ドクターゲロに転生したので妻を最強の人造人間にする 作:デンスケ(土気色堂)
53話 摩訶不思議大冒険開始! 人造人間9号ランチの目覚め
まだ春の足音は微かにしか聞こえない頃、ある遺跡に三人の人物が足を踏み入れた。
「二人とも行くぞ」
彼らのリーダーは、子供のような背丈の水色の肌と先端がとがった耳を持ち、胸に『焼飯』と書かれた服を着たモンスター型の地球人、ピラフ大王。
「罠は無いようです、ピラフ様!」
従うのはピラフ大王と同じくらい小柄な、忍者のような格好に刀を背に差した犬のシュウ。
「ですが、お気を付けください」
そして軍服姿の黒髪の美女、マイ。
彼らがこの遺跡を探し出したのは、ここに眠る秘宝を手に入れる為だった。
「これが伝説のドラゴンボールか!」
「はい、七つ集めれば神の龍、神龍が現れどんな願いも一つだけ叶えてくれるという、伝説の秘宝です」
「しかし、この石にそんな力があるのでしょうか?」
ドラゴンボールを手に取ったピラフ大王は、訝しむシュウに「あるはずだ!」と断言した。
「我がメシキヤ族の古文書に残された伝説だけではなく、去年起きたグルメス王国の事件でも……今は公爵となったグルメス王もこのドラゴンボールを集めさせていたそうだ。
間違いない、伝説は真実なのだ!」
グルメス王が配下に命じてドラゴンボールを集めさせていた事は、当時のグルメス王国軍では普通に知られていた。ピラフはその情報を入手し、今は滅亡した一族が残した古文書にもドラゴンボールに関して書かれていたことを思い出したのだ。
「このドラゴンボールを七つ全て揃えた時、このピラフ大王が世界を手に入れるのだ! フハハハハ――ハッ!?」
ドラゴンボールを掲げて高笑いするピラフだったが、その振動で朽ちかけていた遺跡の天井の一部が崩れ、瓦礫に埋まってしまった。
「ピラフ様っ!?」
「大丈夫ですか、ピラフ様!?」
「罠は無いと言っていたではないか!? なのに何だ、これは!?」
しかし、堕ちてきた瓦礫の量は多くなかったのか、ピラフはすぐに瓦礫の間から頭を出した。
「いや、それは罠じゃなくてピラフ様が大声を出すから天井が崩れただけで……」
「はっ!? ドラゴンボール、ドラゴンボールは何処だ!? 探せーっ!」
「ピラフ様、ドラゴンボールだったらここに」
「馬鹿者! それはワシのタンコブだ!」
しかし、ドラゴンボールを無くしてしまったようで慌てて瓦礫をひっくり返し始めた。
「よ、よし! 一旦城に戻り、残りのドラゴンボールを探すぞ!」
そして小一時間ほどかけてドラゴンボールを見つけたピラフ一味は、砂漠にある城へと帰還したのだった。
タイツ達のドラゴンボール探しの旅が始まったのは、四月になった。彼女達の予定では、恒例となっている五月の占い婆の宮殿でのあの世対この世の交流試合の前に、ドラゴンボールをすべて集めるつもりらしい。
ブルマが『神龍の伝説』事件からドラゴンレーダーを改良し、原作と同じ高精度なレーダーの開発に成功したため、それも不可能ではないだろう。
いや、その気になれば一日で全てを終える事が出来るだろう。タイツとターレスは舞空術で、悟空は筋斗雲で飛行機以上の機動力があり、タイツとブルマは瞬間移動が可能。しかも、旅の障害は殆どない。
ピラフ大王が原作より早くドラゴンボールを手に入れたようだが、今の悟空達の敵ではない。
しかも、ピラフ大王が手にしているだろう一星球以外の六つのドラゴンボールが、旅が始まる前に儂等が持っている事が分かっている。
ブリーフの家の蔵にある二星球とフライパン山の七星球はもちろんだが、グルメス公爵から取り返した亀仙人の三星球と、孫悟飯の四星球、ウーロンが脅迫していた村の老婆が持っていた六星球、そしてウィローの研究所で回収した五星球。間違いはない。
それでもタイツ達が数日以上の時間をかけて旅に出るのは、この冒険に旅行としての意味合いが強いからだろう。
「じゃあ、行ってくるわね、お爺ちゃん達。まあ、途中で会う事になるんだけど」
今年十六歳になるタイツは、すっかり大人っぽくなった。相変わらず何故か瞳のハイライトが無く、目が死んでいるように見えるが。
「うむ、趣向を凝らして待っているぞ」
儂はタイツ達の旅の途中で、二星球を賭けた課題を彼女達に出す予定だ。原作に比べて障害がずっと少ないので、何事もなくドラゴンボール集めが終わっては味気ないだろうと思い、イベントを用意する事にしたのだ。
「しかし、タイツもすっかり大人になったな。顔以外がパンチー夫人に似てきたわい」
「まあね~」
「鶴仙人のお爺ちゃん、あたしは?」
「ブルマも随分背が伸びたが、まだまだじゃな」
一方、ブルマは今年十二歳になる。まだ原作初登場時の姿に比べると子供っぽいが、背ではもう悟空とチチを超えている。
「爺さん、あんたからも言ってくれよ。こいつら、ドラゴンボールに何て願うつもりか俺にも教えないんだぜ」
だが、今年十四歳になるターレスはサイヤ人であるためまだ身長が低く、子供っぽい姿をしている。
「女の秘密ってやつだよ」
「あまり気にしない方が良いぞ、ターレス。俺も知らないけどな」
ラズリとラピスは順当に背が伸びているので、ターレスと並ぶと同い年にはなかなか見えない。
「まあ、滅多な事でなければいいじゃろう。儂には言い難い事かもしれんし」
タイツ達は女子同士で叶えたい共通の願いがあるようだ。彼女達も年頃なので、男の儂やターレスには言い難い願いの一つや二つあるだろう。それを無理に聞き出すのは、デリカシーに欠ける。
「そう言うもんか。全く、女ってのは分からねぇな」
「ああ、一応言っておくが、何者かがドラゴンボールを集めている。後、歴史改変者がちょっかいをかけてくるかもしれんから、旅行に夢中になり過ぎないよう気を付けるように」
「その時は爺さんが時の界王神様って奴に連絡してくれよ。俺達も気をつけるが、俺達だけでどうにかできる連中じゃないんだろ?」
「まあ、そうなのだがな」
儂はタイムパトロールの外部協力者になったが、歴史改変者に対して儂等が直接できる事は無い。トワがキリで強化した相手と戦う事は出来るが、彼女達そのものと戦うには儂等はあまりにも力不足だからだ。
しかし、その歴史改変者もキリで強化する対象が存在しない間は大丈夫だと思うが……歴史改変者がその気になればその辺の一般人を戦闘力1万相当に強化する事も容易いだろうから油断はできない。
キリの計測機能を搭載したスカウターをつけて、日々警戒するしかないだろう。
こうしてタイツ達は悟空達と合流し、悟飯から四星球を受け取るためにパオズ山へ向かって旅立っていった。
ちなみに、天津飯とチャオズはヤードラット星での修行を続けるために不参加で、ヤムチャは悟空達の後に合流する予定になっているそうだ。
そしてタイツ達が旅立った後、儂は秘密研究所に瞬間転移して仕事に取り掛かった。人造人間9号……ランチが完成したので、彼女を目覚めさせなければならない。
「さて、そろそろ時間だな」
儂は供え物と占い婆を経由で連絡を取り合っている地獄のサイヤ人達と事前に取り決めた時間通りに、ランチの蘇生を始めた。
液体で満たされたポッドの中に浮かぶランチの体内に移植された永久エネルギー炉が作動し、鼓動と呼吸が再開され、青かった髪が金髪に変化し、モニターに彼女の心拍と脳波の波形が映し出される。
蘇生成功、と儂が思った瞬間センサーがランチの肉体に変化が起きている事を検知した。
「ほう、これは興味深い」
蘇生したと同時に、ランチの筋肉が成長し、脳が活発に活動しだした。
これはおそらく、ランチが死んでいる間に地獄でバーダックチームの面々に鍛えられた影響だろう。魂が肉体に戻った事で、肉体が魂に合わせて変化したのだ。
ドラゴンボールで死者を生き返らせた場合も、あの世で修行して死んだ時より強くなっていた場合はそれに合わせて強くなった肉体が作られ、生き返る。
しかし、ランチの場合はドラゴンボールの力ではなく、儂の科学力で生き返ったのでどうなる事かと思ったが……地獄での修行の効果は無事肉体にフィードバックされたようだ。
儂としても興味深いデータが手に入り、非常に喜ばしい。
『おいっ、早くここから出せ!』
その時、頭の中にランチのテレパシーが響いた。思考に夢中になっていた儂はハッと我に返り、ポッド内の液体を抜いて扉を開いた。
「おはよう、人造人間9号、ランチよ。地獄での送別会はどうだったかね」
ランチを蘇生させる時間が指定されていたのは、地獄で彼女の送別会が行われていたからだ。
「フンっ、これであの地獄みたいなシゴキから解放されたと思うと、せいせいしたぜ」
そう口では言うランチだが、聞く限りではだいぶ可愛がられていたようだ。特に、セリパの事を姉さんと呼んで慕っていたようなので、つかの間とはいえ涙の別れだったのだろう。
「とりあえず、生前に君が着ていたのと同じ服と、地獄で使っていたのと同型のスカウターを用意してある。話はそれに着替えてからにしよう」
「用意が良いじゃねぇか。そうだ、飯はあるか? なんだか急に腹が減っちまった。腹いっぱい食ったはずなのに」
「胃袋の中身はあの世から持ってこられなかったようじゃな。では、話は食事をしながらするとしよう」
そうしてランチが生前と同じ格好……頭に赤いバンダナを巻き、チューブトップとホットパンツというやや刺激的な格好に着替えている間に、儂は彼女の食事を用意した。
「えらく豪勢……って、オレの送別会に出ていた料理と同じ料理ばっかりだ」
「そりゃあ、儂が用意して供えた料理じゃからな」
墓前に供えた料理を下げて持って来ただけなので、手間はほとんどかかっていない。
「それで、体に不調は無いか? あれば調整するが」
ランチは豊胸や永久脱毛などの希望を言わなかったため、美容整形は施していない。しかし、金髪の狂暴な性格がそのままだと問題があると、ナメック星人の細胞の割合を大目に融合させた。感覚としてはだいぶ変わっているはずだ。
「不調は無え。無えけど……この角はなんだ?」
その結果、ランチの額には二本の角が生えていた。
「それはナメック星人の触角が変化した物じゃ」
スラッグの配下の魔族のアンギラの角と同じようなものじゃな。毎年生え変わったり、伸びたり、電撃を放つのに必要になったり、そうした事は一切ない。
「物じゃ、じゃねえよ! どうにかならなかったのかよ!?」
「まあ、ナメック星人の細胞を大目に移植した影響じゃからな。しかし、そのお陰で高い再生能力や暑さや寒さへの耐性、鋭い五感、そして一部の超能力が使えるはずじゃ」
「超能力?」
「テレパシーだ。先ほど使っていただろう?」
「……覚えが無えな」
どうやら、彼女が目覚めた直後のテレパシーは、無意識に発していたようだ。
『こんな感じか?』
『そう、それじゃよ。使っている内に慣れるじゃろう』
「それで、これが君に施した改造についてだが、最も大きな特徴に、人格が変わると動力も切り替わるようにしておいた」
「あぁ? どういうことだ?」
「君の場合はこれまでの人間ベースの人造人間と同じく、君本来の気をメイン動力、永久エネルギー炉はメイン動力を動かすためのエネルギーの供給源となっている」
4号やサン、ギネと同じで、金髪ランチの方には気があるため感知する事が出来、普通のスカウターでも戦闘力を測定する事が可能だ。
「しかし、青髪の方に変わると永久エネルギー炉の方がメインになる。気が無くなり、感知する事も通常のスカウターで戦闘力を測定する事も不可能になる」
対して、青髪の方は原作17号や18号と同じように、気が無くなって疲労も感じなくなる。完全に永久エネルギー炉がメインになる予定のマロンの、一つ前の段階だ。
……何故金髪ではなく青髪の方を永久エネルギー炉メインにしたのかは、説明しなくても分かるだろう。脳改造までしても、やはり不安は拭えない。
「……良く分からねぇから、変わったら爺さんが改めて説明しろよ」
幸い、ランチはその辺りの理由を深く気にしなかったので、儂も説明せずに済んだ。
「それで、君にはやってもらいたい事がある。まずは――」
「フリーザって悪党を退治するんだろ」
打倒フリーザが目標のプロジェクトについては、セリパ達から聞いていたらしい。
「セリパの姉さん達の仇だし、オレも地球を壊されちゃ困るからな。殺し屋をやった事はねぇが、やってやるぜ」
そう言って狂暴さを感じさせる笑みを浮かべるランチ。
「うむ、協力に感謝する。次に――」
「殺しと盗み、強盗にハイジャックは禁止、だろ。分かってるよ。代わりに、オレを雇うってのもな。給料をケチったら承知しねぇからな」
そして、ランチに犯罪を止める事を約束させた。
「もちろんじゃ。そしてさらに――」
「まだ何かあるのかよ?」
しかし、ランチにして欲しい事は後二つ残っている。
「君にはちょっとした演技をしてもらう事になる。お前さんの遺体は、レッドリボン軍経由で手に入れたので、しばらくレッドリボン軍のドクターフラッペが作った人造人間の演技をしてもらいたい」
一つは、レッドリボン軍製人造人間の演技だ。レッド総帥達はランチが死んだ事、そしてその遺体をフラッペが人造人間にするために手に入れた事を知っている。そのため彼女の姿が原作同様の経緯で亀仙人達、そしてドクターゲロの周りで確認されると都合が悪い。
「演技か? オレは構わねぇが、もう一人のオレにそれが出来るとは思えないぜ」
「じゃろうな。なので、お前さんは儂がレッド総帥達を誤魔化してどうにかする」
青髪ランチは天然で純粋な性格なので、レッドリボン軍の軍人相手に嘘をつき通せるとは思えない。そのため、儂は金髪ランチがくしゃみをする前に何らかの名目で単独任務を命じて、レッドリボン軍から離れさせなければならない。
まあ、だいたい考えてはある。
「それで、これが最後だが……人造人間7号、ランファンが和解の条件として君との試合を望んでいるので、受けてほしい」
なお、まだ天国にいるマロンはランチについては、「いいわよ。あれって不幸な事故だったと思うしぃ、生き返らせてもらえるから、マロンちゃんきにしな~いっ」と言っているらしい。
そして、食事が済んだランチをナメック星の近くの惑星、去年に大猿化制御実験を行った星へと瞬間移動で向かい、試合が始まった。
「おい、オレは悪い事をしたとは思って無いぜ」
そう言いつつもどこか気まずそうなランチに対して、ランファンは「でしょうね」と肩をすくめる。
「ドクターからも聞いたけど、あたし達が死んだのは事故みたいなものだもの。それに、あたしもあなたを恨んでいる訳じゃないし」
「あん? だったら、なんで試合なんか?」
「それはね……人造人間になってからナメック星の皆としか組手をしていないから、このところマンネリなのよね。後、一度ぶつかっておいた方がスッキリするかと思って。
仮にも同じ生みの親に改造された姉妹になったんだし、仲良くしたいじゃない?」
「つまり、気晴らし半分って事かよ。いいぜ、オレもどれくらい強くなったのか試したいと思っていたところだしな!」
「では、ランチも納得したようなので……試合開始!」
審判役の儂の合図で、ランファンとランチはお互いに一瞬で間合いを詰めて激しくぶつかり合う。
「今日生き返ったばかりなのに、中々やるじゃない!」
ランファンは彼女が元々修めていた格闘技に、ナメック星人達と修行をして身に付けた戦闘技術がうまく融合している。しなやかな動きから繰り出される、鋭い抜き手や蹴りがランチを狙う。
「へっ、こっちは地獄で地獄以上の特訓を積んでたんだ! 戦闘民族サイヤ人仕込みの戦い方を味わいな!」
一方、ランチの成長も目覚ましい。元々彼女は平均的な地球人女性に比べるとかなり強かったが、喧嘩殺法と銃に頼っていた。しかし、死後地獄でバーダックチームに鍛えられ、粗削りだが実戦的な戦闘術を伝授されている。
「ぐっ、甘いぜ!」
ランファンの蹴りを脇腹に受けたランチだったが、逆に彼女の脚を両手で掴むと彼女を空に向かって投げ飛ばした。
「くらいなっ!」
悲鳴をあげて飛んで行くランファンに向かって、ランチは容赦なく気功波を放った。そう、ランチは既にバーダックチームが課した訓練によって、気の感知と制御を習得している。
「きゃあぁぁぁ!?」
ランチの気功波が爆発し、ランファンの姿が爆炎に飲み込まれた。「やったぜ!」と彼女の気が小さくなったことで勝利を確信したランチだったが、それは早計だった。
「なんちゃって。魔口弾!」
小さくなったはずのランファンの気が煙の向こうで一気に高まると同時に、ハート型の気弾が飛んで来たのだ。
「うおっ!? な、なんだこの攻撃!? うわぁぁぁ!?」
気の大きさを操作し、気功波が直撃してダメージを受けたように装ったランファンが放つ投げキッス魔口弾の奇妙な形と軌道に翻弄されたランチは、直撃を受けてしまう。
儂は二人の激しい攻防を、離れたところから観察しながらデータ収集を行っていた。
「二人とも素晴らしい戦いぶりじゃ」
ランファンの戦闘力は去年に行った大猿化制御実験の頃からさらに上がって、9万5千。実験後に最長老の潜在能力覚醒を受けた事によって、ギニュー特戦隊員を超えてギニューやクウラ機甲戦隊に近づきつつある。
「やりやがったな!」
しかし、怒鳴りながら煙の中から飛び出したランチの戦闘力も、10万と起動したばかりの人造人間としては驚異的な数値を弾き出している。
この数字に至ったのは、永久エネルギー炉の性能が上がっている事もあるが、やはり地獄での訓練が大きいだろう。
セリパとトーマが人造人間となった時の数値が何処まで高くなるのか、今から楽しみだ。
「くらいやがれっ!」
すると、なんとランチが腕をナメック星人のようにランファンに向かって伸ばした!
「えぇっ!? 伸びるのっ!?」
ランファンもそれは予想外だったのか、驚愕のあまり動きが鈍り、ランチが伸ばした腕の攻撃をまともに受けてしまう。
「へへっ……って、おいっ! この腕ってどうやったら戻るんだ!?」
ランファンに有効打を与えて口元が緩むランチだったが、腕を伸ばしたまま慌てだした。どうやら、夢中で腕を動かしたら伸びてしまっただけで、狙ってやったわけではないらしい。
まあ、彼女が地獄で訓練を受けていた頃の仮の肉体には、ナメック星人の細胞が融合していなかったからな。戦闘技術や、気の制御と感知は習得できても、人造人間9号と化した自身の肉体に慣れる事は出来ていないのは当然だろう。
「ええっと……隙ありっ! アサルトフラッシュ!」
腕の長さを戻せないランチに向かって、ランファンがネイルと組手をするうちに覚えたらしい彼の技を放つ。彼女は長い腕に戸惑って避け切れず、悲鳴をあげながら吹っ飛んだ。
「うぐぐ、チクショウ……へっ、へっくしゅん! あら?」
しかし、何の運命のいたずらか、吹っ飛んだ先で地面に転がったランチの鼻に土埃が入り、くしゃみをしてしまう。髪の色が金から青に変化し、性格が入れ替わった。
「っ!? 気が消えた?」
同時にランチの動力が切り替わり、彼女の気が感じ取られなくなったランファンが驚き困惑する。
「ええっと……なるほど、試合中なんですね。なら、えいっ!」
その間に装着しているスカウターに金髪ランチが入力していた情報から、性格が変わる前の状況を知った青髪ランチは思い切った行動に出た。なんと、伸びたままの自分の腕を額の角から放った気功波で切断したのだ。
「はあっ! やった、本当に生やせました! ……行きます!」
そして、すぐに新たな腕を再生。そのまま飛び出すと、ランファンに挑みかかった。
「くっ、気が無いと分かっていてもやり難いわね!」
応戦するランファンだが、相手の気を感知しながら戦うのに慣れていた事と、ランチの性格が青髪に変わったため動きの癖も変化した事で、戦い辛そうにしていた。
そして、ランファンが青髪ランチの動きに対応しきる前に、青髪ランチがランファンを押し切って試合に勝利したのだった。
「あの、殺してしまって本当に申し訳ありませんでした!」
しかし、試合の勝敗とは別にランファンに頭を下げる青髪ランチ。金髪と違い、銃を暴発させた時の記憶があるので罪悪感があるのだろう。
「それはいいって。でも、本当に性格が変わるのね。記憶も切り替わるの?」
「あ、はい。スカウターのお陰で、変わる前の状況を知る事が出来るようになりましたけど」
「だったら、ますますあれは『不幸な事故』じゃない。でも、気になるなら貸し一つって事にしておいて」
「はいっ! 必ず恩返ししますね!」
「恩って言うのとは違う気がするけど、期待してるわ」
これで双方の気も済み、和解出来ただろう。
「さて、ではレッドリボン軍での今後の予定を説明しておこう」
そう言えば、劇場版『神と神』やドラゴンボール超で登場したスーパーサイヤ人ゴッドについてだが、4号とナメック星の最長老様、そして時の界王神のクロノアと相談した結果、最後の最後に使う奥の手として温存しておくことにした。
善の心を持つ五人のサイヤ人が一人に気を集中させる……つまり、発動に六人のサイヤ人が必要なスーパーサイヤ人ゴッドだが、ターレス、悟空、サン、ギネ、ランファン、そして今日完成したランチの六人が揃った事で条件は満たせる。
原作では儀式に純粋なサイヤ人ではない孫悟飯や悟天、トランクスが、そして当時はまだ胎児だったクオーターのパンが参加していても成功したので、サイヤ人の血(細胞)が流れていて善の心があれば強さに関わらず儀式に加わる事が出来るはずだ。
気が無いと儀式が成功しないかもしれないが、それでも金髪ランチなら問題ない。善の心に関しても、ベジータがやれたのだから、今の彼女なら成功する可能性は十分ある。
不安なのは、儀式の結果誕生するスーパーサイヤ人ゴッドの強さだ。
伝説ではスーパーサイヤ人ゴッドは、悪のサイヤ人達を倒しきる前に時間切れで敗れたとある。もし、伝説のスーパーサイヤ人ゴッドが、『神と神』やドラゴンボール超の悟空と同じくらい強かったとしたら、そんな事があり得るだろうか?
まずないだろう。悪のサイヤ人をベジータ王(戦闘力1万2千)以下の実力とするなら、それが何億人いたとしても、手加減していたとはいえ破壊神ビルスと殴り合いが出来るほど強いスーパーサイヤ人ゴッドが倒しきれないはずがない。
そこで考えられるのが、儀式に参加する者とゴッドになる者の素の強さでゴッドの最終的な強さが変わるという推測だ。
これなら、伝説のゴッドが悪のサイヤ人を倒しきれなかったというのも頷ける。
そのため、フリーザ相手にスーパーサイヤ人ゴッドの儀式を行った結果。フリーザより弱いゴッドが誕生した、等という事が考えられる。そのため、温存しておくことにしたのだ。
それに、通信機の向こうからクロノアが絞り出すような声で「最後の手段にしてもらっていい?」と言われたので、今の時点でゴッドの儀式を行うのはやはり歴史改変になってしまうようだ。
それを聞いた4号が、「ゴッドで目の前の問題を切り抜けられても、キリを得た歴史改変者がその後仕掛けてくる企みは切り抜けられないかもしれません。やはり、安易に使わず最後の手段にするべきだと思います」と提案し、そうする事になった。まあ、儂も軽はずみにゴッドの儀式をしようとは考えていなかったが。
結果、スーパーサイヤ人ゴッドはネイルクローン量産&合体作戦でも脅威を排除できなかった時の奥の手の奥の手になったのだった。
その頃パオズ山では、タイツ達が来るのをチチが修行をしながら待っていた。
「うん、もうあたしより美味しいかもね。チチちゃんは料理が上手いね」
「そっだらことねぇべ。おっ母とギネさんの教え方が上手いからだべ」
ただ、それは武道ではなく花嫁修業である。
「いやいや、筋がいいよ。惑星ベジータの料理が地球と比べて大雑把なのを差し引いても、かなりのもんだ」
サイヤ人の料理文化は、ベジータ王などの王族や一部のエリートの口に入る物以外、かなり大雑把だ。
サイヤ人の男女比率は大きく偏っており、結婚したとしてもバーダックとギネのように夫婦らしい絆のある夫婦は稀。そのため、妻や主夫が配偶者のために料理をするのも珍しい。
家族の絆も希薄である事が多いので、母親が娘や息子の嫁に料理を教えるという事も稀だ。
そして、サイヤ人は大食いなので手早く作れて腹を満たせる事が優先される。
配給所で受け取った食料を豪快に焼くだけという、料理と言い難い料理で満足する下級戦士もいるなか、ギネはちゃんと料理をしていた。他の非戦闘タイプに聞き、自分で工夫してレシピを料理の数を増やしてきた。
それでも地球の料理と比べると簡単な料理になってしまうのだから、地球人は凄いなとギネは思っていた。
「今度、またサンに料理を教わりに行こうかな。チャオズ君はヤードラット星だし」
ちなみに、GCコーポレーションで販売している家事手伝いロボットを導入するという選択肢は今のところギネもチチも考えていなかった。
「ギネさんならおっ母もお父も大歓迎だべ! あっ……」
その時、ここに近づいてくる覚えのある気をチチは感知した。まだ距離があるが、タイツ達が来たのだ。
「よし、じゃあタイツちゃん達と昼ご飯を食べたら出発だね。悟空は自分で気が付くだろうけど、ウーロンにも声をかけないとね」
そうギネは言うが、実はウーロンは台所のすぐ傍にいた。
「今日こそは覗いてやると思ってたのに、また見つかっちまった」
ウーロンは孫悟飯に
ウーロンがどれだけ気配を消しても、蠅に変化したとしても、気を感知できる悟飯や悟空に気づかれない訳はないのだ。
なお、元々孫家には風呂もシャワーもなかったが、ギネが暮らすようになってからリフォームして浴室を増設した。
「本当に懲りない奴だな~。母ちゃんとじっちゃんも『根性だけはある』って誉めてたぞ」
「褒められてもうれしくねぇよ!」
「でも気配の消し方は上手くなったよな。もっと修行したら、ウーロンも強くなれるんじゃねえかな?」
悟空が言うように、ウーロンは覗きを成功させるために気を消そうと、一時期瞑想等の修行に取り組み、精神を沈めて気配を限りなくゼロにする技を習得していた。
「俺は強くなりたい訳じゃないから、辛い修行はもうしないの!」
しかし、それで孫悟飯や悟空を掻い潜っても、ギネに近づくとスケベ心から精神を乱して気配を消せなくなるので、結局ばれてしまうのだが。
「やれやれ、結局スケベは治せなかったか。悟空、タイツ達を迎えに行ってやりなさい。ウーロンは、儂と一緒に昼飯の準備の手伝いじゃ」
「分かった!」と悟空が飛び出していった跡、「へいへい」と返事をして料理が乗った皿を運ぶために家の中に入ろうとするウーロンの背に、孫悟飯はさらに声をかけた。
「こうなったら冒険がお前さんを成長させる事に期待するしかないか。ウーロン、お前も悟空とチチと一緒に、旅に同行しなさい」
「へっ? 俺も行くの? 俺はいいよ、危なそうじゃん」
悟空が居なくなって、やっと少し成功する可能性が上がると思っていたのに。そう内心考えながら、冒険への参加を嫌がるウーロン。
「何故じゃ? ブルマやラズリ、そしてタイツもいるぞ? 美少女だらけじゃろうに」
「あいつら、確かに可愛いけど性格がきつ過ぎるからな……タイツって子は、あんまり話した事無いけど」
「冒険の途中で海による予定だそうだが?」
「よっしゃ、行ってくるぜ! 世話になったな、爺さん!」
性格がきつすぎても、可愛い女の子達の水着姿が見られるかもしれない。そう乗せられたウーロンも、冒険に加わる事になった。
こうして悟空とチチ、そしてウーロンが孫悟飯から受け取った四星球を持ってタイツ達と合流し、残りのドラゴンボールは五つとなったのだった。
なお、出発してからしばらく経った頃、巨大な翼竜が車で移動中のタイツ達を食べようと襲い掛かったが……あっさり返り討ちにされ、その日の夕食になった。
〇ピラフ一味
・ピラフ大王、シュウ、マイの三人の小悪党。ドラゴンボール初期から登場し、世界征服の野望を叶えるためにドラゴンボールを集めている。
・ピラフ大王
モンスター型の地球人。特殊な能力は無いが、独力でドラゴンレーダーを開発し、様々なロボットやマシン、基地を発明する頭脳と資金力の持ち主。原作でピッコロ大魔王が使っていた空中基地も彼が作ったらしい。
ゲーム『ドラゴンボールZ カカロット』では、メシキヤ族という滅んだ部族の王子だった事が明らかになり、その遺産が世界征服のための活動資金の元だったようだ。……某サイヤ人の王子と共通点が爆誕。
この作品では、そのメシキヤ族に残された古文書からドラゴンボールがあった遺跡を割り出した、という設定。
・シュウ
忍者の格好をした犬。獣人型地球人ではなく、言葉を話し二足歩行し道具も使うが、本人によれば犬であるようだ。
カメハウスのウミガメや、悟空と出会ったばかりのブルマを攫った翼竜等と同じ分類の不思議生物なのかもしれない。
刀や手裏剣で武装しているが、強いわけではない。
・マイ
ピラフ一味の紅一点。劇場版『神と神』でトランクスのガールフレンドになった。また、絶望の未来ではレジスタンスとしてゴクウブラックと戦い、未来トランクスの恋人となっている。
見た目にはドラゴンボール初期のマイも、絶望の未来のマイも大きな違いは無いのだが、絶望の未来のマイにはドラゴンボール初期に在ったコミカルさが見られなくなり、普通に有能な美女になっている。
〇人造人間9号 ランチ
人造人間となって復活したランチ。地球人の器用さに、ナメック星人の再生能力、ヤードラット星人の超能力、フリーザ一族の潜在能力と強靭な生命力と宇宙空間でも生存可能な生態、そしてサイヤ人の頑健さと戦闘に適した生態を持つ。
また、ナメック星人の細胞が他の宇宙人の細胞より多く融合しているため、肉体が変化して額に二本の角(触角が変化した物)が生えている。スラッグの配下のアンギラと同じ。
能力的にはテレパシーが使え、腕を伸ばす事が出来る。また、五感が鋭い。巨大化も習得できるかもしれない。
また、髪の色と性格によって動力が切り替わり、金髪の時は気を発しているが、青髪の時は原作の人造人間のように気を発しなくなる。
地獄いる間にバーダックチームから彼らが実戦で培った戦闘技術を伝授され、気の制御と感知を習得した事で人造人間として復活した瞬間から戦闘力10万という高い数値を誇る。しかし、ナメック星人の細胞を多く移植した体にまだ馴染んでおらず、腕の伸縮をコントロールできなかった。
〇スーパーサイヤ人ゴッド
儀式の結果生まれるゴッドの強さは一定ではなく、儀式に参加する五人とゴッドになるサイヤ人の素の力によると解釈しました。
〇チチ
孫悟空、孫悟飯、孫悟天の最大三名のサイヤ人(とハーフ)の胃袋を支えた、強大な家事能力の持ち主。
一家が暮らしているパオズ山は気軽にデリバリーを注文できる土地ではなく、当然外食にも簡単にはいけない土地なので、悟空の食事をチチが三食創っていたと思われる。その実力は計り知れない。
〇孫家の入浴施設
原作では、悟空が風呂を(少なくとも湯船につかって石鹸で体を洗う事は)知らなかった事から、孫悟飯(老)が生きていた頃から風呂が無かったと思われる。入浴は水浴びで済ませていたのだろう。
この作品では、ギネが暮らすようになってから、家をリフォームして浴室を増設したという設定。
〇翼竜
原作でブルマを攫い、悟空に如意棒で角を折られて倒された翼竜。言葉は話せるが、地球「人」ではない。
また、原作ではその言動から過去に人を食べているらしい事が伺える。
〇ウーロン
ギネを覗くために瞑想等の精神面の修行に励み、気配を消す技を習得した。気を消せるわけではなく、植物のように存在感を消す事が出来る。……某秘密道具で例えると石ころ帽子。
体力等は上がっているが、戦闘力の数値が変わるほど強くなってはいない。
なお、キャビンカーには睡眠薬があるが、使う機会が無くてそのまま。
佐藤東沙様、PY様、よんて様、ユウれい様、tahu様、みえる様、誤字報告ありがとうございます。早速修正しました。