ドクターゲロに転生したので妻を最強の人造人間にする   作:デンスケ(土気色堂)

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81話 天才科学者に目をつける暗黒魔王

 戦況は混迷を極めていた。

『……!』

「おい、おめぇ急に無口になったな。大丈夫か?」

 仮面のレッドリボン軍大佐となったシルバー大佐は、バイオレット大佐のパワードスーツやロボットに向かってキリを放った後は、無言のまま悟空に攻撃を繰り返していた。

 

「シルバーさん、どうしちまったんですか!?」

「シルバー大佐!?」

 当然、部下の声もその耳には入らない。その様子に、悟空の顔に浮かんでいた困惑が怒りに変わる。

 

「オラ、強い奴と戦うのは大好きでワクワクすっけど、歴史なんとかって奴は一発ぶん殴ってやりてぇな」

 二年前のボンゴの時よりも、明らかに誰かに操られているシルバー大佐の状態に、勝負の途中で横槍が入った事を理解した悟空は怒りを覚えていた。

 

『……!』

 そんな悟空の感想も構わず、仮面のレッドリボン軍大佐になる前と同じボクシングスタイルで拳を繰り出すシルバー大佐。その鋭さは先ほどまでとは次元が違う。

 

 悟空も下から突き上げるアッパーや上から打ち下ろされる拳や肘に対応するため、回避だけではなく防御もしなくてはならない。

「っ! 危ねぇ!」

 不意に顔面に迫った膝を両掌で受け止め、その衝撃を利用して後ろに飛んだ悟空はシルバー大佐から間合いを取った。

 

「イテテ、急に足も使うんだもんな。驚いたぞ」

 衝撃でヒリヒリと痛む両掌に、息を吹きかけて冷ます悟空。その様子を見て、周りのレッドリボン軍兵士達が沸き立った。

 

「なんだか知らないが、シルバーさんが押してるぞ!」

「もしかしたら、このまま勝てるんじゃないか!?」

「頑張れ、シルバーさん!」

 兵士達から見れば、急に仮面を被って強くなったシルバー大佐に対する困惑はあっても、敗北寸前だった状況を変えたのは喜ばしい事だった。

 

「おめぇらっ! ちょっと下がってろ!」

『……!』

 しかし、彼らはもっと警戒するべきだった。悟空との距離が開いたことで、シルバー大佐は気功波による遠距離攻撃を始めたのだ。

 

 以前は気の制御技術を持っていなかったシルバー大佐だが、仮面のレッドリボン軍大佐となった彼は自身に満ちる禍々しい気を収束し、放つことを可能としていた。

「止めろっ! かめはめ波ーっ!」

 悟空の後ろに部下がいるのも構わず気功波を放つ、シルバー大佐。だが、悟空が避けずにかめはめ波で受け止めたので、兵士達は無事だった。

 

「今のは、もしかしてあいつ、俺達を庇ったのか?」

「し、シルバーさん、俺達が分からないのか!?」

「今のあいつは正気じゃねぇ! いいからおめぇらは離れて――いてっ!?」

 事態の深刻さに気がついた兵士達に、早く逃げるよう叫ぶ悟空。しかし、その途中でぶつかり合った気功波の爆発によって生じた煙を貫くようにして間合いを詰めたシルバー大佐の拳を受け、後方に殴り飛ばされる。

 

「な、なんだか分からねぇが、今は離れるんだ!」

 自身が殴り飛ばした悟空を追っていくシルバー大佐から離れるために、兵士達は慌てて動き出した。

 

「急に強くなったな。これもパワードスーツのお陰か!?」

『そう言いたいが、そうじゃない! 皆、私から離れろ! このパワードスーツは暴走している!』

 一方、ヤムチャとバイオレット大佐の戦いは、悟空と仮面のレッドリボン軍大佐になったシルバー大佐との戦いよりは、混沌としていなかった。

 

「ですが大佐! パワードスーツをどうにかして停止させないと、大佐の身が危険です!」

『それは実感しているけど、お前達じゃ無理だ! 死にたくなかったら離れてて!』

 それはキリで強化されたのがバイオレット大佐本人ではなく、彼女が装着しているパワードスーツである事が大きい。パワードスーツが勝手にヤムチャと戦っている間も、彼女は兵士達に指示を出せたからだ。

 

「おいっ! バイオレット大佐を助けてくれ! パワードスーツの緊急停止スイッチが首の後ろにある!」

『こらっ! それは軍事機密だぞ!』

「そんな事を言ってる場合ですか!?」

 

「分かった!」

 自分に匹敵するほど強くなったパワードスーツと拳の応酬をしながら、ヤムチャはバイオレット大佐の部下に応えた。

 

「狼牙風風拳! ハイハイハイハイ! ハイィー!」

 一気に加速し、パワードスーツの拳と蹴りを弾き、体勢を崩させ、素早く背後に回り込む。そして、止めと言わんばかりに首の後ろに隠されていた緊急停止スイッチに拳を叩き込んだ。

 

『きゃぁぁぁ!?』

 しかし、パワードスーツは停止するどころか素早い動きで身を翻しながら回し蹴りを放つ。

「ぐあっ!? お、おい、緊急停止しないぞ」

 蹴りを受けたヤムチャが呻きながらそう言うが、離れたところにいる兵士達も混乱するばかりだ。

 

『め、目が回る……こ、腰が……』

 そして、バイオレット大佐はヤムチャに応えるどころではなかった。パワードスーツが本来想定されていた以上の動きをしているため、装着している彼女の方に負担がかかっているのだ。

 

 キリによって強化されていた者は、強化が解けるまで肉体的なダメージを負わないが、バイオレット大佐本人は強化されていない。性能を遥かに超えた動きをするパワードスーツの中で、吸収しきれない衝撃や振動を彼女は受け続けているのだ。

 

 パワードスーツもヤムチャの狼牙風風拳を受けているので、全くノーダメージでは無いだろうが……何せ機械なので顔色や呼吸からでは消耗の度合いが測れない。

「早めに決着をつけないと拙いな」

 ヤムチャはそう言いながら、腰に巻いていた尻尾を伸ばした。

 

「どええええっ!? うわああああ!?」

 一方、クリリンは兵士達と一緒に暴走したロボットから逃げ回っていた。

「あんた強いんだろ!? どうにかしてくれよ!」

「そう言うあんた達のロボットだろ!? お前らこそどうにかしてくれ!」

 

『排除シマス』

「「ぎゃあああああ!?」」

 自分達を狙うロボットの体当たりから、悲鳴をあげて逃げる兵士達とクリリン。

 悟空やヤムチャと違い、何故こんなに追い詰められているのか? それは、クリリンとロボットの間にそれほど大きな差はなかった。そこにロボットがキリで強化されたために、クリリンの実力を圧倒的に上回ってしまったのだ。

 

 それでもクリリンが引っ掴んで逃げたり、自分とは異なる方向に投げ飛ばしたりしているお陰で兵士達に犠牲者は出ていない。

 圧倒的な実力差がありながらクリリンが兵士達を庇いながら逃げ続けていられるのは、ロボットがどれだけキリで強化されても土木作業用であるからだ。

 

 構造的に動きが大きくて隙も多く、避けやすい。

『排除シマス』

 しかし、ロボットもそれを理解したのかクリリン達を追い掛け回すのを止めた。そして、気弾を放とうとする。

 

「うわぁ!?」

「お前らっ、早く俺から離れろ! 太陽拳!」

 もう庇うのは無理だと判断したクリリンが、一人でロボットの前に飛び出して太陽拳を放つ。

 

『ッ!? せんさーニ異常発生!』

 光学センサーがホワイトアウトし、クリリンを見失って気弾を放つのを止め防御を固めるロボット。キリで強化された事で、本来できないどころかないはずの気の制御が可能になったが、感知能力までは備わらなかったようだ。

 

 上手くいってほっと胸を撫でおろしたクリリンだが、気を探って悟空とヤムチャがまだ戦っている事に気が付くと「ヤバイな」と冷や汗をかいた。

「クリリンさん」

 その時、不意にプーアルの声が聞こえてハッとした。

 

「プーアルっ!? 何処にいるんだ!?」

「すぐ近くです。会長さんから貸してもらった光学迷彩装置で姿を消しています。仙豆を持ってきました」

「そっか。仙豆はプーアルが持ってるんだったな。でも、今仙豆を貰ってもなぁ」

 

 現状、クリリンはそんなに疲労していない。一発でも当たったら戦闘不能になる相手と戦い続けているため、まだ無傷だ。

 そして、死んでいなければ完全復活可能な仙豆でも食べて強くなれるわけでは無い。

 

「仙豆があってもダメ……そうだ! クリリンさん、あいつをしばらくじっとさせる事は出来ますか?」

「え? ああ、それぐらいならって、もしかして去年ウーロンがやったあれか!?」

「はいっ! ウーロンの真似をします!」

 

 ウーロンの真似とは、去年魔神城でウーロンが行った、太陽破壊砲の上空でカッチン鋼に変化し、その重さで太陽破壊砲の足場を崩壊させて使用不可能にするという戦法である。

 しかも、プーアルはウーロンと違い見た目や重さだけではなく、硬さや鋭さも変化する対象と同じにできる。

 

「よし! 囮は任せろ!」

クリリンはそう言うと、光学センサーが回復したロボットに向かってあっかんべーをして見せた。

「バーカ、間抜け~。悔しかったら当ててみろ~」

『……たーげっとヲ確認』

 キリで強化されたロボットに苛立ちや怒りがあるのかは不明だが、心なしか合成音声が震えていたように聞こえた。

 

『破壊シマス』

 そして、二本の腕に収束した気の禍々しい輝きも激しくなっているようにクリリンには見えた。

「や、やり過ぎたか? うわっ!?」

 しかし、ロボットの気弾は狙いが単調で、放つタイミングも分かりやすい。気弾そのものも威力が大きくなった分スピードが落ちている。

 

 そのお陰で、クリリンは右に左に動いて気弾を避け続ける事に成功した。

「し、死ぬっ!?」

 成功していたが、本人の主観では当たれば死ぬ気弾を回避し続けなければならないプレッシャーに、汗だくになっていた。

 

 できればもっと大きく避けたいが、クリリンが大きく動けばロボットもその場を動いてしまう。

『破壊シマス!』

 しかし、一向に攻撃が当たらないクリリンに焦れたのか、ロボットは戦法を変えようとした。掌に巨大な気弾を作って撃つのではなく、人間と同じ五本の指の先端に小さな気弾を作ったのだ。

 

「プ、プーアルっ、もう無理だ!」

 そうクリリンが叫ぶのと同時に、上空からプーアルの声がした。

「カッチン鋼に変化!」

 コミカルな音と煙を発して、空中に小さな円盤が現れる。プーアルが乗っていた反重力装置だ。では、光学迷彩装置に包まれたプーアルはどこへ行ったのか……は考えるまでも無いだろう。

 

『ッ!?』

 轟音を立てて透明な何かがロボットに激突する。右肩を砕きながら右キャタピラを粉砕。ロボットと、そして何もない空間から火花が散り、四角い金属塊が姿を現す。

 

「プーアル!? 大丈夫か!?」

「あ、頭が回りそう……」

 硬さもカッチン鋼並みになったプーアルはロボットと激突しても痛みはなかったが、衝撃に目を回していた。内心で、よくこんな事をして平気だったなとウーロンの事を見直していた。

 

 実際には一年前のウーロンも、この戦法をした時は痛みに悲鳴をあげていたから平気だったわけではなかった。しかし、思いついた発想と硬さは生身のままなのに実行する度胸は確かに見直すに値するだろう。

 

『たー……げっと、ヲ、破壊!』

 だが、なんとロボットはまだ機能を停止していなかった。右半身を粉砕されながら、左腕で気弾を放とうと試みる。

 

「っ! か~っ!」

 それを見たクリリンは咄嗟に構えをとっていた。太陽拳が放てるようになった後から、師である亀仙人から「後は修行次第でお主も撃てるはずじゃ」と言われていた、奥義の構え。

 

『ハカカカィイイイイ!』

「め~、は~め~……波ーっ!」

 ロボットが気弾を放つと同時に、かめはめ波を放つクリリン。それは、強化が解けかけた状態で放ったロボットの弱弱しい気弾を蹴散らし、装甲が壊れ内部の機械が剥き出しになったロボットに吹き飛ばし、バラバラにしたのだった。

 

「やった! かめはめ波を撃てたぞー!」

「おめでとうございます~」

 

 勝鬨をあげるクリリン。その頃、ヤムチャもパワードスーツを倒そうとしていた。

 

「真狼牙風風拳!」

『……!』

 狼の群れの攻勢の如き連続攻撃を放つヤムチャ。キリによって強化されたパワードスーツは、その素早く重い拳を受けながら、彼の足を払おうとした。

 

 それは成功し、ヤムチャの足は簡単に払えたが……彼はバランスを崩さない。

『ッ!?』

 力強い尻尾が脚の代わりに彼を支えていたからだ。

 

「伊達に真とはつけていないぜ!」

 原作と違い尻尾が生えているヤムチャは、尻尾も活用した狼牙風風拳を編み出し、それを「真狼牙風風拳」と名付けていた。

 

 先の天下一武道会では、まだ尻尾を握られたら全身から力が抜けるサイヤ人の弱点を克服していなかった事と、尻尾が弱点である事を知っている知り合いだらけだったため使う機会がなかったのだ。

 

「ハイハイハイハイ! ハイーッ!」

 尻尾で体を支える事で可能になった故に放てる、目にも止まらぬ連続蹴り。そして、先ほどの回し蹴りのお返しとばかりにパワードスーツを上空に蹴り飛ばすヤムチャ。

 

『……!』

 しかし、パワードスーツも負けてばかりではない。キリで強化された彼は、空を飛ぶことが可能になっている。

 空中で体勢を立て直し、地上のヤムチャに向かって気功波を放とうとするが――。

 

「かめはめ波ーっ!」

 しかし、その時にはヤムチャのかめはめ波が目前にまで迫っており、パワードスーツを飲み込んだ。キリによる強化は解け、その途端限界を迎えたパワードスーツは機能を停止してバラバラになる。

 

 ようやく解放されたバイオレット大佐だが、その時には彼女は意識を失っていた。

「っ! 危ない!」

 空中に投げ出された彼女が地面に激突するのを助けたのは、やはりヤムチャだった。空中に飛び上がって両手で彼女を抱きかかえて無事着地する。

 

「バイオレット大佐が助かったぞ!」

「よくやってくれた! ありがとう!」

 避難していた彼女の部下が集まってきて、彼女を抱き上げて着地したままのヤムチャに喝さいをあげる。まるで英雄のような扱いだ。

 

「……!」

 しかし、ヤムチャは格好をつけている訳ではない。単に、バイオレット大佐をいわゆるお姫様抱っこしてしまったために彼女と密着してしまい、あがり症が発動して動けなくなっていただけだった。

 

 そして残った悟空とシルバー大佐の戦いも、佳境を迎えていた。

 

「いってー! だけど、ここなら周りに誰もいねぇな」

 シルバー大佐に殴り飛ばされた先で、立ち上がった悟空はそう言って不敵に笑った。彼はレッドリボン軍の兵士から離れるために、ダメージを覚悟してわざと殴り飛ばされたのだ。

 

『……!』

 そして、シルバー大佐は悟空の思惑など知った事かと言うように、気弾を放ちながら間合いを詰めて来る。

「その妙な仮面、ひっ剥がせば戻るんか?」

 悟空は自分に向かってくる気弾を回避し、接近してきたシルバー大佐を迎え撃った。

 

 殴り飛ばされる前にもした激しい拳の連打に加えて、隙あらば膝蹴りを打ち込んで来るシルバー大佐に、悟空は彼の顔に張り付いている仮面を引き剥がす余裕は無いと断念した。

「やっぱ、ぶん殴って叩き壊すしかねぇか。行くぞ! パー!」

 顔面を狙って放たれた膝蹴りを、ジャン拳のパーで受け止めてその反動で後ろに飛ぶ。

 

「でりゃーっ!」

 だが、飛んだ先の地面を蹴ってすぐさま突撃を敢行した。右肘を衝角のように鋭く構えたそれは、ギネが度々使ってきたマッスルカタパルトだ。

 

 見様見真似の技だが、その勢いは凄まじい。そのため、シルバー大佐は回避不可能と見て両腕を交差させて防御する事を選んだ。悟空の小柄な体から繰り出される体当たりなら、受け止められると思ったのだ。

「りゃぁーっ!!」

『……!?』

 だが、その判断は間違いだった、気が存在するこの世界において、超人同士の戦いでは生み出される力や速さは体の大きさからは判断できない。

 

 チビが筋骨たくましい大男に力で勝ち、相撲取りのような肥満体に見えるデブが引き締まった肉体の持ち主より速く動く事が珍しくない。

 悟空とシルバー大佐の攻防でも、それと同じ事が起こった。悟空のマッスルカタパルトを受け止め切れなかったシルバー大佐が、大きく吹っ飛ばされたのだ。

 

「はっ! なんとかアターック!」

 そして、吹っ飛んだシルバー大佐に向かって悟空は再び地を蹴って飛び蹴りを放つ。

『っ!!』

 しかも、蹴りを顔面で受けたシルバー大佐にそのまま素早い連続攻撃を仕掛けた。今度は兄弟子であるサタンの得意技であるダイナマイトアタックを真似てみせたのだ。

 

 ビシリと、音を立てて仮面にヒビが入り、砕け散った。

「がはっ!?」

 正気に返ると同時にキリの強化が溶けた事による脱力感でシルバー大佐が倒れる。

 

「大丈夫か!? ……よし、気は戻っただけで小さくはなってねぇな」

 倒れたシルバー大佐を助け起こした悟空は、気から彼がただ気絶しているだけだと分かるとほっと胸を撫でおろした。

 

 

 

 

 

 

 幸い援軍を呼ぶまでもなく全ての戦闘が終わった。しかし、結局歴史改変者は姿を現さなかった。

「ふ~む? 魔力の波形はサンプルと同じ……いや、似ているが異なっている。魔術師ごとに魔力は異なるものなのですかな?」

『私は魔術師じゃないから確実なことは言えないけど、多分異なると思うわ。魔力だけで術者を特定できる程異なっているのかは、分からないけど』

 

「なるほど。だとすると、魔力はトワによるものが近いのですが……もしかしたら、メチカブラの配下の魔神トワの仕業かもしれませんな」

 儂は計器が検出した魔力の波形を解析しながらそう推測する。仮面を使った点から考えると、トワ一味が仮面のサイヤ人(バーダック)用の新しい仮面のテストを行ったとも推測できる。また、仮面を使った洗脳はメチカブラ一味でも行われていたから、メチカブラの手下の魔神トワの仕業とも考えられる。

 

「実はここは囮で、他の歴史で歴史改変や暗黒ドラゴンボール集めを行っている、という事は?」

『それはもう確認したけど、目につく限りではないわね』

 もしかしたら、この歴史は囮で本命は他かと思ったが、時の界王神は既にその可能性に気が付いて確認したようだ。

 

 そうなると、何故歴史改変者は姿を現さないのか。発生したキリを無人で集める技術を開発でもしたのか?

 今回の出来事はフリーザに悟空が敗北するような、大きな歴史改変ではない。しかし、キリは発生して……いや、いないな。

 

 本来の歴史ではあっさり敗退するはずのシルバー将軍が悟空と激闘を繰り広げ、戦わなかったはずのバイオレット大佐とヤムチャが戦い、存在しないはずのロボットとここには居なかったはずのクリリンも戦った。

 しかし、それは歴史改変者が介入する前に起きていた。歴史改変者が介入した結果、起きた歴史改変ではない。

 

(だとすると、歴史改変者は何のために干渉してきたのだ? 悟空達を敗北させる事で更にキリを得ようとした……と考えるには、シルバー大佐達の強化度合いが小さすぎる)

 歴史改変者にとって、戦闘力を万単位で上昇させる強化程度は容易い。シルバー大佐達を今の悟空達では太刀打ちできないほど強くするのは、造作もないはず。

 

 だというのに、強化したシルバー大佐達の強さは悟空達が倒せる程度でしかない。そうである以上、悟空達を殺すつもりはなかったようだが――。

 

「……まあ、ここで考えても仕方ないか。儂はそろそろ引き上げます」

『そうね。また何かあったらお願い』

 儂はテレパシーで、「装備はそのまま持っていてくれ」とプーアルに伝え、儂はこの場から瞬間移動で去ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 全ての事態を見ていた暗黒魔王メチカブラは、自身の予想が正しかった事を確認する事が出来て満足げに頷いていた。

 

「ご指示通り、適当な者達を強化しましたが……よろしかったのですか? 結果的に別の歴史の私はまだしも、ドミグラに僅かでも塩を送る事になりましたが」

 そこに魔神トワが現れる。シルバー大佐を仮面のレッドリボン軍大佐にして、彼を介してパワードスーツとロボットを強化したのは彼女の仕業だったのだ。

 

 彼女が他の歴史の自分よりドミグラを警戒するのは、魔神化していない他の歴史の自分とミラは、メチカブラ一味にとって取るに足らない相手であるのに対し、ドミグラ一味は何かとこちらの邪魔をしてくる敵だからだ。

 

「なに、構わん。塩を一摘みやったところで、さしたる意味は無い。それよりも、問題はこの人間……ドクター・ゲロだ」

 そう言いながらメチカブラが水晶玉に映し出した男の顔を見て、魔神トワは驚いた。かつての配下であるドミグラやタイムパトロールならともかく、ただの人間を……それも軽く小突くだけで消し飛ぶ程度の力しか持たない人間を、暗黒魔王が警戒している。

 

「この男は、確かにどの歴史でも歴史を大きく動かすきっかけになっていますが、敵として警戒が必要なほどなのですか?」

「ああ、そうだ。儂等が暗躍する歴史でもこの男は大いに役立っているが……操れば便利でも、敵に回すと厄介な奴と言う事だ。

 トワよ、最近タイムパトロールが仙豆という回復アイテムを携帯している事は知っているだろう?」

 

「はい。厄介な回復アイテムです」

 仙豆の存在は前々からトワも知っていた。しかし、それをタイムパトロールが常用しだしたのは最近の事だ。

 豆を一粒齧るだけで、どんな深い傷や消耗からも回復して向かってくる。一粒食べた後、再び追い詰めて「今度こそ止めを刺してやる」と思った時には、二粒目を食べている。

 

 仙豆を食べる隙も与えず一気に倒してしまえればいいのだが、そんな事が出来るならとっくにタイムパトロール達を全滅させている。

 そして、最近メチカブラ配下の魔人達は、この仙豆で回復したタイムパトロール達の手で暗黒ドラゴンボールを一つ奪われている。

 

 七つの内たった一つとはいえ、七つ全て揃えなければ願いを叶えられないのは暗黒ドラゴンボールも同じ事だ。これでメチカブラ一味は、何らかの方法で時の巣に置かれているだろうボールを手に入れなければならなくなってしまった。

 

 不可能だとは思わないが、簡単ではない。それに、本来かけなくてもいい手間とリスクが必要になったと思うと不愉快だ。

「その仙豆を与えているのが、この歴史のゲロだというのですか?」

「それを確かめるためにお前に動いてもらったのだ。結果は、思った通りだった」

 

 魔神トワが動いた途端ゲロは現れ、しかも時の界王神と交信していたのを、メチカブラは見逃さなかった。

 これは、この歴史のゲロが時の界王神……タイムパトロールと協力体制を築いている事の証拠だ。

 

「消しますか?」

 ゲロに、これ以上仙豆をタイムパトロールに供与させるわけにはいかない。そう判断して抹殺する事を提案するトワだったが、メチカブラは首を横に振った。

 

「ただ殺しただけではドラゴンボールを使って生き返るだけじゃ。一度殺した後、あの世まで行ってもう一度殺して消滅させる手もあるが、途中で邪魔が入る可能性が高い。

 それに、下手に危機感を煽って時の界王神が思い切った手に出たら厄介極まりない」

 

「思い切った手……確かに」

 タイムパトロールの隊員を人造人間に改造する事は流石にないだろうが。戦闘中に悟空やベジータの拳についた魔神達の細胞を使い、新たな人造人間を作る可能性は十分ある。

 それで自分が作ったミラを超える人造生命体が作れるとは思えないが、匹敵する者を量産されたら危うい。

 

「しかし、野放しには出来んのは事実だ。手を考えるとしよう」

「はっ!」

 そして、ゲロは本人の知らない内に暗黒魔王に目をつけられてしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 レッドリボン軍が築いた即席の基地では、調理担当の兵士達が巨大な鍋をかき回し、大量の食事を作っていた。

「うめぇーっ! 美味いなこれ!」

 勝負に負けたので、約束通り悟空達に夕飯を奢るためだった。

 

 戦闘が終わった後、幸いなことに重傷を負ったものはおらず、意識を失っていたシルバー大佐やバイオレット大佐も少し休むと目を覚ましたため、予定通り食事を用意したのだ。

 ……バイオレット大佐はプーアルが砕いた仙豆の欠片を食べる前は、意識はあっても起き上がれない状態だったが。

 

「へへ、どうだ!? 我がレッドリボン軍の飯の味は!?」

「なかなか美味しいです」

 プーアルが答えた通り、レッドリボン軍の兵士達が用意した料理はおいしかった。ゲロが用意する高級料理と比べれば後れを取るが、それでも不味くはない。

 

 兵士達の士気を維持するのに、食事は重要な要素だ。そのため、レッドリボン軍では缶詰やレトルト食品以外にも、調理師免許を持つ兵による手料理も振る舞われているのだ。

 

「しかし、よくこんなに食料があったな。俺と悟空だけでもう十人前は食べてるぞ」

「そう言えば……もしかして、実はあんた達の分まで食べていたりはしないよな?」

 ふと口にしたヤムチャの言葉を聞いたクリリンが、ハッとして周りの兵士達を見回す。しかし、彼らの手元にも料理が乗った皿があった。

 

「心配しなくても食料は十分あるぜ。何せ、ここでの任務はもう終わりだからな」

 ドラゴンボール探しのために何十人もの兵士がここで何週間も活動する事を予想して、ブラック補佐は十分な量の糧食をこの部隊に持たせていた。

 

 しかし、肝心のドラゴンボールを悟空達が発見してしまったため、彼らの任務は今日で終わりだ。だから大量の食糧を今日使い切っても構わないのだ。……缶詰等は残っているので、ここから基地へ帰還するまでの時間も問題ない。

 

「シルバー大佐っ」

 そこにシルバー大佐がやって来た。

「飯は口にあったようだな」

「おうっ! おめぇも元に戻ってよかったな。あの変てこな仮面がくっついたままだったら、飯食えねぇもんな!」

 

「まったくだ。ところで……なんで俺や俺の部下達を助けた? 俺達は敵同士だし、あの事態はお前達にとってもそれなりに危機だったはずだ」

 それなのに正気を失った自分や、制御不能に陥ったパワードスーツやロボットから、何故自分や兵士達を助けたのか。そう聞かれた悟空達は顔を見合わせた。

 

 シルバー大佐から見れば、自分達が正気を失った時点で、悟空達は逃げ出しても構わなかったはずだと思える。それなのに、元々仲間でも何でもない兵士達を助けながら戦ったり、バイオレット大佐が危ないからと勝負を急ぐ必要はなかった。

 それが気になったのだが、悟空達は何故そんな事を聞かれるのか分からないという顔つきで答えた。

 

「なんでって言われても、そんなこと考えている余裕はなかったって言うか……もう逃げるのに夢中だったからさ」

「俺は、助けてって頼まれたからな。頼まれたら、そりゃあ助けるさ」

 

 クリリンとヤムチャの答えは、助けを求められたから助けた、という単純なものだった。二人も博愛主義者ではないので、冷酷非道なサイヤ人や、フリーザ軍、そして「世界一危険な軍隊」の兵士に助けを求められた場合は取り合わないだろう。

 

 しかし、彼らとレッドリボン軍はドラゴンボールの争奪戦を競い合うライバルではあっても、殺し合いをするような敵同士ではない。

 なら、迫りくる脅威に対して助けを求められれば応じるし、助けられるなら助けようとするのが彼らにとっては当然な事だった。

 

「それによ、飯を奢ってくれる約束しただろ? 飯は、大勢で食べた方が美味いってじっちゃんが言ってたぞ」

 そして、自分を殺そうとした相手に対しても非情になり切れないお人良しな悟空はそう答えた。そして再び夢中で料理を掻き込み始める。

 

「はぁ……全く、完敗だ」

 悟空達の言葉に嘘や見栄が全く含まれていない事を悟ったシルバー大佐は、そう言ってため息を吐く事しかできなかった。

 

 純粋な善意は時に相手に大きな敗北感を与える。しかし、敗北から学ぶのも修行。シルバー大佐も、ただ負けて終わる男ではない。

(悪の宇宙人とやらめ。貴様らのお陰で、俺はこいつらに大きな借りが出来た。この恨みは忘れんぞ!)

 ゲロが公には「悪の宇宙人」として発表している歴史改変者に対して、シルバー大佐はやり返す事を誓ったのだった。

 




〇仮面のレッドリボン軍大佐

 仮面によって洗脳され、キリで強化されたシルバー大佐。キリによって戦闘力は750アップし、850にまで高まっている。
 僅かだが悟空を上回っているが、素体になったシルバー大佐が超人同士での戦闘経験が浅かったため、敗北した。



〇パワードスーツ・ゼノ

 バイオレット大佐が装着していたパワードスーツがキリで強化され、勝手に動き出した存在。戦闘力はバイオレット大佐が動かしていた時は180だったが、キリで強化された事で680にまで高まっている。
 緊急停止スイッチ等の安全装置が無効になっているため、装着者を助けるには破壊するしかない。



〇ロボット・ゼノ

 キリによって強化され、コントロールを受け付けなくなった土木作業用ロボット。強化されてもカッチン鋼に変化したプーアルのメテオストライクには装甲が勝てず、内部の機会が剥き出しになったところにクリリンのかめはめ波を受けて爆発四散した。

 力を戦闘力に換算すると600。正攻法で戦っていたら、クリリンは絶対に勝てなかった。



〇魔神トワ

 トワ一味とは違い、暗黒魔王メチカブラの配下となって活動するトワ。魔神化しているため、トワよりも魔術や戦闘の上では上。
 シルバー大佐の恨みを買ったが、今のところ彼の存在を気にも留めていない。



〇仙豆

 暗黒魔王メチカブラ一味にとって、目障りな豆。追い詰めたタイムパトロールが一瞬で、しかも何度でも完全回復して復活するので、メチカブラの配下達はメチャクチャ困っている。

 仙豆を食べる余裕も与えずに倒せば勝てるが、それが出来る相手ならタイムパトロールが仙豆を携帯しだす前の段階で全滅させている。



〇暗黒魔王メチカブラが牛耳っている歴史のゲロ

 メチカブラ一味に上手く利用されているらしいが、天才科学者である事に変わりはないようだ。



 酒井悠人様、佐藤浩様、kubiwatuki様、タイガージョー様、gsころりん様、誤字報告ありがとうございます。早速修正しました。
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