ドクターゲロに転生したので妻を最強の人造人間にする 作:デンスケ(土気色堂)
ピラフ大王一味から二つ目のドラゴンボールを手に入れた悟空達は、次のドラゴンボールを求めて出発した。途中腹が減ったため狩りを行い、その後通りがかった砂漠のオアシスで水浴びをして一夜を明かした。
アニメ版だと、恐らくこのオアシスで悟空は砂漠で盗みを働く浮浪児に衣服や持ち物を盗まれ、それらを取り返すために足止めを受ける事になる。しかし、この歴史だとその浮浪児が孤児院に保護されていたため何事も起きなかったのだった。
一方、悟空達がオアシスで汗を流している頃、シルバー大佐はドラゴンボール探しの任務に取り組んでいた。
「まさか俺達レッドリボン軍をペテンにかけようとする奴がいるとはな」
しかし、残念なことに空振りだった。フラッペが開発したドラゴンレーダーの反応と、ドラゴンボールを売っている店があるという噂を頼りにある商店にたどり着いたシルバー大佐だったが、店の店主が愛想笑いを浮かべながら出してきたのは、真っ赤な偽物。色と星印だけ真似た、ガラス玉だったのだ。
その後店内と周りを徹底的に調べたが、ドラゴンボールは発見出来なかった。おそらく、鳥か何かが足につかんで飛んで行ったのだろうと推測された。
「それで、その店主はどうしたの? まさかそのままにしてきたわけじゃないでしょうね」
共同して任務にあたるバイオレット大佐に尋ねられたシルバー大佐は、ため息を吐いた。
「まさか殺すわけにはいかないからな。一発殴り飛ばした後、次舐めた真似をしたら命はないと脅しておいた。これで懲りるだろうよ」
原作アニメでは偽物を出した店主を殺害(その場面は描写されなかったが、銃声と悲鳴が響いた)したシルバー大佐だったが、この歴史のレッドリボン軍が変わったように、彼の価値観や言動も変わっていた。
とはいえ殺すよりはずっとマシだが、殴って脅すのも犯罪と言えば犯罪である。しかし、詐欺を仕掛けてきたのは店主の方なので、シルバー大佐としてはお互い様にして水に流してやった、と考えている。
バイオレット大佐も、「ならいいか」とそれ以上店主の事を話題にする事はなかった。
「それより聞いた? 消えていたドラゴンボールの反応が突然現れて、もう一つの反応と一緒に高速で移動してここに向かっているらしいって報告が基地から来たわ」
「……奴らもドラゴンボールを集め出したって事か」
奴等とは、当然GCコーポレーションの関係者の事だ。もしかしたらと予想はしていたが、強力なライバルの登場にシルバーは顔をしかめた。
「レッド総帥の目的には、最低一つのドラゴンボールが必要で、既にブラウンが一つ発見した。だが、出来れば後二つは欲しいという話だったな」
「そりゃあね。複数確保して、奪われる可能性を下げたいのは当然よ」
複数のドラゴンボールを確保していれば、ボールを別々の場所に保管して強引に奪取される事を防ぐことができるし、もし一つ奪われても取り返しが効く。
それに、地球国政府と交渉する時にボールを数多く確保しておいた方がプレッシャーをかけられる。
しかし、未発見のドラゴンボールはまだ四つ残っている。そのうち半分が手に入れば、レッドリボン軍としては目論見通り事を運ぶことができる。
シルバー大佐達がドラゴンボールを見つけられず、孫悟空に先を越されてもホワイト将軍やブルー将軍、イエロー大佐がドラゴンボールを手に入れれば問題ない。
「なんとしても手に入れるぞ」
「もちろん」
しかし、シルバーとバイオレットにもレッドリボン軍の大佐であるプライドがある。二人はなんとしてもドラゴンボールを手に入れて帰還する決意をしていた。
次の日、何事もなく一夜を明かした悟空達は一番近いドラゴンボールの反応を求めて、ある山間の緩い谷に来ていた。
「なんだ? 人が大勢集まってなんかしてるぞ? 山菜か茸狩りか?」
「山で誰か遭難でもしたんじゃないか?」
上空から大勢の男達がドラゴンボールを探しているのを眺めて、そう困惑する悟空とクリリン。
「いや、あいつら全員ただ者じゃない。気が一般人よりずっと大きい。それに、覚えのある大きな気が二つある。
気をつけた方が良いかもしれない。プーアル、ジェットモモンガに乗って離れていてくれ」
「分かりました、ヤムチャ様!」
そう言ってジェットモモンガから飛び降りるヤムチャを追い、気を引き締めた悟空とクリリンも筋斗雲を飛び降りる。
「なんだ!?」
「大佐っ! 上から妙な男とガキが降ってきました!」
地面にスタっと降り立ったヤムチャ達に驚いた男達……レッドリボン軍の兵士が捜索の手を止めて身構える。
「やっぱり物騒だな。悟空、さっさとお暇しようぜ」
「ああ、ええっとボールは……」
悟空がレーダーを操作してドラゴンボールを探している間、油断なく周囲を警戒するヤムチャとクリリン。彼らを見ている兵士の一人が、ハッとして声をあげた。
「こいつら……ボンゴ大尉やパスタ大尉を退けた、ヤムチャと孫悟空だ!」
「なんだと!? じゃあ、もう一人のガキは!?」
「それは知らん!」
要注意人物として情報が共有されていたため、兵士達はヤムチャや悟空の顔を知っていた。
「こいつら、あいつらがいる組織の連中か。ドラゴンボールを集めて、また何か企んでいるんじゃないだろうな?」
「ちょっとっ! 俺の事は何で知らないんだよ!?」
「あいつらか~。また戦ってみてぇな。去年は、それどころじゃなかったし、すぐ帰っちまったもんな。っと、あった!」
呑気な声を出しながら悟空が茂みに手を突っ込み、ドラゴンボールを手に入れる。四星球ではなかった事にやや落胆しつつも、懐にボールを入れた。
「奴らが来たというのは本当か!?」
「あっ、ドラゴンボール!」
そこにシルバー大佐とバイオレット大佐が駆けつけてきた。
「あの二人は、確かジンとスミレ!」
「知り合いか?」
「天下一武道会の予選で、惜しいところまで行った人達だよ」
「その節はどうも。でも、本名はバイオレットよ」
「シルバーだ。レッドリボン軍の大佐だ」
「レッドリボン軍……ボンゴとパスタが身を寄せたのはあのレッドリボン軍だったのか。っと、言う事はブルーって奴も大佐か何かなのか?」
「ブルーは将軍だ」
ヤムチャの質問に、もう隠すまでもないだろうとシルバー大佐は彼の身分を明かした。
「なあ、レッドリボン軍ってなんだ?」
「ええっと、確かこの前見たテレビで、世界で最も強力な傭兵団って言われている奴等だ。辺境に縄張りを持ってて、実質的に支配してるって」
原作では「世界一危険な軍隊」と評されていたレッドリボン軍だが、この歴史では辺境の町や村を縄張りとする代わりに魔族等の脅威から住民を守っている事が知られており、また原作と比べて素行が格段に良くなっているため、世間的な評判も悪いものばかりではなかった。
……もちろん、世界一の金持ちであるギョーサン・マネーがレッドリボン軍のスポンサーになっているため、忖度している部分もあるだろうが。
「よくわからねぇけど、悪い奴等じゃねぇんだな。ブルーの仲間なんだろ?」
「な、なんでそうなる?」
「そりゃあ、地球を守るためにオラ達と戦ってくれたしよ」
「おいおい……」
悟空の高評価とその理由に、シルバー大佐は思わず苦笑いを浮かべた。必要もなく悪ぶるつもりはないが、自分の事を善人だと考えた事はない彼にとって、悟空の人の好さはむず痒いものだった。
「要求する。そのドラゴンボールを渡してくれないか。こっちが探している所にいきなりやってきて、横から掻っ攫われたんじゃ、俺達も立つ瀬がないんでな」
しかし、和んで世間話をしている場合ではないと、むず痒さを忘れて悟空の懐を指さす。
「ドラゴンボールを集めて何を願うつもりだ?」
「やっぱり世界征服とかか? だったら、魔神城では助けられたけど、ドラゴンボールは渡せないぞ!」
一方、悟空があまりのお人良しさに「俺達がしっかりしなくちゃ」と意識を引き締めたヤムチャとクリリンが前に出る。
「そっちこそ、ドラゴンボールを集めてどうするつもり? 金でも永遠の若さでも不自由はしないはずでしょう?」
二人の質問に答えず、バイオレット大佐が聞き返す。レッドリボン軍の目的は、ドラゴンボールを材料に地球国政府と交渉し、地球国の軍事を牛耳る事。そして機を見てクーデターを起こし、電撃作戦で地球国国王の座を簒奪する事にある。
だから、ドラゴンボールに願う訳ではない。しかし、クーデターとは基本的に悪い事だ。武力を以って政権を奪取するのだから。
それに、事がなる前に目的を悟空達に明かしてGCコーポレーションや正義のヒーローである桃白白、そして地球国政府に情報が伝わったら、全力で阻止しようとするかもしれないという考えもあった。
最終的にクーデターで王位を簒奪する事を企んでいるので、「それを知れば阻止しようとして当然」というのがレッドリボン軍の共通認識だった。
「……身長を伸ばしたいなら、うちの科学者に口をきいてやってもいいけど」
「えっ? 本当に伸びるの?」
誤魔化そうとつい口にしたバイオレット大佐の言葉に、思わずと言った様子で食いつくクリリン。
「クリリン、身長ならこれから伸びるから気にするなって」
「ヤムチャさん、だって俺、去年からあんまり伸びてないんですよ。周りにいたのが悟空とサタン先輩だから気が付かなかったけど」
「なあ、難しい話は止めて戦わねぇか? 勝った方がドラゴンボールを持って行くって事でさ」
情けない声を出すクリリンに構わず、悟空がドラゴンボールの争奪戦を提案した。おそらく、このまま話していてもらちが明かないと思ったのだろう。
また、自分達を囲んで武器を構えているレッドリボン軍の様子から、戦っても構わない相手だと判断したのかもしれない。
「っ!」
だが、当然だが悟空の提案を聞いた兵士達の顔は青くなった。遭遇しても戦うなと命令されていたし、彼らの超人的な強さを知っているからだ。
「良いだろう」
しかし、兵士達にそう命令していたはずのシルバー大佐が頷いた。バイオレット大佐が驚いて振り返るが、彼はこう続けた。
「だが、ドラゴンボールを賭けて戦うというのは、俺達にとって都合が良すぎる。俺達はボールを一つも持っていない以上、勝てば丸儲けだが負けても失うものはないというのはいただけない」
「そっか? オラ、別に構わねぇけど」
「俺達が構うのさ。だから、俺達が負けたらせめて晩飯を奢らせてくれ。豪華フルコースって訳にはいかないが、量は出せる」
シルバーの狙いは、悟空が提案した争奪戦の商品として食事を提供し、彼らの足を僅かでも止める事だった。
「晩飯って、まだ昼前だぞ」
「確かにそうだが、お前らが大食いなのは有名だ。今から昼飯を用意したんじゃ間に合わんし、まさか缶詰やカップ麺を渡すだけじゃ申し訳ないからな」
勝てばドラゴンボールが三つ手に入り、負けても一晩悟空達の足を止める事が出来る。一日程度の足止めにどれほど効果があるのかシルバー大佐にも分からないが、素通しするよりはずっとマシだ。
「よ~し! オラ、やる気出て来たぞ!」
「あ~あ、すっかり飯につられちゃって。どうします、ヤムチャさん?」
「まあ、向こうの顔を立てるとしよう」
飯につられている悟空はともかく、クリリンとヤムチャはシルバー大佐の狙いを大体察していた。しかし、彼らの提案を拒絶する動機が二人には薄かった。
彼らの目的が四星球探しである事や自分達の方が強い事もあるが、シルバー大佐達レッドリボン軍を悪人だと認識していないというのが最も大きな理由だ。
この人達も仕事でドラゴンボールを探していたようだし、ボールを譲る事は出来ないから少しくらい顔を立ててやろうと思ったのである。
「殺しは無し。俺達は武器を使わないが、お前達は武器を使っても構わない」
「いいの? ハンデのつもりならありがたく貰っておくけど。まあ、兵達にはそんな大層な武器は持たせていないんだけど」
「ああ、天下一武道会と同じルールで戦ってもつまらないからな」
自信満々に応じるヤムチャに、彼を止めない悟空とクリリン。だが、それを油断だと言えない程の実力の差が、彼らとバイオレット大佐達にはある。
とはいえ、ヤムチャは内心ではバイオレットが服を脱がないか警戒していた。
(この女の相手は悟空にしてもらって、俺はシルバーを……いやっ! そんな事でどうする! 逃げたら永遠に上がり症は克服できないぞ!)
なお、条件に「色仕掛け禁止」を含めなかったのは、態々口にすると逆に期待しているように見えるのではないかと思ったためである。
バイオレット大佐も、(念のために服の下に水着を着てくればよかった)と思っているため、ある意味お互い様かもしれない。
「なら……行くぞ!」
シルバー大佐が不意打ち気味にそう宣言すると、バイオレット大佐や兵士の一人がホイポイカプセルを取り出して放り投げた。
彼女達がカプセルから戻したものを使うまでの時間を稼ぐためか、それ以外の兵士達が悟空達に雄叫びをあげながら襲い掛かる。
「おっちゃん達武器は使わねぇのか?」
「使ってんだろうが! このナイフが見えねぇのか!?」
悟空は銃を放り捨て、軍用ナイフで切りかかってくる兵士達をあしらいながら不思議そうに尋ねた。
「どうせ銃弾が当たってもお前らには豆鉄砲みたいなもんだろ? だったら、持ってるだけ邪魔ってもんだ!」
「それに、流れ弾で俺達だけ怪我をしたら馬鹿みたいだからな!」
彼らを鍛えたボンゴですら、パワードガンの銃弾を受けても平気な顔をしている。なら、ボンゴ以上に強いはずの悟空達を普通の銃で倒せるはずが無い。なら、少しでも身軽になってナイフで切りかかった方がマシだ。
「そっか。ありがとな、おっちゃん達!」
「「ぐへっ!?」
彼らの答えに納得した悟空は、顔面目掛けて突き出されたナイフの刃を手刀で切断し、兵士達の腹に軽く拳を当てて失神させた。
「特殊合金製の軍用ナイフを折った!?」
兵士に支給されている軍用ナイフは、ボンゴがかつてグルメス王国軍時代に振るっていた金属棒と同じ材質で作られている。兵士達は驚いたが、二年前に如意棒でその金属棒を叩き折った悟空なら素手で同じ事が出来て当たり前だ。
「あんた達、天下一武道会の予選で当たっただいたいの選手より強いが、俺達には敵わないぜ!」
そうクリリンが言いながら一人二人と兵士達を倒していく。その横では、ヤムチャも次々に兵士達を倒していた。
レッドリボン軍の兵士達は、悟空達が約二年前に相手をしたグルメス王国軍の兵士より確実に強かった。亀仙人に弟子入りする前のクリリンやヤムチャだったら、手も足も出なかっただろう。
「そいつはありがとよ!」
彼等の強さは、戦闘力に換算するとだいたいが10、そして時々11や12がいるという程度だ。当然、悟空達はもちろんクリリンにもかなわない。
「だが、お前も予選落ちだろうが! がはっ!?」
「うるせぇやいっ! 俺だって同じ予選グループに悟空とパンプットがいなけりゃ本戦に出場できたんだ!」
痛いところを突かれたクリリンが、兵士の一人を殴り飛ばす。
しかし、兵士達の奮闘も無意味ではなかった。
「バトルモード起動良し! 行けっ、ロボット!」
兵士の一人がホイポイカプセルから戻したロボットの起動を終え、クリリンを倒すよう命令したからだ。
『たーげっとヲ排除!』
「うわっ、こんなのありか!?」
上半身は人型だが、下半身がキャタピラになっているロボットに突進され、クリリンが驚きながら飛び跳ねて避ける。
「へへっ、うちの科学者が開発した作業用ロボットだ!」
「文句を言うなら武器の使用を許可した兄弟子に言うんだな!」
その兄弟子、ヤムチャもついに直接前に出てきたバイオレット大佐を相手取る事になり、危機を迎えて――。
『レッドリボン軍が開発した、このパワードスーツの性能を見せてやる!』
「望むところだぜ!」
いなかった。何故なら、バイオレット大佐がホイポイカプセルから取り出し、装着したのは全身を覆うパワードスーツだったからだ。
機能的なデザインのメタリックなパワードスーツ姿のバイオレット大佐の肌色面積は、ゼロ。これならヤムチャのあがり症が出る余地はない。
脱ぐどころか着たバイオレット大佐だが、ヤムチャ達と行っているのが殺し合いだったら、そしてレッドリボン軍の掟が原作通り『失敗には死を』だったら、プライドをかなぐり捨てて色仕掛けを仕掛けただろう。
『くっ、舐めるんじゃない! このパワードスーツは、私の力を倍以上に高めてくれる!』
しかし、パワードスーツはバイオレット大佐が言った通りの性能を発揮した。センサーがヤムチャの動きを捉え、内蔵されたモーターの補助を受けた拳を繰り出す。
バイオレット大佐の気は戦闘力90相当のままだが、速さと力は倍の180相当になっていた。
「確かに早くなった。昨日のロボットより強いと思うぜ、だが……それでも勝つのは俺だ!」
『っ!?』
しかし、戦闘力908のヤムチャが少し本気を出すと途端にパワードスーツのセンサーは彼の姿を見失い、慌てて突き出した拳は空を切り、逆にヤムチャの拳はパワードスーツの装甲にめり込む。
「俺だってっ、こんなロボットに負けて堪るか!」
一方、クリリンもロボットの大振りな攻撃を避け、機を狙っていた。彼が相手をしているロボットは、実は土木作業用に開発されたもので、バトルモードの戦闘用プログラムはオマケで搭載されたものでしかない。
そのため動きは鈍く、相手が戦車や装甲車ならともかく俊敏なクリリンを相手取るには不十分だった。
しかし、土木作業用のロボットの耐久力はすさまじく、クリリンが何度か攻撃を当ててもなかなか壊れない。
「あっ、そう言えばあんたを倒せばいいんじゃないか」
「やべっ!? 気が付かれた!」
はっと気が付いたクリリンはロボットを起動した兵士に素早く駆けよって、彼の意識を一撃で刈り取った。そして、その手に持っていた小さなリモコンを手に取り、「止まれ!」と叫ぶ。
『停止シマス』
音声入力式だったロボットは、ぴたりと停止した。
「おめぇは武器は使わねぇのか?」
「使ってるぜ!」
一方、シルバー大佐は悟空にボクシングスタイルで挑んでいた。素早いフットワークで変幻自在のパンチを繰り出す彼の戦い方は、悟空にとって興味深いものだった。
「そっか? じゃあ、今度はオラの番だ!」
しかし、戦い方が面白くても戦闘力100のシルバーの拳を掻い潜る事は、戦闘力800以上でしかもシルバーよりもずっと小柄な悟空にとって難しくはなかった。
懐に入った悟空は、拳をシルバーの腹に叩き込む。しかし、帰ってきたのはまるでゴムの塊を殴ったような手応え。
「ふんっ!」
そしてシルバー大佐は後ろに吹っ飛ぶ事も、腹を抱えてうずくまる事もなく、悟空のこめかみを抉るようにフックを放った。
「いってーっ!? なんでオラの拳が効かねぇんだ!?」
「ぐっ!? お前の頭と首は何で出来てるんだ!?」
そしてお互いに驚いて叫び合う悟空とシルバー大佐。
「おっ? おめぇ、服の下に着てるのってなんだ? そういや、戦闘服って奴を着た母ちゃんと稽古した時の手応えとおめぇを殴った時の手応えが似てる気がすっぞ」
そして、悟空は自分が殴ったシルバー大佐の服が一部破れて、そこから妙なスーツが覗いているのに気が付いた。
「ばれたか。GCコーポレーションが開発したボディーアーマーを、うちの科学者が再現したものだ。作るのに金がかかるから、まだ少ししか作れないがな」
シルバー大佐が使っている武器とは、フラッペ(ゲロ)が開発した事になっているGCコーポレーション製のボディーアーマーだった。
それを軍服の下に着こんでいたため、悟空の拳にも耐える事が出来たのだ。……なお、「作るのに金がかかる」というのはフラッペ(ゲロ)が語っている擬装情報である。
「そっか。でも、だったら……でやーっ!」
自分の拳が効かなかった仕掛けを知った悟空は、今度は先ほどを上回るスピードでシルバー大佐に接近すると、彼の胴体に連続で拳を叩き込み始めた。
「き、貴様の拳は効かないと――!」
「だだだだだだーっ!」
ボディーアーマーに拳を叩き込むたびに、悟空は拳に込める力を徐々に上げていく。そして五発目でシルバー大佐から短いうめき声が漏れ、六発目で後退り、七発目と八発目で後ろに吹っ飛んで地面に転がった。
彼が着ているボディーアーマーは、悟空が戦闘力100前後の相手を殺さず行動不能にするために手加減して放った拳を受け止めるには、十分な防御力があった。
しかし、悟空が手加減の度合いを軽くすれば、衝撃を吸収しきれなくなる程度の性能しかなかったのである。
「ぐはっ! こ、ここまでか……」
仰向けに倒れたシルバー大佐が周囲の状況を見回すと、半分以上の兵士は倒れ、ロボットはコントロールをクリリンに奪われた。バイオレット大佐はまだ戦っているが、勝ち目があるようには見えない。
後は、せいぜい腹にたまる晩飯を用意して少しでも長く足止めするしかない。
「んっ?」
そう諦めたシルバー大佐の視界に、何かが映った。それは彼がそれ以上反応する事を許さず、顔に張り付いた。
「んんっ!? ぐ、ぐおぉぉぉっ!?」
その何か……仮面はシルバー大佐の顔に張り付くと、禍々しい力を彼に流し込む。溢れる破壊衝動と力に、シルバー大佐の意識は飲み込まれてしまった。
「な、なんだ!?」
仮面のレッドリボン軍大佐となり、それまでとはレベルの違う、しかし禍々しい気を発するシルバーに驚く悟空。シルバー大佐は悟空に構わず、まだ戦い続けているバイオレット大佐と停止しているロボットに左右の掌を向けた。
『……!』
そして、掌から自身を覆う黒い気……キリを打ち出した。
『何っ!? パワードスーツが勝手に!?』
『再起動! 全ノたーげっとヲ、破壊!』
キリが当たった途端、バイオレット大佐のパワードスーツとロボットをキリが包み込み、本来の性能を超える力と、無かったはずの破壊への意志を与える。
「うわぁっ!? 止まれっ! 止まれって! 壊れたのか!?」
「違う! これは……二年前のグルメス王国の時と同じだ!」
リモコンの指示を聞かずに暴走しだしたロボットから、近くで倒れていた兵士を担ぎ上げて慌てて逃げるクリリン。彼に、ヤムチャは約二年前のグルメス王国の事件で、ボンゴやパスタが突然強くなった時と同じだと叫んだ。
終わったと思われたレッドリボン軍との戦いは、歴史改変者との戦いへと移り変わったのだった。
キリの反応を感知したこの儂、ドクター・ゲロは瞬間移動で戦闘からやや離れたところにいるプーアルの元に、瞬間移動で飛んだ。
「早くヤムチャ様達を助けてください!」
「まあ待て。スカウターの反応によると、そこまで深刻な事態ではない。強化の具合も、彼等ならギリギリ勝てるだろう」
クリリンは少し危ないが、旅立つ前に仙豆もいくつか預けてある。何とかなるだろう。
「そうなんですか? さすがヤムチャ様に悟空さん! でもクリリンさんがちょっと心配ですね。仙豆も全部僕が預かってますから」
しまった。クリリン達の手元に仙豆が無かった。
「ふ~む、では光学迷彩装置と反重力装置の予備、それにブリーフ特製の戦闘服を貸そう。これを着て助けに行ってくると良いじゃろう」
ホイポイカプセルから次々に装備を出してプーアルに押し付ける儂。……気弾の流れ弾の余波で死にかねないので、仙豆を渡しに行くならこれぐらいの装備は必要だ。
悟空達には今度、戦闘中に失くしてもいいから最低一つは身に着けておけと言っておこう。仙豆を保持しておくポケット付きの絶対に破れないインナーや道着の帯の開発を、ブリーフと相談するべきか。
「ありがとうございます! でも、この戦闘服ってボクじゃ着られないような……」
「すまんが変化して体形を戦闘服に合わせてくれ。次までにはプーアル用戦闘服を作っておこう」
「分かりました! 変化!」
すると、目の前に儂がいたからか、儂に変化して戦闘服を着て「行ってきます!」と光学迷彩で姿を消し、反重力装置で飛んでいくプーアル。
彼に着せた戦闘服は、儂(フラッペ)がシルバー大佐に渡したアーマーとは比べ物にならない程高性能なため、万が一流れ弾が当たっても大丈夫なはずだ。
「本格的にまずそうなら、援軍を呼ぶか」
苦難は若者を強くするが、それで若者が死んでは意味がない。
さて、儂は歴史改変者が何処にいるのか探り、それがトワ達ならバーダック奪還のために動くつもりだったのだが……おかしい事に、スカウターが歴史改変者の位置を感知しない。
「はて? 結界を張っているのなら、その結界の位置を感知できるはずだが……?」
よほど遠くにいるのかと思い、感知範囲を広げるがそんな様子はない。
まさか、気を消した状態でただ物陰に隠れているのか? たしかにキリも魔術も使わずに隠れているだけなら、儂のスカウターでも感知できない。しかし、歴史改変者が歴史改変を行うのはキリを集める為だ。
現在進行形で行われている歴史改変によって発生するキリを集めているなら、それを計測できるはず。それも無いという事は……。
「歴史改変者が歴史改変を起こしたのに、キリを集めていない? そんな事をする意味があるのか?」
『ゲロ、ちょっといい!?』
眉間に皴を刻む儂に、時の界王神クロノアの声が響く。ここへ瞬間移動する際に連絡していたので、彼女達もすでに動き出している。
『そっちで歴史改変が起きたのは把握したけど、歴史改変者が何処にいるか分からないの。そっちで見つけていない?』
「それが、残念ながら全く。むしろ、そちらで何か分からないかなと期待していたぐらいでして」
『そう……じゃあ、少し過去に遡って詳しく調べてみるわ』
「よろしくお願いします」
儂はそう返しながらも、引き続き周囲の気を探り、キリや魔力の反応をスカウターで探し続けたが、一向に成果は出なかったのだった。
〇レッドリボン軍兵士(シルバー大佐隊とバイオレット大佐隊
主にパスタによって鍛え上げられた兵士達。気の制御や感知は当然できないが、常識的な範囲での超人。戦闘力は多くが10で、何人かが11や12。原作開始当時の悟空と互角か、やや上回る程度の実力。小口径の銃より、拳の方が威力がある。
また、全員が特殊合金製の軍用ナイフが支給されている。
〇ボディーアーマー
サイヤ人(フリーザ軍)が着ていた戦闘服を参考にブリーフが開発した戦闘服の、廉価版。それでもだいたいの現代兵器に耐える防御力を持つ。
対処法は関節技や締め技を使用するか、アーマーに守られていない頭部や下半身を攻撃する事。
〇土木作業用ロボット
人型の上半身とキャタピラの下半身を持つ、土木作業用ロボット。音声入力式で、高度な人工知能を搭載しているため、オペレーターに高度な技術を必要とせず、指示に従って柔軟な行動がとれる。
また、念のために戦闘用プログラムも組まれているが、戦闘用に開発されたものではない。
元々はフラッペ(ゲロ)の戦闘用ロボットの上半身のパーツと重機を、片手間にくっつけて開発した物。ドラゴンボールの捜索に役立つだろうとシルバー大佐とバイオレット大佐が貸与された。
ただ、兵士達の身体能力がだいぶ上がっていたため悟空達が来る前は使っていなかった。
戦闘力では、パワーは100相当、スピードは10ぐらい。また、防御力は装甲に特殊合金を使用しているため群を抜いて高い。
〇パワードスーツ
ピラフマシンやバトルジャケット(原作でブラック補佐が操縦した機体)のような、使用者が乗り込んで操縦するタイプのロボットではなく、装着した着用者の身体能力を増強するタイプ。
着ると身体能力がだいたい倍にする事が出来るが、装着には専用の訓練が必要。
なお、戦闘力200以上の身体能力の持ち主が装着すると、機体の性能が追い付かなくなる。
〇戦闘力推移
・シルバー大佐:100
・バイオレット大佐:90
天下一武道会予選からまだ十日も経っていないので、数値に変化なし。
ゆーゆーX様、酒井悠人様、雪栗鼠様、PY様、kubiwatuki様、佐藤東沙様、太陽のガリ茶様、中島ゆうき様、gsころりん様、みえる様、誤字報告ありがとうございます。早速修正しました。