ドクターゲロに転生したので妻を最強の人造人間にする 作:デンスケ(土気色堂)
「それでお宝の分配と話し合いのためにここに寄ったと」
海賊のアジトから脱出した悟空一行とブルー隊は、一番近い島であるカメハウスがある小島に集まっていた。
「押しかけてしまってすみません。武天老師様」
「いや、それは構わん。水着ギャルが増えて嬉しいぐらいじゃ。それより気になるのはヤムチャ、お主……」
亀仙人はヤムチャにくっついているマロンに視線を移した。
「いやぁ、その、俺達、付き合う事になりました」
「マロンで~す、これからよろしくね」
亀仙人が気になっていたのは、マロンと彼女にくっつかれても固まっていないヤムチャだった。
以前のヤムチャだったら触れるどころか見ただけで石像のように固まったはずだが、今は水着姿のままのマロンに左腕を両手で抱きしめられている。
それなのに普通に話しているという事は、もうあがり症は治ったとみていいだろう。顔はかなり赤いので照れてはいるようだから、原作のようなプレイボーイにはまだなっていないようだが。
「ふ~む、荒療治の必要はなくなったようじゃな。まあ、結構な事じゃ。しかし……海賊のアジトで美女とのラブロマンスに大冒険にと、まるで映画のようじゃな。羨ましい。儂も付いて行けばよかったわい」
「やだ~っ、美女だなんててれちゃうっ!」
「そ、そうですよ、武天老師様。色々大変だったんですから!」
そう話す三人の横で、ブルマが回収してくれた海賊ロボの解析を行っている。
「なるほど。装甲は独自の合金を使っているようじゃな。他は全体的に旧式じゃが、独自の工夫がされていてかなり興味深い」
「でしょ? お爺ちゃんにはこっちの方がお宝だと思って持って来たんだから感謝してよね」
「うむ、良く持って帰って来てくれた」
ブルマの言う通り、儂にとってはこの海賊ロボットの残骸の方が同じ重さの金より価値がある。流石にそのまま機械ベースの人造人間に活かせる部分は無いが、研究の足掛かりになる部分はいくつもある。
8号の新しいボディを開発する際や、16号の設計にも役立つだろう。
「頭ぶっ壊しちまったけど、それでも何か分かるんか?」
「分かるんじゃよ。飛び散った部品の幾つかもブルマが持って来てくれたからの」
「へぇ、すげえなぁ」
「それよりも悟空、お宝の方はいいのか?」
「お宝か~、オラ、ターレス兄ちゃんとラピスとのジャンケンに負けちまったからなぁ」
浜辺の方ではパスタとタイツがお宝の取り分を巡って話し合いをしている。ドラゴンボールを巡って改めて決闘、という話にはなっていない。
何故なら、海賊のアジトでの戦いで、ブルー将軍達が悟空一行とのレベルの違いに気が付いたからだ。
……マロンが使えるならまだ決闘も考えたかもしれないが、彼女がヤムチャにべったりしているのを見て諦めたらしい。
「考えてみたら、財宝ってそんなに欲しくないわね」
そして、お宝の取り分もあまり揉めていなかった。タイツ達があっさり引いたからだ。
「えっ? 正気? お宝だよ?」
「そうだぞっ! 集めるのに苦労したんだからな!」
タイツに思わず聞き返すパスタと、食ってかかるウーロン。
「そうなんだけど、ほら、あたしってGCコーポレーションの社長令嬢だし」
しかし、タイツはお金持ちのお嬢様だった。
「俺はこれでいいぜ。金には不自由してないからな」
そしてターレスは、なんと骸骨キャプテンが被っていた船長帽を手に入れて満足していた。あのアジトを根城にしていた海賊の正体が分かれば骨董品的な価値も出るかもしれないが、現状ではただの記念品。財宝と呼べるものではない。
しかし、元々財宝ではなく冒険そのものに価値を見出していたターレスにとっては、その記念品こそ宝だったようだ。彼は映画やCMに出演しているため、言葉通り金に不自由はしていない。……というか、未成年の彼の生活費は、食費も含めて全て親である儂が出している。
そして映画の出演料などは、しっかりターレス名義の口座に振り込んである。
「帽子を逃したからな。俺は他に何か貰うぞ」
一方、ジャンケンで悟空に勝ったもののその後にターレスに負けて船長帽を手に入れ損ねたラピスは、パスタ達が集めて来たお宝を見回した後、二つの物品を手に取った。
「これと、これを貰おうか」
「……いいよ、持ってきな」
お宝の山から勝手に選び取って持って行くラピスだが、パスタもウーロンも文句を言わなかった。何故なら、彼が手に取ったのはホルスターに入った銃と、海賊旗だったからだ。
海賊が使っていた銃はまさしく骨董品。ホルスターは上物で装飾も施されているが、山ほどある金貨の内、数枚分の価値も無いだろう。
海賊旗の方は、ウーロンが念のために持って来ただけで、ただの布製であるため船長帽同様に記念品だ。
「あんなもんを金貨や宝石より欲しがるなんて、金持ちは理解できないね」
「あいつら、ガキだな」
そんなラピス達を呆れた様子で眺めるパスタとウーロン。まるで相棒同士のように息が合っている。
「そうね。あたしもなんだか冒険が終わったらそれで満足しちゃった。全く要らない訳じゃないけど」
「オラもちょっといるだな」
「オラは別に……」
「悟空さっ、ブルマさん達にお金を借りに行ったのを忘れただか!?」
「っ!? 今の無しっ! オラもお宝分けてくれっ!」
しかし、ブルマ達はちゃんと価値のある物を欲しがった。悟空はチチに痛いところを突かれて、慌てて前言を翻した。だが、それでもブルマ達が手にしたのは全体の一割も無い量だった。
チチはフライパン山周辺の地域を治める牛魔王の娘だし、悟空を注意したのもお金の大切さを理解してほしいからだ。ラズリも「現金の方がいいし、あんまりあるとパパにねだり難くなるから」と言っていた。
原作の宝箱一つではなく、アニメ版の周囲の壁も覆う程の大量のお宝だったので、それでも十分すぎる収入だが。
「じゃあ、分ける前に記念写真でも撮っておくか」
「賛成! ほら、ランファンちゃんパスタちゃんもこっちこっち」
「あのさ、何度も話したけどあたしはお尋ね者なんだけど?」
「随分仲良くなったじゃないの。そのままここに残るなんて言うんじゃないでしょうね?」
そこに、通信でレッドリボン軍本部に報告を終えたブルー将軍が潜水艦から出て来た。
「本部はなんて言っていた?」
「命令があるまで待機せよ、よ。はぁ……レッド総帥が思い悩んでおられるのがスピーカー越しに伝わって来て、胸が痛むわ」
「いや、お宝に関して何か言っていなかったのか?」
「何も言われなかったわよ。ボンゴ、パスタ、懐に入れるならほどほどにしなさい。でも全部持ち逃げするつもりなら、マロンが義理の姉になると覚悟するのね」
「……サイボーグにされるのは御免だな」
それなりに親しいが、容赦なく釘をさしてくるブルー将軍の言葉に冷や汗をかくと、ボンゴは相棒にほどほどにしろと目配せをし、パスタもそれに頷いた。
どうやら、残念ながら二人はサイボーグ……人造人間になりたくないようだ。
そして財宝を背景に悟空達が記念写真を撮っていると、カメハウスの中から不死鳥が飛び出してきた。
「亀仙人様、皆さま、大変です! テレビで大変な事になってます!」
「なんじゃ? エアロビの録画に失敗したか?」
「そうじゃありません! 大ニュースですよ、大ニュース!」
普段物静かな不死鳥が尋常ではない様子で騒ぐので、いったい何事かとカメハウスの中に集まった儂等が目にしたのは、テレビに映るブラック補佐の姿だった。
『全世界に告ぐ! この私、ブラックが今よりレッドリボン軍の新たな総帥となり、たった今から地球国政府に対し宣戦を布告する!』
「……はて?」
儂は思わず耳を疑った。分身をフラッペとして潜入させているが、そんな動きは一切なかったというのに。
その間にも画面にはブラック補佐……もとい……ブラック総帥は演説を続けている。
『前総帥であるレッドのやり方は生ぬるかった! 彼では軟弱な現政権を打倒し、地球を新しいステージに進めるにはあまりに力不足だった! 故に、私は自ら立つことにした! これはクーデターではない、革命である!』
「そんなっ! 噓でしょ!?」
最初に驚きを声に出したのは、ブルー将軍だった。
「あのマッド野郎のフラッペや成り上がりのオレンジならともかく、レッド総帥に最も忠実で古株のブラック補佐が裏切るなんて!? レッド総帥は、レッド総帥はご無事なの!?」
「おいおい、落ち着け、それはただのテレビじゃ」
動揺のあまりテレビを掴んで画面に向かって怒鳴り散らすブルー将軍を、思わず亀仙人が宥める。見ると、レッドリボン軍に入って約二年しか過ぎていないボンゴとパスタも驚いた様子だった。
儂のように原作を知っているならまだしも、そうでないならブラック補佐の裏切りはそれほどあり得ない事だったのだろう。まあ、儂は原作を知っているからこそ信じ難いが。この歴史のレッド総帥は、原作のブラック補佐がいう「総帥の資格」を持つ男だからだ。
「なあ、誰かこのブラックっておっちゃんが何言ってるか分かるやついるか? オラ、さっきから考えてんだけど全然分からねぇ」
そんな中、悟空が呑気ともとられかねない質問をした。緊迫した空気が緩み、クリリンがやれやれと言った様子で口を開く。
「そりゃあ、悟空、レッド総帥って人のやり方じゃ満足できなかったから、自分が総帥になったって言ってるんだろ?」
「クリリン、そこまではオラも分かる。分かんねぇのは、その後の次のステージだの革命だのの部分だ。このおっちゃん、何がしてぇんだ?」
「そりゃあ……なんだろ? ラズリさん、分かります?」
「あたしに振るのか? そりゃあ……ええっと、『今までのやり方が気に入らないから、何か新しいやり方にする』って言ってるんじゃないのか?」
「ラズリさん、新しいやり方ってなんだべ?」
「それについては何も言ってないよ。長々とそれっぽく話しているだけさ」
そう、ブラック総帥の演説は具体的な事を語っていない。レッド総帥のやり方の何が生ぬるかったのか、現政権を倒して世界を征服した後、何をするつもりなのか、何も語っていないのだ。
次のステージや革命等の大げさな表現をそれらしく使って長々と話しているだけで、まるで中身が無い。
まるで、レッドリボン軍を乗っ取って世界征服をする事までしか考えていないか……本気で世界征服をするつもりがないかのようだ。
「もしや……」
儂は気が付いた点を、フラッペとして今の潜入している儂の分身に確認するためテレパシーを使って交信を始めた。
「あんた達のクーデターって、実行するのは王立国防軍に入り込んでからじゃなかったか?」
「そうよっ! そのはずだったのよっ! それなのに……!」
「なんか、勝算でもあるのか? サイボーグ5号や6号がもういるとか?」
「あるわけないじゃない! 5号と6号にはシルバーとバイオレットが志願してるけど、それだって昨日よ! フラッペもまだ改造プランも考え付いていないはずだわ!」
儂が分身と交信している間に、ラピスやヤムチャに尋ねられるままにブルー将軍は答えていた。よほど心が乱れているのだろう。
「確かに、勝ち目はないな。お前達に対抗できるサイボーグ1号と4号はここにいて、3号は捕虜になってるんだろ? 2号は……ともかく。そしてレッドリボン軍最強は新しい総帥に従うとは思えない状況だ」
「基地に残っている戦力は、帰還したシルバー大佐とバイオレット大佐、イエロー大佐、オレンジ将軍は……途中で逃げ出しそうだね。バトルジャケットはあるけど、メタリック軍曹より強いとは思えないね。
明日辺りに桃白白なりあんた達なりが乗り込んで、終わりじゃないか?」
ボンゴとパスタはやれやれと肩を落とした。二人にとってレッドリボン軍は、ほとぼりが冷めるまで仮宿として利用していた組織に過ぎない。居心地は悪くなかったし、給料も想定していたよりずっと高かったが、ブルー将軍程の思い入れは無かったので、受けたショックも軽かった。
ただ困っていない訳では無いようだ。
「これからどうする? まだほとぼりが冷めた様子は無いが」
「レッドリボン軍以外で隠れ蓑になりそうな組織ったって……スポンサーのギョーサン・マネーの所も、レッドリボン軍がこの様子じゃあ、ごたつきそうだしね」
「いっそ海賊のお宝を持ち逃げして人気のない山や森の中に潜伏するか? ブルーも素直に新しい総帥に従うつもりはなさそうだし、今の俺達の力ならどこででも生きていけるはずだ」
「お宝を抱えてサバイバル? 御免だよ、そんな生活じゃ、せっかくの宝石がただのインテリアにしかならないじゃないか」
「それもそうだな。どの道、こいつらには気とやらで居場所がばれるだろうから――そうだ、お前ら、レッド総帥がどうなったか、気で分からないか?」
ふと思いついた様子でボンゴが悟空達に問いかける。
「そうよっ! あんた達、レッド総帥がどうなったのか教えてちょうだいっ、総帥はご無事なの!?」
「悪ぃ。オラ、そのレッド総帥っておっちゃんに会った事がねぇから分からねぇ」
しかし、問われた悟空はレッド総帥の気を識別できないため彼の安否を判断する事は出来なかった。……オレガノと名乗っていたオレンジ将軍とは会っているはずだが、多分忘れているのだろう。
「シルバーやバイオレットなら分かるんだけどな」
「くっ、仕方ないわ。それでいいわ。二人に接触して、レッド総帥の救出と裏切り者の始末をしないと、桃白白やGCGに基地が更地にされちゃうわ」
「お爺ちゃん、レッド総帥が無事なのかお爺ちゃんならわかるでしょ? 教えてあげたら?」
「もう黙っている場合じゃないと思うぜ」
その時、ブルマとターレスがそう儂を促した。自然と周囲の視線も儂に集まる。
たしかに、そろそろ潮時だ。分身との情報交換も一段落ついたところじゃし、話すべきじゃろう。
「分かった。レッド総帥は無事じゃよ。気が小さくなっている様子もない。気絶させられただけのようじゃ。今、フラッペのラボにオレンジ将軍が運び込んだところじゃ」
「っ!? な、なんであんたがそんな事を知ってるの!? まさか、あのマッド野郎はあんたが送り込んだスパイ!?」
「いや、あのマッド野郎、つまりフラッペの正体が儂なんじゃよ」
「ええっ!? あの映画の悪役がゲロのじっちゃんだったんか!?」
「な、なんだとっ!? そんな馬鹿な!?」
事情を知っているブルマ達以外の全員が驚いて声を上げた。
「い、いったい何時から!?」
「最初からじゃ。フラッペというのは、元々儂が変装した架空の人物。こうやって分身を作り、瞬間移動で送り込んでいたのじゃよ」
そう言いながら目の前で四身の拳で分身を出し、その内一体と瞬間移動で部屋の右側から左側に移動させて見せた事で、とりあえず信じてくれたようだ。
「って、言う事は……まさか!?」
「は~い、実は人造人間7号だったランファンで~す」
「あたしは10号なんだって。あ、3号ちゃんが8号で、2号ちゃんのランチちゃんは9号よ」
「二人とも人造人間だったのか。どうりで強くなってたり、気が無いのに強いはずだ。って、ランチさんも人造人間なのか!?」
「どうりで……角が生えてたり腕が伸びたり、くしゃみで性格と髪と目の色が変わるなんておかしいと思ってたんだ」
「いや、最後のくしゃみで性格が変わるのだけは、改造する前からそうじゃ」
「ええっ!? そっちの方が驚きなんですけど!」?
「ええいっ、今はあんたの正体はどうでもいいわ! それよりっ、あんたがフラッペだって言うなら基地で何が起きたのか分からないの!?」
「分かっておる。分身との情報交換で分かった事じゃが――」
時間をやや巻き戻し……フラッペとして研究室でシルバー大佐とバイオレット大佐の検査を行って改めてデータ収集をしていた儂の前に、数名の部下を引き連れたオレンジ将軍が現れたのだ。
「オレンジ将軍、私のラボに入る前にはノックをして欲しいものだっぺ」
「そいつは悪かった。次の機会は無いだろうが、気をつけるよ。しかし……少しは顔色を変えてほしいもんだな」
彼と彼の部下は全員パワードガンで武装しており、銃口を儂に向けている。
「オレンジ将軍、何事だ?」
「おっと、シルバー大佐にバイオレット大佐、検査中に失礼。悪いが、更衣室までエスコートする事は出来ないから、検査着のままか俺達の前で着替えてくれ。いやー、すまんね」
「それより、何のつもり? まさかクーデターでも起こそうっての?」
薄手の検査着姿のバイオレット大佐に睨まれながら、話を進めるよう促されたオレンジ将軍は、肩をすくめて答えた。
「そうとも。ブラック補佐……ブラック総帥が今のレッドリボン軍のトップだ」
「な、なんだと!?」
「お前っ、冗談にしても下手過ぎるぞ!」
「いやいや、冗談じゃない。ほら、お連れしろ」
「はっ!」
扉からさらに兵士が担架に人を乗せて入ってくる。彼らに運ばれていたのは、なんとレッド総帥だった。
「レッド総帥!? 貴様!」
「落ち着いてくれ。レッド総帥は――」
「無事だっぺ。見たところ、気絶しているだけだっぺ」
そう、レッド総帥は気絶しているだけだった。外傷も確認できないし、顔色も悪くない。何より、気が小さくなっている様子もない。
「見ただけで分かるとは、さすがドクター」
「それより、どういうつもりだっぺか? クーデターを起こして総帥の座を手に入れた後も、レッド総帥を生かしておくのは分からなくもないっぺ。しかし、それを我々の前に連れて来る事は無いっぺ」
レッド総帥しか知らない兵器のパスワードがあるとか、将兵を従わせるための人質に使うつもりだとか、新総帥としての自分の力を誇示するために後日公開処刑を行うためとか、彼を今殺さない理由はいくらでも推測できる。
しかし、無防備に儂等の前に連れて来て見せる理由が不可解だ。
「それはもちろん、シルバー大佐とバイオレット大佐に、レッド総帥を連れて一旦基地から脱出してほしいからさ」
「っ!? まさかお前ら、クーデターって言うのは…!?」
「ああ、茶番さ。レッドリボン軍が生まれ変わるのに必要なお芝居だよ」
ブラック補佐は以前から、レッド総帥が世界征服を諦め、方針を大きく変える可能性がある事に気が付いていた。そして、方針を変えて体制側に付く時、そのままレッド総帥が総帥で居続けるのは難しいと考えていた。
何故なら、レッドリボン軍は世界征服を狙う大規模な傭兵団で、スポンサーのギョーサン・マネーもだからこそ今まで資金を援助してきたし、何より悪事もそれなりに行ってきたからだ。
この歴史のレッドリボン軍は、原作のそれと比べるとだいぶ善良だ。辺境においては王立国防軍や警察よりも頼りになる存在だ。しかし、叩けば埃はいくらでも出て来る。
「グルメス王国軍に潜入していた俺を通じて兵器を売っていた事や、指名手配されているボンゴの旦那やパスタの姉御を、そうと知っていて雇っていた事。
そして、目の前に本人がいるから言い辛いが、悪のマッドサイエンティスト、ドクター・フラッペに兵器の開発やサイボーグの製造までやらせている」
オレンジの言うように、儂(フラッペ)も埃の一部だ。
(もしや……ブラック補佐を追い詰めた責任の一端は、儂にもあるのか? いや、フラッペと同盟を結ぶ事を決断したのはレッド総帥じゃから……うーむ、しかし……)
騙している罪悪感も影響して、儂は悪くないとは言い切れない。こうなるといっそ、自己正当化を諦めて「儂も悪い」と認めた方が精神的に楽だし、前向きかもしれんな。うむ、そうしよう。
儂もブラック補佐を追いつめた一因である。
「……クーデター作戦の立案者がレッド総帥である事も、ホワイト将軍が捕虜に取られている以上漏れた可能性があるという事か」
「ああ。ホワイト将軍の忠誠心を疑う訳じゃないが、最悪の事態を想定しないとな」
「それで、ブラック補佐が全ての泥をかぶって退治されるってシナリオなのか。そこまで焦らなくても……」
「俺が国王の立場だったら、実行する前でもクーデターを企んだ男と手を組むのは躊躇うね」
「それで、具体的なシナリオの流れは決まってるのか?」
「ああ、今頃テレビ局に映像を流しているはずだ。地球国への反逆を宣言して、後は桃白白なりドクター・ゲロと人造人間なり、怒りに燃えたブルー将軍なり、適当な正義の味方に退治される。
その後で、あんたら二人が救出したレッド総帥が登場して、埃を払ったレッドリボン軍を統率して地球国政府とGCコーポレーションと協力体制を構築する。というのが理想的な流れだな」
多少基地に被害は出るし、虎の子のバトルジャケットも壊れるだろうが、そこは謝っておいてほしいとオレンジ将軍は苦笑いを浮かべた。
「オレンジ、お前はどうするつもりだ?」
「俺か? ブラック補佐が部下を出来るだけ残すために、兵は自分に脅されて従っていただけ、って事にするつもりらしくてね。おかげでクーデターを起こしたのに人手不足に陥ってる。だから、適当なところまで付き合うつもりだ。
仮にも将軍だからな、俺も」
「お前……まさか死ぬつもり?」
「そんな訳はないだろ。適当なところまでだ。ヤバいと思ったらさっさと逃げて、名前と顔を変えて何処かで悠々自適の隠居生活でも送るさ。金は十分あるんでね」
そう言うオレンジ将軍だが、実はブラック補佐からはシルバー大佐達と共にレッド総帥を連れて基地から離れるように言われていたと後になって判明した。
どうやら、オレンジ将軍のレッドリボン軍に対する忠誠心は本物だったようだ。
「それで、私はどうするっぺ?」
「ああ、ドクターは普通にこのまま大人しく捕まってくれ。あんたの技術力は悪の宇宙人と戦うのに必要だからな。なに、逮捕された後で直に協力すれば悪いようにはされないはずだ」
「おい、そんな気休めを……」
「いや、わりとマジだぜ。この悪のマッドサイエンティスト、調べた限り大したことはやってないんだ。廃工場やら空き倉庫に武器を集めてロボットを置いただけだったし、実際に襲撃した相手は悪党ばかり……とんでもない事をやってるのは映画の中だけだぜ」
オレンジ将軍はどうやら、情報部を統括する将軍らしく儂の事も調べていたらしい。
「まあ、軽犯罪とは言えないが、捕まっても懲役二十年ってところだろうよ。それにあんたの技術力があれば、司法取引ぐらい出来るだろう」
「なるほど。しかし、オレンジ将軍。君とブラック補佐の目論見通りにはいかないっぺ」
「おっと。抵抗するのは勧めないぜ。殺す気は無いが、しばらく寝て過ごす事になるぜ」
そう言うオレンジ将軍の前で、儂は変装を解いた。
「何故なら、私の正体は……ドクター・ゲロだからだ」
べろりと剥がれた特殊マスクを片手にそう言うと、儂以外の全員が目を丸くした。
「なっ、ええっ!?」
「どうりでドラゴンレーダーが作れたり、サイボーグシリーズが強かったりするはずだ」
「お、お前の方が裏切り者じゃないか!」
そして三者三様の反応を示す三人と、棒立ちになっているオレンジ将軍の部下達に儂はさらに衝撃的な言葉を投げかけた。
「そして、桃白白達が来るのは明日ではない。今からじゃ」
同時に、儂の背後に儂の本体と悟空一行、ブルー隊、そして桃白白達が現れた。
「天下一武道会でやっていた瞬間移動か。はは、こりゃあ参った。降参だ」
オレンジ将軍は苦笑いを浮かべて両手を上げ、彼の部下達もそれに倣うしかなかった。
レッド総帥が新しくなったレッドリボン軍を率いて表舞台に立つためなら、ブラック補佐は喜んでその礎になる覚悟が出来ていた。
もちろん、彼も死にたがりではない。しかし、レッド総帥は世界征服を諦める際、「責任は儂がとる」と言っていた。あれは、彼が総帥の座を降りる事を覚悟している事を意味しているとブラック補佐は解釈し、前々からオレンジと共謀して用意していたプランを実行した。
(レッドリボン軍の裏で暗躍し、世界征服を企んでいた大悪人。人生最後の大芝居で演じる役に相応しい)
そう内心で自嘲気味に笑いながら、中身のない演説を終えたブラックはレッド総帥の物だった執務室に向かった。
(地球国へクーデターを企んだのは私だった事の証拠になる偽書類は、オレンジ将軍達に作らせた……果たして通じるだろうか? 捕虜になっているホワイト将軍や、囚われてはいないものの鶴亀仙流一派と同じ場所にいるブルー将軍と連絡が取れないため、不安が残る)
もっとも、ブルー将軍の方は桃白白より早くここに殴り込みに来るかもしれないが。彼の隊にはサイボーグ1号と4号がいる。殴り込まれたら耐える事は出来ないだろう。
(だが、後戻りは出来ん! レッドリボンの暗部を道連れに地獄へ突き進むのみだ!)
不安を振り払ったブラック補佐は、つかの間の主として執務室に入った。
「ブラック総帥! 基地内に侵入者が現れました!」
「なんだと!?」
そして、椅子に座る前に部下の報告を受けて目を剥いた。
「いくらなんでも早すぎる! 何故侵入を許した!?」
「それが、報告によると基地内部に突然現れたと……オレンジ将軍との連絡がつきません!」
「馬鹿な……! 侵入者は何者だ!?」
「我が軍が要注意人物としてマークしていた者の、ほぼ全員です!」
「な、なんだとっ!? い、いや、好都合なのか?」
あまりの展開の早さに驚愕していたブラック補佐だが、考えてみれば最初から退治される予定だったのだ。想定よりだいぶ早いが、問題ないと言えば問題ない。
「私はバトルジャケットで出るぞ! 他の者は足手まといだっ、基地から退避しろ!」
ブラック補佐はそう言って兵に無駄な犠牲が出ないよう指示を出しつつ、バトルジャケットに乗り込むために走り出そうとした。
だが、彼が執務室から出る前に外から轟音が響いて来た。乗り込んできた鶴亀仙流か人造人間が光線で基地を破壊し始めたのかと思ったが、窓を見ればそうでないのは明らかだった。
『フハハハハ! レッドリボン軍はブラックリボン軍と名を改め、このブラック総帥の手によって世界を支配するのだ!』
なんと、バトルジャケットが動いている。轟音は、基地の敷地内にバトルジャケットが降りた音だったようだ。
「だ、誰だ!? 私のバトルジャケットに乗っているのは!?」
「ブラック総帥だと、名乗っていますが?」
「だったらここにいる私は誰だ!?」
「わ、分かりません!」
今度こそブラック補佐の予定は大きく乱れた。
他の歴史から連れて来たブラック補佐とバトルジャケットを見下ろす三つの人影があった。
それは歴史改変者トワと、彼女が作り出した人造人間ミラ。
『……』
そして、仮面のサイヤ人だった。
「よっ、久しぶりだな、おめぇら!」
そんな彼らの前に、まるで旧友と再会したかのような挨拶と共に現れたのは、タイムパトロールの孫悟空。そしてベジータとトランクスだった。
「今度こそ、父ちゃんを返してもらうからな」
「さて、あなた達に出来るかしらね。行くわよ、ミラ」
「ああ」
『……フッ!』
結界を隔てて、三対三の戦いが始まったが、仮面のサイヤ人と拳を交えた直後に悟空は違和感を覚えた。
「ん? おめぇ、本当に父ちゃんか? この前より強くなってるし、拳筋が変わってねぇか?」
「集中しろ、カカロット! バーダックだけじゃない、こいつら前戦った時より強くなってやがる!」
しかし、ミラと戦っているベジータからそう警告され、強くなっているだけかと思い直した事で、覚えたはずの違和感は意識の外に追いやってしまったのだった。
(タイムパトロールは三人とも現れた。後は、奴が結界内に現れるのを待てば……後は貴様の仕事だ、天才魔神よ)
仮面のサイヤ人が内心でそう考えているとも知らずに。
〇ヤムチャの上り症
マロンの活躍(?)によって完治。
コダマ様、くるま様、佐藤東沙様、リースティア様、たかたかたかたか様、 gsころりん様、X兵隊元帥(曹長)様、 tahu様、みえる様、誤字報告ありがとうございます。早速修正しました。