ドクターゲロに転生したので妻を最強の人造人間にする 作:デンスケ(土気色堂)
「行くぞっ!」
再び始まった戦いの先頭に立ったのは、やはり天津飯だ。彼以外パワーアップしたルシフェルの相手を務められる者はいない。
「人間共が!」
対してルシフェルは、なんと自ら目を瞑った。悟空達が太陽拳を使うのは分かっている以上、閃光で目をやられる度に動揺して動きが止まるよりは、最初から視覚を封じた方がマシだと判断したのだろう。
「死ねぇ!」
しかし、視覚を封じた彼は大胆な攻めに回った。十本の指から気弾をマシンガンのように乱射したのだ。
「うわわわっ!?」
「め、メチャクチャするわね!」
狙いも何もない、数撃って当たる事を期待する、文字通りの乱射。威力も一発一発は小さいが、ヤムチャや悟空、そしてブルー将軍にはその一発だけで動けなくなる大ダメージになりかねない。
幸い、立っている者を狙った攻撃なので、倒れているブルマ達や彼女達を助けているプーアルやランチ(彼女はいくら当たっても平気だが)には、当たっていない。
「はああああっ、はっ!」
そして天津飯は小さなダメージを無視して、乱射気弾を正面から受けながらルシフェルに接近して肉弾戦を挑む。
「何故最初から全力を出さなかった? 力を出し惜しむのが魔族の流行か!?」
「くっ、愚弄するつもりか!?」
天津飯が繰り出す拳をろくに避けられず、巨大化して増したパワーに任せた腕の大振りで強引に追い払いながら、ルシフェルは叫んだ。
彼も出来るなら……出来ると知っていれば、最初からやっていた。左手に持っていた魔凶星の欠片を失ってからパワーアップを行ったのは、追い詰められてどうにか出来ないかと必死に考えて思いついた試みが成功しただけに過ぎない。
「うおおおおっ!」
でなければ、魔凶星本体が近づいた訳でもないのに、こんな体力の消費が激しい一時的なパワーアップに頼るはずがない。
怒りの籠ったルシフェルの腕を防御して受け止めながら、天津飯は悟空達にテレパシーで指示を伝えていた。
(こいつは俺が抑える! 今のうちに大砲をどうにかしてくれ!)
天津飯達の勝利条件は、太陽破壊砲の発射阻止だ。そのために、悟空とヤムチャは気を練り、ルシフェルの隙を窺っていた。
「「かめはめ波ーっ!」」
そして二人のかめはめ波が、太陽破壊砲を直撃する。それぞれ、山ぐらいなら軽く吹き飛ばす威力が込められていたが……太陽破壊砲に壊れた様子はない。
「びくともしねぇ!?」
「なんて頑丈なんだ!」
太陽破壊砲は眠り姫に蓄えられた膨大なエネルギーを放つ兵器であるため、その反動に耐えられるよう頑丈に作られていた。
一度放てば十分だが、放っている途中で反動に耐えられず砲身が大きくずれれば、魔族の悲願もご破算になってしまう。
「そこだっ!」
悟空達のかめはめ波は、ルシフェルに二人の位置を教える結果になった。二人目掛けて気弾を放つルシフェルに、させるかと攻撃する天津飯だが、完全に防ぐことはできなかった。
「かぁあああっ!」
それを防いだのはなんとブルー将軍だ。念動力で床に転がっていたボンゴとパスタが使っていた金属棒を操り、悟空とヤムチャの前で高速回転させて盾にしたのである。
「わりぃ、助かった!」
「礼を言ってる暇があったら何とかしてちょうだい。もう時間はないわよ!」
ブルー将軍が言うように、太陽破壊砲の照準は夕日に向かいつつあった。天津飯もルシフェルを倒そうと、より激しい攻勢に出る。
「くはははっ! 無駄だ、人間共! 大人しく滅びの運命を享受するがいい!」
しかし、ルシフェルの筋肉で肥大した肉体の耐久力は、戦闘力以上に高まっていて、天津飯でもすぐに倒すことはできない。
(こうなれば、気功砲を撃つしかないか?)
そう天津飯が思った時、ルシフェルが注意を払っていなかった者達が動き出した。
「こ、ここでいいのか?」
「あ、ああ。でももうちょっと低く……」
ボンゴが使っていたフライングソーサーを装着したクリリンが、ウーロンを抱えて太陽破壊砲の真上からやや離れたところを飛んでいたのだ。
「ぐふっ! ち、近づくな!」
だが、フライングソーサーの駆動音と発する風に気が付いたのだろう。ルシフェルは天津飯に殴られながらも、二度目の放射状気功波を放った。
「伏せろ!」
至近距離で受けた天津飯は、多少ダメージを受けた程度でかき消す事に成功した。
「危ないっ! ぐわぁ!」
ヤムチャは咄嗟にブルー将軍を庇ったが、こらえきれず諸共吹き飛ばされて地面に転がった。プーアルの悲鳴が響く。
「悟空っ!?」
「何する気なのか分からねぇけど、早く頼むぜ。クリリン、ウーロン」
そして悟空はクリリンとウーロンを庇った。
「お前……! クリリン、俺を離せ!」
「分かった!」
悟空に身を挺して庇われたウーロンは、何か感じる物があったのか悟空の背中を見つめると、彼にしては珍しく怯えた様子を見せずに行動した。
このままだと、ただウーロンが太陽破壊砲の近くの床に落下するだけだが、彼には秘策があった。
それはゲロの研究に協力して、変化を繰り返していくうちに分かった事だ。
ウーロンは、それまで自分の変化で変わるのは見た目だけだと思っていた。蝙蝠やロケットに変化すれば飛べるし、魚になれば鰓呼吸が可能だから、正確には見た目だけではない。しかし、鬼や暴れ牛に化けても力は強くならず体の硬さも変わらない。
しかし、ゲロはウーロンの変化によって変わるものがあると指摘した。
「カッチン鋼の塊に、変化!」
それは重さである。
巨大な鬼や暴れ牛に変化した時は歩く度に地響きがするほど重く、逆に蝙蝠に変化した時は彼が皮膜の翼を羽ばたけば空を飛べるほど軽く、重さが変化していた。
だからこそ、ウーロンはゲロの研究室で見た、この宇宙でカチカッチン鋼を除けば最も硬く、重い金属カッチン鋼のインゴットに変化した。
そして、ウーロンはそのまま落下して床に激突し……。
「いてぇっ!?」
悲鳴をあげた。そして、太陽破壊砲を支える床に大きくヒビが入り、ウーロンごと陥没する。
「なっ!? た、太陽破壊砲が!」
「お助けぇぇぇ!」
「馬鹿ッ、早く変化を解くか、鳥か何かにでも化けろ!」
「そ、そうだった! 変化!」
崩壊する床に飲み込まれるように、太陽破壊砲が傾く。カッチン鋼から蝙蝠へ変化したウーロンの事を無視して、太陽破壊砲を支えようとしたルシフェルだったが……。
「気功砲!」
「っ! ぐああああぁぁぁ……!」
天津飯の気功砲を至近距離から受けて太陽破壊砲に叩きつけられ、諸共魔神城の内部に落ちていった。
(ま、まだだ! まだっ、眠り姫さえあれば、再び太陽破壊砲を作り上げる事が出来る!)
しかし、まだルシフェルは生きていた。重傷は負ったが、まだ太陽を破壊するという魔族の悲願達成をあきらめてはいない。
眠り姫にはまだ莫大なエネルギーが宿ったままだ。新たに太陽破壊砲さえ作れば、いつでも太陽を破壊する事が出来る。
しかし、そうはならなかった。
「き、貴様は!?」
なんと、魔神城内部を落下中の太陽破壊砲に取りついた者が居た。
「よっと。うむ、回収成功」
なんと、それは今まで隠れていた天才科学者、ドクターゲロだった。
スパイカメラを通して機を窺っていたゲロは、瞬間移動で現れて太陽破壊砲から眠り姫を回収したのだ。
「ま、待て!」
とっさに手を伸ばすルシフェルだったが、ゲロは気を消したまま再び瞬間移動を使って魔神城から消えた。
「おっ……おのれぇぇぇ!」
後に残ったルシフェルは、ただただ怨念の籠った絶叫を轟かせる事しかできず、そのまま動力源を失った太陽破壊砲と共に落ちていったのだった。
時間はやや巻き戻り……タイムパトロールと歴史改変者の三対三の激しい戦いが、魔神城上空で繰り広げられていた。
「少しはマシになったようだな、ガラクタ人形が!」
「今度こそ、貴様を倒す!」
スーパーサイヤ人ブルーになったベジータとミラは、激しい拳の応酬と、距離を挟んでの気弾の打ち合いを交互に繰り返している。
まだベジータの方が優勢だが、ミラは仮面のサイヤ人との組手を繰り返した事で素の力だけではなく巧みな戦闘テクニックも身につけつつあり、一対一でも本気を出せば確実に倒せる相手ではなくなっていた。
『……!』
「すげぇなっ! スーパーサイヤ人にならないままブルーになったオラとここまで戦えるなんて」
仮面のサイヤ人はタイムパトロールの悟空と殴り合いをしていた。拳と拳がぶつかる度に衝撃波が発生している。
「でもなんでスーパーサイヤ人にならねぇんだ? 本気で戦ってねぇわけじゃなさそうだけどよ」
悟空は、以前ベジータが仮面のサイヤ人の仮面を壊した時仮面のサイヤ人がスーパーサイヤ人に変身した事を知っていた。
しかし、仮面のサイヤ人の髪は黒いままで、金色ではなく禍々しい闇っぽい気を放っている。
「へへっ、やっぱりその仮面を割らねぇと、本気を出してくれねぇのかな」
『……!』
目的が仮面のサイヤ人を倒す事ではなく、仮面のサイヤ人に本気を出させる事に変わっている悟空だったが、戦闘民族サイヤ人の性はどうしようもない。
「はあああああ!」
トランクスはトワに向かって剣を振るって彼女が放つ気弾を切り裂き、幻覚を薙ぎ払い、本体に肉薄しようとするが、中々それを果たせずにいる。
「やる気があるのか!?」
「暑苦しいわね」
トワはトランクスに冷静に返しながら、戦況を分析していた。ミラは戦闘経験を積み強くなり、仮面のサイヤ人はキリで以前よりも更に強化している。だが、それでもベジータと悟空相手に善戦以上を期待するのは厳しい。
さらに言えば、トランクス達も前回戦った時よりも強くなっている。
タイムパトロールの三人は、トワ達と戦っていない間も他の歴史改変者……暗黒魔王メチカブラとその配下の魔神達と熾烈な実戦を重ねているのだ。強くならないはずがない。
(キリを溜める事を優先して、奴の強化を怠ったツケね。そもそもタイムパトロールがこんなに早く、しかも三人揃って現れるとは予想外だったのだけど)
現れたタイムパトロールが二人だけだったら、ミラと仮面のサイヤ人が戦い、彼女はキリの収集しながら潮時を見極め、大きな被害が出る前に撤退する事が出来た。
しかし、実際に現れたのは三人。トランクスをのらりくらりと回避しながら全てを熟すのはさすがに難しい。
こうなったらキリを集めるのを途中で切り上げて撤退し、仮面のサイヤ人を更に強化して次の機会を伺うべきか。そう考えるが、トランクスが食らいついてくるのでトワも思考する余裕が徐々になくなってくる。
その前に決定的な出来事が起こった。
『っ!?』
「かかったな!」
悟空が仮面のサイヤ人との気功波の打ち合いの最中に瞬間移動を使用して、仮面のサイヤ人に接近。その顔面に思い切り拳を叩きつけたのだ。
「これで……どうだぁ!」
そのまま二撃三撃と執拗に仮面のサイヤ人の顔面を殴り続ける悟空。そして、大きく振りかぶった四撃目の拳によって、仮面のサイヤ人の仮面が砕け散り、その素顔が露わになった。
「よし! これで本気を出せるな。って、おめぇ、やっぱりオラと似てんな」
サイヤ人の性に正直な悟空が仮面のサイヤ人の仮面を殴り割ったのである。露わになった仮面のサイヤ人の、頬の傷と目つきの鋭さ以外は自分と瓜二つの素顔に、「もしかしてオラの親戚だったりしてな」と笑う。
「カカロット! そいつの名はバーダック! お前の親父だ!」
「いーっ!? オラの父ちゃんなんか!? こいつ!?」
「ご、悟空さんのお父さん!?」
しかし、仮面のサイヤ人……バーダックの顔を見たベジータがそう教えた事で、親戚どころか親子だった事が明らかになる。
「ベジータっ、本当にこいつがオラの父ちゃんなんか!?」
「ああ、間違いない」
下級戦士は似た顔つきの者が多く、惑星ベジータが健在だった当時に悟空と同じ顔つきの者は何人か見た覚えがある。しかし、その中でもバーダックは別格だった。
下級戦士出身でありながら、数々の死線を乗り越えた事で一万に迫るまで戦闘力を高めた歴戦の戦士バーダック。並みのエリート戦士を軽く上回るその強さは、当時まだ幼かったベジータの記憶にも強く残っていた。
彼が仮面のサイヤ人の正体だった事に動揺する悟空達は隙だらけだったが、トワとミラもそれどころではなかった。
「なんてことを!」
「トワ、今の内に下がれ!」
焦って戦いを中断してバーダックから距離をとった。それは、自分達が駒として使ってきた男の洗脳が解け、反逆を恐れているからではない。
二人が恐れているのは、暴走だ。
「ここは……っ!?」
バーダックが見上げた空は、西には沈みかけた夕日の赤、そして東には昇りつつある満月と闇の二色に染め分けられていた。
「ぉっ、ウオオオオオ!」
ドクンドクンと鼓動が脈打ち、全身に力が漲り、バーダックが大猿へと変化していく。トワが彼に被せた仮面には、大猿化を防ぐ仕掛けも施されていたのだ。
「や、やべ! どうにかならねぇか、ベジータ!?」
「どうにもならん! 奴は王族でもエリートでもない下級戦士だ、理性を保つ事は出来ん!」
「なら、尻尾を切るしかない!」
感動的な親子の再会どころではなくなってしまった悟空達は、急いでバーダックの尻尾を切断しようと試みる。しかし、それに気が付いたバーダックは変身中だというのに素早く動いてトランクスの剣や、悟空の手刀を回避する。
『ウゥオオオオオオ! グルアアアアア!』
悟空達にとって都合が悪い事に、バーダックの体はまだトワに強化されたままだった。そのため、スーパーサイヤ人ブルーの彼等でも、今のバーダックを取り押さえるのは難しい。
しかも、バーダックは大猿化して理性を失った状態での戦闘経験が豊富だった。
闘争本能のみで暴れているとは思えない程的確に動き、足元の星を破壊するような自爆を避けて拳や脚を振り下ろし、口から気功波を撃つ。
「危ないところだったわね。あいつらが奴に突っかかっていかなければ、私達の方に向かってきたかも」
トワはそう言って冷や汗を拭った。仮面が破壊された事で、バーダックの洗脳はほぼ解けている。しかし、大猿になって理性を無くしたため、トワやミラに反逆する事無く、自らに攻撃を仕掛けてきた悟空達を敵だと認識して攻撃しているのだ。
「トワ、このまま退くべきだ」
「いえ、出来ればバーダックを回収したい。ダメなら諦めるけど、まだ様子を見ましょう」
トワがバーダックを手駒にしたのは、戦力を補充する必要に迫られていたから、そしてちょっとした思い付きによるものだった。しかし、過去に遡って惑星ベジータが崩壊する間際に回収したバーダックを洗脳し、いざ手駒にしてみると……想像以上に彼は便利な戦力だった。
強さはともかく、無数の実戦で培った戦闘テクニックは高く、サイヤ人の強い闘争本能は洗脳下にあっても有効に作用した。
仮面をベジータに割られた時は半ば暴走して手を焼かされたが、それを差し引いても戦力として、そしてミラの組手相手として有用だったのだ。
「……分かった、トワ」
渋々同意するミラの視線の先では、悟空達が大猿バーダックに翻弄されていた。大猿化して惑星を侵略した経験を多く積んでいる大猿バーダックは、尻尾を切断されないよう胴体に巻き付けているのだ。
「チッ! 尻尾を狙うのは止めだ! 倒すぞ!」
「えっ!? 父さん、こいつは悟空さんのお父さんなんでしょう!?」
「そうだが尻尾を切れない以上面倒だ。それとも月を破壊するか!?」
「それは時の界王神様が怒りますよ!」
「ううん、仕方ねぇか。大猿になっている間はタフになってるから簡単に死なねぇだろうし、仙豆もあるしな」
「悟空さん!?」
尻尾を狙い続ける事に見切りをつけたベジータが強硬策を主張し、悟空も同調しはじめた。
『その必要はない。儂に合わせてくれ』
しかし、その時彼等三人の脳裏に聞き覚えのある声が響いた。ハッとして何をする気か聞き返そうとした瞬間、それは現れた。
一抱えほどの大きさの四角い装置が煙とともにどこからともなく出現したかと思ったら、機械から霧状の薬剤が噴霧された。
『グオオオ!』
大猿バーダックは装置に気が付いて顔を向ける。
『オォォォォ……』
だが、そのままがっくりと肩を落とすと、弱弱しい吼え声をあげながら小さくなっていく。彼の尻尾も月もそのままだというのに。
「しめた! 捕まえるぞっ、ベジータ!」
「俺に命令するな!」
変身が解け、人に戻っていくバーダックを確保しようとする悟空とベジータ。
「これは……ミラっ、そこよ!」
しかし、機会を窺っていたトワ達がそれより早く動き出した。主が指さした方向に、躊躇いなく気功波を放つミラ。
「危ない!」
その気弾の前に、トランクスが飛び出した。
「トランクスっ、ゲロのじっちゃん!?」
「気を逸らすな、カカロット!」
爆発に動揺した悟空が意識をバーダックから逸らした一瞬の隙に、トワの魔術によってバーダックの顔に再び仮面が装着される。
「退くわよ!」
『…………!』
変身が解けた反動で意識が朦朧としていたバーダックの体が、洗脳によって強引に動く。ベジータと悟空に向かって気弾を放ち、その輝きが消えた時には歴史改変者と再び仮面のサイヤ人に戻されたバーダックの姿は消えていた。
「チッ! 逃がしたか……。爺、余計な真似をしやがって!」
「すまんすまん、大丈夫かね、トランクス君」
ベジータが言う失跡した爺……ドクターゲロがトランクスの背後から現れる。
「いや、戦いの邪魔になってはいかんと思ってここにいる事も黙っていたのだが……かえって邪魔になってしまったようじゃな」
ゲロは魔術の計測するために、なんと片手間に開発した光学迷彩や反重力装置を使用して時の界王神の結界の内側に隠れていたのだ。
もちろん、トワ達が現れて時の界王神が結界を張るずっと前から……魔神城に悟空達が近づいた頃からずっと反重力装置で空に浮かび、光学迷彩装置で透明になっていたのだ。
「まったくです。今のあなたの実力では、流れ弾が掠っただけでも死んでいましたよ」
とっさに彼をミラの気弾から庇ったトランクスがそう言うと、ゲロはすまなそうに頭を下げた。
「どうしても魔術のデータが欲しくてな。流れ弾が当たらない場所にこの分身を移動させていたのだが……手助けをしようとして、逆に足を引っ張ってしまった。誠に申し訳ない」
「……分身?」
「うむ、これは四身の拳で作った儂の分身じゃ。本体は、この歴史の悟空達の近くにいる」
なんと、今ここにいるトランクスが庇ったゲロは消えても本体には気を消費する以外に影響のない分身だった。
ゲロも自分とは圧倒的過ぎる差のある戦士達の戦場に忍び寄る危険を、理解していたのだ。
「前もって分身である事も伝えるべきじゃったな。しかし、おかげでトワの魔術を解析する事が出来るかもしれん。この貴重なデータを活かし、必ず君達の助けとする事を約束しよう」
「は、はあ……なら、良かったです」
肩を落としたトランクスに、はははと苦笑いをする悟空に、明らかに怒っているベジータ。
その後、ゲロは時の界王神から説教される事になったのだった。
原作劇場版と違い、すっかり日が沈んだ頃、悟空達は悪魔の指の麓で一息ついていた。
太陽破壊砲を破壊し、ルシフェルを倒した後、魔神城が崩れる前に倒れている者達に仙豆を食べさせ、全員で飛んで来たのである。
「危なかったけど、流石ね。」
「天、凄い!」
「おい、俺も大活躍したんだぜ!」
「それは信じがたいのよねー」
「天津飯やプーアルから聞いた話でも、半信半疑だよ」
「ええ~っ!?」
なかなか自身の活躍を信じてもらえず不満そうなウーロンを、はははと笑い、改めて悪魔の指を見る。
「しかし、まさかお姫様を助けに来たのに地球を救っちゃうとは思わなかったわね」
「まったくだな。でもクリリン、結局亀仙人のじっちゃんの試練どうすんだ?」
「あっ!? 忘れてた……!」
亀仙人に課された試練である、「眠り姫を連れ帰る」事が達成できない事に気が付いたクリリンは頭を抱えた。このままでは破門……はされないと思うが、いつかピチピチギャルを亀仙人の元に連れて行かなければならなくなる。
「そ、そうだ! ウーロン、眠り姫に化けてくれ!」
「絶対嫌だ! 俺は眠り姫を見たかったんであって、化けたい訳じゃないの!」
女の子に化けたプーアルでいけたのだから、ウーロンに頼めないかと思ったクリリンだったが、きっぱり断られて肩を落とす。
そして、ハッとして顔をあげた。ここには、他にも女の子がいる事を思い出したのだ。
「すみませんっ、一時間だけでいいので眠り姫のふりをしてきてくれませんか!?」
「それ、あたしに言ってるのか?」
クリリンが一縷の期待を込めて話しかけたのは、壊れたフライングソーサーを修理できないか見ていたパスタだった。
彼女だけではなく、ボンゴとブルー将軍もまだここに残っていた。何故なら三人が乗って来たフライングソーサーが故障してしまったからだ。
「ク、クリリン! その女はやめておけ!」
「そうだっ、何するか分かったもんじゃないよ!」
「ギャラ次第で考えてやってもいい……と言いたいところだけど、そのまま連行されるのは御免だから断るよ」
ヤムチャとラズリが慌てて止めるが、パスタが自分からそう言って断った。お尋ね者の彼女からすれば、警察署より厄介な場所へ自分から行くなんて、いくらギャラを提示されても御免だろう。
「そんなぁ……」
がっくりと項垂れるクリリン。なお、ヤムチャ達にパスタとボンゴを捕まえるつもりはないようだ。
二人とブルー将軍には助けられたから、一時休戦は終わった途端敵同士に戻るのは、気が進まない。それが悟空達の共通認識だったようだ。
「仕方ねぇ。ここは一肌脱いでくれねぇか、ブルマさん、ラズリさん?」
「あたし達?」
「オラは自分で自分の試練の分を済ませてるから、多分ダメだべ」
「そっか、まあ、どうしてもって言うなら――」
「そう言えば、こいつは何なんだ? 気が付いたらいつの間にかいたが……お前らの仲間か?」
その時、何気ないラピスの声がラズリの声を遮った。彼はいつの間にか一行に加わっていたランチを指して、ブルー将軍達に問いかけている。
「こ、こんな奴知らないわよ!」
実際は心当たりがあるが、それを口にするわけにはいかないブルー将軍は反射的にそう言ってそっぽを向く。
「はい、私はランチって言います。気が付いたらあのお城にいて、この天津飯さんに怖い人達から庇ってもらっていました」
「ああ。あの女魔族を倒したか確認に向かったら、そこに彼女が居たんだ。その後は、俺が庇ったというより彼女に助けられたのだと思うが……」
「歯切れが悪いな、天津飯。照れてんのか?」
「いや、ヤムチャ、そう言う訳ではなくてだな……」
気が感じ取れない程小さい(実際にはない)ランチが、気功波を放って下級魔族とその背後にある山を吹っ飛ばしたとは信じ難い天津飯だったが、ヤムチャはそれを照れによるものだと思い込んでいた。
「気が付いたら……もしかして魔族に攫われて監禁されていたのかもしれないわね」
そうブルマが言い、なるほどと天津飯とブルー将軍達以外の皆が頷く。
青髪ランチの額には今も二本の角が生えているし、服も金髪の時と同じだ。顔も、よく見ればほぼ同じである。だから真実を知っているブルー将軍などはブルマ達が気付かない事に内心驚いている。
しかし、巨大化が解けているし、仕草も口調も異なるため受ける印象が全く違うのだから、ブルマ達が鈍いとは言えない。
何より、気の大きさが全く違う。機械には気が無い事は悟空達も知っているが、青髪ランチはどこからどう見てもロボットではないので、同一人物だとは誰も思わなかった。
服が同じである事には気がついていても、魔神城の魔族達はルシフェルやガステル、執事など以外は皆同じような格好だった。あの女魔族が着ていたのと同じデザインの服があり、それを攫ってきたランチに着せたか、ランチが何らかの理由で自分から着たのだろうと思っていた。
なんにしても、彼女を怪しんでいない悟空達は誰も深く考えなかったし、彼女から話を聞き出そうともしなかった。
(ええっと、もうあの魔神城はなくなってしまったので、この人達に付いて行けばいいんですよね?)
一方、青髪ランチは記憶を補完するスカウターを失ったままだったが、時間とともに金髪に変わる前の記憶を思い出し、ゲロとのテレパシーで状況を把握していた。
「あのー、申し訳ありませんが、私、行く当てがないので、何処か街に連れて行ってもらえませんか?」
嘘をつく事に罪悪感を覚えながらそう切り出す青髪ランチ。しかし、その彼女の様子は「魔族に攫われて記憶を失った女性が、迷惑をかける事を心苦しく思いながら頼んでいる」ようにブルマ達には見えた。
「よし、クリリン、眠り姫の代わりにこのランチさんを連れて帰りなさい」
「ええっ!? でも、それはこの人に悪いような……?」
「いくらスケベでも仮にも仙人なんだし、そんなひどい事はしないでしょ」
「それに、連れて帰って一度会わせた後はこいつが何処に行こうと自由なんだろ? 気に食わなかったらここに連絡しな」
あれよあれよという間に青髪ランチはクリリン達とカメハウスに向かう事が決まった。その様子をブルー将軍は苦い顔で見ていたが、止められるわけもない。
(どういう事? これもフラッペの作戦なの? 武天老師一派にスパイを送り込むなんて……まさかレッド総帥の意志によるもの?)
等と色々考えてしまうが、発言や行動には結びつかなかった。
「そう言えばおめぇ、何て言うんだ?」
「そう言えば、まだ名前も聞いてなかったな」
「ブルーよ!」
ブルー将軍はやっとそう名乗ったのだった。一瞬偽名を言うか迷ったようだが、今更意味は無いと考えたようだ。
「じゃあ、とりあえず記念写真でも撮りましょうか。はい、皆並んで~」
「おい、俺達は遠慮させてもらうぞ!」
「いいからいいから」
そして遠慮しようとするボンゴ達を強引に並べて、小指と薬指に当たる山が崩れて角度によってはピースサインをしているように見える悪魔の指を背景に、記念写真を撮ったのだった。
朝日が眩しかった原作劇場版とは違い、夜景になったが。
「今回は協力したが、俺達の傷まで治した事をいつか後悔させてやるからな!」
「おめえ達、もう悪さするなよ~! 今度会った時は戦おうな~!」
「どっちだ!?」
悪さをするなと言った舌の根も乾かないうちに、戦おうという悟空に思わず怒鳴り返すボンゴ。もっとも、悪さと戦うがイコールで繋がらない悟空は、怒鳴られてもきょとんとしていたが。
「はぁ。全く、フラッペに私達の事はばれているでしょうし……どう誤魔化せばいいかしら」
修理したフライングソーサーにそれぞれ乗って、ブルー将軍達はレッドリボン軍基地へと帰還するのだった。
「じゃあ、俺達も帰るか。じゃあな、皆! 来年の天下一武道会で会おうぜ!」
「はい、ヤムチャ様! 皆もお元気で~!」
そしてブルー将軍達を見送った後、ヤムチャとプーアルはジェットモモンガに乗って去っていった。一層厳しくなった神様とミスター・ポポの修行が待っている事を、彼はまだ知らない。
「それじゃあ、あたし達も瞬間移動で帰るけど、あんた達はどうする? ついでに送って行ってあげましょうか?」
ドラゴンボール集めの旅の時は帰りも飛行機で情緒を楽しんだブルマ達だが、今回はその飛行機が墜落しているし、すっかり夜になっているから、瞬間移動ですぐ帰る事にしたようだ。
「そうだな、流石に五人は無理だろうしな。送ってってくれ」
「是非お願いするべ」
行きの四人でもギリギリだったのに、そこにランチを加えて五人で飛んで帰るのは筋斗雲でも難しい。そこでブルマの厚意に甘える事にしたようだ。
ちなみに、この事からブルマはある発明品の着想を得るのだが、それはまた別の話だ。
「じゃあ、さっそく……あら? 亀仙人のお爺ちゃんの気が無いわね」
「気を抑えて瞑想でもしているんでしょうか?」
「サタンさん、多分昼寝したまま起きてねぇだけだべ」
「ボク、テレパシーで呼びかけてみる」
しかし、この時亀仙人は、気を消して小ガメラに乗って家に帰る途中だった。こっそり弟子達の様子を見守っていたのはいいが、弟子たちが帰る前に自分が家に戻っていなければいけない事を忘れていたのだ。
『むっ、むにゃむにゃ。後、五分~』
「……チチの言う通り、寝てたみたい。テレパシーでも寝ぼけてる」
「武天老師様ったら」
「亀仙人のじっちゃんも仕方ねぇなぁ」
「そう言えばサタン、ミゲルちゃんが遊びに行くのはいつだ?」
こうして魔神城での冒険は無事終わったのだった。
〇ルシフェル
魔神城の主。何千年もの時間を太陽の破壊のためにかけていた策略家。普段は紳士的な美形だが、戦闘では魔族としての本性を現す。
原作劇場版では悟空より強く、更に当時のドラゴンボールの敵では珍しく気功波を放つ。ただ、光に対して極端に弱い。
原作劇場版では光線を放って悟空達を追い詰めるが、悟空達に肉弾戦を挑んだ様子はなかったので、戦士や武道家というより魔族の支配者や策略家の側面が強い人物だったのではないかと解釈しました。
この作品では素の戦闘力を25と設定し、魔凶星の欠片を左手に抱えている時は五十倍の1250。欠片を壊された後は三十倍の750までいったん下がったが、追い詰められた事で肉体に負荷をかけて一時的なパワーアップを行い1250に戻った。
天津飯以外は力押しで倒せる強さの持ち主だが、この作品の悟空達がクリリン以外全員太陽拳を使えたため、常に視覚を封じられたまま戦う羽目になった。
〇ウーロンの変身
変化する対象の強さや硬さ、能力は真似できないが、重さは変化している、というのはこの作品での解釈です。
一応根拠は、原作でウーロンが鬼や猛牛に変化して動いた時、地響きや重そうな足音を立てていた事、蝙蝠や蠅に変化して空を飛ぶ事が出来た事、そしてパンツに化けてブルマに「はけ!」と迫った時、ブルマに叩かれて地面にたたきつけられた事です。
重くなることに関しては、重そうな足音は妖術による幻聴だと解釈する事も出来ますが、地響の振動まで再現できるのかは疑問が残る。
また、軽くなる事に関しては……ウーロンが見た目より軽くても素の体重は十キロ以上あると推定。それに対して、蝙蝠は、現実で最大のオオコウモリでも体重は1キロ100グラムぐらい。蠅に関してはもちろん、十キロ以上の体重で飛ぶ事は出来ない。
また、原作ブルマが十キロ以上の重さのパンツを空中で叩き落したら、腕を痛める可能性が高い。
なので、この作品では「ウーロンの変化でも、体重は変化する」と考えます。
〇亀仙人
小ガメラに乗って回転しながら急いで帰宅中。チャオズのテレパシーには、寝ぼけた演技をして答えた。
彼が言った「後五分」は、「後五分間ぐらいで家に着くから、それまで待ってくれ」という意味。
コダマ様、酒井悠人様、mnsk様、ギアスター様、佐藤東沙様、Veno様、Mr.ランターン様、メイトリクス様、太陽のガリ茶様、phodra様、佐藤浩様、gsころりん様、都庵様、みえる様、誤字報告ありがとうございます。早速修正しました。