ドクターゲロに転生したので妻を最強の人造人間にする 作:デンスケ(土気色堂)
(なに……? メディカルポッドの中?)
ギネが意識を取り戻したのは、ポッドの中から液体が抜かれ、シャワーを浴びている時だった。
(あれ? あたしって死んだんじゃなかったっけ? ここは地獄で、皆はいるけどバーダックが……あれ?)
最後にメディカルポッドに入ったのは何年も前だが、習慣はしっかり身についていた。彼女の戸惑いに構わず体はポッドから出ていた。
「……? 誰もいない? ロボットだけ?」
メディカルポッド(?)の外には、誰もいなかった。ロボットだけが何か作業を続けている。
ギネの困惑は大きくなるばかりだった。今見ているのが夢なのか、それとも自分が死んで地獄に落ちてからの日々が夢だったのか、どちらが現実なのか今の彼女には判断が付かない。
『ドウゾ、此方ニ着替エガ用意シテアリマス』
「え? ああ、ありがと」
だが、素っ裸で立ち尽くしているのは間抜けすぎるという判断はついた。彼女はロボットが指示した場所に並べてあるインナーと戦闘服を手に取った。
「これ、あたしが着ていたのと同じデザインだ。でも、作りは上質っぽいし、新品だね」
戦闘服を日常的な衣類として使用しているサイヤ人の一人であるギネは、用意された着替えを着ながら首を傾げた。非戦闘員である彼女が着ていた戦闘服は、当時最新だった戦闘服より性能が落ちる劣化品だった。だが、これはそうではない。
やっぱりこれが夢だから? それとも、何かの奇跡で助かったのか? だったら皆は、バーダックはどうなったのだろう?
「ねえ、ロボットさん。ここは何処で、誰があたしを治療してくれたのか教えてくれない?」
一人で考えても仕方ないので、ギネはダメ元のつもりでロボットに話しかけた。
『申シ訳アリマセン。説明ハ、オ着替エガ終ワリマシタラ、どくたーガ行イマス』
「ドクター、ね。できればそれくらい直ぐに説明して欲しかったんだけど」
ドクターと言うのを、医者や医療室の職員の事だと解釈したギネは、そう言いながら下がスカート状になっている戦闘服に頭を突っ込んだ。
医療従事者に裸を見られることは、戦闘員ならだいたいのサイヤ人は慣れている。メディカルポッドには全裸で入り、その間外から見れば丸見えなのだから当然だ。昔戦闘員だったギネも、例外ではない。
……だからと言って見せたい訳じゃないし、さらし物にされるようにジロジロと見られることはなかったが。
「まあ、いいや。それで着替えたけど、そのドクターは何処?」
戦闘服から頭を出し、無理やり引っ張るようにして腕を通したギネがそう言うと、壁の一部が小さな音を立てて開いた。
「お久しぶり、と言うべきかの」
そして、側頭部と後頭部には豊かな白髪が生えているが額から脳天にかけては一本も毛が残っていない、髭を蓄えた老人が現れた。
「久しぶりって……あっ! あんた、あの時の爺さん!? 地獄にいないと思ったら、生きてたんだね!」
「おお、覚えていてくれたとは嬉しい事じゃ。あの時は命を助けていただき、感謝しますぞ」
「え、まあ、爺さんが死にかけたのはバーダックのせいだし……って、尻尾がない? 爺さん、あんたサイヤ人じゃなかったの!?」
「うむ。それを含めたすべてを説明しよう。まずは自己紹介からじゃな。儂は地球人の科学者、ドクターゲロと言う」
地球。そう聞いてギネは反射的に口を開きかけたが、なんとかそれを抑え込んだ。目の前にいるのは、自分を恩人と呼ぶ老人であると同時に、「その星の住人を皆殺しにしろ」と命令された息子が送り込まれた星の人間でもある。
「あ、あたしはギネって言うんだ」
口を滑らせれば、自分だけではなくカカロットの身も危ない。
この儂、天才科学者であるドクターゲロは、ギネに惑星ベジータに居た理由を含めた諸々を打ち明け、説明した。
スカウターや戦闘服、そしてサイヤ人やフリーザの細胞やサンプルを手に入れるために惑星ベジータに変装して潜り込んだ事と、その際彼女の遺体を回収し、人造人間に改造して復活させたことは驚かれたが納得してくれた。
「死人を生き返らすなんてすごいね。どう見ても生身のままだし、フリーザ軍の科学者だってこんな事できないよ」
ちなみに、ギネにはサンと違いB細胞を遠慮なく移植した。ただ、彼女は異星人の細胞と相性が良い地球人ではなくサイヤ人だ。そのため、サンの時のように肉体の形状や色が大きく影響を受ける可能性は極めて低かった。
実際、彼女の外見は生前と何一つ変わっていない。
「そう言ってもらえると光栄じゃな。ちなみに、これが施した改造の内容や手術の過程、今後必要なケアについて解説した説明書じゃ」
「ありがとう。あ、宇宙共通語だね。……ふんふん、あたしは人造人間6号か。それで……ええ? 嘘、腕を斬られても生やせる!? 訓練すれば超能力が使えるようになるかもしれない!? 寿命は短くても数百年!? ふ、フリーザの細胞を移植した~!?
本当にフリーザの細胞をあたしに移植したの!?」
「うむ」
儂が正直に頷くと、ギネは寝ている間に虫が口の中に入り込んでいたのに気が付いたような顔つきで、「うえぇっ」と呻いた。
どうやら、仇の細胞を移植されたのが気に入らなかったらしい。儂では考え至らなかった事なので、今後セリパやトーマを改造した後の説明の参考にするとしよう。
「まあ、生き返らせてもらったんだから贅沢は言わないけどさ……」
「うーむ。参考までに聞くのじゃが、他のサイヤ人もフリーザの細胞を移植されたら不快に感じると思うかね?」
「そりゃあ、そうだろうね。でも、強くなれるなら構わないって思う奴も多そう……って、爺さん、他のサイヤ人も改造するの!?」
「うむ、遺体を回収してある。この二人なのじゃ」
そう言って、儂は手元の端末にセリパとトーマのデータを出して、彼女に見せた。
「セリパにトーマじゃないかっ! じゃあ、パンブーキンとトテッポもいるの?」
「その二人と思われる遺体も回収したが、残念ながら損傷が大きくてな。地球人式じゃが、弔わせてもらった」
「……そっか。じゃあ、地獄でパンブーキン達が受け取っていた差し入れは、爺さんが供えたものだったんだね」
「なに? 地獄に儂が供えた物が届いていたのか? それは驚きじゃ」
秘密研究所がある島に建てたパンブーキンとトテッポの墓に、儂は妻の月命日と盆と正月、ギネの改造を開始した日や手術が成功した日、そして彼女が目覚める前日などに供え物をして来た。
それは彼等を懐柔しようと意図してやった事ではなく、せっかく墓を建てたのに何もしないのは気が引けるし、彼らを見殺しにした事に罪悪感を覚えていたから、妻の分と合わせて供養していた。
しかし、しょせんはただの自己満足に過ぎない……と思っていた。それが地獄にも届いているとは、知らなかった。閻魔大王とは占い婆を間に挟んでやり取りしているが、あの世について詳しく聞き出した訳ではないので、儂が知らない事もあるという事だろう。
……意図せず胃袋を掴もうとしていたとは、我ながら驚きだ。
「ところで爺さん。改めて聞くけど、バーダックってサイヤ人を知らないかい? あたしの旦那で……あの時爺さんにぶつかった男なんだけど」
「ふむ……聞き覚えはある名だが、本人に出会ったことは無いな。おそらく、地球にはいないはずじゃ。この惑星はフリーザ軍の目も届いておらんし、他の星との交流も行っているのは儂のような極一部の者だけじゃからな」
地獄に居たギネがバーダックの事を尋ねるという事は、彼はどうやら死んでいなかったようだ。仮面のサイヤ人かタイムパトロールかは分からんが、何らかの形で生きているという事だろう。
しかし、困った事が一つある。ギネが次男のカカロットの事を口にしてくれないのだ。彼女がカカロットに関する事を言ってくれないと、カカロット=孫悟空であり、彼が彼女の息子である事を知らない事になっている儂としては、話題に出せなくて困るのだが。
おそらく、カカロットが飛ばし子としてこの地球を侵略するはずだったので、地球人である儂に打ち明ける事は出来ないと警戒しているのだろう。
お互いに命を救った恩人同士ではあるが、こうして話すのは初めてだ。信頼関係などないに等しいのだから、仕方がないのだが、やりにくい。
しかし、彼女もカカロットの事が気になるのを隠しきれてはいない。
「それで、地球ってどんな星なんだい?」
「フリーザ軍の手は及んでないそうだけど、平和なの?」
などと、地球に関して何か起こっていないか何度も質問を重ねる。その時の彼女の表情や尻尾の動きから、他に気になる事がある事が儂でも分かった。
猫に似ている気がする、と思うのは失礼じゃろうか?
「ところで、君の今後の身の振り方じゃが……儂の研究とあるプロジェクトへの協力を依頼したい。もちろん、地球での殺人、窃盗や略奪、破壊行為は厳禁じゃ」
「後半は分かったけど、研究とプロジェクトって何だい? 言っておくけど、いくら生き返らせてくれたからって、なんでも言う事を聞くって訳じゃないからね」
フリーザに裏切られて惑星ベジータが滅亡し、バーダックも行方不明な今、ギネには帰る場所がない。ラディッツは生きているが、下手に接触すればフリーザ軍に自分だけじゃなくラディッツまで消されかねないと思っているのだろう。
それは正しい判断だと、儂も思う。
フリーザがベジータ達サイヤ人の生き残りを生かしたまま部下として利用し続けたのには、生き残りに女性がいなかったから、と言う理由もあるのではないかと儂は考えているからだ。
ベジータ達の戦闘力が多少高くなっても、女性がいない以上純粋なサイヤ人は彼らの代で途絶える。超サイヤ人が生まれることはない(っと、フリーザなら考えそうだ)。数を増やして、またベジータ王のように自分に反乱を企てる事もない。
長命であるフリーザにとって、ベジータ達が死ぬまでの数十年はそう長い時間ではないはずだ。
それはともかく、話を進めよう。
「君に協力して欲しい研究は、最強の人造人間を作り出す事じゃ。儂の人生の目標は、亡き妻を最強の人造人間として復活させることにある」
ギネはこうしているだけで、儂の研究に大きく寄与している。地球の神様から聞いていたが、死者を人造人間にして復活させた際、本人の魂があの世から帰ってきて宿る事を証明できたからだ。
死者の復活も、あの世にいる本人の魂を呼び戻すことも、以前から儂なら可能だという自信はあったが、実証できた成果が小さくなるわけではない。
「もちろん、君に直接研究を手伝わせたい訳ではない。儂が依頼する実験に協力して、データを提供してもらうのが主な仕事となる。後は、地球で開発したその戦闘服やトレーニング装置等を試してもらう事じゃ」
「うーん、それなら構わないよ。……逆らったら体の中の爆弾が爆発するとか、ボタン一つで体が動かなくなるとか、そんな事は無いんだよね?」
「説明書にある通り、自爆装置や緊急停止装置の類は仕掛けておらんよ」
実は仕掛けるべきか、やや悩んだが……この部屋の外で待機している4号なら今の彼女が暴れだしても制圧できると踏んだ。
それに、地球に自分の息子がいる事を知っているギネなら、無差別に暴れるようなことはしないだろう。
「それで、プロジェクトってのは何なんだい?」
「打倒、宇宙の悪の帝王フリーザ」
「へぇ、打倒フリーザかぁ……フリーザ!? フリーザってあのフリーザ!?」
「他にフリーザが居るのか儂は知らんが、フリーザ軍のトップで君達サイヤ人を滅ぼしたフリーザの事を指しているのなら、そのフリーザじゃよ」
「そ、そんなの勝てる訳ないじゃないか! あたしなんかを改造した程度でどうにかなるなら、とっくにバーダックやベジータ王がぶちのめしてるはずさ!
この星にはフリーザ軍の手は伸びてないんだろう? だったらこっちから手を出す事はないよ!」
プロジェクトが、「打倒、フリーザ」である事を聞いて、ギネは思わず椅子から腰を浮かして身を乗り出した。夫のバーダックはフリーザに抵抗したが、それは逃げるという選択肢がない状況だったからで、関わらないで済むなら関わらない方が良いというのが彼女の考えなのだろう。
「それはそうかもしれんが、この先も地球にフリーザ軍の手が伸びないとは限らんじゃろう?」
しかし、儂がそう聞き返すとギネはハッとした様子で勢いを失い、椅子に座りなおした。
「それは……そうだけど」
他ならぬ自分達サイヤ人が地球を見つけ、カカロットを飛ばす星に選んだことを思い出したのだろう。サイヤ人が見つけられたのに、フリーザ軍が見つけられないとは思えない。
それに、フリーザがドラゴンボールの事を知らないままでも、地球にフリーザ軍の手がいずれ伸びてくるのは確実だろうと儂は考えている。
その根拠は、原作では地球から小型宇宙船のアタックボールで十何日かで行ける距離に、フリーザ軍の拠点の一つである惑星フリーザNo.79があるからだ。
原作のサイヤ人襲来編で、地球から遠く離れた星を侵略中だったためにベジータとナッパが地球に来るまで、約一年かかった。しかし、地球で満身創痍になったベジータがフリーザ軍の拠点で治療を受けたのは約一年後ではなく、十数日後だ。
その拠点でキュイからフリーザがナメック星に向かった事を知り、自身も慌ててナメック星に行く事になる。
その拠点が惑星フリーザNo.79。その場所を、儂はまだ発見できていない。現時点でまだ拠点が開発されていないのか、ただ宇宙が広大だから見つからないのかも、分からん。
しかし、確実なのはアタックボールで片道十数日の距離にフリーザ軍の拠点が存在するなら、地球もいずれ発見されるだろうという事だ。
そして、発見されたらその後は調査の後侵略と言う事になるだろう。事を構える時期は原作より遅くなるかもしれないが。
……その頃の地球がどうなっているか、儂にも分からんので確実に侵略に来るとは限らないのだが。もしかしたら、フリーザ軍の調査の結果、地球の評価が「高い科学技術があり、我が軍の兵士を上回る高い戦闘力の持ち主が何人も確認された星」と言う事になり、侵略は難しいと判断されるかもしれん。
その場合、伸びて来るのが侵略者の魔の手ではなく、「星、買いませんか?」と言うセールスマンの手の可能性もある。
(可能性はあるが、それに賭けるよりは、フリーザを倒せるようになったら倒して遺体を回収し、これでもかとナメック星人の細胞を移植してメカフリーザ完全……いや、完善体にした方がいい!)
色々述べたが、結局のところ儂の考えはこれだ。今の時点でフリーザは恐ろしい敵だが、時代が進めばタイムスリップしてきた未来トランクスに瞬殺される程度に成り下がる。
その間に倒して手元に確保しておかなければ不味いのだ。
トワのような歴史改変者の存在もあるから油断は出来んが、恐ろしいから関わらないで放置するわけにもいかない。
何せ、フリーザは四か月ほどトレーニングをしただけでゴールデンフリーザになってしまう程、伸び代が異常に大きく成長速度も速い。
放置した結果、フリーザが何かの拍子に自分を上回る力を持つ存在が居る事を知れば、地道なトレーニングをしてしまうかもしれない。……ブロリーとか、ボージャック一味とか、ヒルデガーンとか、魔人ブウとか、破壊神ビルスとか。候補はいくらでもいる。
僅かな可能性かもしれないが、トワ達がフリーザを利用しないとは考えにくいので、楽観はできないだろう。
しかし、そうした事は転生者である儂だから言える事だ。だが、そうではないギネを納得させる材料も既に揃っている。
「そう自分を卑下するものではない。どれ、今の君の戦闘力を計ってみるとしよう」
そう言って、儂は取り出したGCコーポレーション製スカウターで計測を始める。
「あのね、爺さん、あたしの戦闘力なんてせいぜい――」
「ふむ、戦闘力8000じゃな」
「そうそう、たった8000……は、8000!?」
ギネを改造した結果、戦闘力は8千まで上昇した。完成したてのサンより高いのは、やはりベースがサイヤ人だからだろう。
8000という数字はフリーザと比べるととるに足らないように思えるが、1万2千のベジータ王に率いられていたサイヤ人にとってはかなり大きな数字のはずだ。
「そんな、最後に計った時は1300だったのに……こんなの何かの間違いだ、スカウターの故障だよ、きっと!」
まさか、彼女から「スカウターの故障だ」と言われるとは思わなかった。
「いやいや、スカウターは正常に機能しておるよ。君の前に改造した人造人間5号の完成直後の戦闘力は1000だが、一年で7000にまで戦闘力が上がっている。君も、同様に伸び代があるはずだ。
君達がトレーニングを重ね、儂が技術を高めより強い人造人間を作り出していけば、フリーザに勝つことも夢ではない。そうは思わんかね?」
そう尋ねると、ギネは真剣な顔つきで考え込み始めた。……フリーザが最終形態になってフルパワーを出すと1億2千万なので、今の段階では夢物語だ。
しかし、彼女はフリーザが変身タイプの宇宙人である事を知らないはず。原作ベジータもザーボンに教えられて初めて知ったほどじゃからな。
そのため、彼女の中のフリーザの戦闘力は第一形態の53万のはずなので、勝つことも夢ではないと思ってくれるだろう。実際、今の段階でもネイルが界王拳を習得し、第一形態の内に不意を打つ事ができれば勝てるはずだ。
ギネが後からフリーザの真の力を知っても、重要なのは彼女にひとまず味方になってもらう事だ。後々カカロットの所在などを知れば、フリーザを恐れるあまり不穏な事をする展開にはならないだろう。
「分かったよ、爺さん。フリーザを倒すのにあたしも協力する」
儂の思惑通り、ギネは頷いてくれた。
「でも、条件がある。実は、この地球にあたしの息子のカカロットが飛ばされているはずなんだ。カカロットを探して保護してほしい」
そして、ここでやっとカカロットの事を打ち明けてくれた。まあ、まだカカロット=悟空ではないが。
「飛ばされている……なら、君のご子息には心当たりがある」
「なんだって!?」
「実は、サイヤ人の生き残りが地球には二人いる。その内、一人は君達がアタックボールと呼ぶ宇宙船で何年か前に地球へ飛ばした少年だろう。当時は赤ん坊だったそうだが」
「それだっ、きっとそれがカカロットだよ! 無事なのかい!?」
「無事ではあるが……残念ながら頭を打って記憶を失っているようでな。儂らが見つけて会いに行くまで、自分の事を尻尾が生えているだけの地球人だと思い込んでいたくらいじゃからな」
それを聞いたギネはショックを受けるだろうと儂は思っていたが、彼女はそんな様子は見られなかった。
「そっか……無事なんだね。良かった……もしかしたら殺されて、罪を犯す前だから地獄にも落ちず生まれ変わったのかと……二度と会えないのかと思ってたんだ。無事なら、それだけで十分だよ」
そう言って安心しきった顔で微笑んだ。
「それで、いつ会いに行けるの!?」
母親としてはそう言うのは当然だが、表情がコロコロと変わる快活さには慣れていないと驚かされる。
「いや、その前に最終検査をしたいのじゃが、良いかね? 死人を改造して人造人間にして生き返らせたのは、実は君が初めてなので、慎重を期したい」
「そうだね。カカロットに会った途端爆発したり、体が溶けたり崩れたりしたら死んでも死にきれないからね。分かった、それでどうするんだい?」
「うむ、ちょっと運動をしてもらう予定じゃ」
そうして地上の運動場で、念のために上下と四方をシールドで囲んでから、儂や4号と軽く組手をしてもらった。
「凄いっ、力がどんどん湧いてくる! 全く疲れないっ!」
「あなたには、永久エネルギー炉が搭載されていますから。ただ、全く疲れていないわけではありません、疲れてもすぐ回復するだけです」
「違いがよく分からないけど、タフになったって事だね!?」
ギネはすぐに改造によって上昇した戦闘力に適応した。最初は跳ね上がった自分の力に戸惑った様子だったが、ほんの数分で4号とそれなりの勝負が出来るようになっている。
改造前は武道の経験が全くなかったサンとは違い、ギネは昔だが戦闘員として戦っていた経験があるからだろう。
とはいえ、ギネの動きは素の力と速さ、そしてセンスに頼ったもので、武術的な巧みさはあまりない。気弾や気功波の使い方も大雑把だ。これはサイヤ人の中に、文化としての武術がなく、技術が継承されていないからだと考えられる。
戦闘センスも含めて個々の力が強いサイヤ人は、流派を起こして技を広め継承する必要性を感じなかったのだろう。
まあ、それはサイヤ人だけではなくフリーザ軍の大半にも言える事だと思うが。
「二人とも、そのぐらいにしておこう」
ちなみに、儂はギネにあっさり捻られてリタイアした。天下一武道会が終わった後もトレーニングは欠かしていないが、そんな劇的に強くなってはいないし、太陽拳や残像拳を使わなかったため、あっさり力負けしてしまったのだ。
「ふう。それにしてもあんた強いね。ナメック星人の人造人間なの?」
「ええ。正確には、ナメック星人とヤードラット星人の細胞をドクターが融合させて創った人造人間です」
「そうなんだ。5号さんもそうなの?」
「いいえ、5号は地球人をベースにしています。女性なので、あなたと話が合うかもしれませんよ」
組手をしたからか、4号とギネはすっかり打ち解けたようだ。
「それで、結果はどうかな? どこか悪いところはある?」
「いや、オールクリアじゃ。では、向こうに連絡をしたら早速行くとしよう」
そして儂は孫悟飯にテレパシーで連絡を取ろうとしたが、その前に瞬間移動でタイツとブルマ、彼女達について来たターレスが現れた。
「お爺ちゃん、新しい人造人間の人が目を覚ましたって聞いたけど、そのひ――」
「カカロット!」
「うお!?」
そして、ターレスの姿を見たギネが彼をカカロットだと見間違えて素早く駆け寄り抱き上げていた。
「カカロット、無事だったんだね! こんなに大きくなって!」
「お、おいっ、あんた誰だ!? サイヤ人か!?」
「いいんだよ、あたしの事を覚えてなくても。ただ、あたしはあんたが元気でいてくれればそれで……!」
いきなり抱き上げられて混乱し、なんとか脱出しようともがくターレスだったが、ギネは彼が苦しくないように、しかし脱出できない絶妙な力加減で抱きしめている。この分なら、細かい力加減も問題なさそうだ。
「お爺ちゃん、この人ってターレスのお母さんか何かだったの?」
「いや、ターレスではなくカカロット……おそらく孫悟空の母親らしい」
「ああ、悟空君の」
「孫君のお母さんなら、間違えても無理ないわね」
「そうね、何年も会ってなかったんだし」
そうギネが落ち着くのを儂等は待つつもりだったが、彼女はすぐに違和感を覚えたようだ。
「あれ? 髪形がちょっと違う? もしかして、カカロットじゃない?」
「だから、俺はターレスだ!」
驚いたことに、ターレスと悟空の僅かな髪形の違いからギネは彼が息子ではないと気が付いた。二人を並べなければ分からない程、小さな違いだというのに。
原作でベジータが、純粋なサイヤ人は髪形が変わらない(ナッパのように禿げる事はあるそうだが)と言っていたし、劇場版ではターレスが下級戦士の顔のパターンは少ないというような事を言っていた。そのため、サイヤ人同士では髪形も個人を識別する材料にされているのだろう。
「あー、すまんな。この少年はターレス、地球にいる君を除いたサイヤ人の生き残りの内もう一人じゃ。惑星ベジータが崩壊する直前に、たまたま儂のすぐ近くにいたので、掴んで脱出しての。
最終検査が終わったら、双方に話して紹介するつもりだったのじゃが……二人とも、驚かせてしまって済まなかった」
孫悟飯からゲロ達が客を連れてやってくると聞いて、悟空はどんな強い奴が来るのだろうかとワクワクして待っていた。
「……あんたが、孫悟空、かい?」
瞬間移動でゲロ達が連れてきた客は、女だった。多分、女だと思う。男女の違いを微妙に判別できない悟空だったが、パンチー夫人やサンを参考にある程度分かるようになってきた。
「おう、オラ、孫悟空だ! おめぇもサイヤ人なんか?」
腰から伸びた尻尾を見て、ターレス以外にもサイヤ人がいたのかと思う悟空。
「ああ、そうだよ。ちょっと、顔をよく見せてくれるかい?」
客は悟空の顔に触れると、そのまま腕を回してギュッと抱きしめてきた。
「どうしたんだ、おめぇ? 大丈夫か?」
「あたしはギネ。あんたの母親だよ、カカロット」
「母親って、母ちゃんの事か? それにオラ、孫悟空だ」
突然母親だと名乗り、自分を他の名前で呼ぶギネに戸惑う悟空だったが、ターレスのように彼女の腕の中から脱出しようとはしなかった。
それはギネの声に、聞き覚えがあったからだ。何処で聞いたのか分からなかったが何となく……懐かしい気がした。
・死亡している間の記憶
復活した場合は、死んでいる間の記憶を保持した状態で生き返るとする。
ただ、それにしては原作コミックやアニメで死亡した人々が閻魔大王や鬼の事を覚えていないのが不自然だが、死後肉体の無い魂だけの状態になった場合は死んでいる間の事を記憶できないのではないかと考えらえる。
つまり、死後肉体を持てなかった者は、生き返っても死んでいる間の事を覚えていない。肉体を持っている者は、死んでいる間の事も覚えているとこの作品では解釈します。
おそらく、死んでいる間の肉体の脳に記録された記憶が、生き返った時に生命ある肉体の脳にダウンロードされるとか、そんな感じではないかなと。
まあ、細かい事は気にしない方向で。
・ギネ
この作品では、彼女の生前の戦闘力は1300とします。
同じ非戦闘員のビーツと比べるとだいぶ高いですが、ギネは彼とは違い元々はバーダックとチームを組んで戦闘員をしていたそうなので、これぐらいはあるのではないかと考えました。
・サイヤ人の個人識別
生まれた時から変わらない髪形と、似た顔が多いという特徴から、ターレスと悟空のような微妙な髪形の違いで個人を識別していたのではないかと考えました。
酒井悠人様、にぼし蔵様、kubiwatuki様、アヤカシ様、雪凪ハーメルン様、路徳様、メイ様、是夢様、変わり者様、カド=フックベルグ様、あんころ(餅)様、ヒロシの腹様、竜人機様、kitida様、117様、so-tak様、gsころりん様、誤字報告ありがとうございます。早速修正しました。