ドクターゲロに転生したので妻を最強の人造人間にする 作:デンスケ(土気色堂)
阿井 上夫様がゲロ達のお正月を描いて頂けたので、掲載させていただきます!
【挿絵表示】
タイツの筆ファンネル対ターレスの対決や、ブルマの着物姿、そして初日の出のように輝くゲロ! ぜひご覧ください!
天下一武道会が終わった次の日の早朝。まだ初夏を迎える前でやや肌寒いが、二人の老人の間に漂う熱気はそれを感じさせない程だった。
「やはり……話し合いでは決着はつかんようだな、鶴の」
「フッ、一度袂を別った儂等じゃ。言葉だけで納得できるものでもあるまい」
亀仙人は残念そうに、鶴仙人はこうなる事は分かっていたと言いたげな様子で、構えを取った。
「決闘のルールは、場外負けがないこと以外は天下一武道会と同じでよいな?」
立会人である占い婆の言葉に、「うむ」「異論はない」と答える両仙人。
「弟子たちのためにも、分かってはくれんのか?」
「論点を逸らすな、亀の。問題はもっとシンプルじゃ」
二人の仙人は、実は前から議論を重ねていた。弟子たちのために、そして両流派の未来のために。過去を悔い、現在を顧みて、将来もっとも良い形にするために。
しかし、最後の一線で納得する事が出来ずに今日まで来てしまった。
これ以上の協議は無益。ならば、交わすのは言葉ではなく拳のみ! そう決断して二人は町から離れた荒野で決闘を行う事を決断したのだ。
二人がそこまでして決められなかった問題とは――。
「よいか、勝った方が合流後の流派の名を決めるのじゃ、二言はないな!?」
「無論じゃ!」
それは亀仙流と鶴仙流の流派の合流後の名称だった。
流派の合流には、両仙人とも異論はない。互いの流派を……特に鶴仙人がライバル視していたのも過ぎた過去。正確には、今もライバル視はしているが互いに切磋琢磨する相手であり、敵対視はしなくなった。
今では弟子同士の交流も盛んで、組手を行う事も珍しくない。
そうなると、流派が異なる事が逆に弟子達の枷になっているのではないかと両仙人……特に鶴仙人が考えるようになった。天津飯たちが亀仙流の技……かめはめ波を本格的に使うようになれば、より強くなれるのではないかと。
もちろん、鶴仙人は自身が編み出した技、どどん波がかめはめ波に劣るとは思っていない。かめはめ波より早く技を出せる使い勝手の良さや、技を出す前後の隙の少なさ、貫通力の高さ……どどん波には多くの利点がある。
だが、かめはめ波にも多くの長所がある事を鶴仙人は忘れていない。気を溜めるのにどどん波より時間がかかるが、深く技を修めたかめはめ波の威力はどどん波を上回る。
スーパーどどん波でも、全力で撃ったかめはめ波と正面からぶつかって勝つことはやや難しい。もちろん、技を放った者の実力によって勝敗は変わるが。
そして、どどん波とかめはめ波以外にも、将来的に弟子たちが自分の属している流派を気にして覚えたいと思った技の習得に二の足を踏むのは、望ましくない。
技は覚えるのに努力と何より時間を必要とし、極めるのは難しい。だから数を覚えればいいという訳ではないが、最初から選択肢を狭めるような真似が良いはずもない。
そこで自然な流れとして両流派の合流が話題に上がった。元々同じ師匠から学んだ二人だ、流派の合流は和解した今なら難しい話ではない。
しかし、そこで揉めたのが合流後の名称である。
「お婆殿、亀を贔屓するでないぞ!」
「安心せい。こんなくだらない理由の決闘の勝敗を贔屓する気はないわい。では……始め!」
占い婆が決闘開始を告げた瞬間、正面からぶつかり合った。激しい立ち技の応酬が、大気を震わせる。
「素直に鶴亀流で納得しておけばいいものを……この中途半端ハゲめ!」
「フン! 儂が亀鶴流でいいと言っておるのに、効く耳を持たん貴様が悪いのだ!」
しかも、亀仙人が主張したのは「鶴亀流」で、鶴仙人が主張したのは「亀鶴流」……亀と鶴、どちらを先にするかという違いだけである。
亀仙人は、以前は「勝たなければ意味が無い」と武の道から外れ悪の道へ走った鶴仙人が、今では多くの弟子(GCGの隊員)を指導し、治安を向上させる大きな力となっている事に兄弟弟子として敬意を込めて鶴を最初の一文字にする事を決めた。
一方鶴仙人は、かつては悪の道を走ったが結局は表の世界に戻り武の……人としての正道を歩むことで成功を納めつつある我が身を顧みて、亀仙人が正しかったことを認めたが故に亀の字を最初にする事を良しとした。
こうした考えがあるのだが、もちろん口に出してはいない。
「鶴亀の方が語呂は良いじゃろうが! それに鶴は千年、亀は万年と言うじゃろう!」
「フンッ、格上の方が上座に座るもんじゃ! そして上座は奥と決まっておる! だから亀の方が先じゃっ!」
そのため、協議は程度の低い口喧嘩になってしまい納得できないまま、決闘に至ったのだった。
「行くぞっ!」
「来いっ!」
こうして締まらない理由で行われた決闘は、かめはめ波とスーパーどどん波の打ち合いで競り勝った亀仙人が征し、合流後の名称は「鶴亀仙流」と決められたのだった。
「やれやれ、やっとヤードラット星の修行に戻れるわい」
なお、占い婆はそう言いながらも、天下一武道会に続いて白熱した二人の戦いを見る事が出来て満足していたようだった。
そして時間は、約二年前……占い婆の宮殿でギネ達がバーダックチーム+αと戦った次の日にまで遡る。
「このスカウターを解析しておけ」
ベジータ王がゲロから借りパクした……返し忘れたスカウターを渡すと、サイヤ人の科学者達は目を丸くしていた。
「これが地球の技術で作られたスカウター……形状は我々が使っていたものと同じですが、より洗練されている」
「凄まじい性能だ。内部は別物と言った方が良いでしょうな」
「王達を一日だけ現世に戻せる者がいるなど、地球人はただ文明の劣った弱小種族という訳ではなかったようですね」
興味深そうに地獄に落ちてから作った解析機器を使って地球産スカウターを調べる、サイヤ人の科学者たち。
「うむ、どうやら調査した時期と場所が悪かったのだろう。……地球人の大多数は貧弱だが、少数の強力な突然変異や先祖返りを有する種族のようだからな」
ベジータ王の言葉を聞き、科学者達はなるほどと頷く。
「しかし、フリーザ軍のギニュー特戦隊の隊員も種族の中に生まれた突然変異である事は同じでは?」
フリーザ軍に所属する戦闘力1万越えの上級戦士達の中には、出身種族の中に生まれた突然変異の戦士達も存在する。しかし、それと地球人は違うとベジータ王は考えていた。
「地球人の突然変異種は戦闘面だけではない。貴様たちのような科学者の中にも、突然変異としか思えぬ天才がいる。そのスカウターを設計したゲロがそうだ」
「噂のゲロ宰相ですか……王が入れ込むだけはあるという事ですね」
「ああ、奴をもっと早く我がサイヤ人の味方に引き込んでいればな」
ベジータ王はそう悔やんでいるように見せながら、さっそくゲロを宰相に迎え入れたかのように配下のサイヤ人達に広めていた。
ゲロが彼の息子のベジータ四世と共にフリーザを倒し、サイヤ人の仇討ちと再興を果たしてくれると広め、その証拠のように共同慰霊碑に供えられた供え物が配給される。
これによってベジータ王の地獄のサイヤ人達に対する権勢はより確固なものとなっていた。
「しかし、一日で2万8千とは……凄まじい戦闘力の上昇。さすがはベジータ王です」
「フフッ」
(もっとも、ゲロを宰相にしたかのように見せる工作は、この戦闘力があれば無用だったかもしれんがな)
ベジータ王の今の戦闘力は2万8千。ギニュー特戦隊のグルド以外の隊員には届かない程度の数字だ。もちろん、フリーザにも遠く及ばない。
しかし、ベジータ王はこの数字でも地獄における彼の権勢を維持するために必要な、最低限の数字を上回っていると考えていた。
何故なら彼の考える「地獄の権勢」とは、つまり地獄に落ちたサイヤ人の王としての地位を保った状態を指すからだ。
閻魔大王を倒して地獄の天下を取る……なんてことは考えていない。一度は反乱を起こしたが、その際閻魔大王の援軍として現れた、大界王の下で死後も修行を続ける戦士達に手も足も出なかった経験から懲りた。実際、彼らはフルパワー形態になったフリーザよりも遥かに強いので、賢明な判断である。
そして、地獄の全ての亡者の頂点に立つ……という事も考えていない。というか、閻魔大王に対する反乱を諦めた今ではそれは無理な事なのだ。
何故なら、地獄におけるベジータ王の公的な立場はただの亡者、罪人である。サイヤ人に対しては絶対的な権力を持ち、地獄の鬼達も無下にはできない発言力を持っている。しかし、罪人である事に変わりはないのだ。
地球の刑務所で例えると、ベジータ王はサイヤ人達が集められた監房の牢名主、もしくは囚人の中のサイヤ人グループの顔役に相当する。
看守である鬼達も気を付けなければ、もしくは注意しなければならない存在だが、囚人である以上好き勝手が出来る訳じゃない。
そして、それはいずれ彼の息子とゲロの手によって地獄に落ちてくるフリーザも同じ事が言えるとベジータ王は考えていた。
ベジータ王より多くの部下を抱え、ベジータ王より強大な力を持つフリーザも、地獄では罪人に過ぎない。フリーザが以前のようにサイヤ人を支配しようとしても、それを止めるのはベジータ王ではなく地獄の支配者である閻魔大王と地獄の鬼達の仕事になる。
もちろん、ベジータ王が反乱を起こすのを止められなかった閻魔大王が、フリーザが起こすだろう反乱を事前に防げる訳がない。フリーザも死んだからと言って、大人しく閻魔大王に従う事もないだろう。やはり、反乱の一つも起こすはずだ。
しかし、大界王の下で修行している戦士達ならフリーザが反乱を起こしても容易く鎮圧できるだろう。
(フリーザが反乱を起こした時、閻魔大王に援軍が派遣される時まで持ちこたえられればいい。それぐらいなら、儂にも可能だ。儂には、切り札がある)
ベジータ王の切り札、それはサイヤ人の特性である大猿化だ。王族であるベジータ王は、パワーボールで人工の満月をいつでも創り出すことができ、さらに大猿化しても理性を維持する事が出来る。
その時の彼の戦闘力は2万8千の十倍の28万になるはずだ。パワーボールによる大猿化なので多少戦闘力が落ちるかもしれないが、フリーザ相手に粘るには十分な数字だ。そうベジータ王は思い込んでいた。
(情報によればフリーザの戦闘力は約50万。28万あれば、そう簡単にはやられまい)
何故なら、ベジータ王はフリーザが変身タイプの宇宙人である事も、フルパワー状態の戦闘力が1億2千万である事も知らないからだ。
(とはいえ……援軍が何らかの理由で遅れた場合も考えて、もう少し戦闘力をあげておくべきか。やはり、5万数千程度には。あと、戦闘力の操作と感知も身に付けておくか)
とはいえ、ベジータ王もフリーザに独力で勝てるなら勝てる方が望ましいと考えている。それに、彼もサイヤ人だ。久しぶりに血湧き肉躍る戦いを経験した事で、サイヤ人らしい戦闘欲を思い出していた。
「では、任せたぞ」
「ベジータ王、どちらへ?」
「フッ、トレーニングだ。我が精鋭達に、地球で学んだ戦闘技術を教え込んでやろうと思ってな」
そうして、ベジータ王は地獄で課された刑罰が終わった後は、側近であるエリート戦士達を集めて訓練を行うようになった。
しかし、戦闘力が上昇した彼とエリート戦士達との間に大きな差が出来ていたため、不本意ではあったがバーダックチームを呼び寄せて組手を行うようになった。
バーダックチームとしても、仲間内だけで訓練するよりも仮想敵として十分以上に強いベジータ王とも戦える方が効果的なトレーニングができるので、彼の偉そうな態度は気に入らなかったが付き合う事にした。
この数か月のトレーニングにより、ベジータ王は戦闘力の操作……気の制御と感知を習得し、部下のエリート戦士達にも伝えた。
また、バーダックチームの四人も気の制御と感知を習得し、更にパンブーキンはゲロからテレパシーでコツを伝えられていたプラズマスパークを物にした。
そして数か月後、ゲロがラズリとラピスに会いに行った日に、妙な供え物が届いたことでサイヤ人達が置かれた環境はまた大きく変化する。
「これがホイポイカプセル……こんなもの、フリーザ軍でも作れませんよ!」
「重力トレーニング室に、戦闘服の柔軟性を体に負荷をかける事に応用したトレーニングスーツ……地球人の強さへの欲求は我々サイヤ人に匹敵するのか!?」
「その重力トレーニング室の動力源に使われている永久エネルギー炉を見てみろ! これが量産できたとしたら、ブルーオーラムすら不要になるぞ! 宇宙に革命を……大革命を起こせる発明だ!」
「四肢の欠損すら再生可能とは……フリーザ軍の科学者が研究を重ねて二十年……いや何十年かかっても同じ性能のメディカルポッドを作るのは不可能かもしれない」
ゲロが慰霊碑に供えたホイポイカプセルとカプセルに入った品を前にサイヤ人科学者達は感嘆と羨望と敗北感を混ぜ合わせた顔つきで騒いでいた。
「同じものを作れと儂が命じたら出来るか?」
ベジータ王が試しに尋ねると、科学者たちはその途端押し黙ってしまう。そして、やや悔しそうに答えた。
「難しいでしょう。むろん、最大限努力いたしますが……この戦闘服やインナーでさえ、我々が生前使っていた物の倍以上の性能です」
サイヤ人の科学者達も優秀ではあったが、やはりブリーフ博士、そしてゲロの頭脳は彼等より数段飛びぬけていた。以前ベジータ王に解析を依頼された地球製スカウターは、性能は段違いでも原理はフリーザ軍のスカウターと同じだったので、解析する事が出来たのだ。
だから、性能が倍以上にまで高められている戦闘服やインナー、それを応用して作られたトレーニングスーツは時間があれば解析し、同じものを制作する事も可能だろう。
しかし、重力トレーニング室やその動力源に使われている永久エネルギー炉はお手上げだ。マニュアルを見てもどんな原理で動いているのか分からないし、分解してみても同じだろう。
「直接本人に説明してもらっても、理解できる自信がありません。さすがはベジータ王が宰相に推すだけの事はあります」
「そこまでか……まあいい。こうして供えられたのだから、新たに必要になったらあの占い婆か閻魔を通じて連絡を取ればいいだけの話だ」
そう答えつつも、改めてゲロの異常な天才さを認識したベジータ王は、ゲロとの関係を破綻させないようにしなければならないという考えを強くした。
「それで、この装置はどういたしますか?」
「フン、これを送りつけてきたという事は儂等にもっとトレーニングをして強くなれ、という事だろう。……丁度いい、使ってやろうではないか」
数か月前からトレーニングをするようになったベジータ王やバーダックチーム、そして他のサイヤ人達だったが、彼らは早くもそれに飽きてきていた。
原作ベジータのようにトレーニングする事がライフワークの域に達している場合ならともかく、ベジータ王の世代は地道なトレーニングを毎日続ける事に慣れていない。
天下一武道会のような強さを競う舞台もないサイヤ人達が自力で行うトレーニングとは、精々実戦形式の組手と、適当な岩を背負って行う筋トレぐらいだ。
組手の相手も限られるため、代わり映えしないトレーニングに飽きを覚えても仕方ないだろう。
しかし、飽きたからと言って代わりにやる事もない。そんなタイミングで、新しいトレーニング機器という玩具がプレゼントされたのだ。使わない手は無いだろう。
「それに我々サイヤ人は瀕死の状態から復活する事でパワーアップする事が可能だが、多用は出来んからな」
サイヤ人は死の淵から蘇る事で、パワーアップする事が出来るという種族的特性がある。それを利用して故意に瀕死になり、メディカルポッド等で治療を受けて復活しパワーアップする事が可能だ。
しかし、それを繰り返してパワーアップしようとすると上昇する戦闘力の数値が減っていく事が経験則から知られていた。
サイヤ人の科学者達がパワーアップする幅が変わる理由を突き留めたのは、ベジータ王の代になってからだった。
「我々サイヤ人が死の淵から蘇った際に上昇する戦闘力の数値は、本人の資質、それまでに積んだ戦闘経験やトレーニングの量、そして自らを瀕死に追い込んだ相手に勝とうとする戦闘民族としての本能によって、上下いたしますから、仕方ないかと」
それが明らかになった理由だった。
つまり、瀕死からの復活を繰り返した場合でも、バーダックのように侵略しに向かった他星で激しい戦闘を繰り返した結果なら、戦闘力は高まり続ける。しかし、戦闘を経験せずトレーニングもせず故意に瀕死からの復活を繰り返した場合戦闘力の上昇率は小さくなっていく。
短時間に自傷と再生を繰り返す等、論外だ。
原作ベジータはナメック星編でフリーザとの戦いの最中、クリリンに故意に半殺しにされるという自傷に等しい方法で瀕死になり、デンデの治療によって復活しパワーアップしている。しかし、これはベジータの本能が変身したフリーザという強大な存在に刺激された事で、大幅なパワーアップが可能になったのだろう。
なお、占い婆の宮殿で繰り返しパワーアップしたのも、地獄で瀕死の状態になってから時間が経っていたのと、対戦相手という敵が存在していたからだ。ただ、殺されることはない、という事が分かっているので本能が受けた刺激は中途半端なものになったと思われる。
「では、さっそく試すとするか……バーダックチームの連中に儂より強くなられたらことだからな」
「我々サイヤ人のライバルはフリーザなどではなく同じサイヤ人という事ですな!」
「はっはっはっは、戦闘民族の辛いところですな、ベジータ王!」
そう余裕を見せた後、最も広い重力トレーニング室に入るベジータ王。なお、科学者達は冗談だと思ったようだが、彼は本気でバーダックチームに追い付かれる事を危惧していた。
「奴らの所にもこれと同じ物が供えられたようだからな。部下が頼りにならん以上、儂もうかうかしていられん」
今やトーマ達バーダックチームの戦闘力は全員1万を超えているのに対して、ベジータ王直属のエリート戦士達の戦闘力はまだ1万に届いていない。
下級戦士であるバーダックチームにエリート戦士達が差を付けられたのは、今まで地獄にメディカルポッドがなかったため瀕死になるまで自分達を追い込むことが出来ず、パワーアップできなかったのが大きい。だが、一応だが同じチームで戦ったベジータ王は彼らの戦闘技術とチームワークの高さを評価していた。
「トーマとセリパは人造人間となって復活するようだが、それが何時になるか分からん。その時までに奴らが儂を超えれば……同じサイヤ人だけにフリーザよりも厄介だ」
そう言いながら、とりあえず重力を五十倍にセットして起動させる。
「マニュアルによると、これで惑星ベジータの五倍か。むっ……なかなか効きそうだな。クックック、貴様らを近づけさせはせんぞ、バーダックチームめ」
そうしてトレーニングに汗を流すのだった。なお、彼の予想通りバーダックチームもトレーニングスーツを着て重力トレーニング室を使ってさっそく修行に打ち込んでいた。
それから数か月後、バーダックチームに変化が起きた。
「仕事が終わったらトレーニングを始めるよ! さっさとしな!」
「で、でも姉さん、こんなこと毎日続けてたら死んじまうよ……」
「馬鹿なこと言ってんじゃないよ! ここは地獄でお前はまだ死人だ! 死人が死ぬわけがないだろ!」
「ひええ~、分かったよっ、やるよっ!」
セリパが先頭に立って新人を鍛え始めたのだ。だが、その新人はスカウターを装着しているがサイヤ人ではなかった。
「分かればいいんだ。でも口答えした罰として岩を背負って血の池地獄の三往復だ!」
「三往復!?」
「なんだい、ランチ? 四往復じゃ不満かい?」
なんと、地球人の『いただき』ランチである。
何故地球人のランチをセリパ達が鍛えているのかと言うと、彼女がゲロの人造人間候補だからだ。
セリパ達はゲロに依頼されたわけではなく、トレーニングに飽きてきた頃にちょっとした気まぐれで、獄卒に地獄に自分達以外にゲロが人造人間に改造しようとしている死人はいないかと尋ねた。そしてランチの事を知り、彼女に会いに行き……あまりに弱かったので、鍛える事にしたのだ。
その際、ランチの意思は重要視されなかった。
なお、地獄に落ちた死人は死なないが、消滅はする。もっとも、胴体に穴が開く程度なら平気なので、よほどのことがない限り消滅することは無いが。
「おいおい、セリパ。ランチちゃんにはもうちょっと加減してやった方が良いんじゃないか?」
「そうだな、二往復……いや、一往復でいいんじゃないか? その後本格的なトレーニングもするんだしよ」
「重りも、半分にした方がいい」
一抱えほどもある岩を背負って血の池地獄へ走り出そうとするランチを、トーマ達が呼び止めてセリパにそう宥めだした。しかし、それに対してランチは顔を赤くして肩を小刻みに震わせ始める。
「男どもはこう言ってるけど、どうするランチ? あたしは別にどっちでもいいんだよ?」
そうセリパに問われたランチは、トーマ達に怒鳴り返した。
「気色の悪い猫なで声で馬鹿にしやがって! このランチ様を舐めるんじゃねぇ! セリパの姉さん! 血の池地獄五往復行ってきます!」
そしてセリパに向き直って、気を付けの姿勢で宣言する。
「よく言った! それでこそあたしの妹分だ!」
「はいっ! 行ってきます!」
そして、泣き言を言っていたとは思えない勢いで血の池地獄へ走っていった。
その後ろ姿を、トーマ達は締まりのない笑顔で見送っていた。
「ランチちゃん、頑張ってるよな~。だんだん戦闘力も上がって来てるしよ」
「ああ、応援したくなるぜ」
「腹いっぱい、飯を食わせてやりたくなる」
そう口々に言うトーマ達に、セリパが半眼になっていった。
「子供扱いもほどほどにしなよ。あの子にもプライドってもんがあるんだからね」
セリパが言うように、トーマ達はランチを異性としてちやほやしている訳ではなかった。子供扱いしていたのである。
ランチは確かに若いが、子供に見えるほどではない。しかし、地球人であるためサイヤ人と比べると気があまりにも小さく……トーマ達から見ると子供が頑張って強くなろうとしているようにしか見えないのだ。
気が強くて口が悪いのも、サイヤ人の子供っぽく見えるためますます微笑ましく感じるらしい。
「分かっちゃいるんだけどな……でもついつい……」
「まあ、良いじゃねえか。いい具合にやる気を出しているようだしよ」
頬を掻いて苦笑いをするトーマに、あまり気にしていない様子のパンブーキン。トテッポは黙ったままだ。
「しかし、その地球人用トレーニング方法って正しいのか?」
「大丈夫じゃないかい? 地球人に聞いたんだし」
セリパ達がランチにさせているトレーニングは、以前ギネが地球について調べている時に会った、チョビ髭の独裁者に聞いた、兵士の訓練用マニュアルだった。
なお、流石に罵倒するのは「これをやった奴はだいたい育てた部下に殺されるから、やめておこうぜ」というトーマの意見で参考にするのは止めていた。「子が親を殺す」のも珍しくないサイヤ人にとって、教官や師を弟子が殺すのはありふれた話であり、それを避けようとするのは親や師の立場では当然だった。
「そう言えばトーマ、この前ベジータ王の奴がランチについてあんたに聞いていたようだったけど、なんだったんだい?」
「さあな。新しい人工サイヤ人候補だから、気になったんじゃないか?」
今でもバーダックチームとベジータ王の関係は、占い婆の宮殿での戦いと同じようなものだが、それでも訓練相手として丁度いいので交流がある。そして顔を合わせた時、どこからランチについて知ったのかは不明だが、トーマに彼女について尋ねてきたのだ。
どんな女か、死ぬ前は何をしていたのか、鍛えているようだが筋は良いのか、等々だ。
「まあ、そんなもんか」
「案外、息子の嫁に相応しいかどうか調べてたのかもな」
「嫁って、ベジータ王子のか!? パンブーキン、それはねえだろう!」
そう言って笑うトーマだったが、実はパンブーキンの予想は大当たりだった。
多くのサイヤ人には、血筋に対する拘りはない。しかし、王族であるベジータ王はその例外だった。そんな彼が生き残った息子であるベジータ王子に望むのが、打倒フリーザ、そしてサイヤ人の再興である。前者はともかく、後者の望みに関しては息子の結婚相手は重要だ。
惑星ベジータが滅亡していなければ、ベジータ王も息子には純血のサイヤ人の、それもエリートの血筋から妃を選ばせただろう。しかし、残念ながら惑星ベジータは滅びエリートの血筋は軒並み絶えてしまった。
そのため、ベジータ王はゲロに託したベジータへの手紙の中に、彼が選ぶ結婚相手についていくつも基準を書き残している。
その基準とは……地球人の中で高い地位にいる女、特にゲロの身内から選ぶように、というものだ。
地球を新惑星ベジータにする事を真剣に考えているベジータ王にとって、息子が地球人との政略結婚をするのは必要不可欠。その際、地球人の中心になるだろうゲロの身内から選ぶ事を望むのは、当然だった。
そして、サイヤ人の細胞を移植された人造人間の女と結婚すれば強い子供を期待できる。だから、人造人間になるランチについて興味を覚えたのだ。
なお、それならセリパやギネの方が望ましいのではないかと思うかもしれないが……その二人だと地球人とサイヤ人を一つに纏めるための政略結婚にならない(とベジータ王は考えている)事と、ギネの場合バーダックが生きているため将来的に揉める可能性が高い事、があげられるため考慮されていなかった。
なお、そのベジータ王子本人が手紙を読んだら、「勝手な事を書き残しやがって」と吐き捨てられる事は確実だろう。
「まあ、確かにランチちゃんはサイヤ人の女と比べても気が強いし、人造人間になるならギネみたいに強くなるだろうからいい相手だと思うけどよ。青い方がな……」
「……いや、あっちも意外と、芯は強い」
そうトーマ達が話しながら自分達のトレーニングを始めて、しばらく経った頃、ランチが帰ってきた。
「た、ただいま戻りました。血の池地獄、ちゃんと五往復してきましたよ」
ふらふらになったランチが戻ってきた。ただ、途中でくしゃみをしたのか、金髪ではなく青髪になっている。……なお、やる事は装着しているスカウターに音声入力してあるため、途中で人格が変わっても問題はない。
「よくやったね。それじゃあ少し休んでから――」
「トレーニングスーツを着て灼熱地獄で筋トレにするか?」
「いや、地獄の猛獣と追いかけっこだろ?」
「……砂漠で巨大アリジゴクを避けながらランニングで、足腰を鍛えるのはどうだ?」
「ひ、ひえええ~っ!」
「あんた達、ちょっと厳しすぎないかい?」
ランチが金髪から青髪になって性格が大人しくなると、何故かセリパが甘くなり、逆にトーマ達が厳しくなるという逆転現象が起きるのだった。
それは青髪になった事で性格が変わって気の強さがなくなったランチに対して、トーマ達の認識が「子供」から「弟子」に変わって厳しくなり、そのためセリパが自分まで厳しくしたらランチが潰れるんじゃないかと心配したためだ。
肝心のランチが人格ごとに記憶を共有していないから何事も起きていないが、そうでなければ態度を変えるセリパ達に不信感を抱いていたかもしれない。
そして、地球で天下一武道会が開かれている頃、ベジータ王を名指しして閻魔大王から声がかかった。界王様の弟子と大猿化して組み手をして欲しいという、ベジータ王にとっては信じがたいものだった。
〇鶴亀仙流
鶴仙流と亀仙流が合流した新流派。原作と違って敵対する理由がなく、むしろお互いの弟子同士の交流が盛んである状況を考えると、元々同じ師匠に教わった亀仙人と鶴仙人が流派の合流を考えるのは当然の流れかと思いました。
〇サイヤ人の瀕死パワーアップ
話の中で説明したのは、いただいた感想で教えてもらった設定になります。
この設定ならサイヤ人達が、瀕死の重傷を負っても一日で後遺症もなく復活できるメディカルポッドもあるのに、自ら瀕死になってパワーアップする事を繰り返さない理由になると思い、恥ずかしげもなく飛びつきました!
許していただければ幸いです。
〇地獄のサイヤ人達
・ベジータ王:2万8千→5万8千 ゲロからのトレーニング機器の差し入れによって、占い婆の宮殿での戦いから2年で大幅にパワーアップ。もうフリーザが地獄に来ても、大猿化すれば戦闘力が50万を超えるので勝てる(っと、思い込んでいる)
また、戦闘力の操作……気の感知と制御も習得している。原作ベジータにできたので、ベジータ王もそう時間をかけずに習得できるだろうと考えました。
現在の地獄では最も強い。また、配下のエリート戦士達ではいまいち訓練相手として物足りないので、バーダックチームと一対四の組手を行う事も多いが、刺々しい関係のまま。
・サイヤ人科学者達:劇場版『ブロリー』で保育ポッドの周りにいた三人の科学者達です。戦闘力は1000未満だと思われます。
・エリート戦士達:1万前後 劇場版『ブロリー』で映った、ベジータ王の左右に並んでいた側近達。おそらく、戦闘力よりも血筋とベジータ王に対する忠誠心を評価して集められていると思われるが、サイヤ人のエリートなので戦闘力は高いと思われます。
また、ベジータ王が起こした反乱に加わって鎮圧時に半殺しにされているのと、占い婆の宮殿での戦い後にトレーニングをするようになったベジータ王の組手相手を務めさせられているので、これぐらいに強くなっています。
生前の戦闘力は、ナッパが「名門出のエリート」なので4千から8千ぐらいだと思います。
・トーマ:1万7千→3万2千8百 一人でドドリアはもちろん変身後のザーボンまで倒せるようになった。実は現在地獄で二番目に強い男。気の感知と制御はチーム全員が習得済み。
・セリパ:8700→1万7千 チョビ髭の独裁者から貰ったマニュアルを元に、ランチを鍛えているが、自身も強くなっている。
・トテッポ:1万5千6百→3万
・パンブーキン:1万4千→2万7千 それぞれドドリアを軽く締められる強さに到達。
〇ランチ
死亡時の戦闘力:5 現在の戦闘力100
地獄に落ちた「いただき」ランチさん。人造人間9号候補であるためセリパ達に目を付けられ、丁度自分達だけでトレーニングするのに飽きてきた頃だったからという適当な理由で拉致され、サイヤ人が多い地域に連れて来られて地球人の軍隊式+サイヤ人流+ギネが地球で受けた武術の修行を受けさせられている。
初日に細心の注意を払ったセリパ達によって、泣くまで小突き回されて自分の弱さと周りの強さ……格の違いを理解させる。次の日に逃げても無駄である事を思い知らせるために、故意に逃げ出させたランチを追い回して捕まえる。
次の日から軍隊式モドキのトレーニングで体力を付けさせた後は、ひたすら実戦形式の組手。
そして、死者だから食事の必要はないが、頑張っているからという理由でトーマ達の供え物を分けて食事。
という、経緯である。なお、トレーニング内容はGCGはもちろん亀仙流の修行よりずっときつい。ランチが死人ではなく生きていたら、数日で死ぬほど厳しい。
下手をしなくても、地獄の刑罰より厳しいため、地獄の鬼達も「可愛そうオニ」と同情するほど。
ちなみに、金髪時にトーマ達が「少し軽くしてやってもいいんじゃないか」と言っているが、彼らの言う通り軽くしても地獄の刑罰より厳しい。責め苦とトレーニングで方向性が異なるため、徐々に(地球人目線では急激に)ランチが強くなっており、耐えられるようになりつつあるのが救い。
普通ならセリパ達を恨みそうだが、周りがサイヤ人だらけの環境であるため色々と感覚が麻痺しており、金髪ランチは「厳しいけれど自分を認めてくれているセリパを姉さんと慕っている。自分を子ども扱いするトーマ達は、いつか見返してやろうと思っている」のに対して、青髪ランチは「厳しいトーマ達を怖がりながらも面倒を見てくれているらしいので頼りにし、親身にしてくれるセリパを慕っている」という状態。……あまり変わっていないかもしれない。
〇ベジータ王がベジータに託した地球惑星ベジータ化プロジェクト
政略結婚もプロジェクト成功には重要な要因。ベジータの結婚相手は、地球で社会的に高い位置にいる人物の身内か、本人がその位置にいる地球人の女が望ましいと考えている。
つまり、ゲロの身内が望ましい。
また、地球人に知られた存在である事が望ましいが、地球人である必要はないので人造人間でも構わない。むしろ、強い次代が生まれる可能性が高いのでサイヤ人の細胞を移植した人造人間は妃候補として有望。
なお、どうしても候補が見つからない場合は「ターブルを探して、代わりに王弟として政略結婚させるように」と、指示している。
ベジータ本人が読んだら、指示を無視するのは確実なプロジェクト
望月様、路徳様、車椅子ニート(レモン)様、ローエン様、匿名鬼謀様、KK1147様、変わり者様、N2様、tahu様、泡銭様、Mr.ランターン様、カド=フックベルグ様、バンドリーマーV様、あんころ(餅)様、KJA様、誤字報告ありがとうございます。早速修正しました。