ドクターゲロに転生したので妻を最強の人造人間にする   作:デンスケ(土気色堂)

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29話 天才科学者に振り回される副社長の半生

 春の終わりの頃、私はある式典に出席するためにこの村を訪れていた。

 アジッサの木が街路樹として植えられている緑豊かで、発展した街並み。郊外には人々の職場である、食料工場が稼働し、村の中心部にはいくつもの商業施設があり、学校や図書館があり、小さいが飛行機やヘリの発着場もある。

 

 ここまで揃っていれば村ではなく街と言うべきかもしれないが、ここはまだ行政の区分上村なのだ。しかも、十年前は誰もこの村の存在を気にしていなかった。

 街から離れた場所にある、人々がその日生きるだけで精いっぱいの貧しい砂漠の村。それを我が社が緑化し、工場を誘致し、公共施設を建設して寄付し、発展させたのがここだ。

 

 そして、私がいるのはその食料工場の食堂の一角である。今は食事時ではないので、私と護衛の警備員の二人しかいない。

 私は天才科学者ドクターゲロ会長の会社であるGCコーポレーションが、ゲロ・コーポレーションだった頃から副社長を務めている。

 

「思えば、遠くに来たものだ」

「ええ、西の都からここはだいぶ離れていますからね」

「いや、距離の事ではないよ、ナム君。ただの感傷さ」

 副社長になって二十年以上……二十代半ばだった私も、壮年を通り過ぎて中年に近くなった。ふと、昔を思い出してもおかしくないだろう。

 

「は、はあ?」

 緊張している様子のナム青年には、そう思い至らないらしい。無理もない、彼は私が副社長になった頃よりもさらに若いのだから。

 彼はこの村出身で、去年からGCGの正規隊員として活躍している細身の好青年、ナム君だ。私はそのナム君にテーブルの向かいの席を勧めた。

 

「いえ、業務中ですから」

「なら、これも業務の一環だと思って試してくれ。我が社の製品をね。それに、このままではターレス君の分が無駄になる」

 そう言いながら、私はテーブルに並んだ料理を手で指す。瑞々しい野菜のサラダに、エビのスープ、香ばしく焼き上げられたパンに、白身魚のソテー、分厚いステーキ、そして果物を添えたプリン。ドリンクはワイン……ではなくミネラルウォーターだ。

 

 どれもたいした事のない料理のフルコースが二人前。しかし、これらはこの食料工場で生産、もしくは培養された食材を調理したものだ。フルーツや根菜など一部の野菜や調味料は例外だが。

「分かりました」

「では、いただきます」

 そして、「口に合わない」とエスケープしたターレス君の席に座ったナム君と私は、食事を取ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 私は都会から離れた、貧しい村の中でも貧しい家庭に生まれた。今なら昔のナム君の村よりは恵まれていたと言えるが、当時の私はその貧乏が嫌で仕方がなかった。

 多分、両親がことあるごとに「貧乏が悪い」、「貧乏だから仕方がない」と言っていたからだろう。

 

 私は貧乏から抜け出すために家の手伝いをしながら通信教育で勉学を学び、十五で村を出て都会でバイトを掛け持ちしながら金を貯め、有名大学に入学。経営を学び、将来を約束された都会育ちのエリート達とコネクションを作るために奔走した。

 

 この間、色々な事があったが……それらは誰の身にも起こりえる出来事なので省略する。

 

 そして大学を卒業した私は、立派な野心家になっていた。コネの出来たエリート達の前では友人のように振る舞いながら、腹の中では彼らをビジネスと言うゲームに使う駒やカードとしか見ていなかった。

 愛も友情も、この世のなにもかも金で買える。施しは偽善、ボランティアや社会貢献や自然保護はイメージ戦略、結婚はビジネス、そして目的は世界一の大金持ちになる事。

 

 そのためなら人を騙す事も、陥れる事も……そして殺す事も躊躇わなかったかもしれない。

 実に嫌な若者だった。外面は良いくせに余裕がなく、上昇志向と劣等感が強すぎて、満足するという事を知らず、飢えて欲しがるばかりで人生を楽しもうともしない。

 

 そんな若い頃の私がいくつか小さな成功を納め、いよいよ大きなビジネスに打って出ようとしていた矢先の事だった。

「君が噂の新進気鋭の青年実業家かね? 儂は天才科学者のドクターゲロと言うものだ」

 天才科学者と出会ったのは。

 

「ドクターゲロ……あなたが」

 私は既にゲロの顔と名前を知っていた。当時の彼は今とは比べ物にならないくらいマイナーな存在だったが、自他ともに認める天才である事に変わりはなかったからだ。

 

 とはいえ、イメージは今とは真逆。学会のはぐれ者、歴史に残る異端者、天才マッドサイエンティスト。そんな評判だ。私がゲロの事を知っていたのも、彼が兵器開発に関わっていたからだ。

「ほう、儂の名を知っていてくれたとは光栄だ」

「それで、ご用件は?」

「うむ、さっそくだがこれから会社を興そうと思うのだが、その会社の副社長と経営を君に任せたい」

 

 ゲロの提案を、当時の私は冷静に聞いていた。唐突な話だったが、内容はそれほど珍しくはないと思ったからだ。要は、発明品を売りたいが営業や経営は素人なので、専門家に任せたい。そんな話だと思ったからだ。

(私を副社長に、と言う事は主導権と権利は自分が持ち続けたいと。その発明品とやらがよほどのものでなければ断るべきだな。前々から計画していたビジネスもある)

 ビジネスを理解していない科学者の下で、こき使われるのはまっぴらだ。それに、既に企んでいた陰謀もある。当時の私はそう考えていたが、ゲロの発明品にも興味があったので話を聞き続ける事にした。

 

「是非、私を副社長にしてください。一緒に世界を変えましょう!」

 三十分後、若い私は自分の企みを放り捨てて、ゲロの手を取った。何故なら、彼が私に見せた発明品は私が想像していた余程の物を、遥かに超える凄まじい物だったからだ。

 

 お手伝いロボット。今でこそよほどの田舎でなければ珍しくないものだが、当時の普通のロボットは決まった動作を繰り返す産業用ロボットが主流だった。

 そんな時代に、自己判断、自己学習が可能で人間のようにスムーズに行動出来るロボットは革命的だった。

 

 初期の家事手伝いロボットは作れる料理の種類こそ少ないが、それにさえ目を瞑れば家一軒の家事を全て丸投げできる理想的な商品だ。しかも、値段は大衆向けの乗用車と同じくらい。

 これで売れない訳がない。

 

 もちろん、当時の私はゲロを利用して最後は裏切り、会社を乗っ取るつもりだった。それぐらい私は野心家で上昇志向が強く……つまり、嫌な奴だった。

 しかし、ゲロはすぐに話を進めなかった。

 

「いやいや、その返事はまだ早い。話を受けてもらう前に、儂の真の目標やそのための手段を明かしておこう」

 そして彼が明かしたのは亡き妻を最強の人造人間として復活させるための人造人間研究、そのために宇宙人との接触と、宇宙に君臨する悪の帝王等様々な脅威から地球を守るための戦いに勝たなければならない事。

 

「ナルホド」

 当時の私は思った。「こいつ、クレイジーだ」と。

 彼の言った事は全て本当だったわけだが……今でもあの時の感想は正しかったと思っている。

 

 それはともかく、立ち上げたゲロ・コーポレーションはホイポイカプセルを発明したブリーフ博士のカプセルコーポレーションに次ぐ大企業へと、短期間で上り詰めた。

 画期的な商品である家事手伝いロボットを、私が今まで培ったコネクションをフル活用して売りさばいた。

 

 私は幼い頃から夢見ていた富裕層の仲間入りをしたのだ。……そう言うのも、ゲロが自分より私の給料を上に設定したからだ。

 

「儂は研究開発、君はそれ以外の会社の仕事を全てしておる。実質的な社長が誰かは考えるまでもないのだから、給料もそうであるべきだろう。

 もちろん、研究費はもらうが」

 と言う理由だ。ゲロが受け取る報酬も莫大なものだが、それでも私の収入は彼の倍以上なのだから呆れる。当時は、私を油断させて裏切る算段でもあるのかと勘繰ったものだ。

 

 とはいえ、不満がないわけではなかった。ゲロは言っていたほど会社の経営を丸投げしていた訳ではなく、口を挟んできたからだ。

 

 お茶汲みやコピー取り、電話番等の誰でも出来るような仕事をお手伝いロボットにさせる事で人件費をコストカットするのは構わない。しかし、その分社員の福利厚生に力を入れ、定時退社を奨励するのは理解できなかった。

 

 特に結婚した社員にお祝いとして手当を支給するのは、意味不明だ。自分が妻に先立たれているから、社員には家庭を大事にして欲しいからだと理由を説明されたが、当時の私には理解出来なかった。

 他にも、自然環境を荒らさないよう気を使い、用地買収や下請け企業との取引でも強引な手段は避け、地元の孤児院や病院に寄付を行い、頼んでもいないのに私の故郷の村に工場を建てた。

 

 他にもカプセルコーポレーションの社長であるブリーフ博士とその妻と交流を続けており……それは結構な事だが、お互いの発明品や研究内容に関する情報を気軽に共有するのはどうなのかと、正気を疑った。企業秘密という概念が、あの天才科学者達の脳にはインプットされていないのかと何度頭を抱えたか分からない。

 

 一時期、私はゲロがパンチー夫人の仕掛けたハニートラップに嵌って骨抜きにされているのかと誤解したが……ただゲロとブリーフ博士の仲がめちゃくちゃ良いだけだったと知った時は愕然となった。

 

 とはいえ、私が覚えた不満はそれほど大きくはなかった。ゲロは私に何か頼むことはあっても命じる事はほぼなく、普段の態度も上司と言うより同僚のようで威張る事はなかったからだ。

 

 自分が天才である事に絶対的な自信を持っているが、それ以外では傲慢という訳ではないし、他者の才能を否定しない。嫌な天才にありがちな、「自分以外は馬鹿ばかりだ」と思っている様子は全くない。また、どうしても譲れない事柄以外は柔軟に対応する。ゲロがそうした性格だと気が付くのは、この数年後だ。

 

 そして何より、私は裕福になっていた。まだ総資産額ではギョーサン・マネーやバッタ男爵等、まだまだ上がいると知っている。しかし、私の周りにいる自分より金持ちな人物はブリーフ博士ぐらいで、私が意識する事はなかった。

 

 自社ビルの最上階を住居にし、専属の美人秘書を雇い、靴からスーツまで一流の職人の手によるオーダーメイドで揃え、高級車や高級飛行機を乗り回し、美味い酒を飲み美味い物を食べ、気に入った女と遊ぶ。こんな楽しい生活はない。

 

 クラシック音楽を聴きながらブランデーを嗜めば、ちょっとしたストレスなどすぐ消えてしまう。

 それに総資産額が一千億ゼニーと一千十億ゼニーでは、数字では大きな違いでもその生活に大きな差は出ないと、裕福になってから知ったのだ。

 

 そのお陰で、私は短気を起こさずに会社を乗っ取る機会を伺い続ける事が出来た。

 ……ゲロが開発した人造人間2号と3号が、想像以上に強力だったので、強引な手段は使えない事が前々から分かっていたというのもあるが。

 

 そしてゲロは宇宙船を建造し始めた。なんでも昔地球に飛来した宇宙人の宇宙船を参考にしたそうで、その建造費は研究開発が短縮された事でだいぶ抑えられていた。

 それで、何年かブリーフ夫妻と共にナメック星と言う星に行くための計画書を見せられた時には、ついに機会がやって来たと思ったものだ。彼が留守にしている間に、ゲロ・コーポレーションを乗っ取ってやろうと。

 

 そして、ゲロは私に対して特に何もせず、宇宙へ旅立った。私は彼の宇宙船が空の彼方へ消えるまで見送り、それから動き出した。

 そして、会社を乗っ取るのは不可能だと思い知った。

 

 何故なら、ゲロが残していったデータを私が抱き込んだ科学者や技術者に見せた結果帰ってきた返事は、全て「同じものを作るのは無理」だったからだ。

「な、何故だ!? 現在販売している家事手伝いロボットの全データに加えて、ゲロ社長がいない間に行うアップデートや発売する新商品のデータまで見せたはずだ。

 ……そうか! 重要な部分がブラックボックス化されているのか!?」

 

 ゲロはブリーフ博士に対してだけではなく、私にも重要なデータを見せていた。それどころか、彼は宇宙へ旅立つ前に、彼が留守の間に会社で発売する新商品や家事手伝いロボットのアップデートまで整えていた。

 プログラムは新商品やロボットにダウンロードするだけの状態になっており、部品も一部の重要パーツだけだが制作するための機械を作ってある。

 

 私はそれをそっくりそのまま科学者や技術者に見せた。会社を乗っ取るために、ゲロの代わりをする人間が必要だからだ。

 しかし、彼らは揃って「自分にはゲロと同じ事は出来ない」と言う。

 

「いや、見たところブラックボックスや暗号化されている訳じゃない……と思う。それに、一部が偽のデータに置き換えられている様子もない……と思う」

 集めた科学者の中で、私が最も期待していた男が項垂れながらそう言いだした。

 

「随分歯切れの悪い言い方だな」

「それは仕方ないだろう、分からないのだから」

「……分からない? 何度も言ったが、データも仕様書も何もかもここにあるんだぞ?」

「それでも分からないのだよ、我々には」

 

 それを聞いた当時の私は、よほど不思議そうな顔をしていたのだろう。科学者達は出来るだけ分かり易く、私に説明してくれた。

 

「ここには確かに、全てが書かれているのだと思う。一から十まで、懇切丁寧に説明もされている。だけど、それでも私達では理解出来ない部分の方が圧倒的に多い。

 このプログラムが何の意味があるのか、このパーツはどんな働きをするのか、この設計でどうしてこんな動きが出来るのか、分からない事ばかりだ」

 

「副社長、私達を算数しかできない子供だと思ってください。それで、ここに書いてあるのは大学教授でも解くのが難しい高度な数学の数式です。……分かるはずがない」

 それまで私は、ゲロの天才さを舐めていた。彼がどれほど天才でも、彼が開発したデータを見れば他の科学者も彼と同じ物を作れると思い込んでいたのだ。

 

 だが、それは間違いだった。彼が開発したデータを見ても、凡庸な科学者では大部分が理解出来なかったのだ。

 後から知った事だが、世間ではゲロに並ぶ天才と評されるブリーフ博士もゲロの得意分野では理解が及ばない部分があるそうだ。

 

「そうか……ライバル会社が我が社のお手伝いロボットの類似商品を売り出さなかったのは、そう言う理由か」

 ヒット商品が出ればその類似品が販売され、いつか品質でも同じ物が売り出されるのが世の常だ。しかし、我が社の家事手伝いロボットは、どこの会社も真似は出来なかった。

 類似品とは名ばかりの粗悪品しか売り出せなかったのだ。

 

 その理由を私は情報管理がしっかりしているからだと思い込んで深く考えなかったが……ライバル企業でも、今私と科学者が行ったようなやり取りがあったのだろう。

 

「会社の乗っ取りは諦めた方が良いと思いますよ」

「……仕方ない」

 ゲロ・コーポレーションを乗っ取る事が出来ても、世界的企業としての会社の価値を下げては意味がない。それに排除したゲロがカプセルコーポレーションに入社でもしたら、この会社は早々に終わる。

 

 だから私はゲロを排除するのではなく、私が社長になり彼を跪かせることに方針を変えようとした。しかし、すぐに意味が無い事に気が付いた。

 何故なら考え始めてすぐ、「それは、今の環境から役職を交換するだけで何も変わらないのでは?」と気が付いてしまったからだ。

 

 給料は私の方が上だし、経営の主導権も多少の口出しはされるが私にある。そして私には経営は出来ても研究開発はできない。

「もう、大人しく会社経営に集中するか」

 野心家だった私が普通のビジネスマンになった瞬間だ。

 

 だが、ゲロの天才ぶりと奇行ぶりが激しくなるのはここからだった。

 三年と少々で宇宙から帰ってきたゲロは、超人になっていた。ナメックカエルという蛙を持って帰り、宇宙には地球以外にも生物が存在する事を証明し、地球では宇宙ブームが起きたが、私はそれどころではなかった。

 

「君には明かしておこう。儂は宇宙人と接触し、超能力を習得し、気の感知と制御をある程度身に付けた」

「……社長、休暇を取っては如何でしょうか?」

「では、実演して見せよう」

 その後、サイコキネシスやテレポーテーションを見せられた。空中を浮遊し、ビームまで放って見せた。個人的には、その後に瓦を約十五枚、あっさりと割って見せられたのが最も衝撃だった。

 

 ゲロが以前から格闘技を嗜んでいる事は知っていたが、健康維持のためのスポーツだろうとしか思っていなかった私には、刺激が強すぎた。

 

「それで、君が声をかけた科学者や技術者の中に、儂の研究を理解出来た者はいたかね?」

 しかも、私が動揺から立ち直る前にそんな質問をぶつけてきた。

「ふむ、その様子では儂の科学力や技術力の方を理解して、儂と同じ物が作れる者はいなかったか。残念じゃな、居れば是非話してみたかったのだが」

 

 そして、殺されるのではないかと冷や汗が浮いた私の顔を見て答えを察し、特に責める様子もなくため息を吐いた。

「しゃ、社長は私の行動を読んでいたのですか? まさか、それも超能力で!?」

「いや、やり手の君の事だからそれぐらいはするだろうと思っていただけじゃよ。なお、儂の超能力は今のところサイコキネシスとテレポーテーションだけじゃから、安心してほしい」

 

「……何故私を首にしない? 私は、あなたを裏切ろうとしたのですよ」

「そりゃあ、儂にとって君が必要不可欠な人材だからじゃ。それに、もう君も儂の代わりになる人材はいないと分かってくれたじゃろう?」

 

 つまり、ゲロは私が他の科学者に自分が残したデータを見せる事を予想していながら、並みの科学者には見せられても理解出来ないだろうと考えて放置したのだ。私に自分がどれほど天才なのかを理解させるために。

 全く、なんて性格の悪い奴だ。……もっとも、天才科学者であるゲロに「必要不可欠な人材」と言われて嬉しくなかったわけじゃなかったが。

 

 しかも、これからついに人間ベースの人造人間4号の制作を始めると言い出した。会社はどうするのかと思ったら、その片手間に新商品を開発していた。超能力者になったからか、以前よりも天才ぶりが上がった気がする。

 

 そして一年後、人造人間4号が完成した。彼はこれまでゲロが作った人造人間達と同じく常識人で礼儀正しく、ゲロがやり過ぎる場合は諫めてくれる貴重な人材だ。

 ゲロはその4号と共に、何故か天下一武道会へ出場した。……思わず目が点になったが、ゲロの目的が妻を最強の人造人間にする事だから、出場選手のデータを生で見たかったのだろうと納得した。

 

 そして優勝した時は、再び目が点になった。さらにその後、武術の神様に弟子入りするために聖地カリンへ行くと聞いた時は、私の目は点になったままもう二度と戻らないのではないかと思った。

 だが、このあたりから私もゲロに慣れ始める。世界は自分が知っていたよりもずっと広大で、未知に溢れているとようやく私も理解したのだ。

 

 瞬間移動で時折修行先や宇宙や異星から帰って来ては、また瞬間移動で去っていくゲロ。彼は本質的にマッドサイエンティストだが、同時に善人でもある。しかも、地球人類にとって有益な存在であると同時に、我が社にとって替えの利かない人物だ。

 

 彼の人造人間研究によって、我が社は……そして地球人類は多大な発展を遂げた。

 まず医療。クローニング技術で移植用の臓器を培養可能になり、それどころか失った肉体的な部位……指どころか腕や脚全体を再生させることが可能になった。なんでもナメック星人の再生力を参考にしたらしい。

 これにより、重傷者が社会復帰するまでの時間が短くなり、病気や事故で亡くなる者が格段に少なくなった。

 

 それどころか、数年前には伝説の不死鳥の細胞を解析して若返り薬を作成した。かなりの高額だが、カプセルを一錠飲むだけで年齢の一割ほど老化が遅くなる……つまり寿命が延びる画期的過ぎる薬だ。私も、何百年も寿命が延びるのはごめんだが、一割増える程度ならと納得して飲んでいる。

 

 次にエネルギーと環境問題だ。人類が永遠に抱えるはずだった問題に、ゲロは人造人間の動力源として使うつもりで開発していた永久エネルギー炉を応用する事で解決してみせたのだ。

 永久エネルギー炉は火力発電のように燃料を供給する必要もなく、最初に動かせば永遠にエネルギーを発し続ける。しかも、その最初に動かすためのエネルギーも、運転中の永久エネルギー炉から賄う事が出来る。

 

 さらに環境に悪影響が全くない。人類が夢見た永久機関、尽きる事なきエネルギー源だ。

 しかも、供給できるエネルギー量も多く、メンテナンスの必要性や不慮の事故が起こった時のために東西南北の都ではそれぞれ三つの永久エネルギー炉が設置されているが、本来なら一つで充分エネルギーを賄う事が出来る。

 

 ……普通は、エネルギー源として開発した物を人造人間に応用するのではないだろうか? ふと我に返ってそう思うが、まあゲロだから仕方がない。

 

 そして軍事問題だ。これは私のやらかしがきっかけでもあるのだが……天下一武道会で優勝したゲロに弟子入りしようと、多くの格闘家が詰めかけた事があった。

 しかし、当時ゲロは聖地カリンに旅立った後だった。そこで私は彼らを穏便に追い返すために、無理難題を突き付けた。

 

 常人なら耐えられないだろう訓練メニューをつき付け、これに一定期間耐えられた者を全員ゲロの弟子と認め、我が社で雇用すると言ってしまったのだ。

「社長はこれよりもきついトレーニングを毎日こなしている」

 そう事実も告げて。

 

 弟子志望者達の七割は私の目論見通りその日の内に、もしくは一日で脱落して帰っていった。二割は、一週間から二週間ほど続けたが、やはり脱落した。

 しかし、残りの一割が見事に耐えきり、超人になってしまった。小口径の拳銃なら撃たれても耐え、鉄板を拳で貫き、高層ビルを道具を使わず駆け上がる事が出来る。

 

 私は、そんな超人達と交わした約束通り雇わなければならない。約束を反故にしてもし彼らが暴れ始めたら、その被害は計り知れないからだ。……我が社は人造人間2号がいるからとりあえず壊滅はしないだろうが、我が社で訓練を受けた者達が暴徒と化して暴れているなんてメディアに報道されたら、社会的なダメージを受けてしまう。

 

 そこで警備部門、今のGCGを作り、彼らを雇用した。そしてゲロに事後承認を取った。

 最初はゲロも微妙な顔つきをしていたし、桃白白が顧問として雇われていると聞いた時は驚いていたが、今では自分達専用だった重力トレーニング室をGCGにも開放するなど、面倒見の良さを発揮している。

 

 結果、今ではGCGの正規隊員は全員が超人になった。部長のチューボなんて、マシンガンの弾丸を全て掴み取ったり、戦車砲の直撃を受けても無傷だったり、しまいには空を飛び、どどん波を撃つ。

 今では王立国防軍よりGCGの方が頼りになると人々も評価している。それで今回の式典に繋がったのだが……まあ、現在の話は後にしよう。

 

 ともかく、もし悪のエイリアンが地球侵略を企てた場合、撃退できるのはGCGぐらいだろう。レッドリボン軍やドクターフラッペ等の危険な軍事組織や危険人物も、GCGを警戒している。……まあ、ドクターフラッペの正体はゲロなのだが。

 

 世界的大企業の社長が正体を隠して悪の科学者ゴッコなんて信じがたいが……まあ、ゲロのやる事だから何か事情があるのだろう。何かあっても超人だし、超能力者だし、何より天才だからどうにかするはずだ。……念のために、いざという時は警察や司法関係者の頬を叩くための札束も用意してある。

 

 その軍事力だが、実はGCGの隊員全員を合わせてもゲロ一人に敵わない。そして、そのゲロよりも強い人造人間が三人地球に居る。さらに、ナメック星にはもう何十人と……もう軍事力でどうこうと考えるのも馬鹿らしい。

 一度半ば本気で「いっそ世界征服でもしてはどうです? 始業時間から取りかかれば、定時前には終わりますよ」とゲロに言った事がある。

 

 現国王は為政者として優秀で国民からの人気もあるが、ゲロなら人々もそう抵抗しないはずだ。しかし、答えは「それはさすがに面倒すぎる」だった。

 実際、考えてみれば国王でもゲロの意向を無視できない程、我が社は大きくなった。王位を簒奪して得られる利益に魅力を感じなくなるぐらいに。彼が世界征服に乗り出すのは、国王が人造人間研究を禁止する法律を打ち出した場合ぐらいだろう。

 

 そんなゲロに私が出来た意趣返しは、ゲロ・コーポレーションとカプセルコーポレーションを合併させて彼を世界的超企業の会長にした事だ。

 合併案を纏めてから事後報告した時の、あの顔は忘れられない。

 

 GCコーポレーションになる事で、対外的に抱えていた我が社の後継者問題も解決した。実際には、不死鳥の力でゲロ会長はあと百年から二百年ぐらいは確実に生きるそうだが、外見はあの通り実年齢より老けて見えるからな。今でも若く見えるブリーフ社長とは大違いだ。そのため、週刊誌に次期後継者が誰になるのか予想した記事を掲載されていた。

 

 今では養子にしたターレス君とブリーフ博士の娘の何方かが結婚して継ぐのだろうという予想で落ち着いている。当人達は知らないし、知っても気にしないだろうが。

 

 そんなゲロの……正確には我が社の四番目の偉業になるかもしれないのが、食糧問題の解決だ。

 フライパン山周辺等で、ブリーフ博士が品種改良したアジッサの樹を使った緑化により、農業に適さない土地を改良して農園を作る事業は以前から行われている。

 しかし、この村の食料工場ではそれより一歩進んだ事業が進行中だ。

 

 野菜工場では既に葉物野菜を中心にした農作物が、効率よく生産されている。

 そして、このソテーとステーキに使われている魚肉と牛肉は、なんと培養されたものだ。

 

 クローン技術を応用して、直接肉を……そう、頭も内臓もなく直接肉だけを培養したものだ。まだ実験段階だが、この技術が完成すれば魚を養殖する際に必要な水槽や生け簀の水質や温度の管理、家畜を育てるための牧場が必要なくなる。

 出荷前に病気によって死亡するなどのリスクからも解消され、人々は必要なだけ新鮮な魚介類や肉を安定して手に入れる事が可能になるのだ。

 

 問題点は培養している光景が非常にグロテスクと言う事ぐらいだ。内部に肉塊を浮かべた培養カプセルが並んでいる光景を見て、食欲を覚える人間はそういないだろう。

 食料事業に乗り出すきっかけになったターレス君の舌を満足させる事は、まだできていないのだがね。

 

 他にも通信にエンタメ等、我が社の偉業は数知れない。天下一武道会のスポンサーになる決断を下したのは私だが、大会が盛り上がるために必要なシールド発生装置をブリーフ博士と共同で開発したのも会長だ。

 最近は何故か魔法や魔術に興味を覚えているらしい。しかし、進んだ科学は魔法と見分けがつけられないという言葉もある。

 

 なら、ゲロ会長こそ現代の魔法使いと評するべきだろう。

 

 

 

 

 

 

 と言うような事をナム君に、ドクターフラッペに関する事等話せない事を除いて聞かせて食事を終えた私は、水で口の中をさっぱりとさせた後に感想を述べた。

「シェフの腕でだいぶマシになったが……美味しくないな。魚と肉が」

 サラダやフルーツは美味いが、培養した魚肉と牛肉は脂っぽくて食感が悪い。しかも、ソースでも誤魔化しきれない妙な苦みと臭みが残っている。

 

「私は悪くないと思いましたが……?」

 一方、ナム君は不味いとは思わなかったらしい。しかし、彼の以前の食生活を考えるとその意見に甘えるのは良くない。

 

「どうやら培養液の臭いと味が食肉の組織に沁み込んで残ってしまうようで……現在、解決策を模索しております」

 いつの間にかテーブルの傍で控えていたコリー博士が、そう言いながら資料を差し出してくる。そこには分かり易く解決策が端的に記され、必要と思われる期間と予算の試算についても書かれていた。

 実際には、科学者ではない私には理解不可能な実験を踏まなければならないのだろう。

 

「分かった。経理部には私が言っておこう。後で書類を提出しなさい。しかし、これならよほど安くしないと市場では受け入れられないな」

 人間は……地球人は味に拘るからな。食料問題で困っている、味に拘らない、もしくは拘る余裕のない宇宙人をゲロ会長が発見したら売り込むのもいいかもしれない。

 

 そう、ゲロ会長の第五の偉業は宇宙人とのビジネスだ。すでにその雛型は、会長自身がナメック星人やヤードラット星人と行っている。重力トレーニング室やトレーニングスーツ、パオズ山の湧水等の提供と引き換えに、ナメック星のドラゴンボール使用や、アジッサの樹のサンプルを手に入れている。

 

 本人は「いや、そんなつもりはなかったのだが……」と言っていたが、そんな事は分かっている。彼がどんなつもりだろうと、会社の利益にするのが私の仕事だ。

 しかし、こんな事は何百年も続けてはいられないな。不老長生の話を断ったのは正解だった。

 

「では、結婚記念日のディナーはやはり別のお店を使われた方が良いですな」

「ああ、息子がフライパン山を見たいと言っていたから、牛魔王夫妻の農園のレストランにするつもりだ」

 私が引退した後は、息子に継いでもらおう。まあ、もしかしたら息子は将来別の夢を見つけてそれを追うかもしれないが、その時は定年を先延ばしにして後継者を見繕えばいい。

 

 ただ、あまりのんびりしていると私まで人造人間にされてしまうかもしれないが。

 

「そう言えばナム君、君は天下一武道会には出ないのかね? チューボ部長によれば、君はかなりの使い手だと聞いているが」

「チューボ部長が二回戦で敗退するような大会に出ても、私では予選落ちが精々ですよ。それに……私の村に伝わる武術は空中殺法を得意としておりまして、それが天下一武道会のルールだと反則になってしまうのです。高く飛び上がり過ぎるので」

 

「そんなに高く飛ぶ武術が存在したとは驚きだ。

 ……さて、ではそろそろ式典に出席しに行くとしよう」

 

 そして開かれた式典ではまず村長の挨拶から始まり、次は国王のスピーチで緑化活動や経済的支援を行ったGCコーポレーションの社会貢献を讃え、ゲロ会長に勲章を授与した。

 

「この場をお借りして、皆さんに重大な発表があります。我が地球国の王立国防軍は、GCコーポレーションの警備部、通称GCGと協力体制を結びます。

 今後はGCコーポレーションから一部の装備を購入し、GCGと王立国防軍との人材交流等を行う事になります。より国民の安全に寄与出来るよう尽力する所存です」

 

 そして、我が社の地球での影響力は確固たるものになったのだった。

 

 ゲロはこの取引を国から打診された時驚いていた様子だったが、私からすれば国王側の動きは予想出来たものだった。

 GCGの方が頼りになると人々に言われている王立国防軍は、チューボ部長一人で壊滅させられるほどの戦力でしかない。そして、ゲロにその気はなかったが彼がしている異星人との交流は、私から見ればビジネスで、国王側から見れば外交だ。

 

 国王側は今からでも情報を得るために我が社とパイプを作り、少しでも追いつきたいだろう。

 ゲロには世界征服の野望はなく、彼への対応は研究の邪魔さえしなければそれでいいのだが……国王側はそれすら知らないだろうから仕方ないだろう。

 

 私もこの式典や王立国防軍との協力関係について打診された時に、そう説明したのだが……半日とかからず世界征服を成し遂げられる相手の部下の言葉を額面通りに信じては、政治家失格だ。

 もっとも、互いに情報を共有して顔を合わせて話し合う機会が増えれば疑心暗鬼も解ける。そうなれば、酷とは思うも天才科学者に翻弄される私の同類だ。

 

 疑心暗鬼が解けなかったとしても、その時は「研究に支障がでるから」と言う理由で意見を変えたゲロが世界征服に乗り出すだけだろうから、それはそれで私としては問題ないのでどちらに転ぶか様子を見る事にしよう。

 




・副社長

 若い頃はカリスマ性のある野心家ビジネスマン。外面は良いが、実は倫理観がやや緩く野心と劣等感が強い。上昇志向が高すぎて、現状に満足する事を知らない性格。人間関係は友情や愛、好意ではなく、損得勘定のみで決める。

 映画やドラマなどにいる、倫理観や人の感情や通すべき筋を無視して傲慢に野望を推し進め、最後には破滅する悪役に似ているタイプ。

 しかし、ゲロに関わったため人生が良い方向に狂った。現在は結婚し、息子が一人。今では家庭を大事にして欲しいというゲロの考えを理解している。

 口には出さない、出しても言葉にする時は皮肉っぽくなるが、ゲロの天才さを本人の次に信じている。



・ナム

 原作では砂漠の貧しい村出身だったが、この作品ではブリーフ博士が品種改良したアジッサの樹の緑化効果を試すテストケースとして村が選ばれた事で、豊かに発展。食うにも困る貧しい村から、豊かな街へ急発展した。
 多くの村人は果樹園や畑を経営したり、食料工場で働いたり、仕事を得て豊かな生活を営んでいる。

 ナムは故郷を救ってくれた恩を返すためにGCGに入隊し、厳しい訓練を経て正規隊員へ。現在地球の神様の神殿で修行中のチューボからの信頼も厚く、最有力な次期部長候補。
 ただ、天空×字拳がこの作品の天下一武道会のルールだと反則になってしまうため、この前の大会には出場しなかった。

 なお、実は彼も鶴仙人の指導によって代わりにどどん波を撃てる。
 戦闘力は100で、今の時点で原作登場時より強い。若手のGCG隊員の中では一番の腕利きで、天津飯とも何度か組手をしている。



・コリー博士

 得意のバイオ工学を活かして、食肉を培養する研究を進めている。……今のところバイオ戦士は作っていない。



・ヤードラット星人とのビジネス

 かなり細々としたもので、パンチー夫人が地球の産物を持ち込み、ヤードラット星人からお返しの贈り物を受け取ると言った、ビジネスと言うより個人同士のやり取りに近い。



・王立国防軍

 名称から、国王が総指揮権を持つ地球国の軍隊であると思われる。
 おそらく規模では地球一の軍隊だと思われるが、武器が主に現代科学による兵器であるため、軍事力は原作レッドリボン軍と変わらない。ブルー将軍のような超人や、バトルジャケット(原作でブラック補佐が乗り込んで操縦していたロボット)等の戦力がない分、総合的にはレッドリボン軍未満かもしれない。

 原作コミックではピッコロ大魔王襲来時にキングキャッスルを防衛しようと試み、人造人間編でセルゲーム開催前にセルに攻撃を仕掛けだ。さらに、アニメではサイヤ人襲来編でナッパに、魔人ブウ編でブウに攻撃を仕掛ける。
 しかし、全て無惨に敗れてしまう。


 ヨシユキ様、佐藤浩様、Othuyeg様、路徳様、望月様、中島ゆうき様、kubiwatuki様、鱸の丸焼き様、酒井悠人様、あんころ(餅)様、X兵隊元帥(曹長)様、太陽のガリ茶様、Mr.ランターン様、にぼし蔵様、gsころりん様、誤字報告ありがとうございます。早速修正しました。
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