ドクターゲロに転生したので妻を最強の人造人間にする 作:デンスケ(土気色堂)
『ぐえええっ!? 幸せだけど、く、苦しい~っ!?』
パスタに首を絞められたウーロンはパニックに陥り、変化すれば彼女の腕から逃げ出せることを思いつけなかった。そのまま意識を失い、化け物の姿から本来の姿に戻ってしまう。
「本当にチビのガキだったとはね……よし、終わったよ」
気絶して元の姿に戻ったウーロンを地面に乱暴に落としたパスタがそう言うと、物陰からボンゴ達が現れた。
実はパスタは耳や髪の中に小型の通信機や発信機をつけており、それで村の外に隠れていたボンゴ達と連絡を取り合っていたのだ。
村を出た後、変身を解除して真の姿を現したウーロンを目撃し、それをパスタに伝えたのもボンゴ達だ。
「殺したのか?」
「いいや、隠しているお宝のありかや金庫の番号を聞き出さなきゃならないかもしれないからね。気を失っているだけさ」
「お宝ねぇ……こいつがいくつの村から金を巻き上げているのかはともかく、しょせんは田舎者から巻き上げたはした金でしょう? そこまでして探す価値があるんですかね?」
「どうせドラゴンボール探しの行きがけの駄賃だ。はした金だって構うもんか」
グルメス王国で暗躍するパスタやボンゴが、何故辺境の村で略奪や村娘を攫っていたウーロンを退治しようとしているのか? それはグルメス王の命令によるものだった。
以前に食べた物より美味い物でなければ喉を通らないという厄介な体質になってしまったグルメス王は、ついにおとぎ話同然の伝説に一縷の望みを託すようになった。
そしてボンゴとパスタに、ドラゴンボールを集めるように命じたのである。しかし、命じられたからと言っても世界中から七つのドラゴンボールを独力で探すのは不可能だ。そこで、二人はドラゴンボールを探すためのレーダーを科学者に作らせよう……とは思わなかった。
占い婆に金を積んで、ドラゴンボールが何処にあるのか占ってもらったのである。そして、占いで出たのが辺境のある村に住む老婆の姿だった。
早速彼女を訪ねると、老婆の住む村はウーロンという化け物に何度も脅され金や食い物を献上させられており、それだけではなく娘も何人か連れて行かれたとか。
最初は並外れた巨漢であるボンゴが、そのウーロンが変身した姿ではないかと村人に疑われてトラブルに発展しかけたが、話を聞いたパスタはウーロンを退治して攫われた娘達を取り返す代わりに、ドラゴンボールをもらう取引を交わしたのだった。
「しかし、こんなまどろっこしい事をしなくてもドラゴンボールを奪えばよかったんじゃないですかね? オレガノさんが言うように、お宝にはあまり期待できないかもしれませんし」
気絶したままのウーロンを縛って猿轡をかましたボンゴ四天王の一人、ニョッキがそう尋ねる。
「バカ、まだ一つ目だぞ? 最初から騒ぎを大きくして、邪魔が入ったらどうする?」
「あまり血生臭い事をして、それを占い婆に見抜かれたらことだからな。あの婆さんは、GCコーポレーションの会長や社長と懇意にしている。GCGや王立国防軍が出てきたら厄介だろうが」
それに対して、他の四天王たちは口々にそう否定した。
彼らがドラゴンボールを老婆から奪うのではなく、取引によって合意の下に手に入れようとしたのは、そうした理由からだった。特に、占い婆から「関わり続けるとトラブルを招く危険がある」と見なされ、占いを断られるとボンゴ達は残りのドラゴンボールを集められなくなるので、致命的だ。……ミイラ君相手に連敗記録を伸ばしているボンゴ達では。彼女を脅して占わせるのはとても不可能だから、仕方がない。
「どうでもいいから、さっさとこいつを連れて家の中に入るよ。リッチストンは無くても、金ぐらいはあるはずだからね」
……最も強い理由は、行きがけの駄賃でも懐に金を入れられるなら入れたいという、パスタの強い金銭欲によるものだったが。
そしてウーロンが村々から巻き上げた金で建てた豪邸に押し入ったパスタ達は、ウーロンが既に攫っていた娘達をとりあえず保護し、ウーロンを尋問して財産の隠し場所を吐かせた。
「変化っ! あばよ!」
だが、パスタ達がお宝に気を取られている内に蠅になって逃げだし、空いていた窓から外に出るとミサイルに変化して飛んで逃げてしまった。
「やろうっ!」
「追うぞ! 飛行機を出せ!」
「そこまでしなくていい。もう奴は用済みだ、放っておけ」
しかし、ボンゴはウーロンを追おうとしなかった。ウーロンに情けを賭けた訳ではなく、彼らにとってウーロンは本当に用済みだったからだ。
原作よりだいぶ強くなっているボンゴ達だが、気功波や舞空術、そして気の感知も未習得だ。今からホイポイカプセルから飛行機を出してウーロンを追いかけ、撃墜するのが面倒だったのだ。
ウーロンが逃げずに留まっていたら、口封じに殺していたかもしれないが。
「奴はどうせこの辺りには戻ってこないだろう。それに、奴が俺達の事を騒いだところで何か問題があるか? 俺達は人助けをしただけだ、そうだろう?」
「確かにそうですね。……お宝が少なくなっている事を奴が密告しても、村から略奪を働いていた張本人と、それを退治したグルメス王国軍の俺達、どちらの言い分が信用されるかは明らかだ」
「そうだ。分かったらお宝を分けるのを手伝え」
そして彼らはウーロンが貯め込んだ財産を、足のつかない現金と利用できるホイポイカプセル、処分するのが面倒で足が付きやすい宝飾品、価値不明の掛け軸や絵画に分けた。
そして現金の多くを回収し、残りの僅かな現金をウーロンが攫って嫁にし……その後は彼にアクセサリーを買ってくることを要求するなど、贅沢な暮らしをしていた村娘達に渡してこう言い含めた。
「いいかい、お嬢ちゃん達。ウーロンは俺達が退治した。見つからなかった物は、全てウーロンが売るなり使うなりして残っていなかった。
奴がお嬢ちゃん達にやった服や宝石、そしてこの金はお嬢ちゃん達の分け前だ。後は、親の所に帰って悲劇のヒロインを演じて、上手くやりな」
少額の現金と彼等では処分しにくい品と、処分しても中古品として安値でしか売れないだろう品を渡す事で共犯意識を持たせて、村娘たちの口を封じるのが狙いだ。
もっとも、ウーロンと暮らしながらうまくやっていた強かな娘達なので、オレガノに言われなくても上手くやっただろう。
そうして彼らは怪物ウーロンを退治し、娘達を連れ帰った英雄として、村の老婆から一つ目のドラゴンボールを手に入れたのだった。
氷と雪ばかりの風景に、異様な姿の老人がぽつんと立っていた。遮る物は何もなく、また老人自身にも身を隠すそぶりは見られない。
しかし、常人の目はもちろんゲロが設置したスパイロボットのセンサーすら、老人の存在を捉える事は出来ない。トワを上回る老人の魔術によって。
「ただいま戻りました、メチカブラ様」
その老人……暗黒魔界に君臨し魔神を従える暗黒魔王メチカブラの前に、小柄な男性の姿の魔神が一人現れる。
「ご苦労だったな、サルサよ」
自身の側近であり、天才と評される魔神サルサにメチカブラは笑みを浮かべる。
「首尾はどうじゃ?」
「は、ここに」
サルサがメチカブラに差し出したのは、ドラゴンボール……原作ではブルマが悟空と遭遇する前に苦労して山で拾ったドラゴンボールだ。
そのドラゴンボールをサルサから受け取ったメチカブラは、魔術で空間に小さな穴を開けると、その中にドラゴンボールを投げ入れた。
「さて、これでこの歴史のゲロが地球に戻ってきたら事態が動き、時の界王神も事態に気づく事じゃろう」
このメチカブラは、他の歴史からこの歴史に訪れたメチカブラだった。その狙いは、この歴史に根を張るドミグラや彼の配下ではないトワから、この歴史で発生するキリを奪う事……ではない。
メチカブラ達は既に、この歴史と同じように歴史が改変されキリを恒常的に生み出す歴史を確保しており、そこで十分なエネルギーを得て、目的……暗黒ドラゴンボールを創造し、それによって呼び出した暗黒神龍に願う事で若返り全盛期の力を取り戻す……を実現しつつある。
しかし、時の界王神とタイムパトロールの妨害を受けていた。受けているだけで、今のところは目標達成に向かって事は進んでいるが、暗黒ドラゴンボールを紙一重で奪われかけた事もあった。
それだけなら配下の親愛なる魔神達や新たに配下にした者達のさらなる働きを期待してもいいが……今の状況に、この歴史でキリを貯めているドミグラや配下ではない方のトワが横やりを突っ込んできたら面倒な事になる。
配下ではない方のトワはまだしも、かつて部下だったドミグラの狙いは時の巻物とトキトキだ。今はまだ直接衝突はしてはいないが、メチカブラが若さの次に手に入れようとしているのも、時の巻物とトキトキだ。衝突は避けられない。なら、今から抑えておくに限る。
そして、ドミグラを抑えるのは自分達ではなく……タイムパトロールの役目だ。
「これで、この歴史のドクターゲロ達が動き出せば、時の界王神もこの歴史に気が付くだろうて」
「しかし、時の界王神がこの歴史に気づいても、この歴史に潜んでいるドミグラを見逃した場合はどうします?」
「ふむ、それはそうだな。だがサルサよ、お前も含めて我が親愛なる魔神達を手こずらせる相手だ。それぐらいの目はあると期待したいものだな」
「は……差し出がましい事をいいました」
「構わん。さて、戻るとしよう」
そしてメチカブラとサルサは、ゲロが配置しているスパイロボットの監視網を掻い潜ったまま、彼らが活動している歴史に戻っていった。
後に残ったのは雪と氷……そして、その下に眠る悪魔の科学者と、ドラゴンボールだけだった。
ヤードラット星から地球に戻ったこの儂、天才科学者のドクターゲロは、四身の拳で作った分身を総動員して休暇中に溜まっていた事務仕事を済ませると、念のために各地のスパイロボットが収集した情報や、ドラゴンボールの現在位置を確認した。
事務仕事を優先した事から見ても、儂がどれほど弛んでいたか想像できるだろう。
「んっ? ドラゴンボールの位置が二つ動いている!?」
「なんじゃと!? どれだ!?」
「北の山にあるはずの五星球と、ウーロンを退治して手に入れるはずの六星球じゃ」
「ドクター、そのうち一つの反応があるのはドクターウィローが眠っている氷原ではありませんか?」
「もう一つは……これはグルメス王国ですね」
儂と同じく四身の拳で分身を出して手伝ってくれていた4号達が、口々にそう報告する。
「儂等がヤードラット星にいる間に、ドラゴンボールを集め出したのか」
「フラッペを演じている儂の分身が一人残っていたが、レッドリボン軍の基地にある研究室でドラゴンレーダーを見る訳にはいかんからな」
「まさか、我々の行動が読まれていたという事ですか?」
「いや、偶然じゃろう。もしそうなら、それぞれ一つではなく、儂等が留守の内にもっと集めている……むしろすべて集めきって、神龍を呼び出して願いを叶えるぐらいはするだろう」
「なるほど、我々の行動を読むという事は、我々の存在を知り警戒していなければあり得ない行動」
「なら、我々が地球にいない間に確保したドラゴンボールが一つだけとは考えられない。特にウィロー、ドクターコーチンの方は」
「ドラゴンレーダーを作るためにサンプルとして実物からデータを収集する必要があったとしても、それならその場からボールを動かすような真似はしなかったはず」
「我々の戦力に脅威を覚え、焦って行動を起こした……のなら、もっと早く行動を起こしていなければおかしい」
四人の4号がそう分析し、頷く。
儂等が地球にいない隙を突くには、そもそもドクターウィロー……ウィローは眠っているので正確には劇場版で彼を目覚めさせたドクターコーチンが、儂等の事を知っていなければおかしい。そして、知っているなら自身が開発した狂暴戦士を上回る戦士が複数存在し、ドラゴンボールについても儂が警戒している事も知っているはずだ。
なら、焦っているにしても儂等が地球にいない隙に集められたドラゴンボールが一つだけ、というお粗末な失態は犯さないはずだ。レーダーに映るドラゴンボールの位置から、自分達が行動を起こしたと知られてしまうからだ。
劇場版でコーチンがどうやってドラゴンボールを集めたのか、具体的に描写はされていなかった。だが彼もドラゴンレーダーを作って集めたはずだ。そのレーダーを作るためには、ドラゴンボールが放つ特殊な電波を検知し解析する必要がある。そのために実物を見る必要があったとしても、コーチンが儂等の事を警戒しているならドラゴンボールをその場で解析するだけにして、回収は行わないはずだ。
そして、儂等の戦力を脅威と考えて焦って動いたのなら……何年も前に動き出すはずだ。天下一武道会は、全国にテレビ放送されているのだから。4号が優勝した前々回大会の時点で、コーチンが脅威を覚えるには十分だったはずだ。
「では、このドラゴンボールは?」
「周辺に配置してあるスパイロボットも、何度チェックしても正常に機能している。そうである以上、歴史改変者が何か企んでいるのじゃろう」
儂が作った、ナメック星人の鋭敏な五感にもキャッチされないスパイロボットを、直接触れもせずクラッキングして乗っ取るのは不可能……なはずだ。なら、科学的ではない手段……魔術を使う歴史改変者の仕業だろう。
「大方、儂等とウィローをぶつけ合わせてキリを稼ぎたいのだろうが……相手の狙いが分かっていても、ウィローを放置できないのが辛いところじゃな」
ドクターコーチン達は優れた気象学の知識と技術を持っており、劇場版ではそれで森を一つ砂漠に変えている。また、自分達の素晴らしさを理解しない人類を改造して支配しようと目論んでいた。
そして、ウィローは激高すると地球諸共悟空を倒そうとした。
彼らの思想を原作と全く同じだと考えるのは危険だが、良い意味で原作と異なると楽観する事はもっと危険だ。
「では、戦力を集めて殴り込みといこう。念のために、ブリーフの家の倉庫にあるドラゴンボールには、3号を守りに付けて置く」
集めるのは、コーチンが作ったと思われる量産型狂暴戦士バイオマンと戦える、戦闘力で千以上の者としよう。
「ところでドクター、グルメス王国の方は?」
「う~む、グルメス王国がドラゴンボールを集めだしているのは、多分偶然だろう。……レッドリボン軍のスパイが潜入しているらしいが、儂(フラッペ)には情報が入ってこないから正確な判断は出来んが」
儂が今まで原作にない動きをしたせいで、グルメス王がドラゴンボールに注目したのが一年早まった可能性は十分ある。元々『神龍の伝説』は原作コミックとアニメからはパラレルワールド扱いされているので、儂が何もしなくても原作劇場版通りとはいかなかったかもしれないが。
実は、レッドリボン軍とグルメス王国には、ギョーサン・マネーを挟んで繋がりがある。グルメス王国はレッドリボン軍が製造した兵器を密輸入し、地球国に把握されないように軍備を増強しているのだ。
その点でも原作劇場版とは色々異なる。また、フラッペとして潜入している儂にはグルメス王国側の情報があまり入ってこない。……武器の密貿易はしているが、ただの製造元と顧客の関係で、両者の関係はそれほど深くないからだ。
レッド総帥はグルメス王国に自軍の最新式の兵器……光線銃等を売り込むつもりがないようであるし。世界征服の野望を叶える過程で征服するまでの間、資金源の一つとして利用できればそれで十分と割り切っているのだろう。
また、グルメス王国軍にはレッドリボン軍のスパイが潜入しているが、そのあたりの情報は兵器開発が担当のフラッペには降りてこない。多少儂も探っているが、スパイとレッドリボン軍の情報のやり取りの方法が古すぎて、把握しきれないため儂は詳しい事を知らなかったのだ。
もちろん、儂の目標はレッドリボン軍そのものなので、グルメス王国の調査にそれほど力を注いできたわけではないが。
「それでグルメス王国の方をどうするかだが、ウィロー達より明らかに対処すべき優先順位が下じゃからな……」
グルメス王がドラゴンボールを集める理由は、自身の「以前食べた物より美味い物以外喉を通らない」という体質になってしまったので、世界一美味い物を神龍に出してもらうためだ。
……普通なら、その厄介な体質を治してもらうべきだと思うが、グルメス王は体質の著しい変化と激しい飢餓感のせいでまともな考えが出来ない状態だったのだろう。
それに、それは原作劇場版の場合であって、この歴史のグルメス王は体質の治療を願うつもりかもしれない。
もっとも、どちらにしてもウィローと比べると優先度は低い。特に、歴史改変者がウィローに関わっている可能性が高い今では。グルメス王国民には悪いが。
……気がかりなのは、グルメス王国側がどうやってドラゴンボールを見つけたのかだ。原作劇場版では、ドラゴンレーダーを持っていたが、それを作ったのが誰なのかも明らかにされていなかった気がする。少なくとも、前世の儂は知らない。
「まあ、ウィローに対処した後、改めてどうするか考えるとしよう」
「分かりました」
そして儂と4号はそれぞれ一人に戻ると(儂はフラッペを残しているので、実際は二人だが)、皆に連絡を取って対ウィロー戦の戦力を集めるために動き出した。
広く、しかし照明が抑えられている薄暗い部屋のテーブルには、豪華な料理が盛り付けられた皿がいくつも並んでいた。そのどれもが一流の料理人によるものだが、それらを独占する者は苦しそうに呻くだけで美食を味わっている様子はなかった。
『ダメだ、下げろ。もう喉を通らん』
『アキマヘンカ、ホナ、オ下ゲシマス』
巨大な存在、グルメス王の命令に従って料理を下げていくのはGCコーポレーションが販売しているお手伝いロボットではない。正確には好敵手と呼べるほどの規模と質ではないが、分類上ライバル企業と呼ばれる他社が販売しているロボットだ。
シルエットも非人間的で、出来る事も限られる廉価品だが、グルメス王が必要としたのは、ロボットのその低性能さだった。……彼は、醜く肥大した自分の姿を人に見られたくなかったのだ。ロボット達ほど非人間的な存在でなければ、気にせず使う事ができなかったのだ。
『ぼんご様トパスタ様ガ、オ戻リデッセ』
『おお、すぐに通せ』
そこに、ウーロンが恐喝をしていた村から戻ったボンゴとパスタが帰還したとの知らせが届いた。
「ただいま戻りました、グルメス王様」
『それで、ドラゴンボールは?』
「はっ、こちらです」
グルメス王の異様な姿も、見慣れているボンゴ達は動揺する様子を見せずドラゴンボールを使用人代わりのロボットに渡す。
『おお、これがドラゴンボールか……!』
グルメス王はロボットから受け取った赤い星が六つ描かれた橙色の球体、六星球にギラギラとした視線を向ける。
『よくやった。それで、他のドラゴンボールを集める算段は付いているのか? どれくらいかかる?』
「それなのですが、占い婆が続けて占う事を拒否していまして……」
「金に糸目はつけないと言ったのですが、次の占いは後日と断られました」
占い婆は金にがめついが、金を儲ける事に熱中する守銭奴ではない。彼女は労働者ではなく、特別な才能で稼ぐアーティストに近い存在であり、宮殿で暮らすセレブだ。
札束で頬を叩いて言う事をきかせられる種類の存在ではないのだ。
そのため、地球に散らばる各ドラゴンボールの場所を七回連続で占うような事は拒否されてしまった。疲れたから後日また来いと言われた。
「それに、最初の占いで判明したドラゴンボールは人が所有していましたので、まず確保しておこうと考えまして――」
『分かった。ドラゴンボール集めはお前達たちに一任する。……占い婆に頼る以外の方法がないか、此方で検討しておく。その間、お前達は占い婆のアポが取れ次第、次のドラゴンボールを集めに行くのだ。金に糸目は付けない、必要なだけ使うがいい』
「「はっ!」」
敬礼をしてボンゴとパスタが退室した後、グルメス王は改めてドラゴンボールを見つめた。
彼がドラゴンボールを集め出したのは、世界中の美食珍味をいよいよ食べつくし、食べられる物がなくなりつつあったため、おとぎ話同然の伝説に縋ったに過ぎない。神頼みに近い心境で、ボンゴとパスタに探して集めるよう命令したのだ。
なお、自分の体質を治療するという選択肢はグルメス王の頭にはなかった。彼は自分の体質が変化したのを病気の類だとは……治療できるものだと思っていなかったのだ。
信頼関係が構築できている主治医でもいれば違ったかもしれないが……以前の民想いなグルメス王に戻られては困るボンゴとパスタによって、そうした家臣は遠ざけられていた。
二人からすれば、面倒な命令を聞かなければならないが引きこもっているため、国内の多くの事を好きにできる今の状況が続く方が望ましいのだ。
『このドラゴンボールを科学者達に見せ、ボールの在り処を探る方法を検討させるのだ』
『了解デスワ』
ひとしきり眺めて満足したのか、グルメス王はロボットにドラゴンボールを再び渡すと、そう命じた。なお、グルメス王国の科学者達は初めて見るドラゴンボールにお手上げ状態で、早々に白旗を上げた。
彼らはドラゴンボールが出す特殊な電波を検知する事には成功したが、使い物になるレーダーを作るのには莫大な予算と数年以上の長い時間がかかると試算したためだ。予算はともかく、時間がかかるのはいただけない。
そのため、彼らはドラゴンボールから検知した特殊な電波を取引があるギョーサン・マネーに提供し、「この反応を捉えられるレーダーを作れる科学者に心当たりはないか」と尋ねた。
ドラゴンボールの価値を知る者からすればとんでもない情報漏洩だが、グルメス王は命令を出すとき「極秘で」とか「秘密裏に」とは命じなかったし、命令された事だけをこなすロボットは彼らにドラゴンボールの価値を説明もしなかった。
ついでに言えば、グルメス王国政府にまともな科学者は既に存在しなかった。元々グルメス王国は牧歌的な農業国であったし、研究開発に多くの予算が必要な科学者はボンゴ達が国を牛耳る時に邪魔になると判断したため、なんだかんだと理由を付けて城から追い出してしまったのだ。
今いるのは、ボンゴ達の息がかかった、金さえ払えば検査結果を変える、本当に博士号を持っているかも怪しい学者達で、彼らの意識はあまりにも低かったのである。
グルメス王国では各地で……それこそ鉱山だけではなく水を抜いた湖の底、草原、森林、あらゆる地面を掘り起こして採掘している。
そこまでしなければ、満足な量のリッチストンが採掘できないのではない。どこを掘っても大量のリッチストンが採掘できるのが問題だった。
ブルドーザーで地表近くを掘り起こし、採掘した石を割ると中に光り輝くリッチストンがある。そんな環境であるため、ボンゴとパスタは牛耳る事に成功したグルメス王国軍を動員して国中、至る所でリッチストンの採掘を行わせていた。
「ここは皆の公園だったのに……」
「ああ、もうすぐ花壇の花が咲いたのに。秋には木々の葉が色づいて奇麗だったのに」
その割を受けたのが国民である。公園のような公共施設も掘り起こされ、無惨な姿をさらしている。この分では果樹園や畑、そしていつかは自分達の家まで壊されリッチストンを採掘するために掘り起こされてしまうのではないか。そう人々が暗鬱とした未来を想像した。
「……!」
そんな中、一人の少女がパチンコを取り出してブルドーザーを操縦する兵士の後頭部に狙いを定め、ゴムを引き絞った。
「パンジっ、やめなさい!」
しかし、少女……パンジが発射する前に母親が抱きしめるようにして止めた事で、パチンコから弾が発射されることはなかった。
「ん? なんだ? 何をしている!?」
しかし、別の二人組の兵士が彼女達の様子がおかしい事に気が付き、近寄ってくる。パンジの母親は怯えたように娘を強く抱きしめ、パンジは近づいてくる兵士を睨む事しかできない。
「待てっ!」
その時パンジ達と兵士達の間に、パンジの父が割って入った。
「父さんっ」
「ここは皆の公園だった! 先代の王様の像や、皆で世話をしていた花壇もあったんだぞ! それを何の断りもなく突然こんな風に……やり過ぎだとは思わないのか!?」
背が高くて逞しく優しい父は、パンジの自慢だった。だが、兵士達には生意気な一般人でしかない。
「なんだと!? 我々に逆らうのか!?」
「貴様、生意気だぞ!」
まるでチンピラかゴロツキのような様子で、兵士達がパンジの父に食ってかかる。パンジの父は自分の胸倉を掴もうとする兵士の一人の腕を、逆につかみ返した。
「むっ!」
そのまま持ち上げて兵士を投げ飛ばそうとしたパンジの父だが、腕を掴まれた兵士はそうはさせまいともう片方の腕で彼を更に掴み返した。
「こいつ!」
「どうやら、痛い目にあいたいらしいな!」
パンジの父が考えていたより、兵士達は強かった。一対一ならなんとか勝てそうだが、二対一では負けるかもしれないという程度には。
「おい、何をしている」
「ボンゴ様!」
そこに現れたのは、騒ぎに気が付いたボンゴだった。占い婆のアポが取れたのが翌日だったので、この日は彼にとっての本業……金儲けをするためのリッチストンの採掘の様子を視察していたのだ。
「おまえは!」
パンジの父や、彼の後ろで事態を見守っている人々が怒りが込められた視線をボンゴに向ける。この国をおかしくした原因が、ボンゴとパスタである事は子供でも知っているのだから当然だ。
「この男が、公園を潰された程度で我々に逆らっておりまして……!」
「ふん、そうか。だが――」
ボンゴは無惨に掘り起こされた地面から、適当な岩を持ち上げると、拳の一振りで砕いて見せた。パンジの父の背後にいる人々の顔に浮かぶ感情が、ボンゴの怪力を目にした事で怒りから恐怖に変わる。
「だが、このリッチストン一つの方が公園などより価値がある。そうは思わないか?」
ボンゴが砕いた岩の中には、大きなリッチストンがあった。それを売れば、潰された公園より広い土地を買って石像や噴水、花壇を整備してもお釣りがくるほどの金が手に入るかもしれない。
「ふざけるなっ!」
だが、パンジの父はボンゴの怪力を目にしても怖気づくどころか、彼の物言いに激高して殴りかかろうとした。
「こいつめっ!」
「大人しくしやがれ!」
だが、怒りのあまり兵士達の存在を忘れたのは失敗だった。右の兵士がローキックで体勢を崩したところに、左の兵士がボディーブローを叩きこむ。
「ぐおっ!」
そして倒れたパンジの父に蹴りを入れる兵士達。
「がはははっ! ほどほどにしておけよ!」
「あなたっ!」、「父さんっ!」と背後から聞こえるパンジとパンジの母の悲痛な声にボンゴは高笑いをあげると、パンジの父を適当に痛めつけた兵士達を引き連れて去っていったのだった。
その間も、採掘作業は無情にも続けられたのだった。
その夜、父親の手当てを終え両親が寝静まったのを待ってパンジは家を出た。愛用のパチンコに着替えに食べ物、お小遣いをリュックに詰めて。
「あの人に……天下一武道会で優勝したあの人に、お父さん達を……この国を助けてくれるよう頼みに行くんだ!」
パンジは、この国をめちゃくちゃにしている悪者達を退治してもらうため、約一年前にテレビで見た天下一武道会の優勝者を訪ね、頼みに行くつもりだった。
その優勝者とは、新たな弟子を探すために旅を続けているらしい武天老師の一番弟子、孫悟飯の義理の娘の女武道家、ギネ。
彼女は地図でパオズ山がある方向を確認すると、躊躇わず飛び出したのだった。
〇ウーロン
村々から略奪(正確には恐喝)を働いていた彼だが、人は殺していないし、金品や食料を脅し取る時も相手が生きていけない程――追い詰められた相手が破れかぶれで攻撃してこないように――ほどほどにしていたと思われるため、一つの村の被害は意外と軽いのかもしれない。しかし、原作でブルマと悟空が村を訪れた時に、悟空は変身したウーロンだと誤解されて背後から斧で頭部を強打されている。それを考えるとかなり際どかったようだが。
そう考えると、本人達は気が付いていないが原作悟空はウーロンの命の恩人であると言える。
その後、嫁にされた娘達がウーロンの豪邸で贅沢に暮らしていたのを知ったため、村人達からの恨みもかなり軟化したと思われる。
彼が嫁として連れて行った娘達に手を出していたようには、見えなかった。もしかしたら女の子を増やしたために、ウーロンの正体を知っている女の子達と彼の力関係が逆転し、強く出られなかったのかもしれない。
だが、やろうと思えば原作でブルマにしたように睡眠薬を盛る事が出来たはずなので、手を出そうと思えば出せるはずだった事を考えると、スケベだが根は悪党になり切れない人物なのだろうと思われる。
……考えてみればウーロンは悟空と同じくらいの年齢の子供だから、「見る」「触る」以上の性知識はなかっただけかもしれないが。
当時の少年漫画やアニメで陰惨な出来事を描写する訳にはいかない、というのが最も大きな理由かもしれない。
また、この作品のウーロンは原作より一年早く退治されたため、村々が受けた被害は原作より浅く済んでいるが、原作と違ってウーロンに恐喝された金品のいくつかをパスタ達に着服されているので、結果的に被害はあまり変わらないかもしれない。
〇ウーロンが攫った村娘達
原作でブルマと悟空が訪れたため、ギリギリ連れて行かれずに済んだ髪を三つ編みにした少女以外に、描写された限りでは三人おり、全員同じ村出身らしい。
ウーロンが悟空から逃げ出そうとして蝙蝠に変化した際、逃走途中で「あの村にはもういけない」と言っていたので、「あの村」以外の村へも脅しに行っているらしいのに。
「あの村」はよほど美少女が多かったのか、たまたま「あの村」以外の村にウーロンの守備範囲内の年齢の娘がいなかったのか、描写されなかっただけか。
とはいえ、ウーロンの実年齢的にそれほど昔から村々へ恐喝を行っていたとは考えにくいのと、あまり大勢の娘を連れて来ていたら生活費がかさんで日々の生活が破綻する恐れがあるので、やはり三人+αが限界だったと思われる。
〇メチカブラ
暗黒魔王メチカブラ。彼が存在する歴史では、ダーブラやトワの上司であり、昔時の界王神の座を狙った魔術師。ダーブラやトワを魔神にしたのも彼。(ドミグラがどうやって魔神になったのかは不明らしい)
暗黒ドラゴンボールをトワに創り出させて、歴史に存在する強力な悪党(ターレスやスラッグ、魔人ブウ)に取りついたそれを集め、封印される前の若々しい肉体と全盛期の力を取り戻し、時の巻物とトキトキを手に入れ歴史を支配しようと目論んでいる。
この作品では、ゲロ達がいる歴史とは異なる歴史を裏で牛耳ってキリや暗黒ドラゴンボールを集めながら、それを妨害するタイムパトロールと主に部下の魔神が戦っている。
彼がこの歴史のゲロ達の存在にあまり関心を払っていないのは、少なくともこの時点では自分達の敵になり得ない程度の存在だと、彼らを認識しているため。
〇ドラゴンボール
設定の一つに生命体の体内にあると、特殊な電波が外部に漏れないためドラゴンレーダーでも場所を感知できない、という特性がある。しかし、劇場版『神龍の伝説』ではグルメス王が飲み込んでいるドラゴンボールの反応を、ブルマのドラゴンレーダーは捉えていた。
この事から、グルメス王の肉体にはドラゴンボールが出す特殊な電波を阻害しない特性があると思われる。
〇劇場版『この世で一番強いヤツ』のドラゴンボール
ドクターコーチンが集めて、映画冒頭でウィローを永久氷壁から目覚めさせるのに使用した。そのボール集めの様子は、ドラゴンレーダーを見ていたウーロンに気づかれていた。彼は誰かがボールを集めているのではなく、ボールが自然と一か所に集まっていると思ったようだが。
コーチンは短期間でボールを七つ集めきったと思われるため、映画内では描写されなかったが彼がドラゴンレーダーを使ったのは確実。レッドリボン軍が使用していた物や、ピラフ大王が過去に作った物を何らかの方法で手に入れ、修復や改良を施したのかもしれない。
また、集めている過程でウーロン以外に気づかれなかったのは、ドラゴンボール集めのライバルがいなかったためだと思われる。
〇グルメス王
薄暗い部屋でロボットに給仕させているのは、原作通り。その理由は原作では明言されていませんが、城にいくらでも兵士がいるのに、ドラゴンボール世界では高性能に見えないロボットに給仕させるのは、怪物と化した自分の姿を見せたくないという心理があるのではないかと思いました。
〇パンジの父
原作劇場版でも名前は出ていない。原作劇場版ではボンゴには敵わなかったが、並みの兵士なら片手で持ち上げて投げ飛ばせる腕力の持ち主だった。しかし、この作品のグルメス王国兵は鍛えられていたため、兵士相手にも一方的には勝てない。
戦闘力は多分6ぐらい。
〇パンジ
父親以上に行動力溢れる少女。特に強くはないが、一人で国を出奔して助けを求めるために武天老師を訪ねようとするぐらい、行動的。一人で家を出てグルメス王国領内を出て、乗り物を使った様子もないのにかなりの距離を踏破している。特に強くないはずだが、凄まじい機動力の持ち主なのかもしれない。
年齢は悟空と同じくらい、かもしれない。
この作品では、武天老師は弟子に相応しい者を探して旅に出ていると聞いていたため、約二年前に放送された前回の天下一武道会出場者の優勝者、ギネの元を訪ねようとしているらしい。
〇劇場版『神龍の伝説』
ドラゴンボール初の劇場版。……この作者は令和になるまでこの劇場版の存在を知らなかった、ファンの風上にも置けない奴です。
原作コミック、アニメに対して完全なパラレルワールドで、原作と同じようにパオズ山で暮らす悟空の所にドラゴンボールを集めているブルマが訪ねてくるが、ボール探しのライバルとしてグルメス王国のボンゴとパスタが現れる。ピラフ大王とシュウとマイ、牛魔王とチチも登場しない。
原作コミックやアニメとはまた違ったドラゴンボールのストーリーを楽しめる、という意味では面白い作品。
また、私見ですがグルメス王国の兵器等、いくつかの点が「風の谷のナウシカ」や「ラピュタ」と雰囲気が似ており、ジブリっぽいのも魅力だと思います。
匿名鬼謀様、ラグナクス様、路徳様、くるま様、クウヤ様、にぼし蔵様、!?様、ずわい様、KAIN様、Othuyeg様、カド=フックベルグ様、Paradisaea様、酒井悠人様、あんころ(餅)様、tahu様、gsころりん様、誤字報告ありがとうございます。早速修正しました。