東方呉爾羅伝   作:2147483647の塊

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今回、ほのぼの回?


護国聖獣記

「━━━━━っていうことがあったのよん。」

 

 

或る通常の世界とは地続きでは無い空間の中で、少女が別の少女に先程の自分の体験談を話していた。話し手の少女は、少し大人びたような印象を受ける見た目をしており、歳は思春期が終わるか終わらないかの境目位に見える。しかし、その大人に近い見た目と裏腹に、母親に自分が遊んできた遊戯を報告する幼子のように興奮しながら話しているさまには少しばかりの違和感がある。その違和感を少しどころではない程に加速させているものは、彼女の纏っている服にあるだろう。

 

カラフルなチェック柄のスカートを履き、黒地にwelcome♥hellと書いているTシャツを着て、何故か靴はおろか靴下も履いていない裸足であり、頭にはウシャンカ帽の上半分を切ったかのような帽子を被り、そしてその上には、何よりも違和感を加速させる要素である赤紫の玉が載っている。同様に金色のチョーカーに付いた鎖に繋がれた二つの、おそらくは地球と月を模している玉も更に少女の格好を珍妙たらしめている。

 

この一見して巫山戯た恰好をして傍らの少女に話している少女の名は、『へカーティア・ラピスラズリ』。地球、月、異界のありとあらゆる地獄を統べ、それぞれの地獄に体を持つ、『三つの体を持つ程度の能力』を持ち

、他にも地母神や魔術神といった多くの側面を持つ、最高位にして最古参の女神である。

 

一方で話を聞いている中国風の着物を着た少女も、興味津々と言った体で赤髪の女神の話に耳を傾けている。

この少女の名は『純弧』。子の命を奪われた恨みで仇の夫を謀殺し、共謀した嫦娥とそれを匿う月を打倒する為に神霊となった恐るべき怨霊である。しかし、今の純弧はその様な恐ろしさなど微塵も感じさせず、寧ろ年頃の少女の様である。その後ろで星条旗の衣装を着た妖精『クラウンピース』が楽し気に走り回っている。

 

へカーティアの話の概略は次のようなものであった。

 

幻想郷の地獄にへカーティアが降り立った直後、遥か遠くの方で青白く眩い光が煌めいているのが見え、興味を惹かれて向かって見たら、巨大な黒蜥蜴に会い、弾幕ごっこを挑んだ、というものであった。その内容は、立ち上がって歩く蜥蜴の前に決め台詞を放って現れ、弾幕ごっこを仕掛けたはいいものの、弾を避けずに突進してきた蜥蜴に不意を突かれ、あえなく叩き落とされたのだという。意表を突かれたとは言え被弾したことには変わりなく呆気なく負けた、という一見して情けないものであるが、その蜥蜴の剛腕による攻撃を受けて今全くの無傷でずるいわよん等とこの場に居ない蜥蜴に文句を言っている辺り、流石は地獄の女神である。傍から聞けば、女神の話には落ちは有るが山のない平易なものであったが、幻想郷も地獄もほとんど訪れたことのない純弧にとっては、この友人の話す情景の一言一句が色の付いた鮮明な映像として脳裏にうかび、友人の華麗な弾幕や、それを掻い潜る大きな黒蜥蜴の映像が、実際の物よりも遥かに劇的なものとして想像され、それは純弧の心を躍らせるのに十分なものであった。興味の引かれた純弧はへカーティアに幻想郷・地獄観光がしたいと切り出し、二つ返事で快諾された。

 

 

…ここまでのやり取りを見れば解かるが、へカーティア達がゴジラの起こした惨事を知るのは、これより大部後になる。もし最初に出会った時に黒蜥蜴の起こした酸鼻極まる蹂躙劇を知っていたなら、慈愛に満ちた女神へカーティアは阿鼻の業火も霞む瞋恚の焔を心の中に燃え滾らせ、今頃怪獣王と地獄の女神の一切の容赦も手加減も無い戦闘によって、地獄は光に包まれたカタストロフを迎えていたことだろう。ここまでの惨事にへカーティアが気付かなかった理由は、何もへカーティアが見た目通りの行き遅れたキ印付の唐変木だから、というような物では断じて無い。偏に地獄が広かったことと、幾つかの偶然が重なっていた為である。仮に、へカーティアが熱線を放った現場にあと少し近ければ、地に足を付けていたならば、一人でも逃げる者が居さえすれば、少ない手掛かりから聡明なへカーティアは、何が起きたのかを察知することが出来ただろう。

 

 

 

 

 

所変わって、此処は幻想郷。外界から「幻想」として忘れ去られた妖や、神々が二重の大結界の中で暮らす、最後の楽園である。そう聞けば魑魅魍魎が跳梁跋扈し、悪鬼羅刹が暴虐の限りを尽くしているのではないか、と思われるかも知れないが、当たらずとも遠からずである。

 

確かに魑魅は跋扈しているが、ルールに則った遊戯に耽り、悪鬼も跳梁しているものの、あまつさえ人間の作った甘露に舌鼓を打ったりなぞしている。

確かに人間に危害を加える者も少なからず居るのは確かで有るが、その実態は恐怖を糧とする妖怪の最低限の生き残るための食事の様な物であり、本気で人類を虐殺しよう等という妖怪は、一握りも居ない。

 

その中の人里離れた森林の中で、金髪の少女が歩いている。背丈は四尺そこそこ、年の頃は十代前半程度に見え、黒の三角帽を目深に被り、白黒の可愛らしい服を着こなしている。木漏れ日が、帽子から垂れ下がった金色の癖の強い髪に反射して輝く。少女の足取りは軽く、鼻歌を歌い、軽快なステップでずんずん進んでゆく。

 

何かこの先に少女を惹き付ける何かが待ち受けて居るのだろうか。少女の名は『霧雨 魔理沙』。普通の魔法使いと言う矛盾を内包した二つ名を持つ、恋の魔法使いである。魔理沙が暫く歩いた先に会ったのは、大きいが、古びて半分朽ちた『香霖堂』という看板を掲げた古道具店であった。

何の断りも無く、元気よく香霖堂の扉を開け放ち、店内に、まるで自分の家か何かの様にずかずかと入り込んだ。

 

 

「よう香霖!来てやったぞ!」と快活に店主に話し掛け、店の商品を物色し始める。話し掛けられた半人半妖の店主『森近霖之助』は、この小さい来訪者の訪問に慣れているのか、軽く魔理沙に目を見やり、挨拶を返して直ぐ手元の金属の塊に視線を戻した。この寂れた店の中には、魔理沙には預かり知らぬ事であったが、外の世界から幻想となって入り込んできた古き文明の利器もガラクタに混じって鎮座している。

最早付喪神の宿る程の年月を経た洗濯機や、自動車や、ミシンが、ガラクタに埋もれつつ、どことなく往年の活躍を、静かな矜持として持っている様に感じられた。

魔理沙がそんなことをつゆ知らず古道具を掻き分け、何か手に取った時にときめきを感じるような素敵な物はないか、と探している。本来魔理沙の方が忘れられた幻想であり、周りの骨董の方が、多かれ少なかれ外の世界にも認知されている物の筈だが、少女と童女の中間の西洋味のある金髪の少女は、半分幻想となりつつあるセピア色の景色の中において可憐なトパァズの如き輝きを放っていた。やがて、魔理沙の目線が何かに()()()()()ように、あるこじんまりとした本棚に吸い寄せられていった。本棚の中身は、ドストエフスキーやゲーテの書いた西洋文学から、魔理沙には全くちんぷんかんぷんな分厚い専門書、果ては或る地域の風土が記されたものまで、古今東西のアマルガムの様子であった。

 

その中に魔理沙の視線が寄せられていった本があった。背表紙には『護国聖獣記』と書かれ、この本が書かれてより千年以上の春秋が経過している様に見えた。魔理沙は経年劣化でボロボロになったその本を、破らないように慎重に取り出し、そのまま頭上に掲げて「こーりーん!これ貰ってっても良いかー!」と不必要なまでの大声で店主に呼びかけ、店主がまだ口を開くか開かないかの所で、「そうか!ありがとう!またなー!」と勝手に了承されたと解釈して嵐の様に本を持って店から出ていってしまった。半ば泥棒まがいの事を目の前で行われた霖之助は、特に慌てて追いかける訳でも無く、もともと許可を出すつもりだったし良いかと、再び手元の道具に視線を戻した。

魔理沙が香霖堂を出て暫く、視界から香霖堂が隠れた辺りで、我に返った様に止まった。

自分は香霖堂で適当な道具を持ち寄り、道具についての、あの朴念仁の古道具屋の店主の蘊蓄を聞いて、数刻を過ごすつもりであった。

 

しかし、視界にこの本が入った途端にこの他愛の無いささやかな計画は脳裏から消え去り、結果そのままこの本を持って店を出て来てしまった。少し後ろ髪を引かれる思いが有るが、今になって戻るのも気が引ける。何故その様になってしまったのか。手にしているこの護国聖獣記なるぼろっちい古本は、今の魔理沙の価値観の中では特に価値を見出すことの出来ぬただの古本である。もしやその様な効果を持つ魔導書の類であろうか。それならば話は早い。

 

今も魔導書に囲まれて膨大な知識を貪っている七曜の大魔法使いか、人里の幻想郷の記録を記している少女とその友人の妖怪の所かのどちらかに頼んで、この本の宿す怪異の正体を探ってもらうのが最善手だろう。どちらに頼むのが良いだろうか。喘息持ちの魔法使いの方がこう言った怪異を宿す書物の知識には一日どころか数十日の長があるだろうが、本の出す雰囲気としては稗田邸や鈴奈庵に有る古書に近い。又この本はタイトルからしても地方伝承の類の書かれた物と見受けられ、稗田の九代目はその手の知識は七曜の魔女をも凌ぐだろう、というのは魔理沙の思い込みに過ぎないが、しかし九代に渡り貯蔵された妖についての伝承に対する知識は、相当なものであろう。そうと決まれば善は急げである。

 

魔理沙は再び人里へと歩を進めた。




ゴジラの見た目のイメージはVSキングギドラのゴジラを更にマッシブにしたものです。
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