ドクターゲロに転生したので妻を最強の人造人間にする   作:デンスケ(土気色堂)

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49話 神龍の出番のない神龍の伝説

『リッチストンは渡さない! 全てあたしの物だ!』

 トワに強化されパスタダークとなったパスタは、強力な気弾を放った。

「きゃああっ!?」

 パンジに向かって。

 

「危ない! はあ!」

 天津飯がすかさず盾になり、気弾をかき消す。しかし、パスタは指先から自動小銃を撃つかのように小気弾を乱射し、左手で手榴弾を放るかのような仕草でそれより爆発力のある気弾を投じてくる。

 おそらく、そうした兵器を使うのが彼女本来の戦い方で、その癖が現れているのだろう。

 

 その間にラピスとラズリは協力してパンジを連れてこの場から離れようとするが、パスタはそれを察知するや気弾で逃走経路を潰しにかかる。

「くっ、なんて厄介な……! 俺の後ろから動くなよ!」

 パスタは一行の中で最も弱いパンジを狙い撃ちにし続けていた。そうする事で、天津飯が彼女の盾になり気弾を受け続けさせる事が出来るからだ。

 

 気弾を気合でかき消し、強靭な肉体で弾き続けている天津飯だが、彼も人間だ。続ければ気力は削られ、細かなダメージは蓄積され、いずれ直撃を受けてしまうだろう。

 気の大きさではパスタより天津飯の方がまだ大きいが、攻撃側が防御側より有利なのは明らかだ。

 

(なんて姑息な! いや、これが悪党の戦い方……想定していなかった俺の油断がこの窮地に陥った原因か!)

 ボンゴや四天王達が、おそらくゲロの言う歴史改変者の手によって強化されるのを見ていながら、パスタが強化される、そして強化された彼女が自分に匹敵する力を手に入れる事を想像しなかった自分を天津飯は責めた。

 

「おいっ、どうにか出来ないのか!?」

『一瞬でも奴の注意が逸れれば奥の手が使える。それでどうにか出来るはずだ!』

 ラピスの声に、テレパシーで答える天津飯。しかし、その一瞬の時間を稼ぐのが難しい。天津飯も守り切れないかもしれない相手に、ウーロンを使うのはさすがに彼女も良心が痛む。

 

「おいっ! こっちを見ろ!」

 だが、その時パスタが完全に注意を払っていなかった存在……彼女を見て固まっていたはずのヤムチャが声を張り上げた。

 

「ヤムチャっ、止せ! お前ではこいつの気弾に耐えきれない!」

 そう制止する天津飯。しかし、パスタは気弾を放ち続けながらチラリとヤムチャに視線を向けた。

 そこには、いつの間にか目隠しをしたヤムチャがリッチストンを手に握って不敵に笑っていた。

 

「はあっ!」

 そして、ヤムチャはなんと世界一の宝石と名高いリッチストンを、パスタが見ている前で粉々に握り砕いた。

『な、なんて事を!』

 目を見開いてヤムチャを見るパスタ。彼女の金銭欲とリッチストンに対する執着は、キリで強化された事によって増加した狂暴さや攻撃性を上回っていた。

 

『今です、ヤムチャ様!』

「太陽拳!」

 何処からか響いたプーアルの声に応えて、ヤムチャが太陽拳を放つ。文字通り太陽のような閃光をまともに見てしまったパスタは、悲鳴をあげて手で顔を覆った。

 

 気弾による攻撃が完全に止まり、一瞬以上の十分な時間を得た天津飯は素早く行動した。両手の親指と人差し指を合わせて窓を作り、照準をパスタに合わせて二つの技を発動させる。

「気功砲!」

 

『っ!? きゃあぁぁぁぁ!?』

 凄まじい気の奔流を無防備に受けたパスタは、彼女の背後の壁と一緒に城の外まで吹き飛ばされていった。キリで強化されていたから死にはしないだろうが、しばらく動く事は出来ないだろう。

 

 それを見送ってから、目隠しに変化していたプーアルは元の姿に戻った。

「やりましたね、ヤムチャ様!」

「ああ、プーアルが目隠しになってくれたおかげだぜ」

 硬直していたヤムチャが動けるようになったのは、プーアルが彼の視界を封じたからだった。視界を封じられていても気でだいたいの位置は分かるし、プーアルが合図をくれるので太陽拳を使うのに不自由はなかった。

 

「もっとも、やったのは天津飯……どうした!?」

「て、天津飯さん!」

 強敵を倒した事で緊張感が緩みかけたヤムチャだったが、気功砲を放ってパスタを倒したはずの天津飯が白目を剥いて膝を折ったのを見て、血の気が引いた。パンジも、悲痛な声をあげる。

 

 だが、天津飯はそのまま地面に崩れ落ち、空気に解けるように消えていった。

「天津飯~っ!?」

「すまん、ヤムチャ、本物の俺はこっちだ」

「えっ? 天津飯!?」

 消えた天津飯のすぐ近くに、パンジとラズリに助け起こされている天津飯の姿があった。

 

「先ほど使った気功砲という技は、強力だがとても危険な技で使い方を誤ると最悪命を落とす。そうでなくとも、寿命が縮むほど体に負担をかける。

 そのため、鶴仙人様と会長から出来るだけ使うな、使う場合は四身の拳で出した分身に使わせるようにと言われていたのだ」

 

 強敵であるパスタを、パンジ達に危険が及ぶ前に出来るだけ早く倒すための技として、天津飯は気功砲を選んだ。そして、ヤムチャが稼いだ時間で四身の拳……正確には二身の拳を使用。自分を、一割の気の本体と、九割の気の分身に分けた。

 そして、分身がその気を全て込めた気功砲を放ってパスタを吹き飛ばしたのだ。

 

 もしパスタがリッチストンに執着せず、周囲のリッチストンが傷つくのに構わず大規模な攻撃をしていれば、パンジ達を守るために天津飯は負けていたかもしれない。

 とは言え、勝った天津飯も気の九割を失ったため無傷とは言い難い。

 

「おい、さっさと仙豆を食って回復しろ」

「いや、だが仙豆の数に余裕はない。もしもの時のために――」

「リーダーのお前がへばっている今が、もしもの時だろ。いいから食え」

 しかし、こういう時のために天津飯達はそれぞれ仙豆を預かっていた。殆どの仙豆は瞬間移動が使えるチャオズとブルマ、そしてプーアルが持っているが、一人一個は懐に隠し持っていた。

 

「もうこの城の中に大きな気の持ち主は悟空達が戦っているボンゴぐらいだが……そうだな。念のために食っておこう」

 歴史改変者がどういう基準で強化する対象を選び、対象をどれほど強化するか決めているのかは不明だ。しかし、ただの兵士を悟空やヤムチャ並みに強化する事が可能なら、十分の一の気のままでいるのは危険だ。そう考え直した天津飯は、仙豆を噛み砕いて飲み込んだ。

 

「よし、グルメス王のところまで急ぐぞ! ウーロン、リッチストンの欠片を拾うのはよせ」

「分かったよ、ケチ!」

 そして天津飯達が再び進みだした時、城が一際大きく揺れた。

 

 

 

 

 

 

 時間はやや巻き戻り、悟空とチャオズはボンゴと再戦に臨んでいた。

「行くぞっ!」

『今度こそ止めを刺してやる!』

 グルメス城の塔の屋根や壁を駆けまわり、ボンゴに飛び掛かる悟空。如意棒と金属棒がぶつかり合い、火花を散らす。

 

『こいつっ、さっきよりも強くなっている!?』

「へへっ、オラ達は復活する度に強くなるんだよ~だ!」

『そうか! なら次はちゃんと殺してやる!』

「もう二度とお前なんかにやられるか!」

 

 悟空はそう言うと、自分の頭を叩き割ろうとするボンゴから離れて城の屋根に着地した。舞空術が使える彼は、その気になれば空中に留まって戦い続ける事が出来る。しかし、悟空にそのつもりはなかった。

 何故なら、死の淵から蘇るたびに強くなるサイヤ人の特性によって強くなった悟空だが、まだキリで強化されたボンゴの方が強い事が分かっていたからだ。

 

『逃がさん!』

 悟空を逃がさず接近戦を続ければ、勝つのはボンゴだ。ボンゴもそれを理解しているため、悟空を追いかけるが……。

「どどん波!」

「くらうだ!」

 

 しかし、そうはさせじとチャオズのどどん波とチチのレーザーが邪魔をする。

『ぐううっ! うおおおおお!』

 悟空への追撃を邪魔されて苛立ち、獣のように吠えるボンゴ。彼は完全に孤立していた。しかも、徐々に体力を失い弱体化しつつあった。

 

 トワに強化された時には、彼は既に悟空の如意棒やチャオズとブルマのどどん波によって大きなダメージを受けていた。キリによって強化されても傷が治るわけではないため、彼は負傷したまま戦い続けているのである。

 痛みは増大した狂暴さと攻撃性で無視しているが、激しく動く度に肉体は悲鳴をあげている。それにより、ボンゴの総合的な戦闘力は200から150へ下がってきている。

 

『邪魔をするな!』

 だが、依然として強敵である事に違いはない。ボンゴが連射した気弾を、悟空達は慌てて回避する。

『ジャイアントフライングニードロップ!』

 だが、巨大化したままボンゴの上空に瞬間移動したブルマが、落下しながら彼に特大のニードロップを喰らわせようとする。

 

『化け物が! 死ねぇ!』

 しかし、ボンゴは慌てずに放つのを気功波に切り替え、自分に向かって落ちてくるブルマに向かって渾身の気を込めて放った。

 

 だが、その瞬間ブルマの姿が掻き消える。彼女の攻撃は、ボンゴの注意を引き付けるためのフェイントだったのだ。

 しまったと、ボンゴが注意を悟空達に戻した時にはもう遅い。

 

「でやぁーっ!」

 伸ばした如意棒を振り上げて飛び上がった悟空から、ボンゴは『チィッ!』と舌打ちして逃げた。渾身の気を込めた気功波を撃った直後で体勢が崩れ、気が溜まっていなかったからだ。

 そして、素早く身を翻して悟空の攻撃から回避した。そう思った時だった。

 

「悟空さ!」

 チチが投じたカッターが悟空目掛けて飛んで行く。ボンゴは自分に当たるどころか、同士討ちしかねない彼女の行動を暴投だと思い鼻で笑おうとした。

 悟空がそのカッターを蹴って、空中で素早く方向転換したのを見るまでは。

 

『馬鹿な!?』

「くらえーっ!」

 悟空は渾身の力で如意棒をボンゴに叩きつけた。ボンゴは動揺しながらも、金属棒で如意棒を受け止めようとする。しかし、金属棒は如意棒に耐えられず折れてしまい、ボンゴはその身で悟空の一撃を受けてしまった。

 

『ぐああああっ!?』

 ボンゴは悲鳴をあげながらグルメス城に落下し、屋根を突き破って悟空達の視界から消えていく。

「やった! 勝ったぞ、チチ!」

「やったべ、悟空さ!」

 

 その時、轟音とともに膨大な気が城の中から放たれた。壁の一部と、一瞬だが誰かが一緒に吹き飛ばされていったのが見える。

「天達だ!」

『だいぶ苦戦したみたいね。でも、後は王様と話を付けてドラゴンボールを取り戻せば解決よ!』

 

 ブルマが後一息だと声をあげた時、城の中に引きこもり続けていたグルメス王は天井を突き破って落ちてきたボンゴの姿を目にして、困惑していた。

『先ほどから騒がしいと思っていたが、何かあったのか?』

 呆れた事に、彼は何が起きているか把握していなかった。それだけボンゴ達がグルメス王に届く情報を制限し、そしてボンゴに牛耳られていたグルメス王国軍が彼を軽視していたという事を表している。

 

 事態を把握していたとしても、グルメス王には軍の指揮経験も、特別高い戦闘力も持ち合わせていない。肥大化した肉体は一般人や兵士達には脅威でも、ボンゴ四天王達にとっては醜悪で巨大な的に過ぎない。原作より圧倒的に強くなった悟空達にとっても、強敵たりえない。

 

 しかし、それはトワの手で強化されるまでの間だった。

『おっ? おおっ? ぬぅおおおおおお!? なんだ、これは!?』

 苛まれていた倦怠感が薄れ、腹いっぱい美味い物を食べた後のように全身に力が漲る。だが、飢餓感はそのままで、胸の内に湧いてくるのは満足感ではなく何かを壊したい、破壊したいという衝動だけ。

 

『ウオオオオオオオッ!』

 足元で白目を剥いたまま転がっていたボンゴを蹴り飛ばした事すら気が付かないまま、グルメス王は咆哮を轟かせながら壁や天井を突き破った。

 

「っ!? なんだ、急にでかい気が……」

「悟空っ、チチっ、ここから逃げて!」

 チャオズがそう叫んだ次の瞬間、城を内側から破壊しながら巨大グルメス王が姿を現す。その禍々しくも巨大な気と姿に、悟空達は度肝を抜かれた。

 

「あのボンゴって奴、怪物になって戻って来たのか!?」

「た、多分違う! あいつの気は何処かへ飛んで行ったから、別人!」

 チャオズのお陰で大きく飛びのき、まだ無事な城の屋根に着地した悟空はボンゴが怪物になったのかと勘違いしたがチャオズが訂正した。それが聞こえたわけではないだろうが、グルメス王は叫び声をあげた。

 

『我こそはグルメス王! 逆らう者は皆食ってしまうぞ!』

 そして、ブルマに向かって口から気弾を放った。

 

『ひええっ!?』

 ブルマは悲鳴をあげながら巨大化を解き、それによってグルメス王の気弾を回避。気弾は彼女の遥か後ろの地面に着弾して大爆発を起こした。

 

「凄え威力だ。ターレス兄ちゃんやタイツの気弾みてぇだぞ」

 その威力は悟空がそう評すほどで、着弾した場所が戦車や装甲車の残骸しかない戦場跡でなかったら大きな被害が出ていただろう。

 

「ん? チチっ、チチは何処だ!?」

 そして、悟空はチチの姿がない事に気が付いて慌てて周囲を見渡す。彼女の気が近くにあるのは分かるのだが……。

「孫君っ、あいつの手を見て!」

 瞬間移動で近くに来たブルマが指さした方を悟空が見ると、なんとチチはグルメス王の手に捕まれていた。

 

 ぐったりとしているが、気はあるし小さくなってもいない。衝撃で失神しているだけのようだ。しかし、彼女の命は風前の灯火である事に違いはない。

『まずは、こいつから食ってやる!』

 グルメス王が失神したままのチチを、本当に食おうとしたからだ。おそらく、キリで強化された事で増大した攻撃性と凶暴さが、飢餓感と結びついてしまったのだろう。

 

「チチを助けるぞ!」

「分かった!」

「天津飯を待ってる時間はないわね。ああもう、何やってるのよ!」

 

 三人は急いでチチ救出のために動き出した。チャオズはグルメス王の顔目掛けてどどん波を乱射し、彼の注意をチチから逸らす。

『食事の邪魔をするな!』

 苛立ったグルメス王は、チャオズ目掛けて拳を横なぎに振るう。無事だった城の塔が砕け散ったが、チャオズは瞬間移動を使うまでもなく回避した。

 

 強化されたグルメス王の戦闘力は、2010。それに対してチャオズの戦闘力は75。圧倒的な差だが、武を嗜んだ経験のないグルメス王の動きは緩慢で無駄が大きく、しかも図体が大きいせいで小回りが圧倒的に効かない。幼い時から鶴仙人の指導を受けてきたチャオズにとって彼の動きは、「今からこんな風に攻撃しますからね! いいですね!?」と怒鳴りながら攻撃しているのと同じだ。

 

「そ、そんな攻撃に当たるか、デブ! ブサイク!」

 だが、万が一当たれば……掠っただけでも天津飯の好物である餃子に使う挽肉のようにされかねない。チャオズは内心恐怖に震え上がりながらも、友達を助けるため必死に勇気を振り絞ってグルメス王を罵倒して煽る。

 

『っ! ぶ、無礼者ーっ!』

 そして、チャオズの罵倒は、グルメス王を激昂させるには十分だった。チチを丸呑みにしようとするのを止めて、空いている方の腕を振り回した。

 

「うわわっ、わわわ!」

 瞬間移動と残像拳を同時に使う残瞬拳を使用して、必死に逃げ惑うチャオズ。幸いなことに、グルメス王は激高するあまりキリで強化された事で可能になったはずの気の感知を使う事を忘れ、目に頼り切っていた。おかげで、気の大きさに圧倒的な差があってもチャオズは攻撃を避け続ける事が出来ている。

 

 グルメス王の注意が完全にチャオズに集中したのを見計らって、ブルマが彼の目の前に現れる。

「太陽拳!」

『グオオ!? め、目がぁ!?』

 自分より巨大なグルメス王の目を太陽拳の閃光で焼いたブルマは、再度瞬間移動を使って離脱する。そのすぐ後に、グルメス王は視界を焼かれたショックと驚愕でチチを放し、両手でたまらず顔を抑えた。

 

「今だ!」

 そして、グルメス王の手から落ちたチチをグルメス城の柱に乗った悟空が空中で受け止めた。

(うん……悟空さ?)

 その衝撃でチチの意識がうっすらと戻る。

 

(なんでオラ、悟空さに抱き上げられてるんだべか!? しかも、お姫様抱っこでねぇか!?)

 しかし、失神する前の記憶がまだはっきりしないため、状況が理解出来ない。

 

『グウオオオ! 貴様っ、よくもやってくれたな! 儂の獲物を返せ!』

「チチは絶対渡さねぇぞ!」

 まだ視界が戻っていないのに、滅茶苦茶に両腕を振り回すグルメス王から逃げ回る悟空。乗っていた柱から飛び降りて、まだ辛うじて崩壊していない城の屋根を飛び跳ねるようにして回避する。

 

(ご、悟空さがオラを抱きしめながら、オラの事渡さねぇって!? こ、これはもしかして、プロポーズだべか!?)

 悟空が乗っていた柱や、さっきまで立っていた城の塔が粉々に砕かれるが、チチの頭は悟空の事でいっぱいである。

 

「起きたかチチ!? 大丈夫か?」

 その時、チチが意識を取り戻したことに悟空が気づいた。

「だ、大丈夫だべ!」

 

「そうかっ! なら、オラにしっかり摑まってろ!」

「は……はいっ!」

(もしかしなくてもプロポーズだべ! それに、人前でこんなに熱烈に抱き合ったら、もう悟空さの所にお嫁に行くしかねぇ!)

 悟空の首に腕を回してギュッと抱きしめたチチの胸は、ときめき高鳴っていた。

 

 もちろん、悟空にはそんな意図はない。ただ本調子ではなさそうなチチに仙豆を食べさせている余裕がなく、一緒に逃げ回らなければならない。そのためには、彼女にしっかり抱き着いてもらわないと動きにくくて仕方がないからだ。

 

「孫君、チチちゃんは!?」

「おう、無事だぞ!」

「なら、逃げよう! ボク達じゃ倒せない!」

 飛び跳ねて逃げながらチャオズとブルマの二人と合流した悟空だったが、チャオズの言う通りグルメス王は彼等だけでは倒せない。

 

 隙を突けばとか、策を練ればとか、そうした工夫をどれほど凝らしても覆せない程、彼らとグルメス王の力の差は圧倒的だ。

 これが天下一武道会のようにルールのある試合なら、ルールを利用して勝つことも不可能ではない。しかし、ここにはルールも無ければ審判もいない。

 

『そこか!』

 そのグルメス王の目が回復したのか、それまでよりは正確に悟空達に向かって腕を振り下ろす。

「かめはめ波!」

「スーパーどどん波!」

 だが、地上から放たれた気功波がグルメス王の腕に当たり、横に逸らす事に成功した。

 

「チャオズ! 皆を連れてこっちへ来い!」

 パスタを倒した天津飯達が、救援に駆けつけたのだ。

「天!」

 実の兄同然の兄弟子の姿を見つけたチャオズが、悟空達を連れて瞬間移動で駆けつける。

 

「でも、どうするんだい? 天津飯でもあいつには勝てそうにないよ」

「ええっ!? 勝てないのかよ!?」

 ラズリの言葉にウーロンが悲鳴をあげるが、実際一行の中では圧倒的に強い天津飯でも、キリで強化されたグルメス王の気の三分の一程しかない。

 

(プラズマブーストを使用して攪乱し、隙を狙えば勝機はゼロではない。……いや、だがそれ迄に奴が気弾を乱射すれば、被害が市街地に及ぶかもしれん!)

 どうすればグルメス王を倒せるか考える天津飯に、悟空が尋ねた。

 

「なあ、悔しいけどよ……オラ、どうしようもなくなったら仕方ねぇと思う」

「仕方ない? ……そうか! たしかに、プライドに拘っている場合ではないな」

「なるほどな。やれやれ、名誉挽回はお預けか」

 悟空の言葉の意味が分かったのか、天津飯、そしてヤムチャも苦笑いを浮かべる。

 

『ちょこまかと逃げ回りおって! 纏めて吹き飛ばしてくれる!』

 苛立ちが頂点に達したらしいグルメス王が、口を大きく開いてそこに気を集中させ高め始める。ブルマに放った気弾とは段違いの威力の気功波を放ち、悟空達を跡形もなく消し飛ばすつもりのようだ。

 

「じっちゃ~ん! 助けてくれ~!」

『鶴仙人様! 申し訳ありません、俺達の手にはもう負えません!』

「もしもしっ、武天老師様!?」

 それに対して、悟空はウーロンの悲鳴をかき消すほどの大声で、天津飯はテレパシーで、ヤムチャは持って来ていたスカウターを装着して、それぞれ呼びかけた。

 

「うむ、よく見極めた」

「後は任せるべ! ところで、チチの声が聞こえなかっただが、無事だべか?」

 その声に応えて孫悟飯と牛魔王が即座に現れ、彼らにその頼もしい後ろ姿を見せた。

 

『ええい、諸共消し飛べ!』

 突然現れた二人に構わず、グルメス王の口から町一つ程度なら容易く消し飛ばせるだろう威力の気功波が放たれる。

 

「「かめはめ……波ぁ!」」

 だが、孫悟飯と牛魔王は同時にかめはめ波を放って力を合わせ、グルメス王の気功波を押し返した。

『馬鹿な!?』

 白い光に包まれて爆発したグルメス王だったが、その巨体に相応しい防御力とタフネスのお陰で大したダメージは受けた様子はない。

 

「ギリギリじゃが、及第点としてやるか。

 どどん! 波ーっ!」

 だが、二人に続いて現れた鶴仙人が放ったどどん波が直撃すると、断末魔のような悲鳴をあげながら、腹の中にあった物を吐き出した。

 

「及第点なら悪くあるまい。さ、仕上げじゃ……魔封波!」

 そして、亀仙人がキリの強化が解け始めたグルメス王に向かって止めの一撃……ではなく、魔封波を仕掛ける。

『おっ、おおおっ……!?』

 嵐のような気の奔流にグルメス王の巨体が浮き、引き伸ばされ、亀仙人の前に置かれた壺に吸い込まれるように入っていった。

 

「しばらくその中で反省すると良い。ダイエットにもなるじゃろう」

 そして、ガタガタと揺れる壺に蓋をして封印の札を張り付けた。

 こうして、グルメス王国での「戦い」は終わったのだった。

 

 

 

 

 

 

 グルメス王の巨体が消え、自身がかけた強化が解けた事に気が付いたトワは肩をすくめた。

「試合に負けて、勝負に勝った、という事かしら」

 グルメス王は負けたが、トワの目的は彼を勝たせることでも悟空達を殺す事でもない。歴史を改変して、さらなるキリを稼ぐ事だ。

 

 そして、正史であったはずの神龍の召喚が起きず、無かったはずの孫悟飯や牛魔王、鶴仙人に亀仙人の介入が起きた。それどころか、正史なら一年後に起きるはずだった悟空とチチが結婚するきっかけまで起きた。

 十分すぎる歴史改変だ。グルメス王やパスタの強化に使った分を回収して余りあるキリを手に入れる事が出来た。

 

 そして、新しい手駒も試せた。

「ミラっ、もう十分だわ。ここまでにしましょう」

「トワ、だが……」

「この俺様が、大人しく行かせると思うか?」

『……!』

 撤退を指示するトワだが、ミラとベジータ、そして仮面のサイヤ人の三つ巴の戦いの決着はまだついていなかった。

 

 実力的には、スーパーサイヤ人ブルーになったベジータが頭一つ抜き出ている。しかし、スーパーサイヤ人となった仮面のサイヤ人の攻撃が、最も強い彼に集中するのでミラを倒しきれなかったのだ。

「貴様らのちょっかいには、俺もうんざりしているんだ。いい加減決着を付けさせてもらうぞ」

「それは別の歴史の私達でしょう?」

 

「フンッ、知った事か。そもそも俺は貴様らのやり口が気に食わん! 暗黒ドラゴンボールだの魔力だの、好き勝手に横槍を入れやがって!」

 ベジータはトワ達を逃がすまいと気弾を放とうとするが、トワは構わず空間移動のための穴を開いた。ベジータの前に。

 

「なんだと!?」

 穴の向こうに街並みが見えるのに気が付いて、ベジータは反射的に気弾を撃つのを止めていた。その隙に、トワ達はいずこかへ逃げ去っていた。

 

「チィ! この俺も随分と甘くなったもんだ」

 自分がいた歴史とは異なる歴史の、何処かの町を破壊するのを恐れて、反射的に止まった自分にそう舌打ちをするベジータ。

 

『何言ってるのよ! あなたがこの歴史の町を破壊したら大問題じゃない。やめて大正解よ!

 悪いのは、この歴史の人達を盾にしたトワ達でしょ!』

 何処からか響いてきた時の界王神クロノアの慰めなのか叱責なのか分からない言葉を無視して、ベジータは鼻を鳴らして話題を変えた。

 

「おい、歴史改変とやらは本当に防げたのか? それにしては、この歴史のブルマの様子が妙だ」

 正史……原作ではサイヤ人襲来編で登場し、ナメック星編が終了した後地球に移住したベジータは、それ以前の歴史に詳しくない。

 

 そんな彼にも、明らかに妙だと分かる事があった。ブルマが強すぎる。

 歴史が異なるため彼の妻であるブルマとは、別のブルマである事は理解しているし、別のブルマである以上違いがあってもおかしくない事も理解している。

 

 しかし、この歴史のブルマはそれを考慮しても気が大きすぎる。仮面のサイヤ人やミラとの戦いに集中していたため、しっかり見ていた訳ではないが巨大化したり、瞬間移動したり、どどん波や太陽拳まで使っていたような気がする。

 

 あれは本当にブルマなのだろうか? そうベジータが戸惑うのも当然だろう。

 

『ごめんなさい、この歴史についてはまだ調査中なの。後で伝手に頼んでこの歴史に起きている異変の中心人物に事情聴取するつもりだから、それまで待ってちょうだい』

「いいだろう」

 そして、ベジータは時の巣へ戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 周囲に複数の人の気配を覚えて、パスタはうっすらと意識を取り戻した。

「なに……何が……?」

 全身に倦怠感が残っているが、痛みはない。どうやら意識を失っていたらしいが、何故そうなったのか覚えていない。

 

 記憶は、リッチストンを持ち出すためにホイポイカプセルのコンテナに入れ替えていた途中で、天津飯達が壁を壊して現れたので、彼らに降伏したところで途切れている。目にも止まらない速さで当身でも受けたのだろうか?

「おっと、お目覚めだ。いや~、頭でも打ったのかと心配しましたぜ」

 そう思ったパスタだったが、聞き覚えのある声がしたので違うらしいと思い直した。

 

「オレガノ……何があった?」

 次第にはっきりした頭で周囲を見回すと、そこは大型の輸送機の中だった。彼女は機内に作られた即席の寝床に寝かされていた。

 

 そして看病していたらしいオレガノに、兵士が何人か。そして、横には自分と同じように横になっている包帯だらけのボンゴ。

「ボンゴ!?」

 

「ああ、見た目は派手にやられてますけど、命に別状はないそうですぜ。まあ、包帯だらけなんで、見た目は半死人に見えますけどね。

 まあ、腕の骨やら肋骨やらが何本か折れてるし、打撲やら切り傷やらが無数にありますけど」

 

 オレガノがそう言う通り、見た目はミイラ男のようになっているボンゴだが、しっかり生きているようだ。ほっと安堵したパスタは、胡乱気な顔をしてオレガノを見上げた。

「それで、これはどういう事だい?」

 姉さんと呼んで敬ってきたパスタにそう問われたオレガノは、肩をすくめて見せた。

 

「どういう事って……旦那と姉さんの指示通りに逃げ出す準備をして、何らかのアクシデントで城から吹っ飛んできたお二人を回収して、こうして手当てしながら逃げてるんじゃないですか」

「確かにそれは助かったけれど……なんでレッドリボン軍の軍服を着てるんだい?」

 そう指摘されると、オレガノと名乗っていた男はニヤリと笑った。

 

「そりゃあ、俺がレッドリボン軍から送り込まれたスパイだったからですよ。これからはオレガノじゃなくて、オレンジ少佐って呼んでください。

 それで、これは提案なんですがね……レッドリボン軍に転職しません?」

 




〇パスタダーク

 リッチストンをホイポイカプセルのコンテナに移している途中で、天津飯達と遭遇。トワに強化された事でそのまま戦闘へ突入したが、強すぎる金銭欲とリッチストンへの執着からリッチストンを失うような戦い方は出来なかった。彼女の天津飯に対する攻撃が、いわゆるグミ撃ち気弾や爆発力を抑えた気弾だったのは、建物が崩落してリッチストンが埋もる事を防ぐため。

 もしパスタがリッチストンに構わず、全力でパンジ達を狙っていた場合、彼女達を守らなくてはならない天津飯はパスタに負けていた可能性が高い。



〇グルメス王

 モンスター型地球人。元々は民思いな王だったが、ボンゴとパスタが取り入って美食に耽るよう誘導され、それにしか関心を持たないようにされてしまった。
 肉体は肥大化し、以前食べた事のある物より美味い物でなければ喉を通らないという特異体質になってしまう。
 それが原因で飢えに苦しむようになり、ドラゴンボールを集めて神龍に世界で最も美味い物を出してもらおうと企み、ボンゴとパスタにボール集めを命じた。

 原作劇場版では悟空がボンゴを倒した後現れ戦う事になるが、悟空のかめはめ波を受けても耐えきる驚異的な耐久力を見せる。しかし、体内にドラゴンボールを飲み込んでいる事をブルマに見抜かれ、彼女が持っていた残りのボールを口の中に投げられた後神龍を呼ばれた事で倒される。

 ただ、死んだわけではない。パンジの私達の国を元に戻してという願いによるものかは不明だが、贅沢によって肥大化する前の姿に戻り、彼女が差し出したごく普通のリンゴを食べて「美味い」と言っていた。
 その後、パンジの父親達に叱られ反省する事になる。

 戦闘力は10少々。ボンゴ達と変わって特に訓練をしたわけではないので、原作劇場版と同じくらい。
 しかし、トワによって強化されてグルメス王ダークになり、2010にパワーアップする。
 そして、特撮映画の怪獣並みに巨大化してしまった。主な攻撃方法は口から吐く気弾や気功波、そして腕を振り回す事。

 一般的な地球人基準では絶大な力を手にするが、やはり武道の経験は無いため素人の喧嘩殺法と遠距離攻撃しかなく、更に巨大化したため小回りが利かない、死角が多い、俊敏に動けないため攻撃がほぼ避けられないという弱点が生じた。

 この作品では亀仙人の魔封波で封印された。この話が終わった時点では、トワの強化は解けているが、贅沢三昧の結果肥大化した肉体と変異した体質は治っていない。



〇チチ

 原作のパンパンからの「この人のお嫁に行くしかない」のエピソードは発生しなかったが、悟空にグルメス王から助けられた事で……正確には助けられた後のお姫様抱っこと悟空の言葉で、「この人のところにお嫁に行くしかない」と心に決めた。

 なお、この作品の悟空とチチは原作コミックと比べると圧倒的に交流が多かったので、こうしたイベントが無くてもくっついていた可能性は十分あった。
 チチにとって悟空以外にもターレスやラピス、チャオズ、天津飯、ヤムチャなど異性の友人や知人はいるが、その中で最も仲が良いのが悟空なのは変わらない。

 また、孫悟飯と牛魔王とサン夫妻の間で近い将来二人を許嫁に、という話になった可能性も高い。



〇保護者達

 実は、ちょっと離れたところで気を消して様子を伺っていた。
 亀仙人達だけではなくゲロやギネも来ていたが、歴史改変者がさらに何かした場合に対処できるよう待機していたので、仮面のサイヤ人は彼女の姿を見ていない。



〇オレガノ

 実はレッドリボン軍から送り込まれたスパイで、本名はオレンジ少佐。その目的は、リッチストンの埋蔵量が世界一である事が明らかになったグルメス王国に潜入し、その利益をレッドリボン軍にもたらす事。

 オレンジがスパイ活動を始めた頃のグルメス王国は、まだリッチストンの採掘が可能だと分かったばかりで国は普通だった。
 しかし、彼が送り込まれたすぐ後にボンゴとパスタがグルメス王国に目を付け、グルメス王に取り入ってどんどん権力を手にしていったため、方針を転換。

 オレガノと偽名を名乗って軍に入隊し、ボンゴやパスタに取り入る事でさりげなくレッドリボン軍に利益をもたらしていた。……グルメス王国軍の兵器や軍用品の購入先をレッドリボン軍にしたり、リッチストンを横流しするなど。
 それらの工作はボンゴとパスタの陰に隠れて、誰にも見つかることは無かった。

 なお、彼がトワにキリで強化する対象として選ばれなかったのは、彼がボンゴ達の指示に従って逃げ出す準備をして、早々にグルメス城から離れたため。
 そのお陰で、気功砲に吹き飛ばされたパスタや、グルメス王に蹴飛ばされたボンゴを回収する事が出来た。

 プロット1号では、候補をパスタ関連縛りで考えていたのでホワイト将軍(ホワイトソース)がスパイになる予定だった。しかし、「いくら人手不足でも、将軍になるような大幹部を長期間潜入任務に派遣するだろうか?」と思うと不自然に思えたため、オリジナルキャラのオレンジ少佐(オレガノ)が誕生しました。




 ユウれい様、どてら様、N2様、酒井悠人様、クロスオーバー大好き侍様、太陽のガリ茶様、車道様、カド=フックベルグ様、KK1147様、gsころりん様、アマラ深界在住様、みえる様、誤字報告ありがとうございます。早速修正しました。
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