ドクターゲロに転生したので妻を最強の人造人間にする 作:デンスケ(土気色堂)
二回戦第四試合が終わり、昼休みに入った。そのタイミングで大会に参加している者達にスラッグ一味が地球の近くに来ている事を打ち明けた。
「何故さっさと言わなかった!? 何か企んでやがるんじゃないだろうな!?」
「まあ、確かに企んではいるが、落ち着いてくれ、ベジータ王子」
「チッ、なら何時ぶちのめしに行くつもりだ?」
「今サイバー攻撃の真っ最中だから、ちょっと待ちなさい! なんだか急にしぶとくなったのよね」
予想通り怒り出したベジータ王子を落ち着かせ、状況を説明する。
「クラッシャー軍団やターレスダークの時と違い、スラッグ一味の存在は既にフリーザ軍の情報網に捕捉されている。なので、この前のように『とりあえず倒してから、誤魔化す』と言う方法が使えない。
スラッグ一味の幹部ならともかく、スラッグ本人となると『倒しました』とただ報告するだけでは、フリーザも納得しないじゃろうし」
惑星フリーザNo.79の基地から、スラッグ星は観測可能だ。そのため、宇宙空間でも活動可能な人造人間達にスラッグ星まで行ってもらって撃退してもらうのは拙い。フリーザ軍に色々ばれてしまう。
それに、フリーザがスラッグ本人の強さを自分でなければ倒せないと評価しているため、スラッグをどうやって倒したのか上手く誤魔化さなければならない。
「それに、主戦力が留守にしている間にピッコロ大魔王一味が動き出したら問題じゃ」
「歴史改変者さえちょっかいをかけて来なければ、レッドリボン旅団だけでどうにかなりそうなんじゃがな」
そう言う亀仙人は、若き日に見たピッコロ大魔王とその強さを思い返しているのだろう。当時としては恐ろしい力の持ち主だったピッコロ大魔王だが、今では指どころか舌だけで倒せそうな武道家がゴロゴロいる。
実際、歴史改変者が背後に居なければ儂もピッコロ大魔王を心配はしても、警戒はしなかっただろう。……うっかり殺して地球の神様が消滅したり、マジュニアが生まれなかったりしたら一大事じゃからな。
「それで、何か策を考えているんだろうな? まさかフリーザが来るまで待つつもりじゃあるまい?」
「地球を守るためにスラッグと戦うフリーザか。それは見てみたいが、もちろん策はある。
まず予備の監視衛星をスラッグ星の周囲に配置し、光学迷彩でフリーザ軍の目を欺く。これが完了すれば多少派手な事をしても問題ない」
こうした状況を予期していたわけでは無いが、組み立てた後ホイポイカプセルにして保管してある監視衛星には余裕がある。配置する座標までは瞬間移動で行けるので、時間もかからない。
「なるほど。それで奴らの星ごとぶっ潰しちまえば、きれいさっぱり始末できるって事だな」
「すまんがナッパ、流石に星の爆発を誤魔化せるほど光学迷彩の範囲は広くないので、スラッグ星本体は破壊しないでくれ」
星を花火にでもしない限りは、これで誤魔化せるはずだ。
「それで、誤魔化した後はどうする?」
「そこが悩みどころだが……アボ、カド、君らが倒したと言う事にするのはどうだろう?」
「俺達がスラッグを倒した事にするのか!?」
「馬鹿言えっ、フリーザがそれで納得するはずがない!」
儂の提案を聞いて、アボとカドは勢いよく首を横に振った。フリーザ軍のデータでは、アボとカドの戦闘力は9万のままだ。
地球に滞在してからトレーニングでいくらか強くなった事にしたとしても、スラッグを倒せるほど強くなるとはフリーザは考えないだろう。
しかし、彼等にはフリーザ軍にまだ報告していない必殺技がある。
「アカへの合体はまだフリーザ軍には報告していないだろう? 地球に滞在中に編み出した合体を使ってスラッグを倒した、と言う事にする」
アカへの合体。それをフリーザに(当然、本来よりも戦闘力は抑えて)見せれば、スラッグを我々が倒したという報告に十分な説得力を持たせられるはずだ。
「う~ん、それなら……いや、それで大丈夫か?」
「大丈夫だろう、フリーザもスラッグの今の正確な強さは知らんはずだ。ギニュー隊長と比べると圧倒的に強いが、自分には程遠い……どんなに強かったとしても、二回変身すれば勝てる程度だと考えているはずだ」
フリーザ軍のシステムには、スラッグの強さに関するデータは無かったのがその証拠だ。
儂が改良するまで戦闘力数万程度を計測しようとしただけで爆発していたスカウターしかなく、フリーザ軍には気を感知する能力を持つ者もいないので、確実だ。
「よ、よし。そう言う事なら分かった。だけど、フリーザの近くにはトワって歴史改変者がいるんだろう?」
「そいつがフリーザに入れ知恵をしたらどうする?」
しかし、アボとカドが言うように儂等の策はトワが大人しく静観している事が前提になっている。彼女がフリーザの耳元で囁くだけで、この策は破綻する。
「まあ、その時はその時じゃな。スラッグ一味を退治した後は、タイムパトロールにトワ達の相手をしてもらいながら、フリーザ軍と対決する事になるじゃろう」
そうなってほしくないが、そうするしかなくなるので仕方ない。
「それはならねぇだろう」
しかし、バーダックがそう否定した。
「あのトワって女は、何か企みがあってフリーザの野郎に取り入ったんだ。その企みが進むまで、つまらねぇ事はしないはずだ」
「確かに……俺達をフリーザの野郎にぶつけるつもりなら、もっと早くやっているか」
「だが親父よ、それはトワって女がもっと厄介な事を企んでいるって事だろう? チッ、頭が痛くなってくるぜ」
「まったくだぜ。フリーザ軍時代より波乱に満ちた生活を送ってるんじゃねぇか、俺達?」
「おいおい、ラディッツにナッパまで揃って浮かない顔をするもんじゃねぇ。向こうが戦いのお膳立てをしてくれるっていうなら、楽しみにしようぜ。なあ、カカロット?」
「ああっ、オラ、ワクワクしてきた! なあ、ゲロのじっちゃんっ、何時そのスラッグって奴を退治しに行くんだ?」
顔を顰めるラディッツ達に対して、瞳を輝かせる悟空。しかし、悟空の期待には応えられない。
「スラッグ一味に動きが無ければ、明日じゃな。ただ、行くのはスラッグ一味の戦闘力にもよるが儂、4号、サン、ギネ、後アボとカド、それに特別ゲスト一名の予定じゃ」
「ええっ!? オラ達は行けねぇのか!?」
「地球を空っぽにするわけにはいかんし、儂等は今回の武道会に出場しておらんからな。ここは譲ってくれ」
「俺達も結局行くのか?」
「実際にスラッグ星に行った方が、フリーザに報告する時にボロが出にくくなるじゃろう? 演技力に自信があるなら構わんが」
サンとギネなら宇宙空間でも活動できるし、儂と4号は瞬間移動で瞬く間にスラッグ星と地球を行き来できる。アボとカドが加わるのは、後にフリーザに行う報告の内容に説得力を持たせられるようにするためだ。
逆に、8号には儂らと地球側を繋ぐための通信係として残ってもらう。
「お爺ちゃんが行きたいのは、スラッグ一味の細胞が欲しいからでしょ」
「確かに、それもある」
スーパーナメック星人のスラッグや、彼が産んだ魔族に変異した悪のナメック星人の豊富なサンプルが取れる訳じゃからな。逃す手はない。
尚、普通にスラッグを倒す方向で話を進めているが、それは彼を説得するのはフリーザより難しい上に、説得する価値が低いと判断したからだ。
スラッグは悪の心しか持たないとされているが、それだけならフリーザもかなりのものだ。問題は、彼の性格がフリーザよりも短気で傲慢である事だ。失言一つで部下を処刑する彼が、儂等の言葉に耳を傾けてくれるとは思えない。
そして何より状況が適していない。我々地球人は、表向きはフリーザ軍の傘下に入っている。そのためスラッグを説得する際に、彼が儂等の目標と作戦に完全に協力してくれない場合には、確実に不都合が発生し、儂等の裏切りがフリーザに露見してしまうだろう。
スラッグを味方にするか、フリーザを倒すための時間を確保するか。どちらかを選ぶなら後者だと儂は判断する。
ただ、スラッグも後にゴースト戦士になるなどして復活し再び敵となって現れるので、倒した後死体を回収出来たら遠慮なく脳改造を施して完善体にしてやろう。……無理なら仮死状態のまま魔封波で封印して、厳重に保管しておこう。どんな状態でも生きていればゴースト戦士にはならないし、地獄の亡者と一緒に復活する事もないからな。
「では、儂はサイバー攻撃の方に戻る。ブルマも言っていたが、急に抵抗が激しくなってなかなかシステムを乗っ取れんのだ。
最初はザルだったのだが、急に抵抗が強固に……いや、こちらの攻撃が遅くなったのか? ブリーフ、どう思う?」
「確かに、そうかもしれない。向こうのセキュリティは変わっていないのに、破るまでに時間がかかるようになっている。まるで、向こうの機械の処理速度だけが速くなったようだね。普通、こんな事はあり得ないが……歴史改変者が何かしているのかな?」
どうやら、歴史改変者はスラッグ一味のすぐ近くに潜んでいるか、儂等をしっかりマークしているらしい。
午後になった天下一武道会では、準決勝の前に予選敗退者の内、惜しいところで本戦出場を逃した者達のバトルロイヤル、敗者一決定戦が行われた。
「全員押し出してやるぜ!」
「異種格闘技戦か! 面白い、我が獅子牙流が相手をしてやろう!」
アントン・ザ・グレートとヤシシが戦い始めたが、決着がつく前に二人揃って『『どわーっ!?』』と悲鳴を上げながら場外へ落ちていった。
「ん? すまねぇ、怪我はしてねぇだか?」
「よそ見をしている暇はないぜ!」
その原因である牛魔王が場外に落ちた二人を気遣うが、その隙に容赦なくダイーズが殴りかかった。その際に発生した衝撃波が、実力の低い選手達の身に響く。
「大嵐の海に浮かぶ木の葉の気分だぜ。時間は無いが、付き合ってもらうぞ、パンプット!」
「気にする事は無いさ、僕も似たようなものだからね!」
強豪選手と自分達の力量差を肌で感じて、舞台上に居られる時間が限られていると理解したシュラとパンプットが急いでリベンジマッチを行い――。
「サタンの代わりにぶっ倒してやるぞ、クリリン!」
「ええっ!? なんで俺!?」
「おめぇはサタンのお豆腐弟子だろ!」
「それを言うなら弟弟子だ! 八つ当たりじゃないかよ~っ!」
ジャガーが本戦に出場したためいないサタンの代わりに、クリリンに目標を定め――。
「っ!? お前……まさか俺と同じ宇宙人でっせい!?」
「いや、他人の空似だと、思う」
アモンドが自分と似ているボラと遭遇して驚愕する。
バトルロイヤルだけに混沌とした試合模様だ。しかし、試合開始から一分が過ぎる頃には戦闘力にして1万以下の選手はほぼ敗退し、五分が過ぎる頃には舞台上に残ったのは強豪選手だけになっていた。
「ランファンちゃんや~い、どうじゃ、儂は色仕掛けにメチャクチャ弱いぞいっ!」
「ごめ~ん、武天老師様以外にはあんまり効かなそうだから、脱いでいる余裕が無いの~」
「本戦に出られなかった分、ここで暴れてやるぜ!」
「おらも負けねぇだ!」
「ガハハッ、バーダックの上の倅と下の倅の嫁も、なかなかやるじゃねぇか!」
上手く生き残った亀仙人、人造人間7号ランファン、ラディッツ、チチ、ブルマ、ムデン、パンブーキン、トテッポ、アボ、カドの残り十名。
「アングリーボンバーッ!」
先手を切ったのはトテッポだった。振り上げた右手から巨大な気弾、アングリーボンバーをムデンに向かって投擲する。
「20倍界王拳!」
しかし、ムデンはアングリーボンバーが当たるギリギリのタイミングで界王拳を発動させ、戦闘力を28万3千から566万にはね上げ、受け止める事に成功する。
「おらぁっ!」
だが、ムデンが受け止めたアングリーボンバーに向かってパンブーキンが体当たりを行い、同調させた気を込める。
「排球アングリーボンバーだ! このまま押し出させてもらうぜ!」
一発の気弾をバレーボールのように打ちながら複数人の気を込める排球弾。その応用を二人はアングリーボンバーで行い、力を合わせてムデンに勝利する作戦に出たのだ。
「くっ、大人気ないですよっ!」
「大人が二人がかりでここまでしねぇと勝てないと踏んだ、自分の強さを誇りやがれ!」
ナメック星人なので大人に見えるが、実は悟空達と同年代のムデンが叫ぶが、パンブーキンもそう怒鳴り返す。
「今だっ、カド!」
「やるぞ、アボ!」
そして強豪三人が戦っている間に、アボとカドはアカに合体しようとしていた。アカへの合体が成功すれば、この中ではムデンに次ぐ強さに至る事が出来る。
「そうはさせねぇだぞ!」
「どどん波っ!」
しかし、合体する前にそれぞれチチとブルマの邪魔が入り、中断させられてしまった。
「サ、サイヤ人なら強い相手と戦いたがるもんだろ!?」
「合体が終わるまで待つのが普通じゃないか!?」
「限度ってもんがあるべ!」
「それにしてもあたし達、双子の相手に縁があるわね!」
10倍界王拳を発動してそれぞれ戦闘力を40万以上にしたチチとブルマと戦いながら合体の隙を見つけるのは、アボとカドには難しい。
「ダブルサンデー!」
そこに、ラディッツが左右の手から気功波を放つ必殺技、ダブルサンデーを放った。チチとブルマは彼の姿が視界に入っていたため咄嗟に回避できたが、不意を突かれる形になったアボとカドは「「ぐわ~っ!?」」と、悲鳴を上げて同時に場外へ落ちていった。
結果的に協力して強敵を排除した形になった三人だが、ラディッツはそのまま組んで戦うつもりはなかった。
「次はお前達だ、行くぞっ!」
「そう来ると思ったわよっ!」
「義兄さんでも容赦しねぇだぞ!」
予選でヤムチャと仲良く瀕死になった事で戦闘力が59万6千から74万5千に上がったラディッツに、チチとブルマは力を合わせて立ち向かう。
「どわ~っ! やれやれ、とんだ冷や水になってしまったわい」
一方、亀仙人はランファンに場外へ落とされていた。
「ごめんなさ~い。ちょっと急ぐの!」
ランファンはそのまま飛び上がり、口元に指を当て排球アングリーボンバーを何とか弾き返そうとしているムデンに顔を向けた。
「魔口弾っ!」
「っ!?」
ハート形の気弾がムデンに命中し、それをきっかけに拮抗が崩れ彼は排球アングリーボンバーに押し出される形で場外のシールドまで吹き飛ばされてしまった。
「一対一じゃまず勝てないから、退場してもらったわ。それじゃあ、今度は……」
「へへ、三つ巴と行こうぜ。いいな、トテッポ」
「ああ」
そして2百万以上の戦闘力を持つ三人は、共通の敵を倒した後三つ巴の格闘戦を開始した。パンブーキンがランファンに殴りかかり、側面からトテッポが気弾で攻撃し、気弾を掻い潜って間合いを詰めたランファンがトテッポに攻撃を仕掛ける。
亀仙人、そして何よりムデンの敗退によって舞台上では六人の選手が三人ずつに分かれて戦う展開が続いた。
「このままではジリ貧だ」
戦況を変えたのは、ラディッツだった。ブルマの瞬間移動とチチとの連携によって苦戦していた彼は、奥の手に出た。
「スピリットブースト! はあっ!」
戦闘力を倍増させたラディッツは、丁度瞬間移動で不意打ちを仕掛けて来たブルマの攻撃を回避し、逆に彼女の背に肘を叩き込む。
「あぐっ!」
「ブルマさんっ! ぎゃんっ!?」
続けてチチも気弾で撃ち落とし、失神したブルマと一緒に場外に向かって放り投げる。
「チッ、もうあまり時間が無い。躊躇っている時間は無いな」
二人に勝ったラディッツだったが、勝利を味わう余裕は彼になかった。戦闘力149万になった今の彼よりも強い三人が意識をこっちに向ける前にと、気を収束させながら間合いを詰めて不意打ちを試みる。
「くらいやがれっ! ギャリック砲!」
「「っ!?」」
側面からパンブーキンに膝蹴りを叩き込み、ランファンに向かって気功波を放った。
気功波に彼女が飲み込まれたのを見て、次はトテッポに攻撃しようとするラディッツ。しかし、その前にトテッポは「がぁ!!」と雄叫びを上げながら気弾を彼に向かって連射してきた。
「チィッ!」
弾き返すには威力が高すぎるトテッポの気弾を、ラディッツは必死に回避する。
「やってくれたなぁ! お返しだ、バーダックの倅!」
しかも、そこに膝蹴りのダメージから立ち直ったパンブーキンが彼の前に立ちはだかった。
「チィッ! 俺の名はラディッツだ! いい加減覚えやがれ!」
「はっ! 名前で呼んでほしけりゃ、俺に勝ってみせるんだな!」
肉弾戦に突入するラディッツとパンブーキン。そして、ラディッツのギャリック砲に耐え切ったランファンが二人に向かって掌を向ける。
「アサルトフラッシュ!」
「しまっ――」
ランファンを倒したと思い込んで意識を向けていなかったラディッツと、頭に血が上っていたパンブーキンを、側面からランファンの気功波が襲った。
堪らず吹き飛ばされる二人。それを見て笑みを浮かべるランファンは、残ったトテッポと戦うべく彼に向かって次の気功波を放とうとした。
「太陽拳!」
「ウソっ!? しまったっ!」
しかし、トテッポは太陽拳を放って彼女の視界を封じ、肘を衝角のように構えて突撃を敢行する。
「うおおおっ! マッスルカタパルト!」
なんと、戦友であるパンブーキンの技を放った。
「うぐっ! ああああっ!?」
そして視覚を封じられたランファンは回避が遅れ、そのまま場外までトテッポと一緒に落ちていった。
『こ、これは……ビデオ判定を行います! 判定の結果は――トテッポ選手の勝利です! 敗者一決定戦を制したのはトテッポ選手です!』
こうしてムデンでもランファンでもなく、トテッポがバトルロイヤルに勝利したのだった。
『では準決勝第一試合、セリパ選手対ターレス選手の試合を行います!』
「まさか、今回もスーパーサイヤ人になるのを出し惜しむんじゃないだろうね?」
「それこそまさかさ。スラッグを倒しに行くのは爺さん達に任せる事になりそうだし、出し惜しむ理由は無いぜ」
向かい合って睨み合うセリパとターレス。アナウンサーが試合開始を宣言すると同時に、ターレスの気が爆発的に高まった。
「はぁぁぁーっ! はあっ!」
髪が普段より逆立って金色に変わり、瞳が青く染まる。
『おおっ! 観客の皆さん、ターレス選手の髪が金色に変わりました! これがスーパーサイヤ人! 今まで映像では見た事がありましたが、私も直接見るのは観客の皆様同様初めてです!』
興奮した様子のアナウンサーの声が響くなか、改めてターレスが構えを取る。
「さて、スーパーサイヤ人に成ると攻撃的な気分になるんでね。悪いが、紳士的にはなれないぜ」
「フンッ、猫を被っている余裕がなくなるって正直に言ったらどうなんだい?」
お互いに挑発し合うが、口元には笑みが浮かんでいた。そして、次の瞬間舞台上から姿が消えた。
『これは……上です! 両選手、空を飛びながら高速でぶつかり合っている!』
大気に衝撃波を響かせながら、ターレスとセリパの拳と拳、蹴りと蹴りがぶつかり合っていた。
「うおおおおおっ!」
これまで温存してきたスーパーサイヤ人に成って、力を解放し全力で戦う事が出来る喜びにターレスの意識は塗りつぶされていた。
「はあぁぁぁ!」
セリパも、バーダックやベジータ王に続くスーパーサイヤ人との戦いに、胸を高鳴らせていた。
肉体がぶつかり合う衝撃が血を滾らせ、攻撃が当たりそうになるスリルが背筋をゾクゾクと刺激する。
「良い手応えだ! これまでの試合も悪くはなかったが……全力で戦えるってのはいいもんだぜ!」
「同感だね!」
スーパーサイヤ人化したターレスの戦闘力は、1975万。セリパの力は戦闘力に換算して1610万。ターレスの方が優勢だが、セリパには人造人間としての力……無限のスタミナに気を発していないという利点がある。
「だが、せっかくの試合だ、観客を飽きさせるのも悪いからね!」
そう言いながらセリパは多重残像拳で無数の虚像を作り出してターレスを惑わそうとした。通常の戦士の残像拳なら気を探ればすぐに本物の位置が分かるが、気が無い彼女にはその手は通用しない。
「小細工に付き合うつもりはないぜ、キルドライバー!」
しかし、ターレスは胸の前で構えた両手の間に円盤状の気功波、キルドライバーを放った。それは広がりながらセリパの虚像に迫り、掻き消していく。
「そこかっ!」
その中で、一人だけ消えずに逃げ出したセリパに気が付いたターレスは、すかさず彼女に向かってどどん波を放った。悲鳴を上げて爆発に飲み込まれる本物のセリパ……かと思われた。
「引っかかったね! 本物はあたしだよ!」
だが、なんと本物のセリパはまだキルドライバーが到達する前の虚像に紛れていた。どどん波を放った直後のターレスに向かって必殺技のハンティングアローを放ちながら、キルドライバーを回避する。
「チッ、四身の拳の分身か! いつの間に覚えたんだ? それはともかく永久エネルギー炉搭載型の人造人間ってのは、本当にやり難い相手だぜ!」
セリパは残像拳による実体のない虚像の中に、四身の拳で作り出した分身を混ぜてそれを囮にしたのだ。普通なら分身を作り出した分消耗するが、彼女の場合は体内の永久エネルギー炉によってほぼ即座に回復する事が可能だ。
セリパのハンティングアローをギリギリで回避したターレスは、セリパを牽制するためか気弾を乱射し始めた。
「分身を作らせないつもり? だったとしても狙いが甘すぎる!」
威力と狙いを落とし、速度と数で攻める手で出たのかと思ったセリパは眉をしかめた。彼女にとって都合が悪かったのではなく、ターレスの戦法をつまらないと感じたからだ。
戦闘力に差があるので小気弾一発でも、セリパには当たればそこそこ効く。しかし、耐えられないダメージではないし、高い生命力を誇る人造人間である彼女ならすぐ回復する程度でしかない。
多少のダメージは覚悟で小気弾を突っ切って間合いを詰めるか? そうセリパが迷った時、ターレスの姿が掻き消えた。
「っ!? ぐっ、お前っ!」
そして、セリパの背後に現れ強烈な拳を叩き込んできた。
「ようっ、今度は俺が小細工をさせてもらったぜ!」
「瞬間移動か! でも、気が無いはずのあたしの背後にどうやって!?」
「へっ、爺の真似さ。もっとも、集中するのに時間がかかるんで、攻撃がお粗末になったがな!」
瞬間移動は対象の気を目標に移動するため、気が無い人造人間やロボットを目標にはできない。しかし、儂は目標にする位置が分かればそれを目標に瞬間移動する事が可能だ。
ターレスはその儂と同じ事をしたようだ。気弾を乱射したのは、そのために必要な時間を稼ぐためだったようだ。
「このまま勝たせてもらうぜっ!」
不意打ちの蹴りで体勢を崩したセリパが持ち直す前に、拳と膝を連続で彼女に叩き込むターレス。そして、止めと言わんばかりに両手に気を収束させる。
「バスターウェイブ!」
「ぐっ、チクショウ!」
とっさに自分も気功波を放って対抗しようとしたセリパだったが、それを果たせず場外のシールドまで吹き飛ばされてしまった。
『セリパ選手場外! ターレス選手、決勝戦へ進出です!』
「三位決定戦に出たいなら協力してやってもいいんだぞ」
「そうか? だが悪いな、俺は決勝戦に出るつもりだから、三位決定戦は譲ってやるよ、王子様」
『では準決勝第二試合、トーマ選手対ベジータ選手の試合を行います! 勝者が決勝戦に、敗者が三位決定戦に出場するこの一戦、果たしてどんな結末になるのか……試合、開始です!』
試合開始を告げるアナウンサー。しかし、両選手ともに直ぐには動かなかった。
「不完全なスーパーサイヤ人に成るんだろう? 待っていてやるから早くしろよ」
トーマの力は戦闘力に換算して2057万。146万のベジータ王子では、スピリットブーストを発動させても瞬殺されかねない。彼がトーマに勝つには、不完全スーパーサイヤ人に成るしかない。
「チッ……後悔するなよ!」
自らを鼓舞し、激情によって気を爆発させスパークを纏うベジータ王子。こうなった彼の戦闘力は、二十五倍の3650万に上昇し、トーマに圧倒的な差をつけて逆転する。
「スクラップにならない内にギブアップしろよ! 殺しちまうと反則負けになるらしいからな!」
恐ろしい事を言いながらトーマに肉薄し、拳のラッシュを叩き込むベジータ王子。その気迫はすさまじく、気を抜けば一撃で戦闘不能にされてしまうだろう。
「フォトンシールド! くっ、防御してもこの衝撃か! こいつはしんどいぜっ」
両手にフォトンシールドを展開し、防御を固めるトーマだったが、ベジータ王子は容赦なく拳や蹴りを叩き込む。その様子は、まるでキックボクシングの選手がコーチとミット打ちをしているようだ。
だが、実態はベジータ王子の攻撃を回避する事が出来ないまま、トーマがひたすら耐え続けているだけだ。
「亀のように耐え忍んでいるだけか? この臆病者めっ! ビッグバンアターック!」
防御に専念して攻撃に転じようとしないトーマに苛立ったのか、ベジータ王子はラッシュを止めると彼に向かって掌を向け、巨大な気弾を放った。その圧力と威力で彼を防御ごと場外へ吹き飛ばすつもりなのだろう。
「誰が臆病者だ! 調子に乗りやがって! 魔口砲!」
しかし、トーマは口から貫通力に優れた気功波を放ち、すぐさまシールドをさらに展開して全身を包む。次の瞬間激しい閃光と爆発が彼を包んだ。
「はぁ、はぁ、はぁ……チッ!」
やったかと爆発の煙が納まるのを肩を上下させながら待っていたベジータ王子だったが、立っているトーマの姿を見た時舌打ちをした。
「へへっ、どうした……王子様? 随分お疲れの様子じゃないか」
現れたトーマは、ボロボロだった。来ていた戦闘服は砕け散っており半裸の状態で、息も上がっている。立っているというより、倒れていないだけに見える。
「化け物め」
しかし、ベジータ王子がそう言い終わる頃には、乱れていたトーマの呼吸は静まり、全身に重くのしかかっていた疲労感は消え、痛みすら小さくなりつつあった。
一方、ベジータ王子の息は乱れたままだ。
「人造人間の長所さ。だが、王子様の方はそうもいかないだろ? 不完全なスーパーサイヤ人になると戦い方が雑になるようだったし、長くは変身していられないと思ってな。
その間耐え切れれば勝機があると読んだが……その通りだったな」
不完全なスーパーサイヤ人は、不完全故に不安定な状態だ。意識してその状態になれるようになったベジータ王子だったが、変身を持続させる事までは出来なかったようだ。
それを読んで耐えきったトーマの戦闘力は、試合開始前と同じ2057万のまま。ダメージは負っているが、戦いに支障はない。
だが、ベジータ王子の変身は解けてしまい、気は元の146万に戻っている。
「くっ――」
「悪いが、もう一度変身する前に倒させてもらうぜ!」
自分に向かって駆け出してくるトーマの姿が、ベジータ王子には妙に遅く見えた。しかし、自分の体は鉛のように重くて動かない。意識だけが加速しているような状態だ。
徐々に迫るトーマの拳を睨みながら、ベジータ王子は過去の出来事を思い返した。トワによって他の歴史から連れて来られた別の自分、ベジータダークの事を。
このまま奴のように倒されてしまうのか。下級戦士出身で、年下で、素の力でも自分より圧倒的に下回るターレスはスーパーサイヤ人に変身し、決勝戦に進んでいるというのに。
ターレスが羨ましいわけじゃない。トーマが腹立たしいわけでもない。
何時開催されるか分かっていたこの大会までに、彼等に勝てる強さに至らなかった自分への不甲斐なさに腹が立って仕方がない。これでは、あのベジータダークと何が違う?
「俺はっ! 誰かの駒に成り下がった奴とは違う! サイヤ人の王子、ベジータ様だーっ!」
気が付けばベジータ王子はそう叫んでいた。その瞬間、トーマの動きが更に遅くなった。反射的に拳を突き出したら、それは間抜け面をした彼の腹に吸い込まれるようにめり込んだ。
「がはぁ!? ま、マジかよ」
そして、トーマは白目を剥いて崩れ落ちた。
「なんだと? これは……なったのか、この俺が! スーパーサイヤ人に! はーっはっはっはっはっは!」
髪は金色に変化し、瞳は青く染まり、この歴史でベジータ王、バーダック、ターレスに続く四人目のスーパーサイヤ人に成ったベジータ王子は高笑いを上げ、アナウンサーの言葉も耳に入らない程歓喜していた。
どうやら、繰り返し不完全スーパーサイヤ人に成っていた影響で、殻が破れやすくなっていたらしい。
〇戦闘力推移
・ラディッツ 59万6千 → 74万5千 ヤムチャとの予選で仲良く瀕死になった事でパワーアップ。スピリットブーストを使用すると149万。
gsころりん様、夜叉12様、excite様、ぱっせる様、虚気様、乃斗様、wtt様、ダイ⑨様、林翔様、PY様、h995様、佐藤東沙様、変わり者様、Hausen様、クラスター・ジャドウ様 NoSTRa! (ノズトラッ!)様、翡翠314様、タイガージョー様、excite様、ヨシユキ様、ラプラス様、尾羽太様、KELP様、ヴァイト様、フクロウ@読み専様、Paradisaea様、秋人様、誤字報告ありがとうございます。早速修正しました。