ドクターゲロに転生したので妻を最強の人造人間にする 作:デンスケ(土気色堂)
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カプセルコーポレーション一家や眠っている21号(アルマ)、渋い桃白白、そして小さく亀仙人と鶴仙人がいたり、素敵に描いて貰えました! ぜひご覧ください。
儂が占い婆の宮殿から帰った数日後、弟子二人(一人は正確には弟子候補だったが)を連れた鶴仙人が西の都にやって来た。
早速彼らをGCGの面々と顔合わせをし、宿舎として用意した家に案内した。
タイツと同い年の七歳の天津飯は初めて見る都会に驚き続け、二歳のチャオズは丸い目で周りをキョロキョロと見回し、興味を覚えた物の方へフワフワと飛んで行こうとしては天津飯に止められていた。
そんな一行を見たターレスに、彼らを家に送ってから胡乱気な様子で問われた。
「爺、地球人って本当に何なんだ? 尻尾がない以外は俺達サイヤ人と外見はそっくりだと思えば、超能力は使うし頭が良い奴はいるし、動物っぽい奴はいるし、透明な奴や翼が生えている奴もいる。今日会った奴なんて目が三つあったぞ」
「……うーむ、言われてみると地球人にも色々いるもんじゃな」
天津飯にしても、三つ目族の先祖返りではあるが地球で産まれ育ったので、広い意味では地球人である事に違いはない。これに加えてピラフ大王のようなモンスター型の地球人もいるのだから、この世界の地球人の多様性は凄まじい。
「なあ、俺は惑星ベジータとナメック星とヤードラット星しか知らないが、他の星じゃ複数の種族が暮らしているのが普通なのか?」
「さて、儂もターレスが行った事がある星しか知らんからな」
なお、ターレスもナメック星やヤードラット星に連れて行ったことがある。ブリーフ達と夏を過ごす旅行先として、ナメック星やヤードラット星は定番じゃからな。重力トレーニング室の整備もしなければならんし。
「だが、他の星と交流がないのに多様性がここまで豊かなのは珍しいかもしれん」
「そうなのか……まあ、『いろんな奴がいる』って改めて覚えておく事にするか」
しかし、地球の多様性を考えると様々な惑星から戦士を集めているフリーザ軍程ではないが、なかなかのものだと思う。
これで国家も地球国として統一されているのだから、前世の儂が生きていた地球よりも社会的には成熟している……と、言い切るのには微妙か。
レッドリボン軍がいろいろしているのがほぼ野放しになっていたり、最近は改善しつつあるが都の治安が悪かったり、この世界の地球にも様々な問題がある。
世界的企業の会長が、隠れてドクターフラッペと名乗っている事も大問題じゃしな。今から風呂敷を畳む方法をいくつか準備しておこう。
あと、せっかくの機会なので鶴仙人に儂にも鶴仙流の技を教えてもらえるよう頼んでおいた。
「何? 会長まで我が鶴仙流の技を教わりたいと?」
「ええ、桃白白から鶴仙流には実戦的な技が多いと聞いておりまして。太陽拳など、応用力に富んだ技を是非教わりたいのです」
お世辞でも何でもなく、鶴仙流の技は実践的なものが多く応用力も高い。気功砲のようにおいそれとは使えない技もあるが、太陽拳のように亀仙流の孫悟空やクリリンまで使っている技がある。
「ほほう、我が鶴仙流の技に目を付けるとはお目が高い。良いでしょう、特別に我が鶴仙流の奥義を教えて進ぜよう」
儂が覚えたいのは太陽拳なのだが……気を良くしているところに水を差すのもなんじゃし、技は覚えておいて損にはならんだろうから、奥義までしっかり教わる事にした。
「おい、鶴仙人の爺さん、俺にもその奥義ってのを教えてくれよ。次の天下一武道会で、アックマンって奴に勝たなきゃならねぇんだ」
「何? 天下一武道会じゃと?」
鶴仙人はターレスから次の天下一武道会でアックマンに挑戦されている事を聞き出すと、何度か頷いた後「よかろう」と答えた。
「本当か!?」
「うむ、使えるようになるかは小僧、お前次第だがな。それと天津飯、お前も次の天下一武道会に出るのじゃ」
「わ、私もですか!? ですが、私はまだまだ未熟で……」
「何も優勝しろとは言っておらん。予選落ちでも構わん。ただ勝負を経験しておけと言っておる。それに、修行には目標があった方が捗るからの」
「はい、分かりました!
それと貴様っ、鶴仙人様に爺とは何だ! 鶴仙人様とお呼びしろ!」
「チッ」
「いや、すまんな、天津飯君。礼儀作法はまだ先でいいと、ついつい先延ばしにしていたようだ」
ちなみに、ターレスはまだ学校には通っていない。ターレスは学校に通わせると、他の子供達と身体能力に差があり過ぎてトラブルになるだろうし、同い年の子供と仲良くなるのが難しそうだからじゃ。代わりに通信教育を受けさせている。
この世界では学校の無い地域も多いせいか、通信教育制度が進んでいる。これを受ければ学校に通わなくても、卒業したのと同じ扱いを受ける事が出来るのだ。
タイツとブルマも学校に通っていないが……二人の場合、頭が良すぎて学校の授業が勉強にならないからだが。集団生活や社会性については、GCGのトレーニングに参加する事で結果的に身に付くじゃろうし。
「……おい、鶴仙流では俺の方が先輩だからな!」
しかし、それで天津飯の気はそれでは納まらなかったのか、なおもターレスに食ってかかる。
「ほほう、そいつは面白れぇ。じゃあさっそく稽古をつけてくれよ、兄弟子様よ」
それに対してターレスは、ニヤッと五歳児とは思えない不敵な笑みを浮かべて稽古に誘う。
「いいだろう、後でほえ面をかくなよ!」
「天津飯、ほどほどでやめるのだぞ」
「ターレスも、ほどほどにな」
そして稽古の結果、当然だが天津飯は主にプライドをボロボロにされたが、意外な事にターレスに勝った。
「クソ! タイツ、なんで俺の弱点を教えやがった!」
ただ、それはターレスが一方的な勝負を展開していたところで、タイツが「尻尾を強く握って!」と教えたからだが。
油断していたターレスは、反射的にタイツの言葉に従った天津飯に尻尾を掴まれてしまったのだ。
「なんでって、弱い者いじめしているあんたが悪いんじゃない。それに、『こんな弱点すぐ克服してやる』って前から言ってるくせに、そのままにしてるからよ」
「うぐぐっ! おい、俺に勝ったからって調子に……おい? どうした?」
「よ、弱い者……いじめ……」
天津飯のプライドに止めを刺したのはタイツの何気ない一言だった。
「天津飯、年下だろうと格上の相手もいるという事がこれで分かったじゃろう。小僧の方は油断しすぎじゃな。そんな事では足を掬われて死ぬぞ」
「はい……鶴仙人様」
「ちっ、分かったよ」
その後、ターレスと天津飯はギクシャクするかと思ったが、そうでもなかった。天津飯がターレスの実力を認め、ターレスが天津飯の真面目な性格を気に入り、良い友人関係になったようだ。
あと、チャオズの世話に慣れている天津飯がブルマとも打ち解けたのも大きかっただろう。
そうして一月が過ぎた頃に、儂と4号は鶴仙人に4号の素顔と正体を告白した。
「何やら重大な秘密があるとか。だがこの鶴仙人、GCコーポレーションと一蓮托生の覚悟はできておる。驚く事は何もない」
と、言っていたが4号が安心して顔を見せた途端腰を抜かしてしまった。
「ぴ、ピッコロ大魔王!? 馬鹿な、ピッコロ大魔王が顔を隠して会長秘書をやっていただと!?」
「鶴仙人殿、落ち着いてください。私はヨンです。ピッコロ大魔王とは似ていると思いますが別人ですよ」
「た、確かにこの気配はヨンと同じ……いったいどうなっておるのだ!?」
そしてピッコロ大魔王の正体と、4号が宇宙人の細胞を使って作った人造人間である事を明かすと、彼はしばらく呆然としていたが、最終的には信じてくれた。
「ピッコロ大魔王が宇宙人で、元は神様の一部だったとは……どうりで強いはずじゃ。それに宇宙に君臨する悪の帝王とは……長生きはするもんじゃないわい」
「聞いて後悔しましたかな?」
「当たり前だ! 事前に知っていれば、絶対に関わらんかったぞ! ……いや、避けても意味が無いか」
相手はピッコロ大魔王よりもずっと強く、気に入らなければ惑星ごと滅ぼす悪の帝王フリーザ。どれだけ逃げ回っても地球という惑星から逃げ出さない限り意味が無いと気が付いた鶴仙人は、やれやれと肩を落とした。
「星ごと爆破されてしまったら、どこへ逃げても同じか。なら……ますますGCコーポレーションから離れるわけにはいかんな」
「宇宙船で逃げ出しても、逃げ切れるとは限りませんぞ」
儂が釘を刺すと、「分かっとる!」と怒鳴り返された。
「宇宙船もそうじゃが、GCGは儂が知る中で最も強力な戦闘集団じゃ! 生き残る可能性が最も高いのはここだろう。
それに、GCGを鍛えて強くすればその分儂が生き残る可能性が増すという事じゃからな」
そう言って前向きに諦めてくれた。
その次の日に、神様からテレパシーで桃白白が神殿で修行を一月程前から始めている事を聞いた。いや、儂は桃白白を対フリーザ用の戦力としようとは考えていなかったのだが……。
どうやら、儂が(カリン様へ)修行に出したのを、桃白白が儂に選ばれた戦士だと誤解したらしい。
しかし、嬉しい誤算だが桃白白は気のコントロールを更に高め、順調に力を伸ばしているそうだ。彼は長寿なので、本当にZ戦士入りもあり得るかもしれない。
そして、孫悟空が地球に飛来して二年目。
桃白白の主演二作目の映画、『黄昏の桃白白、ミッドナイトモーニング』が一作目を上回る大ヒットを記録した。相変わらず何時なのか分からないタイトルだが、桃白白のスタントマン無し、CG合成無しのアクションが話題になっている。
儂の研究の方は、最近まで行き詰っていた。フリーザ細胞の遺伝子を編集し、融合させる量やタイミングを調整するなど、数えきれない程データ上でシミュレーションを重ねたが、芳しい結果は出せなかった。
危険を冒して実験データを取るために、フリーザマウスのような動物実験をするしかないかと悩んでいた頃、ブルマが良いアイディアを出してくれた。
「お爺ちゃん、どうせくっつけるなら、最初に全部くっつけて一つにしてから移植してみたら?」
「つまり、宇宙人の細胞を全て融合させ一つにし、それから素体に移植するのか……面白いアイディアだ! 早速試してみよう!」
儂はそれまで、フリーザ細胞ならフリーザ細胞、ナメック星人の細胞ならナメック星人の細胞と、個別に移植していた。料理で例えると、コショウならコショウのまま、ターメリックならターメリックのまま、鍋に入れてカレーを作ろうとしていた。
だが、ブルマが言ったのは、移植手術を行う前にフリーザ細胞やナメック星人の細胞をあらかじめ一つに融合させてから移植する方法。料理で例えると、予めカレールーを作ってからそれを鍋に入れてカレーを作る方法だ。
この方法は、以前は思いついても試すのは難しかった。だが、今は地球人の細胞が異星人の細胞と融合させやすい特性を持つことが判明している。地球人の細胞をベースに、異星人の細胞を融合させる事で一つにする事が出来る。
そして念入りに繰り返したシミュレーションは上手くいき、出来た細胞を実際に移植する動物実験も成功した。
「チューッチュチュチュ」
生まれたマウス達は高い生命力と戦闘力、真空状態でも活動できる特異な生態、そして動物としては高い知能を誇るが、大人しく社会性があり、攻撃性も控えめだったのだ。
誰がリーダーに相応しいか争う事もなく、お互いに毛づくろいをし、餌がやや足りない時も奪い合うような事はせず仲間同士譲り合い、儂に対して平和的に抗議する。……これは実験目的とは関係ないが、戦闘力もやや上がった。
さすがは五歳で宇宙船を修理した天才じゃ。四歳にして人造人間研究を前進させるとは、凄まじい。
「素晴らしい! これは歴史に残る大発見じゃ! ブルマ方式細胞……B細胞と名付けよう!」
「ドクター、歴史に残すと今は良いですが将来ブルマが恥ずかしがるのではないでしょうか?」
「どうせ公には出来ん研究じゃから、大丈夫じゃろう」
原作が始まった頃は自分の名前を気に入っていなかったブルマだが、自分の子供達にトランクス、ブラと名前を付けているから、十代の若者の時期に現れる反抗期的なサムシングだったのだろう。
それに、人造人間の研究開発は公に出来ないので、この記録が大勢の目に触れる事はない。
「では、さっそく人造人間5号、サンの改造を実行に移すとしよう」
「永久エネルギー炉の出力問題は解決していませんが?」
「残念じゃが、サンとギネには完成形の永久エネルギー炉を搭載するのは諦めよう。メインではなくサブ動力として搭載する」
元々体の弱いサンはただ細胞を強化するだけでは負担がかかってしまう。その負担分を、低出力の小型永久エネルギー炉で賄うと同時に、疲労時の回復をサポートさせるのだ。
原作17号や18号のように疲労しないようにはならないが、疲労してもすぐに回復するようにはなるはずだ。
なので、二人は4号のように気を発している人造人間になるだろう。
「永久エネルギー炉に生体パーツを使うのでしたら、移植後の訓練で出力が上昇する事も考えられます」
「そうじゃな、4号」
「それで、ギネ……人造人間6号の改造も行いますか?」
「いや、同時進行で改造手術を行った場合、二人が同時に非常事態に陥る可能性がある。慎重を期して、ここはサンの改造を優先しよう。
どのみち、サイヤ人のギネは細胞を融合させるのに時間がかかるからの」
地球人の細胞を使う事で必要な時間を大幅に縮める事が出来るが、それでも地球人をベースに改造するよりはかかるのだ。
彼女には悪いが、もう少し待ってもらおう。
とりあえずブルマにはお陰で研究を進める事が出来たと礼を言い、好物を振る舞ったのだった。
ちなみに、フリーザマウス達は秘密研究所で飼育を続けながら経過観察を行う事にした。ブリーフが引き取ろうかと言ってくれたが、通常のネズミと交配してしまうかもしれんから、海に囲まれた島にある秘密研究所で飼育した方が良いと判断した。
そしてしばらく経った頃じゃった。会社の受付から、「亀仙人と名乗る方が面会を希望しています」と言う連絡があったのは。
会社のロビーが俄かに騒がしい。
「ええい、貴様じゃ話にならん! すっこんどれ、中途半端ハゲ!」
「だから何の用だと聞いておるんだ、このツルッパゲ!」
どうやら、儂の前に鶴仙人と遭遇してしまったらしい。
「お取込み中のところすまんが、話の続きは場所を変えて行いませんかな?」
「お、あんたが会長さんか。儂はこの中途半端ハゲではなく、あんたに話があって来たんじゃ」
「む、会長。この耄碌したツルッパゲと話しても時間の無駄じゃぞ、神様の所に行って来たとかぬかしおるからな」
「「なんじゃと!?」」
「続きは儂のオフィスでどうですかな?」
ここはゲロ・コーポレーションだった頃のビルで、合併後もビルの最上階から二つ下の階にあるオフィスを儂は使っていた。
「なんで最上階じゃないんじゃ? あんた会長じゃろう?」
何とかそこに場所を移動する事に成功した後、亀仙人がふと気になったのかそう尋ねてきた。
「儂はここをあまり使わんのです。それで、屋上のヘリポートをよく利用する副社長に上の階を譲る事にしたのですよ」
儂は研究所が本来の仕事場じゃし、デスクワークもサインと判子押しぐらいのものじゃ。しかし、副社長は会社で様々な仕事をするし、ヘリポートも頻繁に利用する。なので、こうなった。
ちなみに儂のオフィスの一つ上が副社長のオフィス。そして最上階が副社長の住居となっておる。
「そうか。それで、本題に入るが神様から連絡は来ておるかの?」
「亀の、まだ世迷言を――」
「鶴仙人殿、実は神様に亀仙人殿が修行を付けてもらったという話は本当でして」
「な、なんじゃと!?」
その後、地球の神様が資格のある者には修行を付けてくれる事を、そして桃白白がまさに今修行を付けてもらっている事を鶴仙人に説明した。
「むぅ……亀のが妙に強くなっている事は気が付いていたが、神様に修行を付けてもらっていたとは……何故貴様だけ招かれたのだ!?」
「日頃の行いという奴じゃな。しかし、気がついとったのか」
「ふんっ。その服が重い事を見逃すほど、儂の目は耄碌しとらんぞ。会長やヨン・ゴー殿も着ておるからな」
儂や亀仙人が来ている重い服は、見た目は普通の服と全く変わらない。しかし、着て動く際に体に負荷がかかるため僅かに動きに変化が出るのだ。
「お前に直ぐ見抜かれてしまうとは、儂もまだまだ未熟という事か。さて、儂がここに来た目的じゃが、神様から修行に力を貸してもらえると聞いたからじゃが……本当かの?」
亀仙人はそう言いながら、疑いの眼差しを儂と鶴仙人に向けた。しかし、鶴仙人は再び鼻を鳴らすと、儂が口開くよりも先に応えた。
「本当じゃ。会長、儂に構わずいくらでも手を貸してやるといい」
その言葉に、亀仙人はサングラス越しでも分かるほど目を丸く見開いて聞き返した。
「なんじゃと? まさか鶴の、貴様本当に改心したのか?」
「勘違いするな、このハゲが! 儂は儂のままだ! 勝つためには手段を選ばん鶴仙流は曲げん! ただ、勝つために改心する必要があるなら、改心するというだけの話だ!
悪党を続けて桃白白と対決する羽目になっては敵わんし、この世界的大企業の会長が鶴仙流が栄光を掴むのに力を貸してくれるなら、いくらでもお天道様の真下を歩いてやるわい!」
「鶴の……な~んじゃ、悪い事を止めただけで善人になった訳ではなかったか。驚いて損したわい」
啖呵を切った鶴仙人に対して亀仙人はため息を吐いて見せたが、その声には誤魔化しきれない喜びがあった。
「いい事もしておるわい! 桃白白の後任として警察の捜査に協力して、今日もミニスカートの婦人警官にキャーキャー言われてきたばかりじゃ!」
「なんじゃとっ!? 武術をギャルにモテるために使うとはなんと羨ましい! いや、けしからん! それでも仙人か!? 儂にも紹介してくれ!」
「貴様のようなスケベ爺を誰が紹介するか、会いたかったら自首でもしたらどうじゃ!」
「誰がスケベ爺じゃ、それに自首ってなんじゃ、このエロ爺が!」
そう言い合うが、二人の言葉と顔に互いへの怒りはあっても殺気はなかった。
実は、鶴仙人に亀仙流との血生臭い争いは止め、優劣を競う場合は尋常な試合のみにして欲しいと前もって頼んでおいたのだ。
既に我が社への就職を決めていた鶴仙人は、原作と違って桃白白を倒されていないため「まあ、日向を歩む身でつぶし合いをするのは具合が悪いじゃろうし、病院の客に亀の弟子の妻がいるそうじゃから、仕方あるまい」とすぐ了承してくれたのだ。
そして、宇宙に君臨する悪の帝王の存在を知ってからは、ますます亀仙流と潰し合いなんてやっている暇はないと了解してくれた。
「それで具体的な修行への手助けですが、ブリーフ博士が開発したトレーニングスーツを提供しましょう。それと、力試しの相手として儂と今こちらに向かっている儂の息子達、そしてGCGの隊員が勤めましょう」
「ふむ、儂もカリン様、そして神様に師事した兄弟弟子との腕試しは興味がある。……鶴の、貴様もやるか?」
「今鍛え直しているところじゃ。貴様を超えたら試合を申し込むから、それまで首を洗って待っておれ!」
鶴仙人は実はターレスに稽古をつけた時、彼が自分とほぼ互角である事に気が付いて、多重残像拳や太陽拳、どどん波まで使って判定勝ちに漕ぎつけた。それからというもの、再戦を要求するターレスをのらりくらりと回避しつつ、自身の修行をやり直している。
桃白白が修行から帰ってきたら、今度は彼がカリン塔へ上ると言い出すかもしれんな。カリン様が彼に修行を付けてくれるかは分からんが……この様子なら大丈夫じゃろう。
「そう言えば、貴様は新しく弟子はとっておらんのか?」
「わ、儂は簡単には弟子を取らん主義じゃからな! 厳選しておるんじゃ!」
一方、神様の神殿で修行を終えてまだ一年たっていない亀仙人は、新しい弟子にまだ巡り合えていなかったようだ。
彼が言うには、一度家に帰った後、とりあえずかつての弟子を訪ねる事にし、最初に向かったのが二番弟子の牛魔王の所。神様の神殿を訪れる前は、悪い噂を聞くようになっていたため弟子が気になったからだ。
しかし、向かってみると緑豊かで涼やかだった涼景山は炎が燃え盛るフライパン山と化しており、しかし麓には木で区切られた畑が広がっていた。そこで牛魔王が農作業に精を出していたのだ。
そこで亀仙人は牛魔王から儂に妻の治療を頼み、それをきっかけに改心した事と、ブリーフから提供された品種改良されたアジッサの木のお陰で畑仕事が出来るようになった事を話した。
「そこで丁度いいと牛魔王に改めて修行を付けたが、新しい弟子に足る者とは出会えんでな。牛魔王の娘とも会ったが、まだ幼すぎる。将来は母親に似た美人で腰がキュッとして思わず……もとい、父親譲りの高い武道の才能を開花させるかもしれんが。
それから牛魔王にとりあえずの教えを残した儂は、一番弟子の孫悟飯の所へ――」
そう亀仙人が話している途中でオフィスの扉が空き、素顔のままの4号とターレスが入ってきた。
「遅れました、ドクター」
「おい、爺、客っていうのは――」
「ご、悟空! 悟空ではないか! 何故ここに居る!?」
すると、ターレスを見た亀仙人がそう叫んだ。なるほど、彼は孫悟飯のところで孫悟空と既に会っていたのか。
そう思う儂だが、顔に出さないよう無表情を装う。
「ごくう? 爺さん、人違いだぜ。俺はターレスだ」
「何? 言われてみれば、確かに少し違うの。肌の色もお主の方が濃いし……しかし、尻尾が生えていて顔まで同じとは、もしや生き別れの双子か?」
「尻尾だと!? おい、爺さん、そのゴクウって奴には尻尾が生えてるのか!?」
今度はターレスが驚く番だった。やはり何か心当たりがあるのかと思ったのか、亀仙人は悟空に付いて話し出した。
「儂の一番弟子、孫悟飯の元を訪ねたら、子供を一人引き取って育てていた。それが悟空じゃ。顔立ちはおぬしそっくりで、お主と同じ長い尻尾を生やしておった」
「そうか……まさかこの星に飛ばし子が送られていたとはな。爺さん、この亀の爺さんにも話していいのか?」
「ああ、儂から話そう。亀仙人殿、このターレスはサイヤ人。この地球から遠く離れた場所に存在した惑星ベジータと言う星で産まれた、宇宙人なのです。
そのターレスと同じ特徴の悟空と言う子も、おそらくは」
「なんと! 確かに空から降ってきた巨大な玉で泣いていたのを拾ったとかなんとか言っておったが、宇宙人だったとは……」
「そこまで揃っていて、なんで宇宙人だと気が付かないんだよ?」
「いや、儂、神様以外の宇宙人を見た事がなかったもんじゃから、つい」
どうやら、亀仙人は地球の神様、つまりナメック星人しか見た事が無かったので、宇宙人とは地球人とかけ離れた外見をしていると思い込んでいたため、悟空が宇宙人だと思わなかったようだ。
それからサイヤ人の特性を説明するが、性格については首を横に振った。
「いや、会ってみたが邪気は全く感じ取れんかった。やんちゃで、すぐ競いたがるところはあるが、素直な良い子じゃったぞ」
「飛ばし子は、飛ばされた先の星の住人を皆殺しにするよう命令されるって聞いたが……頭でも打ったのか?」
「頭を? そう言えば、儂が訪ねた時は頭を打ったとかで寝込んでいた時じゃったな。それで心配になってしばらく逗留したのじゃが」
「多分そのせいだな。命令も忘れちまったんだろう」
「ターレス、サイヤ人は頭を打つと記憶がなくなるのか?」
「らしいぜ。俺も保育器の中で刷り込まれただけだから、詳しくは知らねぇがな。ああ、言っておくが俺ぐらいの歳になったらもう関係ないぜ」
どうやら、赤子の頃に頭を打つとそれまでの記憶を失うのは種族共通のものだったらしい。それなら、原作ラディッツが悟空に頭を打ったかと尋ねた時の様子も頷ける。
「……もしかしたら、それもあってサイヤ人はある程度育つまで子供を保育器の中に入れるようになったのかもしれんな」
「それで亀仙人殿、その悟空と言う子は満月を見て大猿に変身した事は、まだないのですか?」
「いや、確か一度大猿になったから、満月の日は外に出ないようにと教えているとか……それもやはりサイヤ人の特性とやらかの?」
「亀の、何故そこで宇宙人だと気が付かん?」
「ええい、妖怪か何かの血を引いているのかもしれんと思ったんじゃ! 仕方なかろう!」
「だったら、早めに俺が持ってるゴーグルと同じ物を送ってやった方が良いんじゃねぇか? 俺も俺そっくりなサイヤ人の生き残りに会ってみたい」
孫悟空に会いに孫悟飯の元へ訪ねる話の流れになっているが、それは儂にとって望ましいものだ。元々、彼らの元にはブルーツ波遮断ゴーグルを渡しに行く予定であった。悟空が頭を打った事も確認できた今、行くのを躊躇う理由は無い。
「まあ、待て。次の満月まで二十日以上時間がある。その前に要件を済ませておきたい。会長殿よ、窓を開けてもいいですかな?」
「構いませんぞ」
このオフィスは儂が舞空術を使って直接出入りする事も考えて、高層階にあるにもかかわらず一部の窓を開ける事が出来る。
儂がそれを開くと、亀仙人が大きな声で呼びかけた。
「来い、不死鳥よ!」
ああ、あの食中毒で死んだという……と、儂が思っていたら空の彼方から、何かがこちらに飛んでくるのが見えた。
「何か御用ですか~、仙人様~」
炎のような翼に長い尾羽を持つ大型の鳥、不死鳥が現れて窓から入ってきたのだ。
「な、なんと!」
まさか原作では死んでいたはずの不死鳥が生きて、そして実際に見る機会があるとは思わず儂は愕然とした。
その後で気が付いたが、まだこの頃は不死鳥が食中毒になる前じゃった。
「さて、会長殿。宇宙の悪の帝王が動き出すまでお前さんに耄碌されるわけにはいかんので、この不死鳥に触れて永遠の命を得てみる気はないか? まあ、実際には老いが凄まじくゆっくりになるだけで、死ぬ時は死ぬのじゃが」
亀仙人は「今ならサービス期間中じゃぞ」と言って笑って見せた。
・鶴仙人
無事GCGの顧問兼指導者に就任。ターレスやゲロにも鶴仙流の奥義を教えると息まいている。
また、桃白白の後任という事で警察から捜査協力を求められており、ドクターフラッペが事件を起こした際には解決に協力する約束をしている。
そして奥義を教えるといったターレスに稽古をつけた結果、彼が自分をすでに超えている事を察知し、危機感を覚えて服の下にトレーニングスーツを着て自身の修行も再開している。やはり天津飯が師匠を超える難易度が高まっているようだ。
また、亀仙流との血生臭い流派争いはゲロから止められている。原作のように弟の桃白白を倒されていないため、若干渋ったが了解した。
二百年以上ぶりに亀仙人と再会し、憎まれ口を叩き合うも彼が強くなっている事を察しており、内心動揺している。
・天津飯
タイツ(原作ブルマ)と同い年で、この話が終わったタイミングでは八歳の少年。最初ターレスに対抗心を燃やしていたが、稽古で力量に圧倒的な差があると理解してからは、身近な目標として認めるようになった。
その後はターレスとも同格の兄弟弟子として付き合っている……はずだが、弟分扱いされていないかと時々悩んでいる。
戦闘力はこの時点で六。八歳の地球人の子供としては驚異的な強さだが、ターレスに実力で敵うはずがない。むしろ、タイツの助言に反射的に従って、油断していたとはいえ圧倒的に格上のターレスの尻尾を掴めた事を褒めるべきと思われる。
・武天老師
神様の元で修行をして強くなり、弟子達の元を巡ったのちにGCコーポレーションを訪ねた。
ゲロに付いては牛魔王の妻を助けようとはするが、手段が人造人間への改造である事に若干怪しさを感じているが、その人造人間である4号も込みで神様からの評価が高いので、直に会って見定めたかったというのが本当の要件。結果、鶴仙人を改心させるなどしていたため、「危うさは感じるが善人である事に間違いはない」という評価になった。
それで、不死鳥を呼んで自分達と同じように永遠の命(不老長生)を与えようと考えたらしい。
なお、原作ではウミガメを助けてくれたお礼として、まず悟空とブルマに永遠の命を与えようとするぐらいには、気軽なお礼らしい。……フリーザはナメック星に行く約二十年以上前に地球に向かうべきだったかもしれない。
なお、原作でも「永遠の命」と言っているが、実際は老いが非常にゆっくりになって長く生きる事が出来る不老長生であると思われる。
・ブルマ
現在四歳。早くも天才の片鱗を見せているが、人造人間や永久エネルギー炉の構造等を完全に理解している訳ではない。ゲロに言った助言は、押してダメなら引いてみれば、と言うのと同じような感覚で言ったもので、彼女の中にそうすれば問題が解決するという確証があった訳ではない。
そのため、作中でゲロが彼女をベタ誉めしているのは、原作知識がある影響とただの爺馬鹿である。
・頭を打ったのか?
原作でラディッツが悟空に尋ねた事から、サイヤ人は幼少の頃(多分新生児から三歳ぐらいまで)の間に頭を寝込むほど強く打つと、それまでの記憶が飛び、性格が変わってしまう特性(弱点?)があると思われる。
原作ラディッツの様子が、「変な物でも食ったのか」と言うようなノリで「頭を打ったのか」と言うような軽い様子ではなかったので、そうでないかなと思いました。
・通信学習
地球で広く用いられている教育手段。ただ、学校がないわけではない。
また、原作で悟飯やビーデルが通っていた学校等、高等学校や大学等は通信教育ではなく通う方が主流なのかもしれない。
・『黄昏の桃白白、ミッドナイトモーニング』
桃白白主演映画二作目。武道家として今の自分に疑問を覚え、思い悩む桃白白がそれでも悪のロボット軍団と戦うというストーリー。明確に名前は出されていないが、ドクターフラッペとの戦いを意識した脚本で、評論家の評価は「リアリティがあるストーリー」か「オリジナリティが欠如している」の二通りに割れている。
ただ主演の桃白白氏の演技は一作目同様迫力満点で、好評だった自ら投擲した柱に乗っての飛行シーンもある。また、ラストでは己を見つめなおすために修行の旅に出発するシーンで締められているのだが、桃白白が本当に修行の旅に出た事で話題性が増してようだ。
・新フリーザマウス
ナメック星人の善良さを獲得したフリーザマウス。旧フリーザマウスと違い攻撃性が薄く、穏やかな性格。その分知能の高さが目立つようになった。
実験の際もゲロに『おや、ゲロさん。私達の食事の量が少なくはありませんか?』と集団で抗議している。
また、地球人の細胞を加えたためか潜在能力が旧フリーザマウスよりも強化されている。
酒井悠人様、雪凪ハーメルン様、竜人機様、たまごん様、ヨシユキ様、ミー太郎様、よんて様、KJA様、あんころ(餅)様、gsころりん様、みえる様、誤字報告ありがとうございます。早速修正しました。