ドクターゲロに転生したので妻を最強の人造人間にする 作:デンスケ(土気色堂)
一時間のお昼休みを挟んで行われた敗者一決定戦。出場選手は、AグループからHグループのトーナメント決勝戦敗者、そしてIからPのバトルロイヤル参加者の中から観客の投票で合計十六人までが選ばれる。
つまり、Aグループ決勝戦敗退者のジャガー、Bグループのラオチュウ、Cグループのスミレ、Eグループのラピス、Fグループのナム、そしてDとGとHそれぞれのグループの無名の選手と、観客の投票で選ばれた八名だ。
しかし、選ばれても選手が参加するか否かは自由意志に任される。スミレやジン……バイオレット大佐やシルバー大佐など、予選で敗退した後帰ってしまった選手も多いからだ。また、DとG、そしてHグループの決勝戦敗退者は出場を辞退した。
そのため、該当者がいない場合は出場意思のある選手の中から観客の投票を集めた者が、出場資格を得る。
「僕を選んでくれた観客の皆、ありがとう! 皆の声援にこたえるため、精いっぱい頑張るよ!」
「パンプットやヤムチャさんはともかく、ま、まさか俺が選ばれるなんて……もしかして俺、意外と人気者なんでしょうか!?」
パンプットが観客に向かって笑顔で手を振る後ろで、自分が選ばれるとは思っていなかったらしいクリリンが恐縮したり照れたりと、忙しくしている。
「まあ、孫君とそれなりに渡り合ったし、あんたも亀仙人のお爺ちゃんの弟子なんだから、テレビや雑誌で特集されたりして、結構知名度もあったしね。
それに……思っていたより帰った選手が多かったみたいよ」
しかし、ブルマにそう説明されて「なんだ~」と落ち着く。
「いくつか繰り上げられたと言っても、それで定員に入れるぐらいクリリンに投票したお客さんが多かったって事だ。そう落ち込むなって」
ちなみに、観客からの投票ではパンプットが一位で、二位は男性客の人気を集めたランファンだった。三位がブルマで、四位はヤムチャである。
なお、ラピスは予選トーナメントの決勝戦敗退者なので投票の対象になっていない。もし彼が対象に入っていれば、上位に食い込んだのは間違いないだろう。非公式ファンクラブなどがあるようじゃし。
他にも牛魔王と渡り合ったジン(シルバー大佐)や、外見が目立った謎の忍者パープル(ムラサキ曹長)が上位にいたが、既に帰っていたため、繰り上げになってクリリン達が出場資格を手に入れたのだ。
なお、開始早々にクリリンに瞬殺されたクリリンの兄弟子テクリンは観客の印象に全く残っていなかったため、票は全く入らなかった。
代わりに定員に滑り込んだのが彼等である。
「武闘家は芸能人ではないが……声援には応えなければ」
「な、なんで私が……ピラフ様ーっ、やっぱり無理ですよー!」
獅子牙流のヤシシと、マイである。
ヤシシは一度本戦に出場しているし、映画にも少しだが出演しているため、観客の中にファンがいたようだ。
それに対してマイは今大会が初参加で、Aグループ予選トーナメント三回戦で敗退している。もちろん映画にも出演していない。しかし、ブルマやサタンと同じ尻尾が生えている事から観客の注目を集めたようだ。
それに、実は戦闘力15の彼女は無名の選手の中ではトップクラスの実力者だったりする。本人に自覚はないようだが。
「ええい、せっかくのチャンスを活かさんでどうする! それに、バトルロイヤルならもしかしたらって事があり得るだろうが!
そうだ! あのヤムチャって男には色仕掛けが効くぞ! チューしてやれ、チューを!」
「ピ、ピラフ様なんてことを!」
「そうですっ! カメラだって回ってるんですよ!?」
マイ本人よりやる気を見せているピラフ大王の暴挙を、声をあげて制止しようとするシュウと全力で断るマイ。そんな彼らに向かって、話題に出されたヤムチャが声をあげた。
「な、なんだと!? 予選に続いて色仕掛けで負けてたまるか! 悪いが、あんたがどんな色仕掛けを仕掛けてきても、俺は惑わされないからな!」
「私が色仕掛けをする前提で話すのを止めろ!」
参加選手のコミカルな掛け合いに観客席からは笑い声が上がる。しかし、ナムとチューボは静かに精神統一をしていた。
『それでは敗者一決定戦、開始です!』
「とぁぁぁ!」
試合が始まった瞬間、ナムがチューボに向かって駆け出した。もっとも強い者に一人突撃するというバトルロワイヤルの定石から外れた行動だが……もしかしたら、色仕掛けをかけるかもしれないと考えてマイから離れたのかもしれない。
「うおおおっ!」
そして、チューボもナムを迎え撃った。予選で敗退した者の中では、この二人が強さの一位と二位であるため、白熱したぶつかり合いが始まる。
「参るっ!」
「この老人、ただ者ではないな。我が獅子牙流の相手に相応しい!」
そしてラオチュウとヤシシがぶつかり合う。
「せいっ!」
「あたぁッ!」
そしてそれぞれ勝負を始めるヤムチャやパンプット。瞬く間に無名の選手数名が場外に吹き飛ばされ、マイは悲鳴をあげながら逃げていく。
「ちょっと! チューボさんを倒すまで手を組まない!?」
「何?」
「あたし達一人一人がばらばらにかかってもチューボさんには勝てないわ! だったら、協力してチューボさんを倒してから一位を決めましょうって言ってるのよ!」
「ええっ!?」
「そ、それは卑怯じゃないですか?」
ブルマの提案に躊躇うヤムチャとクリリン。
「乗った!」
「作戦はどうする?」
「皆の力を合わせて強敵に立ち向かう。うん、良い展開だ!」
逆に、ラピスとジャガー、そしてパンプットは即座に同意した。
この辺り、流派を合流させても亀仙人と鶴仙人、師匠の性格が出ていると言えるだろう。ジャガーは儂の弟子だが。
そしてヤムチャとクリリンも、ラピス達がやるならと流されて対チューボ同盟を結成。すぐに動き出した。
『皆、チューボさんを場外へ落すわよ! そのためにもナムがやられないうちに!』
テレパシーで皆にブルマが指示を出し、チューボとある程度戦う事が出来るナムが倒れないうちに速攻で仕掛ける。
「太陽拳!」
「何!?」
ナムの背後に移動したジャガーが、太陽拳でチューボの目を封じる。
そして、チューボの真横に瞬間移動したブルマと、彼女に運んでもらったヤムチャが出現する。
「行って、ヤムチャ!」
「狼牙風風拳!」
ヤムチャの狼の群れを思わせる激しい連続攻撃がチューボを打つ。ナムも、一対一の戦いに水を差された事に顔を顰めつつも、バトルロイヤルとはこう言うものなので手を止めずチューボに攻撃を繰り出す。
戦闘力2560のチューボも、戦闘力約1千のナムと約720のヤムチャの攻撃を目が効かない状態で受けるのは厳しく、僅かずつダメージと苛立ちが募っていく。
(そろそろいいだろう、少し本気を出すとしよう!)
特段賞金が欲しいわけでもない(超企業GCコーポレーションの警備部部長である彼は、もっと高い給料をもらっている)チューボは、ナムやブルマ達に稽古をつけるつもりで試合に参加していた。
勝利だけを追い求めるなら、試合開始早々にプラズマブーストを発動してナムも含めた他の選手を全員場外に叩き出せばよかったのだから。
しかし、チューボもここまでタコ殴りにされて大人しくしているほど大人ではない。幸い、ナムとヤムチャなら本気を出してぶん殴っても平気だろう。
そう思って力を籠めるが……。
「うおおおおっ!」
その時、ジャガーが突っ込んできた。気でそれを察したチューボは、慌てて腕に込めた力を抜く。戦闘力約250のジャガーに彼の本気の攻撃がもし当たったら、致命傷を与えるどころかミンチになりかねない。
だが、そのためにチューボの動きは鈍り、意識はジャガーに集中する。それをブルマは待っていた。
「今よっ!」
チューボの背に触れると、彼を連れて舞台の外、場外に瞬間移動で現れる。
「排球弾! はっ!」
「ほっ!」
そして、ラピスとパンプットが複数人で気の波長を合わせて、バレーボールのように一発の気弾に気を込めていく排球弾を二段階目まで作り、ブルマに投げる。
「アターック!」
「かめはめ波ーっ!」
そしてブルマが排球弾を、そしてクリリンがかめはめ波を放ってチューボを地面に押し込もうとした。これでほんの一部でも地面にチューボが触れれば彼は失格になっていたのだが……。
「させるか!」
なんとチューボはとっさに地面に向かって気弾を放ち、その反動で舞台の上に戻った。その際、背中に排球弾とかめはめ波を受けたが、衝撃も何もかも無視して着地する。
「あ、失敗した」
「おいおい、次はどうする?」
「次なんてあるわけないでしょ」
口元を引きつらせるブルマに、肩をすくめるラピス。
「うおおおおっ!」
そんな二人に、猛然とチューボが襲い掛かる。もちろん手加減していたが、それでも猛烈な拳や蹴りによって、ブルマやラピス、パンプットやクリリンが次々に意識を刈り取られて場外へ叩き出されていく。
「くっ、かめはめ波ーっ!」
「スーパーどどん波!」
これは拙いと見て取ったヤムチャとナムがそれぞれの必殺技を放つ。
「どどん波!」
しかし、チューボのどどん波によってそれらは貫かれ、二人と余波を受けたジャガーも吹き飛ばされて舞台の上に転がった。
そして、逃げ回っていたマイと、残っていたヤシシとラオチュウを優しく失神させて勝利を決めた。
『敗者一決定戦はチューボ選手の勝利です! チューボ選手には優勝賞金百万ゼニーと予選敗退者の中で最も強かったことを讃える盾が送られます!』
「ふう……危ないところだった。そろそろ天下一武道会に出るのは止めるか」
警備部部長としての威厳を警備部員達に対して維持するのも大変なチューボだった。
『では、敗者一決定戦後の休み時間も終わり、いよいよ天下一武道会準決勝第一試合! 両選手の入場です!』
「よう、辛いなら明日の試合まで休んでていいんだぜ?」
「フンッ、私が出るのは決勝戦だ。三位決定戦ではないわ」
アックマンとの試合を経ても、一時間少々休んだだけで体力を回復させたターレスに、タイツとの激戦の後からほんの五分前までメディカルポッドに入っていた桃白白は鼻を鳴らした。
「まったく。貴様らサイヤ人の回復力は化け物並みだな。おかげで私の今日の昼食は、メディカルポッド内で飲んだ流動食だぞ」
「まあな。羨ましかったら、オッサンも爺に改造してもらうか? 角や尻尾のおまけもついてくるかもしれないぜ?」
「いや、やめておこう。一年近く休むと、ファンが寂しがるからな」
『カンフーキッド対スーパーヒーロー桃白白! 映画のワンシーンのようですが、映画以上のバトルが見られる事でしょう! それでは……試合開始です!』
「「どどん波!」」
試合開始の合図と同時に、ターレスと桃白白は互いにどどん波を放った。
「見かけより元気そうで安心したぜ!」
「貴様に心配されるほど、年は取っておらん!」
そしてぶつかり合った次の瞬間には、爆炎を吹き飛ばすような激しい肉弾戦を展開する。
「はぁあああああ!」
マシンガンの連射のような早く鋭い突きを桃白白が放てば、ターレスは両腕でそれを受け止め、僅かな隙をこじ開けるようにして蹴りを放つ。
「くっ! 小手調べはここまでだ! プラズマブースト!」
ターレスの蹴りを回避するために後ろに下がった桃白白は、プラズマブーストを発動。
「ふっ、プラズマブースト!」
しかし、それを見たターレスもプラズマブーストを発動。
「何!?」
「フッ、爺の養子を何年やってると思ってやがる」
互いに身体能力が倍増した状態で、舞台上を縦横無尽に飛び回りながらぶつかり合う二人。しかし、元々戦闘力に差が無かった二人の戦いは、一進一退を繰り返した。
「くらえっ、キルドライバー!」
それに焦れたのか、振れたら爆発する円形の気功波を広範囲に放つ技をターレスが放った。しかし、キルドライバーには穴が開いており、広範囲に広がればその分穴が大きくなる。
桃白白はそれを見抜き、キルドライバーが十分広がったのを見計らって穴を通り抜けて回避しようと試みた。
「甘いぜっ、フォトンウェイブ!」
だが、それはターレスの罠だった。桃白白が通り抜けようとした穴に向かってフォトンウェイブを放つ。
「くっ!」
しかし、だが桃白白もただではやられない。フォトンウェイブが当たる直前、それまで回避しようとしていたキルドライバーに向かって弱い気弾を放った。
途端キルドライバーは爆発し、その衝撃を受けたおかげで桃白白はフォトンウェイブの直撃を回避する事に成功する。
「やるな。だが、ちょっとは効いただろ?」
「フン、全く。敬老精神が足らん奴だ」
自身の罠を破った桃白白を褒めつつも、不敵な笑みを消さないターレス。その言葉が正しい事を表すように、煙の向こうから現れた桃白白には、小さくないダメージが残っていた。その影響か、プラズマブーストも解けてしまっている。
「だが、この桃白白、ただでは負けん。行くぞ!」
そして、まるで自棄になったかのように正面からターレスに突っ込んでいく。ターレスは余裕の表情を浮かべたままそれを迎え撃つが。
「四身の拳!」
「なにっ!?」
ぶつかり合う寸前、桃白白が四身の拳を発動。二人に分かれ、一人はそのままターレスに突っ込んで行き、もう一人は逆に後ろに下がる。どちらが本体かは、考えるまでもないだろう。
不意を突かれたターレスは、突進してくる桃白白から距離をとろうとするが間に合わない。
「ぐわぁぁぁ!?」
悲鳴をかき消すほどの轟音を響かせ、桃白白の分身が爆発する。なんと、桃白白は一回戦で自分が受けたチャオズの自爆戦法を攻撃に使ったのだ。
「や、やったか?」
まんまとターレスを罠にかけつつも、そのために気の大部分を分身につぎ込んだ桃白白は、肩で息をしながら爆発に消えたターレスの気を探る。
儂もターレスの気を探るが、爆発の中で小さくなった……そう思ったら、爆発的に気が高まっていく。
「くらえっ!」
煙から高速で飛び出してきたターレスが、桃白白を殴り飛ばす。回避どころか防御も出来なかった桃白白は、「がはっ!?」と悲鳴をあげて舞台の上に転がった。
『ナイーン! テン! テンカウントで桃白白選手の敗北! ターレス選手の勝利です!』
「……チッ、準優勝は逃したか。おい、手を貸してはくれんのか?」
「無茶言うぜ。こっちも立っているのがやっとだってのに」
自力で立ち上がれない桃白白に、最後の一撃に残っていた体力を全て費やし、言葉通り立っているのがやっとのターレス。
どちらが勝ってもおかしくない、互角の勝負だったと言えるだろう。
そして、本日最後の試合、準決勝第二試合となったが……。
「さて、今度は儂が悟空の立場じゃな」
「勘弁してけれ。悟飯さんにそっだら事言われたら、恐縮しちまうべ」
『準決勝第二試合! 前回準優勝のサン選手が今大会でも決勝戦に駒を進めるのか!? それとも拳法の達人、武天老師様の一番弟子孫悟飯選手が勝ち進むのか!』
試合を戦うサンと悟飯は落ち着いているが、アナウンサーの実況は絶好調だ。
戦闘力7500にまで至った悟飯だが、やはり8万を超えるサンと真剣勝負できる程ではない。
『それでは、試合開始!』
「では胸を借りるとするかの。とはいえ、勝つつもりがないわけではないが」
「その方がオラも楽しいから嬉しいべ」
しかし、日頃から組手を繰り返していたため奥の手までお互いに知り尽くしていた牛魔王と違い、悟飯はそれなりに切り札を用意していたらしい。……二回戦で牛魔王が見せたマッスルカタパルトも、普通なら十分切り札になり得たはずだが。
「かぁ~めぇ~はぁ~めぇ~!」
悟飯は時間をかけて体内の気を練り上げていく。あまりにも時間がかかるため、普通の対戦相手なら技が完成する前に攻撃を受けていただろう。
しかし、サンは悟飯の技の完成を妨害する様子を見せなかった。
これが命や地球の存亡がかかった実戦だったら、サンも遠慮なく攻撃していただろう。しかし、彼女の夫である牛魔王がサタンに言ったように、これは「負けても地球が滅びる訳じゃない」ただの試合だ。そのため、彼女は儂が移植したサイヤ人の細胞の欲求を満足させる事を優先したようだ。
「波ぁ!」
そして悟飯が完成させたかめはめ波は、通常のかめはめ波を超える凄まじい気が込められていた。しかし、気が大きく膨らんでいるためスピードがない。動かない山ならともかく、自由に動ける相手に打つにはあまりに遅すぎる。
「ありゃ? 威力重視だべか?」
サンもそう思ったようで、微妙な顔をしながら、しかしただ避けるだけではつまらないと思ったのか巨大かめはめ波を気合を込めた拳で受け止め、殴り飛ばそうと試みた。
「今じゃ!」
なんとその瞬間、巨大かめはめ波が枝分かれしてサンの拳を避けた。
「っ!?」
そして、拳が空ぶったサンに向かって、複数の気功波に枝分かれした巨大かめはめ波は、獲物に殺到する蛇のように彼女を中心に集合し、爆発した。
「悟飯の奴、気の制御をあそこまで高めるとは見事じゃ」
「うむ。あれなら、複数の相手を一度に攻撃する事も可能じゃろうな」
観客席の亀仙人と鶴仙人が口々に感心するのに、儂も内心で同意していた。あれは原作のサイヤ人襲来編でヤムチャを殺された直後のクリリンが、サイバイマンやベジータやナッパに仕掛けた拡散エネルギー波と似た技だ。
違うのは、拡散した気功波を再び収束した事ぐらいだ。目標を追尾するスーパーどどん波やタイツのサイコどどん波を目にしていたとはいえ、かめはめ波を拡散させる事を思いつき実現させた孫悟飯の研鑽と技は流石だ。
「たぁーっ!」
「っ!」
しかし、巨大かめはめ波の爆発に耐えたサンが突貫して拳を振るった。大技を放った直後だった悟飯は防御も出来ずまともに拳を受け、後ろに吹っ飛んで倒れてしまった。
『ナーイン! テーン! 孫悟飯選手のテンカウント負け! サン選手の勝利です! 明日の決勝戦はターレス選手対サン選手! 三位決定戦は桃白白選手対孫悟飯選手に決定しました!』
天下一武道会の日程が残すところ最終日のみとなった頃、悪の歩みもまた進んでいた。
「クックック、素晴らしいぞ、コーチン。貴様の科学者としての腕は、確かに天才的だ」
ピッコロ大魔王はコーチンが作り上げたアジトで、満足げに笑っていた。彼の周りには、バイオマンが複数体倒れていた。
コーチンの改造手術を受け、培養カプセルに漬かる事一年と九か月程。ピッコロ大魔王は若さだけではなく、絶大なパワーアップを果たしていた。
コーチンが開発した機器で計測したところ、その数値は本来の彼のなんと百倍。試しに戦ってみたバイオマン達も、一瞬で捻る事が出来た。
以前なら、バイオマン一体に軽く捻られていた彼がだ。
これは大きな進歩であり、確かな成果だと言える。
「さて……確か、人間共が天下一の強者を決めるとかいう大会を開いている頃だったな。早速、このピッコロ大魔王様が天下一強い事を知らしめに行ってやるとするか」
復活した後はずっとアジトに、しかもその九割以上の時間を培養ポッドの中に入ったまま過ごしていたピッコロ大魔王は、ようやくこの鬱憤を晴らす事が出来ると思うと笑いをこらえる事が出来なかった。
正直、金魚鉢で飼われる金魚にでもなったような気分だった。
コーチンは動けない自分をそれなりに気遣ったのか、培養カプセルの前にテレビを置いて現代の番組を見せてくれたし、ピッコロ大魔王の脳波をコントローラーにつないでゲームが出来るようにもしてくれたし、時々ドクターウィローの偉大さを話して聞かせられたが、それはそれ。
いや、最後のは気遣いとは言えないのではないだろうか? まあ、ともかくやはり体を動かしたい。
恐怖と絶望に満ちた人間共の断末魔の悲鳴は、ホラー映画の怪物によって行われたものではなく、自身が上げさせたものが一番だ。
「いかん! いかんぞ、ピッコロ大魔王! その程度で天下一武道会に乱入などすれば、お前はたちまち退治されてしまうぞ!」
しかし、コーチンは目を剥いて否定した。
「そ、その程度だと!? これほどのパワーを得たというのにか!?」
「これほどの、ではない! まだこの程度だ! よいか、ピッコロ大魔王、貴様の今のパワーは数値にして2万3千! 元々のおよそ百倍如きにすぎん!」
「如きだと!?」
「そして、ゲロとゲロが創り上げた人造人間共に敗れたドクター・ウィローのパワーは、数値にして3万9千! ピッコロ大魔王、お前のパワーはまだドクター・ウィロー未満なのだ!」
「そ、そんな馬鹿なっ!?」
絶大なパワーを手に入れたと調子に乗っていたら、実はすでに倒されているウィロー未満の力でしかないという事を突き付けられ、愕然とするピッコロ大魔王。
ただの人間の科学者が、今の自分より強い。その事に、ピッコロ大魔王の傲慢な頭脳にも「人間の科学力、侮るべからず」という認識が刻み込まれる。
「わ、儂が封印されている間に強くなっていたのは、武道家や警備員だけではなく、科学者もだったのか……こんな事では、地球を……そしていずれは全宇宙を支配する等夢のまた夢か」
自身のルーツがナメック星にあり、この宇宙には地球以外にも知的生命体が暮らす惑星があると知ったピッコロ大魔王の野望は、地球征服から宇宙征服へとパワーアップしていた。
「フッ、まあそう落ち込む必要はない。今のお前でも、ゲロの人造人間以外は片手で捻る事が出来るだろう。ゲロの人造人間は無理だが」
そう語るコーチンだが、実はそれらの知識は彼を裏で操っている歴史改変者ドミグラによって刷り込まれたものだ。戦闘力(パワー)の計測機器や、ウィローやゲロ達の当時の数値も、アジトに張り巡らせているパワー(気)を外から感知できないようにする妨害装置も全て、ドミグラの入れ知恵によるものだ。
しかし、コーチンはそれらをすべて自分の天才的な頭脳によるものだと思い込み、怪しいとは欠片も考えていない。彼もまた、傲慢な人物であった。
なお、ドミグラはコーチンにフリーザに関する知識までは魔術で刷り込まなかったので、ピッコロ大魔王も宇宙の悪の帝王については知らない。
「ピッコロ大魔王。これからお前により高度な改造手術を施し、お前のパワーを今の更に十倍……いや、二十倍以上にしなければならん。
だが、その前に実験台として働く魔族を何人か産んでもらうぞ」
「実験台だと?」
「そうとも、これ以上の施術は儂にとっても未知の領域。貴様で試すわけにはいかない以上、貴様と似た体質の実験台が欲しい」
「いいだろう。何匹か、貴様に儂の子を預けるとしよう。その代わり、此方にも条件がある」
「なんだ?」
「新しいゲームと、映画のビデオだ。まだまだかかるのだろう? 退屈しのぎは必要だからな」
「ふぇ~ふぇっふぇっふぇっふぇ! その程度ならお安い御用だ! そうだ、ついでに儂とドクター・ウィローの出会いと、ともに愚かな人類を支配する野望の道に進むに至った経緯を詳しく――」
「そ、それはまたの機会にするとしよう」
『素晴らしい試合ばかりだった天下一武道会も、本日が最終日。本日、天下一の強者が誰なのか。皆さまの前で明らかになります!
ですが、まずは三位決定戦! 桃白白選手対孫悟飯選手の対戦です!』
アナウンサーの声に応えて、桃白白と孫悟飯が入場する。
「さて、昨日はだいぶ無理をしたようじゃが、大丈夫か?」
「心配は無用だ。一晩休めば十分回復する。お前の方こそどうだ?」
「ほっほっほ。なあに、まだまだ若いもんには負けんわい」
そう言い合いながら構えをとる二人。
「それでは、試合開始です!」
そして試合開始と同時にぶつかり合った。
「なるほど、たしかに昨日の疲れはもうないようだな!」
「お主こそな!」
師は違えど共に達人同士、拳や蹴りの応酬の中にも隙あらば相手の関節を決め、もしくは体勢を崩して投げ飛ばそうとする高度な技巧が見られる。
二人の戦闘力は桃白白が7450、孫悟飯が7500と差は殆どない。一瞬の隙が命取りとなる互角の戦いが展開される。
「太陽拳!」
「甘いっ!」
その隙を作るために太陽拳を放った桃白白だが、悟飯は閃光に怯むどころか躊躇いなく目を閉じると彼の腕をとり、足を払って投げ飛ばした。
「波ーっ!」
そして、気功波で追撃を仕掛ける。いくら舞空術で空が飛べると言っても、体勢を崩された状態で思うように動けはしない。
「くっ、波っ!」
しかし、桃白白は空中に気功波を放った。狙いは悟飯でも自分に迫る気功波でもない。気功波を撃ったその反動で悟飯の気功波から逃げる事だ。
そして狙い通り悟飯の気功波の軌道から逃げる事に成功するが、悟飯は素早く手を動かす。
「しまった!?」
なんと気功波の軌道が曲がり、回避したはずの桃白白に命中してしまったのだ。
「くっ、昨日の試合でお前がかめはめ波の軌道を操っていた事を忘れていた。昨日に続いて私の一張羅が台無しだな」
しかし、すぐに煙から出てきた桃白白には大きなダメージを受けた様子は見られない。
「昨日の事をもう忘れるとは歳か、桃白白?」
「フンッ、抜かせ」
目を閉じたままの孫悟飯にも、驚いた様子はない。お互いにこれまでの攻防は小手調べに過ぎなかったと言わんばかりだ。
「気で大まかな位置を探っているだけなら……これはどうだ! 四妖拳!」
「むうっ!」
昨日と同じように上着を脱ぎ捨てた桃白白は、四妖拳で腕を四本に増やして再び悟飯に接近戦を挑む。しかし、今回は明らかに悟飯が焦った様子を見せた。
太陽拳の閃光を間近で浴びた悟飯は、効かない視覚を自ら封じて気の感知に集中する事で、桃白白の位置を特定している。しかし、それで桃白白の細かい挙動……手足がどう動いているのかまで察知できるわけではない。
悟飯が桃白白の細かい挙動まで読めるのは、彼が拳法家として積み上げた莫大な経験により、細かい気配の変化で手足の動きまで予想する事が出来るからだ。
しかし、悟飯も四本腕の相手と戦った経験は二本腕の相手と戦った経験の何千分の一ほどしかない。
「プラズマブースト! くらえ!」
そのため桃白白の動きを読み切れず、身体能力を倍増させた彼が放ったマシンガンから放たれる銃弾のような鋭い突きの半分以上をその身で受けてしまった。
「どどん波!」
その桃白白の攻勢を止めたのは、悟飯が足の指から放ったどどん波だった。
「っ!」
下から顎を狙うような軌道で放たれたどどん波を、桃白白が上半身を逸らす事で回避した時には、悟飯は既に後ろに下がって距離をとっていた。
しかし、プラズマブーストで倍増した脚力ならすぐゼロにできる距離でしかない。かめはめ波ではために時間がかかるので間に合わない。どどん波では気を収束しすぎているので、殺すつもりで撃たなければ桃白白は止められない。
勝った。そう確信した桃白白に向けて、悟飯は片手の平を突き出した。
「ライオットジャベリン!」
彼が放ったのは、かめはめ波より早く、どどん波より破壊力を及ぼす範囲が広い、義理の娘のギネの夫の技だった。
「ぐ、ぐおおおわぁぁぁ!?」
桃白白は正面からライオットジャベリンを受け、その場に留まる事が出来ず場外まで吹き飛ばされてしまった。
『桃白白選手、場外! 今年の天下一武道会、三位は孫悟飯選手! 四位は桃白白選手に決定しました!』
アナウンサーの判定を聞き、孫悟飯はがっくりと膝を突いた。
「そんな様子では、どちらが勝ったか分からんな」
場外負けになった桃白白がそう言いながら悟飯に歩み寄る。彼もやせ我慢しているのだが、歩ける分悟飯より消耗は少ない。
「まあな。最後のライオットジャベリンが外れていたら、儂の負けじゃったろうな」
「それは惜しかったな。しかし、いつの間にあの技を覚えた?」
「なあに。ギネさんとは一つ屋根の下で暮らしておるんじゃ。手取り足取り技を教えてもらえば、覚えられんことはないわい」
「……彼女の夫が帰ってきたら、命はないかもしれんぞ」
「ほっほっほ、如何わしい事はしておらんから大丈夫じゃろう。多分」
敗者の桃白白が勝者の孫悟飯に肩を貸して退場していく姿に、観客達は「勝負が終われば、そこにいるのは敵ではなくともに武の道を歩む者同士。遺恨は持ち越さないのだな」と清々しい気分になっていたのだが……二人が話している内容を聞いたら、苦笑いを浮かべたかもしれない。
〇ピッコロ大魔王
コーチンの改造手術によって、戦闘力が230から2万3千に脅威のパワーアップ。サイヤ人襲来編の原作ベジータを超え、ナメック星編の変身していないザーボンと互角にまでパワーアップした。
この作品でもゲロと4号から10号の人造人間以外の地球にいるキャラクター(大猿化しなければ)には勝てる。しかし、人造人間のキャラクターには勝てない。
また、まだウィローよりも弱いのでコーチンに諫められ、さらならぬ改造手術を受ける事になった。
最近の主な愉しみ:ホラー映画で人間共の恐怖に歪んだ顔や叫び声を観賞する事。演技だと分かっていても、無聊の慰めになる。地球を支配したら、気に入った俳優や女優を真っ先に殺して本物の恐怖と絶望を楽しむか、後に取っておくべきかちょっと悩んでいる。
主なゲームの対戦相手:コーチン。落ちもの系パズルゲームだとほぼ勝てない。
最近の悩み:コーチンがことあるごとにドクター・ウィローのエピソードを聞かせて来る事。おかげで何故かパワーアップするのと比例してウィローに関する知識が増えていく事。
〇コーチン
ピッコロ大魔王の戦闘力を百倍にした天才科学者。今後はピッコロ大魔王が生み出した魔族を実験台にして研究を続ける予定。
ドミグラの魔術によってさまざまな知識や技術が刷り込まれているが、自分の知識が他者によって刷り込まれた者である事について、全く気が付いていない。
また、戦闘力2万3千のピッコロ大魔王について、「ゲロと人造人間以外なら軽く捻れる」と評価したのは、彼が武道家や戦士ではなく科学者だからであり、実際にピッコロ大魔王が桃白白やターレス、タイツ、亀仙人や鶴仙人等と戦えば、油断した隙を突かれたり、四身の拳や排球弾、巨大化やスピリットブースト、瞬間移動等を活用した搦手に大いに苦しめられる可能性が高い。
〇孫悟飯
ギネから手取り足取り、ライオットジャベリンを教わり習得した。もちろん、如何わしい事をしたわけではない。
準決勝のサンとの試合で使わなかったのは、使う間と局面が無かったから。
酒井悠人様、どてら様、佐藤東沙様、kubiwatuki様、泡銭様、みそかつ様、gsころりん様、誤字報告ありがとうございます。早速修正しました。