ドクターゲロに転生したので妻を最強の人造人間にする   作:デンスケ(土気色堂)

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11話 ゲロVS桃白白!

 精神集中をしやすいよう座禅を組んで目を閉じたタイツの髪が、風でも吹いているかのように揺れる。そして、徐々に彼女の体がふわりと浮き始めた。

「うむ、サイコキネシスではなく気で飛んでおる。やはり呑み込みが早いな、タイツ」

 

 気のコントロール中心のトレーニングを積んだ結果、タイツは早くも舞空術を習得しつつあった。

「う、うん。でも集中を維持するのが大変……」

「なに、慣れれば簡単に出来るようになる」

「ターレスみたいに?」

 ちらりとタイツが上に向けた視線の先では、ターレスが自由自在に飛び回っていた。

 

「はははっ、ようやくタイツも飛べるようになったのか? いや、地面の少し上を浮かぶのがせいぜいじゃ、『飛べる』とは言わないな!」

 そう笑うターレスとタイツを見ていると、原作で孫悟飯が悟天とビーデルに舞空術を教えたエピソードを思い出す。しかし、原作のビーデルよりもタイツは負けん気が強かったようだ。

 

 頬を膨らませると目を閉じ……次の瞬間、空を飛んでいるターレスの背後に瞬間移動した。

「うおっ!? な、なにしやがる!?」

「あんたが生意気な事を言うからよ!」

 突然背後から抱き着かれてバランスを崩しかけるターレスに、放してなるものかと手足に力を籠めるタイツ。

 

 儂は二人の様子をしばらく見て、ターレスがバランスを立て直すどころか墜落しそうになってきたところで、サイコキネシスで二人を受け止めた。

「やれやれ、二人ともいかんぞ」

「はーい」

「俺もか!?」

 

「タイツ、トレーニング中に危ない真似をしてはいかん。もしターレスに抱き着くのに失敗した時に、そしてターレス諸共落ちた時、地面に落下する前に飛ぶなり再び瞬間移動して、自分とターレスを着地させる事が出来るなら別じゃが」

「はい、ごめんなさい」

 

「ターレス、得意になるのも分かるが、それならタイツに突然背後を取られて抱き着かれても、余裕で飛行を維持出来るようにならんといかんな。タイツが瞬間移動出来るのは知っていただろう?」

「チッ、油断するなって事だろう? 分かったよ」

 

 タイツはもちろんターレスも儂にとっては孫のような存在だが、トレーニング中は危険な事をしないよう厳しめに接している……つもりだ。多分、これでもだいぶ甘いのだろう。

「では、罰として基礎トレーニングの量を増やすとしよう。さあ、行くぞ」

 体罰は良くないので、ペナルティはトレーニング量の増加である。もちろん、保護者として落ち度があったので儂も同罪だ。二人、特にタイツから情けない声が上がるが、やり過ぎない程度に調整しているから大丈夫。

 

「さて、休憩と水分補給の後タイツは自主訓練。儂とターレスは重力トレーニングとしよう」

 ランニングを行った後、儂がそう告げると二人はそれぞれ返事をした。ただ……。

 

「へへ、楽しみだぜ!」

「はぁ~い……」

 まだまだ元気いっぱいといった様子のターレスに対して、タイツは肩で息をしている。気のコントロールの飲み込みは早いが、彼女はまだ六歳の地球人だ。子供だがサイヤ人であるターレスと違い、身体能力は普通の少女であるタイツの息が上がるのも当然と言える。

 

 ちなみに、ターレスの気のコントロールは中々上達しない。舞空術は習得出来たが、気を操作して気配を消すにはまだまだだ。やはり幼く経験が少ないからか、向き不向きの問題か……もしくは、儂の指導力不足かじゃな。

 

 だが、幸いなことに当人も気のコントロールの習得が出来ない事に、あまりストレスを感じている様子はない。

 儂や4号がターレスの位置を気で探る事が滅多にないから、急ぐ気がなくなったのかもしれん。彼を探すなら、普通に声をかければ済む事じゃからな。

 

「お爺ちゃん、永久エネルギー炉ってあたしに移植できないの?」

「はっはっは、移植するにはタイツの身長を三メートル程に伸ばすか、ウエストを二メートルにするかしないと無理じゃよ。小型化はまだまだ難しくてな」

 正確には、小さくすること自体には成功しているが、出力が低すぎるので移植する意味が無い。

 

「じゃあ、あたしを直接強くするとか……宇宙人の細胞を移植できない?」

「それも無理じゃな。生体移植はハードルが高くてな、まだ安全性が保証できん」

 フリーザマウスを作ったときのように、生まれる前の胎児から移植するなら可能だが、タイツは生まれてからもう六年経っている。

 

「おいおい、出来たらやるのかよ?」

 儂とタイツの会話を聞いたターレスが、呆れたように尋ねてくる。

「ああ、儂も時期が来たら自分を人造人間にするつもりじゃからな」

「「ええっ!?」」

「ん? 言っていなかったか?」

 

 儂が自分を20号へ改造するのはもう決まっているので、それに向けた生きたまま人を人造人間にする研究もぼちぼち始めておる。細胞の生体移植および融合は、必要不可欠な技術じゃからな。

 なお、原作の20号と違い生身の体を強化する方向で改造する予定じゃ。原作20号は、17号に胸を貫かれても血が出ないなど、だいぶ機械化されていたようだったからな。

 

 ついでに言うと、儂は努力と研鑽を否定するつもりはない。それは間違いなく貴いし、必ず強さになる。加減を間違えなければ、人生を間違いなく豊かにするだろう。しかし、同時に人為的に改造を施して強くなる事を否定するつもりもない。

 

 だが、多くの人は体を鍛えてナイフよりも鋭い抜き手が放てるようになるのを目指さず、ナイフを購入する事を選ぶものだ。

 人造人間への改造を「安易な方法」、「貰い物の強さ」と言うのも、もっともな意見だ。

 だから、安易とは言えない研究と実験を積み上げる。被験者にも、「貰い物の力」などとは言わせないよう力を使いこなし、鍛え、成長する事を求める。

 

 原作で言えば、17号と18号の二人。力の大会にまで参加した二人を見て、原作ゲロに強くしてもらった、貰い物の力だ、などとは思わないだろう。そういう事だ。

 

 ついでに言えば、何度も述べているように人造人間への改造は儂にとって医療行為の延長に当たる。そして儂は、美容整形も医療行為の内に含めている。

 

「とはいえ、やはり大人になってからだ。技術的に可能だったとしても、体が成長しきっていない時期に改造してしまうと、今後の成長に影響が出る可能性が大きい。大人になっても改造してほしければ、儂に言うといい。その時は改造後の副作用や考えられる不具合なども隠さず、そして分かりやすく纏めた資料を見せてやろう」

 そう説明すると、タイツは「分かった」と若干落ち着いた顔つきで頷いた。

 

 これはあれか? もしかして冗談のつもりで言っていた事に対して真面目に対応してしまい、引かれている感じじゃろうか?

 

「だったらよ、爺さんの会社の病院で指や手足を再生させてるけど、人造人間には改造してないのはなんでだ?」

 そうターレスが言い出すが、それは単純な理由だ。

「それはな、ターレス。人を人造人間へ改造するのには金がかかるからじゃ。普通の患者ではとても払えんほどの、何億、何十億ゼニーもの金がの」

 

「じゅう、おく?」

「そんなにかかるの!?」

 数字の大きさが実感できない様子のターレスと違い、タイツは驚いたように目を丸くする。

 

「そうじゃよ」

 儂が人造人間の研究をするために、会社を興して世界的な企業にまでしたのは伊達ではない。

 最新の機材を揃えなければならんし、貴重な異星人の細胞を融合させる処置にも様々な薬剤や専用の装置が必要になる。遺体の保存もただではないし、細胞自体の強化措置も時間と金がかかる。永久エネルギー炉の小型化の研究もそうだが、永久エネルギー炉自体も作るのに希少で高価な材料が必要になる。

 

 儂自身の人件費や異星人の細胞を採取するために使った宇宙船の建造費を無視したとしても、莫大な金額になる。燃料費や光熱費は永久エネルギー炉で賄っているとしてもだ。

 

「それに人造人間は儂の目的達成のために、その時点での最新技術をこれでもかと詰め込んで作った存在じゃ。それだけ儂にとって特別な存在と言える。なので、ただの患者を人造人間に改造する理由が儂にはない。

 2号から取ったデータを基に作ったお手伝いロボットは存在するが、あれは例外じゃ」

 

 儂にとって人造人間は、コストを抑えて大量に生産する工業製品ではない。一体一体がオーダーメイドの芸術作品なのである。

 

「もっとも、そもそも患者の方も人造人間になりたいとまでは考えていないと思うが」

 患者が望んでいるのは健康な体に戻る事であって、人造人間になる事ではないだろうし。

 そう説明しても、ターレスは大まかにしか理解出来なかったようだ。

 

「つまり……爺さんにとって特別な奴は、頼めば人造人間にしてくれるって事か?」

 だが、今のところはこれぐらい理解してくれれば十分だ。……後々儂の研究の結果、技術革新が起こり、それなりの医療費で誰でも人造人間に出来るようになったら、方針を変えるだろう。しかし、それはいくら儂が天才科学者であっても、百年程度の時間では無理じゃろうな。

 

「まあ、そういう事じゃな。他に質問はあるかの?」

「はいっ! お爺ちゃんはなんでいつも気を消さずにいるの?」

 

「なにっ!? そうなのか!?」

「そうよ、お爺ちゃんはトレーニング以外の時でも三割くらいの気を保ってる。ターレスはまだ分からないみたいだけど」

 

「うるせえ! 本当なのか、爺!?」

「本当じゃよ。こうして一息入れている今も、気を完全に抑えないようにしている。ちなみに、4号もじゃ」

 気をコントロールできるようになった儂だが、普段から気を完全に抑えてはいない。気を探れるタイツから見ると、儂と4号は何処にいるかすぐ分かるほど大きな気を常に発している、という状態じゃ。

 

 それは何故かというと、不意を突かれないようにだ。

 気を抑えた状態で攻撃を受けると、それが弱い攻撃だったとしてもダメージを受けてしまう。『復活のF』で、孫悟空が隠れていたソルベの光線銃で狙撃され、重傷を負ったように。

 

「気を消せば誰にも気配を悟られずに済むが、それだとただのナイフの一撃が致命傷になってしまうからな。銃で撃たれたら一発でアウトじゃ。

 儂は世界的な企業の社長だから、もしもの時の用心も必要なのじゃよ」

 

 ここまで鍛えてテロリストが仕掛けた爆弾や、スナイパーが放った銃弾で死ぬのは勘弁してほしいからな。

 普段から気を抑えていれば、いざという時に開放して爆発的な力を発揮する事も出来るが……今の地球で儂がそこまでしなければならない程の相手は、4号だけじゃからな。

 まだ氷の下で眠っているはずのドクターウィローには、儂がいくら爆発的な力を発揮しても通じない程の力があるから考えても無駄じゃし。

 

「不意打ちに弱くなるのか……それには気が付かなかったぜ」

「二人とも、ナイフに刺されたり撃たれたりしたら大変な事になるのが普通なんだから、当たっても大丈夫じゃなくて避けられるようになったら?」

 

「タイツ、何時攻撃されるか分からないから常に気を維持しているのじゃよ」

 そんな話をしてしばらくたった頃、儂は桃白白からの試合の申し入れを受ける事にした。彼の目的が儂の暗殺の場合、あまり待たせたら他の手段に切り替えられるかもしれん。それでブリーフ達が巻き込まれたら、後悔しかないからだ。

 

 今の儂の戦闘力は数値にして八百五十……研究に時間を取られてトレーニングがおろそかになったし、惑星ベジータ消滅という節目を越えた事で差し迫った目標もなくなったから、あまり伸びておらん。だが、桃白白の相手をする分には十分じゃろう。油断して気を抜かなければだが。

 

 

 

 

 

 

 ゲロ・コーポレーション警備部顧問である私、桃白白の「社長と試合がしたい」という要望は中々叶えられなかった。それは大企業の社長で本分は科学者であるという彼の事情を考えれば、当然。むしろ、私の要望を受けてくれたことだけでも、有難く思うべきだろう。

 ……思いのほか高い給料を出してもらっているし、私に不満はない。

 

 不満があるとすればドクターフラッペだ。奴が雲隠れしたまま動きを見せないのが、気にかかる。私としては定期的に悪事を企てるか、いっそ私に捕まってくれると良いのだが……。奴の悪事を防げないと私の人気に関わるので、手掛かりが何もない状態は気になる。

 

 とはいえ、フラッペが姿を見せない間に映画の撮影も出来たし、兄者から頼まれていた情報収集についてもGCGの修行を詳しく観察する事が出来た。

 映画はヒットし、ビデオの売り上げも上々。既に続編の話も来ている。

 そして情報収集の成果は……GCGの修行内容は亀仙流、ひいては鶴仙流の修行と似ている。だが、それだけだ。

 

 体に重りを付けて基本的なトレーニングを行うだけなので、誰でも思いつく程度でしかない。だが、その基本的なトレーニングを科学的に分析しており、体系立てている。

 最初の十キロの重りを付けたトレーニングに耐えられない者は容赦なく切り捨てる傾向にあるが、それにさえ耐えきれば、後は次に進める内容となっている。

 

 だが、舞空術や気功波を習得するための修行工程が一切ない。社長であるゲロは使えるはずだというのに。

 教えるつもりがないのか、教えるに値する者がいないと思っているのかは、今のところ不明だ。しかし、その内容から兄者から聞いた亀仙流ではないだろうと私は判断した。

 

 GCGの関係者から、亀仙人……武天老師らしい人物を見た事がないかそれとなく話を聞きだしてみたが、誰も見ていなかったからその通りなのだろう。

 調査結果は既に手紙で兄者に送ってあるので、これで兄者からの頼まれごとは終わった。だが、私も武道家だ。私が優勝した前の天下一武闘会で優勝した使い手に興味がある。それに、社長に勝てば彼がどうやって舞空術や気功波を習得したのか、聞き出すことも出来るかもしれない。

 

 もし社長が兄者や武天老師以外の達人に師事したというのなら、その達人に会いに行くのもいいだろう。

 

「今日はよろしくお願いいたします、社長」

 試合の場所はGCGが稽古を行う屋外リング。ルールは天下一武闘会と同じと指定された。さすがに実況はいないが。

「こちらこそ。あなたのような長年修行を積んできたプロの武闘家と拳を交わす事が出来て、光栄ですな」

 

 何? この男、私が実は二百六十年以上生きている事を知っているのか?

「いえいえ、恥ずかしながら私が本格的に武術を学び始めたのはここ数十年の事でして」

「そうでしたか、ですが私が武を齧りだしたのも二十年程前からです」

 どうやら、私の年齢についても知っているようだ。いったいどこで調べたのやら。

 

「双方、構えて!」

 おっと。おしゃべりはここまでのようだ。審判役の警備部部長に促されるまま、私と社長は構えを取った。

「始め!」

 

 まずは小手調べと、私は一気に間合いを詰めて拳を繰り出す。社長……ゲロも私に合わせて間合いを詰めると、拳の応酬が始まった。

 右の拳を払って左の拳を繰り出し、左の拳が払われたら膝蹴りで腹を狙い、膝蹴りを受け止められると同時に軸足を狙われ、膝蹴りから素早く戻した足で足払いに耐えて拳の連打。

 

 これは……!

 

「おおっ! なんて速さだ!」

「まるで舞を踊っているかのように、動きに淀みがない。これが達人同士の戦いか!」

「桃白白さんってやっぱりすごいのね、後でサイン貰おうかしら? ゲロちゃんも相変わらずすごいわ」

「こうしていると本当に科学者には見えないな、ゲロは」

 

 観客のGCGや他の部署のゲロ・コーポレーションの社員達や、何故かいるカプセルコーポレーションの社長夫妻が騒いでいるが、それに耳を貸す余裕は私にはない。

 

「きぇい!」

 私はゲロの足払いを舞空術で飛ぶ事で空中に逃げ、そのまま奴の頭部を狙って蹴りを放つ。

「ぬぅんっ!」

 ゲロは私の蹴りに対して頭を下げて回避すると、その反動を活かして高くジャンプし、そのまま舞空術で空中に留まったまま拳と蹴りの応酬になる。

 

 幾度かお互いに受けきれず、ゲロの蹴りを脇腹に受けた私は大きく後ろに跳ね飛ばされたが、なんとか姿勢を崩さず着地した。奴は、私の拳を右頬に受けて大きく後ろに下がって着地した。

 

「ど、どどん波!!」

 追い詰められた私は自身の切り札である必殺のどどん波を放った。

「フォトンウェイブ!」

 たいして奴は、私のどどん波に合わせて右手から気功波を放ち、ぶつけてきた。一見すると力比べの様相になり、ぶつかり合った私のどどん波と奴の気功波は、お互いに相殺し合って掻き消えた。

 

「ご、互角だ!」

「さすが二人とも天下一武闘会優勝者! なんてハイレベルな戦いなんだ!」

 そんな観客の歓声が耳に入らない程大きな驚愕を覚えていた。

 

 何故ならこの試合の実態は、互角の勝負などではない、私よりも圧倒的に強いゲロが上手く手加減して、私に恥をかかさないようにしているのだ。

 そう、この私は、桃白白は、奴のお陰で無様な醜態をさらさずにいられるのだ!

 

「へぇ、あのおっさんもなかなかやるじゃないか」

「お爺ちゃんほどじゃないけどね」

「どっちもがんばれ~」

 奴がいつの間にか養子にしたガキと、カプセルコーポレーションの社長令嬢姉妹の方が、GCGの社員達よりも実態が分かっているとは、なんという皮肉だ。

 

 戦いの間、ゲロは私の攻撃を全て見切っていた。私の攻撃を目で見て、それに合わせて動いている。そのはずなのに、ゲロの拳や蹴りは私の攻撃と同時に決まる。

 私の攻撃が決まった時、私が覚えたのはまるで人型の鋼鉄を殴っているような感触だった。たいして、ゲロの攻撃は私に確実に衝撃を与え、体力を奪った。

 

 そしてどどん波と奴の気功波の打ち合いでも、私は全力で放ったにもかかわらず奴は私のどどん波に合わせて力を調整していた。

 だから今、私は呼吸が乱れそうになるのを必死に抑えている。それに対し、ゲロは息を乱してもいない。

 

「くっ……この私が!」

 腸が焼けるほどの怒りと屈辱で、私の頭の中は満ちた。理性は機能を止め、どうすれば奴に勝てるのか、それだけしか見えなくなった。

 

「ぬおおおっ!」

 私は再び間合いを詰めると、何度かゲロに殴りかかった。それが回避された後、リングに膝を突いて叫んだ。

「参った! 降参だ!」

 そう言いながらも、私の手には再び必殺のどどん波を撃つための気が集まりつつある。降参したと見せかけて、油断した奴の急所に指を押し付け、至近距離から撃つつもりだった。

 

 もうルールなんてどうでもいい、今この瞬間、自身のプライドが守られるならそれ以外の全てを捨てて構わない。

 だが、その刹那私は見てしまった。ゲロの目が私をじっと見つめているのを。

 

「っ! 参りました!」

 ゲロの目に映る自分の浅ましい姿を見て、自分が何をしようとしているのか気が付いた私は全身に冷や水を浴びせかけられたような気分になり、思わずそう叫んでいた。

 

 それに対してゲロは、「はっはっは」と笑った。

「二度も言わんでも聞こえておるよ。この通りすっかり禿げたが、耳はまだしっかりしておるのでね」

 審判や観客は私が二度降参した事に困惑したようだったが、ゲロがそう言った事で空気が弛緩した。

 

「し、失礼しました。勝負あり! 勝者、ゲロ社長!」

 自分の判定が遅れたから私が二度降参したのだとでも思ったのか、審判の警備部部長が恐縮した様子で判定を下す。

 

 私は武闘家として、そして人間としての名誉を奴……ゲロ社長に守ってもらった。なんと器の大きい人物だろう。完敗だ。武闘家としても、一人の人間としても。

 

 

 

 

 

 

 桃白白との試合は、儂にとって有意義な時間になった。彼は本格的に武闘の道に入ってからそう年月は経っていないと言っていたが、やはりサラリーマンをしながら修行を続けていたのだろう。

 体捌きや足運び、無駄の無い流れるような動きは舞のようで、参考になる部分は多かった。

 

 その観察をするためにも彼と互角に見えるよう戦いを演じたが……手加減したのは他にも理由がある。

 桃白白が殺し屋として儂を殺しに来たのではないか確かめるため、尻尾を出さないか様子を見る必要がある。桃白白ならホイポイカプセル化した凶器を持ち込む事や、降参した後隙を突いて殺そうとする等、卑怯な手を取る事が考えられる。

 

 そして……そんな疑いを持っていたとしても、桃白白は我が社の警備部顧問なのだ。彼が無実だった場合、彼に恥をかかせても儂には何のメリットもないし、むしろ警備部全体の士気が下がるなどデメリットの方が大きい。

 調べたところ、「あの桃白白が顧問をしている!」という事で、警備部に入社した試験期間者がトレーニングに耐え抜く割合が、十人に一人から三人に上がっているというし。

 

 もちろん、周りに危険が及ばないよう4号はタイツやブリーフ達の近くにいてもらい、ターレスにも危険人物かもしれんと警告してある。

 警備部の社員達には何も話していないが、彼らもプロだ。いざという時には、儂が何も言わなくても動いてくれるだろう。

 

 そうこう考えているとどどん波と、儂が咄嗟にゲームで原作ゲロが使っていた技の名を叫んだ気功波の力比べも終わり、そのままの距離でしばし睨み合う事になった。

 すると桃白白は突然間合いを詰めてきて、当たるとは当人も思っていないだろう拳を何度か繰り出した後、まだ体力が残っているだろうに降参だと叫んできた。

 

 しかし、気を察知できる儂には、彼が指に気を集中させどどん波を再び撃とうとしているのが分かった。

 いよいよ来るか!

 

「っ! 参りました!」

 だが、何故か桃白白はどどん波を撃つのを止めて二度目のギブアップ宣言。いったいどうしたのだろうかと訝しく思ったが、今の彼からは殺気はもちろん戦意すら感じられないので、社長としてフォローしよう。

 

「二度も言わんでも聞こえておるよ。この通りすっかり禿げたが、耳はまだしっかりしておるのでね」

 そう自虐的なギャグを言うと、困惑していた審判も動き出して試合の終了を告げた。

 だがそのすぐ後、桃白白が聞いてもらいたい話があるというので別室に移動して聞く事にする。

 

「実は、私は兄である鶴仙人の頼みで、あなたを探るためにこの会社に入り込んだのだ」

 そして桃白白が告白したのは、彼が儂の会社に顧問として雇われた理由だった。どうやら、儂や関係者の暗殺を依頼されたからではなかったらしい。

 

「それなら、あの試合で降参した後ドクターを狙おうとしたのは何故です?」

「っ! やはりヨン殿も気が付いていたのか。……恥ずかしながら、あの時は汚い手を使っても負けたくないという思いで……試合に負けても殺せれば私の勝ちだという考えで頭がいっぱいだったのだ」

 

 多分、サイヤ人のターレスが聞けば、「まあ、間違っちゃいねぇけどよ、結局試合に負けたら負けだよな?」と言いそうな事を桃白白は顔を伏せたまま、絞り出すような口調で告白する。

 たしか原作の鶴仙流は、対峙した相手を必ず殺すこと、そして勝利する事を重視する暗殺拳だった。その師事を受けた桃白白が人格に影響を受けるのは当然だろう。

 

 では、何故彼は思い留まったのか? 儂の眼力、ではないのは当然だが……やはり、本人が口にしている通り羞恥心故だろう。自分を尊敬するGCGの隊員達の前で、卑怯な手段を取る事が出来なかったのだ。

 当然だが、原作の桃白白ならそんな事にはならない。

 

 この世界では、ほとんどの物事は原作である『ドラゴンボール』を沿っている。ナメック星では凄まじい異常気象が起き、地球に逃れたカタッツの子は神様になり、その際分離した悪の心はピッコロ大魔王になった。

 ナメック星人は善良で、ブリーフは天才でその娘たちであるタイツとブルマも同様、そしてフリーザは冷酷で残酷だと思われる。

 

 それは、運命でそう決められているから、と言う訳ではない。ただ過去から様々な要因が積み重なっていった結果、「そうなるように」なっている。それだけの話だ。

 だから、よほどのことが起これば……ターレスで例えれば、誰かを殺す前に地球に移住する、と言う番狂わせが起きれば、原作とは異なる人物になっていただろう。

 

 そうである以上、桃白白も余ほどの事がない限り原作通りの冷酷で、目的のためなら卑劣な手段も厭わない性格のはずだ。

 では、何故桃白白はそうならなかったのかと言うと……彼にとって原作にはなかった天下一武闘会での優勝から、警察の捜査協力者としての活躍や映画デビュー等の一連の経験が、「余ほどの事」だったのだ。

 

 それに、桃白白がまだ殺し屋に成っていなかったのも無視できない要因だ。フリーザやサイヤ人のように種族や価値観が違い過ぎるならともかく、彼は地球に生まれ文明社会で生活してきた男だ。たとえ元々冷酷な性格をしていたとしても、殺人がもたらす精神的な影響は小さくないはずだ。

 

 金のために殺人を繰り返し、それによって名声と財産を得る日々を送るうちに価値観が変容し、自分の中で命を奪う事が取るに足らない出来事になっていく。ターゲットを殺すためなら関係ない人間も殺し、卑劣な手段も問わない人間に変わっていく。

 だが、目の前の桃白白は殺し屋ではなく武闘家だ。まだ誰も殺していない。故に、彼は踏み留まる事が出来たのだ。

 

「では、これからどうするのかね? 儂としては、このまま会社に留まってくれると助かるのだが」

 まあ、原作は崩壊の危機に瀕するが。しかし、人として、武道家として踏みとどまった彼に殺し屋として再出発するよう言う訳にはいかない。

 

 桃白白が殺し屋をやっていなければ、レッド総帥は原作では登場しなかった殺し屋を雇う事になるのだろうが……孫悟空にストレートに負けそうじゃな。仮にそうなったとしても、悟空の事だからカリン塔には登ると思うが。

 いや、意外とブルー将軍が処刑を一旦免れて原作ではなかった悟空との決着をつける展開になるかもしれん。

 

「いえ、今回の試合で自分がどれほど未熟か思い知りました。私を慕ってくれる警備部の社員やファンのためにも己を見つめ直すための修行の旅に出ようと思います。……仕事の引継ぎと、映画の次回作の撮影が終わったら」

 しかし、旅に出てしまうようだ。しっかり仕事は後任に引き継いでくれるそうなので問題はない。だが、今の桃白白は変わろうとしている最中で、何かのきっかけでまた悪の道に戻ってしまう可能性も十分ある。

 

 ここは信頼できる人物を紹介するべきだろう。

「では、旅立つ時が来たら聖地カリンへ行き、カリン塔を登ると良いだろう。塔の上には儂も師事を受けた武術の神様、カリン様がおられる。君の助けになってくれるはずだ」

 カリン様なら桃白白を良い方向に導いてくれるじゃろう。

 

「なんと、そのような方がいるとは。必ず訪ねましょう。

 それで、顧問の後任として私の兄を推薦したいのだが……」

 

「ほう、兄と言うと鶴仙人か……」

 ……彼は彼で危険人物だと思うのだが。それに、ここで頷くのは天津飯とチャオズに孫悟空より早く出会うフラグではないだろうか? チャオズが何歳か前世の儂も知らないが、天津飯はもう生まれているはずじゃし。

 

「その方は、あなたにドクターの情報収集をするよう依頼をしたのでは?」

「ヨン殿、その通りだが、少なくとも一度はもう妙な手出しをしないよう、話を付ける必要がある。兄者には私から説得するつもりだ」

 

 そうこう話していると、部屋のドアがやや慌てた様子でノックされた。

「悪いが、今重要な話の最中でな。副社長の方に回してくれんか?」

 多分事業に関する事だろう。副社長がこの前、農業事業をカプセルコーポレーションと合同で行う事になったと言っていたし。場所は砂漠のある村で……なんと言ったかな?

 

「すみません、ですがドクターとしての社長にどうしても会いたいと言っている人が来ていまして!」

「ほう、ドクターとしての儂に?」

 だが、儂の予想は外れたようだ。ドクターとしての儂に用となると、新進気鋭の若き科学者が自身の研究を売り込みにでも来たのかの?

 

「はい、牛魔王と名乗る方が奥様の病気を治してほしいと面会を希望しています!」

「ああ、科学者ではなく医者と言う意味か」

 だから、何故孫悟空より先に来るのだ。そう思う儂だったが、無視する事はできないので桃白白との話を一旦終わりにして、牛魔王が待つ我が社の病院に向かうのだった。




・ゲロ

 この時点での戦闘力は850。色々考えずにはいられない地球で二番目に強い科学者。(一番強い科学者はウィロー)
 親友の娘が、本人が希望して家族も同意するならただで人造人間に改造してくれる良い人。

 桃白白との試合を彼なりに楽しんでやっていたら、大人物と勘違いされて改心された。そして修行の旅に出るという彼に、新しい師としてカリン様を紹介する。カリン様は彼に「丸投げするな」と抗議していい。

 ただ、その報いか桃白白に後任として鶴仙人を推薦された挙句、牛魔王が妻の病気の事で相談したいと都に現れた。原作が始まる前に孫悟空以外の原作キャラをコンプリートしそうな勢いである。

 ちなみにトレーニングや試合以外でも気を完全には押さえず、実力の三割ほどは発している。そのため現在の地球で彼を不意打ちで倒せるのは4号ぐらい。



・4号

 この話の時点で戦闘力は千五百。研究に忙しいゲロの助手なので、彼もトレーニングの時間が取れなかったようだ。なお、既に原作ラディッツ並みの強さ。

 桃白白とゲロの試合では、桃白白がおかしな真似をしないか覆面を被ったままじっと見張っていた。



・タイツ

 この話の時点での戦闘力は2ぐらい。親がサイヤ人だったらカスめ、とか、ゴミめ、と言われる程度の強さ。でも多分平均的な地球人の男性(丸腰)よりは強いかもしれない。戦闘力5の農夫は持っていた猟銃が戦闘力の過半数を稼いでいたと推測。

 最近舞空術を習得したが、気が少ないので飛ぶ、と言うより浮く、という感じ。



・ブルマ

 地味に桃白白ファンのカプセルコーポレーション一家の次女。試合とゲロとの話も終わった後、母親と一緒に桃白白からサインをもらった。



・ターレス

 この話の時点での戦闘力、110くらい。桃白白よりもまだ弱いサイヤ人。
 ただ十倍の重力下では、まだ動きがぎこちないゲロを翻弄する事が出来る。なんといっても生まれた星と同じ重力だから。

 この戦闘力で十倍の重力に耐えられるのは、十倍の重力下で生活する生態の種族だから。……そうでなければ生まれたとき戦闘力2のカカロットは、誕生した次の瞬間には重力で圧死してしまう。

 まだ気を感知する事と、コントロールは出来ていない。


・フォトンウェイブ

 ゲームでゲロが放った技。正確には、エネルギー吸収型の人造人間だった20号が、吸収したエネルギーを手から放つ技。
 なので桃白白に放ったのは、「放つ時それっぽくフォトンウェイブと叫んだだけの気功波」と言う事になる。



・桃白白

 十年以上殺し屋に成らず警察の捜査協力者や映画俳優、タレントのようなことをしている内に「自分を慕う者やファン達の目にどう映っているか」を意識するようになり、それによって原作のような勝つためなら手段を問わない卑怯な振る舞いが出来なくなってしまった、約二百六十歳。

 また、原作と違う流れになったのは、桃白白が殺し屋に成っておらず殺し屋としての経験を積んでいなかった事、そしてゲロが殺しのターゲットではなかったため。
 原作と違ってまだ誰も(多分)殺していない。そのため、まだ善良とはとても言えないが、少なくとも悪人ではない。

 彼が殺し屋に成らなくても、原作桃白白が殺し屋として殺してきた人達は、他の殺し屋に命を狙われる事になるだろうからあまり救われないかもしれない。(それでも、雇われる殺し屋は桃白白よりは強くないのは確実だから、撃退できるかもしれないが)
 しかし、仕立屋の主人や若き日のミスターサタンの師匠、そしてボラの命は救われたはず。ブルー将軍は……死因がベロ以外に変わるだけかもしれない。

 自分の後任に兄である鶴仙人を推したのは、彼が確かな指導力の持ち主である事と、どうせゲロに手出ししないよう話を付けるために一度は会わなければならないから。そして、桃白白が連絡を取れる武術家の中で最も強いからである。
 ……天下一武闘会の決勝戦で戦ったアックマンとは、一度会っただけで連絡先も知らないし。



・牛魔王

 武天老師の二番弟子。妻の病気を治すために、ドクター(医師)としてのゲロに面会を求めているようだ。
 なお、原作では彼の妻(チチの母親)は孫悟空が地球に飛来した時には病死ししている。


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