ドクターゲロに転生したので妻を最強の人造人間にする   作:デンスケ(土気色堂)

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57話 大猿パニック!?

「ピラフマシン、発進!」

 激高してピラフマシンを発進させたピラフは、砂の中から現れた屋敷より大きなロボットの手に飛び乗った。

「行くぞ、マイ!」

「ちょ、ちょっと待って。さっきからお尻の様子が……」

 屋敷の一階にいたシュウとマイも、慌てて外に出てロボットに搭乗する。

 

「おっ、ロボットだ! ゲロのじっちゃんが作ったロボットより強ぇんかな?」

「驚いた、ただの偽博士じゃなかったんだ」

 

 その様子を、悟空達は呑気に眺めていた。彼らにとってピラフ達は変装してドラゴンボールをかすめ取ろうとした小悪党で、戦いになる相手だとは考えていなかった。そんな相手が巨大ロボットを出してきたので、若干驚き、期待に目を輝かせている。

 

「あのぅ、今のうちに攻撃した方が良いんじゃ……?」

「サタン、それじゃつまらないだろ」

「ええぇ?」

 サタンがもっともな意見を述べるが、ターレスがサイヤ人らしい理由で却下する。

 

「丁度いいから、サイヤ人になって体がどう変化したか試して来たらどうだ?」

「いや、強かったらどうするんですか!? 武天老師様からも、余裕は必要だが油断はするなと――」

「落ち着けよ、何も油断してるわけじゃねぇ」

 

 サタンに言った通り、ターレスがピラフマシンの脅威を小さく見ているのは、油断と慢心からではなく彼なりに根拠があるからだった。それは単純明快。

 

「あのロボットが強かったら、あいつらも考古学者だなんて名乗ってドラゴンボールを偽物とすり替えるなんて事はしないで、力づくで奪い取ろうとするはずだろうが」

「あ、なるほど」

 

 ターレスとタイツは去年の『この世で一番強いヤツ』事件で、コーチンが制作した狂暴戦士やウィローのサイボーグボディ等、強力な戦闘用機械が存在する事を知っている。

 また、二人だけではなく悟空達も自分達に匹敵する強さのロボットが存在すると、つい先日ゲロによって思い知らされたばかりだ。

 

 だからこそ、ピラフマシンはそれほどではないと直感的に察していた。

 

「よしっ! 逃げるぞ!」

 もちろん、ピラフマシンの操縦桿を握るピラフ大王もそれを忘れてはいない。

「ええっ!? 逃げるんですか!?」

 

「当たり前だ! そもそも、ここにピラフマシンを隠しておいたのはもしもの時の逃走のためで、戦うためではない!」

 激高して我を失ったかのように見えたピラフだったが、実は理性を失ってはいなかった。メチャクチャ悔しいから怒鳴ったが、冷静さは保っていたのである。

 

「確かに、このピラフマシンは万が一の時のための逃走用に改造しているため、ミサイルも銃弾も取り除いてありますから、武器がありませんね」

「ミサイルや銃弾があったところで、奴らに通用するとは思えませんけど」

 

「だろう!? ここは一旦退き、ドラゴンボールに世界征服以外の願いを叶えてもらって世界征服する方法を考えるのだ!」

「あ、世界征服は諦めないんだ」

「やかましい! ピラフマシン、飛行形態へ変形! 発進!」

 

 ピラフ大王が操縦席のボタンを押すと、ずんぐりとした形状のピラフマシンの背中から飛行用の翼がせり出す。そして、エンジンが作動し飛びたったその時だった。

「ん? 今日は満月だったか? それに、妙に大きい?」

 夜空に、巨大な満月が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 トワは喜悦と呆れが混じった、複雑な感情を味わっていた。

「笑いが止まらないとはこの事ね。何もしていないのにこんなに大量のキリが手に入るなんて」

 本来の歴史にない願いを神龍が叶えた事によって、タイツ、ブルマ、チチ、ヤムチャ、そしてサタンに他一名がサイヤ人になった。純粋なサイヤ人ではなく地球人とのハーフに近いが、原作にはなかったことだ。

 

 これは後々……現在だけではなく未来に向けても影響を及ぼす大きな歴史改変だ。

「時の界王神とタイムパトロールは、私達じゃなくてあいつらを取り締まるべきじゃないかしら? できないだろうし、取り締まりようがないだろうけれど!」

 そうトワは笑った。実際、タイツ達に「歴史を改変するな」と言っても意味は無い。彼女達は「本来の歴史」なんて知らないのだから。

 

「だが、俺達が行った改変ではないから、他の歴史改変者も俺達とだいたい同じ量のキリを得ているはずだ。目標に近づいてはいるが、他の歴史改変者に対して優位に立ったわけではない」

 しかし、ミラが冷静に状況を分析する。確かに、この歴史の住人の行動によって起きた歴史改変で発生したキリは、この歴史に潜む歴史改変者で獲り合いになる。

 

 近くにいる自分達の方が有利だが、競合相手もキリを得ている以上、自分達が大きく有利になった訳ではない。

 

「そうね。時の界王神とタイムパトローラーを倒せても、ドミグラやメチカブラに勝てなければ意味は無い」

 トワの目的は、兄ダーブラの救出と暗黒魔界の復活。だが、目標を達成してもドミグラやメチカブラが時の巻物を手にして全ての歴史を支配するようになっては意味が無い。

 

 歴史が支配されてしまうという事は、兄の救出や暗黒魔界の復活が無かったことにされるかもしれない事を意味している。

 歴史改変者が歴史を改変される事を恐れるとはお笑い草だとトワ自身思うが、事実だから仕方ない。

 

(せめてドミグラと手を組めればいいのだけど。時の巻物を手に入れても、私達の歴史にだけは手出ししないという条件に奴が同意すれば……いえ、無理ね。ドミグラはかつての主を裏切って、自分こそ時の界王神に相応しいと思うような男。私達を裏切らない保証はない)

 

 そう考えるトワは、実はドミグラがトワ達に対しても「裏切らない保証はない」と考えて同盟を組む事を諦めた事を知らない。

 

「なら、得るキリを増やしておきましょうか。やりなさい」

 トワは無言のまま佇んでいた仮面のサイヤ人にキリを注ぎながら命じた。

『……』

 タイムパトローラーのベジータに破壊された仮面を修復した仮面のサイヤ人は、青白い光を放つエネルギー弾を夜空に向かって放った。

 

『っ!』

 エネルギー弾は仮面のサイヤ人が握り拳を開くと同時に弾けて混ざり、夜空に満月を創り出す。サイヤ人の中でも少数の戦士しか作れない人工の満月を創り出すパワーボールだ。

 仮面のサイヤ人は本来ならパワーボールを作る事は出来なかったが、トワが魔術とキリで彼を補助し、作れるようにしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 主に儂のせいで神龍でも世界征服の願いは叶えられない。その衝撃の真実にショックを受けていた儂だったが、スカウターが僅かだがキリの反応を検知し、スパイロボットが中継する映像に満月が出現した事で我に返った。

「時の界王神様! 歴史改変者です!」

「ドクター、先に行きます!」

 

 儂は即座にピアスで時の界王神に通報し、4号は瞬間移動で現場に急行する。儂も必要なホイポイカプセルを掴んで、すぐに後を追った。

 

「なんだ!? チチ、サタンっ、どうしちまったんだ!?」

「パパっ! 皆の様子が変なんだ!」

 儂が瞬間移動した時には、タイツ達は空に突然現れたパワーボールによって作られた偽の満月を目にしてしまい、変身が始まっていた。

 

 タイツ達も満月が上がるはずのない日に、仮初の満月が突然夜空に現れるとは想定外だったため、ブルーツ波遮断目薬をまだしていなかったのだ。

「「フォトンウェイブ!」」

 初めてサイヤ人の大猿化を見る悟空達に対して、保育器による刷り込みだが知識のあるターレスと原作知識のある4号は、迷いなく仮初の満月に向かって攻撃を放った。

 

 パワーボールによって出来た仮初の満月は、宇宙空間ではなく大気中に存在している。そのため、気功波で容易く打ち消す事が可能だ。原作劇場版『地球丸ごと超決戦』で原作ターレスがやったように。

 だが、4号とターレスのフォトンウェイブは仮初の満月をかき消す前に、不可視のシールドによって阻まれてしまった。

 

「なんだ、ありゃ!?」

「キリで作られたシールドのようじゃな」

 しかし、歴史改変者もパワーボールの弱点を知っていたらしい。仮初の満月を消されないよう手を打っていたようだ。

 

「歴史改変者って奴らの仕業か。奴等、何でもありだな」

「ドクター、シールドは破壊できますか?」

「ネイルを呼ばないと難しいな」

 スカウターで計測したキリの量から推測したシールドの強度は高く、儂等に破壊するのは難しい。

 

「では、呼びましょう!」

「いや、落ち着け4号。姿は見えないが、歴史改変者はこの近くで様子を見ているはずじゃ。ネイルを呼んできても、シールドの強度を上げるだけだろう。

 だからまあ、無駄だとは思うが……」

 

 儂は持って来たホイポイカプセルから、ブルーツ波遮断薬噴霧器を出し、作動させる。しかし――。

「いかん、離れろ!」

 何処からか放たれた気弾が高速で飛来し、装置を木っ端みじんに爆破した。当然、充填されていた薬液も一瞬で蒸発してしまう。

 

「な、なんだ、あの気弾は!? 凄まじい威力……いや、速さだったぞ」

「歴史改変者が放った気弾じゃ。下手に装置を守ろうとしていたら、諸共吹き飛ばされていただろう」

 初めて実際に目にした歴史改変者の力の一端に、戦慄する儂等。知識として、彼らが最終形態のフリーザより圧倒的に強い事は知っていたが、実際に目で見ると次元が異なる力の差がある事を思い知らされる。

 

『グオオオオッ!』

『ガアアアアアア!』

 その間にタイツ達の変身は終わってしまった。体長六メートル程の大猿が五……いや、六人か。

 

『グオオオオオッ!』

「マイっ!? ワシの声が聞こえんのか、マイ!?」

「ピラフ様っ! マイが化け物になってしまいました!」

「見ればわかるわ、馬鹿者! とにかく離れろ、急げ!」

 ふと視線を向けると、少し離れた場所にピラフマシンが墜落していた。そして、ピラフマシンを内側から破壊して大猿が現れる。周りには、ピラフマシンから脱出したらしいピラフ大王とシュウの姿もある。

 

 どうやら、タイツの願いでマイもサイヤ人と地球人のハーフに変化し、満月を見て変身してしまったらしい。

 

「どうする? 尻尾を切れば変身は解けるぜ。こいつらはギネと違って、すぐには新しい尻尾は生えてこないだろうしな」

「そうじゃな……」

 戦闘力が十倍になったタイツ達を見回して、儂は言った。

 

「ちょっと試してみるか」

 儂は瞬間移動で大猿タイツの背後に移動し、彼女の後頭部に触れて再び瞬間移動でナメック星に移動しようとした。

 

 大猿化を解く条件は、尻尾を切断するかブルーツ波の供給を断つ事。つまり、三つの太陽が代わる代わる空に昇り、常に明るいナメック星に移動すれば大猿化は解ける。

 遠く離れたナメック星なら、歴史改変者もすぐには追ってこないだろう。

 

「ぬおっ!?」

『グガ!?』

 だが、儂が移動したのはナメック星ではなく地球の夜空だった。どうやら歴史改変者は、儂と4号が瞬間移動で駆けつけた直後に魔術で結界を張ったらしい。キリではなく魔力を使った結界なので、儂のスカウターも反応しなかったようだ。

 

 おかげで儂はタイツと一緒に結界の壁に衝突してしまった。やはりキリと魔力は別のエネルギーだったか。魔導師バビディは歴史改変者ではなかったからな。

 次は魔力も計測できる新型計測機器を発明してくれる!

 

『グオオオッ!』

「っと、いかんいかん」

 儂に攻撃されたと思ったのか、大猿タイツが儂に向かって拳を繰り出す。急いで避けて、瞬間移動でターレス達の元に戻った。

 

「タイツ達を昼間の場所に連れて行くのは無理だったようですね」

「うむ。しかし、尻尾を切断する事もないじゃろう。ターレス、悟空、儂も手伝うからタイツ達の尻尾を切る以外の手段で無力化するぞ」

 

 

 

 

 

 

 一方、その頃、ゲロの通報によって速やかに駆け付けたトランクスは、一人でミラと仮面のサイヤ人と戦っていた。

 何故ならタイミング悪く悟空とベジータがメチカブラの部下と戦っている最中だったからである。

 

(メチカブラの手下のミラ程じゃないが、このミラも手ごわい! この仮面を被ったサイヤ人もただ者ではない……俺一人で勝てるのか!?)

「どうした!? 貴様の父親はもっと強かったぞ!」

 

 トワに従うミラは、メチカブラの配下である魔神トワによって造られたミラよりも弱い。

『……!』

 しかし、仮面のサイヤ人と連携して攻めて来るので勝負はトランクスにやや不利な形勢のまま、体力の削り合いになってしまっている。

 

 おかげで、トワの結界の向こうでこの歴史の母達が大猿になっている事を気にしている余裕もない。……そのお陰でこの歴史のマイの存在にも気づかずにいられるのだが。

 何せ、大猿化すると顔に大きな傷がある場合や、デザインが異なる戦闘服を着ていない限り、サイヤ人は外見で見分けがつかなくなるからだ。

 

 ミラと仮面のサイヤ人の連携は拙く、巧みとも密ともいえないが、この歴史では去年の『神龍の伝説』でベジータと戦った時より格段に進歩している。

 何故なら、トワは仮面のサイヤ人の洗脳をより強め、ミラは仮面のサイヤ人を組手相手にしてトレーニングを行ったからだ。

 

 おかげでトワの期待以上に、彼女達の戦力は上がりつつある。

「くっ、小賢しい真似を!」

 しかし、全てがトワにとって都合よく進んでいるかと言うと、そうでもない。

 

 まず、トワが予想していたよりも早くタイムパトロールが現れた。キリを使ってから五秒と過ぎていない。おかげで、トワを庇ったミラがトランクスの攻撃を受けてしまった。

 それだけではなく、ゲロと4号が即座に駆けつけてきた。正史でも亀仙人やピッコロが月を破壊しているので、仮初の満月を破壊しようとする事が十分考えられたため前もってシールドを張っていた。しかし、妙な機械を使おうとしたり、せっかく大猿に変身させたタイツを瞬間移動で何処かへ連れ去ろうとしたり、小賢しい真似をして戦いを避けようとする。

 

 おかげで一瞬だが結界の外に出て気弾を放って機械を破壊し、瞬間移動でも出入りできない結界を新たに張ってそれを維持しなければならなかった。

 おかげでミラと仮面のサイヤ人が優勢でも、トランクスを倒すために自分も加勢する事が出来ないでいる。

 

 そもそも、ゲロはまだしも4号が来た時点で、大猿化したタイツ達でキリを十分に稼ぐことは難しい。いっそ諦めて撤退するべきかもしれないが、トワは苛立ちのせいで、ミラは戦いの興奮と「トワを守る」という自分の役目を果たしている充足感から、引き際を完全に見失っていた。

 

 トワ達の企みを迅速に防ぐという意味では、ゲロを外部協力者に任命した時の界王神クロノアの判断は正しかった。

 

 

 

 

 

 

 大猿化したサイヤ人の戦闘力は、十倍に跳ね上がる。本物の満月ではなく、パワーボールで作った仮初の満月で大猿化した場合はいくらか弱くなるはずだが、キリや魔力で細工されたパワーボールだからか本物の満月と同様に強くなっているようだ。

 

 スカウターで計測した彼女達の戦闘力は、大猿マイは50、大猿サタンは600、大猿ブルマは1480、大猿ヤムチャは2250、そして大猿タイツは2万9千。

 彼女達が血に飢えた獣のように暴れまわったら、戦闘力4000のターレスでも全員の尻尾を切断するのは至難の業。尻尾を切断せずに彼女達を大人しくさせるのは、不可能だろう。

 

「正気か、爺さん!?」

「至って正気じゃ。もちろん耄碌もしておらん」

 しかし、儂は二つの要因から不可能ではないと判断した。まず、この場には儂と4号がいる。儂の戦闘力は、分身(フラッペ)に気を分けているせいで約九割しかないが、それでも3万4千。4号は5万3千。

 

 大猿の中で最も強いタイツでも、いざとなれば制圧する事が出来る。

 それに、タイツ達は純粋なサイヤ人になった訳ではない。

 

「ヤムチャ様っ! ボクの事が分からなくなっちゃったんですか!?」

「チチ、オラ、おめぇの尻尾を切りたくねぇ! また生えて来るらしいけど、せっかく生えたんだからよ! だから大人しくしててくれ!」

 

 それぞれ大猿化したヤムチャとチチに近づき、呼びかけるプーアルと悟空。大猿化した純粋なサイヤ人相手に対してやった場合、それはただの自殺行為だ。ターレスは「あいつら!」と言って、慌てて飛び出そうとするがその必要はなかった。

 

『グルルルゥ』

『ウゥ~』

 大猿ヤムチャと大猿チチは、プーアルや悟空に襲い掛かる様子を見せないどころか、むき出しにしていた牙を仕舞い、両腕を地面に垂らして大人しくなったのだ。

 

「なっ!? 馬鹿な、大猿になると理性を失ったはずじゃなかったのか!?」

「いや、理性は失っている。タイツが願ったのが『サイヤ人と地球人の良い所取りにして』だった副作用が、良い形で出た結果じゃ。地球人の性質が混ざっているため純粋なサイヤ人が大猿化した時ほど、狂暴にならずに済んでいるのだろう」

 

 サイヤ人と地球人のハーフである孫悟飯は、原作のサイヤ人襲来編で大猿化した時は大猿化してもクリリンや悟空に襲い掛からず、ベジータのみを明確な敵として認識していた。劇場版『地球丸ごと大決戦』でも、ハイヤードラゴンを見て大人しくなった。

 

 ヤムチャやチチにも同じ事が起きているのだろう。……マイも、ピラフ大王やシュウは敵として認識していないようじゃし。

 ……「良いとこ取り」なら大猿化する事自体しないようにできなかったのかとも思うが、おそらく、タイツは大猿化を欠点だと認識していなかったのだろう。

 

 この歴史では地球で誰も大猿化していないから被害も出ていないので知識としてしか知らないし、目薬を差すだけで手軽に防ぐ事が出来る。

 

(ドクター、去年行われたランファンの大猿化実験の記録では、そんな様子はありませんでしたが?)

(あれは儂もネイルもランファンを呼び止めようとしなかったからじゃろう)

「おっといかん」

 しかし、タイツはテレパシーで4号と会話している最中の儂に向かって振り上げた腕を振り下ろし、叩き潰そうとしてくる。

 

「爺さん、タイツに恨まれるような事でもしたのか?」

「いや、ついさっき瞬間移動で連れて行こうとして失敗したのを、儂に攻撃されたと誤解しているのじゃろう」

 純粋なサイヤ人が大猿化した場合よりは狂暴にならないとしても、理性を失っている事に変わりはない。そのため、一度怒らせてしまったタイツを言葉で大人しくさせるのは難しい。

 

 4号もいたのだし、彼にタイツを任せて最も弱いマイでまず試すべきじゃったな。失敗、失敗。

 

「だったらこいつはどうしたんだ!?」

『ガアアアアア!』

 一方、サタンはラピスとラズリ相手に大暴れしていた。ただ、二人を殺そうとしている様子はない。

 

「多分、稽古か試合でもしているつもりなのじゃろう」

 理性がなくなって気の感知がいい加減になったため、サタンの狙いは甘くなっている。おかげでラピスとラズリは逃げ回る事に成功しているが、サタンは『神龍の伝説』のグルメス王と違い武道家だ。隙が少なく、油断が出来ない。

 

「チッ! 尻尾を切らなければいいんだな!?」

 ターレスもそう思ったのか、サタンの前に飛び出すと彼の顔面を殴りつけた。

『グオオオ!?』

 大猿化したサタンでも、ターレスとの実力差は大きい。防御する事も出来ず悲鳴をあげて砂漠に倒れ込んだ。

 

「こいつは俺が気絶させる! お前らはあっちの女をどうにかしろ!」

「あっち? ……あいつらも大猿になったのか?」

 ターレスが視線で指した先には、此方に向かってくる大猿マイの姿があった。彼女は悟空達を明確に敵とみなして襲い掛かろうとしているようだ。

 

「女だけだ。シュウとピラフって奴らは、周りにいるのが見えるよ」

そしてマイの後ろには、彼女を追いかけるピラフとシュウの姿があった。彼女を止めようとしているらしい。

 

 どうやら、ピラフとシュウは神龍から「地球人」とは見なされなかったらしい。メシキア王国人はモンスター型地球人ではなく、魔凶星か暗黒魔界がルーツの魔族なのかもしれない。シュウの方は……犬の獣型地球人ではなく犬だからだろう。

 

「だけど、あれならあたし達でもやれるね」

「だが、早く気絶させないと殺されるぞ。あいつらがチチ達に」

 ラピスが言うように、敵意剥きだしで近づいてくる大猿マイに、一旦は大人しくなった大猿チチや大猿ヤムチャ、そして逃げ回るウーロンと彼を保護した4号を追い掛け回すブルマが、注意を向けかけている。

 

 このままだとチチ達がマイ相手に暴れ出しかねないと、ラピスとラズリはターレスの指示通りに彼女を倒しに向かった。

 

「爺さんっ! あんたの孫娘、俺の事を嫌い過ぎじゃないか!?」

「どうやら、大猿化した時に彼が足元に居たので、『覗かれた』と誤解したようです」

「あんな化け物を下から覗いて何が楽しいんだよ!? 自意識過剰なんじゃねぇの!?」

『グオオオオオオオ!!』

 

 4号に抱えられたウーロンの声が聞こえたのか、マイに向かいかけたブルマが怒りの咆哮を轟かせながらこちらに向かってくる。

「日頃の行いのせいかと」

「俺が酷い目にあう時、皆そう言うよな!?」

「なら、そろそろ懲りたらどうですか?」

「嫌だね!」

 

 4号は脇に抱えたウーロンと会話しながら、ブルマの拳を空いている方の腕で受け止め、回し蹴りと鞭のようにしなる尻尾の二連撃を回避し、口から放つ気功波を空に向かって蹴り飛ばす。

 

 儂の方も、怒り続けているタイツ相手に見た目よりは余裕のない攻防を繰り広げている。大猿化して理性を失った影響か超能力を使う様子が無く、また接近戦の距離では気功波を撃つより拳や蹴りを繰り出す事が多いので助かっているが。

 まあ、いざとなったら4号を呼ぶので、それをしていないという事は余裕があるという事だが。

 

 そうこうしている間に、大猿マイはラピスとラズリにあっさりと鎮圧された。戦闘力が十倍になっても、元が常人なら二人には大きな的でしかない。

「た、頼むっ! マイを殺さないでくれ!」

「お願いします、普段は良い奴なんです!」

 倒れ伏した大猿マイを、追い付いたピラフとシュウが庇おうとする。しかし、最初から二人に彼女を殺すつもりはない。

 

「ついさっき、その良い奴に銃を向けられたけどな」

「まんまと騙されたしね」

「あ、あれは世界征服のためだ! それに、どうせお前は銃で撃たれても無傷でピンピンしているだろ! 細かい事を気にするな!」

 と言い合いを始めた。まあ、あっちはもう大丈夫だろう。

 

「次はお前だ! しばらく大人しくしてな!」

 一方、サタンを気絶させたターレスは次に大猿ブルマの背後に回ると、全身を使って尻尾を抱きしめた。

『ガアァ……』

 その途端、肩を落としてその場に座り込んで大人しくなる大猿ブルマ。そう、尻尾が生えたばかりの彼女達は、サイヤ人共通の弱点である尻尾を克服していない。

 

 だったらサタンを気絶させる必要はないのでは? と思うかもしれない。しかし、大猿化した時の尻尾は太く、両腕を使って抱きしめるようにしないと締める事が出来ないので、この方法でずっと大人しくさせるのは負担が大きいのだ。

 

「おいっ、悟空かプーアルっ、代われ!」

「オラが――わっ、チチどうしたんだ?」

『グルルォォ』

 ターレスと変わろうとした悟空だったが、大猿チチに止められてしまった。さっきまで暴れていたブルマに近づくと危ないと思ったからか、悟空が他の女に抱き着くのが嫌なのかは定かではない。

 

 プーアルも、彼がブルマの近くに向かおうとすると大猿ヤムチャも動いてしまうため、近づけないようだ。

 

「よ、よし! ちょっと待ってろ!」

 その時動いたのは、なんとウーロンだった。彼は4号から離れるとホイポイカプセルからキャビンカーを出す。そして中に駆け込み、すぐに何かを持って出てきた。

 

「変化っ! これでも食らえ!」

 そして、鳥に変化して大猿ブルマの顔の前まで飛ぶと、脚に持っていた容器を彼女の口に向かって投擲した。

『っ!?』

 容器が牙に当たった拍子に蓋が空き、中の液体が大猿ブルマの口に入る。その途端、大猿ブルマの上半身が揺れ始め、瞼を閉じて深く俯いたまま動かなくなってしまった。

 

「ブルマが死んじまった!?」

「寝てるだけだ。よくやった、ウーロン」

「へへっ、まあな!」

「だが、なんで眠り薬なんて持ってんだ?」

「そ、それは……昔、不眠症だった時期があって。ほら、俺って神経質だから」

 どうやら、ウーロンは死蔵していた睡眠薬を使ったようだ。

 

「そう言う事にしておいてやるか。おい、爺さん。タイツには手を貸すんだよな?」

「そのつもりじゃ。ほれっ!」

 暴れている最後の一人になった大猿タイツの背後に瞬間移動し、尻尾を締めようと試みる。だが、大猿タイツはそれを読んでいたようで、素早く体を回転させて儂に殴りかかる。

 

「かかったな!」

 大猿タイツの注意が儂に集中している間に、プラズマブーストで身体能力を倍増させたターレスが彼女の背後に回り込み、尻尾を抱きしめる。

 

『グオオオ……!?』

 そして、全身に力が入らなくなって砂漠に膝を突くタイツを当て身で気絶させたのだった。

 

 

 

 

 

 

 その様子を結界内で見ていたトワは、「ミラ、退くわよ」とようやく撤退を選んだ。やろうと思えば、大猿チチや大猿ヤムチャをキリで強化し狂暴化させる事も可能だが、それでは獲得量より消費量の方が大きいと考えたのだろう。

 

 また、トランクスを倒すためにこれ以上時間をかけて他のタイムパトローラーが救援に来るかもしれない危険を冒すより、安全に撤退する事を選んだようだ。

 

(サイヤ人の大猿化を利用した歴史改変は今後控えるべきね。この歴史の連中は、大猿化を解く手段を複数持っていて面倒だから)

 

 結局キリは手に入ったのだからプラスのはずなのだが、トワは妙な敗北感を覚えていた。

 

「ま、待て!」

 劣勢を強いられたまま粘り続けたが、結局逆転する事が出来なかったトランクスは撤退するトワ達を追おうとした。しかし、今回は仮面のサイヤ人の洗脳が乱れなかったため追い下がる事も出来なかった。

 

「クソっ!」

 トワ達が通った空間の穴があった場所を悔しそうに睨んでいたトランクスだが、すぐにスーパーサイヤ人化を解いた。トワが逃げた以上、結界もすぐに解ける。彼の気は、今の時期のこの歴史には大きすぎる。

 

 そして、時の界王神に頼んで時の巣に転送してもらおうとした時、トランクスの前にゲロが瞬間移動で現れた。

「ゲロ……さん?」

「歴史改変者はやはり強敵のようじゃな」

 ボロボロになったトランクスを見たゲロはそう言うと、懐からいくつかの革袋を取り出して彼に差し出した。

 

「これは?」

「仙豆じゃ。一袋に五粒で四袋ある。君とベジータ、悟空で一袋ずつ持ち、もう一袋は予備にすると良いじゃろう」

「仙豆!? ありがたいですが、貴重なものでは?」

 それは絶望の未来ではほとんど無くなり、ベジータや悟空のいる未来でも数が限られる貴重な豆だった。それを二十粒も渡され、トランクスの目が丸くなる。

 

「なに、心配はいらん。儂等の歴史ではブリーフが栽培に成功しておるからな。有り余るほどではないが、分ける余裕はある。

 去年の事情聴取では急に呼ばれたので渡せなかったから、今渡しておく」

 

「治療なら、父さん達の歴史の老界王神様に来てもらっていますが……?」

「老界王神様に戦場へ来てもらう訳にはいかんじゃろう? 注射する液体タイプにした仙豆ポーションもあるが、悟空は嫌がりそうじゃからこれだけ渡しておく。

 では、また会おう」

 

 そして、再び瞬間移動で去っていった。慌ただしい再会だったが、この歴史で長くトランクスと話し込むことはできないので、本当に急いでいたのだろう。

 

「……感謝します」

 仙豆の袋を受け取ったトランクスは、彼の気がある方向に頭を下げると時の巣に戻ったのだった。

 




〇大猿化

 純粋なサイヤ人の大猿化は、悪の心の無い悟空でも仲間を認識できない程狂暴になるが、地球人とのハーフである孫悟飯(子)が大猿化した場合はそこまででもなかった。サイヤ人襲来編では、その場にいたクリリンや悟空ではなく、ベジータのみを明確な敵と認識し、『地球丸ごと大決戦』ではハイヤードラゴンを認識して大人しくなった。

 そのため、地球人の血が混じると大猿化した時の狂暴さも薄れるのだと思われる。ただ他に大猿化した地球人のハーフの例が無いので、悟飯だけが特別である可能性もある。しかし、この作品では「地球人とのハーフが大猿化した場合、純粋なサイヤ人が大猿化した時程狂暴にならない」とする。

 なお、ラディッツ戦後ピッコロに連れ去れた悟飯がその日の夜に大猿化した時、ピッコロにも襲い掛かっているが、この時期はまだ両者の間に絆が無かった事が原因であると思われる。……むしろ、自分を攫った相手なので、悟飯がピッコロを敵だと認識していてもおかしくない。

 また、解除するために尻尾を切ると、ベジータのように再生しない場合もある。



〇トワ

 キリを使った途端ゲロにばれてタイムパトロールに通報されたり、せっかくサイヤ人化した連中が多いのだからと大猿化を誘発させたら、戦わずに対処されそうになったり、色々面倒な目に遭った人。
 なんで素直に戦わないの? と思っている。

 しかし、残念なことにゲロは戦士である前に天才科学者なのだ。



〇未来トランクス(タイムパトローラー)

 ミラと仮面のサイヤ人のタッグと戦って、負けずに粘ったがボロボロにされて危なかった。ミラ達が退いた後にゲロから仙豆を貰ったが、戦いはもう終わっていたのと老界王神に治療してもらえるため食べずに全て持ち帰った。

 なお、トワの結界に隔たれていたのでマイの気があった事には気が付いていない。目では見ているが、戦うのに忙しかったのと、「母さん達が大猿に!?」という衝撃が大きくてよく見ていなかった。そのため、大猿Aとしか認識していない。サイヤ人は大猿化しても、顔に傷でもない限り個体差がないので。

 また、皆の大猿化が解けきる前に時の界王神に回収されたので、最後までマイの存在に気が付かないまま帰った。



 tahu様、0・The Fool様、ユウれい様、泡銭様、佐藤東沙様、匿名鬼謀様、バンドリーマーV様、gsころりん様、誤字報告ありがとうございます。早速修正しました。

牛魔王夫妻の第二子は?

  • モウ(男の子)
  • スイ(女の子)
  • まさかの双子!
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