東方呉爾羅伝   作:2147483647の塊

6 / 21
幻想と災厄の邂逅

博麗神社を半壊させた、強大な怪物を退治すべく、博麗霊夢は旧地獄へと向かっていた。烏と余り変わらない高度で、しかしそれよりも遥かに速く、風を切って快速で飛翔する。斜陽が差して頬を橙に染め、紅白の風変わりな巫女服ははためき、長く遠い地上に差す影もまたシンクロして動く。心地良い風と光を受けながら、あくまで表情は真剣なそれである。妖精が興味本位で近寄り弾幕を放つも、全く掠める気配すら無く急加速しながら避け、数十の妖精の鳩尾に正確に、鮮やかな動きで迅速に蹴りを叩き込み、「一回休み」に陥れた。その後直ぐに体を翻し、再び旧地獄へ加速しながら向かった。それから暫く、妖精の撃墜を繰り返し乍ら旧地獄へ向かい、日が落ちてその全体像が見えなくなった当りで、漸く旧地獄に立ち入る事が出来た。番人の土蜘蛛が居らず、空ろな縦穴を下降し、視野が広くなると共に赤みがかった。

 

旧地獄内にて、霊夢は更に進む。やはり旧地獄は気温が高いのか、手で顔を煽いでいる。全体的に赤々とした景色から赤みが失せ、家屋が並ぶようになった。旧都に到着したのだ。しかし、先の地震で家屋は壊れ、戦災後の様なバラックの建物も目立つ。下に見知った姿が見え、霊夢は足…いや、体を止めた。視線の先には、見た目で言えば幼女と言っても首肯せざるを得ない、しかし飄々たる態度からは余裕の風格が見て取れ、大きな瓢箪を携え、何より最も目を引くものは、ねじれた大きな角が頭から二本主張している。名前は『伊吹 萃香』、地獄の獄卒の鬼神とは異なる、妖魔としての鬼の首魁である酒呑童子そのものである。今こそ身長は霊夢よりも大分低い物の、『密と疎を操る程度の能力』によって、自らの存在を空間に遍在させて霧と化し、風船のように巨大化し、持ち前の怪力も合わせて山を一撃で崩す程の規模に成る大妖怪である。萃香と興奮気味に話している相手も、又大きな角が額に生えている。『星熊 勇儀』と言ったか。確か彼女は『怪力乱神を持つ程度の能力』を有し、萃香をも上回る力を持っていた筈だ。正しく勇儀は‘怪力‘を持ち、‘乱‘を好む、鬼‘神‘である。それにしても、神社で萃香を見かけないと思ったら、こんなところで見かけるとは。血気盛んな鬼を始めとする戦闘狂の妖魔特有の強者を求む本能が、巫女の勘よりも鋭敏な物と成りて怪物を察知したのか、或いは旧地獄で怨霊を管理する勇儀経由で知り得たのか。どちらにしろ、いつになく旧地獄に居て、いつになくしらふの状態で、いつになく獰猛な興奮を二人揃って持っている事から、核融合炉内に居る怪物が関係ない、と言う線ははなから無いと思って良いだろう。流石に地霊殿に乗り込んで大暴れする訳にはいかない辺り、最低限の理性は保って居る様であるが、怪物が欠片でも視界に入れば、すぐにでも全力で闘いに行くだろう。

更に旧都上空を飛んでいると、更に見知った顏を幾つか見かけた。メイドの『十六夜 咲夜』を侍らせた、紅魔館の主であるコウモリの翼を持つ、幼いながらも大妖怪と言って全く差し支えない力量を持つ吸血鬼、『レミリア・スカーレット』、太陽の畑の管理者である強力な妖怪、『風見 幽香』、背負った綱と御柱が特徴的な、守谷神社の祭神にして軍神の『八坂 神奈子』、それに付き添う、巫女ならぬ風祝とやらのその他にもちらほら、何れも強力な戦闘能力を持つ妖怪、人間、はたまた神まで、或る者は幻想郷に害する怪物に殺気立ち、或る者は言語も法規も解さぬ、強大な力の怪物とのスペルカードルールも無用となる戦闘に、単純に興奮している様にも見える。彼女達がスペルカードルールによってその強すぎる力から幻想郷を保持する為に、常に制御を掛けていた事からしても、地獄を破壊し、幻想郷を破壊せんとする怪物の討伐、という大義名分の元に、妖魔として恐れられ、神として畏れられた力を、掛け値なしの百パーセントでぶつける事に、住民の内、血気盛んな一部は興奮を心の内に燃え滾らせている。詰まる所、これらの連中は、スペルカードルールはそれとして楽しんでいたとしても、やはりスペルカードルールを霊夢が制定した以前の、かつての全力を出した、命と命のやり取りとなれば、血沸き肉躍る気分になっている。率直に言って、平和な幻想郷は、少しばかり窮屈で、退屈だったのだろう。霊夢もスペルカード制定以前に、無限の広さを持つ魔界とその住民を全て単身で創造した、というともすれば唯一神にも成り得る魔界神や、友人の魔法使いの知り合いの、全人類に復讐しようとしていた悪霊を退治した事が有るが、鬼気迫る殺意をもって襲い掛かった、という訳でも無さそうなので、やはり人智を超えた本気の殺し合い、という経験は余りなく、大して惹かれる感覚も理解出来ない。所で、その二人は、今は何をしているのだろうか。あれからめっきり合っていないが、その存在の残滓は確かにあるので、死んだり消えたりはしていないだろう。魔界から来た観光客は、ゴミを捨てていく反面、結構な信仰をもたらしてくれる。もう一方も、たまに騒霊や妖精じみた悪戯と、それにしては強すぎる邪悪な霊力が有る為、それぞれ達者にやっているのだろう。

霊夢は考えが一段落したところで、思考の海から考えを追い出し、降り立って、旧地獄で殺気立っている組の一人、月の頭脳『八意 永琳』に近付いた。此方は余り戦闘に身を置くタイプでは無し、主と共に月から逃亡してきた先である幻想郷の破壊というのは、永琳にとって到底許すべかざる所業であり、今放っている殺意も然も有りなんであろう。

ツンツンとした空気を意に介さず、霊夢は永琳に話しかけた。

「あー、永琳、ちょっといいかしら?」

永琳は霊夢に気付いた様子も無く、ひたすらに言語不明瞭・意味不明の独り言を口から放ちながら歩いてゆく。何かしらの考え事をしているのだろうか。それならそれで別に良いが、少し不気味だ。

霊夢は永琳に無視されたものの、心理的ダメージは無い様子で、再び移動し始めた。

旧都をぶらりと歩いて、時々知り合いに話しかけられ、それをあしらう、という事を繰り返していると、先程神社で合った紫と、もう一人、彼女もまた幻想郷創設に関わる賢者、『摩多羅 隠岐奈』が話し合っている光景に出くわした。隠岐奈は、数多の神徳を持ち、万能ともいえる秘神である。後戸とやらを使って色々な事が出来るらしい。

賢者二人の会話に耳を傾けてみる。

「貴女が表に出て来るとは思いませんでした。感謝しますわ、摩多羅神様。」

「幻想郷の危機となって私が姿を現さなければ、他の賢者や住民に会わせる顏が無くなる。それに、私がお前等と共に作った幻想郷は私の子も同じ。危機が迫った時に守らずして何が賢者か。紫よ、私がそこまで薄情に見えたか?」

「いいえ、滅相もありませんわ。それより、まさか()()が幻想郷に入ってくるとは、全く予想していませんでしたね。」

「ああ。外の世界に未来永劫語り継がれ、最低でもあと千年は来ないと思っていたが。()()が忘れられるなど、自然には考えられぬ。恐らく人間共が、情報をひた隠しに隠した結果だろうな。月の時の様に、な。話は変わるが紫よ。此処に居る奴ら以外にも幾らでも勢力は居る筈だが、そいつらはどうしてるんだ?」

「地獄は鬼神長を送り込んだけれども、返り討ちに合い寺と妖怪の山は、野良の妖怪の避難受け入れに専念している様です。天界も同じ様子ですが、あそこの不良天人は此処に来るでしょうね。月は…まず幻想郷の事に首を突っ込む必要は無いし、()()が特大の穢れの塊な上、月への直接の報復攻撃の可能性が有る以上、不干渉を徹底するでしょうね。」

「やはり月は駄目か。お前のそのインチキ染みたそれで外の世界だかに送りかえせはしないか?」

「あれは自力で幻想郷に侵入する芸当をやってみせたわ。仮に地球の裏側に飛ばしたとしても、先延ばしにするだけで根本的な解決にはならないわ。」

「となると、龍神様の力を借りるしか無いか…」

それきり二人は沈鬱な顔で黙り込み、それぞれの能力で姿を消した。

その直後、地響きが鳴り響き、地震の如き猛威で家屋を襲い、半壊した旧都に更にダメージを与える。瓦が零れ落ち、柱が耐えきれず屋根に押し潰され、人が入れる形状を保った家屋は、十と残らなかった。怪物の討伐に来た幻想郷の強者は待っていたとばかりに上空へ飛行し、各々の戦闘態勢を整える。霊夢も同じく飛翔し、陰陽玉を展開し、御札と退魔針を構え、臨戦状態となる。

数度地響きが鳴った後、暫く音が止み、静寂が場の全てを包んだ。肌を刺す緊張感は物理的な干渉を受けた様にも思われた。吸血鬼の令嬢は並々ならぬ、それこそ一撃で旧地獄を破壊出来る程の魔力そのもので形作られた槍の様な何かを華奢な腕に持ち、守谷の軍神は、以前に外の世界で見た都市の建物、あれはかなりの大きさだったが、それを上回る巨大な御柱を複数本宙に浮かべ、向日葵の妖怪は手に持った傘を地に向けると、傘の先端から眩い閃光と、空間を揺るがす尋常ではないエネルギーが収束した。鬼の二人組は、片方は巨大化して行き、もう片方は、その怪力の源となる、脚の腱を限界まで収縮し、直ぐにでも鬼の全身全霊をかけた一撃を叩き込める様な準備をしている。いつの間にやらここに居た不良天人も、緋想の剣を構え、十間程の巨大な要石の上に仁王立ちしている。月の賢者も弓を構え、限界まで引き絞る。

妖怪や神、月人或いは天人の持つ余りの力に、霊夢は共闘する立場にも拘らず冷や汗を頬に伝わせ、これじゃどっちが幻想郷を破壊する怪物か分からない、これを受ける怪物の方も少し可哀想ね、と思ったが、これは一瞬後に覆される事となる。

少し遠くに見えた地霊殿が崩れ去ったかと思えば、地霊殿がかつて建っていた場所に、巨大な黒い何かが伸びる。それは根本の太さを増しながら天井に向かい、遂には天井に接触し、亀裂を入れる程にまでなった。根本は完全に地霊殿が入る太さとなっている。その何かは大きさの割、意外な程に素早く元の地中に戻っていった。今のが怪物か。かなり大きく、地霊殿を一撃で崩すパワーも相当なものだろう。しかし、萃香とレミリアと神奈子辺りにかかれば簡単に木っ端微塵にできるだろう。自分が来た意味は果たして有ったのだろうかと思っていると、今までよりも遥かに大きな地響きが、断続的に鳴り続けた。気を引き締め、一分の油断もなく地面に目を光らせていると、旧都全体の地面に亀裂が走った。亀裂は広がり、地盤そのものが完全に裂けた。神話の如き光景に霊夢が息を飲んでいると、巨大な山が、地鳴りと先の地割れによって生じた何も見えない位に濃い砂埃と共にせりあがって来た。砂埃は上に上がり、霊夢を始めとした幻想少女を完全に飲みこむ。汗に砂粒がこびり付き、非常な不快感を覚える。どうやら山は剣山だったようだ。土砂を貫き引き裂き、並の家屋を軽く凌駕する大きさの規則的に並んだ…その辺りまで考えた所で、この巨大な山が怪物であると霊夢は理解した。怪物━━外の世界では、ゴジラという名称だった。

神奈子の付き添いに来た風祝、『東風谷 早苗』は、恐怖感は勿論の事、何か既視感を覚えた。確か、歴史の…そこまで考えた所で、意識は現実に引き戻された。

ゴジラが完全に立ち上がると、上空を飛んでいた霊夢に頭が届く程の大きさになった。ここに来て、霊夢とその他の幻想少女達は、敵の強さの想定を違えていた。

油断なく構えていた霊夢達は、素早くゴジラから離れ、更に上空に陣取る。空を飛ぶ霊夢達に、ゴジラはその山吹色の瞳を向け、炯々と光らせる。大山の如き堂々とした貫禄と、瞳の奥に映る憎悪と憤怒の炎に、さしもの霊夢も身を竦ませるものの、やはり歴戦の強者と言うべきか、鬼や吸血鬼等の人ならざる者等は獰猛な笑顔を浮かべ、体に纏うエネルギーをいっそう強くする。

それを見たゴジラは、大きく裂けた口を蛇の捕食の如く開き、漆黒の体表とは対照的な牙を剥き出しにし、空気を鳴動させ鼓膜を劈く、最早それが物理的な攻撃と成り得る咆哮を放った。

霊夢は堪らず耳を両手で塞ぐが、それでも手を貫通して轟音が耳に襲い掛かる。この時もし霊夢が耳を塞がなかったなら、鼓膜は破れ、脳にすらダメージが及んでいただろう。

咆哮と同時に、極限まで張り詰めた空気が切れ、弾幕ごっこの領域をとう通り越した威力の総攻撃が、今にも迫り来る。

しかし、ゴジラは全く怯むこと無く、余りに長大な尾を唸らせ、叩き付けて地面を更に破壊し、もう一度、大きく咆哮した。




次回、やっとゴジラvs幻想郷勢。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。