ドクターゲロに転生したので妻を最強の人造人間にする 作:デンスケ(土気色堂)
再び時間をやや巻き戻し、ターレスが瞬間移動でタイツの下に駆けつけた頃、悟空達はメタリックを調べるというブルマを三階に残して、四階に進んでいた。
「なんだ、ここは? とても建物の中には見えないぞ」
マッスルタワーの四階は、日本家屋風の家や庭園、池や菜園が広がる空間となっていた。
「屋内庭園って奴か? 家まであるが」
「ここ、軍の基地だよな?」
「フッフッフ、これは雪国に慣れていない将兵の精神的リラックス効果と、新鮮な食材を手に入れるための菜園と淡水魚の養殖場を兼ねているのだ」
その時、不意に聞きなれない声が近くからした。
「淡水魚の養殖場って、近くに湖もあるだろ。そこじゃ魚は獲れないのか?」
「いや、釣れない事は無いが夏以外は氷に覆われているそうなので、漁は一苦労だから、ナマズや鯉をここで養殖……って、何故平然と話しかけてくる!?」
「そこにいるのは見ればわかるからな」
ラピスが視線を向けた先には、派手な星条旗柄の布があった。
「なんだと!? しまったっ、布の裏表を間違えてしまった!」
布の内側から慌てた様子の男が顔を出し、自身の失態にやっと気が付く。
「ばれてしまっては仕方がない! 謎の忍者パープル改め、ムラサキ曹長見参!」
そして、直前までの間抜けな失敗などなかったかのように名乗りを上げて構えるムラサキ曹長。
「薄々予想はしていたが、お前もレッドリボン軍の軍人だったのか!」
「……誰だ?」
「悟空っ、予選で敗退した人だよ! シルバー達と同じで敗者一決定戦に出てないから、覚えてないだろうけど」
やはり悟空はムラサキ曹長の事を覚えていなかった。
「そっか。でもよ、残りの四人は出て来ねぇんか?」
「なっ!? 残りの四人とは何のことだ!?」
「隠れてる四人の事だよ。ばれてるから、早く出てきな」
悟空だけではなくラズリにも言われたムラサキ曹長達は、誤魔化すのは無理と諦めたのか隠れていた全員が姿を現した。
「あれだけ気配を消していたのに気づかれるとは」
「やはり、ボンゴ大尉の言っていた事は本当だったか」
「気とはまったく忍者殺しだな」
「うわっ!? おめぇら五つ子か!?」
しかし、隠れていた四人全員がムラサキ曹長と全く同じ姿だと思わなかったのか、悟空達はかなり驚いた。
「ま、まさか四身の拳!?」
「いや、変装じゃないか? もしかしたら、俺やプーアルみたいに化けてるのかも」
「ほぅ、これが忍術ってやつか。やるな」
「「「「「いや、我々はただの五つ子だ」」」」」
原作では分身の術と言って悟空を騙して翻弄したムラサキ曹長達五人兄弟だったが、気を隠せないためこの歴史の悟空達には存在がバレバレだった。
しかし、驚かす事は出来たようだ。
「当初の予定では分身の術と偽り、本物を当ててみろと無茶なクイズを出題するつもりだった……」
「ばれてしまっては仕方がない。こうなったらすごろくで勝負だ!」
「ババ抜きやしりとりでもいいぞ!」
「お前ら、また時間稼ぎするつもりだろ」
「二階の村の人達はともかく、お前は天下一武道会の予選に出場していたじゃないか」
「「ふはははっ! 忍者たるもの、尋常な勝負にはこだわらん!」」
悟空とクリリンに口々に言われるが、高笑いをあげるムラサキ曹長達。
「しかし、勝負が断られた以上は仕方ない」
「いざ、尋常に勝負!」
だが、このまま戦闘以外の勝負を強制しても悟空達が納得しないだろうと思ったのか、方針を切り替えて背中に背負った忍者刀や手裏剣を構える。
「よし、行くぞっ!」
「くらえっ、閃光手榴弾の術!」
だが、『尋常に』勝負するつもりはなかったようだ。悟空が嬉々として挑みかかろうとした瞬間、ムラサキ曹長は閃光手榴弾を投げつけて来た。
「くっ!」
「しまったっ!」
目を庇う悟空達。ムラサキ曹長達は彼らに向かって……行かずに、後ろに下がって距離を取り、そのまま逃げようとした。
「さあ、逃げに徹する我々に追い付けるかな!?」
「五人全員を倒さなければ、勝負に勝ったとは見なさんぞ!」
忍術による攪乱やパーティーゲーム勝負の次の手は、なんと鬼ごっこだった。時間制限付きの勝負中に、真っ向勝負では勝てない相手に対して行う勝負としては、なかなかいい作戦だ。
「待て、兄弟! それは偽物だ!」
「なんだと!? 馬鹿な、俺達が七人いるだと!?」
しかし、閃光手榴弾の光が消えた時、四階には七人のムラサキ曹長がいた。
「逆に奴等が二人少なくなっているぞ!」
「そうか、確かあのウーロンとプーアルという奴は他人の姿に変身できたはず。それで俺達に化けたのか!」
そう、七人に増えてしまったムラサキ曹長達だが、それが誰の仕業によるものかすぐに気が付いた。だが、誰が偽物なのかはすぐに見分ける事が出来ない。
この歴史のウーロンは俳優として働くために、初めて会った人物でも短い時間観察するだけで瓜二つに化けられるようになっている。見分けるのは至難の業だ。
「おいっ! お前らっ、怪しいぞ!」
「な、なにっ!?」
「本物なら俺の名前を言ってみろ! 本物なら分かるはずだ!」
だが、それを制するように七人の中の一人が、比較的端にいた二人を指さし、自分の名前を言うよう迫った。
「確かにっ! 奴らは俺達の名前を知らないはず!」
「ここに来たのも天下一武道会の後だから、村人達ともまだほとんど話した事がないからな!」
そう納得する残りの四人。悟空達に名乗ったのはムラサキ曹長のみで、他の四人……コン、チャ、アカ、アオは名乗っていないため、彼らの名前を知る者はいないからだ。
「だ、ダメだっ、ヤムチャ様、失敗しましたー!」
そして堪忍したのか、怪しいと指さされた二人の内一人が変化を解いた。彼はプーアルが化けていたのだ。
「おおっ、と言う事は残り一人はウーロンという役者の小僧!」
「忍者を化かそうとは十年早い!」
「ま、待てっ! 俺は……!」
「「「「問答無用!」」」」
そのままウーロンが化けていると睨んだ一人に四人で襲い掛かると、殴る蹴る……ではなく、関節技をかけて身動きを封じた後、締め技で失神させた。おそらく、正体がウーロンだから大きな怪我をしないよう彼らなりに加減したのだろう。
「これで偽物は捕まえたぞ」
「しかし、お前ら、私が言うのもなんだが助けなくて良かったのか?」
そう口々に言うムラサキ曹長達四人だが、悟空やヤムチャは彼等以外の一人を感心した様子で見ていた。
「すげぇな、ウーロン。すっかり化けるのが上手くなったな」
「ああ、二年前は豚鼻の桃白白に化けてたのに。人に化けるのに関しては、もうプーアルより上手いんじゃないか?」
「「「「な、なんだと!?」」」」
驚くムラサキ曹長達の前で、「俺の名前を言ってみろ!」と要求した五人目の姿が煙に包まれ、代わりにウーロンが姿を現した。
「へへっ、伊達に映画やドラマに出演してないぜ」
そう、全ては作戦だったのだ。ウーロンとプーアルがムラサキ曹長に化け、ウーロンが故意にプーアルと本物のうち一人を怪しいと決めつけ、プーアルがそれを受けて正体を現すのも。
「ボクの方が化けていられる時間が長いんだから、ボクが騙す役でもよかったのに」
「いいだろ。活躍できるときに活躍しないと、俺がついて来た意味がないじゃないか。スノちゃんに自慢も出来ないしさ」
ウーロンが危険な役目を進んで行ったのは、ここにいないスノに自慢するためだったらしい。
「お前……まだ諦めてなかったのか」
「脈無いと思うけどな~」
「やかましい! よくも騙してくれたな!」
呑気な様子のラピスやクリリンの態度に、ムラサキ曹長達の内三人が激高した様子で詰める。
「ま、待て、兄弟達! 段取りを忘れるな! ……くっ、致し方ない!」
冷静さを保っている一人が咄嗟に引き留めるが、怒りで逃げるのを忘れた三人が耳を貸す事は無かった。
「はっ!」
「間合いに入ればこっちのもんだ!」
「ほらよっ」
そして、三人は十秒と持たず倒されてしまった。ムラサキ曹長達の戦闘力は80で、その実力は原作で亀仙人の修行を受けた悟空と互角だ。しかし、この歴史のクリリンやラピス、そしてラズリの実力はそれよりもだいぶ高い。
「さて、残りは一人……って、何処だ?」
「さっき、階段を上がっていっちゃいましたよ」
「おいおい、番人が階段を上がって逃げるなんてありかよ? ホワイト将軍よ、この場合はどうすればいいんだ!?」
『あー、うん、そうだな。番人が自分から階段を上がって逃げた場合は、お前達も上がっていいぞ』
若干投げやりにルールの変更を許可するホワイト将軍だが、彼も彼で大変だった。悪の宇宙人が、彼の管理している基地の中に謎の怪物を連れて来て暴れさせたせいで。
「俺はこんな勝負をしている場合なのか? ドラゴンボールは重要だが、悪の宇宙人に好き勝手されている現状に対処する事を優先するべきなのでは?」
「まあ、焦るな、将軍。将来の事も大切だが、足元を疎かにするのも良くないぞ」
「ああ、そうだな。考えてみれば、悪の宇宙人に対処するのを優先といっても、何をしていいか俺には分からんのだし。……とりあえず、報告書を書く準備をするか」
こんな事をマッスルタワーの六階でジングル村の村長と話している。
そして悟空達の不意を突いて逃げ、階段を駆け上がったムラサキ曹長は固く閉められたドアをけ破るような勢いで開いた。
「3号っ! サイボーグ3号! 出番だぞ!」
その部屋の中にいたのは、サイボーグ3号こと、人造人間8号である。
「ムラサキ曹長? 出番って、俺、ホワイト将軍から部屋で待機するようにと……」
原作では四階の牢に入れられていた8号だが、この歴史の彼は人間の兵士と同様に個室を与えられていた。
そして、最初から戦力としては期待されていなかったため、ホワイト将軍は彼を勝負に参加させるつもりはなかった。
そのため、8号はベニヤ板を使って五階の一部に迷路を建設した後は待機を命じられていたのだ。
「貴様の装甲はメタリック以上だとフラッペ殿から聞いている! この名刀新ササニシキでも、人工皮膚の下の装甲には傷一つ入れられないとな!」
その8号をムラサキ曹長は戦力として引っ張り出すつもりのようだ。
「でも、俺、戦うの恐い」
「戦わなくていい! 貴様の頑丈さなら、迷路の入り口に立っているだけで十分だ。それだけで十分時間を稼げるはずだ」
儂(フラッペ)はレッド総帥達に8号のスペックを説明する時に、カッチン鋼の名称は使っていない。しかし、メタリック軍曹の装甲よりも堅牢である事は説明していた。また、力が強い事も。
ムラサキ曹長はその堅牢さに期待しているようだ。確かに、勝負ではマッスルタワーを壊してはいけないルールなので、壁や天井を破壊できない以上、8号が通路の狭くなる迷路の入り口で立ち塞がれば、悟空達は先へ進めないだろう。
「で、でも俺……」
「貴様もジングル村の連中は好きだろう!? 勝負に負けたら、このマッスルタワーは用済みになって貴様は他の隊へ移動だ! それは嫌だろう!?」
「それは、嫌です」
「そうか、なら任せたぞ!」
その場の勢いと口から出まかせで8号をその気にさせたムラサキ曹長は、迷路の先に行ってしまう。8号はやや唖然とした様子でそれを見送っていたが、素直に自分が作った迷路の入り口に立った。
「誰かいたぞ!」
「この階の番人だな! オラに任せとけ!」
そして、四階で出番のなかった悟空が8号の前に躍り出た。気が無い事からロボットだと見て取った悟空は、メタリック軍曹にしたように思い切り彼に向かって殴りかかった。
「こ、ここは通さない――うわっ!」
その勢いに驚いて8号は思わず目を瞑って顔を両手で庇ってしまう。8号の装甲なら悟空の拳が当たったところで痛くも痒くも無いのだが、分かっていても恐いものは怖いのだろう。
「……あれ?」
しかし、いつまでたっても8号が恐れた衝撃はやってこなかった。
「なあ、おめぇ、もしかして戦うつもりねぇんか?」
何故なら、悟空が途中で殴るのを止めていたからだ。舞空術を使って空中に浮いたまま止まっている彼に、8号は目を瞬かせた。
「う、うん。俺、戦うの嫌い。誰かを傷つけるの、良くないと思う」
「そっかー。じゃあ、オラもおめぇと戦うのやーめた」
「お、おい、悟空。そいつロボットだぞ」
戦うのを止めてしまった悟空に、後ろのヤムチャがそう指摘するが、悟空はきょとんとした顔で振り返った。
「ん? それがどうしたんだ?」
「いや、だから……分かったよ。確かに、そいつからは戦意は感じられないからな」
ヤムチャもそう言うと肩の力を抜いた。向かってきたメタリック軍曹とあまりに違う様子や、悟空に対して怯えたような反応から、彼も8号に戦意が無い事に納得したようだ。
「ありがとう。俺、は……サイボーグ3号」
「そっか。じゃあ、サンちゃん……だと、チチの母ちゃんと同じだからややこしいな。サイちゃんでいいか? オラは――」
「孫悟空、知ってる。他の人達も」
「そっか。じゃあ、サイちゃん退いてもらえるか?」
「それは……ダメ。俺、皆で建てたこのマッスルタワーが捨てられる、防ぎたい」
「んー、ダメかぁ。どうすっかな。壁を壊しちゃなんねぇって約束だしな」
「これ、ベニヤ板で出来てるぞ。即席の壁を立てて道を狭めたのか」
「あんた達、こんなところで何やってるの? またクイズでも出された?」
「その人は? 気が無いからロボットみたいだけど……凄いわね。メタリックといいその人といい、お爺ちゃんの人造人間みたいに高性能じゃない。見ただけだと人間にしか見えないわ」
どうするかと悩んでいる所に、メタリック軍曹を調べ終えたらしいブルマと、ブヨンを倒した後タワー内に戻って階段を上がってきたタイツが現れた。
「お、やっぱり無事だな。ところでターレスは?」
「外でお爺ちゃんと一緒に待ってるわよ。ターレスは勝負の参加者じゃないから、遠慮してもらったの」
ターレスはマッスルタワーの外で勝負が終わるのを待っている。儂はタイムパトロールのトランクスとドミグラの戦いを観察している。
「なるほど。瞬間移動で移動しようとすると、ベニヤ板で通路が狭くなっているから、壁を壊しちゃうかもしれないわね。ベニヤ板を壁ってするならだけど」
「じゃあ、ミクロバンドを使いましょうか。皆、集まって」
ブルマがミクロバンドを操作すると、多人数用ミクロバンドに集まった悟空達も含めて全員が小さくなった。
「わわっ!」
驚く8号の足元を乗り越えて、悟空達は彼の後ろに抜けてしまった。
「どう? これで問題無いでしょ」
「う、うん、無い。あ、危ない!」
8号の視線の先では、迷路の角から現れたムラサキ曹長が片手に黒い球状の何かを振り上げていた。
「よっと」
「えっ? ぐわ~っ!?」
しかし、タイツに無造作につかまれるとそのまま迷路の別の通路に投げ捨てられてしまった。その先で持っていた球体から出た煙に包まれた。
「何かの毒か!?」
「フォトンシールド」
ムラサキ曹長を投げ飛ばした方の通路をフォトンシールドで蓋をして、煙が来ないようにした。そして、一分も経つ頃には、ムラサキ曹長は倒れたまま眠っていた。
どうやら、煙には睡眠薬が含まれていたらしい。
「ふう、こいつもやられちゃったし、あんたもついてくる?」
「そうする。ホワイト将軍が無茶をしないか心配」
そして8号も一行に付いて行く事にしたのだった。
一方、六階ではホワイト将軍が戦う準備をしていた。
「何も将軍自ら戦わなくてもいいだろうに」
「心配してくれるのはありがたいが村長、将軍だからこそこのままでは負けられんのだ」
そう言いながら、シルバー大佐と同じボディースーツを着て、支給されているパワードガンを手に取る。
ホワイト将軍の実力は、そのシルバー大佐はもちろん、ムラサキ曹長と比べても大きく劣る。数字にして30ぐらいだろう。戦っても……それどころか、運よく不意を突いてパワードガンの連射を命中させる事が出来ても、勝てない事は彼にも分かっている。
「それに、あと十分どうにか逃げ隠れすれば俺の勝ちだ。万が一と言う事もある」
「そうか……サイボーグ君の事は怒らんでやってくれよ」
「分かっている。あれは勝手に3号を連れ出したムラサキ曹長の責任だ。起きたら始末書を書かせてやる」
ホワイト将軍は彼のスペックを知っていた。しかし、五階の広間をベニヤ板で即席の迷路に改装するだけで、番人や障害物として使おうとは考えなかった。
明らかに向いていない事が分かっていたからだ。
(ドクター・フラッペの最新兵器でなければ、ジングル村に置いて行ってやった方が奴のためかもな。……いや、俺はロボット相手に何を考えてるんだ。まったく、奴は軍の装備だぞ)
いつの間にかジングル村の村人達と仲良くなっていた8号に、自分も思ったより絆されていたのだろうか。そう思って苦笑いを浮かべたホワイト将軍は、マッスルタワー最上階の番人として、五階から登ってくる悟空達の前に立とうとした。
『ガ!?』
その時、禍々しい気……キリがホワイト将軍を包み込んだ。
結界内でトランクスと戦うドミグラは、粘り強く交渉を続けたが、彼と彼越しに話を聞いているはずの時の界王神の反応は良いものとは言えなかった。
(ブヨンが元の歴史に戻って時間が過ぎている。そろそろ潮時か。交渉は別の機会にするとしよう)
トランクスが振るう剣を杖で受け止め、蹴りを回避しながら、ドミグラは周囲の状況を把握していた。
トランクスだけなら、全力を出せば勝つ自信がある。しかし、ここにベジータや悟空が加わったら分が悪くなる。今回は他の歴史から助っ人を連れて来ていないし、リスクを冒してまで戦う局面ではない。
「だが、退く前に歴史の修正を手伝ってやろう」
「好きにはやらせない!」
「もう遅い」
トランクスの剣と杖で力比べをしながら、ドミグラは魔術で本来の歴史ならここで敗れるはずの男にキリによる強化を施し、それにトランクスが気を取られた隙を突いて空間に門を開いて逃げていった。
「しまった! ……この気の大きさは、今の伯母さんでも無理だ。俺が倒してきます!」
『待ちなさい! 今から結界を張り直していたんじゃ間に合わないから、ゲロに任せなさい! ゲロ、あなたと人造人間達ならどうにかなるはずよ!』
『確かに。この程度なら8号がどうにかするでしょう』
そう二人にテレパシーで答えつつ、儂がマッスルタワーの様子を見ていると、上の方の壁を突き破って誰かが吹っ飛んで行った。
「おい、爺さん、ヤバいんじゃないのか?」
事情を知らないターレスがそう言うが、儂は「大丈夫だ」と頷く。
丁度その時、吹っ飛んで行った誰か……8号は背中のブースターを吹かして高速でマッスルタワーに戻るところだった。
「ついに最上階――なんだ、このでっかい気は!?」
「お爺ちゃんやヨン兄さんより大きいっ!」
マッスルタワーの最上階に踏み入れた悟空達は、突然膨れ上がったホワイト将軍の気に驚愕した。
「ま、待つんじゃ、ホワイト将軍!」
『ガアアアア! ドラゴンボールは、俺の物だ!』
そして、ジングル村の村長の声を怒鳴り声でかき消しながら、壁を壊しながらホワイト将軍が姿を現す。
その気の大きさは約10万。現時点の地球では、スピリットブーストを発動させた儂や儂が創り、改造した人造人間でなければ対抗できない強さだ。
「皆っ、逃げるわよ!」
タイツとブルマが瞬間移動で全員を逃がそうとするが、人数が多すぎてとっさにはできない。
「止めてください、ホワイト将軍!」
その時、前に出たのが8号だ。迷わず前に出た彼の視界いっぱいに、ホワイト将軍の拳が広がる。
「っ!」
次の瞬間、8号は背後の壁を破ってマッスルタワーの外に吹っ飛ばされていた。ホワイト将軍は自分の事が分からなくなるほど、我を失っているようだ。これも、悪の宇宙人……歴史改変者によって操られているからだろうか。
「……良かった。殴られたの、俺だけ」
冬空を殴り飛ばされながら8号が確認したのは、悟空達が巻き込まれていないかどうかだった。しかし、安堵する間もなく、怒りが湧き上がってくる。
「このままだと、孫悟空達が危ない!」
彼らと会ってから、僅かな時間しか過ぎていない。しかし、悟空は自分の気持ちを汲んでくれた。他の皆も、彼と戦おうとはしなかった。ジングル村の人達と同じ、優しい良い人達だ。
そして、何より許せない。
「よくも……!」
そう思った時、8号は自身のセーフティーを解除していた。永久エネルギー炉の出力が、一千倍に跳ね上がる。
背中のブースターを作動させ、急いでマッスルタワーに戻った。
「サイちゃん!?」
そして、驚く悟空の横を通り過ぎる。
「よくもっ、ホワイト将軍を操ったな!」
『ぐお!?』
そして、怒りのままにホワイト将軍を殴り返した。戦闘力が300から、30万に跳ねあがった8号の拳を受け止める事は出来ず、しかし背中が壁につく前に足を踏ん張って堪えるホワイト将軍。
「ホワイト将軍!」
8号はホワイト将軍を尊敬していた。孫悟空と比べると口は悪かったが、彼も、そして彼の部下達も8号の気持ちを汲んでくれた。
村人達とも良い関係を築いていたし、ドラゴンボールを手に入れるために村人を人質にしたり、8号を無理やり戦わせようとはしなかった。
ホワイト将軍本人に聞けば、「いや、それは買いかぶり過ぎだ。メタリックもいるし、戦う気のない奴を戦わせる意味は無いと思っただけだ」と答えるだろう。しかし、彼と彼の部下達は工兵としての8号の働きに感心していたし、信頼もしていた。
それは8号に伝わっていたのだ。
そんなホワイト将軍が、情報でしか知らない歴史改変者に正気を奪われて利用されているのが許せなかった。戦うのが嫌いな8号に、ホワイト将軍を正気に戻すには倒すしかないなら、戦うと決心させるぐらい。
『邪魔をするなぁ!』
ホワイト将軍が手に気を集中させ、8号に向かって気弾を放つ。爆発すれば、マッスルタワーどころか周辺の土地が吹き飛ぶ威力が込められている。
「ホワイト将軍を、返せ!」
その気弾を無視して、8号は右腕を飛ばした。メタリック軍曹と同じロケットパンチだ。
『っ!?』
そして8号の右拳は、回転しながら突き進みホワイト将軍の気弾を貫いて彼の頬を殴り飛ばした。
あまりの衝撃に、ホワイト将軍の体が大きく揺れる。しかし、彼の体を包む禍々しい気、キリはまだ健在だ。
彼が体勢を立て直す前に、8号は左腕を右腕の残っている部分に挟むようにして外し、両腕の先を彼に向ける。
「ヘルズフラッシュ!」
『ぐおおおおっ!?』
一度は踏みとどまったホワイト将軍も、これには堪らずマッスルタワーの壁を破って吹き飛ばされてしまった。
「がはっ!? うっ……な、何が起きた? ここは?」
そして墜落したホワイト将軍は、雪山に積もった雪にめり込んで正気を取り戻した。悟空一行を迎え撃とうとしたところから、彼の記憶は途切れていた。目にも止まらぬ速さで殴り飛ばされ、マッスルタワーの外まで吹き飛ばされたのだろうかと、周囲を見回す。
混乱したホワイト将軍だが、彼の傍に8号が降り立った。
「ホワイト将軍! 大丈夫ですか!?」
「サイボーグ3号? なんでお前が? いや、それよりも何が起きた?」
「その、ホワイト将軍は歴史……悪の宇宙人に操られて暴れ出して、だから俺が止めました」
「お前がか!?」
悪の宇宙人の事を8号が知っている事には、ホワイト将軍は驚かなかった。彼を開発したフラッペが刷り込んだ情報の中に有ったのだろうと思ったからだ。
驚いたのは、彼が暴走した自分を正気に戻した事だ。現在、悪の宇宙人に操られた者を正気に戻すには、倒す以外の方法がない。そして、悪の宇宙人に操られた者は本来の数倍以上の力を発揮する事が知られている。
(防御力はともかく、力はメタリック軍曹以下で、戦闘は全くできないはずのこいつが? いや、それよりも……)
ホワイト将軍は8号の手を借りて雪から身を起こしながら尋ねた。
「それより、村長は無事か? けが人は出ていないだろうな?」
「無事よ! みんな無事!」
そこに、悟空達を最上階に残してきたタイツが瞬間移動で現れた。
「暴走したあなたが殴りかかってきた時、サイちゃんが庇ってくれたから怪我一つしてないわ。マッスルタワーには大きな穴が二つ開いちゃったけど、ルール違反だなんていわないでよね」
「そうか。……ああ、壁を壊したのは俺達だからな」
非戦闘員の村長が無事である事を知って、ほっと安堵するホワイト将軍。そんな彼に、8号が頭を下げた。
「すみません、ホワイト将軍。俺、ホワイト将軍が勝つために力を使う事は出来ませんでした」
その言葉から、ホワイト将軍は8号が自身の性能を隠していた事を察した。とはいえ、彼を怒る気にはなれなかった。……彼の本来の性能を知っていたのに黙っていただろうフラッペに対しては、後で問い詰めてやると決めていたが。
「はぁ。戦いが嫌いな事は本当なんだろう? だったら、貴様が孫悟空達と戦っても勝てなかったはずだ。泣き落としとかに引っかかってな」
「うっ!」
戦闘力30万相当で、装甲にカッチン鋼を使用されている8号が普通に戦えば、今の悟空達は……タイツが全力を出しても、一方的に倒されてしまうだろう。
しかし、ホワイト将軍が指摘したように純粋で優しすぎる性格が勝負には全く向いていない。泣き落としを仕掛けられたら、あっさり戦意を喪失して精神的に負けてしまう可能性があった。
「だが、前後不覚に陥った上官を殴り飛ばして被害を最小限に抑えるなんて、並みの兵士にはできない働きだ。
よくやった。勲章物だ」
「将軍……!」
「あの~、悪いんだけど、勝負はあたし達の勝ちでいいのよね?」
「あ、ああ。もちろんだ」
「じゃあ、相談があるんだけど――」
その後、ホワイト将軍は事前に取り決めた情報や食事の提供以外にも、様々なお願いをきく事になったのだった。
マッスルタワーからの定期連絡で、緊急事態が判明したと情報部から報告を受けたレッド総帥は、ブラック補佐と共に直接ホワイト将軍に応対した。
「それでホワイト、貴様の横にいるのはドクター・ゲロに見えるのだが、何があった」
『申し訳ありません、総帥。我がホワイト隊はGCコーポレーションに捕虜に取られました』
「捕虜だと!?」
『正確には、GCコーポレーションではなくタイツ達の捕虜だがな。レッド総帥』
画面に映っているホワイト将軍とドクター・ゲロを見つめながら、ブラック補佐はふと違和感を覚えた。捕虜に取られたと自己申告しているホワイト将軍より、ドクター・ゲロの方が憔悴しているように見えたのだ。
ただ、そう思っただけなので口には出さず、ゲロとの交渉を始めたレッド総帥を補佐するために意識を切り替えたのだった。
〇戦闘力推移
・ホワイト将軍(ダーク):30→(ダーク時)10万30 素の状態で悟空達と比べなければ十分超人的と言える強さ。原作劇場版の『魔神城の眠り姫』のルシフェルよりやや強い。
ドミグラによって強化され、戦闘力10万30に。タイツがスピリットブーストを使用してもまず勝てない強さ。8号がセーフティーを解除する以外の方法で勝つには、ターレスが大猿化するか、ゲロがスピリットブーストを使うしかない。
・8号(サイボーグ3号):300→30万 戦闘は嫌いだが、出会ったばかりだが良い人揃いの悟空達を守るため、ホワイト将軍ダークを倒して彼を正気に戻すために、かけられえていたセーフディーを解除、通常モードの戦闘力30万相当の力で戦った。
なお、まだ一つセーフティーを残している。それを解除した場合、戦闘力3千万相当の強さを発揮した後、短時間で機体が崩壊する。
〇マッスルタワー
この作品のマッスルタワーは、
・6階:最上階 ホワイト将軍の部屋や客室兼用の上級士官用の部屋、そして指令室等々の重要な施設がある。
・5階:サイボーグ3号の部屋や会議室、ゲストルーム(勝負中は、ベニヤ板製の壁の迷路が即席で創られた)
・4階:畑や魚の養殖場、和風の家もある。
・3階:屋内発着場。壁が開いて床がせり出す仕組み。なお、ホイポイカプセル化できるヘリや飛行機以外の運用は想定されていない。
・2階:兵士と下士官の生活スペース。部屋や食堂など。
・1階:多目的ホール
・地下:倉庫
となっています。
また、原作コミックではマッスルタワーは健在だったが、アニメでは8号がホワイト将軍を殴り飛ばした後倒壊した。
この作品のマッスルタワーは健在です。
酒井悠人様、Paradisaea様、PY様、佐藤東沙様、太陽のガリ茶様、gsころりん様、みえる様、誤字報告ありがとうございます。早速修正しました。