ドクターゲロに転生したので妻を最強の人造人間にする 作:デンスケ(土気色堂)
「ルシフェル様から魔凶星の欠片を授けられておきながらあっさりやられるとは、情けねぇ奴だべ!」
ガステルは双頭獣がジャガーに撃墜されたのを見ると、そう吐き捨てながら全身に力を漲らせた。
「ふん!」
すると、ガステルの左右の足の下に炎の球が発生し、それによって彼は空に浮かび上がった。
「新入り、ここは任せるべ!」
そして、ランチの返事も聞かずに自分の手勢を引き連れて飛行機に向かっていく。
「さっきより強いのが来た!」
「また撃ち落としてやる!」
「一撃じゃ無理っ! 孫君かヤムチャでもいればまだ別だけど!」
迫ってくるガステルの強さを見抜いたブルマの警告に、飛行機に乗る全員が息を呑んだ。
たしかに、此方に迫ってくるガステルのスピードと迫力は先ほど倒した双頭獣とは比べ物にならない。
「じゃあ、さっさと逃げようぜ!」
「ダメ! もっと引き付けないと!」
そう言い合う間にも、ガステルは飛行機を間合いに収めていた。
「くらうべ!」
ガステルがそう叫びながら腕を突き出すと、それに沿うように彼が纏っている薄布が目にも止まらぬ速さで伸びた。
「きゃあっ!? 翼が!」
とっさに念動力で回避しようとしたブルマだが、完全に避ける事は出来ず左翼の端が伸びた薄布に切断されてしまった。
「本気でやるぞっ、お前らも撃て!」
ガステルの攻撃の速さと硬化した布の切れ味に気が付いたラズリ達は、それまで囮であるため消耗を抑えていたのを止めて、本気を出し始めた。
「太陽拳は!?」
「距離が離れ過ぎだ!」
ヤムチャによって魔族に対して有効性が実証された太陽拳だが、今ガステルとブルマ達が行っているのは距離を挟んでの空中戦だ。ドッグファイトにでもならなければ、いくら太陽拳でも効果は薄い。
「そんな物、おらには効かねぇだぞ!」
一方、ガステルはそう言いながらジャガー達が放つ気功波を回避し、回避しきれないものは腕で弾き飛ばして飛行機へ再び間合いを詰めようとする。背後で流れ弾に当たった配下が何人も落ちているが、気にした様子は全くない。
その勢いに、ブルマが念動力で操る飛行機は、対応しきれない。それを見て取った地上の悟空は、自分が筋斗雲でガステルの相手をすると言い出したが、それよりも自分達が行くと言って飛び出した者が居た。
「ブルマっ、チャオズっ、こいつの相手は俺達がする!」
「皆は逃げてくださーいっ!」
それは、ジェットモモンガを駆るヤムチャとプーアルだった。
「いいのっ!?」
「ああ、こいつは超能力者でもなければ女でもないからな!」
悟空の代わりにヤムチャが駆けつけたのは、ガステルが彼とジェットモモンガの天敵である女やブルー将軍のような超能力者ではなかったからだ。
「おらぁ、女でも超能力者でもねぇべ!」
「言われんでも分かる!」
硬化した薄布とヤムチャの刀がぶつかり合って火花を散らす。
「皆は今のうちに合流してください。ボクとヤムチャ様は、こいつが首から下げてる隕石の欠片を破壊してから行きます!」
「分かったわ。じゃあ、後でね!」
そう言うと、ブルマは飛行機をガステルの手勢の下級魔族の群れに特攻させる。それと同時にチャオズと協力して、悟空達の元に瞬間移動で退避した。
下級魔族達は加速して突っ込んできた飛行機に慌てて攻撃を集中させるが、間に合わず十数人の下級魔族と衝突して諸共墜落していった。
「チィ! 男はともかく女は生け捕りにしてルシフェル様に献上するつもりだったのに、惜しい事をしたべ」
「そんな事より、自分の心配をするんだな!」
プーアルが操縦するジェットモモンガに乗るヤムチャと、ガステルと彼率いる魔族との戦いは激しくなるばかりだった。
一方、悟空達はヤムチャが飛び出した直後から動いていた。
「なんだっ!?」
「いたぞ、侵入者だ!」
何故なら、ジェットモモンガでヤムチャが飛び出したため、魔族達に居場所がばれたためである。
「太陽拳!」
そんな魔族達の目を、サタンが放った太陽拳が眩ませる。悲鳴をあげて顔を覆う魔族達に、悟空とチチ、クリリンが突っ込んでいく。
「孫君っ!? 何やってんの!?」
「おう、このまま眠り姫の所まで突っ切るんだ!」
敵側の見張りがだいたい三分の一になったので、悟空達は潜入から強行突破へと方針を変えた。
「なんで!?」
「こっそり潜入しても、何処が眠り姫がいる場所なのか分からないからだよ!」
悲鳴のような声で尋ねるウーロンに、クリリンが真面目に答える。
広い魔神城の中を隠れながら探している時間はないし、瞬間移動が出来るブルマやチャオズがいるのなら、脱出の手間を考える必要はない。眠り姫を見つけ、彼女を西の都かパオズ山にでも瞬間移動で連れ出せばそれで彼らの勝ちだ。
この作戦に穴があるとすれば――
「それでブルマさん、眠り姫が何処にいるか分からねえだか? おら達もさっきから気を探ってんだけども、全く見当がつかねぇんだ」
「う~ん……無理ね。気が小さいから魔族の気に紛れているのか、魔族の妖術か何かのせいか、まったく感じないわ。もっと近づかないと」
眠り姫が生命体ではない事に、まだ悟空達が気づいていない事だろう。
「なんだこいつら!? 急に現れたぞ!」
「なんでもいい! 男のガキは殺して、女のガキは生け捕りだ!」
「そんな事を言っていられる相手じゃねぇぞ!」
魔族達は殴り込んできた悟空達と戦っている最中、突然現れたブルマ達に驚きはしても当初は慌てなかった。チャオズやジャガー、ラピスに猛然と、ブルマとラズリに涎を垂らして襲い掛かっただけだ。
だが、新手も自分達より強い事に気が付くとすぐに狼狽えだした。
「ら、ランチ様! 俺達じゃかないません!」
「チッ、仕方ねぇ奴らだ」
そうランチは魔族達と、そして悟空達に対して舌打ちをしながら前に出た。
(こっそり忍び込むんだったら見逃してやったのに、正面から殴り込んできやがって! ルシフェルもまだ眠り姫を出してねぇし……めんどくさいな。適当にやられたふりをしてチャンスを窺うか)
内心でそんな事を考えているランチに、近くで改めて彼女の姿を見た悟空が問いかけた。
「なぁ、おめぇ女だろ? もしかして眠り姫か?」
「は、はあっ!?」
原作でガステルに眠り姫かと尋ねるよりは、色々な意味でマシだ。しかし、クリリンはそうは思わなかったようだ。
「馬鹿っ、こんなごついのが眠り姫なわけないだろ!」
「なんだとこのガキ!? ぶち殺されてぇのか!」
クリリンのもっともな指摘は、ナメック星人の細胞をふんだんに移植しても切れやすいランチの堪忍袋の緒を刺激した。
(まだ日が沈むまで時間がある。それまで少しビビらせてやる!)
とはいえ、怒りで我を忘れるには程遠い。ランチは気を抑えたまま、クリリンに向かって気弾を放った。
「うわわわわっ!」
マシンガンのような気弾を連続で足元に打ち込まれ、慌てて逃げ回るクリリン。
その間抜けな姿に溜飲を下げたランチに、仲間を危機から助けようと悟空達が動き出す。
「眠り姫じゃねえのか。なら、お前もやっつけるだけだ!」
クリリンとランチの間に割って入り、如意棒を回転させてランチのマシンガン気弾を弾き飛ばす悟空。
「くらうだっ!」
「どどん波ー!」
その隙を突こうとチチとブルマが放った気功波とどどん波を、ランチは紙一重で回避する。
「ぎゃあああっ!」
そして背後で上がる悲鳴。ランチの後方にいた魔族達がバタバタと倒れていく。
「くっ、よくもオレの手下共をやってくれたなー」
そうわざとらしい口調で叫ぶランチだが、もちろんわざとである。こうして魔族の数を減らした方が、悟空達が魔神城内部に突入しやすくなるだろうと考えての事だ。
「ダイナマイトアタック!」
だが、ランチの思惑をよそに悟空達は彼女を倒すべき強敵と認識したままだった。サタンの飛び蹴りを彼の足首を掴んで受け止めたランチは、彼をどうするか一瞬迷った。
「太陽拳!」
その隙をついて、サタンは彼女の視界を潰すべく太陽拳を放つ。
「くっ、眩しいだろうが!」
しかし、ランチは閃光を受けても他の魔族のように行動不能にはならず、そのまま彼女に殴りかかろうとしていたジャガーに向かってサタンを投げつけた。
「ぐおっ!? お、俺の太陽拳が!」
「こいつ、他の魔族と違って光が効かないのか!?」
ランチは光に弱い魔族ではないので当然だが、実は普通の人間並みには太陽拳が効いていた。今も、既に掴んでいたサタンを、気を感知して大まかな位置が分かったジャガーに投げつけただけに過ぎない。
「サングラスよ! あのサングラスで光を防いでるのよ!」
しかし、ブルマ達はそう解釈した。そのサングラス型スカウターの遮光性は見かけより低いのだが……。
(クソ! ついやり返しちまった!)
他の魔族同様に光に弱いふりをすればよかったと気が付いた時にはもう遅い。こうなったら、このまま応戦してやられたふりをするかと思ったランチだが、事態は計算外の展開に発展する。
「とったーっ!」
なんと、瞬間移動でランチの背後に移動したチャオズにサングラス型スカウターを奪われてしまったのだ。
「て、テメェ! それを返せ!」
血相を変えてチャオズを追いかけるランチ。彼女にとってスカウターは、不意に人格が変わってしまった時に状況とそれまでの経緯を把握するための、無くてはならない機器だ。
(それに、あれがブルマってガキやその親の手に渡ったら、オレとゲロの爺さんの関係がばれちまう! そうしたら報酬が貰えねぇかもしれないじゃないか!)
何より、報酬のためにランチはチャオズからスカウターを奪い返さなければならなかった。
「うわっ、うわわっ!」
「チャオズっ!」
「邪魔すんじゃねぇ!」
必死になるあまり、抑えていた気が緩み、チャオズを助けようとしたラズリや悟空を投げ飛ばし、チチの光線を手で防いでしまう。
チャオズから見れば絶体絶命の危機以外の何物でもない。そこに、空から駆けつける者が居た。
「なんだ!?」
突然空から降ってきた何者かに驚いて退いたランチを、三つの目が睨みつけた。
「天!」
そう、実の弟同然のチャオズの危機に天津飯が駆けつけたのだ。
「無事か、チャオズ? 皆、詳しい事情は知らんが、こいつらは俺に任せて先に行け!」
チャパ王の道場で出稽古をしていた天津飯だが、ブルマ達と一緒に亀仙人の家へ遊びに行ったはずのチャオズの気が別の場所に向かっているのに気が付いた。そして、チャオズ達の気が魔族の巣窟である悪魔の指に向かっていると知り、出稽古を切り上げ、舞空術で飛んで来たのだ。
何故チャオズ達が悪魔の指で強力な魔族と戦っているのか、事情をまったく知らない天津飯だったが、「相応の理由があるのだろう」と悟空達を信じて彼らを先に行かせる事に事を選んだ。実際、悠長に話を聞いている余裕はない。
「分かったっ! サンキュな、天津飯!」
「天、頑張って!」
天津飯にこの場を任せて魔神城に向かおうとする悟空達。もちろん魔族達はその前に立ちふさがるが、ランチがいなければ悟空達を止める事は出来ない。数秒も持ちこたえる事は出来ず、バタバタと倒されていく。
「チッ! 今度はテメェが相手か」
『おい、爺! スカウターをチャオズってガキに持っていかれちまった! 遠隔操作かなんかで電源を落とせ!』
そうテレパシーでゲロにサポートを要請しつつ、ランチは天津飯に向かって改めて構えをとった。
魔神城に突入する悟空達に、混乱に乗じて魔神城に忍び込んだブルー将軍達。
城の中心部ではルシフェルが、今夜夜空に上がる月の光を浴びせないまま眠り姫を太陽破壊砲へ組み込み引き金を引くか否かの決断を迫られている。
外ではヤムチャとガステルと彼が率いる魔族の一隊が空中戦を演じ、天津飯とランチが今にも戦いを始めようとしていた。
「キリを使わなかったのに、収穫は上々ね」
その様子を確認したトワは、ミラと仮面のサイヤ人を左右に控えさせたまま満足げにほほ笑んだ。
「半分は奴に対する意趣返しのつもりでキリを使って直接強化する以外の方法を試してみたけど、思いのほか効果的だったわね」
最初は、三か月前に戦う以外の方法で事態を収拾しようとしたゲロに対する仕返しのつもりで、ちょっとした搦手を試す事を思いついた。その思い付きは、トワに予想以上の収穫をもたらしていた。
更に、キリによる強化ではないから、時の界王神に察知されなかった。そして、おそらくタイムパトロールが直接魔凶星の欠片を排除する事は出来ない。それが歴史への干渉になってしまうからだ。
「ミラには骨を折ってもらったけどね」
「トワ、あの程度で俺の骨は折れない。お前が望むなら、石ぐらい何度でも削り取ってやる」
魔凶星から岩を採取したのはミラだった。そしてトワの計算と魔術に合わせて岩を太陽系の外から投じたのだ。
「ありがとう、ミラ。でも、魔凶星で強化できる魔族の出番は後一回か二回しかないのよ。ピッコロ大魔王やスラッグは魔族でも別のルーツだから。この方法では強化できないし。
他の歴史からルシフェルやガーリックJr.を連れてくる方法もあるけれど、それだと結局魔術を使うから時の界王神に感づかれてし……チッ!」
それまで上機嫌だったトワが突然舌打ちをした。それと同時に、彼女達の前にタイムパトローラーが現れた。
「おっ、やっぱりいたな!」
「今度こそ逃がさん!」
現れたのはなんと悟空、トランクス、そしてベジータの現在所属している全員だった。
「……前回に続いて随分早いわね。しかも三人全員なんて、もしこうしている間に他の歴史改変者が動いたら、時の界王神自らご出陣しないといけなくなるのではなくて?」
「そりゃあ、ゲ――」
「貴様らが現れるのを待っていたんだ。貴様らの相手をするのはいい加減うんざりだからな!」
正直にゲロから事前に連絡を受けていた事を口に仕掛けた悟空の声を、ベジータが遮った。
(やはりこの歴史の住人と繋がっていたようね)
だが、元々怪しんでいたトワを誤魔化す事は出来なかった。トワが魔凶星を利用した理由の一つは、時の界王神に察知されにくいはずの方法で歴史を改変する事で、時の界王神とこの歴史の住人が通じていないか試す事だったのだ。
「お前達こそ、どういうつもりだ!? あの魔族の試みが成功してしまえば、地球は滅亡する! これ以上キリを手に入れる事が出来なくなるんだぞ!」
キリを集めるには歴史を改変しなければならないが、改変の結果歴史が破綻してしまったらそれ以上キリを稼ぐことはできない。
トランクスが発した歴史改変者のジレンマを突いたはずの問いに、トワは笑みで返した。
「それはそうだけど、この歴史の住人も放置しておけばお前達と同じように私達の脅威に育つでしょう? それを考えれば、あのルシフェルって魔族の企みが万……正直億や兆分の一より低い確率だとは思うけど、成功したとしてもそれはそれでありだとは思わない?」
既に地球に万単位の戦闘力の持ち主が複数いるので、トワはルシフェルの企みが成功するとは最初から考えていなかった。
ただ、何かの間違いで成功したとしてもそれはそれでありだとも考えている。彼女としてはバビディに操られた兄のダーブラを奪還し、暗黒魔界を復活させられればそれで良い。その時地球がどうなっていようと構わないのだ。
「貴様っ!」
「なあ、そろそろ始めねぇか? トランクスも、こいつらがそう言う奴等だって知ってただろ?」
地球人や他の生命について何とも思っていないトワの態度に気色ばむトランクスの前に、マイペースを崩さない悟空が前に出る。
「フン、同感だ。行くぞ!」
「トワの邪魔をするな!」
しかし、最初に飛び出したのはベジータだった。その前にミラが立ち塞がる。
『……!』
それまで一言も話さずじっと控えていた仮面のサイヤ人も、ミラに続こうとする。
「なら、オラはおめぇとだな。それにしてもよ、なんだかおめぇ、オラにちょっと似てねぇか?」
だが、今度はその前に悟空が立ちはだかった。
『……!』
「おっと。やっぱオラの気のせいか?」
躊躇わずに悟空を攻撃する仮面のサイヤ人。その拳を回避して殴りかかりながら、悟空は仮面のサイヤ人を不思議と懐かしく思っている自分がいる事に気が付いた。
「まあ、こまけぇ事は後だ!」
しかし、拳と蹴りの応酬が激しくなるとともに、高まる戦闘の興奮と喜びによって困惑は押し流されていった。
「今度は逃がさないぞ!」
「この前は、私達が見逃してあげたのよ!」
そしてトランクスはトワと戦い始めた。彼が振るう剣と、トワが握る杖が火花を散らす。
三人の歴史改変者の中で戦闘力は最も低いトワだが、彼女には魔術と暗黒魔界由来の科学力がある。トランクスにとって、もっとも油断できない相手だ。
しかし、そのトワもさすがにスーパーサイヤ人化したトランクスと戦いながら、この歴史の住人同士の戦闘に気を配る余裕はなかった。
結界越しとはいえ自分達の頭上で歴史改変者とタイムパトロールの、次元の違う戦いが繰り広げられているとは知らないまま、ヤムチャとガステル達の戦いは続いていた。
「このオラと互角にやり合うとは、人間にしては大したやつだべ!」
「そう言う事は、一対一で戦ってから言え!」
伸縮自在の薄布を操って突きを放つガステルに、刀を振るうヤムチャ。そして気弾を放ってくる数十匹の下級魔族達。
「そう言うお前ぇだって、そのネズミがいるでねぇか!」
「ボクはネズミじゃない!」
ヤムチャが多数相手に空中戦を繰り広げられるのも、ジェットモモンガの操縦を担当しているプーアルのお陰だ。信頼する相棒がいるからこそ、ヤムチャはガステルや下級魔族の相手に集中できる。
「プーアルを入れても、二対数十じゃ差があり過ぎだ!」
「うるせぇ! 魔族の巣窟に侵入しておいて、ガタガタぬかすでねぇ!」
「くっ、急に正論を言いやがって! どどん波!」
「おっとっ、そんな攻撃にゃあたらねぇべ!」
「ぎあああああっ!?」
ヤムチャは硬化した布と刀で押し合いをしている最中に最近習得したばかりのどどん波を放つが、ガステルに回避されてしまう。ガステルの後ろにいた下級魔族は避け損ねて何人か墜落したが、まだまだ数は多い。
(このまま下級魔族の数を減らし続けて、チャンスを待てば勝てる。……いや、奴にとってもそれは同じか!)
魔凶星の欠片によってパワーアップしたガステルとヤムチャの力はほぼ互角。僅かなミスで勝敗が決まりかねない。
勝負を焦れば隙が生まれるが、守ってばかりでは勝てない。
「プーアル! 頼んだぞ!」
そう叫ぶや否やヤムチャはジェットモモンガを蹴って空に飛び出し、ガステルに向かって飛び掛かった。
「甘ぇっ!」
空中で乗り物を捨てたヤムチャの行動には多少驚いたガステルだったが、すかさず纏っている薄布を硬化させてヤムチャが振るう刀を弾いた。
これで奴は落ちるだけ。そう思ったガステルだったが、ヤムチャが弾かれた刀を軸に体を縦に一回転させると同時に、肩に鋭い衝撃を受けた。
「がっ!? お、おめぇっ、尻尾が!」
「ああ、今年の春に生えたのさ!」
なんと刀はフェイントで、ヤムチャの狙いは最初から気で強化した尻尾の一撃だった。それまでずっとベルトのように腰に巻いていたので、ガステルはそれが尻尾だとこの瞬間まで気が付かなかったのだ。
「このサル野郎!」
しかし、ヤムチャが狙っていたほどガステルにダメージを与える事は出来なかった様だ。彼は怒りに目を見開いてヤムチャに掴みかかろうとする。
しかし、ガステルはまだ知らない事があった。ヤムチャは乗り物を使わなくても舞空術で飛ぶことができるのだ。
「狼牙風々拳!」
空中を飛びながら、ヤムチャはガステルに連続で拳を叩きこむ。そのさなか、彼の力の源である魔凶星の欠片をもぎ取ろうとするが。
「うごごごっ! させねぇっ!」
なんと、ガステルは嵐のように叩き込まれる拳に耐え、魔凶星の欠片を口に入れた。そのままペンダントのヒモを食い千切り、ゴクリと丸呑みにする。
「しまったっ! だが、それならお前ごと魔凶星の欠片を吹っ飛ばすだけだぜ!」
今度はヤムチャが驚愕する番だったが、間髪入れず再度狼牙風々拳で畳みかけようとした。しかし、突然それを中断してジェットモモンガを操縦するプーアルの元に戻る。
「ヤムチャ様!?」
「プーアルっ、湖上から離れろ!」
「はいっ!」
プーアルが急いでジェットモモンガを走らせた直後、湖面から人どころか家を何軒か丸呑みできそうな巨大魚が大口を開けて現れた。
湖の上を通る者は魔族でも丸呑みにしてしまう、凶悪な巨大魚だ。ヤムチャはその存在に気を感知する事で気が付く事が出来たのだ。
「惜しかったべ、邪魔なネズミがもう少しで魚の餌になったってのに!」
そう笑うガステルは、既にヤムチャが与えたダメージから立ち直っていた。高い再生力を持っているという訳ではなく、ただひたすら体が頑丈にできているのだろう。
それを見たヤムチャは、ある策を思いついた。魔凶星の欠片をガステルから奪えなかった今、その策に賭けるか、頑丈な奴と正面から戦い続けるかの二つに一つしか選択肢はない。
「プーアル、俺にお前の命を預けてくれ!」
「そんなの今更ですよ、ヤムチャ様! ボクは何をすればいいんですか?」
「ああ、俺が合図をしたら――」
そうした打ち合わせを、下級魔族やガステルと距離を挟んでの気弾を撃ち合いながらの空中戦を演じている間に済ませたヤムチャは、今だと合図を送った。
「ジェットモモンガの調子がっ! うわ~っ!」
「だ、大丈夫か、プーアル!?」
急にスピードを緩めて、高度を落としていくジェットモモンガ。それを見た下級魔族達は、チャンスだとばかりにヤムチャ達に向かって群がる。
「待て!」
しかし、ガステルはヤムチャ達を追わずに距離を保ったまま空中に停止した。手下の半分程もそれに倣う。
彼らの見ている前でヤムチャは距離を詰めてきた下級魔族から、プーアルと愛車を守りながら高度を落としていき……再び巨大魚が大口を開けて現れた。
そして、慌てて逃げ出そうとしたが間に合わなかった下級魔族達と共に、ジェットモモンガごとヤムチャとプーアルは巨大魚に飲み込まれてしまった。
「間抜けな奴だべ! ネズミを見捨てて飛んで逃げれば助かっただろうに!」
ガステルはその様子を見てゲラゲラとそう笑い、残った下級魔族達もそれに倣った。しかし、次の瞬間彼らに向かって巨大魚の内側から閃光が放たれた。
「かめはめ波ーっ!」
なんと、ヤムチャが巨大魚の口の中からかめはめ波をガステルに向かって放ったのだ。
「な、なにぃ!? ぐ、ぐわぁぁぁ!?」
気を感知できないガステルは完全に勝ったと思い込み油断していたため、かめはめ波を正面から受けて閃光に飲み込まれた。
「ふうっ、イチかバチかだったが上手くいったな」
自身が巨大魚に空けた穴から外に出たヤムチャは、ほっと胸を撫でおろした。彼が思いついた策は、ジェットモモンガが故障したように見せかけて巨大魚の口の中にわざと入り、ガステルの視線が遮られた状態でかめはめ波を放って倒すというものだった。
どどん波を避けるガステルの機動力も、巨大魚の口の中という見えない場所から放たれたかめはめ波には発揮できなかった。逆に、ヤムチャはガステルの気を感知する事で視界を遮られていても大まかな位置を把握できる。
「いくら作戦でも、魚の口の中に入った時は生きた心地がしませんでしたよ。しばらくお魚は食べられそうにありません」
「はははっ、そうだな。さて、魔凶星の欠片はあいつと一緒に吹っ飛んだだろうから、悟空達と合流するか」
巨大魚は湖に力なく浮かんでおり、残っていた下級魔族達はガステルが負けたと見るや蜘蛛の子を散らすように逃げ出していった。
ヤムチャはすっかり気を抜いていた。だが、彼の肩に軽い何かが当たった。
「なんだ!?」
ハッとして振り返ったヤムチャが目にしたのは、吹っ飛んだと思い込んでいたガステルが再び飛び上がり、彼に向かって突っ込んで来る様子だった。
「っ! どどん波!」
慌ててどどん波を放つヤムチャ。
「ごふっ! がはぁぁぁ……」
彼が全力で放ったかめはめ波を受けて既に満身創痍だったガステルは、どどん波の直撃を受けて飲み込んでいた魔凶星の欠片を吐き出すと、今度こそ湖面に沈んでいった。
すかさずガステルが吐き出した魔凶星の欠片を気功波で撃ち消したヤムチャは、敵の気が近くにないのを確認して息を吐いた。
「あ、危ないところでしたね」
「ああ、見上げた執念とタフさだぜ」
ガステルがかめはめ波を受けて弱り、気が小さくなっていたためヤムチャは彼の接近に気が付くのが遅れた。もし振り返らなければ、油断したところに不意を突かれて深手を負っていた可能性もある。近くにいるプーアルも危なかった。
「しかし、あの石はいったい誰が投げたんだ?」
ヤムチャは振り返った原因である石を誰が投げたのか辺りを見回したが、ガステルが沈んだ湖の上空とその周囲には誰もいないように見えた。
「っと、いかん。早く悟空達と合流しないと! 行くぞ、プーアル!」
「はい、ヤムチャ様!」
ハッと我に返ったヤムチャは、プーアルと共に悟空達と合流するために魔神城へ戻るのだった。
その姿を地上から見上げていた亀仙人は、やれやれと息を吐いた。
「ヤムチャもまだまだじゃな。これは後で神様に伝えて、良く鍛え直してもらわねばなるまい。さて、悟空達の様子を見に行くとするか」
〇ガステル
魔神城の周辺に住む上級魔族。赤い肌をした鬼のような姿に、鎧を着て、帯状の薄布を纏っている。
特殊能力を持たず現代兵器に頼る下級魔族とは一線を画す強さを持ち、薄布を操って伸縮自在の刃のようにしたり、左右の足の下に火の玉を出し、それに乗って空を飛ぶことができる。
また、悟空の如意棒の一撃を受けても立ち上がる耐久力も持っている。
その悟空には「眠り姫か?」と尋ねられたが、「おらは眠り姫じゃねぇべ」と否定している。
最期は空中戦の最中、悟空の作戦によって巨大魚に丸呑みにされてしまった。個人的には、『魔神城の眠り姫』で最も怖かったシーン。
強さは、亀仙人の修行を受ける前とはいえ悟空と肉弾戦が可能で、筋斗雲に自力では乗れないクリリンが後ろにいたとはいえ、悟空が倒すのにおのれの強さ異議あの策を練っている事から、当時の悟空と互角か少し強いぐらい……戦闘力にして15と設定します。
また、この作品ではルシフェルから二番目に大きい魔凶星の欠片ペンダントを与えられており、その強さは二十倍の300に上がっている。
〇魔凶星で強化される魔族の出番
何ガーリックJrとその手下なんだ……。
〇巨大魚
湖に生息する巨大魚。上空を通りかかるものは、上級魔族でも構わず襲い掛かって丸呑みにしてしまう。
魔族かどうかは不明だが、飲み込まれたガステルが体の内側から脱出する事が出来なかった事を考えると、その強さはガステル以上だと思われる。
佐藤東沙様、サボテン7h様、どてら様、カド=フックベルグ様、車椅子ニート(レモン)様、くるま様、Othuyeg様、太陽のガリ茶様、phodra様、gsころりん様、asis様、みえる様、誤字報告ありがとうございます。早速修正しました。