ドクターゲロに転生したので妻を最強の人造人間にする 作:デンスケ(土気色堂)
年が明けてしばらく経った頃、バイオレット大佐は目覚めた。スピーカーから『おはよう』とゲロの声が流れてきて、手術の成功と今日の日付、そして今の彼女の力を戦闘力に換算した数値を教えてくれた。
「100万か。正直実感できない。慣れるまでは慎重に動いた方がいいわね」
扉に鍵がかかっているのに気が付かず、ドアノブをもぎ取って破壊してしまう……程度なら笑い話で済む。冗談を言った部下や同僚の肩を叩いたら、壁の向こうまで吹っ飛ばしてしまったなんて事は避けたい。
「あれ? おかしい……どういうことなの?」
しかし、ポッドから出たバイオレット大佐は自身が得た力に対する不安を忘れるほど驚かされる事になった。信じられないといった様子で鏡に映る自分の姿を見つめ、自分の手で触れてそれが見間違いで無い事を確かめる。
「どうしたの、バイオレットちゃん? 裸のまま鏡の前で変なポーズしてるけど」
「だ、だって無いのよ!?」
バイオレットはランファンにそう答えながら頭や腰の後ろの辺りを、何度も手で触れている。
「無いって……もしかしてハゲや蒙古斑? じゃあ、ドクターがこっそり植毛して染み抜きしてくれたのかもしれないわね」
「そんなもの元から無いわ! そうじゃなくて、尻尾や角が生えてないのよ! 肌の色も変わっていないし……見た目が改造手術を受ける前と何も変わっていないのよ!」
鏡に映っていたのは、改造手術を受ける前と何も変わっていない彼女の姿だった。サイヤ人やフリーザ一族の尻尾や角、そのほかの器官が新たに生えている事も無ければ、肌の色も変化していない。
「まるで人間のままみたい。……いや、違う。分かる、自分の体が変わっている事が」
鋭くなった五感に、永久エネルギー炉を移植されたため自分自身から気を感じないのに、圧倒的なエネルギーが体内に満ちているのがバイオレット大佐にも分かった。
試しに息を止めても、全く苦しくない。このまま海に飛び込んで深海まで潜っても、宇宙に飛び出しても、死ぬ事は無いだろう。
「うん、あたしから見てもバイオレットちゃんの見た目は何も変わってないわ。後は、ドクターに説明してもらった方が早いんじゃない?
その前に服を着なきゃだけど」
「……そうだった」
バイオレット大佐はランファンが用意した服に着替えると、ゲロから話を聞くために彼がいる部屋に向かった。
「通信でも言ったが、改めておはよう。人造人間14号になった気分はどうかね、バイオレット大佐?」
出迎えたゲロは、いつもと変わらない様子だ。モニターには彼女のデータが映し出されている。
「生まれ変わったという程じゃないわね。それより、異星人の良いとこ取りって話はどうなったの? 私の姿が全く変化していないけど」
「その件だが、異星人の細胞を上手く纏める事が出来てな。だが、自分の体は具体的にどうなっているのか説明するには、一度誰かと戦ってもらうのが最も分かりやすいだろう。
トーマ、頼めるかね?」
「へっ、任せな。よし、早速やろうぜ!」
「そんないきなり!?」
部屋に入って来たトーマに驚くバイオレット大佐。
「待ちなよ、トーマ」
続いて部屋に入ってきたセリパの姿に安堵するバイオレット大佐だったが、それは間違いだった。
「あたしにもやらせなよ。新しく人造人間になったこいつに興味があるのはあんただけじゃないんだからね」
「くっ、これだから戦闘民族は……!」
そしてバイオレット大佐達はゲロの瞬間移動によって、無人の星に移動した。そこでまずはトーマ、そして次にセリパとの実戦とほぼ変わらない組手を行う事になった。
(信じられない! 私がこれほどの力を、スピードを、そしてタフネスを持っているなんて!)
手術を受ける前は全く見えなかったトーマの動きに追い付く事が出来、何気なく振るった拳が岩山を砕き、気が付けば音より速く動き続けても全く疲れない。
激しい攻防を楽しんでいる自分を、より強く感じる。それどころか、攻撃を受けても戦闘意欲の減退につながらない。痛みすら戦意を駆り立てる要因になっている事に、バイオレットは驚いた。
(これが脳改造を受けると言う事か。だけど、妙だ。まだ何か物足りない?)
「慣らしは十分だよな? そろそろ本気を出していくぜ! まずは戦闘力2百万だ!」
そう思った直後、トーマの動きが目で負えない程速くなった。衝撃を感じた瞬間真横に吹っ飛ばされ、岩山に叩きつけられてから、自分が蹴り飛ばされたのだと理解する。
「そして3百万だ!」
身を起こした瞬間、目の前に現れたトーマが拳の雨を降らせて来た。回避も防御も出来ず、ひたすら翻弄されるしかない。
(全然追い付けない。なのに……まだ戦える気がする? 出せていない力があるような気がするけど、どうすればいい?)
「どうした!? そろそろ4百万ぐらいになるぜ! 細かい事は考えず、俺の面を思いっきり殴ってみろよ!」
(そうだ、戦闘中に考え事をする余裕は私にはない。それになんだか腹が立って来た!)
「があああああっ!」
一方的にトーマの攻撃を受け続けたバイオレット大佐は、その怒りを拳に込めて彼に殴りかかった。その瞬間、トーマの動きが妙に遅く感じた。
脳内麻薬のせいでスローモーションに見えるだけかと思ったバイオレット大佐だったが、自分の拳がトーマの顔面を捉えて殴り飛ばした時に、脳内麻薬のせいではない事に気が付いた。
「今の力は……うわっ!? なに、この姿は!?」
そして、拳の色が白から青紫に変わっていた。
「変身に成功したようじゃな。おめでとう、それが君の戦闘形態だ」
ゲロがそう言いながら素早く駆け寄って来て、手鏡を差し出した。そこに映っている女を、バイオレットは最初自分だとは信じられなかった。
彼女の名前通りバイオレットの肌に、そして銀色の髪。額には二本の角が生え、耳も伸びて先端が鋭く尖り、腰にはサイヤ人の尻尾が生えている。また、体付きも一回り大きくなった気がした。変わっていないのは、瞳の色ぐらいだ。
「これが私……戦闘形態っていったいどういう事?」
「うむ、この宇宙には変身タイプと呼ばれるフリーザやザーボンのような種族が存在する。サイヤ人も満月を見ると大猿に変身する事が出来るが、彼らは自分の意志で理性を失う等のリスクなしで戦闘力の高い形態へ変身する事が可能だ。
バイオレット大佐、君の改造には彼らの特性を参考にした」
普段は普通の地球人と同じ姿の通常形態。しかし、自分の意志で戦闘力の高い戦闘形態へ変身する事が出来る。
そして、戦闘形態では通常時の十倍の戦闘力を発揮する。
「つまり、今の私の力は戦闘力1千万に相当するのか。スーパーサイヤ人みたいなもの?」
「そこまでではないな。ただ、永久エネルギー炉を移植した君は基本的に疲労する事はない。スーパーサイヤ人よりも持続力はずっと上だ。
それに今後君がトレーニングを積み、戦闘経験を重ねていけば、さらなる変身も可能になるかもしれん」
「そう、悪くないわ」
肌の色が変わり角や尻尾が生えても構わないと言ったバイオレット大佐だったが、元の自分の姿が嫌いなわけではなかった。
それに対してゲロの改造は、通常形態では以前と同じ姿を保つことができる。
「その戦闘形態からさらに大猿化する事も可能だが、今回は止めておこう。生体部品の永久エネルギー炉が、まだ実戦に馴染んでおらず負担がかかるかもしれん」
「よし、じゃあその姿のまま第二ラウンドと行こうぜ!」
そこに、殴り飛ばされたトーマが戻って来た。そう言えば模擬戦の途中だったと、再び構えを取るバイオレット大佐。
「待ったっ! 次はあたしの番だよ」
しかし、そこにセリパが嘴を挟んできた。
「おい、そりゃねえぜ。やっと面白くなってきたんだ、もう少しやらせてくれよ」
「あたしだって見ているだけじゃ退屈だ。ランファンは付き合ってくれないしさ」
「そんな事言われても、あたしじゃセリパの相手はきついって」
「じゃあ、五人で乱取りと行くのはどう? ……私も、ひと暴れしたくなってきた」
そして、戦闘形態になった影響かバイオレットの戦闘意欲はサイヤ人並みに高まっていた。
「「よし、そうしよう!」」
「儂とランファンは他で稽古をするから結構じゃ。行くぞ、ランファン!」
しかして、ゲロはランファンと瞬間移動で命からがら離脱することに成功したのだった。
地下に築かれたコーチンの研究所では、奇妙な植物が青々とした葉をつけていた。
「フェッフェッフェ……こうしてみると盆栽も楽しいものよ」
「クックック、流石はこのピッコロ大魔王が認めた同盟者だ」
ドクター・コーチンとピッコロ大魔王の前にある植物は中々の枝ぶりだったが、その大きさは約五メートル。研究所の一部を吹き抜けにしてやっと屋内に収めている。
しかし、その植物本来の大きさを考えれば盆栽と評されても仕方がない程小さくされている。
「神精樹の盆栽とは、貴様が憎むドクター・ゲロとやらも考え付くまい」
なんと、その植物は神精樹だった。コーチンは偶然手に入れたと思い込んでいる神精樹の実から取り出した種の遺伝子を操作し、大きさを通常の樹木程度に抑える事に成功したのだ。
「フェッフェッフェ。光栄だが、全てはピッコロ大魔王、お前の協力あってこそだ」
「貴様に肥料の提供を依頼された時は、正気を疑ったがな。どれ、今日の分をくれてやるとするか」
すると、ピッコロ大魔王は独特のリズムで呪文のような歌を歌い、卵を吐き出した。
「そらっ、受け取るがいい!」
そして、吐き出した卵を神精樹に向かって投げつけた。すると、神精樹の根がまるで蛇のように動いて卵に絡みつくと養分を吸い始めた。
ピッコロ大魔王が産む、強大な力を持つ魔族の卵を肥料として使い、地球の滋養の代わりに吸わせる事で小型神精樹は花をつけ、果実を実らせていた。
そして、ピッコロ大魔王は神精樹の実を食べる事で消耗した体力を回復させ、それ以上のパワーアップを遂げる。神力も高まり、無から物品を作り出す事も可能となりコーチンを悩ませていた物資不足が解消され、彼の研究開発も進んでいる。
「このピッコロ大魔王の卵を糧に育ち、コーチンに品種改良を施された神精樹は既にただの神精樹とは呼べんな。そうだ、魔神精樹とでも名付けるとしようか」
「魔神精樹! 素晴らしい呼び名かと。我々の兄弟達も、大魔王様の糧になれた事を誇りに思っている事でしょう」
「タンバリン、人聞きの悪い事を言うな。この魔神精樹にくれてやっている卵はただのエネルギーの塊、いわば無精卵だ。肥料として魔神精樹にやらなかったとしても、貴様らのように育つことはない」
ピッコロ大魔王とコーチンの背後には、ピアノを含めた数人の魔族が控えていた。パワーアップしたピッコロ大魔王から生まれ、コーチンの改造を受け、更に魔神精樹の実を食した精鋭達だ。
さっき発言した有翼の魔族、タンバリン。同じく有翼でドラゴンのような頭部を持つシンバル。翼は生えていないが、逞しい肉体を持つドラム。
「それに、貴様等精鋭は特別だ。他は、数が必要になった時に産めばいい」
「フェッフェッフェ、儂が改造できる数にも限りがあるからな。例の装置も開発せねばならん。あれさえ完成すれば、ここで出来る全ての事をやりつくした事になる」
「やりつくした、か。確かに、このまま籠っていてもこれ以上は望めん。イチかバチかの賭けに出るしかあるまいな」
ピッコロ大魔王の戦闘力は、百万単位に到達している。魔神精樹の実を食べれば、一時的に一千万を超える事も可能だ。
武泰斗に封印される前のピッコロ大魔王と比べると、次元を超えた強さだ。地球どころか、宇宙にそれなりの領土を持つ事も不可能ではないだろう。
しかし、それでもゲロが作り出した人造人間達には敵わない。奴らの力は、条件が揃えば億を超える。
コーチンが出来るだけ対策を行っているが、それでも確実に勝てるという確信には至らなかった。
「地球を地獄に変えるだけならいっそ、この魔神精樹を地球で解き放った方が確実かもしれんぞ。ゲロが察知した時には、地球の滋養の何割かは吸い尽くしているだろう。
何なら、他にも神精樹の種を撒いて同時に芽吹かせるか? それなら地球が死の星と化すまで半日とかからんだろう」
魔神精樹に地球の滋養を吸わせつくし、地球を赤茶けた死の星に変える。それは宇宙の存在を知ったピッコロ大魔王にとって悪くない方法だった。
地球そのものは残るので、彼の半身である地球の神がいる神殿は無傷で残るから死ぬ心配もない。
「ふむ……確かに。それも悪くない。ゲロを天才と崇める愚かな地球人共が、渇きと飢えに苦しみながら死んでいくのを見るのは、最高の見世物じゃろう」
そう語るコーチンの顔は、下手な魔族よりも邪悪なものだった。その見世物を見る自らも死ぬ事になったとしても、彼は当然のように受け入れる事だろう。
サイボーグとはいえ人間の彼をタンバリン達が敬うのは、その邪悪さと狂気を認めたからだ。
「だが、ピッコロ大魔王。儂は試したいのだ。儂が心血を注いだお前達の力が地球の武道家達を、そしてゲロが作り上げた人造人間を打ち負かす事が出来るのか! お前達が奴らに勝利し、直接地獄に堕とすところをこの目で見たいのだ!
科学者にあるまじき非効率な考えだとは思うが、この衝動を抑える事は出来ん!」
「フハハハハ! コーチン、貴様はつくづく生まれて来る種族を間違えたな! 儂も同意見よ、この穴倉で何年も備えてきて、復讐の主役を木に奪われるなど堪ったものではない。
この力が何処まで通じるか試し、地球人を滅ぼし、そして行く行くは我が故郷であるナメック星を含めた宇宙を征服してくれる!」
コーチンとピッコロ大魔王の意思は一致していた。ゲロや地球人達に対する復讐心や悪意はあるが、それと同時に自身の技術力と、そして力を試したいという衝動がある事も否定できなかった。
「では、予定通り今年の天下一武道会で仕掛けますか?」
「ああ、そうしよう。ゲロの人造人間の気は探れん。他の武道家のように位置が分からんからな」
ピッコロ大魔王達は、事を起こすのに天下一武道会を利用する事を目論んでいた。
気を読む事が出来るピッコロ大魔王や、コーチンが独自に(実際はドミグラの技術提供で)開発したスカウターで、地球の武道家や宇宙人達がどこに居るかは探る事が出来る。
しかし、気が無い人造人間達……人造人間10号のマロンから14号のバイオレット大佐までは、どこに居るか分からない。
そのため、彼女達が出場や観戦のために集まると予想される天下一武道会を利用する事を考えたのだ。
「春が楽しみだな。それまでは……新作のホラー映画でも楽しむとしよう。もうじき、永遠に見られなくなるのだからな」
「俳優も撮影スタッフも死に絶えてしまうからな! フェッフェッフェッフェ!」
闇に包まれた空の下でドミグラの忠実な配下、ロベルは満足げにほほ笑んでいた。
「どうした? 何か良い事でもあったのか?」
不意にかけられた声にも、笑みを深くして答えた。
「良い事はこれから起きるのです。そうでしょう? ミスター・スラッグ」
ロベルがいるのは、なんと惑星スラッグ。スラッグ一味の惑星クルーザーだった。
「フッ、確かに。このスラッグ様が永遠の若さを手に入れる記念すべき瞬間ももうすぐだ。貴様には感謝しているぞ、ロベル。我が同盟者よ」
クラッシャー軍団を裏で誘導していたロベルの次の任務は、スラッグ一味の誘導。それも、魔術で操るだけではなく姿を現して言葉でも誘導する必要がある、難しいものだった。
何せスラッグはフリーザと比べても傲慢で、しかも気が短い。自分に一切逆らわない忠実な部下以外は、対等な同盟者どころか、物言う側近も不要と考える暴君だ。
しかし、完全に洗脳して操り人形にしてしまうとタイムパトローラーに察知される危険性が高い。ドミグラの目的を叶えるには魔術の使用を抑えて言葉も使ってスラッグを誘導し、しかも決して表に出ない事が求められた。
(そんな難易度の高い仕事をエレガントにこなすとは、さすが私)
そう内心で自賛するロベルは、スラッグにとって奇妙な存在だった。
(相変わらず何を考えているのか読めない奴だ。こいつのもたらした情報には助けられたが、得体が知れん。だが、簡単には始末できん)
もちろん、絆されてなどいない。ただ自分の部下達と比べてもずっと使える奴だと評価しているだけだ。
ロベルは惑星クルーザーで宇宙を駆けるスラッグの前に突然現れた。宇宙船に乗って、「地球という星出身の魔族です」と名乗り、取引を申し込んできた。
当然、スラッグは取り合わなかった。とりあえず部下に捕まえさせて宇宙船を奪い、その取引について吐かせるよう命じた。
だが、次の瞬間ロベルは惑星クルーザーの指令室にある玉座に座るスラッグの目の前に現れた。
「ミスター・スラッグ、もし私との取引に応じていただけるのなら、あなたにさらなるパワーと永遠の若さを差しあげましょう」
と提案した。そう、若さだ。一時はコルド大王と宇宙の覇権を競ったが、老いに蝕まれ力を失いつつあるスラッグにとって、最も欲していたものだ。
そんな彼にとってロベルの提案はとても魅力的だった。しかし、突然現れた得体のしれない自称魔族を信用するスラッグではない。すぐさま自分に対して不遜な態度を取ったロベルを殺そうと、指からエネルギー波を放って彼女の心臓を貫こうとした。
「気が短いのはエレガントとは言えませんね」
だが、ロベルは手にした鞭でスラッグの放ったエネルギー波を弾き散らした。彼の配下であるゼエウンやドロダボなら為す術もなく死んでいただろう一撃を、苦も無く防いでみせたのだ。
ロベルがただ者ではないと理解したスラッグは、ようやく話を聞く気になった。そしてまずロベルが差し出したのが、神精樹の種だった。
「スラッグ星の神であるミスターなら、この種から育つ樹が実らせる果実を食せば、絶大な力を手に入れる事が出来るでしょう」
それからしばらく、フリーザ軍の縄張りにある星を襲い、神精樹の苗床にしては実を食する日々が続いた。ロベルの言う通り、神精樹の実を食えば食う程スラッグの力は増していった。
老いた体に若い頃と同じ……いや、若い頃以上の活力と力が宿り、無から物品を作り出す特異な力も扱えるようになった。
一度に多くの実が穫れ、同じ神精樹の樹から取れた実を食べ続けても効果は薄い事から配下にも食わせれば、スラッグ同様に力を増し戦力の増強が叶った。
それを十以上の星で繰り返したのち、ロベルは奇妙な物体をスラッグに差し出して言った。
「今のミスター・スラッグならこれを使って、どんな願いも叶える龍を呼び出すボールを作る事が出来るでしょう。私への見返りは、そのボールを一度使わせていただければそれで結構です」
思わず彼女の正気を疑ったスラッグだったが、彼女は本当の事を言っているような気がした。言われてみれば、幼き日にその不思議なボールを見たような覚えがある。
そして物品を作り出す不思議な力……神力を使ってスラッグはロベルが差し出した奇妙な物体……スーパードラゴンボールの欠片から新たなドラゴンボールを作り出した。
「さあ、出でよ、神龍! そしてこのスラッグ様の願いを叶えたまえ!」
握り拳大の七つのボール……スラッグのドラゴンボールを七つ並べさせ、呪文を唱えるスラッグ。するとドラゴンボールは禍々しい輝きを放ちながら、黒い鱗の神龍を呼び出した。
『さあ、願いを言え。どんな願いも二つだけ叶えてやろう』
見るからに邪悪そうな神龍だが、別に願いを叶える代償を要求する事や、故意に願いを曲解する事はないのは他の神龍と同じだ。スラッグ自身、そのように創ってはいない。
「この俺の肉体を若い頃に、最も力を持っていた頃に戻してくれ! そして、永遠に老いないようにしろ!」
『若返りと不老だな? 容易い願いだ』
スラッグの神龍の目が光ったと思うと、スラッグの肉体が見る見るうちに若々しく変化した。肌に合った皴や弛みがなくなり、張りを取り戻していく。
「おおっ! スラッグ様の肉体が見るからに若々しく! あれほど老いていたのが信じられん!」
配下達がスラッグの変化にざわめく中で、頭部に二本の角を生やした赤毛に強面の魔族ゼエウンが一際大きな声を上げた。
「っ!」
スラッグはそのゼエウンをギロリと睨みつける。
「ゼエウン、お前……!」
「お、俺はスラッグ様の大願成就をお祝いしたかっただけで――ぎゃっ!?」
アンギラが引きつった声を上げ、ゼエウンが言い訳をしている途中で彼の体をスラッグのエネルギー波が貫いた。
「お、お許しを……どうか、お許しください……!」
腹に風穴を空けられたゼエウンは、瀕死の状態で許しを請う。その姿にスラッグは鼻を鳴らすと、アンギラに目で指図した。
「はっ! 再生ポッドに放り込んできます! 命拾いしたな。これ以上手間を掛けさせるなよ」
「す、すまねぇ……」
アンギラに引きずられていくゼエウンを一瞥もせず、スラッグは思った。奴を殺さずに生かしておくとは、もしかして自分は一度歳をとって甘くなったのかと。
たった一回の失言で部下を、それも側近に瀕死の重傷を与える。いくら再生ポッドで治療すれば(地球にある物に比べると旧型であるため)数日で治るとはいえ、常人の価値観ではやり過ぎだと思うだろう。フリーザでも、「おやおや、随分と短気ですねぇ。もう御歳なんですから、血圧を上げない方がいいと思いますよ」と言うだろう。
しかし、以前のスラッグならエネルギー波で腹ではなく心臓を貫き、ゼエウンを殺していたはずだ。
(いや、甘くなったのではない。力を増した事で余裕を手に入れたのだ。奴を殺さなくても配下共の俺に対する恐怖は揺るがん。それに、神精樹の実を食わせて力を高めたゼエウンの代わりを用意するのは手間がかかる。
それだけの話だ。俺は断じて甘くなってなどいない)
そう思い直すスラッグだったが、その思考も実はロベルの魔術によって誘導されたものだった。
(すぐ自分達で勝手に数を減らそうとするのですから困ったものです。ドミグラ様の爪の垢を煎じた物を流し込んで……いえ、これはエレガントな考えではありませんね)
『さあ、二つ目の願いを言え』
「そうだったな。俺に、そして俺の部下共に日光に対する耐性を与えろ」
『弱点を克服する程度で構わないのなら、可能だ』
「十分だ」
スラッグが自身の若さの次に求めたのは、弱点の克服だった。日光や強い光に対する脆弱さは、スラッグを長年悩ませてきた。力を得て、これから目障りなフリーザ軍やクウラ軍に対抗し、再び宇宙の覇権を狙うなら克服するに越したことはない。
『よかろう』
スラッグの神龍の目が光り、スラッグ達の体が一瞬淡く輝いた。
『願いは叶えてやった。さらばだ』
そしてスラッグの神龍の黒い体が光って消え、七つのドラゴンボールが空に浮かび上がる。
「はっ! 七つのドラゴンボール。確かに」
しかし、スラッグ星の各地に飛び散る前にロベルが素早く全てのドラゴンボールを回収した。
「では、ボールを使わせていただきます。構いませんね?」
ドラゴンボールは作った者によってボールの数や大きさ、呼び出す神龍の姿だけではなく、叶えられる願いの数やボールが石化する期間にも違いがある。
そしてスラッグのドラゴンボールは、神龍を呼び出した後でも石化せず集めさえすれば直ぐにまた使う事が出来る。
「好きにしろ。俺達は確認する事がある」
スラッグがロベルにそう言いながら合図すると、ギョーシュ達が急いで機械を操作してスラッグ星を覆っている雲を解除する。
惑星クルーザーに改造され、本来存在した星系から遠く離れた宙域にあるスラッグ星の空に、近くの恒星から放たれる光が差し込んだ。スラッグ星人と魔族にとって大敵である日の光に、多くの者達が反射的にたじろぐ。
「クッ……クハハハハハハ! どうだ、克服してやったぞ、太陽を! 取るに足らん弱点だったが、これで俺の覇道を阻むものはない! フリーザでもクウラでも捻り潰してくれるわ!」
しかし、スラッグはヘルメットを脱ぎ捨て太陽に向かって高笑いを上げた。その姿に続こうと、ドロダボやメダマッチャ、スラッグ星人達もヘルメットを脱ぎ捨ててスラッグを讃える声を上げる。
「スラッグ様万歳! スラッグ様万歳!」
「スラッグ様こそ宇宙の真の支配者です!」
その騒ぎをロベルは内心で失笑していた。確かにスラッグの力は若い頃よりも格段に高まったが、それでも一千万にも及ばない程度。フリーザが最終形態になれば、背中に埃をつける事も出来ず屠られるだろう。
神精樹の実を食べて戦闘力を数倍以上に増幅させて挑んで、ようやく勝ち目が出てくるという程度だ。もちろん、クウラには遠く及ばない。
しかし、そこまでスラッグに情報を提供する義理はロベルにはない。彼女の目的は、スラッグ一味に神精樹を渡して強化し、誘導する事。そして何より、ドラゴンボールを作らせてある願いを叶える事だ。
「さあ、出でよ、神龍! そして願いを叶えなさい!」
再びスラッグのドラゴンボールが輝き、黒い神龍が現れた。
『さあ、願いを言え。どんな願いも二つだけ叶えてやる』
「ドミグラ様に光の魔力を与えなさい」
時の界王神が扱う、光の魔力。悪へ身を落としたドミグラでは本来持ちえない力を、ドラゴンボールによって手に入れる。それがロベルの任務の最重要目標だった。
ドミグラ一味の最終目標は時の巻物の入手。それを達成する強力なライバルである暗黒魔王メチカブラに対抗するための切り札として、光の魔力がどうしても必要だった。
しかし、地球やナメック星のドラゴンボール程度で手に入る光の魔力では弱すぎる。第七宇宙だけではなく第六宇宙にもあるスーパードラゴンボールを集めるのは難しい。
また、メチカブラが魔神トワに作らせた暗黒ドラゴンボールを奪う方法も、タイムパトロールとの協力関係を結べない状況では至難の業だ。
そこで、ドミグラはスラッグ星の神であるスーパーナメック星人、スラッグを利用する事を考え付いた。
当初スラッグは歴史改変に利用するだけのつもりだったが、彼の神力を神精樹で増幅し、ドラゴンボールを作らせれば十分な強さの神龍を呼び出せると考えたのだ。
『その願いは難しい。叶えるには二つ分の願いとする必要があるが、構わないか?』
「ええ、お願いします」
『いいだろう』
そしてスラッグの神龍の目が光る。これで、ドミグラは光の魔力も手に入れたはずだ。
「そのドミグラとやらが貴様の主か、ロベル」
再びドラゴンボールが飛び散る前に集めたロベルに、スラッグが話しかけた。
「ええ、その通りです。おかげで任務をエレガントに終える事が出来ました。感謝します、ミスター・スラッグ」
「それよりもロベル、そのドミグラとやらから俺に乗り換えるつもりはないか? 貴様は中々使える女だ、特別にこの俺の副官の地位をやっても構わんぞ」
取引が終わった直後に行われたスカウトに、ドロダボ達は驚いて目を見開いた。
「それは光栄ですね。ですが、簡単に主を変えるような者にミスターの副官は務まらないでしょう? 辞退いたしますわ」
「フハハハ! そうか、それは残念だ。ならば死ね!」
ロベルが誘いを断ると、スラッグはすぐに彼女を殺そうとした。元々、彼女とスラッグの協力体制は、取引が終わるまでと言う一時的なものだった。
正体不明の存在の元に戻って敵になるかもしれないから、今の内に殺しておこう。そう考えるのはスラッグにとってごく自然な事だった。
しかし、ロベルはそれを読んでおり、スラッグに向かってドラゴンボールを投げつけた。自ら作り上げた、どんな願いも叶えるボールを破壊する事を躊躇ったスラッグは、反射的に攻撃を止めた。
「それでは、失礼します」
その隙に、ロベルは姿を消した。
「奴め、逃げたぞ!」
「追えッ! まだ遠くには――」
「騒ぐな、馬鹿共め! あの女が姿を消した以上、もうこの辺りにはおらん。奴がどうやって俺の前に現れたのか、忘れたのか?」
騒ぐドロダボ達を一喝すると、スラッグは鼻を鳴らしてロベルをこの場で殺す事を諦めた。
「おい、奴の母星である地球へ向かうぞ。ロベルとその主人がいるかは分からんが、地球にもこのドラゴンボールと同じものがあると話していたからな。
他の奴等がドラゴンボールを使うのは目障りだ。侵略ついでにボールを破壊してやろう」
「畏まりました! 全力で地球へ向かいます!」
ギョーシュ達がスラッグの命令に従って動き出す中、魔術で姿を消したロベルは満足げに頷いた。
(さて、後は上手く踊ってくれるようこうして誘導するだけですね。この歴史がどう分岐するのか……とても楽しみです)
〇人造人間14号バイオレット大佐
普段は改造手術を受ける前のバイオレット大佐と同じ外見だが、戦闘形態になると瞳の色以外が変化し、髪は銀色に、肌は青紫、そして二本の角が生えてサイヤ人の尻尾が生えて、体付きも一回り大柄になる。
戦闘形態への変身には、ザーボンやフリーザと同じように己の意思一つで可能。また、戦闘形態に変身後さらに大猿になる事も出来る。ただし、大猿化するには尻尾が生えている状態で満月かパワーボールを見る必要がある。
また、移植された細胞の持ち主の種族の長所をすべて持ち合わせている。
現在の戦闘力は通常形態で1百万、戦闘形態で1千万 大猿化で1憶。大猿化しても理性を保つことはできるが、まだ姿を人間形態のまま維持する事は出来ない。
〇「スーパーサイヤ人だ、孫悟空!」
劇場版7作品目。時期的には原作アニメはナメック星編を放送中だったが、この作品が原作の何時の時期にあった出来事に相当するのかは謎。
悟空達が地球にいて、ピッコロが健在で、しかも北の界王様がスラッグに対して「あのフリーザも超えるかもしれん」と評しているので、悟空達がフリーザの事を知っているのは確実。
しかし悟空はタイトルにもあるのに不完全なスーパーサイヤ人にしかなれず、ネイルと同化したことで戦闘力1百万を超えるはずのピッコロはドロダボ一方的に倒すものの、悟飯を庇って戦闘力が5万以下のメダマッチャに敗北する。
以上の事から、この作品は前作「地球丸ごと超決戦」から続くIFの世界線の出来事なのではないかと私は推測しています。
前作で、(クラッシャー軍団が放った探査機のせいで)焼けた森を動物たちのために悟飯達がドラゴンボールで元に戻したため、神精樹に滋養を吸われた地球を約一年先まで戻せなくなった。そこで悟空達は、仲間に死者は出ていないが新たなドラゴンボールで地球を救うためナメック星へ旅立つ。
そしてナメック星でフリーザと戦うが……原作と違いピッコロはネイルと同化せず、悟空もスーパーサイヤ人に成らずにフリーザを倒す事に成功する。
おそらく、フリーザが「お前ら如き、この姿で充分だ」と戦闘力1百万の第二形態で戦っていたら、悟空の20倍界王拳か元気玉で倒されてしまった、と言う感じではないかと。
それならピッコロの敗北――いくら悟飯を庇って背中でエネルギー弾を受けたとしても、ネイルと同化して戦闘力が1百万以上になっていたら、メダマッチャのエネルギー弾を何万発受けても無傷だったでしょうし――も納得できます。
また、北の界王様のスラッグは「フリーザを超えるかもしれん」と言ったのも、そう不自然ではないと思います。北の界王様も、フリーザの最終形態とその強さは知らなかったでしょうし。
ヤムチャ、天津飯、チャオズ、ベジータが出ませんが……ヤムチャ達は願いの関係でまだ生き返っておらずあの世に居て、ベジータは宇宙で修行でもしているのかもしれません。
太陽を遮られ寒冷化する地球で、スラッグのフリーザ以上の冷酷さ、悟飯やピッコロが次々に倒される絶望感からの逆転、珍しいチチの戦闘シーン、等々見どころの多い名作です。
〇光の魔力
ドラゴンボールヒーローズ暗黒魔界ミッションのコミック版で、ドミグラが暗黒ドラゴンボールを使って手に入れた力。本来は時の界王神などしか扱えず、手に入れたドミグラも扱い切れなかった。
しかし、光の魔力を手に入れたドミグラの活躍もあって、暗黒魔王メチカブラに勝利できたので重要な切り札の一つ。
この作品ではタイムパトロールとの同盟が不成立であるため協力が得られず、暗黒ドラゴンボールを手に入れる事がコミック版より難しい状況が続いているため、スラッグを利用してドラゴンボールを作らせる事で手に入れました。
〇ドラゴンボール
ドラゴンボールヒーローズ暗黒魔界ミッションでトワが操ったデンデに暗黒ドラゴンボールを作らせていたので、材料になる願い玉(スーパードラゴンボール)の欠片があれば可能だと判断しました。
また、ドラゴンボール超のコミック版では、シリアル星に移住したナメック星人がドラゴンボールを作っています。それによると、作られるドラゴンボールの個数や呼び出される神龍の姿は製作者ごとに異なるようです。
スラッグのドラゴンボールは、大きさは握り拳大(地球のドラゴンボール以上、ナメック星のドラゴンボール以下)で、数は七つ。呼び出される神龍は黒い鱗をしており、叶えられる願いの数は二つ。
そして願いを叶えた後飛び散るが、石化しないため集めればすぐに願いを叶えられるとします。シリアル星のドラゴンボールとその点は同じです。
スラッグやロベルはドラゴンレーダーを持っていませんが、願いを叶えた神龍が消えドラゴンボールが飛び散る前に回収する方法でボールを確保しています。
……マイナスエネルギーがガンガン溜まっているので、放置すると邪悪竜が誕生してしまうかもしれません。
社畜戦士様、名無しの過負荷様、ぱっせる様、変わり者様、舞雪梟様、PY様、 h995様、佐藤東沙様、酒井悠人様、ヴァイト様、ずわい様、-SIN-様、gsころりん様、誤字報告ありがとうございます。早速修正しました。