東方呉爾羅伝   作:2147483647の塊

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文才が足りない…


怪獣王の進撃

最早何もかもが存在しなくなった阿鼻地獄の中、虚空に同化する様にか黒く、対比物が無いにも拘らず、尚他の存在が矮小だと感じさせる程巨大な怪物が立ち尽くしていた。

 

勿論、この光景を創り出したのはこの怪物、ゴジラである。ゴジラがこの残骸となった地獄に立ち、上方を見つめている様は、一見この寂寥に感傷に浸っている様にも見えるだろう。しかし、その表情に浮かぶはやはり筆舌に尽くし難い程の激怒の情であり、山と連なる背鰭が暴力的なまでの光を放っている様が目に入れば、その様な印象は雲散するであろう。

 

やがて光は體の上方へと昇り、天に向けて凄まじいまでの光の濁流が放たれた。

 

光は重力に逆らい、非常に高い筈の無間地獄の天蓋に一瞬で到達し、そして粉砕し、あっという間にゴジラ自身が余裕を持って通れる程の穴を穿った。しかしその勢いは留まる事を知らず、大焦熱、焦熱、大叫喚、叫喚、衆合、黒縄、等割と次々に貫き、とうとう幻想郷の地獄の地を爆ぜさせたところで漸くゴジラは口を閉じ、熱線を止めた。

 

至極容易く、ゴジラは楽園へ続く道を開いてしまった。凄まじい爆轟が地獄各層を飲みこみ、大量の瓦礫が轟音を立てて落下した。

 

積み挙がった瓦礫の山を踏み崩し乍ら上層へと歩を進める。途中に有る各地獄の過酷な環境にも全く堪えた素振りすらなく登ってゆく。

 

数刻をかけて幻想郷に到達するかに思われた時、まるで海が落ちてきたかの様な水流がゴジラの巨体を飲みこんだ。この水流を起こしたのは、閻魔にも比肩する地位を持つ、鬼神長の一、水鬼であった。

 

見れば他にもただならぬ雰囲気を放つ鬼が三体、ゴジラを止めるべく立ちはだかって居た。恐らく残りの鬼神長であろう。この未曽有の大災害の鎮静を行う為、例外的に鬼神長本人が直々に、しかも四人掛かりで送られたのであろう。しかしゴジラにとってはその様な事情はつゆ知らず、また興味も無い。

 

水流から難なく抜け出たゴジラの意識は目の前の有象無象とは一線を画す実力者達に向かい、殺意に満ち、並の者ならば萎縮してしまう程の怒気を秘めた視線を向け、鼓膜を劈き、底知れぬ恐怖を感じさせる咆哮を上げる。しかしそれにも地獄の荒仕事のプロフェッショナルである鬼神長達は動じず、それは戦いのゴング代わりとなった。

 

水鬼が先程までの比ではない密度と速度で幾つもの水流、と言うよりウォーターカッターとして打ち出す。

ある鬼、恐らく隠形鬼だろう━━が視界から、聴覚から、嗅覚から、一切の痕跡を残さず消えた。

風鬼と思われる鬼が、暴風もかくやと思われる程の風速と規模の突風を起こした。

 

ゴジラが水流に表皮を削られ、突風に飛ばされない様踏ん張り、地に罅を入れ、更にそれでも数メートル程地面を抉り乍ら後退し、それを忍んで鬼神長を叩き潰すべく剛腕を振り下ろしたが、水鬼に腕が届く前に、鬼神長の中で最も大柄な、恐らく金鬼であろう鬼が見た目に反する俊敏さで水鬼を庇い、そして有ろう事か、其の金剛不壊に思える程の頑強な体で、ゴジラの攻撃を弾いた。続いて繰り出された一撃は、まるで()()()()()()に当たった様に、あらぬ方向に逸らされた。

恐らく姿を消した隠形鬼によるものであろう。攻撃が不発に終わったゴジラに対し、四人の鬼神長は激しい攻撃を仕掛け、翻弄していた。

 

 

 

 

しかし、其れだけであった。

 

 

確かに水鬼の起こす、極限まで圧縮された水流は、ゴジラの表皮を削りこそしたが、削り取れるのは表皮のみであり、内の筋肉まで傷つけるには能わない程度の軽い傷しか与えることは出来ず、そしてその軽い傷ですら、次の攻撃が当たるまでには塞がっていた。

 

風鬼の起こす突風や鎌鼬は、ゴジラの動きを制限する程に強力な物であったが、動きは鈍くなる乍らも、完全に拘束することは不可能な程度であった。

 

金鬼の体は、ゴジラの攻撃に耐えうるほどにまで堅牢な物であったが、二度三度とゴジラの強力無比な一撃を受ければ瓦解する程度のものであった。

 

隠形鬼はゴジラの感覚で捉えることは出来ないが、確かに、その空間に、()()()()()()()()()()()()

 

鬼神長達の攻撃を受けてすら、尚その足で地を踏み、巨大な體を起こし、健在な様子のゴジラが、空間ごと移動している様な錯覚を覚える程の威圧感を持って、體をうねらせ乍ら歩き、大質量を持った尾を、軽々と振り下ろした。

 

其の軌道上には、金鬼が居た。金鬼は尾に叩き落され、地に叩き付けられた。其処にすかさずゴジラが其の太い足を乗せ、莫大な質量を掛け、容易く金鬼の守りを突破した。

 

残る鬼神長に向けゴジラは攻撃を仕掛けるも、その悉くが回避される。憤怒で染まった瞳孔の内に、若干の苛立ちが募る。業を煮やした様子のゴジラの背鰭が輝き、それを見た鬼神長はどんな攻撃が来ても回避出来るように構える。

 

しかし、それは全くの無駄であった。輝く蒼白の光は先程の様に一点に集まるのではなく、寧ろ逆に全身に広がり、そして拡散する様に放たれた。空間そのものを塗り潰す様に放たれた光を避ける術は無く、風や水を一身に集めて身を守ろうとするも、それすら無意味とばかりに包み、水鬼、風鬼、そして恐らく、隠形鬼をも飲みこみ、高熱と高濃度の放射線、そして質量すらあるような高密度の光が、鬼神長らを襲った。

 

光が触れた地形は途端により強い光を放ち、幻想郷そのものを文字通り揺るがす程の振動を起こし乍ら次々と爆発を引き起こし、爆轟と爆炎がゴジラを中心として広範囲に広がる。

 

 

 

邪魔者を退けたゴジラは、勝利の凱旋を行う王の様に、威風堂々たる様子で行進をする。その風格は戦勝の王のそれである泰然自若なものであれこそすれ、それには絶対に有り得ない憎悪の念が漆黒の表皮から滲み出る。一歩踏み出す毎に炎が、王に平伏する民衆の様に揺らめく。

 

 

 

次に進撃を進めるゴジラを阻もうとしたのは、地を埋め尽くす、武装した軍団である。一見してその構成員は人間にしか見えはしないが、その実造形神によって創り出された、限りなく人間に近い姿をした埴輪である。これを差し向けた造形神の意図は不明なものの、少なくともこの怪獣の戦力を、明らかに見誤っていることであろう。

 

恐らくこの軍団はゴジラには一筋の手傷すら負わせることは出来ず、少しの時間も稼ぐことは出来ず、陽動すらも十分にこなせるとは言い難いであろう。現に、軍団は果敢に、蛮勇と言える突撃を敢行するも、戦車の如き装甲にも関わらず蟻の如く蹴散らされ、上に挙げた事の内一つでもを為せていない。例え真っ二つにされ、踏み潰されようとも血の一滴も出すことは無く、怖気もせずに突撃していく光景は、不気味でさえ有る。

 

何の成果も為せず自分の造形物が蹂躙され、破壊されていく様を見た造形神の心中には、どのような感情が浮かんでいるだろうか。

 

正確に推し量ることは出来ないが、恐らく驚愕、悲しみ、怒り、恐怖の何れか、若しくはその全てであろう。

 

埴輪軍団の半分程が破壊された頃、突如として漆黒の尾を曳く流星━正確には尾は溶け落ちた欠片ではなく、余りの速度に残った残像であるが、が空を掛け、その脅威的な速度でゴジラの顔面に突っ込んでいった。

 

轟音が鳴り響き、傍目にも強力な攻撃だった事はありありと理解することが出来るが、その突撃を一身に受けたゴジラは怯みもせず、その巨大な牙が生え揃った口を大きく開き、流星を食い千切らんと口を閉じるが、すんでの所で逆方向に移動し、その歯牙を何とか避けることに成功した。

 

 

 

 

黒き翼を持つ聖徳太子の天馬且つ、畜生界を群雄割拠する勢力の一つである勁牙組の組長である『驪駒 早鬼』は、途轍もない衝撃の後、埴輪を蹴散らす黒き怪物を見た途端、自らの敬愛する聖徳太子を始めとした、自分の大切な物、身近な物が破壊されてしまう、と言うような、杞憂と切り捨てるには余りにも危機迫り、現像をもって容易に再生出来るような感覚を覚え、その感覚が浮かび上がるか上がらないかの内に、無意識下に自らの最も強力な攻撃、能力にもなる程の『比類無き脚力』を駆使した蹴りを叩き込んだが、怯みすらしない事に驚愕し、次に、口を開いた禍々しい表情に、まるで霊である自分をも噛み砕ける様に感じ、その後、更に悍ましい物が待ち受けて居る、という確信に近い予感に、総毛が立つ様な悪寒を覚えた。

 

しかしこの勇敢な甲斐の黒駒は、それにも怯まずに、か黒く恐ろしい怪獣に立ち向かっていった。

 

 

 

 

 

 

横薙ぎに振るわれ、空気を破裂させ乍ら迫る腕を、大きく下降して避ける。最早見栄えなど気にする余裕も必要も無く、そこにあるのは命のやり取りあるのみである。

 

━━ただ、それの演者は、地獄より上って来た怪獣と、既に命無き畜生の霊なので、それでは語弊があるか。

 

大きく避けたにも関わらず、巨大な体積の急速な移動に押されて来た空気が、炎熱の如き高温を伴って早鬼の全身に叩き付けられる。

 

頭に被ったテンガロンハットを抑え、光弾を矢継ぎ早に放つ。しかしやはり黒磁の体に光弾は打ち消され、効果は見られ無い。当然怪獣の攻撃が通り一遍で終わる筈は無く、続けてニ撃目、三撃目と至剛にして必殺の攻撃が早鬼を粉微塵にしようと放たれる。

 

早鬼はそれを避けつつ、皮膚に直接刷り込まれる何の様な重圧に、総毛が立つ程の恐怖を覚えた。

 

大きさ、質量其れがそのまま脅威と成りて一挙一動が自らを滅し得る事は、軌道上の埴輪が粉微塵になったことからも、容易に察せられた。それに従い、既に形骸と化した生存本能が呼び覚まされたのか、感覚が研ぎ澄まされ、鋭敏に殺気を感知し、強力無比な攻撃を放つ予備動作から、既に其の攻撃の軌道さえ見切り、余裕をもって回避し続ける事が出来た。

 

しかし、感受性の増した脳裏には強圧と畏怖が増幅して巣食い、蝕んでゆく。脳の中でアドレナリンやエンドルフィンが湧き出るものの、其れにも勝る恐怖が、思考の大部分を占領する。現に早鬼の顔色からは生気は抜け落ちたかの様に欠け、全身から滝の様な汗が滲み出ている。

 

 

 

 

ふと巨大な怪獣に生じた刹那の隙に感付く事が出来たのは、畜生界において血を血で洗う様な争いをくぐり抜けてきた早鬼だからだろう。

 

腕をまるですり抜ける様に躱し、ゴジラの頭めがけて目にも止まらぬ速度で加速しながら突進して行き、巨大な眼球の中央に、その生物界において比類するものすら居らず、妖魔の中でも鬼を上回るとも言われる、伝説ともされた強力無比な脚力によって、途轍もない威力の神速の足刀が振るわれた。

 

流石のゴジラも眼球に対する異常な威力の攻撃を受けて堪えたと見て、心なしか悲鳴にも思える咆哮を上げ、身を捩り狂わせる。

それを見た早鬼は、鼓膜を突き破られ乍らも、それすら気にもせず、今まで尋常ではない殺意に当てられて、張り詰めて破裂寸前だった緊張を解いた。

 

解いてしまった。

 

 

背後に迫る空間を歪めて見せる程に巨大な殺意に気付いた時にはもう遅かった。

 

生物の限界を遥かに超えたスピードで後ろに下がるも、それでも振るわれた尾は避けられず、外気に晒された腹に其の先端が掠め、凄まじい衝撃が走り、横一線に切れた腹の傷から血が噴き出す。

 

幸いにして傷は浅く、臓物が零れ落ちた直視も憚られる骸となる事は避けられたが、昏倒して地に叩き付けられたことによる多少の怪我は避けられないだろう。

 

激痛によって動かず、自由落下に身を任せる体とは対照的に嫌にはっきりした意識の中に、既に痛みから回復して歩き去って行くゴジラを、その意識の最後の瞬間まで、最早その視界に入る超弩級の怪獣の電気信号が条件反射で恐怖を呼び起こすまでに、網膜に焼き付け、衝撃と共に意識が刈り取られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴジラは最早意識の無い外敵を一瞥もせずに、或るエネルギーのある場所へと誘われる様に移動する。

 

眼球という神経の集中した弱点にピンポイントで強力な攻撃を受けたにも拘らず、眼球にさえも傷を受けた様子も無く、一時の痛覚の刺激というゴジラに相対する相手としては怒りを呼び起こすのみの悪手としかならなかった。

 

天井を見つめ、其処に、()()()()()

 

岩盤を體をうねらせ打ち砕き、その強靭な筋力を以って地中を砕き乍ら掘り進める。やがて、特別に強度の高い何かにぶつかった。一時ゴジラの侵攻を食い止めた様にも見えたが、やはりゴジラが少し力を入れるとその壁は容易く拉げ、中に有る()()()()()()()()()()がゴジラを迎え入れ、それを受け入れる様にゴジラはその中に入って行き、一身に、核融合によって生み出された三重水素と、プラズマが発生する程の高温を受ける。炎熱の中に悪意が胎動し、赫の炎は蒼の光に変換される。

 

 

 

 

 

 

 

ゴジラは眠りに着いた。静寂こそあれ、安息とは程遠い、苛烈にして動かざる眠りへ…




鬼神長は東方茨歌仙に登場した水鬼鬼神長と、その元ネタの四鬼から取ったものです。
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