ドクターゲロに転生したので妻を最強の人造人間にする   作:デンスケ(土気色堂)

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21話 天下一武道会と暗躍しようとする歴史改変者 ★

 晴天に恵まれた三月のある日。天下一武道会の予選開始前日までの段階で、不死鳥の細胞を培養する事には成功したが、不死鳥が他者に不老長生を与えるメカニズムは解析出来なかった。おそらく、いわゆる神の力に近いのかもしれない。

 

 しかし、儂も伊達で天才科学者を名乗っている訳ではない。メカニズムは不明だが、今まで培ったバイオテクノロジーを応用し、飲むだけで寿命が延び若返る不老長生薬を作る事に成功した。

 

 まあ、不死鳥の下位互換だが。若返ると言っても劇的な効果は無いし、伸びる寿命も十年程度。

 不死鳥本人が最新の高級医薬品だとすると、儂が作った不老長生薬は誰でも買えるサプリメントといった程度か。不死鳥本人が生きている以上、あまり重要ではないな。所詮、人造人間研究の片手間で作ったものじゃしな。

 

 副社長にはそう事実を説明して渡したら、飲んでくれた。「そんな事言って、飲んだら永遠の現役(命)を強制されたりしないでしょうね?」と、散々怪しんだ後にだが。

 すまんが儂、そこまで天才ではないのじゃよ。

 

 後は……将来ターレスや悟空がスーパーサイヤ人に至ったら、定期的に飲むようにと渡すのがいいだろう。スーパーサイヤ人は寿命を削るらしいからの。

 

 しかし、儂が不老長生薬を作れるという事は、儂のバイオ科学技術の元になった研究資料を作成したドクターコーチンも開発可能と言う事か。悪人でなければスカウトしたいぐらいじゃ。

 

「ドクター、そろそろ予選が始まります」

「おお、そうじゃったな」

 4号に声をかけられ、儂は思索を止めて意識を外へ向けた。

 

 天下一武道会は我がGCコーポレーションがスポンサーになり、島の観光開発や設備投資、賞金の増額を行った結果、参加選手が以前よりも倍増した。

 これにより、以前は八ブロックの予選を行い八人の選手を選出していたが、今大会から十六人の選手が本戦で戦う新体制へと移行する事になった。

 

 しかし、予選ブロックを十六に分けるには予選会場の広さが足りんし、時間がかかる。そこで、予選ブロックがAからHに振り分けられた選手は以前と同じトーナメント制、IからPに振り分けられた選手はバトルロイヤル制の予選を行う事になった。

 

 そしてバトルロイヤルの方の予選は、本戦の武舞台で行われる。そして、儂はそのIブロックに振り分けられていた。

『観客の皆さん! これより予選バトルロイヤルIブロックを開始します!』

 金髪にサングラスにスーツを着た、二十歳を超えたばかりの若い青年がマイクを片手に実況をしている。原作の天下一武道会でおなじみの実況だ。

 

 前大会までは違う人物が実況をしていたが、彼はこの大会から実況を続けることになるようだ。

 

『改めてルールを説明します! ギブアップ、気絶するなど試合続行が不可能な場合、そして場外に落とされたら失格です! そして生き残った最後の一人が本戦への切符を手にします!』

 儂は彼のルール説明を聞き流しながら、同じIブロックに割り振られた選手達を見回した。

 

(改めてみても、大した選手はいないか。他のブロックのように、原作に登場する人物が紛れ込んでいる、と言う事もやはりなさそうじゃ)

 

『それでは、予選Iブロック、バトルロイヤル開始!』

「爺さん、まずはお前だっ!」

「うおりゃあああ!」

 

 予選が始まった瞬間、儂目掛けて他の選手が一斉に挑みかかってきた。優勝経験者の儂をまず倒そうとしたのだろう。儂としても、纏まって来てくれるのはありがたい。

『な、なんとゲロ選手、一分もかからず他の選手全員をダウンさせてしまいました! 流石は優勝経験者! 頭頂から毛は消えても、寄る年波にまだまだ負けない強さを見せてくれました!』

 見応えが無い試合内容で観客には申し訳ないが、まだ七回もバトルロイヤルが控えているのでそれで我慢してもらう。それに、次は見応えがあるはずだ。

 

「オラオラ! このギラン様が相手をしてやるぜえ!」

 なんと、Jブロックに原作の天下一武道会に出場して悟空と戦った怪獣ギランがいたのだ。まだ原作の六年前だが、原作で見た姿と同じだった。

 

 その後、チャパ王や鶴仙人もそれぞれバトルロイヤルを勝ち抜き、本戦出場を決めた。観客もギランの大暴れやチャパ王の舞踏にも似た巧みな立ち回り、鶴仙人の桃白白の兄にして師と言う前評判通りの試合に満足してくれただろう。

 

 天下一武道会の一日目は予選まで。二日目は一回戦、三日目は二回戦と準決勝、そして四日目に五位決定戦と三位決定戦の後に決勝戦を行うスケジュールとなっている。

 幸い、儂等は予選でかち合う事なく全員本戦に出場する事が出来た。……くじ引きの操作? 言うまでもないが、そんな事はしておらんとも。

 GCコーポレーションはクリーンな大会運営を徹底しておるからな。

 

 

 

 

 

 

 かつて、時の界王神に仕える強い正義感を持った男がいた。しかし、彼はその正義感故に苦しみ、悩み、既存の歴史を消去し、自らが新たな歴史を創る事を決心してしまう。

 男……シーラスは時の界王によって封印されたが、気が遠くなるような年月を経て復活した。

 

 封印から復活したシーラスだったが、その野望に変化はなかった。彼は自らが歴史を創るための手段として、いくつもの狭間の世界……本来の歴史とは異なる歴史を歩んだパラレルワールドを創り出してしまう。

 そして野望のために狭間の世界から数々の強者を召喚し、戦わせてデータと力を集めた。しかし、時の界王神やタイムパトロールの前に倒れた。

 

 だが、シーラスが及ぼした影響は計り知れなかった。狭間の世界を生み出したことによって、歴史だけではなく並行世界の境界が不安定となり、そこに強大な力のぶつかり合いで発生したエネルギーが強く働いたのだ。

 しかし、その影響はシーラスが直接行った事に比べれば些細なものだった。起きるはずの無かった嵐が起きた程度だ。

 

 地球を破壊するような超戦士達がぶつかり合うのと比べれば被害は些細なもので、時の界王神達もすぐには気がつかなかった。

 しかし、その些細な影響によってある並行世界が本来あるべき歴史の流れから分岐し、枝分かれしてしまった。

 

 嵐によって交通事情が変わり、天才科学者と将来総帥になる男が偶然出会った歴史と出会わなかった歴史。

 そして歴史を消し去りかねない力の発生によって起きた不可視の何かによって、天才科学者が異世界で生きていた前世の記憶に目覚めた歴史と、目覚めなかった歴史。

 

 どれも目で見える出来事としては、小さなものだ。しかし、歴史が進めば進むほどその影響は大きくなり、ついには本来の歴史とは全く異なる歴史が生まれ、並行世界が増えてしまった。

 そして、今も歴史は変わり続けている。

 

「フフ、まさか私達が生まれた歴史がこんなに都合のいい歴史だったとは思わなかったわ。別の歴史の私達がしている苦労を考えると、気の毒になってくるわね」

「……それほどなのか? まだ強い奴はいないようだが?」

「ええ、そうよ。でも、この歴史は私達が歴史を改変しなくてもキリが少しずつだけど得られるのよ」

 暗黒魔界の復活を目論む時間改変者トワは、自身が作り出した戦士ミラに上機嫌なままそう答えた。

 

「本来あり得た歴史に戻そうとする修正力が、この歴史を生きる存在の行動とぶつかり合って、常にキリが発生している。こうして話している間も、少しずつキリが溜まっているのよ」

「それなら、すぐにタイムパトロールに目を付けられて修正されるのではないのか?」

 

「それはないわ。発生しているキリはこうして私が集めているし、まだ他の歴史と大きく乖離はしていないから」

 歴史が改変される事で発生するエネルギー、キリ。この歴史で発生しているキリはトワが集めており、しかも彼女自身はこの歴史ではまだ何もしていない。そのため、時の界王神達はこの歴史の異常さにまだ気が付いていないはずだとトワは推測していた。

 

「大きく、乖離はしていない?」

 しかし、ミラは納得していない様子で二人が佇むパパイヤ島のビルの屋上から見える風景を見回した。

 大都会と呼んでもおかしくない程開発され発展した街並みに、軽く見回しただけでいくつか見つかるGCコーポレーションの広告とロゴや、桃白白のポスター。

 

 そして街頭テレビで紹介されている天下一武道会本戦出場者には、本来の歴史ではこのタイミングでは出場していないはずだったアックマン、チャパ王、桃白白、天津飯、亀仙人、怪獣ギラン、ランファン。

 さらに、一生天下一武道会に出場する事はなかったはずのターレス、タイツ、ゲロ、牛魔王、孫悟飯(老)。

 そして、他の歴史では無名で終わるはずだったGCG部長のチューボ、既に死んでいるはずだった人造人間5号こと牛魔王の妻のサン、存在もしないはずだった4号……。

 

「本当に、乖離していないのか? 俺には全く別の歴史に見える」

 乖離しすぎて修正力とやらが働いているのか疑わしい。そう思うミラだったが、トワは彼とは別の感想を持っていた。

 

「フフ、そう見えるかもしれないけど時の界王神やタイムパトロール達の尺度では、まだ乖離していないのよ。奴らが介入するのは、その歴史の命運に大きく関わる事象だから」

 ピッコロ大魔王がピッコロを生み出す前に孫悟空が倒してしまい、地球の神が死ぬ。ラディッツが魔貫光殺砲を避けて孫悟空だけ死んでしまう。ナメック星編でフリーザだけではなくクウラも現れる。

 

 時の界王神がすぐに感知してタイムパトロールを派遣するのは、そうした歴史の命運を大きく変えてしまうものばかりだ。……それは、別の歴史のトワやドミグラ等歴史改変者が、そうした大きな改変を主に行うからでもあるが。そうでもしなければ、彼女達の目的を達成するのに十分なキリや他のエネルギーを得られないためだ。

 

 そうした事情を棚上げして、トワはミラに説明を続ける。

「この歴史で起きている他の歴史との差異は、歴史の命運を大きく変えるものではないわ。惑星ベジータは破壊されたし、孫悟空は孫悟飯に育てられている。

 この歴史では無数の『小さな改変』が起きているけど、まだ『大きな改変』は起きていないのよ」

 

 ゲロや桃白白が悪人ではなく善人になっているが、本来の歴史で彼らが現れ、孫悟空と敵対するまでまだ時間がある。その時が来ても彼らが孫悟空と敵対しなかった時、初めて本来の歴史で起きたはずの出来事が起こらないことが決定的になり、『大きな改変』と見なされるのだ。

 

「なるほど……では、時の界王神がこの歴史の異変に気が付いたら、タイムパトロールからあいつを守るのか? この歴史の改変の中心、ドクターゲロを」

 歴史の改変を修正するために、時の界王神はタイムパトロールにゲロを消させるのではないか。そうミラは考えたが、トワは「それはないでしょうね」と言った。

 

「あの男は確かにこの歴史の改変の中心よ。この歴史の異変は、あの男が本来の歴史とは異なる動きをしたからこそ生まれ、広がった。

 でも、あの男を消せばそれはそれで歴史の大きな改変になるわ」

 

 この歴史が本来の歴史と異なる方向へ進んだ大きな原因は、ゲロにある。だが、同時にゲロは本来の歴史における重要な人物だ。彼が存在しなければ、人造人間達やセルも存在しなくなる。18号と17号はごく普通の人間のまま生涯を終える。

 それで変わるのはクリリンが18号と出会わず結婚できないだけで、悪い事ではないように思えるかもしれない。だが、そうでもない。

 

 未来トランクスの歴史では孫悟空が心臓病で死んだ後、悪の18号と17号が存在しないためベジータを含めたZ戦士達が健在で平和なまま、魔人ブウ編まで歴史が進む事になる。

 そのため、ブルマが歴史を変えるためにタイムマシンの開発を実行せず、未来トランクスが過去へタイムスリップしない可能性があるのだ。

 

 歴史が枝分かれせず「絶望の未来」の歴史のみになってしまうかもしれない。

 

「では、本来の歴史で奴が死ぬ時期まではタイムパトロールも手を出さないという事か?」

「そうなるわね。もっとも、この歴史の未来は改変のせいでどうなるのか分からないから、私でも直接行き来する事は出来ないわ。だから、この歴史の現在がその時になるまで待つしかないわね」

 

 トワの言うように、この世界の未来は不安定だ。彼女でも既に過ぎた過去に行く事は出来るが、まだ定まっていない未来に行く事は出来ない。

 彼女の知識は、この歴史ではなく他の歴史へ行き得たものだ。

 

「それに、あの男はこの歴史の改変の中心にいるけれど、原因ではないわ。原因はシーラスと時の界王神達の戦いによって起こされた、強大な力のぶつかり合い。あの男はその影響を受けただけに過ぎないわ」

 ゲロは自分こそがバタフライエフェクトの原因であり中心だと思っているが、トワに言わせれば彼もまたバタフライエフェクトによって影響を受けた一人でしかない。

 

 ……厳密にいうなら、ゲロの前世が死後遭遇した「神」を名乗る存在が、シーラスが起こした異変の余波を利用して彼をこの世界に転生させたので、どちらの認識も間違ってはいない。だが、トワには知る由もない事である。

 

 蝶の羽ばたきを最初からなかったことにするには、シーラスが復活しないようにするしかないのだ。だが、それが可能ならそもそも復活したシーラスとの戦いは起きていない。

 

「時の界王神も、自分達の過去を変える事は出来ない。フフ、皮肉なものね。

 それにしてもミラ、あなたにしては質問が多いわね。何か、気になる事でもあるの?」

 暗黒魔界の魔術師であり科学者でもあるトワと違い、彼女が作り出した人造人間のミラは普段そこまで細かい事にはこだわらない。戦闘と、トワを守る事以外に関心を持つのは珍しい。

 

「キリが手に入るなら、俺はもう必要ないのか?」

 しかし、ミラは自分がトワの役に立てないのではないかと心配していただけだった。そんな彼にトワは目を瞬かせた後、微笑みを深くした。

 

「そんな事はないわ、ミラ。キリが手に入ると言っても僅かずつだけだから、私達の目的のためには大きな改変を起こす事も必要になるし、強者同士の戦闘で発生するダメージエネルギーも欲しいもの。それに、タイムパトロールとも戦ってもらわないと。

 ミラ、時が来たらあなたには存分に戦ってもらうわよ」

 

「ああ、任せてくれ!」

 立ち直ったミラを微笑ましく思うトワだったが、歴史に妙な違和感も覚えていた。手に入るキリが僅かすぎるような気がするのだ。

 

(滴る水滴が私の手に落ちる前に、半分に……いや、それ以下になっているような違和感がある。私以外にもキリを集めている奴が居るのか? 他の歴史に存在した時間改変者がこの歴史に干渉している?)

 このトワは、この歴史……世界線の存在だ。しかし、他の世界線の歴史を見聞きして、本来の歴史(原作)を知っているだけではなく、彼女以外の時間改変者の事も知っている。

 

 シーラス、ドミグラ、そして他の歴史の彼女と彼女を従える暗黒魔界の帝王……。奴らがちょっかいをかけて来るなら厄介だ。場合によっては、タイムパトロールと共闘……一時休戦も考えなくてはならない。

(向こうが受け入れるかは別だけど。

 その前に、実験も必要ね)

 

 この歴史でキリを使用して戦士を強化した時の効率は良いのか悪いのか? それで得られるキリの量は多いのか少ないのか? 少ないとして、それは自分以外の誰かが発生しているキリを奪っているからなのか否か。確かめたい事は山ほどある。

 

「ミラ、今開かれている天下一武道会で試しにキリを使ってみる事にするわ。大きな改変にはならないからタイムパトロールに察知される可能性は低いけど、万が一と言う事もあるわ。頼むわね」

「分かった」

 

 

 

 

 

 

 

「うひゃ~っ、人がいっぺーだ! でも売れない婆しか飛んでねぇ。緑色の奴もいねぇぞ?」

「孫君、あんたやっぱり都会を誤解してるわ。あと、売れない婆じゃなくて占い婆よ」

「悟空さ、ナメック星人はヨンさんと神様以外はナメック星にしかいねぇべ」

 

 天下一武道会の本戦が始まる日、悟空やチチ、チャオズはブリーフ達のボックス観戦席にいた。悟空としては強い奴が世界中から集まる(とはいえ、本戦出場者の三分の二以上が顔見知りだが)この大会に出場したかったが、年齢と実力不足を理由に出場できなかったのだ。

 

 GCGに正式入隊する前の、研修を始めたばかりの隊員(戦闘力10)と試合をしてみて勝てなかったので、納得はしている。

「ブルマ、皆の試合何時?」

「組み合わせの抽選はこれからよ。チャオズ君、試合が気になるからって、飛んで行っちゃだめよ。それと孫君、この目薬差して」

 

「ん? なんだこりゃ? 飲みもんか?」

「飲むな! 目薬だって言ってるでしょ!」

 掌に収まる容器に入った液体をしげしげと見つめる悟空に、ブルマが慌ててツッコミを入れる。

 

「あたしの作ったブルーツ波遮断目薬よ。それを差せば、ゴーグルを付けなくても大丈夫。今はまだ月は見えないけど、試合が長引けは月が上がってくるから念のためにね」

「そうなんか? ブルマ、相変わらずおめぇ頭良いなぁ」

「ブルマはボクだけじゃなくて、天にも勉強を教えてくれるんだぞ。エッヘン!」

 何故かチャオズが偉そうにそう言うが、実際ブルマは頭が良かった。五歳で宇宙船を修理する機会はなくなったが、天才は伊達ではない。

 

「ふふん、まあターレス兄さんのついでにね」

 天下一武道会では、眼鏡やサングラスはともかく防具を身に付けて試合に出るのはルール違反。ゴーグルがどう判断されるかは微妙だが、ゲロが防弾ガラスよりも頑丈に作ってしまったので、防具と判断される可能性が高い。

 それに気が付いてゲロが開発する前に、ブルマが「目薬にしたら便利そう」と考えて発明したのである。

 

「一回差せば半日は効果が続くはずよ。でも、念のために昼ご飯を食べ終わった後にも差すのよ」

「分かった! ……そう言えば腹減ったな」

「あー、悟空君。お腹が空いたら遠慮なく頼んでいいからね」

 

 ボックス席は飲み物と軽食が無料でサービスされる。しかし、サンドイッチやサラダ、フルーツ等では悟空が満足しない事を知っているブリーフ博士は、スポンサーとしての権力を惜しみなく発揮し悟空用にラーメンや丼物、ローストチキンを用意させていた。

「この子ね、食べる量もターレス君そっくりだから」

 そう言われたコック達は大慌てで腹に溜まる料理を用意したのは言うまでもない。

 

『では、本戦のルールを改めて説明します!』

 悟空がさっそく食事を頼む頃には、実況の若い青年がルールの説明を行っていた。

『皆さまご存じの通り、今大会からGCコーポレーション提供のシールド発生装置で観客席が保護される関係で、前回までの大会とはルールの変更があります!

 武舞台の外の地面、および観客席を守るシールドに触れる。またはシールドの上限より高く飛んだ場合は、場外負けとなります』

 

 シールド発生器の導入と、舞空術で空を飛ぶ選手が出るようになった事によって変更されたルールである。

 

 後はダウンした後十カウントとられるか、ギブアップした場合も負け。武器の使用とダウンしている選手への攻撃、および急所攻撃を意図的に行った場合は失格とする。等従来通りのルールだった。

 

 ただ、選手が大きな怪我を負った場合はブリーフ博士が開発したメディカルポッドによる治療が行われる点も原作の天下一武道会とは異なる。

 

『では、抽選を行います!

 まずは前大会優勝者、フライパン山の巨人、今回はご夫婦ご師弟揃っての出場、牛魔王選手! 7番!』

 あの特徴的な兜は被っていないが、その威容を遺憾なく発揮して入場した牛魔王に惜しみない歓声が降り注ぐ。やはり、前回優勝者の人気は高いようだ。

 

『前々回大会優勝者、GCGの誇る守護神、チューボ選手! 3番!』

 

『武術の神、武天老師の一番弟子にして牛魔王選手の兄弟子、孫悟飯選手! 11番!』

 

『あの桃白白選手の弟弟子! 鶴仙流の若き戦士、弱冠十歳の天津飯選手! 1番!』

 

『今大会三人の女性選手の一人、ランファン選手! 12番! 一回戦第六試合は孫悟飯選手対ランファン選手に決定しました!』

 

『修行の旅から帰ってきた我らがヒーロー! 二度目の優勝を手に入れるのか、桃白白選手、10番!』

 やはり優勝経験者の中でも桃白白の知名度は群を抜いており、観客席から割れんばかりの歓声があがった。

 

『天下一武道最年少出場者にして、ゲロ会長のご子息、ターレス選手! 13番!』

 次にターレスが姿を現すと、歓声に戸惑うような声が混じった。さすがに八歳での出場は前例がなかったのだろう。

 

『あの、確認ですが大丈夫ですか?』

「もちろんですよ。僕も予選を勝ち上がってきましたから。でも、お手柔らかにお願いしますね」

 礼儀正しくそう答えるターレスに、観客は微笑ましいものを見る目を向け、ランファンはお坊ちゃんっぽいわねと呟き、ギランは鼻を鳴らし、アックマンはギョッとした。

 

「ターレスの兄ちゃん、変な物でも食ったんか?」

「んだ、まるで偽者みたいだべ」

「猫を被ってるだけよ、猫を」

 そして本来の彼を知っている悟空達からは、気味悪がられていた。

 

『牛魔王選手の奥様! サン選手! 14番! 一回戦第七試合はターレス選手対サン選手で決定しました!』

 サンが姿を現した瞬間、観客の(一部選手の)男性が大きな歓声を上げる。何故ならサンが着ているのは予選での拳法着ではなく、原作でチチが着ていたものと似たデザインのビキニアーマー姿だったからだ。

 

『あ、あのぅ、その恰好は……?』

「オラの一張羅だべ。せっかくの晴れ舞台だべ、田舎者だって笑われねぇように、おっとうに選んでもらっただよ。なんか問題あるだか?」

 

『だ、大胆ですね。あと、ルールで防具は禁止されているのですが』

「パンチーさんが、大胆さがねぇと都会じゃ馬鹿にされるって言ってたべ。それに、塗料でそれっぽく仕上げてあるだけだってブリーフ博士も言ってたから防具じゃねぇべ」

 観客席と一部の選手から「そうじゃ、そうじゃー!」、「あのギランって奴なんか裸じゃねーか! 文句言うなー!」と言う意見も多かったのと、審判も頷いたためルール上問題なしと実況の青年も納得した。

 

『では、気を取り直して……世界一強い秘書、ヨン・ゴ……な、なんと素顔です! ヨン・ゴー選手、覆面を外して素顔を露わにしています! しかし、その素顔は……!』

 4号はゲロ達との打ち合わせで決めた通り、予選では被っていた覆面を外して現れた。その多くの地球人とは異なる容姿に、実況の青年と多くの観客が驚きを露わにする。

 

『いきなりですが、医務室でお休みになりますか?』

「いえ、私は普段からこの顔色ですから大丈夫です。

 皆さん、改めてご挨拶を。私はヨン・ゴー。ドクターがブリーフ博士とかつて訪れた星で宇宙人から提供を受けた細胞から創り出した人造人間4号です」

 

『な、なんと、ヨン・ゴー選手は宇宙人で人造人間……いや、地球で産まれたのなら地球人なのでしょうか? ええっと、人造人間だそうですが、体にドリルなんかが仕込んであった場合、失格となりますが……?』

 観客が驚きの声をあげるなか、実況の青年が気にしたのは大会のルール上の問題だった。観客の何人かが、「えっ? 気にするのそこ?」とつぶやく。

 

「大丈夫です。私は人間ベースの人造人間ですから、ドリルもマシンガンもミサイルも仕込まれてはいません」

『なるほど! では、問題ないですね!』

 宇宙人は出場禁止なんてルールはないので、実況の青年は大会の進行を優先したらしい。観客にも、騒ぎ立てる者はいなかった。

 

「まあ、GCコーポレーションだし。カエルとか木を宇宙から持ち帰っていたのは発表してたしな」

「宇宙人は実在するって、三年ぐらい前にも発表してたし」

「詳しい事は後でニュースか何かを見ればいいだろ」

 と、それぞれ納得して関心を武道大会へと戻した。マスコミは急いで取材の段取りをGCコーポレーションの広報部に問い合わせようとしているだろうが、今騒ぎそうなのは彼らぐらいだ。

 

『2番! 一回戦第一試合は天津飯選手対ヨン・ゴー選手に決定しました!』

 

『優勝経験者の一人にして今や世界的大企業の会長! 世界で最も強い天才科学者、ドクターゲロ選手! 15番!』

 

『天下一武道会は初出場ながら、数々の武道大会に出場し優勝を攫ってきた怪獣、ギラン選手! 4番! 一回戦第二試合はチューボ選手対ギラン選手に決定しました!』

 

『桃白白選手の兄にして師匠! さらに武天老師の兄弟弟子にしてGCGの指導者、鶴仙人選手! 8番! 一回戦第四試合は牛魔王選手対鶴仙人選手に決定しました!』

 

『なんと武術の神様、まだ生きていた伝説が出場です! 予選バトルロイヤルでも無双の強さを見せつけた、武天老師こと亀仙人選手!』

「『まだ』は余計じゃい。ほれ、九番じゃ」

『9番! なんと、一回戦第五試合は亀仙人選手対桃白白選手に決定しました! これは事実上の決勝戦となってしまうのでしょうか!?』

 

『そして桃白白選手へのリベンジを誓いながらも機会に恵まれなかった優勝経験者、アックマン選手! 6番!』

 

『そのアックマン選手にリベンジを誓うチャパ王選手! 5番! なんと、一回戦第三試合はチャパ王選手対アックマン選手に決定しました!』

 

『今大会三人目の女性選手! GCコーポレーション社長令嬢にして超能力格闘少女、タイツ選手! いやー、今大会はちびっ子選手の活躍が目覚ましいですね。 16番! 一回戦第八試合はゲロ選手対タイツ選手に決定しました!』

 

 第一試合は、天津飯対4号。

 第二試合は、チューボ対ギラン。

 第三試合は、チャパ王対アックマン。

 第四試合は、牛魔王対鶴仙人

 

 第五試合は、亀仙人対桃白白

 第六試合は、孫悟飯対ランファン

 第七試合は、ターレス対サン

 第八試合は、ゲロ対タイツ

 

 と言う組み合わせに決まった。

 

 抽選が終わり、選手が控室に戻っていく。

「なあ、誰が勝つと思う? やっぱりチチのかーちゃんか?」

「ヨンさんと会長さんも強いべ」

「たしか、数値ではサンさんとヨン兄さんが高いけど、勝負は数値だけでは測れないから分からないわ」

「ブルマ、それゲロの受け売り」

 

 そして、悟空達は知らないが時間改変者の影もある。天下一武道会の行方は、まだまだ分からなかった。

 




・阿井 上夫様から、実況さんからインタビューを受けるターレスと、その様子に困惑する悟空達のイラストを頂きました!



【挿絵表示】


 ターレスの綺麗な笑顔と困惑する悟空とチチ、呆れるブルマが可愛いのでぜひご覧ください!



・ブルーツ波遮断目薬

 作者が子供の頃の夏の季節恒例、プールで目が充血しないよう差す目薬のCM……を思い出しながら書いたブルマの発明品。ゲロが開発したナノマシン技術や、バイオテクノロジーも応用して開発された高性能な逸品。ちょっと目を洗った程度なら問題ない。

 ゴーグルとは違い、大猿になってしまった場合も目薬を目適量差させる事で大猿化を解く事が出来る。……もちろん、尻尾を切断する方が楽だが。



・ギランとランファンの出場

 原作で二人が登場する六年前だが、天下一武道会の知名度と賞金が原作より上がったため二人の目に留まり、それぞれ出場する事にしたようだ。



・歴史改変者

 ストーリーを進めるうえでとても便利な存在。ただし、この作品の作者はヒーローズやゼノバース未プレイ。他の方の書いたSSと、コミックス版を参考にしているのでおかしいところがあるかもしれませんが、ご理解いただければ幸いです。

 シーラス:名前だけ登場。既に他の歴史で倒されているが、彼が起こした事件の影響でこの作品の歴史は原作とはかけ離れた流れを進むことになった。

 トワ&ミラ:メチカブラの配下ではない、暗黒魔界の復活を目論んでいるこの歴史のトワとミラ。暗黒魔界復活のためにこの歴史を利用しようとしている。
 そして、兄のダーブラと共にゲロに細胞を狙われている。

 ドミグラ:この歴史に存在するか現時点では不明

 メチカブラ:同じく現時点では不明



・ゲロ

 自分がバタフライエフェクトの発生源だと思ったら、実は彼もバタフライエフェクトの一部だった。
 前世の記憶では、知識としてトワやミラ、ドミグラ等の存在は知っている。自分のいる歴史に出現するか、現時点では不明なため、まだフリーザよりは警戒していない。が、人造人間研究の片手間に一応の準備は進めているらしい。



・キリ

 歴史改変で発生するエネルギー。この作品では、発生するエネルギー量はドラゴンボールの世界全体の命運が、「変わらない改変」<「変わる改変」と設定している。ただし、前者の場合少量ずつだが継続的にエネルギーが発生するとする。

 例えば、孫悟飯が悟空に踏み潰されずに生きている限り、少量のキリが発生し続ける。その量はゆっくり滴る一滴の水を集めるようなもの。
 それに対して、ピッコロ大魔王に孫悟空が殺されてしまうような大きな改変の場合は、大量のキリが一気に手に入る。



・メディカルポッド

 ブリーフ博士が開発した。手足や尻尾等の部位の欠損は治せないが、切断された部位を接合してからポッドに入れば修復可能。
 治療には八時間かかる。なお、必要な医療費は大手術を受けて長い間入院した場合の数倍。そのため、よほどの緊急事態以外は金持ち専用の医療機器と化している。

 治療時間の短縮と、コストパフォーマンスの向上が今後の課題。



・各人の戦闘力 注:原作と異なる場合があります。

 孫悟空(六歳):6 軽い修行は行っているが、まだかめはめ波で車も壊せない。舞空術も使えない。原作サタンと互角ぐらい。
 ブルマ(六歳):5 平均的な成人女性よりも強い。また、超能力も使えるため数字以上の強さを発揮可能。
 チチ(六歳):5 平均的な成人女性より強い。また、兜を装備している状態だと、その武装によって現時点の悟空を上回る。

 チャオズ(五歳):3 鶴仙流の基礎中の基礎を軽くした修行を行っているが、まだまだ。でも超能力は使えるので数字以上の強さを発揮する事が出来る。

 天下一武道会で戦う面々に関しては、その話のあとがきで記載予定。



 酒井悠人様、鼠の巣様、にぼし蔵様、路徳様、広畝様、変わり者様、竜人機様、あんころ(餅)様、Paradisaea様、勇(気無い)者様、gsころりん様、誤字報告ありがとうございます。早速修正しました。

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