ドクターゲロに転生したので妻を最強の人造人間にする 作:デンスケ(土気色堂)
シルバー大佐とバイオレット大佐の敗退と、ドラゴンボールの入手の失敗はその日の内にレッドリボン軍基地に報告された。
「それでシルバーとバイオレットは、兵は無事なのだな?」
「はっ! けが人は多数出ましたがいずれも掠り傷。バイオレット大佐も、奴らが持っていた薬か何かですぐに復帰したそうです」
「そうか。奴らの性格上シルバー達を殺す事はしないと予想していたが……まさか殺すどころか悪の宇宙人の魔の手から助けてくれるとはな」
オレンジ将軍が情報部からの報告を纏めた書類に目を通したため、レッド総帥も事の経緯を理解していた。シルバー大佐が妙な仮面を被って正気を失い、バイオレット大佐が着用していたパワードスーツとロボットと共に暴走した。
その仕業が、約二年前にボンゴとパスタを強化し暴れさせた犯人である悪の宇宙人と同じである事も、報告書には書かれている。
それはヤムチャ達から聞いた話でしかなく、悪の宇宙人が仮面をシルバー大佐に被せたところを目撃した者はいない。しかし、当時はまだ王国だったグルメス公国で起きた事件に関する張本人からの証言が、レッドリボン軍にはある。
「オレンジ、貴様は悪の宇宙人について何か知っている事はあるか?」
「いえ、俺はボンゴの旦那……大尉達がそうなったところを直接見てはいないんで、報告書以上の情報はありません」
「そうか……」
レッド総帥はオレンジ将軍の答えにため息を吐いて、『謎の力で地球人を強化して暴れさせる、悪の宇宙人』についての情報を脳裏に思い浮かべた。
とはいえ、レッド総帥が持っている情報は多くない。ドクター・ゲロが発表した情報と、ボンゴとパスタから聞き取った証言ぐらいしかない。
これまでレッド総帥は……いや、彼を含めた多くの地球人は、『悪の宇宙人』を二年前にたまたまボンゴやパスタを強化して暴れさせた、通り魔のような存在だと思っていた。
ボンゴ達を強化した方法も、その目的も不明。だが、約二年前以降は『悪の宇宙人』の犯行によるものだと思われる事例が無かったため、地球から去ったのだろうと思い込んでいた。
しかし、今回の件でそうでない事が判明してしまった。
「ここに来て新たなリスクが発生するとはな。オレンジ、貴様は『悪の宇宙人』についてどれほどの脅威だと考える?」
「……情報が少なすぎて正確な判断はできませんが、桃白白よりも厄介ですぜ」
『悪の宇宙人』について、オレンジは桃白白より脅威だと評価していた。何故なら、『悪の宇宙人』の目的が分からないからだ。
何故約二年前にボンゴとパスタ(及びボンゴ四天王)を、そして今日シルバー大佐達を暴れさせた目的が理解できない。
(まあ、トワ達が歴史改変者である事を知らなければ、答えにはたどり着けないだろう)
フラッペに変装している儂、天才科学者のドクター・ゲロはそう思っていた。
歴史を改変させてキリを集める事が彼女達の目的だが、彼女達が起こした事件からそれにたどり着くのは無理だ。最低でも、タイムトラベルを現実のものとして考えていなければ。
「フラッペ。他人を魔法か何かのように強化し、正気を奪って暴れさせる事は可能だと思うか?」
っと、そう考えているとレッド総帥が質問の矛先を儂に向けて来た。
「強化の方は可能、である可能性が高いっぺ」
儂はフラッペとして知っている情報の中から、矛盾が無いように答えた。
「気、というものについて私は専門外だっぺ。しかし、その気の『波長』を対象に合わせる事が出来れば、他人に気を分け与える事が出来るはずだっぺ」
実際、他人に気を分ける事自体は難しくない。原作のナメック星編で、悟飯とクリリンがピッコロに、そして悟空が上半身だけになったフリーザに気を分け与えていた。そして、儂と4号で実験してみたが、気を分けるのはそれほど難しくはなかった。
まあ、気を分け与えるのとキリで強化するのとは違うが、フラッペはキリについて知らないので言えるのはこれくらいだ。
「そうか。防ぐ方法はあるか?」
「今の段階では何とも言えないっぺ。ロボットやパワードスーツの残骸から、記録装置を回収すれば何かデータが残っている可能性はあるっぺ。それを解析すれば、手掛かりくらいはつかめるかもしれないッペ」
これに関しては嘘はいっていない。トワ達がキリで対象を強化するのを、事前に防ぐ方法は今のところない。彼女の洗脳を解く、最低でも乱してバーダックが正気に返るチャンスを作る事は出来ると確信しているが、それとこれとは別だ。
今回の事から、もしかしたらバイオレット大佐のようにパワードスーツなどで全身を覆っていれば、もしかしたら防げるのかもしれないが……あまり期待できないだろう。あれはただ単に、バイオレット大佐本人を強化するとパワードスーツが耐えられず壊れるから、パワードスーツを強化した方が効率的だっただけだという可能性もある。
「そうか。……潜入させているサイボーグ2号から送られてくる情報の中に、何かないか?」
「今のところは無いっぺ。サイボーグ2号(ランチ)は、永久氷河で天津飯とチャオズと桃白白に指導されながらトレーニングをしており、今回の事件についてはまだ気が付いてもいないっぺ」
「桃白白の動向が分かるのは助かっているが……仕方あるまい。
しかし、悪の宇宙人が妙な通り魔だったら無視も出来たが、今後もこうして手を出してくると思うと頭の痛い問題だ」
「確かに。どれほど将兵を鍛え、高性能な兵器を開発しても、それを操られてしまうのでは……」
「そもそも、奴らの目的が問題ですね。何のためにあんな事を? 今回と二年前の共通点は孫悟空達だが」
レッド総帥やブラック補佐は、オレンジ将軍と頭を悩ませていた。彼らの世界征服のための作戦とは別に、悪の宇宙人問題が現実的な問題になったのだから当然だろう。
今は一部の地域を縄張りとして実効支配しているレッドリボン軍だが、作戦が進めば彼らが体制側になるのだ。差し迫った脅威は無視できない。
「私が言うのは複雑だっぺが、GCコーポレーション……もっと言えばドクター・ゲロならもっと情報を持っている可能性が高いっぺ。
悪の宇宙人について発表したのもゲロで、GCコーポレーションは複数の宇宙人と交流を持っているっぺ」
「フラッペ」はドクター・ゲロより自分の方が優れている事を証明するのが目的という設定であるのに、儂の名前を出すのは勇気がいるが、黙っているのも何なのでそう口に出す。
「GCコーポレーションか。確かに、『悪の宇宙人』に関する情報以外にも、世界征服を成し遂げた後もあの企業とは上手くやる必要がある。フラッペには悪いが」
「その辺りは気にしないで良いっぺ。私は科学者としてゲロより優れている事を証明したいだけで、奴の会社はどうでもいいっぺ」
「それは助かる。あの大企業をどうにかするのは、地球国政府を掌握するより難しいからな」
うむ、本当に大企業になってしまったものだ。
「それはともかく、作戦はどうするっぺ?」
「……現段階では変更は無し。このまま続行せよと各指揮官に伝えろ。悪の宇宙人は厄介だが、奴らの目的が分からない以上、作戦を止めても意味は無い。
ただ、GCコーポレーションとは今後情報交換を行う必要があるだろう」
「シルバーとバイオレットにはどう指示を出します?」
「足止め作戦の成功見事だ。できれば、朝飯も奢ってやり、その後は基地に帰還するようにと指示を出せ」
「はっ!」
悟空達はシルバー大佐達との勝負に勝ち、夕飯をご馳走になったその夜は当然のように彼らの野営地に泊まった。翌日、朝飯もご馳走になり、奢ってもらってばかりで悪いからと彼らの撤収準備を手伝って、昼頃に和やかに彼らと別れたのだった。
「よしっ! 次のドラゴンボールがある所まで行って、その後飯にすっか!」
「大丈夫か~? 次の場所もレッドリボン軍の人達がいて、ボールを賭けて勝負だ! みたいなことになっても知らないぞ」
「あいつら、他の場所でもドラゴンボールを探しているのかどうかについては教えてくれなかったからな」
兵士が戦いの巻き添えにならないよう立ち回り、シルバー大佐やバイオレット大佐を助けた悟空達に対して、彼らも恩義を感じ、好感を覚えていた。
しかし、彼らもプロだ。作戦中の自軍の情報は話そうとはしなかった。
もっとも、それについては悟空達も追求しなかった。彼等から無理に聞き出そうとするのは、悪い気がしたのだ。
相手に好感を覚えたのは、悟空達も同じだったのである。
「一応、会長さんからもしもの時の行動食を預かってますよ」
プーアルに儂が預けた行動食とは、単に食事のために仙豆を食べるのは勿体ないと思って用意した物だ。
なお、行動食とは作戦や任務、登山等しっかりとした食事を用意する余裕がない時に、エネルギー摂取のために口にする食べ物の事である。他の言葉で呼ばれる事もある。
チョコレート、キャンディ、ドライフルーツ、肉の燻製等が行動食に選ばれる事が多いらしいが……。
「あれかぁ。……ちょっと早えけど、出発は昼飯を食ってからにすっか」
「ええっ!? 悟空が食うのを嫌がるなんて、どれだけ不味いんだ!? その行動食って!?」
「いや、不味いわけじゃねぇんだけども……」
驚くクリリンに、悟空は珍しく言葉を濁してそう答えた。
儂が用意した行動食は、ブロック状の栄養補助食品だ。だが、市販されている栄養補助食品とはカロリーの桁が違う。
元々はフリーザ軍がサイヤ人用に開発した物で、あの小型の宇宙船で他星を侵略しに行くサイヤ人のために大量のカロリーを摂取できるよう作られている。
それに味を改良した物をプーアルに預けてある。なお、ギネや地獄のサイヤ人達に食べてもらい、味については「フリーザ軍から支給された物より美味い」と太鼓判を貰っている。
「腹に溜まるから、あんまり食えねぇ」
しかし、悟空には量が食べられないのが不満なようだ。健啖家らしい意見である。
「まあ、良いんじゃないか。とりあえず出発して、目的地の周りに大きな気の持ち主が複数いれば近づく前に飯を食って、いなければドラゴンボールを見つけてから飯にしようぜ」
「う~ん、やっぱそうすっか。昨日の騒ぎでこの近くに獲物になる動物がどっか行っちまったみたいだし」
そして、ヤムチャの意見が通り結局出発したのだが……彼らは予想外の障害にぶち当たる。それは、今の悟空達では超えられない大きな壁だった。
「さっ、寒い! 悟空っ、寒すぎる!」
「クリリン、お、オラはへへへ……へっくしゅん!」
「ぷ、プーアルっ、コートに変化してくれ! 凍えそうだっ!」
その障害とは、寒さである。
次に近いレーダーの反応を追って、北へ向かっていた悟空一行。しかし、ジングル村がある地域に近づくにつれ寒さが厳しくなってくる。
原作では、この時悟空はシルバー大佐に筋斗雲をバズーカ砲で撃たれ、無くなってしまったと思い込んでいた。そのため、ブルマから貰っていたホイポイカプセルから出したロボットが操縦する飛行機に乗っていた。
その飛行機を操縦していたロボットが凍り付いて、操縦不能に陥って墜落するほどの寒さである。吹きさらし状態の筋斗雲とジェットモモンガで耐えられるはずが無い。
そして、ロボットが操縦する飛行機ではなく自身が飛ばす筋斗雲だったため、悟空は本格的に凍える前に引き返すという選択肢をとる事が出来た。
「プーアル、オラ達もくるまれるくらい大きな毛皮に成れねぇか?」
「無理ですよっ! それに、そんな状態で筋斗雲やジェットモモンガで飛ぶのは危ないです。落ちたらどうするんですか」
「う~ん、じゃあ熊か何かでも捕まえて毛皮を刈り取るか? 丁度そろそろ飯時だし」
「いや、皮を鞣すのは大変だぞ。それより買った方が良い」
生きた動物からはぎ取った毛皮をそのまま使うのは、ヤムチャとしては非常時でない限り遠慮したかった。それに、手間がかかるのは事実だ。
「そうだな。そう言えば道具も持って来てねぇし」
「そう言えばプーアル、会長さんから防寒着は預かってないか?」
「いえ、無いです。反重力装置や光学迷彩装置は貸してくれましたけど……」
「じゃあ、どっかで買うか貰うかするしかないか。あ、ところで俺、金持ってないんですけどヤムチャさんは?」
多林寺を出てから亀仙人の元で修行していたクリリンの所持金は、子供の小遣い程度だ。防寒着を買うには全く足りない。
「俺か? 俺はこう見えても武天老師様に弟子入りする前は働いていたからな。金は……あれ? どうしたっけ? プーアル、覚えてるか?」
「ヤムチャ様、お金はアジトの床の下に隠してきたじゃないですか」
そして以前は砂漠で旅行業を営んでいたヤムチャは、亀仙人に弟子入りしてから今日までの約三年、金を使わない……使う機会が殆どない生活を続けていたため、自分が金をどうしたのか忘れていた。
亀仙人からカリン様、そして地球の神様と世俗から遠のく修行コースを歩んでいたので無理もない。
「アジトか……ここから遠いな。あ、そうだ。桃白白の映画に出た時に、ちょっとだけど出演料を貰ったような覚えがある!」
「ヤムチャ様、そのお金なら武天老師様が預かってますよ。修行中は金の力に頼ってはいかんって」
「そうだった……!」
「なあ、なんでオラには聞かねぇんだ?」
悟空ががっくりと肩を落とすヤムチャを眺めてから、そうクリリンに尋ねる。
「そりゃあ、どうせ持ってないだろうから……それとも悟空、もしかして金持ってるのか!?」
「いや、持ってねぇ。クリリン、オラが金を持ってねぇってよく分かったな」
「だ、だと思ったよ」
凄いなと自分に笑いかける悟空に、クリリンは思わず肩を落として苦笑いを浮かべた。
しかし、実を言うと悟空も今年十三歳になる少年としては莫大な金額を持っている。『神龍の伝説』事件を解決した時の報酬として、我がGCコーポレーションがグルメス公国の復興事業で儲けた金額の一部、そして事件の映像を編集して作ったドキュメンタリー映画の出演料等々を口座に振り込んでいる。
もっとも、通帳とカードは祖父の孫悟飯が管理しているので、悟空の手元には一銭も無いのだが。その事は悟空本人にも説明したはずだが……多分、忘れているのだろう。
ちなみに、ヤムチャとクリリンの分は亀仙人が預かっている彼の口座に振り込んである。
将来的には悟空達には毎日修行をしてもらい、彼らが戦いに備えているだけで金が入るようにしたいが、まだ子供の彼等に大きな金額を持たせるのは教育に悪いからな。
「じゃあ、僕達の昔のアジトに戻ってお金をとってきましょう。それで、防寒具を買いましょう」
「それしかないな。よし、古巣に一度戻るか!」
こうして一行はヤムチャのアジトがある砂漠へ向かったのだが……アジトは彼らが留守の間にゴロツキに乗っ取られており、しかもゴロツキを叩きのめした後で床下から回収したヤムチャの金は、三人分の防寒具を買うには心もとない額だった。
「すまん、どれくらい金があるか忘れていた」
「こうなったら都に行って働いてお金を稼いで、それで防寒具を買いましょう!」
そして、都会なら働き口もあるだろうと西の都に向かった。ここで儂を含めた大人に金を借りる、貰うという選択肢が出ないのは、彼らにとってドラゴンボール探しが修行の旅を兼ねているからだろう。
そして次の日、ドラゴンレーダーを修理してもらうためではなく、防寒具を購入するために悟空一行は西の都に向かった。東や南の都でもよかったのだが、知り合いに仕事を紹介してもらった方が速く稼げると思ったのだ。
なお、都には自分に勝ったら十万ゼニーの賞金を渡すと挑戦者を募るストリートファイターや、ハンマーでパンチングマシーンを殴って高い威力が出たら賞金が手に入ると客を集めていたアトラクション等があったが……。
「私に勝ったら十万ゼ……げげっ! ターレス!? いや、魔王の入り婿の孫悟空に、武天老師様の弟子!? な、なんでもありません! あ、急用が入ったので、私は失礼します!」
「さあさあ、このハンマーで……すみませんが天下一武道会に出場した方はご遠慮していただいておりましてぇ、そっちの……ええっと、青い不思議な生き物の方でしたらどうぞ」
悟空達の顔を見た途端催しを止めるか、挑戦を拒否した。天下一武道会がテレビで放送されている影響で、この歴史の悟空達は実力の知られた有名人であるためだ。
ちなみに、ストリートファイターの男は元GCGの隊員なので、原作よりは格段に強くなっている。
「参ったなー。すぐ金が貰えると思ったのに。……そうだ! オラ達も同じ事をやったらどうだ?」
「悟空、俺達がやっても誰も挑戦してこないって」
挑戦を拒否された事に困っていた悟空が閃いたアイディアは、発想は悪くないが自分達の知名度を考えると無謀なものだったのでクリリンに却下された。
……悟空達の場合は、いっそどこかの会場を借りて技を見せる格闘技ショーを開催して見物料をとった方が稼げる気がするな。もしくは、プーアルの変化を利用したマジックショーか。
「変化っ! えいっ!」
一方、パンチングマシーンの方の催し物では、唯一挑戦を許可されたプーアルがカッチン鋼に変化して落下する事で、ベルを鳴らして賞金を手に入れる事に成功していた。
ハンマーを使わなくてもいいと言ってしまったのが、興行主の失策だった。
「お金が手に入りましたよ、ヤムチャ様!」
「やったな、プーアル! これとアジトから持って来た金を合わせれば、暖かい服を買えるぞ!」
高級な毛皮のコートを買う訳ではないし、また滞在時間は長くても数時間ほどなので、一人一着分あればいい。プーアルが手に入れた賞金でも、十分揃えられるだろう。
売っていればだが。
「すみません。時期的に冬物はちょっと在庫が……春物でしたら値引き品がございますが」
「当店では夏物バーゲンを開催中でございます! え? 冬物? 申し訳ありません。今冬物は扱っておりません」
天下一武道会が終わってまだ一週間たったばかりのこの日は五月中旬。温暖な西の都の衣料店で、冬服は取り扱っていなかったのだ。
だったらリサイクル店で中古品を買えばいいと思うかもしれないが、あいにくこの頃の地球では中古品を安く売るリサイクルショップ店はメジャーな存在ではなかった。
「どうする? 買うのは北の近くの町にするか?」
「そうだなぁ……オラ、腹減って来たな」
「そう言えば俺もそろそろ小腹が……」
「ヒエエ!? 二人が都会で飯を食べたら、プーアルの賞金なんて軽く吹っ飛ぶぞ!」
「一旦会長さん達のお家に行きましょう!」
サイヤ人とサイヤ人ハーフの胃袋の前には、十数万ゼニー程度の財力では太刀打ちできない。クリリンとプーアルは悟空とヤムチャを引きずるようにして儂等の家を目指した。
「あら、孫君達じゃない。どうしたの? ドラゴンレーダーが壊れでもした?」
「それとも、もう四星球を見つけたのか?」
そして途中で出会ったのがブルマとラズリ、そして何故かマイだった。
「オッス、ブルマ、ラズリ! それと……」
「マイだ。はあ、なんでまたお前達に会わないといけないのか」
そう嘆くマイの両手は荷物でいっぱいだ。三人の立場と力関係を考えると、彼女が二人の買い物の荷物持ちとして駆り出されたようにも見えるが……。
「今は同僚……って言う訳じゃないけど、もう敵同士じゃないんだから仲良くしなさいよ」
「あたし達はこいつの買い物の案内をしてたんだ。暇だったからな」
しかし実際は、マイがナメック星に赴任する前に必要な物を買い揃えるのを手伝っていたようだ。
「そっか。まだナメック星に行ってなかったんだな」
「ああ、ピラフ様は研修を受けていて、私とシュウは向こうに赴任する準備をしている」
「それで、あんた達は何でうちに来たのよ?」
「ああ、それなんだけど、飯食わせてくれ! オラ達腹減っちまって……」
「他にも事情はあるけど、頼みます! このままだと俺達また無一文になっちまう!」
「なに? お腹減ったからウチに来たの? ……いいわよ。孫君達で試したい発明品が昨日完成したばかりだから」
そしてマイとは途中で別れ、ブルマは悟空達を自分の家のリビングに通した。
「あの、ラズリさん? ブルマさんの発明品って……?」
「さあな。あたしも詳しくは知らない。占い婆の宮殿から帰る途中で『閃いた!』って言って、研究室に直行したからな。
ただ、パパ達が騒いでいたから大した発明なのは確かだよ」
「そうなんだ。無限に料理が湧いて出る皿とかかな?」
そうクリリンとラズリが話していると、ブルマが発明品を、そして家事手伝いロボットが料理を持って来た。
「ブルマ、食わせてくれるのはありがてぇけどよ……」
「ああ、悪いがとても足りない」
テーブルに並んだケーキやフルーツの盛り合わせ、プリン等各一皿を眺めて悟空とヤムチャは切なそうな顔をして腹を抑える。
「ふふん、そうでもないわよ。まずは孫君、ちょっと手を貸して」
ブルマは二人の言葉を取り合わず、悟空の手を取ると腕時計のような物を手首につけた。
「そして、ミクロバンド作動!」
ブルマがそう言って何か操作をした途端、悟空の姿が消えてしまった。
「悟空!? 悟空が消えた!?」
「いや、悟空の気はここにある! だからここにいるはずだが……まさか透明になったのか!?」
悟空の姿を見失い、慌てて探すクリリンとヤムチャ。
「おいっ、オラはここだぞー!」
その時、小さい声が彼らの耳に届いた。何と、ブルマの掌の上に小さな悟空がいるではないか。
「ご、悟空っ!? 悟空が小さくなっちゃった」
「本物なのか、これ? 幻じゃなくて?」
「フフン、これがあたしの発明品、ミクロバンドの力よ! これを身に着けた人を手のひらサイズにしちゃうの」
「す、すげぇ。ブルマ達がヨンやタイツみたいにでっかく見える」
スピリットパワーの制御によって巨大化する事が出来る4号達のように、小さくなった自分から見て巨大に見えるブルマ達を見回して目を丸くする悟空。
ブルマはそんな彼を掌に載せたまま、改めてテーブルの上を指した。
「それで孫君、これで足りない?」
ブルマがさした先にあるのは、さっきまでと同じスイーツだ。しかし、悟空にとっては大きな変化が起きていた。
「っ! ひゃっほーっ!」
自分より大きなプリンやケーキ、フルーツの盛り合わせに歓声をあげながら駆け寄り、夢中でかぶりつく。
「味はどう? 美味しい?」
「んぐむぐっ! うっめーっ! ははっ、このブドウ、一粒でスイカみてぇだ!」
自分より大きなフルーツ、山のようなケーキやプリンという、メルヘンな食べ物を口いっぱい頬張る悟空はとても幸せそうだ。
「ふんふん。味覚に変化無し、と。小さくなった影響で食べ物の舌触りが粗くなったり、歯ごたえが強くなりすぎるって事は無さそうね」
一方、ブルマは真面目な顔でメモを取っている。
「あの、もしかしてこれって人で試すのは初めてだったり?」
ブルマの様子から、まさか悟空で人体実験をしたのかと、プーアルが恐る恐る尋ねる。
「失敬ね。ちゃんと、最初にお爺ちゃんで試したわよ。その後で、あたしでもね」
しかし、ミクロバンドの安全性は悟空に使う前にちゃんと儂で試している。
「か、会長で!?」
「ブルマ、パパの分身を使ったんだろうけど、ちゃんとそう言わないと誤解されるよ」
「あははは、ごめんごめん」
実験に使ったのは、もちろん四身の拳で作った分身だ。それによって安全性は確認してある。ミクロバンドで小さくなっても気の量や丈夫さも変わらない。もし誰かに踏まれたとしても平気だ。
しかし、流石にパワーは落ちるのでそのまま戦う事はお勧めしないが。
「なんだぁ……あれ? もう会長の分身で試したなら、なんで悟空やヤムチャさんでも試すんです?」
「チッチッチ、クリリン、複数の意見を聞かないと正確なデータは取れないからよ」
「おーい、悟空、俺の分も残しておいてくれよ」
悟空が満腹になった後は、ヤムチャと交代して彼も自分より大きなスイーツを堪能した。
なお、クリリンとプーアルには普通に食事を用意した。
「ふぅ~、食った食った」
「そう言えば、小さくなっている間に食べた物は元の大きさに戻る時に大きくなるのかい?」
「ええ。ミクロバンドは、つけている人が持っている物と体の中の物の大きさも変える事が出来るように作ったから」
「そういや、確かに戻っても腹いっぱいのままだな」
「そりゃあ凄い。これがあれば皆の食費が一人前以下で済む」
「……そうしないと、怖くて体の大きさを小さくするなんてできないしね」
体内に入ったものの大きさは変えられない場合、ミクロバンドを使った時に胃腸に何かがあると、体が小さくなるときに体内から破裂して死ぬ可能性が高い。もっと言えば、息を吸って肺に酸素がある状態でミクロバンドを作動させると、肺が破裂してしまう。
そのため、ブルマは胃腸の内容物や肺の中の空気も小さくできるミクロバンドを開発したのだ。小さい時に食べた物も、元の大きさに戻るのに合わせて大きくなるのは副産物である。
「でも、長期間繰り返し使うのは勧めできないわね。さすがにそこまでは実験してないし」
「それは良いけど、これ、ウーロンや亀仙人の爺さんには渡すなよ。絶対覗きに使うから」
「そうね。でも、ウーロンは自力でハエに化けられるじゃない」
「五分の時間制限がなくなるだろ」
「そっか」
原作ではミクロバンドを亀仙人に渡していたブルマだが、ラズリの忠告によってこの歴史ではそれは防げるようだ。
「ところで、うちにはご飯を食べに来ただけなの?」
「それなんだけどよ――」
寒さ対策に防寒具を買うために金を稼ぎに来て、幸運にも金は出来たが、肝心の防寒具が売っていない事をブルマに話した。すると、彼女は「なるほど」と頷いて答えた。
「ふうん。でも、お金がないなら悟飯さんなり亀仙人のお爺ちゃんなりに事情を話して、預かってもらってる貯金を出してもらえばよかったのに」
「えっ? チョキンってなんだ?」
そして、ここでブルマの口から悟空達に貯金がある事を告げられたのだった。
その後、結局金はあっても物がないのでは意味がないと話している所に、大学から帰って来たタイツが合流した。
「大学って、卒業したんじゃなかったか?」
「したわよ。今日は大学の図書館で本を借りて来ただけ。それより北の寒い地域に行くのよね? だったらあたしも行こうかな。久しぶりにスキーとかしてみたいし」
「それが、孫君達防寒具が無いらしいのよ」
「じゃあ、ターレスのを借りて行けばいいわ。孫君とクリリン君なら多分着られるだろうし。ヤムチャ君は天津飯君のを借りましょ」
「そう言えば、ゲロのじっちゃんやヨン達はどこ行ったんだ?」
「ゲロおじいちゃんなら、孫君達が会ったシルバーって人を強化した歴史改変者の魔力の波長を解析しているみたい。ヨン兄さんも一緒。
天津飯君達は桃白白様とランチさんと修行中。ラピスは……って、そう言えばラピスは?」
「ウーロンと撮影所だよ。パンプットのドラマで、あいつが出るシーンの撮影があるからね。多分、もうそろそろ帰ってくるんじゃないか?」
「ラズリは良いの?」
「あたしが出るシーンは昨日撮影したから、来週までないよ。双子だからっていつもセットって訳じゃないんだ」
「じゃあ、帰ってきたら二人も誘って行きましょうか。丁度、北に下見に行こうと思ってたところだし」
そう言いながらタイツがテーブルに置いた荷物には、大学から借りて来た本があった。それは多くが経済や観光業に関する本だった。
〇ストリートパフォーマー
原作コミック、アニメに登場。パンチングマシーンの方はアニメのみ。
この作品では悟空達の知名度が高いので、顔ばれしてしまい挑戦できなかった。しかし、悟空の代わりにプーアルが賞金を獲得した。
〇ミクロバンド
ブルマの世紀の大発明の一つ。活用すればサイヤ人の食糧問題や、タイムマシンに大勢が乗れない問題などを解決する事が出来る。
また、小さくなっても肉体の耐久力は変わらないようだ。原作でミクロバンドを使用したブルマが、パンチー夫人に踏まれていたが、ブルマは圧死するどころか怪我一つしなかった。
小さくなっている間に食べた物も、元の大きさに戻る際に一緒に大きくなる、というのはこの作品の独自設定になります。
体内に入った物の大きさが変化しない場合、作中で書いたように小さくなる時に胃腸に内容物があった場合内臓が破裂して死にそうだなと思ったので。
〇戦闘力推移
タイツ:5665→7081
神城陣代様、佐藤東沙様、クラスター・ジャドウ様、くるま様、KJA様、タイガージョー様、Paradisaea様、garaasaa様、和田白玉様、kiyo0084様、ずわい様、gsころりん様、都庵様、みえる様、誤字報告ありがとうございます。早速修正しました。