされたとは言え、此方の世界の常識など平然と無視して高次元空間を自由自在に行き来する存在である。そもそも自分達の物差しで考える事そのものが根本からおかしいでは無いか。
しかしモスラもへカーティアも幾ら力を持つとは言え、無限の密度を持つ特異点に入るなどと言うのはてんで正気の沙汰では無い。殴り込みを掛ける訳にも行かず、流れ弾を処理する事しか出来なかった。
自転するブラックホールの中心に有る特異点の先には、別の世界が存在する、と言う説が有る。もし仮にそうだとしても、まずブラックホールの破壊的ですらある極めて高い重力に耐えなければ、結局潰され、その先の世界には辿り着けても知覚は出来ないだろう。
だが、その異常なる耐久力の為か、或いは到底この世界の論理の埒外にある為か、その空間、或いは別の空間か、兎も角幻想郷の存在とは別の空間で、二体は睨み合っていた。そして再び衝突する。衝撃にて筆舌に尽くし難き色彩と形状の地形は跡形も無く吹き飛ばされ、更に龍虎相打つが如し凄まじい猛攻を打ち付ける。
ゴジラがキングギドラを叩き落さんと尾を振るう。ソニックブームを引き起こしながら周囲を簡単に薙ぎ払う姿は、まさに破壊の神と言えよう。キングギドラはそれを上空に飛び立つ事で避け、即座に引力光線を見舞う。尾を地面に叩き付けて巨大なクレーターを生成し、反動を無理矢理に抑え込み再びキングギドラと相対したゴジラは、彼が空に見えた途端、間髪を入れずに放射熱線を放つ。
空中で、金の閃光と蒼の熱線がぶつかり合う。強大なエネルギーにより視界は二色の光に潰され、異様な音と共に半径数億粁の範囲が跡形も無く消滅した。余りの衝撃に飛散し、分岐したエネルギーですらもが触れる物全てを破壊し、その中心には極小のブラックホールさえ出現した。先程は余りにも巨大な破壊を生み出した衝突であったが、今回はキングギドラがダメージを防ぐためにエネルギーを喰らい、この程度の被害に留まった。
ゴジラの視界は光によって遮られ、その間ゴジラは外界からの情報を全く遮断されていた。轟音で聴覚の機能にも期待出来ず、またこの空間自体の特性か、嗅覚も又何も感知する事は出来なかった。
余りにも感覚に入る音響や光が強く、却って完全な暗闇の中、静寂に居るのと変わらなかった。その一種変わった静寂は、視界に飛び込んで来た金と、自らと敵の接触を示す鈍い音と共に破られた。キングギドラが五感の一時的な不全の隙を突き、懐に飛び込んで来たのである。
ゴジラは後方に吹き飛ばされ、轟音と土煙と共に仰向けに倒れた。直ちに起き上がろうとするゴジラの直上を、終焉の顎が空振る。更に、その触れれば消滅は免れぬ、牙の生え揃った顎が二つ三つと迫る。如何にゴジラが堅牢で頑丈だとしても、この高次元の支配者の牙には耐えようも無く、時に身を捻じって避け、時に掛かって来た頸をその隻腕で掴む事で凌ぐ。
キングギドラはゴジラの上にその巨躯を乗せ、体重を掛けて拘束し、更に引力光線を放ち完全に抹殺せんとするも、その判断は、ゴジラの力を完全に見誤っていた。
突如ゴジラは自分より巨大なキングギドラを押し退けて起き上がり、鋭利にして凶悪な牙をキングギドラに突き立てて咬合力を働かせ、噛み潰した。キングギドラは突然の事に、一瞬動き出すのが遅れたが、それが命取りとなった。
更にゴジラの背鰭が光る。言うまでも無く、放射熱線の発動準備である。これではエネルギーを喰らう事も出来ない。それを見たキングギドラは、ゴジラを引き摺りながら頸を動かして熱線の射線から體を外し、頸一つを犠牲に、その圧倒的なエネルギーの暴威から逃れた。青い光の柱が宇宙に呑み込まれたと同時に空に散りばめられていた無数の光の点が消滅し、ゴジラの引き摺られた蛇の這った様な痕が、熱線の反動により、莫大な轟音と爆風に覆われ、それが晴れた時には痕跡は消え去り、代わりに地球がまるまる入る程のクレーターが生じた。光より明らかに速く情報が伝達する辺りに、やはりここはキングギドラによって偶発的に生成された別の世界だと言う事が分かる。
咥えていたキングギドラの頸は一瞬で消し飛ぶが、それと同時にキングギドラ本体の體からは、また再生して元通りになる。キングギドラが一つ羽ばたけば、ごうと凄まじい速度と力の暴風が出ると共に、その體は非常な高速で後退し、数瞬で数粁もの間合いを取り、中空で黄金と闇の輝きを纏い、ゴジラに向けて引力光線を連発する。
数十もの光線、その一つ一つが容易に星を砕き、次元を歪め、この世の法則を突き破る程の威力を宿している。それは退いたキングギドラを追うゴジラを次々と貫き、破壊し尽す。津波の様な怒濤の咆哮を上げて侵攻するゴジラの眉間に最初の引力光線が当たり、強固なる肉体をもその破壊力に引き裂かれ、大量の鮮血と肉片を撒きながら足を止められる。ゴジラはその痛みさえもが怒りに変えられ、却って侵攻しようとするも、何十もの光線が紙切れの如く黒い體を貫き、更に引力光線の効力により、重力が歪み、通る光が呑み込まれ、空間に黒く巨大な重力を持つ特異点が発生し、空間が引き裂かれ、ゴジラの姿は再び闇に掻き消えた。
その混沌の光景の中にキングギドラは翼を誇示するが如く広げ、三つの鎌首を擡げ、更に體に光を滾らせて君臨する。凡そ正常なそれでは無い光景は、高次元の龍の姿を殊更に強調した。その姿に向けて、熱線が迫る。それを正面から六の瞳で見据え、喰らい、消滅させた。青い光がドーム状に広がり、荒廃し極限まで歪められた次元を焼き焦がし、破壊の波を広げ、キングギドラをも消し飛ばさんと迫るも、それすら高次元の存在の前には、掻き消えエネルギーを吸収され、無力化された。
吸われ捻じ曲げられた光が戻り、巨大な怪獣が姿を現わす。
再び怪獣の背鰭が煌々と光り、眼窩が炯々と煌く。それを見下ろす異形の神も、喉元を輝かせ、金と蒼の烈しい光が互いに打ち消さんとする。光は時と共に照度を増し、空気も殺意が徐々に強くなって行く。そして、限界まで緊張が張り詰めたその瞬間、同時に両方の顎門から光が溢れ、柱となって放たれた。
この異様な世界の全てが破壊し尽されるが如し閃光と破壊音が猛威を振るい、それに続き、二大怪獣の全力の力点の近くから遠くに掛けて、土も、岩も、星も、銀河も、そして宇宙さえもが憤怒の熱線と、終焉の光線の余波に呑み込まれ、例外無く消え去った。
キングギドラによって幻想郷に出現した特異点、その深淵の黒色と破壊的な重力が、段々と失われ、元の光を取り戻して行く。
その急激なる変質に、先程まで特異点を対処していた面々は警戒し、何時何が起きようとも即座に対処できる様に構えた。
重力が失われて数秒後、空間は正常に戻った。だが、その光景は、異様と言わざるを得なかった。
先程まで黒かった空間は、今度は却って輝く金の光の粒子が舞い、そこだけ見れば幻想的ですらある光景であるが、その中央にはゴジラがその姿が幽霊の様に半透明になった状態で倒れ伏し、その體から金の粒子が浮き出る度に存在が希薄になって行く。幻想的と評せらるこの光景の実体は、あらゆる物が存在そのものを希薄にされ、終いには完全に消えてしまう効果を持って居た。
その光景を作り出したのは、誰有ろう、キングギドラである。勝利を誇るが如く、三つの喉から長い咆哮を放ち、そして眼下のモスラ、へカーティア、霊夢を睥睨し、そして翼の縁から引力光線を放ち、へカーティアの施した、広大な異空間を消滅させた。
モスラが超音速で迫り、鎧を纏った翅で切り裂かんとする。引力光線が封じられたキングギドラであったが、彼の龍も翼を振るい、又切断しようとする。刃となった飛行器官がぶつかり合い、そして拮抗する事無く勝負が付いた。翅を斬られたモスラが墜落する。
へカーティアが空間と重力を操りながらレーザーを放つも、キングギドラの放った引力光線は歪められ彼女を守る様に展開された異空間を貫き、右腕を消し飛ばし、女神の身体を吹き飛ばす。吹き飛ばされながらも左手の指を鳴らすと、その身体は異空間に消え、青い髪をした、地球のへカーティアが出現した。
ゴジラを足蹴にし、モスラを堕とし、へカーティアも一蹴した。モスラの霊体を宿した霊夢も居るが、降ろされたモスラを叩き落した今となっては何の脅威も無い。最早己に敵無しと言わんばかりに、翼を広げてこの世の全てを睥睨し、再び向かって来たモスラに光線を放ち、完全に地に伏せさせた。
まるで空気が固定されたかの如くそよ風一つ吹かず、触れる物全てに回避不能の消滅を齎す、畏怖を伴う美しさを持つ光景をへカーティアは暫し見つめ、そして魔法を放つ。それは隕石、地震、噴火その他の天変地異を鼻で笑う程の規模と威力を持っていたが、キングギドラが口を開けばその魔力は忽ち消え失せた。
この結果はへカーティア自身も見越し、当然だとさえ思ったが、見越しただけであり、それ以上の行動を取る事は無かった。とうの昔に、討伐しようとする事は無駄だと悟っていたのである。光が天より差し、平等に、残酷に、全てを照らし、透過する。
とうとうキングギドラを止められる者は居なくなった。彼の黄金の終焉に対して、対処出来る存在は、全て倒れ伏した。
ゴジラの眼が開かれ、貌が歪む。そこから湧き上がる感情は、怒り。ゴジラと言う存在そのものの原動力と言えるそれは、キングギドラを観測する度、光を見る度、炎が燃え盛る音や爆音が聴覚へ入った時、地面を踏み締める感触が伝わる度、視界に何かが映る度、何かが正面に相対する度、感情を感知する度、あらゆる自分も相手も燃やし尽くし塗り潰す程に増大し、極まった憤怒で視界に映る物全てを薙ぎ払い、その破壊痕を見て更に怒る。それが繰り返され、怒り、怒り、怒り、怒り怒り怒り怒り怒り怒り怒り怒り怒り怒り怒り怒り怒り怒り怒り怒り怒り怒り怒り、そしてその激情は、臨界点を突破した。
地面に押し付けられめり込んだ顎に生えた牙を剥き出し、地獄のそれをも上回る炎熱を伴う息を吐き出し、尾を天を衝くが如く持ち上げ、次いでゆっくりと體を起こす。土煙と音を伴って俯せから前傾へと移行し、更に直立へと姿勢を移行させ、嚇怒燃え盛る事猛々しき眼光でキングギドラを射貫く。既に黒い巨体を光が貫き、半透明になる程に希薄となっているものの、怒り狂ったその存在感は、キングギドラに勝るとも劣らぬ所か、凌駕すらしていた。
体温は異常に上昇し、その體の周囲大気が発火し、更に高温となり、プラズマの紫電すらもが巨体を取り巻く。怒りのままに尾を地面に叩き付け、そして激怒の咆哮を発した。震える空気が炎を押し出し、その黒き姿を紫と赤に彩り、その姿は正にゴジラが燃えている様であり、その怒りを象徴する。
キングギドラが引力光線を放つ。宇宙単位での破壊を齎すそれが迫るのを怒りを刻んだ貌で睨み据えたゴジラであったが、避けも守りもせず、ただ進撃する。傷を持った、しかしそれさえもが力強さを示す胸部に引力光線が当たったが、全く堪えた様子は無い。一歩を踏み出す度に足元が砕けると同時に蒸発し、山が動くかの如し重厚さを以って、キングギドラに肉薄し、剛力を以って右の頸を掴み、握り潰し砕き、右半身を原型を留めぬまでに破壊した。重力操作も次元歪曲も、唯の憤怒と怪力の前に塵芥の様に捩じ伏せられる。
引力光線を左の頸が放とうとした。それを見たゴジラは、尾を振るい大袈裟にキングギドラを薙ぎ払い、頸を千切る。凄まじい轟音と暴風が吹き荒び、視界そのものが分断されたかの如く歪んだ。キングギドラは威力を抑えんと障壁を出したが、無駄であった。いや、その一撃で世界が滅びなかった事から、障壁はその効力を発揮したが、圧倒的な力はそれを少しの拮抗も無く突破したのだろう。
僅か二撃で二つの頸と體の大部分を失ったキングギドラは、すぐさま再生する。頸が再生し、翼が広がり、一瞬にして元の状態に復元され、再び相対し、引力光線を溜め始める。その輝きは見た事の無い程になり、キングギドラ付近の全ての存在が消される程に力が溢れ出す。
ゴジラの背鰭が光る。青い光が灯った途端、周囲の大気が燃え、まるで背鰭そのものがプラズマを纏った炎の様に赤く烈しく輝いた。
両者が同時に顎口を開く。赤と黒の怪獣は放射熱線、異形の金の龍は引力光線。どちらも光速で相手に向かい、相手を殺さんと、殺意と憤怒と力を籠められた一撃。互いの放った光線は衝突する。今までのそれとはまるで比べ物にならない程の威力の力と力のぶつかり合いは、一瞬で終わった。
宇宙をも滅ぼす引力光線が、同じく赫々と燃える炎を纏った熱線に触れた途端、引力光線はそのエネルギーもそれを構成する素粒子すらもが塵の如く跳ね返され溶け落ち、完全にクォークスープとなって無力化された。最早衝突と言う体すら無く、圧倒的な威力は、力の拮抗による破滅と言う結果を変え、寧ろ世界に対する被害は減っていた。
更に熱線は直進し、キングギドラの眼前に迫った。エネルギーを吸収し熱線を消さんとするも、ゴジラが更に怒りの唸り声を上げ、熱線を強めると、とうとう吸収しきれなくなり、巨大な體が熱によってクォークスープと化し、それでも原型を保ち、断末魔となる咆哮を放つ。逃げようとも、間に合う筈も無い。それを最期に、莫大なエネルギーによって熱線と共に地球外、太陽系外、更に遠方、どの程度かも分からぬ程の距離まで吹き飛ばされて行った。その先で死んだか、逃げたかは解らないが、幾ら待ってもキングギドラは現れぬのを見ると、死亡或いは致命傷を負ったと見てまず間違いは無いであろう。
キングギドラを圧倒し、殺したゴジラが口蓋を閉じれば、その絶えぬ怒りを象徴する様に體に纏われた獄炎が消え、再び体色は黒に戻る。そしてキングギドラを殲滅した方向から、怒りを宿した眼を足元の幻想郷に向けた。