ドクターゲロに転生したので妻を最強の人造人間にする 作:デンスケ(土気色堂)
レッドリボン軍の基地のレッド総帥の執務室で、長い潜入任務を成功させて帰還したオレンジは、とても困惑した様子で立っていた。
「よく帰ってきた、オレンジ少佐。長い潜入任務に耐え、我が軍のために働いてくれた貴官の献身と忍耐、勇気、そして何よりも忠誠心は我が軍の誇りであり、全ての将兵が模範とすべきものだ!
貴官の働きと貢献を我がレッドリボン軍は讃え、報いる事を約束しよう!」
「あ、ありがとうございます、レッド総帥?」
「ん? どうした、オレンジ少佐? 何か希望があるなら言ってみると良い。それとも、儂の顔に何かついているのか?」
「いや、顔には付いていませんが……」
グルメス王国軍にオレガノと名乗って潜入していたオレンジ少佐は、レッド総帥に自分が覚えている大きな違和感をどう伝えるべきか分からず、歯切れ悪く言いよどんだ。
レッド総帥の姿を見るのは数年……四捨五入すれば十年ぶりになる彼の目から見ても、顔は変わっていない。多少老けたかな、と思う程度だ。
変わったのは顔の位置だ。レッド総帥の背が、メチャクチャ伸びている。以前は見下ろさないと目が合わなかったのに、今は目線を上げないと目が合わない。
数センチ程度なら、何かの拍子に背が伸びる事もあるかもしれないし、シークレットシューズを使っているとも考えられる。しかし、明らかに五十センチ以上背が伸び、しかも体形まで変わっている。
これが何年かぶりに会った親戚の子の成長なら、「大きくなったね」で済ませるが、何年かぶりに会った年上の上司の成長は済ませられない。
(潜入任務前は俺の腹ぐらいの背だったのに、なんで今は俺より背が高くなってるんですか!?)
そう言いたかったが、オレンジが潜入任務に就く前のレッド総帥にそんな事を口に出したらただでは済まない。下手したら処刑だ。せっかく長期任務を成功させたのに、その見返りが鉛玉になるのは絶対に避けたい。
「総帥、彼は何年も前からレッドリボン軍から離れていたので……」
「おおっ、そうだったな! 儂の背がちょっと伸びたので戸惑っているのか! はははっ! 前よりもハンサムになっただろう!?」
「え、ええ、見違えました」
「そうかそうか、見違えたか! ははは、お前がグルメス王国に潜入している間に、ちょっとな!」
上機嫌になって笑いながら話すレッド総帥だが、何故背が伸びたのか具体的な事は話そうとしない。そのせいでオレンジの困惑は深まるばかりだった。
思わずブラック補佐に視線を向けるが、彼も説明しようとはしない。だが、代わりに小太りな男を視線で指した。
この男がレッド総帥の身長が伸びた事に一枚かんでいるらしい。その男を直接見るのは初めてだったオレンジだが、映画で似た姿の役者を見た覚えがある
「ああ、彼はお前が潜入任務に就いている間に我がレッドリボン軍に加わったドクターフラッペだ。グルメス王国軍に払い下げたフライングソーサー等の兵器も、彼が開発した物だ」
「紹介に預かったフラッペだっぺ。君には、後で是非フライングソーサーの実戦での使い心地がどうだったか聞きたいものだっぺ。むろん、治療の後で」
フラッペは、オレンジ少佐の後ろに立っている二人組の内、ミイラ男のように包帯だらけになっている満身創痍の男……ボンゴに向かってそう言った。
「さて、オレンジ。明日には将兵を集めてお前の働きを讃える式典を開き、そこでお前の大佐への昇進と勲章の授与を行う予定だ。本来ならお前の功績は将軍まで階級を上げるのに十分なものだが……分かるな?」
「……ええ、もちろんです」
オレンジが潜入任務に就いてから約十年。元々工作員として働いていた彼の事を覚えている者は、今のレッドリボン軍では少数派だ。大多数の者にとって、オレンジは突然現れた余所者に等しい。
そんな彼がレッドリボン軍のエースであるブルー将軍や、古参の将官であるホワイト将軍と同じ将軍になると、彼に対して反感や不満を持つ者が多く出てしまいかねない。レッド総帥が説明すれば頭では理解するだろうが、感情は付いてこないだろう。
それを防ぐために、将軍への昇進まで時間を置くつもりのようだ。
「ボンゴとパスタだったな。お前達の階級は当分の間は少尉とし、オレンジ大佐の指揮下に入ってもらう。我が軍の兵士を鍛えてもらうぞ」
「はっ! 拾ってもらったご恩を返すため、働かせていただきます!」
「ありがとうございます、レッド総帥」
レッド総帥から少尉の待遇で迎えられたボンゴとパスタだったが、口にしたほどの恩義は感じてはいない。ただ、お尋ね者になっているだろう自分達の隠れ蓑として、レッドリボン軍は丁度良いと考えているだけだ。次の儲け話に心当たりがあるわけではないので、とりあえず所属しよう。この程度の気持である。
また、天津飯達に遭遇する前に、パスタはあの部屋にあったリッチストンの半分程を既にホイポイカプセルのコンテナに入れて懐に忍ばせていたため、一生遊んで暮らすには十分すぎる金を確保しているのも大きい。
遊んで暮らすのはしばらく我慢して、ほとぼりが冷めるまで大人しくしよう。そう二人は考えていた。
そしてフラッペ……と名乗っているゲロの分身は、(やはり、二人ともレッドリボン軍に来たか)と思っていた。
これが、約一か月前の事だ。
そして、一か月後。
「あら、私の事をご存じなんですね。でも宜しいんですか? それを話してしまって。知らないふりをした方が、都合が良かったのではありませんか?」
オレンジ大佐達と比べて遥かに厄介な客を、この天才科学者のドクターゲロは迎えていた。
「いやいや、それは失礼にあたります。すぐに歓迎の準備をいたしますので、その間お茶でも如何でしょうか?」
そう表面では冷静に見えるよう装っているが、儂の脳内は大慌てだ。何故このタイミングで破壊神の付き人が地球を訪問したのか、ビルス様の姿は見えないが来ているのか、様々な思考が過る。
「それは嬉しいですが、実はあなたをご招待するよう頼まれていまして。今回はお気持ちだけ頂いておきましょう」
しかし、ウイスの要件は儂が想像していないものだった。
「招待? 儂をですか?」
「ええ、今から構いませんか? いわゆる、『署で話を聞かせてもらえますか?』という奴ですね」
「署……ああ、なるほど。儂を呼んだのは時の界王神様ですか」
だが、彼の言葉から誰が儂を招待したがっているのか察する事が出来、落ち着く事が出来た。彼女なら、最悪でも地球が消滅することは無い。
「あら、彼女の事もご存じなんですねぇ。元々あなたの事情聴取に同席するつもりでしたが、ますます興味が湧いてきましたよ」
「それは光栄ですな。ところで、儂の分身が離れたところに一体いますが、それはそのままでよろしいので?」
「ああ、いますね。でもまあ、本体ならともかく分身なら構わないでしょう。今はともかく、時の巣からはテレパシーも届かないでしょうし」
さすがは天使。儂の分身のこと等お見通しのようだ。
「では、行きますよ」
そしてウイスが杖を振ると、儂は執務室から一瞬で移動し、すぐに時の巣と思わしき場所に移動した。
「あなたがドクターゲロね。早速だけど、話を聞かせてもらうわよ」
そして薄ピンク色の肌をして、先端がとがった耳をした少女の外見の時の界王神クロノアがそう言う。後ろには、タイムパトロールの制服を着た儂には見慣れた、しかし、会うのは初めてな三人の姿があった。
日頃から似た顔を見ている年齢的には壮年のはずの彼は物珍しそうに、ブルマの面影がある若い青年は険しさと困惑が混じった複雑な顔つきで、そして父親とよく似た彼は息子より険しい顔つきで儂に視線を向けている。
儂としては時の界王神様より、彼らの方からプレッシャーを感じる。
「自己紹介の必要は無いだろうが、儂は天才科学者のドクターゲロ。儂に答えられる事なら何でもお話いたしましょう」
「フン、俺はともかくカカロットを見ても驚かないとは、どうやら貴様が未来の出来事を知っているというのは本当らしいな。貴様も連中とグルなんじゃないだろうな?」
早速ベジータが険しい目つきのまま儂にそう詰問するが、儂にやましいところはないので堂々と答える。
「その連中、というのがトワとミラの歴史改変者だとしたら、儂とは何の接点もありませんな。先日も、ウィローの研究所とグルメス王国に来ていたようですが。
それと、やはりベジータ王によく似ていますな、ベジータ王子」
「なっ!? 何故オヤジの事を貴様が知っている!?」
「ベジータ、そこまで! 事情聴取を始めるわよ。でも、立ったままじゃ落ち着いて話を聞けないでしょ、こっちに座って頂戴」
「これはご丁寧に……かつ丼でも出てきそうなセットですな」
ベジータの声を遮ったクロノアが儂に進めたのは、向き合う形で設置された二つの机の片方に置かれたパイプ椅子だった。明らかに刑事ドラマの影響を受けている。
「かつ丼かぁ……オラ、なんか腹減って来たな」
「まず、あなたは未来を知っているようだけど、それは何故? 超能力の類とも考えたけど、ウイスさんはまだしも私やトワ達の事まで知っているのはおかしいわ。少なくとも、人間の超能力者が知り得る枠を超えている」
悟空の声を無視してクロノアがさっそく質問を行う。パイプ椅子に座った儂は、彼女の後ろに立っているウイスがこちらを興味深そうに眺めているのを確認しつつ、やはり正直に答える事にした。
「実は、儂には前世の記憶があり、その前世はこの世界とは全く別の異世界を生きた人間だったのです」
「異世界って、パラレルワールドの未来や、第六宇宙のように他の宇宙ではなく?」
「はい、全く別の世界です。そして、その異世界ではこの世界……第七宇宙の歴史の一部が娯楽作品として存在しており、儂の前世はその作品のファンだったのです」
「娯楽作品、だと!?」
「あらまあ、これは驚きですねぇ」
「そ、そんな事があり得るんですか、時の界王様!?」
儂の証言に後ろの一同が驚き声をあげる中、クロノアは驚愕しつつも「でも、う~ん、確率としてはゼロじゃないし」とか、「でも、偶然にしては……」と、ひとしきり呟いてから、顔を上げた。
「その、前世で死んだ時からこの世界に転生するまでの間に、何かなかった? 自分は神様だって名乗る人に会ったとか」
「会いました。それで、この世界に転生させると言われて……それを思い出したのは、妻が亡くなった後ですが」
「それか~っ!」
そして、そう叫ぶなり机に突っ伏してしまった。絵面だけ見ると、まるで儂が刑事で彼女が自供した容疑者のようだ。
「つまり、どういう事なんだ?」
「俺が知るか!」
「ええっと……つまり、この人の魂は異世界の神によって送り込まれた? という事でしょうか」
「でしょうね。どうやら、シーラスが企てた事件で起きた異変を利用したのでしょう。ただ……この場合、その神に悪意があったかは不明ですね」
突っ伏したまま動かないクロノアの代わりに、ウイスがそう説明を始める。
「分かんのか、ウイスさん?」
「ええ、推測ですけどね。多分、このゲロさんがいた歴史はシーラスが作った異変の影響で本来の歴史から枝分かれした歴史で、その枝分かれした理由は『ドクターゲロが存在しない』事だったのでしょう」
「ほう、儂が存在しない歴史……しかし、儂はこうして存在している。つまり、儂を転生させた『神』がそれを防ぐため、もしくは利用して儂を存在するはずだったドクターゲロとして送り込んだと」
「でしょうね」
なるほど。あの『神』はストーリー上必要な登場人物が欠けた『歴史』を見つけ、その欠けた登場人物として儂を転生させた。だから、ある意味では異変を『防ごうとした』ともとれる。
「待ってくださいっ! だったら、何故この人がいる歴史が他の歴史から分かれたままなんですか!?」
そう叫ぶトランクスに、ウイスの前に儂が答えた。
「そりゃあ、仕方あるまい。儂はドクターゲロに転生したが、この通り本物のゲロではない。外見も、天才的な頭脳もゲロそのものだが、人格が異なる。
だから当然、言動も本来のゲロとは異なるはずだ」
儂の歴史は、儂がゲロに転生した事で登場人物が最初から欠けた状態になる事はなくなった。しかし、儂はゲロであってゲロではない。そのため、原作や前世の記憶が戻る前から、「レッドリボン軍に加わらなかった」という大きな歴史改変を無自覚に行ってしまった。
これで歴史が分かれないはずがない。
この辺りが、儂を転生させた『神』に悪意があったのではないかと疑われる理由だろう。
歴史が増えるのを防ごうとしたにしては、実行した方法があまりにお粗末だ。だから、狙いは時の界王神が歴史の分裂にすぐ気が付かないよう、儂をゲロに転生させて表面上は異変が起きていないように見せかけた。そうとも考えられると、ウイスは言っているのだ。
「しかし、儂が転生した理由がシーラスだったとは驚きじゃ。儂、その話はあまり詳しく知らんので」
「そうよ、それが一番の問題なのよ!」
机に突っ伏していたクロノアは、起き上がると頭を抱えながら説明した。
歴史改変者がその場で起こした改変は、その歴史の住人に協力して本来の歴史の流れに戻す事で修正できる。ナメック星編でフリーザだけではなく、その兄のクウラまで現れたのなら、タイムパトローラーがクウラを倒せばいい。人造人間編で、セルゲーム開始までに悟空達が修行している間に、セルを歴史改変者とその手先が倒そうとしたなら、奴らを撃退してセルを守ればいい。
しかし、その歴史で既に過去として確定した改変を修正する事は出来ない。
出来るのなら、トランクスがブルマの作ったタイムマシンで増やしてしまった歴史等、全ての歴史を無かったことに修正している。
そして何より、歴史改変者……先代の時の界王神に仕えていたメチカブラやドミグラ、現時の界王神クロノアの弟子だったシーラス等の存在も過去に遡って消す事は出来ない。
もしそれが可能なら、そもそも全ての事件を無かったことにできる。
「つまり、こいつはこのまま野放しにするしかないって事か?」
「そうなるわ。でも、念のために確認するけれど……あなたの言葉を信じるなら、あなたは本来の歴史を知っているのよね? それに逆らおうとするのは何故?」
「だいたい察していると思いますが、本来の歴史に沿うように行動すると、儂は17号と18号に殺されるからですな。それに、好き好んで悪事をしたいとも思いませんし……未来をより良くしようとするのは、今を生きる存在にとって当然の事かと」
「そりゃそうよね~……まさか悪事を働けとか、地球を存亡の危機に陥れる人造人間を作れなんて言えないし。
そもそも、今更あなたが本来の歴史に沿う言動をとっても、歴史は元に戻らないし……っと、言うかどうにもならないのよね」
クロノアがそう言った後、儂が歴史改変者とグルだった場合や、そうでなくても自分のためだけに歴史を改変していた場合は、ドラゴンボールに願う事や、ビルス様に儂を破壊してもらう事で強引に歴史を修正する事も考えていたと語った。
しかし、そうでないのなら界王神としてそれは出来ない……やりたくない事だとも言った。
そもそも、それらは非常手段で……ドラゴンボールで人々の記憶を改竄しようにも、地球のドラゴンボールでは既に地球の神より強い存在が多数いて完璧に改竄しきれないし、ナメック星やヤードラット星、そして界王や地獄にまで影響を及ぼすのは不可能。ナメック星のドラゴンボールを使っても、既に難しいらしい。
そしてビルス様に儂を破壊させるのは……結局、それはそれで歴史が改変されてしまう。
それらの手段を取るのは、儂を放置していた方が、圧倒的に被害が大きいと判断した場合のみ、というつもりだったようだ。
「でも、異世界にオラ達の漫画やゲームがあるんか。いったいどんなもんなんだ?」
「こんなもんじゃよ」
興味があるらしい悟空に、テレパシーで前世の記憶にあるドラゴンボールの原作コミック一巻の情報を送る。
「おっ! これか……へぇっ、懐かしいなぁ!」
「おい、それよりもいい加減ブルマに何をしたのか説明しろ!」
今度はベジータが割って入ってきた。他の歴史のブルマでもやはり気になるようだ。
「まさか、人造人間に改造したんじゃないだろうな!?」
「そんな、母さんを人造人間に!?」
「いやいや、今のところその予定はない。ブルマはただ単に、色々あって超能力者に生まれ付いて、更に武道に興味を持って幼い頃から修行をしているだけじゃよ」
「なんだと!?」
「母さんが!?」
ブルマが修行して強くなった。これにはベジータとトランクス、それに悟空も目を見開いて驚いていた。……確かに、儂は経緯を知っているからそうでもないが、突然聞いたら何かの冗談としか思えんな。
「それがあなたの言う、『未来をより良くする』ことですか?」
訝し気に尋ねるトランクスに、儂は首を横に振って答えた。
「いや、ブルマが強くなったのは本人の意思と選択によるものじゃよ。儂は単に、儂の科学力で助けられる者を助けただけにすぎん。彼女が強くなったのは、その影響の一つじゃな」
「助けたって、具体的には誰を助けたんだ?」
「儂の歴史の孫悟空の実の母親、育ての祖父、チチの母親、かの」
後は、直接命を助けたわけではないが、桃白白と鶴仙人だろうか。これは、儂の行動の影響を受けた本人達の判断によるものが大きいと思うから、「儂が助けた」と言うのもどうかと思うが。
「じっちゃんやチチの母ちゃんに、オラの母ちゃんかぁ。そうか、あの時感じた懐かしい気は、じっちゃんのか……オラ、じっちゃんが生きている頃は気が読めなかったからなぁ」
「カカロットの母親だと!? 貴様、どうやって助けた!?」
「惑星ベジータがフリーザに破壊される前に、儂を庇って死んだらしいサイヤ人の遺体を回収し、人造人間に改造したらそれが孫悟空の母親のギネだった、という経緯じゃ」
「人造人間に改造……あなたも結局は人造人間を作っているのか」
しまった。質問に正直に答えていたら、トランクスの警戒心を刺激してしまったか?
「誤解しないで欲しいが、儂が人造人間を作るのは世界征服や誰かへの復讐のためではない。医療行為や、ドラゴンボールを使わず死者を復活させるため……そして、最終的に儂の亡き妻を最強の人造人間にするためだ。
他の歴史の儂が作ったとはいえ、人造人間に大切なものを奪われた君には納得しがたい話だと思うが……」
「いえ、そう言う事なら構わな……い?」
怒りや嫌悪を覚えているというより、ひたすら困惑している様子のトランクス。
後で尋ねたら、この時彼は本当に困惑していたらしい。トランクスがいた、いわゆる『絶望の未来』の歴史でも彼はドクターゲロと直接話したことはもちろん、会った事も無い。人造人間20号としてブルマ達の前に現れる事もなく、人造人間17号と18号に殺されてしまったから、人としてのゲロの印象は薄かったらしい。
ただ人造人間を作った諸悪の根源として知られており、それは原作の歴史に来て人造人間20号の姿を見ても同じだったそうだ。
だから、儂に対して反射的に攻撃を仕掛けるほどの敵意や警戒心はもっていない。それに、儂の言動から外見がそっくりなだけの別人のように感じている。
だが、儂の言動の端々に危うい気配を感じて、つい顔つきが険しくなってしまうようだ。
彼の経験からすれば、無理もない……むしろ、穏当な態度と言えるだろう。
「フンッ、どうだかな。裏ではセルを作る準備でもしているんじゃないのか?」
むしろ、父親の方が儂への当たりが激しいのは何故じゃろう? いたずら心が刺激され、テレパシーでビンゴダンスやら「逃げるんだぁ……」等の迷場面を送りつけてやろうかと思うが、やったら本気で殴られそうなので止めておこう。
「そう言えば、儂がいる歴史のベジータ王から息子にあてた手紙を預かっているのだが……」
「なんだと!? 何故オヤジがお前に手紙を?」
代わりにベジータ王からの手紙の事を話題に出すと、大いに驚いた様子だった。
「占い婆の宮殿で、一日だけこの世に戻って来たベジータ王達と戦ってな。その試合の後に預かった。まあ、手紙のあて先は君であって君ではないベジータじゃから、渡す事は出来んが……彼なりに息子の事を考えていたようだぞ」
「……フン、奴の事だ。どうせ碌な事は書いていないだろう」
「まあ、そうじゃろうな。地球を第二の惑星ベジータに、とか言っていたし」
「ベジータの父ちゃん、とんでもねぇことを言うなぁ。なあ、強ぇんか?」
「まあ、儂から見るとかなり強くなった。今頃はおそらくギニュー特戦隊のギニューと互角ぐらいになっていると思うが、今のお前達ではよほど手加減しないと相手にならないだろう」
「待てっ、何故オヤジがギニューの野郎と互角になっているんだ? 貴様が何か入れ知恵でもしたのか!?」
そうこう雑談に興じている内に、話題が歴史改変者について戻り、儂はスカウターでキリを計測した事を口にした時だった。
「キリを計測したぁ!? 暗黒魔界や魔術師の技術無しで!?」
そうクロノアが目を丸くして驚いたのだ。
「いったいどうやってっ!? まさか科学でなんて言わないわよね!?」
「すまんが、科学で検知し、科学で計測した」
「うそぉっ……あなたって、本当に天才なの?」
「だから天才科学者と名乗ったろうに」
「そう言えば、母さんが以前、俺の祖父がゲロの才能を惜しんでいたと言っていた覚えがあります」
そう言うトランクスに、クロノアは深いため息を吐いた。どうやら、彼女にとってキリが計測可能である事実は驚愕に値するらしい。
「とはいえ、この前のグルメス王国の事件では仮面を被ったサイヤ人の存在は計測できなかったので、万能ではないが。おそらく、魔術で張られた結界か何かで遮られると計測できないのだろう」
先ほど聞いたが、グルメス王国での戦闘ではベジータが仮面を被ったサイヤ人とミラと戦っていたそうだ。ミラはともかく、仮面のサイヤ人は明らかにキリ(魔力)で強化されているはずだが、儂のスカウターはその存在を検知できなかった。
この事から、ベジータの気同様に結界で阻まれるとキリも検知できなくなるようだ。もしくは、キリと魔力はまた別のエネルギーなのかもしれない。
「ううむ、やはり是非研究してみたい。トワやドミグラを倒した時、もし死体が残っていたら儂に譲ってくれんか? 血一滴でも良いのだが」
「おい、こいつ本性を現したぞ。今のうちに倒しておいた方が良いんじゃないか?」
「父さん、落ち着いてください。まだ、まだセーフです」
いかん、つい好奇心が疼いてしまった。
「……その、スカウターでキリを計測できる範囲はどれくらい?」
そうこう話している間に、考えが纏まったらしいクロノアが顔を上げて尋ねてきた。
「スカウターの使用者がいる惑星全体、といったところじゃな。木星のような巨大な惑星の場合は、例外だが」
「そう、十分だわ。ゲロ、あなたをタイムパトロールの外部協力者に任命します!」
クロノアがそう言って儂を指さすと、儂よりも悟空達の方が驚いた顔をした。
「いいっ!? 時の界王神様、ゲロのじっちゃんもオラ達と一緒に戦うんか!?」
「違うわ、お願いするのは外部協力。スカウターでキリを計測したら、私達に通報してほしいのよ」
クロノアが言うには、どうやら歴史改変者は儂がいる歴史だけではなく、他の歴史でも悪さをしているらしい。
しかも、その歴史で暗躍しているのは暗黒魔王メチカブラと配下の魔神達だという。儂は動画サイトの動画とコミックでしか知らないが、魔神でないトワとミラ、そしてドミグラよりも圧倒的に強力な存在だ。
そして、儂のいる歴史でもメチカブラの配下の姿が確認され、悟空と戦闘したようだ。
そうでありながら、タイムパトロールは現在三名。そして、歴史に異変が起きていないか調査するのはクロノア一人。いくら彼女が優秀でも、複数の歴史を見張り続けるのは難しい。
そこで儂の手伝いが欲しいようだ。人造人間編の時期になってもきついだろう歴史改変者の相手をタイムパトローラーがしてくれるのだから、儂にとっては得しかない。
「喜んでお引き受けしよう。しかし、連絡手段を都合していただけますかな?」
儂のテレパシーは、当然だが時の巣までは届かない。スカウターの通信も無理だろう。
「いいわ。これを使って」
そして、クロノアはタイムパトロールのロゴが入ったピアスを出すと、儂に手渡した。
「これを耳に付けて念じれば、私やタイムパトロールの皆に連絡が繋がるわ。……分解しないでね」
「ははは、興味はありますが壊して連絡不能になると困るので止めておきましょう」
儂はさっそく片方のピアスを外して、渡された連絡用ピアスを付ける。こうして、儂はタイムパトロール外部協力者に就任したのだった。
その後は来た時と同じくウイスに送られ帰る事になった。そして、結局ウイスは宴などの歓待は遠慮するそうだ。
「私がこの時期に地球に滞在して、この歴史の悟空さん達と会うのも歴史改変になりそうですからね。そう細かい事を気にする必要はない気もしますが、破壊神の付き人ともあろう者が歴史改変者に塩を送るのもなんですし。……ビルス様が起きた時、私だけ宴会で美味しい物を食べたと知ったらへそを曲げて面倒でしょうから」
おそらく、最後が本音だろう。
こうして儂の豪華な一日は終わった。ファンとしてはもう少し悟空やベジータと交流を深めたかったところだが……ベジータの方の警戒心が尋常ではなかったからな。儂が自分達の細胞をこっそり採取していないか、見張っていたようじゃし。
あの分では握手も無理だっただろう。いや、悟空に「稽古をつけてほしい」と頼めば、一戦ぐらいは出来たか。
「しかし……トワとミラだけではなく暗黒魔王と配下の魔神達もか……」
ハードルの数と高さが増えたことに、儂は眉間の皴を指で伸ばした。
ゲロがタイムパトロールの外部協力者に就任してから数日後、タイツは友人を招いてパジャマパーティーを開いた。
参加者は妹のブルマに、親戚同然のラズリ、そしてチチに彼女自身を含めた四人だ。
年頃の少女達の話題は、当然のように恋愛中心になった。特に、彼女達の中には最近婚約したばかりのチチがいるのが大きい。他の三人が興味津々で尋ねるのは当然だった。
「それで、悟空とはどうなんだい?」
「何かあった? デートとか、電話で話したとか、筋斗雲でドライブに行ったとか」
「そんな、まだ婚約して一カ月だべ。早すぎるだよ~。でも、この前待ち合わせして、筋斗雲で迎えに来てもらって二人っきりでデートしただよ」
歓声と拍手を先駆者となったチチへ送るタイツ達。実際には、チチから悟空に連絡して待ち合わせをし、筋斗雲で周りに人がいない湖のほとりに向かい、そこで組手をしたり、魚を獲って焼いて食べたりしただけだ。
婚約する以前も似たような事はしていたし、悟空の方はデートとは思っていないだろう。しかし、恋で頭がいっぱいになっているチチにとっては、悟空と二人きりというだけで特別な時間になり得るのだ。
ブルマやラズリも、もっと人生経験を積んだ後なら「それって、今までと同じ事をしただけじゃないか」とツッコミを入れるかもしれないが、今は恋に関心がある少女だ。素直に感心する事が出来る。
「後、ギネさんからサイヤ人の料理を教わったべ。皆はどうなんだべか? タイツさんはターレスさんと進んでるのけ?」
「べ、別にあたしとターレスはそんなんじゃないわっ。それに、ターレスって大人ぶってても実は結構子供っぽいのよね。戦ってる方が楽しいって感じで」
「ターレス兄さんは昔からそうだもんね。でも、よく姉さんと組手してるじゃない」
タイツとターレスは、父だけではなく妹のブルマの目から見てもお互いに好きなのだろうと思われていた。タイツも、そこまで強く否定しない。
「まあ、他の男の子よりは話が合うし、昔から知ってるから……」
自惚れでも何でもなく、タイツはモテる。美少女で頭脳明晰、世界的超企業の社長令嬢で、芸能活動もして、天下一武道会本戦に出場し、この前は三位になるほど強い。……最後は、人によっては怯えてしまうかもしれないが。
しかし、普通の男子ではタイツと話が合わないし、トレーニングについて来られず、超能力に理解が無い。そして、同世代の普通の男子は気後れしてしまい、彼女に直接声をかける事が出来ない事が圧倒的に多い。そのため、相対的に彼女の中でターレスの存在感が大きくなるのも当然だった。
「そう言うブルマとラズリはどうなのよ?」
「あたしは年上の素敵な男の人が好みだから、パス」
そしてブルマも、姉同様に同世代の少年と話が合わない少女だった。例外が悟空とチャオズ、天津飯とラピス、そしてターレスである。
本人が桃白白の影響で年上好みだから、元々同世代の少年には関心が無いのだが。
「桃白白やベジータ王にアタックしないのかよ?」
「しないわよ。私が大人の女になるまで」
「ベジータ王って、あのヤバイ王様でねえかっ!?」
「あら、結構素敵じゃない。まあ、ベジータ王は地獄に奥さんがいるだろうから、大人になってもアタックはしないけど」
「ブルマさんって、将来悪い男に引っかかりそうだべな」
「我が妹ながら、ちょっと心配になって来たわ。ラズリは?」
「特にないね」
そう言うラズリも、今年十三歳になったが誰が好きとか、そう言う話をしたことは無かった。
「副社長の息子は年が離れてるし、チチは女だし……あんた達に兄貴か弟がいたら狙ったかもしれないけど、いないだろ?」
「あんた、相変わらず玉の輿狙いなのね」
ブルマとラズリがこんな様子なので、必然的に話題の中心はチチとタイツになった。
そして、しばらく経った後、何故か話題がドラゴンボールに飛んだ。
「ほら、サイヤ人って地球人とは年の取り方が違うから、不死鳥に触れても……」
「じゃあ、どうするべ? オラ達も会長さんに改造してもらうかな?」
「うーん、それも悪い気がするのよね。人造人間への改造は時間だけじゃなくてお金もかかるって言ってたし、お爺ちゃんにはお爺ちゃんの目的があって研究しているんだし」
「でも、あたし達が自力で改造できるようになるのは、まだまだずっと先よ。お金じゃなくて、技術的な問題だけに話を限っても」
「なら……やっぱりドラゴンボールね。お爺ちゃんに言って、今度地球のドラゴンボールを使わせてもらうって言うのはどうかしら?」
「そうね、ちょっとした冒険みたいで楽しいかも。時期は、来年の春頃でどう?」
「あたしとラピスは今のままでいいよ、パパに改造してもらうし」
「じゃあ、願い事の言葉を工夫しないといけないわね」
そして何故かドラゴンボールを集めて神龍を召喚し、願いを叶えてもらう事にしたのだった。
〇タイムパトローラー
現在のメンバーは未来トランクス、悟空(超ルート)、ベジータ(超ルート)の三名。
この三人で暗黒魔王メチカブラが牛耳っている歴史で彼らと戦ってきたが、今回ゲロがいる歴史にも歴史改変者が現れた事で、更に誰かを召喚する事になるかもしれない。
クロノアがゲロ自身をどうにかする事や、歴史の強引な修正を諦めたのは、話にある通りの理由。
ゲロに対するメンバーからの印象は……。
・クロノア:ゲロに外部協力者になる事を依頼したが、ゲロが零した言葉を聞いていたので、全面的に信頼はしていない。基本的には善人だけど、注意が必要な人物だと評価している。
・未来トランクス:戸惑いっぱなし。生きているゲロと遭遇したのは自分の歴史ではなく、原作の歴史で彼が20号になってから。しかも、それだって僅かな時間だけだったので印象が薄い。すべての元凶なので恨みが無いわけではないが、自分の歴史では気が付いた頃には死んでいたので……。
この歴史のゲロとは別人なのは理解しているが、信用して大丈夫かどうか迷っている。
・悟空:元々ドクターゲロに対する印象が薄いため、「変わってるけど良い奴っぽい爺ちゃんだな」と思っている。孫悟飯(老)を助けた事と、ブルマまで強くした事で好感度と興味が大幅に上がっている。ちょっと組手してみたい。なお、桃白白や鶴仙人の事は忘れている。
・ベジータ:警戒心マックス。歴史が異なっても(自分を含めて)悪人は悪人のままだったので、ゲロの事もそうではないかと疑っている。善人として評価されていても、第六宇宙のフロストと同じように、「腹の底では何を考えているか分からん」と疑っている。
悟空のゲロに対する好感度が上がれば上がる度、「俺はカカロットと違って甘くないぞ!」と警戒心を高める傾向にある。
また、悟空からシュルムの様子が妙だった事は聞いているが、魔神シャメルが化けていた事やドミグラの暗躍には気が付いていない。
〇ゲロ
成長した悟空やトランクス、ベジータと会う事が出来て実はテンションが上がっていた。ウイスが現れた時は、ビルスに破壊されるかもしれないと覚悟していたいので、その反動もあった。
しかし、その後自分の歴史で暗躍する歴史改変者が、トワとミラだけではなくメチカブラの配下も現れたと聞いて内心頭を抱えている。
なお、ドミグラの事はまだ気が付いていない。
〇パジャマパーティー
何らかの願いをドラゴンボールで叶えるために、地球のドラゴンボール集めをするらしい。
酒井悠人様、虚気様、Paradisaea様、kubiwatuki様、KJA様、dddddd様、変わり者様、おでん様、雪栗鼠様、カド=フックベルグ様、gsころりん様、誤字報告ありがとうございます。早速修正しました。