ドクターゲロに転生したので妻を最強の人造人間にする   作:デンスケ(土気色堂)

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112話 襲来! クラッシャー軍団!

 あの世とこの世の交流試合が終わって一週間ほど経った頃、バーダックはタイムパトロールの仕事に呼び出されて時の巣に向かっていった。

 ちなみに、交流試合の次の日に天国からこの世に戻って来た儂の妻、アルマにプランGについて説明した時の第一声は「そのプランは危険だわ」だった。

 

「だって、クラッシャー軍団って人達がどんな生態の宇宙人かまだ分かっていないんでしょう? 脳の構造があなたの知っている生物のものと大きく異なっていたら、ちゃんと改造できるか分からないじゃない」

「言われてみれば確かに。う~む、天才故の驕りが出てしまったか。最後の手段だからこそ、念のために準備万端に整えておくべきだった。フリーザ軍の情報に、クラッシャー軍団のメンバーと同じ星出身の種族の医療データがないか探してみよう」

 

「貴様等……恐ろしい夫婦だな」

 儂等が話している時に居合わせたベジータ王子の瞳には、何故か畏怖が浮かんでいた。

「似たもの夫婦って言うけど、そこは似ちゃダメなんじゃないかな?」

 そうブリーフにも言われた。解せぬ。

 

 そうした出来事があったのち、クラッシャー軍団の宇宙船が地球へ近づいて来た。じきに光学迷彩を纏っている監視衛星の内側に入る。

 

「おかしい。こちらからの呼びかけに応答がない」

 天才科学者である儂、ドクター・ゲロはクラッシャー軍団にスカウターを使って呼び掛けているが、彼等からの応答はなかった。

 

「あいつらが俺達を舐めているか、この仕事がよほど気に入らないか……何か企んでいるのかだな」

 フリーザ軍に対して地球の支配者だと偽っているベジータ王子も、剣呑な様子でスクリーンを睨んでいる。

 ここは王立防衛軍の宇宙軍基地……つまり、レッドリボン軍基地に作られた管制室だ。地球の衛星軌道上に浮かぶ監視衛星が捉えたクラッシャー軍団の宇宙船の映像を、スクリーンに映している。

 

「いきなり攻撃を仕掛けて来る、と言う事は?」

「それに備えてトーマやセリパ、それに貴様らの所のシルバーを待機させているんだろう」

「ブラック補佐、シールド発生装置を搭載したドローンも配備していますからご安心を」

 

 不安そうな面持ちのブラック補佐に、ベジータ王子とオレンジ大佐がそれぞれ答える。

「何はともあれ、宇宙軍の実質的な初防衛任務だな」

 レッド将軍がそう言った数秒後には、宇宙船は地球に向かって降下を開始した。そして、その宇宙船から何かが離脱して、宇宙船の着地予想地点からやや離れた場所に向かって落下していく。

 

「ゲロ、あれはなんだ?」

「アタックボールのようですな。まさか、宇宙船にトラブルが起きて乗員が脱出したのか?」

 とっさに気を探るが、フリーザ軍の兵士らしい大きな気は感じられない。平均的な地球人どころか、小さな虫や植物のように僅かな気が一つあるだけだ。

 

 重傷者が生命維持装置を使っているのかとも思ったが、儂はハッとした。その時には、アタックボールはシールド発生装置を搭載したドローンよりも下に降下している。

「シルバー大佐、アタックボールを確保して中身を確認してくれ!」

 

『了解だ』

 儂の頼みを受けてシルバー大佐が高速で空を飛び、地面に向かって落下途中のアタックボールを空中で受け止める。

「ゲロ、どういうことだ?」

「念のためです、将軍。大佐、アタックボールに乗っているのは何だ?」

 

『待ってくれ、これから……誰も乗っていないぞ? これは……!?』

 シルバー大佐が操縦席を覗き込むと、そこは空席だった。だが、アタックボールから電子音が響いたと思うと、勢いよく扉が開いた。そして、何かが内側から飛び出た。

 

 しかし、シルバー大佐は咄嗟に尻尾でそれを掴み取った。

『これは……種、か?』

 シルバー大佐が尻尾で掴み取ったのは、小さな種だった。あれは……神精樹の種だ。

 

「それは神精樹、一度根付くとその星の滋養をすべて吸い取ってしまうという、恐ろしい植物の種だ」

「なんだとっ!? では、もしあのアタックボールが落下していたら、そしてシルバー大佐が種を掴み損ねていたら……」

 

「数日以内に地球の緑は絶え、水は枯れ、死の星と化していただろう。よくやってくれた、シルバー大佐。回収用のドローンを向かわせるので、種はそれに預けてくれ」

『わ、分かった』

 

 種を気功波で消滅させる事も考えたが、クラッシャー軍団がまだ種を持っていたら意味はない。それよりは神精樹に対応する方法を研究するため、確保しておいた方がいいだろう。

 まあ、今回は研究する時間はなさそうだが。

 

「そんな物を地球に植えようとしたという事は、クラッシャー軍団はフリーザの野郎の命令を無視して、この星を滅ぼす気か。

 行くぞ、ゲロ」

 

『総員に告ぐ、戦闘開始だ』

 儂はテレパシーで待機している全員に伝えると、ベジータ王子を連れてクラッシャー軍団の宇宙船が着陸した近くへ瞬間移動で向かった。

 

 

 

 

 

 

 時は遡り……神精樹の種を手に入れた後のクラッシャー軍団の目的は、ギニュー特戦隊を超えるチームになる事から、フリーザに代わって宇宙の支配者になる事に変わっていた。

 しかし、アボとカドはフリーザ軍でもトップクラスの戦士であり、フリーザからもギニューに準じる信頼を得ていた。そのため、フリーザが変身タイプの宇宙人であり、変身後の戦闘力が100万である事も知っていた。

 

 そして、神精樹の実によるパワーアップにも欠点があった。神精樹の実は、食べた者の戦闘力を十倍以上に強化する。しかし、時間がたつにつれてその効果は弱まり、最終的に食べる前の戦闘力より数割高くなった程度に収まってしまう。

 

 例えば、戦闘力1万の戦士が神精樹の実を食べると、その直後は戦闘力が10万まで上がるが、次の日から徐々に戦闘力が下がっていき、数日後には1万数千程度で落ち着いてしまう。

 

 つまり、クラッシャー軍団がフリーザを倒し、そしてフリーザの兄のクウラをも下して宇宙の真の支配者になるには、一つや二つの星を潰して神精樹の実を食べた程度ではとても足りないと言う事だ。

 しかし、手当たり次第に星を神精樹の栽培のために使い潰す事は出来ない。フリーザ軍のエースチームの一つである彼らが侵略を命じられるのは、ほとんどの場合既に価値が高い事が分かっている星だからだ。神精樹を見つけたあの砂漠の星のような例は、あまりない。

 

 それを神精樹を育てるために使って死の惑星に変えてしまっては、十分に強くなる前にフリーザに疑念を持たれてしまう。かといって、フリーザ軍が見向きもしない月や金星のような岩石だけで生命が存在しない惑星や、木星のようなガス惑星では栽培できない。

 

「仕方ない。神精樹を育てるのに使うのは、移動中に見つけた価値の低そうな星にするぞ」

「生命は存在するが、破壊してもフリーザ軍が気にしない惑星か。いざ探すとなると、意外と見つからないもんだな」

 

 そうしてクラッシャー軍団は神精樹の種を手に入れてから約一年、地道な準備を進めて来た。フリーザ軍から回された仕事を手早くこなし、空いた時間で目を付けた惑星で神精樹を育てて実を食って戦力を強化する。

 その過程で、更に神精樹の実の欠点が明らかになった。……実が日持ちしないのだ。冷凍保存しようが、干してドライフルーツにしようが、ゼリーやジュースに加工しようが、枝から捥いで数日するとパワーアップ効果が失われてしまうのだ。

 

 数日なら十分に思えるかもしれないが、広い宇宙を移動する時間を考えると短すぎる。実を保管してフリーザを倒す直前に食べる、と言う手段が使えない。

 そんな実の保管方法を何とか発見しようと、辺境の惑星で神精樹の実のエキスを抽出してみたところ、アボの不注意で零してしまった。

 

 途端に兄弟喧嘩を始めたアボとカドだったが、偶然神精樹の実のエキスがかかった化石がなんと復活した。古代ビーンズ人のレズンとラカセイと名乗った二人は、命の恩人だからとアボとカドに忠誠を誓い、クラッシャー軍団に加入した。

 

 しかし、アボとカドはレズンとラカセイの事をフリーザ軍には報告しなかった。打倒フリーザのために戦力を隠す事にしたのだ。

 そしてレズンとラカセイはクラッシャー軍団専用の宇宙船を建造。スカウターで外から戦力を計測されないよう妨害する技術まで組み込まれた、古代ビーンズ人の技術の粋を集めた高性能宇宙船だ。

 

「レズンとラカセイの復活と加入。ここでの仕事は実にエレガントに終えました。さすが私。では、次の仕事場へ向かうとしましょう」

 ドミグラの忠実な配下であるロベルがそう言って去っていったが、その事に気が付く者はいなかった。

 

 その後はクラッシャー軍団の面々は順調に強くなっていった。実の効果の持続時間が増えた事で、一つの惑星で収穫できる神精樹の実でパワーアップできる機会が増えたお陰だ。さらに、アボとカドはレズンとラカセイの技を参考に新技を開発し、打倒フリーザの目途も立った。

 

 そんな時、フリーザから直々の命令が下った。ベジータが治める地球と言う辺境の惑星に滞在し、スラッグ一味から守れと。

 通信では畏まりましたと恭しく命令を受けたクラッシャー軍団の面々だったが、通信を切った次の瞬間には怒りを露わにした。

 

「ベジータの野郎! いつの間に星なんて貰ってやがったんだ!?」

「何が新惑星ベジータだ! 猿がお山の大将を気取りやがって!」

「フリーザの野郎も野郎でっせい! 俺達をベジータの星の護衛につけるなんて、気に食わねぇどっせい!」

「俺達はベジータの小間使いじゃねぇ! そうだろう!?」

「ンダ! ンダ! ンダァ!!」

 

 ベジータ王子は自覚していなかったが、彼らはクラッシャー軍団からとても嫌われて……より正確に述べるなら妬まれていた。

 これほどクラッシャー軍団の面々が激怒したのは、フリーザが地球で生産されている長命薬について彼らに説明していなかったのも理由の一つと言える。フリーザからすれば口頭で説明しなくても、通信で送った資料を読めばわかるだろうと思っての事だったが、既にフリーザに対する忠誠心を失っていた彼らがそれを読むことはなかった。

 

「ヘッヘッヘ、だったらその地球って星を神精樹の栽培に使っちまうってのはどうですかい?」

「今まで使ってきた星よりもずっと神精樹の栽培に適してそうですぜ」

 そして、忠誠を誓うボスと仲間達が激怒しているのを見たレズンとラカセイがそう提案するのは、自然の流れだっただろう。

 

「そうだな。噂じゃあ、フリーザの野郎は俺達が知っている姿からさらに次の変身が可能で、その時の戦闘力は200万らしいが……」

「今の俺とアボなら、敵じゃない。神精樹の実を食って、あの技を使えば……やるか、アボ」

「おう、やるぞ、カド!」

 

「地球の次は近くの惑星フリーザから神精樹の実を育てるのに使えば、フリーザの野郎と戦う頃には俺達はさらに強くなってるでっせい!」

「そしてフリーザを倒したら、次はクウラだ! そしてアボ様とカド様が宇宙の真の支配者になる!」

「ンダ!」

 

 そしてフリーザ軍へ反旗を翻す事を決意したクラッシャー軍団は、地球を滅ぼす事をその狼煙とする事にした。

 まず、改造したアタックボールに神精樹の種を乗せて打ち込んだが……失敗した。

「あいつら、なんであのアタックボールに神精樹の種を仕込んだのが分かったんだ? それにあの赤毛の男は誰だ?」

 

「さあな。勘の良い奴がいるんだろ。赤毛の男は、多分地球にいるって言うサイヤ人と地球人の混血か何かじゃないか?」

「とりあえず、地球に神精樹の実を植えるのはベジータ達を始末した後にするか。事態を知ってフリーザ軍が来るにしても、十七日以上かかるはずだしな」

 

「すぐ隣に神精樹の実を植えられそうな星もあるしな。

 よし、お前らベジータとラディッツの相手は俺達に任せろ! たとえ奴らが大猿化したとしても、俺達があの技を使えば敵じゃないからな!」

 

 そしてクラッシャー軍団は着陸した円形の宇宙船から飛び出していった。

 

 

 

 

 

 

 儂がベジータ王子を連れて瞬間移動した直後、球形の宇宙船から、アボとカド率いるクラッシャー軍団が姿を現した。その瞬間、大きな気が発せられる。

「この気の大きさは何だ? 奴らはギニュー特戦隊に匹敵する程度だったはずだが、アボとカドの気はナッパに匹敵しているだと?」

 

「おそらく、神精樹の実を食べてパワーアップしてきたのだろう。

それと、あの宇宙船には乗員の気を外から感知できないように妨害する機能があるようだな」

 原作劇場版では神精樹の実を食べ続けた事で、原作ターレスは下級戦士出身にもかかわらず原作ベジータの倍以上の戦闘力を獲得していたが、元々強いフリーザ軍の幹部が食べた場合はあれほど強くなるのだろう。

 

「神精樹の実か。超神水よりもよほど神がかった効果だな。俺も食ってみたくなったぜ」

「神様達の機嫌を損ねそうじゃから、出来れば我慢してくれ。さて、歴史改変者はまだいないようじゃな」

 

 ただ、今のところキリや魔力は計測されていない。周囲に放っているスパイロボットや光学迷彩を施したドローンも、ドミグラやトワの姿を捉えられずにいる。

 どうやら、歴史改変者達はまだ本格的に介入していないらしい。

 

「まずは様子を見る。セリパとトーマは待機じゃ」

『ちょっと待ちなよ! 他の連中が戦っているのを、指を咥えて見てろっていうのかい!?』

「手早く始末した方がよくないか?」

 

「歴史改変者が動くまで戦力を温存しておきたい。クラッシャー軍団を倒した後、キリで強化した他の歴史のクラッシャー軍団を連れて来るかもしれん」

 食ってかかるセリパと疑問を呈すベジータ王子に、そう説明する。

 

『まだ俺達の出番じゃないってよ。それに、戦闘力10万ぐらいじゃ俺たちの相手にはならないだろ? とりあえず大物が出て来るまで様子を見ようぜ』

 通信機越しにトーマがセリパを宥めているのが聞こえる。どうやら納得してくれたようだ。

 

「フンッ、俺は好きにやらせてもらうぞ」

「では、儂も姿を見せておくか」

 儂も前に出た方が、隠れているよりは歴史改変者も出てきやすいだろう。それに、プランAは無理だが、Bはまだ可能性がある。

 

 とりあえず、倒して拘束したら「命が惜しければ」と脅し、その後懐柔を試みよう。……ダメだったらプランGだが。

 

 そしてベジータ王子と儂がクラッシャー軍団の前に出る、打ち合わせをしたわけでないがラディッツ、ナッパ、天津飯、悟空、ヤムチャ、チチ、ブルマが集まっていた。

 ちなみに、儂やベジータ王子達は気をまだフリーザ軍の基地に行った時と同じ程度に抑えている。悟空達の気も、本来の三割ほどだ。

 

「よう、久しぶりだな、ベジータさんよ!」

「随分と景気が良さそうじゃないか。俺達にも分けてくれよ」

 

 儂等に、と言うよりもベジータ王子に気が付いたアボとカドが敵意を隠さず、ニヤニヤと笑いながら話しかけて来る。

「貴様等こそ随分と戦闘力を上げたじゃないか。ギニューの野郎を超えたんじゃないか? フリーザの使いっパシリにしては大したものだ」

 

「な、なにっ!? お前、フリーザ様の事を……!」

「いちいち動揺するな。どうせ貴様等もそのつもりなんだろう? 守れと命令されたこの地球に、神精樹とやらの種を植えようとするぐらいだからな」

 

「なるほど、テメェもフリーザの野郎を倒して宇宙の帝王に成ろうって腹か」

「なら話が早い。お前ら、俺達の手下に成れ。そうすれば、この星で育てた神精樹の実を分けてやるぜ」

 ベジータ王子のフリーザに対する物言いに一度は驚いた様子のクラッシャー軍団の面々だが、すぐに自分達も本音をさらけ出し、手下になるよう勧誘を始めた。

 

「なんだと?」

 そう聞き返したベジータ王子に、クラッシャー軍団のメンバーはさらに続ける。

「新たな宇宙の帝王になるアボ様とカド様の手下に加えてやるって、言ってるんでっせい」

「テメェ等は気に食わないが、戦力になるからな。これまでの事は水に流してやってもいいぜ」

「ンダ」

 

「この星は神精樹を育てるのに最適な環境なんだ。この星で育った神精樹の実を食えば、俺達の戦闘力はますますアップする」

「あのフリーザだってアボ様とカド様にかかればチョロイもんよ。ラディッツ、テメェの弟やその他の連中も、神精樹の実を食えば多少は使えるようになるだろうぜ」

 

 手下に成れと勧誘してきたクラッシャー軍団だが、地球で神精樹を育てる予定を変えるつもりはないようだ。

「オラ、そんなもんに頼らなくても強くなれっぞ。皆もそうだ!」

 悟空がそう言い返すが、クラッシャー軍団の面々は取り合う様子はない。

 

「へっ、神精樹の実の効果を知らないからそんな事が言えるんだ」

「どうだベジータ? 星なら、フリーザを倒した後でこんな辺境の星よりももっと価値のある星をくれてやってもいいぜ」

 そして改めて問うてくるアボとカドを、ベジータ王子は鼻で笑った。

 

「勘違いするなよ。さっき聞き返したのは、貴様らが俺の手下にしてくださいと言ったのを聞き間違えたんじゃないのかと思ったからだ」

「なんだとっ!?」

「テメェっ、何様のつもりだ!?」

 

「ふんっ、何様だと? 俺はサイヤ人の王子ベジータ様だ! 本音を言えば貴様等なんぞさっさと始末しても構わんが、俺はこう見えても優しいからな。素直に降伏するなら手下にしてやると言ってるんだ! 感謝しろ!」

「ベジータ王子、それは説得と言うより挑発だと思うが」

 

 クラッシャー軍団が儂等にしている事も勧誘ではなく恫喝の類じゃから、止めはしないが思わずツッコミを入れてしまった。

 

「このサイヤ人の猿が! 後悔するなよ!」

「テメェは俺達が直々にボコボコにしてやる!」

「おっと、ベジータの相手をするにはお前等じゃ力不足だ」

「俺達が遊んでやるよ。お前ら、気を解放しろ!」

 

 ナッパの号令に応えて、悟空達が『おうっ!』とそれまで抑えていた気を解放する。

 

「こ、こいつら戦闘力が急にっ!?」

「うおっ、スカウターがっ!?」

 悟空達の、特にナッパとラディッツの戦闘力を測定しようとしたスカウターが次々に爆発する。どうやら、彼らにはまだ新型のスカウターが支給されていなかったようだ。おそらく、途中でフリーザ軍の基地に立ち寄らなかったせいだろう。

 

 その隙に乗じて、儂等はクラッシャー軍団に攻撃を仕掛け、戦闘に突入した。

 

 

 

 

 

 

「このチビ共め! 実力を隠してやがったな!」

「あんた達だってチビじゃない!」

「レディーに対して失礼な奴らだべ!」

 

 レズンとラカセイに戦いを挑んだのは、ブルマとチチだった。レズンの戦闘力は7600、ラカセイは8000と、以前の二人だったらあっさり負けていただろう。

 

「地球は渡さねぇだぞ!」

 だが、そう叫びながら繰り出したチチの拳を受け止めたレズンは「ぐえっ!?」とうめき声を漏らしながら、その場に留まれず後ろに下がる。

 

「さっさと降参してよね!」

「なっ、ぐおぉっ!?」

 逆に、ラカセイは繰り出した拳をブルマに受け止められ、カウンターの膝蹴りを受けて吹っ飛ばされた。

 

 修行を重ね、あの世との交流試合で瀕死になりつつ戦闘経験を積み、今年超神水を飲んだ二人の戦闘力は、去年サイバイマンと戦っていた時と比べると圧倒的に高くなっている。

 チチの戦闘力は9700、そしてブルマはなんと10500。二人とも、フリーザ軍でもそうそういない強さにまで達している。

 

「女のガキのクセになんて強さだ! 信じられねぇ」

「お前らっ、純粋なサイヤ人じゃなくて、この星の種族との混血じゃないのか!?」

 気を感知する技術はなく、スカウターも失っているが、相手の方が格上である事を理解したのだろう。レズンとラカセイの顔に冷や汗が浮かんでいる。

 

「地球人とサイヤ人のハーフだけんど、文句あるんだべか?」

「これ以上抵抗するなら、気絶するまでボコボコにするからね。その後、改めて降参するか聞いてあげる」

「そうだべな、会長さんのあれは止めてぇべ」

「うん、あれは越えちゃいけない一線だと思うのよね」

 

 チチとブルマとしては、レズンとラカセイを殺したくないというより、儂にプランGを実行させたくないために降参する事を勧めていたようだ。

「クソッ、こんなガキ共相手に苦戦するとは我ながら情けねぇっ!」

「やるぞ、レズン! 俺達の力を見せてやる!」

 

 しかし、レズンとラカセイは二人の勧告に従うつもりはないようだ。お互いに目配せすると、背中合わせになり……するっと合体した。

「ええっ!?」

「「ガハハハ! 俺達が最強の兄弟だってことを教えてやるぜ!」」

 

 そして驚くブルマとチチに向かって突進する。

「パワーアップしただべか!?」

「落ち着いてっ、気の大きさは変わってないわ! 目と手足の数が増えただけ!」

 なら四妖拳と同じかと思ったチチだったが、拳を交えてみるとそれは違う事がすぐ分かった。

 

「「さっきまでのようにはいかないぜぇ!」」

 四妖拳はあくまで腕が増えるだけで、考える頭は一つのままだ。しかし、レズンとラカセイの場合は考える頭も二つ。しかも、息の合った双子だ。連携の巧みさには目を見張るものがある。

 

 チチが繰り出した拳をレズンが両手で受け止め、ラカセイの拳がカウンターを仕掛ける。ブルマがチチを援護しようと死角から攻撃しようとしても、レズンかラカセイ、どちらかが気づいて回避されてしまう。

 しかし、ブルマ達も幼い頃から修行を続けて来た武道家だ。

 

「どどん波っ!」

「「ぐげぇっ!? こいつっ、尻尾の先から!?」」

 ブルマが尻尾の先からどどん波を放ち、レズンとラカセイの胸を撃ったのだ。溜めが短かったために戦闘不能になるほどの威力はなかったようだが、顔を苦痛に歪めている。

 

「「こいつら相手に接近戦はヤバイ! くらいやがれ!」」

 レズンとラカセイは合計四本の腕からエネルギー弾を連続で放った。双子の必殺技、ジェミニショットだ。

 

「フォトンシールド!」

「わわわっ!?」

 ベジータ王子のようなエネルギー弾の連続射撃を受け、チチは堪らずシールドを張ったブルマの背後に隠れる。

 

「「へっへっへ! それでいつまで俺達のジェミニショットに耐えられるかな!? 教えてやるよ、守ってばかりじゃ勝てないんだぜぇ!」」

 しかし、レズンとラカセイの連射は止まらない。いくら戦闘力はブルマの方が高いとはいえ、圧倒的な差ではない。そしてシールドを張っているのが彼女一人である以上、二人である彼らの方に分がある。

 

 そんな目論見はあっさりと崩れ去った。

「えいっ!」

「「ぐぼぁっ!? い、いつの間に俺達の背後に~っ!?」」

 レズンとラカセイの背後に瞬間移動したブルマが、彼らの後頭部に蹴りを叩き込んだのだ。衝撃で体勢を崩した二人は、ジェミニショットの連射を止めてしまう。

 

「かめはめ波ーっ!」

 そこに、ブルマの背後で気を溜めていたチチのかめはめ波がさく裂し、レズンとラカセイは二人に分かれて地面に墜落していった。

 

 

 

 一方、珍しい事に原作劇場版通りの組み合わせで戦っている者達もいた。

「ンダ! ンダ! ンダダダ!」

「こいつも人造人間……いや、サイボーグなのか!」

 サイボーグの元賞金稼ぎカカオと、ヤムチャだ。二人は激しい空中戦を演じていた。

 

「くっ、やるなっ!」

「ンダ!」

 しかし、戦況は原作劇場版とは逆でヤムチャの方が優勢でカカオは彼の攻撃を何とか凌いで食い下がっているという状況だった。

 

 カカオの戦闘力は8400。しかし、サイヤ人とのハーフになったヤムチャの今の戦闘力は去年の倍以上の1万3千。

「だけど、自爆しない分サイバイマンより……自爆しないよな?」

「ンダーっ!!」

 

 体中に搭載されているバーニアを活用した高機動力でヤムチャの攻撃を回避し、機械部分の装甲で受け流してきたカカオは、激怒して咆哮した。彼にだってプライドがある。サイバイマンと比較され、しかもサイバイマン以下の脅威と評されたら怒って当然だろう。

 

 まあ、戦闘力に換算して1万2千のサイバイマンダークの方が彼より強いのだが。

 

「ンダァー!」

 右手に気を収束させつつ、バーニアの出力を限界まで上げてヤムチャの側面に回り込み、必殺のコズミックアタックを放つ。

 

「っ! かめはめ波!」

 とっさにかめはめ波を放って相殺を狙ったヤムチャだったが、気を収束させる時間が少なかったためにコズミックアタックを止めきれず爆発に飲み込まれてしまった。

 

「ンダ」

 勝った。そうでなくても、かなりのダメージを与えたはず。そう確信するカカオに、煙から飛び出した気弾が襲い掛かった。

「ンダ!?」

 バーニアを吹かして回避したカカオだったが、気弾は方向を変えて彼を狙い続ける。

 

「狼牙風風拳!」

 カカオの注意が操気弾に逸れた事で生まれた隙を見逃さず、ヤムチャが奇襲を仕掛けた。

「ハイハイハイハイハイ、ハイィーッ!」

 狼の群れに襲われたように激しく、そして鋭い高速攻撃がカカオを襲う。十発以上の拳を叩き込んだヤムチャは、止めとばかりに回し蹴りを放って彼を蹴り上げた。

 

 それでもなおカカオは意識と戦意を保っていた。再びバーニアを吹かして態勢を立て直し、ヤムチャに反撃しようとするが……。

「ンダーっ!?」

 弧を描いて飛来した操気弾の直撃を受けて、墜落していった。

 

「イテテ、危なかったぜ。ところで、本当に自爆したりしないよな?」

 ヤムチャはカカオが爆発四散したりしないかと、不安そうな様子で彼を追っていった。

 

 

 

「こいつっ、サイヤ人じゃねぇのに厄介でっせい!」

「サイヤ人以外にも、地球を守る戦士は大勢いる! 俺もその一人だ!」

 天津飯は元犯罪者のアモンドと戦っていた。サイヤ人ではない天津飯だが、ヤードラット星でスピリットパワーの奥義まで習得した彼の戦闘力はヤムチャと同じ1万3千。

 

「力量の差は分かっただろう、降伏しろ!」

 そして、アモンドの戦闘力は9100。カカオより強いが、ヤムチャと互角の天津飯と正面から戦って勝てる見込みは小さい。

 

「はっ! 宇宙の壊し屋、クラッシャー軍団が降伏なんてする訳ねぇでっせい!」

 しかし、アモンドに降伏の意思はなかった。バックステップで天津飯から距離を取ると、グルグルとその場で回転を始めた。

 

「くらうでっせい!」

 そして、斬撃状の気弾を放つ。その形状に嫌な予感を覚えた天津飯は、アモンドの攻撃をかき消そうとせずに体を逸らして回避した。

 

「っ! 気円斬と同じ技か」

 避け切れずに着ている道着を斬られた天津飯は、自分の予感が正しかったことを悟った。この技なら、力の差があっても当てられれば致命傷を与える事が出来る。

 

「この技を破れるものなら、破ってみろでっせい!」

 アモンドは小型の竜巻のように高速回転をしながら、技を放ち続ける。気功波を放っても生半可な威力では弾かれるし、接近すれば斬撃気弾の脅威にさらされる。隙の無い攻防一体の技に、一見すると思える。

 

「いいだろう! かぁっ!」

 だが、天津飯は回転するアモンドの真上に高速で移動し、その脳天に向かって額の目から光線を放った。

「ぐがっ!?」

 悲鳴をあげて目を剥くアモンド。回転している独楽に横から触れると弾かれるが、上から軸を抑えると止める事が出来る。それと同じ事を天津飯はしたのだ。

 

「が、がぁぁぁっ! プラネットボム!」

「どどん波!」

 悪足掻きにアモンドが放った必殺技を、天津飯のどどん波が貫きアモンドは爆発に飲み込まれた。

 

 

 

「おめぇ、強ぇなっ! 名前はなんてんだ?」

「ダイーズだ! 貴様こそ、なんでこんなに強いんだ!?」

 クラッシャー軍団員最後の一人、ダイーズと戦っているのは悟空だ。

 

「貴様、ラディッツの弟のカカロットだろ!? 情報ではお前の戦闘力は4千のはずだぞ! 戦闘力1万4千の俺と戦えるはずがない!」

 ダイーズはアボとカドに強さと勇猛さを見込まれただけあって、他のメンバーと比べると群を抜いた実力の持ち主だ。しかし、悟空は超神水を飲んだこともあって2万まで戦闘力を上げている。

 

「確かにオラはラディッツ兄ちゃんの弟だけどよ、え~っと……色々あったんだ!」

 悟空は、フリーザ軍に対する偽装である事をダイーズと拳や蹴りの応酬をしながら説明するのが面倒だったのか、ダイーズの質問に大雑把に答えた。

 

「そうかい。フリーザ相手に戦力を隠すとは、お前らもフリーザを倒そうとしてるって言うのは本当らしいな!」

 しかし、ダイーズは悟空の大雑把な答えから、正解を察したらしい。

「分かってくれたか? だったらさ、オラ達と一緒に力を合わせてフリーザって奴と戦おうぜ! 悪ぃ事もやめてよ。なっ?」

 理解してくれたと、悟空の攻勢が緩む。

 

「分かった、これからは仲間同士頑張ろうぜ……なんて言うとでも思ったか!」

 だが、その隙を突いたダイーズの拳が悟空の頬に入った。

「痛ぇっ! 何すんだ!?」

 

「フリーザにとって代わるのは俺達クラッシャー軍団だ! お前らの手下になるなんてまっぴらだぜ!」

 怒りに染まったダイーズの手に気が収束していく。

「メテオボール!」

 そこには、故郷であるカボーチャ星をフリーザに……強者に支配されている被侵略者としての恨みも込められていたかもしれない。

 

「手下に成れなんて、そんな事言ってねぇだろ! かめはめ波―!」

 しかし、自らも他者を虐げる侵略者となっていたダイーズのメテオボールを、悟空が放ったかめはめ波が押し返した。

 

「ぐっ、おおっ、ぐああああっ!?」

 そして自らの必殺技とかめはめ波の爆発にダイーズは飲み込まれた。

「あっ、そう言えばベジータ王子が言ってたな、手下に成れって。悪ぃっ、ダイーズ!」

 そして、悟空は慌てて地面に向かって落下していくダイーズを追いかけた。

 




〇クラッシャー軍団

・アボ:9万 → 13万5千
・カド:9万 → 13万5千

 フリーザ軍でギニュー特戦隊に匹敵する、もしくは次ぐ戦士なので隊長のギニューと(グルド以外の)隊員達の平均位だと推測して、9万。そして一年以上神精樹の実を食べて来たので戦闘力を1・5倍ぐらい高くしました。

・アモンド:9100
・ダイーズ:14000
・カカオ:8400
・レズン:7600
・ラカセイ:8000

 原作劇場版のパンフレットやカードダスの情報を掲載したサイトを参考にしました。彼らが原作劇場版でどれほど神精樹の実を食べて、どれくらい強くなったのかは分からなかったので、原作劇場版通りの数値にしています。

 また、レズンとラカセイの合体ですが原作劇場版でも天津飯とチャオズと戦う時にやっていたのですが、すぐに解いて別々に戦っています。その後、悟空と戦う時にも再び合体していた様子はなかったので、彼らの合体では戦闘力はアップしない、と推測しました。

 ……フュージョンと同じだったら、神精樹の実を食べる前の原作ターレスより強くなってしまいますし。



〇戦闘力推移

・チチ:2343 → 9700 
・ブルマ:2457 → 10500 

 短期間だが神殿で修行し、超神水を飲んであの世との交流試合で瀕死パワーアップしたチチとブルマ。フリーザ軍でも通用する強さに到達している。

・ヤムチャ:5250 → 1万3千 あの世との交流試合での瀕死パワーアップの結果、フリーザ軍の上級兵士相当の実力に。原作と違いカカオを倒し、さらに十年ローンの乗り物を購入していないので経済的にも破れていない。

・天津飯:6300 → 1万3千 スピリットパワーの奥義を習得した天津飯。ヤムチャに追い付かれてしまったが、瀕死パワーアップが無い三つ目族なので、追い越されなかったと評価するべきかもしれない。原作ではラカセイに倒されたが、この作品ではアモンドに勝った。

・悟空:6840 → 2万 原作劇場版と比べると唯一強くなっていない原作主人公。界王拳も未収得だがダイーズを倒した。



〇神精樹の実のパワーアップ効果

 原作劇場版で、悟空との戦闘中に神精樹の実を食べた原作ターレスの戦闘力が50万以上になった事。それなのにいくつもの星を滅ぼして神精樹を育て、実を食べているはずの原作ターレスやクラッシャー軍団メンバーの普段の戦闘力が、それにしてはそんなに高くない事。

 それらから推測した結果、「食べた直後は爆発的にパワーアップするが、その後は徐々に気が下がっていき、最終的に食べる前の一割から数割増し程度に落ち着く」のではないかと思い、この設定にしました。

 また、収穫後数日で実のパワーアップ効果が無くなるというのも、原作劇場版で原作ターレス達が、悟空達との戦闘の前に地球の前の惑星で収穫した神精樹の実を食べなかった事から、推測しました。

 この作品の独自、もしくは捏造設定になります。



〇地球丸ごと超決戦

 地球に目を付けたターレス率いるクラッシャー軍団と悟空達Z戦士の戦いを描いた劇場版作品。
 地球の滋養が神精樹によって吸い上げられ滅亡の危機が迫り、Z戦士達は次々に敗れる。そして界王拳を使った悟空も、神精樹の実を食べてパワーアップしたターレスの前に一度は破れる。川は枯れ、動物は倒れ、大都市をビルより太い神精樹根が破壊するという、絶望感あふれる作品。

 何より、頼みの綱のドラゴンボールが物語序盤で火事(原因はクラッシャー軍団が地球に向けて放った探査機)で焼け野原になった森を元に戻すために使われているので、一年後まで地球を元に戻せない事が追い詰められた状況を演出している。

 時期的には、ターレスが、地球に送り込まれていたカカロット(悟空)によって地球が滅ぼされずにいる事を知っていた事、ピッコロの戦闘力がターレスのセリフから1万8千ある事、そして悟空が界王拳と元気球を習得済みで、北の界王様とも知り合いである事から、サイヤ人襲来編後であると推測できる。

 しかし、ヤムチャやチャオズを含めてZ戦士が全員健在である事から、ベジータ達との戦いで誰も死ななかった世界線の出来事なのかもしれない。劇場版後に地球を出来るだけ早く以前の自然豊かな状態に戻すために、ナメック星に向かう展開も考えられる。

 ハイヤードラゴンの初登場、サイヤ人の下級戦士は顔のパターンが少ない事が明らかになる、ターレスの悪のカリスマっぷり等、見どころの多い作品。



 変わり者様、ダイ⑨様、Pppppaaa様、PY様、NoSTRa! (ノズトラッ!)様、都庵様、佐藤東沙様、ヴァイト様、ダイ⑨様、tahu様、syrup様、誤字報告ありがとうございます。早速修正しました。

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