東方呉爾羅伝   作:2147483647の塊

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ここまでは幻想郷回、次回はゴジラ回です。


護国三聖獣/極彩色の神

さんさんと照り付ける太陽の下、魔理沙は腕に抱えた、自分の意思を逸らせた古本がどんなものであるのかを調べて貰うべく、稗田邸へと向かって行く。

 

人里へ向かうため、無用なトラブルを避ける目的で航空力学を真っ向から否定する飛行は行わず、少女らしい、華奢な足を使って歩いていた。

 

太陽の熱によって、白色に寄るが健康的な血色の良さも併せ持つ肌に、珠の汗が浮かび、重力と体の輪郭に従って筋を残して垂れてゆく。服が汗ばみ、肌に張り付いて若干の不快感を覚え始めた頃、地平線から建ち並ぶ伝統的な木造家屋が見え始め、青々とした田園の農道に足を踏み入れた。

 

東側から差しこんでくる日光が、遠く妖怪の山から田園を黄金色に照らし、源五郎がすいすいと泳ぐ用水の表に薄い虹色の反射光を照らす。

幻想郷内の農業は、第一次産業として食糧を生産する為だけに有るのではなく、作物と共に生活をし、自然の時間に身を任せ、心の安息と生活そのものの場でもある。

そのあたりの感覚の違いが、目に見える形となって殊更に美しく見えるのだろう。

 

先程までの獣道とは違い、数多の人跡によって踏み固められた農道は、此処は人間が主となって活動している、と言う事を雄弁に示し、また人里で生活こそしていないが同じ人間である魔理沙にも、幾らか土を踏む感触に安心感を伴う心地よさが感じられた。

 

またそこから四町ほど歩き、とうとう人里に到着した。太陽の容赦のない熱によって、整った顔は到着するころには汗まみれになり、下着はまるで川にでも飛び込んだかのようにびしょ濡れになり、不快感と渇きが端正な顔を歪ませていた。

 

人里は幻想郷において唯一の人間の安息の地である。この一町四方も無い小さな町に、多くの人間たちが商いを営み、手に職を付け、妖にも負けず、逞しく生活を送っている。

そんな場所であるので、喧噪はとても盛んである。ただでさえ熱い中で、余計に暑苦しい熱気に辟易しながらも、何とか乾き切って倒れてしまう前に、他の住宅よりも数段大きく重厚な屋敷、稗田邸に辿り着く事が出来た。

 

玄関口に立って屋敷から応対が来るまでしばし待つ。数分もしない内に引き戸が音を立てて開き、中に迎えられる。屋敷の主に用が有ると応対に伝えると、そこまで案内されるのでそれについていく。

奥の方に床板を鳴らし乍ら暫く進み、或る閉められた木の扉で案内は止まった。

 

木戸を開けると、ひときわ整理整頓のされた小奇麗な部屋の中央に、正座をして座り、質の良い和紙に筆を走らせている少女と、その傍らでしゃがんで書き込まれてゆく和紙を覗きこんでいる。

 

座っている方の少女は『稗田 阿求』。この屋敷の主であり、幻想郷の歴史が記された「幻想郷縁起」を執筆する稗田一族の九代目である。「一度見たものを忘れない程度の能力」を持ち、その能力を生かして歴史を記している。

 

傍らの少女は、『本居 小鈴』。阿求の友人であり、貸本屋「鈴奈庵」に住み、幻想郷随一の妖魔本コレクターであり、「あらゆる文字を読むことが出来る程度の能力」を持っている。どちらの少女とも魔理沙は顔見知りであり、このような本の解析はお手の物である。

 

 

魔理沙が「護国聖獣記」を取り出し、この本の解析を頼んだ途端、、食い気味に小鈴に承諾され、非常にワクワクした様子で魔理沙の腕から護国聖獣記を引っ手繰り、中を開いた。魔理沙も脇から覗く。

 

古びて朽ちた項に書かれた文字は、蚯蚓ののたくった様な字体で、明らかに魔理沙の知らぬ文字で書かれている。所々に漢字らしき文字はあるものの、何かの名前らしき文字列が何度も繰り返されているという事位しか分からず、「これ日本語なのか?」と小鈴に尋ね、それに阿求が護国聖獣記に熱中している小鈴の代わりに「恐らくこれは変体仮名です。今は使われていませんが立派な日本語です。」と答え、魔理沙は今は使われていないとは言え、母国語である日本語が自分が読めないことにささやかに自分の不勉強を恥じた。

しかし、変体仮名などは余程慣れていなければ読めない代物で、ましてや字体も丁寧でないのであれば尚更であろう。

目の前の二人も、小鈴は能力の為であり、阿求は寧ろ読めない方がおかしいというもの。何も魔理沙が恥じる必要など微塵も無いのであるが。

 

小鈴は次々と項を捲ってゆき、やがて手が止まった。まだ後ろにもわずかながら厚みがあり、終わりまではまだ幾らかあるのだが、何が書いてあったのだろうか。答えは、一時たりとも考える必要など無く分かった。

 

見開き一杯に護国聖獣之図と言う見出しで、この本が指し示す「護国三聖獣」の姿を描いたものであろう挿絵が昔特有の癖はあるものの、恐らく当時の護国三聖獣が放っていたであろう鬼気迫る迫力が、ありありと力強いタッチで描かれていた。

燃え上がる様な赤色の体色をした獅子や狛犬の様な姿の「婆羅護吽」、極彩色の蝶か蛾の様な姿をした「最珠羅」、そして、全身が金の丹で色付けられ、三つの長大な首を持ち、口からは雷を吐いている龍の様な姿をした「魏怒羅」と言う名の聖獣が描かれていた。

 

三人の少女らは暫くこの挿絵を眺め、その後また小鈴は項を捲りだした。最後の項を読み終えたらしく護国聖獣記を閉じた後、詳しい内容を魔理沙に説明した。

 

 

小鈴による説明では、三聖獣は大和朝廷によって封印された後、大和国を守護する神獣として祀り、()()に危機が訪れた時には、三聖獣が目覚めて()()を守護するだろう、という日本特有の退治した怪物を神として祀る、という伝承である、とのことであった。

また、この古書には克明に聖獣達の特徴が記され、婆羅護吽は地の守護神であり、炎を自在に操るとされ、最珠羅は海の守護神であり、様々な不可思議な技を使い、魏怒羅は天の守護神であるが、陸海空を自在に移動し、雷雲を纏い、相手を焼き焦がすという。

このようなものが実際に居るなら興味深いと小鈴は言い、又しかし奇妙な点も幾つかあると言った。魔理沙もその様な点の心当たりは軽く見ただけでも多くあった。

 

まず挙がったのは挿絵や文章が所々黒塗りにされ、中には項毎千切られた形跡さえあったことである。まるで何かを隠すように塗られた項は特に魏怒羅について記述された部分に多く、半分近くの文章が塗り潰され、十項程もまとめて千切られ、逆に婆羅護吽についての項にはほとんど検閲の入った形跡は無かった。

次に挙げられたこととして、書かれていた内容が全く分からない魔理沙は知らぬ事であったが、最珠羅に関する記述のみが、まるで最高神の様に記されていることである。婆羅護吽や魏怒羅は暴れて退治されるまでの過程が多かれ少なかれ描かれているのであるが、最珠羅のみが暴れたとも退治されたとも一言も記されておらず、逆にその万能に近い不可思議な力で、人間らの問題を解決したり、村を守るべく攻めてきた化け物の集団を一撃で殲滅したり、と言うようなことのみが護国聖獣記に書かれている。魏怒羅が先述の通り検閲でほとんどが黒塗りにされており、ただ暴れて退治されて聖獣の一角になった、ということしか書かれていないこともあるが、これは明らかに異質である。

最後に阿求が付け加えた事は、この書物に記されている魏怒羅の特徴が、幻想郷の最高神である龍神のものと合致している事である。確かに雷雲を纏ってあらゆる場所を自由に行き来する龍と言う描写は阿求自身が幻想郷縁起に書き記した龍神のそれと一致する。それが偶然か必然かは分からないが、ここまで一致しているならば他人の空似ということはあるまい。何かしら関係が有るはずである。

ここまで三人はこの本の不自然な部分を挙げていったのであるが、他に何の手掛かりも無く、これ以上真相に迫ることは出来ない、と結論付けて解散した。外に出れば、もうすでに太陽は赤みを帯びて西に廻り、烏が澄んだ声で鳴いているのが聞こえた。もうそんな時間が経ったのか、と魔理沙が驚いていたところ、他ならぬ自身の腹が無視をされ続けて拗ねたかの如く大きな音を鳴らした。今まで忘れていた空腹が急に魔理沙を襲い、そのまま魔理沙吸い寄せられるようにはすぐ近くの食事処に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所は変わり、此処は冥界、その中に建つ白玉楼。冥界の管理者の住まうこの場所の庭園に、明らかに異質な来客が訪れていた。

 

それは巨大な虫の幼虫である。其れだけであればただ気持ち悪く嫌悪と恐怖の印象を与えるだけであろうが、その仕草や纏う雰囲気に有るどこかGöttlich(神気を宿した)な空気によって、不思議な風格と愛嬌をその巨大な体に宿している。

 

其の神憑り的な芋虫は、巨大な体にも関わらず、整えられた日本庭園を一切崩さずに動いている。風景の調和こそ取れていないものの、花を付けない桜の巨木とは少し調和している様な、そんな様子を、白玉楼の縁側に腰掛けて、桜の花弁の様に希薄で儚ささえ感じさせるが、確かな存在感を持って存在している、という相反する印象を抱く佇まいの少女、『西行寺 幽々子』が愉快そうに、羞花閉月の面の口角を僅かに上げて微笑を浮かべ、見守っていた。

 

不意に、表情を崩さず目線も逸らさず、いつの間にか傍らに立っていた二人の女性に話しかけた。女性は色鮮やかな民族衣装を装い、二人は鏡で合わせた様に服装も目鼻立ちも同一に見え、そして何よりその体は半尺を切る程に小さく、目の前の巨大な虫と同様にただならぬ神聖な雰囲気を放っている。

「あなた達は誰?何処から来たの?」幽々子の声色はあくまで優しく、柔らかい物であった。

 

小人の女性二人は、示し合わせた素振りも無く、完全にタイミングを合わせて同じ言葉を紡いだ。

 

「「あの子はモスラ。インファント島の守護神です。私達は小美人。モスラの巫女です。」」

 

「自分で美人なんて、随分な自信家ねぇ。」幽々子はそう言うと、口元で開いていた桜色の扇を閉じ、更に続けた。

 

「あなた達は何でこんなところ(幻想郷)に現れたのかしら?」

 

その口調は、問いかけるというよりも独りで自問自答するかの様であった。小美人は刹那の間の後、「「ここに私達が来た理由は分かりません。しかし、ここに私達が居て良かった。ここに、ここの生活や秩序を壊す怪物が現れるでしょう。いつそれが来るのかは私達にも分かりませんが、必ずこの地に現れるはずです。そうなった時、モスラは動き出し、その怪物を止めるでしょう。」」と答えた。

 

幽々子は微笑を浮かべたまま目を細め、「あなた達は予言者なのかしら?それにしては不確かな事がやけに多いけど。」と言うと、小美人は「「予言ではありません。テレパシーによって、強大な怒りの感情を、微かに感じ取りました。」」と答えた。

 

「ふぅん、そうなのね~。それで、その怪物っていうのは何なの?」幽々子は相も変わらずいつもの通りの太平楽で悠々とした感じである。「「まだ気配が遠すぎて何なのかは分かりません。しかし、こんなに激しい怒りを抱えているのであれば、恐らくは…」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「『ゴジラ』だと考えています。」」小美人は真剣な面持ちで、そう言った。

幽々子が、「『ゴジラ』?何なのそれ?」と疑問を口にすると、小美人は真剣な表情のまま、「「ゴジラは最強の怪物、モスラですら倒せるかが怪しい程です。そして…  ゴジラを止める事が出来なければ、ここは、一瞬で破壊されてしまうでしょう。」」と答えた。

 

 

モスラが自らを奮い立たせる様に、大きく鳴き声を上げた。

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