ドクターゲロに転生したので妻を最強の人造人間にする 作:デンスケ(土気色堂)
あの世との交流試合から約二か月、悟空達は修行の日々に戻っていた。
次元の異なる戦いを見たクリリンだが、心が折れる事なく修行に励み、その成果は早くも出ておりまだ大岩を動かす事は出来ないが、毎日の修行にもある程度余裕が持てるようになってきている。
そうした夏のある日、亀仙人が魔神城の眠り姫の伝説を彼らに聞かせ、その眠り姫を助けて連れて来るよう言いつけたのである。
「これは人助けであると同時に、クリリンの試練でもある。本来儂の弟子に成るには、ピチピチギャルを連れて来なくてはならんからな」
「ええっ!? 武天老師様、まだ覚えてたんですか!?」
「忘れる訳があるまい。お前にある程度実力がついて、多少強い魔族程度なら倒せるようになるのを待っていたのじゃからな」
クリリンが弟子入りした時には保留にした、ピチピチギャルを連れて来る試練。その時口にした心当たりが、この魔神城の眠り姫伝説だったのだ。
「本当にそんな人いるのけ? もうピチピチどころかシワシワになってるかもしれねぇだぞ?」
「チチよ、そう夢の無い事を言うもんじゃない。それに、伝説のドラゴンボールも実在するのじゃから、眠り姫が実在してもおかしくはないじゃろ?」
眠り姫の存在に最も懐疑的だったチチも、亀仙人にそう言われると強く言い返せなかった。
「眠り姫か……。そう言えば、悟空やサタン先輩達はこの試練をどうやってクリアしたんですか?」
「うむ、サタンは今度遊びに来る友達の女の子、チチは今後の成長も加味したうえでチチ本人、悟空はギネ、そしてここにはいないがヤムチャはプーアルじゃ」
自分以外の弟子は、この試練をどうしたのか気になったクリリンが尋ねると、驚きの答えが返ってきた。
サタンの友達の女の子がその内カメハウスに遊びに来る事は前々から知っていたし、チチはまだピチピチギャルというには子供だが可愛いので納得できる。悟空のギネ……母親というのも、占い婆の宮殿で彼女の姿を見た後なら納得だ。どう見ても、ちょっと年の離れた姉にしか見えない。
「プーアルって、あいつ女の子なの!?」
しかし、プーアルでピチピチギャルを連れて来る試練を突破したのは納得出来なかった。何故なら、クリリンはまだプーアルが変身するところを見ていないからだ。
彼にとってプーアルは、青い毛並みの可愛い不思議生物であって、ギャルではない。
「クリリン、知らねぇのか? プーアルは色々な物に変身できるんだ。きっとピチピチギャルにも変身出来るぞ」
「へ、変身……。じゃあ、俺以外は皆知り合いや本人で試練をパスしたのか……なんか、狡くないか?」
身内や友達に美人がいないクリリンにとって、ピチピチギャルを連れて来る試練の難易度は大冒険並みに高かった。
なお、ラズリは二か月ほど前にちょっと話しただけなので、「お友達に成れたらいいな」と思っているが、クリリンの認識ではまだ友達ではなかった。
「大丈夫だって、オラ達も手伝ってやるから心配すんな。なあ、亀仙人のじっちゃん、オラ達も行っていいよな?」
「うむ。魔神城がある悪魔の指は危険な場所じゃからな。四人とも助け合って、見事眠り姫を助けて来るのじゃ」
クリリンへの試練という名目で眠り姫の救出を言い渡した亀仙人だったが、悟空達に手出しを禁止するつもりはなかった。試練に拘って、眠り姫を助けられなかったら後味が悪くなる。
「それと、念のためにこれを持っていけ。一人二粒じゃ、落とさんようにな」
さらに、袋に分けた仙豆を悟空達に配る。
「おっ、仙豆だ! ありがとな、亀仙人のじっちゃん!」
「センズって、豆?」
「ありがたい神様の豆だべ。一粒食べるだけで、他の物は十日間食べなくてもいいぐらい栄養があって、どんな怪我をしていても治る、すっげえ豆だべ。
去年悟空さが悪党にやられちまって動けなくなった時も、仙豆を一粒食べただけで元気になって逆に倒しちまったんだべ」
「そ、そんなに凄い豆なのか」
「はははっ、大事に取っておくんだぞ、クリリン」
チチの説明を聞いて驚くクリリンに、本当は彼と同じように驚いていたが知ったかぶりをするサタン。
「それと、万が一悪のナメック星人が……ピッコロ大魔王が現れたら、戦おうとはせずに儂等を呼ぶのだぞ」
それは、魔族の領域となっている悪魔の指と魔神城に、復活したピッコロ大魔王とコーチンが潜伏しているのではないかと考えているからだ。
そんな心配があるなら、そもそも弟子を向かわせるなと思うかもしれないが……それはそれとして、伝説の眠り姫を見てみたいというスケベ心があるのも確かだった。
「連絡用のスカウターを持っていけ。悟空は操作が苦手じゃから、サタンに任せよう」
「はい! 行って参ります!」
そして四人は悟空の筋斗雲に乗って、魔神城へと向かったのだった。
「放すなよっ!? 絶対に放すなよ!?」
「分かってるって」
若干定員オーバーだったが、サタンとクリリンは悟空やチチに捕まってなんとか落ちずに飛んで行った。
なお、クリリンと悟空の仲は一緒に修行をしている内に改善している。クリリンがいくら悟空を嫌っても、悟空の彼に対する態度は初めて会った時と変わらなかったため、いつの間にか絆されていたのだ。
「……さて、では儂もそろそろ行くとするか」
そして、悟空達の姿が空の彼方に消えたのを確認してから、亀仙人も魔神城へ向かおうと準備を始めた。ピッコロ大魔王が居たら連絡するようにと言ったが、彼は瞬間移動が使えない。舞空術で飛行すれば時間をかけずに駆けつける事が出来るが、即座に参上とはいかない。
なので、気を消して魔神城の近くで弟子の活躍を見守ろうと考えていたのだ。だが、その彼の前に前触れもなく複数の人影が出現した。
「あら? 亀仙人のお爺ちゃんだけ? 孫君達は?」
「ブルマか? どうした、突然?」
ブルマ達が瞬間移動で現れたのだ。
「ミゲルちゃん達が遊びに来る日が何時か、聞き忘れていたから聞きに来ました。あ、これは親父からです」
亀仙人に手土産を渡すジャガー。どうやら、彼らの用件は日程の確認らしい。
「ブルマ、それならテレパシーでお主が聞けばそれで済むじゃろう」
「そう言われればそうね。でも別に遊びに来たっていいじゃない。息抜きよ、息抜き」
そう答えるブルマ。彼女とジャガー以外の一行はチャオズとラズリ、ラピス、ウーロンである。
ヤムチャは神様の神殿で修行に励んでおり、プーアルは彼に付いている。パンプットは秋から始まる主演ドラマのPRイベントに出ているそうだ。
「天津飯はどうした? それにターレス達は?」
「天はチャパ王の道場に出稽古。ターレスとタイツはそれぞれ修行」
「ふむ、そうか……」
「それで、孫君達は何処なのよ?」
「悟空達なら、伝説の眠り姫を助けに魔神城へ行ったところじゃ」
そして亀仙人は改めて眠り姫の伝説をブルマ達に語り、「ピチピチギャルを連れて来る試練」である事は伏せ、人助けとクリリンの修行のために向かわせたと説明した。
「人助けね~。どうせ、その眠り姫を見てみたいとか、そんな理由じゃねえの?」
「ギクっ!? そ、そんなことはないぞ!」
ウーロンに鋭いツッコミを入れられたが、誤魔化せた……はず。
「悟空達はともかく、あのクリリンって奴は大丈夫なのか? そんなに強そうには見えなかったぞ」
「並みの魔族程度なら大丈夫だろ。二か月前にドラキュラマンに勝ったんだからな」
「随分あいつの肩を持つな。気に入ったのか、ラズリ?」
「別に。本当の事を言っただけさ」
本当にクリリンのこと等気にしていないような様子のラズリを、ラピスは興味深そうに見つめた。双子の姉が金持ちでもなければ、ターレスのように一緒に暮らしている訳でもない同世代の少年について話すのは、それだけ珍しい事だったからだ。
もっとも、ラズリと面識のある同世代の少年自体が珍しいのだが、それはそれだ。
「じゃあ、俺達も行くか、魔神城」
なので、ラピスもクリリンに改めて興味を覚えた。考えてみれば亀仙人の弟子である以上、今後何度も顔を会わせる相手だし、天下一武道会にも出場するはずだ。見に行くのも悪くない。
「そうね、予定も無いし」
「分かった」
「なんで!? 止めようぜ、そんな危ない所に近づくの!」
興味を覚えたから、他に予定がないから。そんなどうでもいい理由で危険地帯に向かおうとするラピス達に、ウーロンは全力で抗議した。
「良いじゃないか、どうせ今日は悟空の所に遊びに行くつもりだったんだ。行き先が亀仙人の爺さんの家か、魔神城かってだけの違いだろ?」
「滅茶苦茶違うだろ!?」
「大丈夫よ、並みの魔族って見た目ほど怖くないから」
「お前は尻尾が生えてから本当に好戦的になったよな!?」
「サタンに俺が修行でより強くなったところを見せてやる! 腰が鳴るぜ!」
「ウーロン、煩い」
「お前らは俺と一緒にこいつらを止めろよ! あと鳴るのは腕だ!」
ラピス、ブルマ、そしてジャガーとチャオズに連続でツッコミを入れるウーロン。内心、「常識人は俺以外にいないのか?」と思いながら発言しなかったラズリを見るが……。
「じゃあ、瞬間移動で行くのか?」
「いいえ、まだ筋斗雲で移動している途中みたいだから、飛行機で行きましょう。ホイポイカプセルも持って来ているし」
やはり止めるつもりはなさそうだ。
「はあ……。俺、ここで待ってようかな?」
「そう言うなよ。お前の変化は役立ちそうだし、お前だって眠り姫を見てみたいだろ?」
「それはそうだけど……おいっ、危なくなったら俺をちゃんと守れよな!」
そして、ブルマ達も飛行機に乗り、悟空達を追って魔神城へと向かったのだった。
「では、今度こそ儂も向かうか。天津飯やターレス、タイツが行くなら一先ず様子を見るだけで良いかと思ったが……コーチンとかいう科学者がピッコロ大魔王を改造しているかもしれんし。
後は任せるぞ」
「はい、行ってらっしゃいませー」
ウミガメに留守番を任せると、亀仙人は小ガメラを呼び、彼の甲羅に乗って魔神城へ向かったのだった。
その頃、既に魔神城がある悪魔の指周辺に潜んでいる者が居た。
「それで、俺は気を抑えて眠り姫を盗むことに集中すればいいんだな? 他に来るガキ共は助けなくていいのか?」
『ああ、その辺りは君の良識に任せる。ブルー将軍達に対する対処も、臨機応変に対応してくれ』
人造人間9号、レッドリボン軍ではサイボーグ2号として活動しているランチである。二人は、テレパシーだとここに近づきつつあるブルマやチャオズに傍受される可能性があるので、スカウターの秘匿回線を使って話していた。
「臨機応変ね。都合のいい言葉だぜ、まったく」
そうぼやきながら、ランチは魔族にばれないようにゆっくり魔神城を目指して移動していた。
そんな彼女とは別の方向から魔神城へ近づく者達がいた。
「ここが悪魔の指か。ええっと、隕石が落ちたのは何処かな?」
「ヤムチャ様、もっと上から見た方が探しやすいと思います」
「お、そうだな。よし、ジェットモモンガを上昇させるぞ、プーアルは望遠鏡になってくれ」
「任せてください!」
なんと、地球の神様の神殿で修行をしているはずのヤムチャとプーアルだった。
彼らは地球の神から、「不吉な気配を漂わせた隕石が地球へ落ちたので、調べて来るように」と言い付けられて地上に降りていたのだった。
なお、移動手段は愛車のジェットモモンガである。本来はホバーバイクであるため木々の上を飛ぶ事は出来ないが、あの世との交流試合を観戦していたブリーフ博士に改造してもらい飛行モードを実装していた。
「ん? 大きな気の持ち主が三人、こっちに近づいてくる。 後ろの二人は覚えのある気だが、もう一人は誰だ?」
プーアルが変化した望遠鏡を使ったヤムチャの目には、悪魔の指に猛スピードで近づく金髪の男と、それに続くヘルメットを被った二人の兵士の姿が映っていた。
「ホーッホッホッホ! 魔族共を蹴散らして眠り姫を頂くわよ!」
「……なんで俺達まで」
「嫌なら帰ってもいいんだよ、ボンゴ」
ヤムチャが感知した大きな気を持つ三人。それは、レッドリボン軍のブルー将軍と、ボンゴとパスタだった。
彼らはサイボーグ2号(ランチ)がいよいよ眠り姫奪取のために動き出すという情報を手に入れたので、動き出したのだ。
ブルー将軍の目的は、眠り姫を自分が手に入れる事でサイボーグ2号を作ったフラッペに嫌がらせをする事と、手柄をあげてレッド総帥に自分の方が有能だと示す事だ。そのため、サイボーグ2号が動き出すまで待っていたのである。
しかし、眠り姫があるのは人跡未踏の魔族の巣窟。自分だけでは不測の事態に陥るかもしれない。そのため、日頃から直属の部下として扱っているボンゴと、彼の相棒であるパスタを連れて来ていた。
ボンゴは肉弾戦ならレッドリボン軍で二番目の強さを誇る。そしてパスタは、女だから気にいらないが三番目の強さだったし、使えるので連れて来たのだ。女だから気に入らないが。
三人は改良されたフライングソーサーを使って、おどろおどろしい森のすぐ上を滑るように進んでいた。僅かな音で低空飛行を行う彼らに気が付くのは難しく、魔族達は彼らにまだ気が付いていない。
「おい! あんた達、ちょっといいか!?」
しかし、気を抑えて消す技術を持っていないので、ヤムチャには簡単にばれた。
(っ! あいつは武天老師の弟子!)
ヤムチャと直接会った事があるボンゴとパスタはもちろん、ブルー将軍も彼の事は知っていた。
(何故こいつがこんな所に!? まさか、こいつの狙いも眠り姫か!?)
(どうする? 三人がかりでやっちまうかい?)
ボンゴとパスタはそう目配せをする。この一年、ボンゴとパスタはレッドリボン軍の将兵を鍛える過程で自身の実力も高めていた。
フラッペ(ゲロ)が提供する最新(という触れ込み)のトレーニング器具に、ボンゴの場合はブルー将軍という自分よりも強い組手相手。
それによって強くなった二人とブルー将軍。この三人でかかれば、武天老師の弟子であるヤムチャも苦戦せず倒せる自信があった。
「何かしら、ハンサムさん? 知っての通り、ここは危険地帯よ。早く用件を言ってちょうだい」
しかし、ブルー将軍はヤムチャとの対決を一先ず避ける事を選択した。
「この辺りに堕ちた隕石を知らないか? 俺達はそれを探しに来たんだが?」
「隕石? あなた達、こんな所に隕石を探しに来たの?」
「ある人に頼まれてな」
「地球の神様に頼まれて」と言ったところで信じてもらえるとは思えなかったので、適当に濁して答えるヤムチャ。そしてブルー将軍達は彼がドクターゲロやブリーフ博士の知り合いだと知っていたので、彼が口にした「ある人」とはゲロ達の事だと解釈した。
「そう、隕石って、三か月前ぐらいに夜空に飛び散った光る流れ星の事かしら?」
「いや、一昨日ぐらいだったはずだ」
もしかしてドラゴンボールの事かと思って念のために尋ねたが、そうでもないようだ。ヤムチャの目的が眠り姫でも、そしてまだ石になっているはずのドラゴンボールでもないなら、ブルー将軍達にとって彼と戦う意味は無い。
「その反応を見ると、知らないようだな」
「ええ、残念だけどね。じゃあ、先を急ぐから失礼するわ」
「そうか、引き留めて悪かったな。ところで……なんで元グルメス王国軍のボンゴとパスタがここに居るんだ?」
「っ! チッ、気が付いていたのか!」
会話をして相手を探っていたのは、ヤムチャもまた同じだった。彼は黙っていたヘルメット姿の二人の気から、二人の正体がボンゴとパスタかどうか確かめていたのだ。
「あら、顔だけじゃなくて勘まで良いのね。でも、あなたが探してる隕石の事は本当に知らないし、関わるつもりもないわ。
どう、見逃してくれない?」
「悪いが断る。あんたの事は知らないが、後ろの二人は放っておくと碌な事にならないってのは、良く知ってるんでね」
「そう、残念ね……カァ!」
ブルー将軍は奇声をあげて、超能力でヤムチャを金縛りにしようとした。
「っ!? か、体がっ!」
突然体が動かなくなり、声をあげるヤムチャ。速やかに障害を排除するため、ボンゴとパスタが阿吽の呼吸で彼に襲い掛かる。
「はあああっ!」
しかし、ブルー将軍がヤムチャを金縛りにできたのはほんの一瞬だった。ヤムチャは気を解放し、強引に彼の念動力を打ち破ったのだ。
「なんですって!? あたしの超能力を解いた!?」
信じられないと思わず叫ぶブルー将軍だったが、ボンゴとパスタが振るう特殊合金製の棒を、ヤムチャが抜いた刀で打ち払う光景は現実だった。
「去年よりだいぶ腕を上げたな! 前の俺ならもうやられてるところだぜっ」
ボンゴとパスタは『神龍の伝説』事件から、だいぶ強くなっていた。以前は攻撃手段として銃や手榴弾を使っていたパスタが、自身の腕力に頼った方が強いと思い至って戦い方を変えるほどに。
彼等自身はその数値は知らないが、二人の戦闘力はパスタが130、ボンゴが150。今の二人ならミイラ君に勝つ事も可能だろう。
「今の貴様に勝てないなら意味はないな」
「まったく、武天老師の弟子ってのはどんなトレーニングをしてるんだろうねっ!」
しかし、ヤムチャはそれ以上に強くなっていた。一年前彼らと初めて戦った時は125だった彼の戦闘力は約300に達している。
「悪いが関係者以外には秘密でね! ……あの妙な男は動かないのか?」
ブルー将軍の超能力を警戒していなければ、ヤムチャは瞬く間に二人を倒していただろう。
「くっ、予想以上だわ……迂闊に手を出せばここで全滅ね」
一方、ブルー将軍は自身の超能力を解いたヤムチャが自分以上の実力者である事を見抜いていたため、迂闊に動けなくなっていた。
レッドリボン軍最強の戦士であるブルー将軍でも、その戦闘力は180。超能力抜きではヤムチャには遠く及ばない。そして、その超能力も先ほど破られている。
(さっきの手応えでは、あたしが全力で念動力をかけても数秒保つかどうか。もう不意は突けないでしょうしね)
部下二人とヤムチャの戦いを、やや離れたところから高みの見物をしているように見えるブルー将軍だが、内心では冷静に戦況を分析していた。
(どうにかしなければ……って、なんだ、簡単じゃない!)
「はぁ!」
再びブルー将軍が念動力を発動させる。また金縛りかと身構えるヤムチャだったが、彼の目標は別の所にあった。
「な、なんだ!?」
がくんと、ヤムチャの体が大きく下がり、斜めに傾く。
「ヤムチャ様っ、ジェットモモンガが制御できません!」
望遠鏡から戻ったプーアルが咄嗟にハンドルを握るが、ヤムチャの愛車は制御不能に陥っていた。そう、ブルー将軍は念動力でヤムチャ本人ではなく、彼の愛車の姿勢を崩したのだ。
この隙を逃すまいと棒を振りかぶるボンゴとパスタだったが……。
「あんた達っ! 今のうちに逃げるわよ!」
「なっ!? チッ!」
ブルー将軍が逃げ出したので、攻撃を中止してボンゴは慌てて、パスタは身を翻す際に閃光手榴弾を投げつけて彼に続いた。
ジェットモモンガの姿勢を崩して隙を作ったブルー将軍だったが、ヤムチャが飛行方法をジェットモモンガから舞空術に切り替えれば、逃亡の隙も無くなることを理解していた。
逃亡の代わりにボンゴとパスタの攻撃をヤムチャに当てられたとしても、それで勝てるとは限らない。そして、そもそも彼らの目的は眠り姫の奪取であって、ヤムチャを倒す事ではない。
「おい、なんで逃げる!? ここでやっておいた方が良いんじゃないのか!?」
「馬鹿ねっ! もし仮にあのハンサムを倒せたとしても、弟子の窮地に師匠の武天老師が駆けつけてきたら、あたし達は一巻の終わりよ!」
「あいつらの中にも超能力が使える奴がいるしね。奴等を利用して逃げるよ」
背後に閃光手榴弾の光を浴びつつ、三人は魔神城へ向かったのだった。
「くっ! ……大丈夫か、プーアル?」
「はい、ボクは大丈夫です、ヤムチャ様。でも、あいつらを見失ってしまいました」
ブルー将軍が離れた事で念動力が解け、ジェットモモンガの制御を取り戻したヤムチャとプーアルだったが、パスタが投げた閃光手榴弾のお陰で一瞬視覚を封じられ、三人の姿を見失っていた。
「大丈夫だ。あいつらの気を追えばいい。だが、どうするかな? あの二人と一緒にいたオカマも悪党らしかったが、隕石とは無関係のようだったし……」
気を感知する事が出来るヤムチャは、逃げていくブルー将軍達の位置を捕捉していた。しかし、地球の神様から頼まれた隕石の調査を放って追いかけるべきか迷っていた。
「一度、皆に相談してみたらどうでしょう? 隕石について頼まれたのはボク達ですけど、ボンゴとパスタについては頼めるかもしれません」
「そうだな……よし、連絡を取ってみるか。連絡用のスカウターを……なんだ!?」
プーアルの意見通り皆と相談しようとスカウターを取りだそうとしたヤムチャだったが、自分に接近するミサイルに気が付いて、とっさに気弾を放った。
「さっきの連中が戻って来た!?」
気弾と衝突したミサイルが爆発した音に驚いて声をあげるプーアルに、ヤムチャは答えた。
「いや、違う! 魔族だ!」
なんと、周囲から侵入者に気が付いた魔族が集まって来ていたのだ。
「侵入者だ! 不味そうな男と、妙なネズミ!」
「とりあえず殺せ! くあぁ!」
ずんぐりとした体躯にバズーカやミサイルランチャーを背負った魔族達が、ヤムチャ達目掛けて武器の引き金を引き、大きく開いた口から気弾を放つ。
「クソっ、さっきの手榴弾は俺達の目を眩ませるためじゃなかったのか!」
パスタが投げた閃光手榴弾は、悪魔の指の周りに巣くう下級魔族達にヤムチャを襲わせるためだった。
銃声なら魔族同士のいざこざか狩りでもしているのだろうと、誰も気にしなかっただろう。しかし、光に弱い魔族の縄張りで発した激しい閃光は、爆音よりも魔族達の注目を集め彼らの怒りを煽ったのだ。
「こいつら、並みの魔族とは思えん強さだ! そのくせ数が多すぎる!」
下級の魔族は見た目こそ恐ろしいが、平均的な兵士と同じくらいの強さで、しかも空を飛んだり気弾を放ったり、妙な術を使う等の特殊な力も持っていない。そうヤムチャは聞いていた。
しかし、今彼らに群がる魔族達はミサイルなど兵器を使っている者が混じっているが、気弾を放っている者が半分以上いる。何より、その気の大きさは平均的な兵士とは比べ物にならない。
「くっ、きりがない。一旦逃げるぞ、プーアル!」
「はい、ヤムチャ様!」
魔族達の気はどれもこれもヤムチャから見れば弱く、去年戦ったボンゴ四天王と同じくらいだった。しかし、圧倒的に数が多い。
魔族退治に来たのならともかく、別の目的があるのにプーアルを抱えて彼らの相手をしている暇はない。ヤムチャは適当な方向に逃げ出した。
魔神城のホールの中央に作らせた祭壇に置かれた、拳の半分ほどの大きさの隕石を城の主は恍惚とした表情で見つめていた。
「クックック……こうしているだけで力が滾る。眠り姫のエネルギーが満ち、もうすぐ太陽を破壊する事が出来るこの時に、我らが故郷からこんな贈り物が届くとは……」
含み笑いを漏らすのは、整った顔立ちに先端が尖った耳が特徴的なスーツを着た紳士然とした男、ルシフェル。
彼は魔凶星の欠片が隕石となって自らの居城近くに落下してきたことを、運命だと信じていた。
魔凶星の欠片によってルシフェルを含む魔族達の力は増大し、それまで使えなかった特殊能力を獲得する者も現れた。しかし、それは彼らの目的である太陽の破壊には直接関係しない。
ルシフェル達の戦闘力が数倍から数十倍になろうと、太陽を直接脅かすには圧倒的に力不足。また、眠り姫を動力源にした太陽破壊砲の威力を底上げする訳でもないからだ。
だから、ルシフェルは隕石を贈り物だと解釈した。魔族達の士気を高め、計画実行と太陽を破壊した後に地球を我がものとする助けとなってくれる贈り物だと。
実際には歴史改変者が宇宙の彼方にある魔凶星から適当な岩を回収し、太陽系の外から地球、それも悪魔の指の近くに落下するよう計算して投じたのだが、それは彼が知る由もない事だ。
「ルシフェル様、侵入者です」
そこに、顔色の悪い小柄な執事が現れた。
「何? 侵入者だと?」
悦に入っていたルシフェルは予期せぬ報せに不機嫌そうにするが、執事は怯えた様子も見せず淡々とした口調で答えた。
「悪魔の指周辺の森で、何かが激しく光り輝き、それに気が付いた下級魔族達が乗り物に乗った男と妙な動物を見つけたそうです」
「迷い込んだ人間か。それで殺したのか?」
「現在追跡中です。不味そうなので、見つけ次第殺すよう命じておきました」
「それでいい。……眠り姫を文字通り姫君かただの宝石と勘違いした愚か者か。せめて美女だったら、大願成就を祝う美酒になったものを」
「はい、誠に残念です」
「念のためにガステルだけではなく、他の見張りにもこれを渡しておくか。おい、貴様にもこれを渡しておく。肌身離さず持っていろ」
ルシフェルはそう言って、懐から小さなペンダントを執事に手渡した。それを見た執事の顔に、初めて感情が浮かんだ。
「これは……! は、ははーっ! 身に余る光栄でござます!」
執事は深々と首を垂れると、興奮に震える手でペンダントを首から下げた。銀色の鎖の先に、宝石とは思えない小さな石で出来たペンダントトップが揺れている。
しかし、その小さな石は魔族にとって世界一の宝石と評されるリッチストンよりも遥かに貴重なものだった。
その頃、魔神城の中には既にランチが潜入していた。しかし、誰にもその事に気がつかれなかった。
「ん? なんだ、お前? 見ない顔だな?」
「ああ゛? なんか文句でもあんのか?」
正確には、見つかっている。今も、通路をすれ違った二人組の魔族に声をかけられていた。
「いや……お前、本当に魔族か?」
「もしかして、人間の変装じゃないだろうなぁ?」
そう絡む二人組の魔族だったが、次の瞬間ランチに胸倉を掴み上げられ、そのまま通路の突き当りの壁に押し付けられていた。
「このオレが人間だと? 寝ぼけた事ぬかすんじゃねぇぞ!」
なんと、彼女の両腕が鎧を身に付けた大柄な魔族を掴んだまま、一瞬で十メートル以上伸びたのだ。
「ぐ、ぐええっ!?」
「ゆ、許してくれぇ! あんたから美味そうな女の臭いがしたもんだから、つい……」
「はっ! それは俺がこの前散々食った人間共の残り香さ! いいか? 今度下らねぇことを言ったら捻りつぶして巨大魚の餌にしてやるから、覚えておけよ!」
「は、はいぃ!」
「分かりましたぁ!」
暗い緑や灰色の顔を真っ青にして頷く魔族達を解放したランチは、腕の長さを戻し舌打ちをしてその場を去っていた。
「の、残り香にしちゃあ匂いが強かった気がしたが……」
「今のを見ただろっ! 額の角だけならともかく、あんな風に腕が伸びる人間がいてたまるか! あいつは恐ろしい女魔族に違いねぇ!」
そうさっきの魔族達が背後で話しているのを聞きながら、ランチは小さく含み笑いを漏らした。
(どんなもんだい。上手くいっているだろう? 俺の潜入作戦は)
ランチが考えた潜入作戦は、なんと魔族に変装して魔神城へ堂々と入り込むというものだった。
魔族の中には地獄の鬼を更に化け物っぽくした個体や、頭が二つある個体などもいるが、ルシフェルやその執事のように、尖った耳や牙など一部の特徴以外は人間に似た姿の者もいる。それを利用したのだ。
ゲロの手によって人造人間9号に改造された彼女の額には二本の角が生え、さらにナメック星人のように腕を伸ばす事が出来る。
さらに、事前にスパイカメラで撮影した魔族達の姿から、魔族っぽく見えるだろう服も用意した。不意に変身してしまっても、それまでの経緯や状況を変身後の自分に伝えるためのスカウターも、従来の片目にかけるタイプではなく、モニターを両目にかけるサングラス型に改造したものをつけている。
目覚めたばかりの頃はコツが掴めなかった腕も、今では伸ばすも戻すも自由自在だ。匂いで魔族に疑われても、それを見せてやれば「こんな人間はいないだろう」とすぐ納得する。
……もちろん、体重が百キロ以上ありそうな重武装の魔族の胸倉を片手で掴み上げて吹っ飛ばす握力、そして何よりも並みの魔族より狂暴な性格も、彼女の変装に真実味を与えている。
そのため、魔族達は彼女の存在に気が付いても、新顔の魔族だと信じて疑わなかった。
しかし、ここで予期せぬことが起きる。
「ほう、中々の腕前だな。お前、名はなんという?」
「なんだ? 俺の名前を聞きたいなら、自分から名乗……お前はっ!?」
また三下が絡んで来たのかと思って振り返った先に居たのは、ゲロに見せられた資料に添付されていた写真にあった顔だった。
「私の名は知っているようだな。では、貴様の名は?」
そう、魔神城の主、ルシフェルだった。
「ら、ランチだ」
「そうか。ランチよ、貴様をこの魔神城の新たな幹部に任命する。その証として、これを受け取るがいい」
ルシフェルはそう言うと、執事に渡したのと同じペンダントを懐から出して彼女に見せた。
ルシフェルもランチの変装を見抜けず、彼女を魔族だと信じ込んでいたのだった。
・ギネ:9万→12万→15万 クウラ機甲戦隊のネイズとほぼ互角。ギニュー隊長にも迫る実力者から、ベジータ王によって瀕死にさせられたことで、ギニュー隊長を超え、クウラ機甲戦隊のドーレに迫る実力にまでパワーアップした。
〇戦闘力推移
・ボンゴ:100→150 『神龍の伝説』事件後、レッドリボン軍で兵士相手の教官として働いていたら、原作より強いブルー将軍の組手相手にされ、大幅に腕をあげた。数値では原作桃白白よりも強い。しかし、気の感知と制御は出来ないままなので、実際に原作桃白白と戦ったら負けると思われる。
使っている武器の特殊合金製の棒はフラッペ(ゲロ)が作った特殊合金製で、以前使っていた物よりも頑丈。もちろんウィロー合金よりは低性能。
・パスタ:80→130 ボンゴと同じくレッドリボン軍で大幅に力をあげた。原作鶴仙人と同じくらいの強さ。女なのでブルー将軍と組手はしていない。自身の拳や蹴り、そして近接武器による攻撃の方が現代兵器より威力が高くなったので、戦い方を変えた。
気の感知と制御、使用している棒に関してはボンゴと同様。
・ブルー将軍:180 原作では超能力を使わないと悟空に負ける位で、原作桃白白には舌だけで倒されてしまったので戦闘力は90ぐらいだと推測。
この作品では対GCGを意識した訓練と、ボンゴという超人の教官(組手相手)、そして資金と人材が不足したため前線に出る機会が増え、戦闘経験が増したために強くなった。
原作桃白白が相手なら、余裕で返り討ちにできる。また、超能力が使えるため数値以上の強さを発揮できる。
・ヤムチャ:220→300 サイヤ人ハーフに変化した事でスタミナと回復力が増し、更に地球の神様の神殿での修行で強くなった。
なお、ドラゴンボール探しの冒険の過程で鍛えられたため、ヘルメットに軍服姿のパスタを見ても平気だった。『神龍の伝説』のように彼女の胸に触ってしまっていた場合は、硬直して負けてしまったかもしれない。
なお、尻尾はベルトのように腰に巻いていたのでブルー将軍達は気が付かなかった。
〇レッドリボン軍
現在の生身での強さの序列は、サイボーグ1号のランファンを含めない場合、一位がブルー将軍、二位がボンゴ、三位がパスタ、4位がオレンジ将軍。
〇悪魔の指周辺に住む下級魔族。
ずんぐりした体形の巨漢で緑や灰色の肌をしている魔族。見た目は恐ろしいが、特殊な能力はもたず、武器も銃火器を使用している。
強さは亀仙人から修行をつけてもらう前の原作悟空や原作クリリン相手に、数で押しても勝てない程。そのため、平均的な兵士と同じかそれよりわずかに強い程度であると思われる。この作品での素の数値は5.6ぐらい。
しかし、魔凶星の欠片が降って来た事で戦闘力が五倍に増大し、28にまで上がっている。また、気の感知は出来ないが気弾を放つことが可能になった。
なお、魔凶星の欠片は魔神城に安置されているため、魔神城に近づけば近づくほど強くなる。
〇 酒井悠人様、wtt様、N2様、カド=フックベルグ様、Mr.ランターン様、佐藤東沙様、JtR0000様、phodra様、 ユウれい様、太陽のガリ茶様、kitida様、gsころりん様、誤字報告ありがとうございます。早速修正しました。