個性「魔轟神」 作:グリムロ
転生した。「僕のヒーローアカデミア」の世界に。前世では男だったのに、今世では女だ。
詳しいストーリーを知らない私ではあるが生まれたときは、世界を知ったときは喜んだ。けれど、世界は私に厳しかった。
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母親の個性は「
そんな母親は……まあ、一言で言うなら屑だった。見た目だけはいいので目を合わせ続けるイベントに持ち込むことはできる。しかし相手が惚れると露わになる本性が駄目だった。相手を奴隷のように扱うのだ。貢がせ奉仕させることを至上の喜びとしていた。
最初は親切に生活費などを負担してくれていたとしても、そのうち愛想を尽かし男は縁を切る。すると「あたしの美しさに勝てる女がいるはずがない」と本気で信じている母親は「相手の見る目がないのが悪い」とまた男を探す。その繰り返し。
そんな中、相手を落とす手段として行った性行為がたまたま当たり、妊娠した。彼女はこう思いついた。
「あたしの子供だし、あたしほどじゃなくとも素晴らしい美貌を備えているに違いない。そして個性も近いものを持っているはず。男であれ女であれいい物件を魅了させて結婚させれば、あたしはもっと楽ができるのでは?」
そんな最高に頭の弱い発想から私は生まれた。黒髪は相手の男の遺伝子である。
さて、そんな私であるが、個性は魅了ではなかった。五歳になってもまだはっきりとした魅了効果が出ない私を不審に思った母親が診てもらったところ、医者は私の個性を異形系の──つまりは、「角と羽が生えているだけ」と診断した。
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病院からの帰り道。レンタカーの後部座席からは母親の顔は見えない。うちに車がないのは母親が送られてくる養育費の殆どを自分のために散財する所為である。
ふと外の景色を見る。街灯が流れるように窓の外を通り過ぎるのが見えた。まだ家にはつかないのだろうか。
「お母さん、どこか寄るの?」
返事はない。何か気を引かなくてはと思い、矢継ぎ早に話題を振る。
「あのお医者さん、お母さんのことずっと見てたね」
「………」
「今日の夜ご飯はなに?私ハンバーグ食べたいな」
「…………」
車が止まった。全く知らない場所だ。
「降りな」
「ここどこ?」
「降りろっつってんだよ」
有無を合わせぬ口調に私は降りる以外の選択肢を選べなかった。ドアを開け、後部座席から外へと出る。夜の、それも明かりの消えた建物に囲まれた空間はどうしようも無く私を心細くさせた。
「ねえ、お母さ──」
バタン。ドアは閉められ、母親の車は走り去って行った。視界が涙で滲む。精神は肉体年齢に引っ張られるなんてこんな事で知りたくなかった。この涙は心細さの涙だ。あれだけのことをされてまだ私が母親を信じたいと思っているのは──
──母親が私に魅了をかけている所為だ。一日一度、効果を上書きするように母親は私と目を合わせる時間を作った。その度に私は行為の意味を知っているが故の恐れと植え付けられた愛情がごちゃ混ぜになる。
でもそれももう終わりだろう。
私は捨てられたのだ。
そう自覚した途端、私の目の前に赤黒い魔法陣が現れた。そこから夜の中でも存在がわかるほど濃密な闇が吹き出し、徐々に人のような形をとって、そうしてそれは顕現した。
目元を隠すような黒いマスク、憎々しげに歪められた口元。腕と背中には烏のような羽を持ち、爬虫類のような尻尾──まさに悪魔と呼ぶべき風貌の大男がそこに立っていた。
「………アシェンヴェイル。それが俺の名だ。お前の個性で召喚された
「……まごう、しん。魔轟神!?」
それは、前世におけるカードゲームのテーマの一つ。
アシェンヴェイルは苦々しげに言った。
「初めに言っておくがな、クルス。お前の個性はお前が『捨てられた』と認識することをトリガーとして発動する個性だ。本来なら余程の事がない限り発動しねぇ」
「……そう、だね」
「だがな、発動条件が厳しいのは効果が強いのが相場ってもんだ。お前がこの俺、アシェンヴェイルを召喚した以上、俺はお前の
「……ええと、その、よろしくね。アシェンヴェイル」
アシェンヴェイルは口元を僅かに──それでも口角は下向きだったが──笑うように歪め、
「任せておけ。俺一人でも十分お前を守るに足りると言うことを見せてやる」
と、宣った。その言葉の真意はアシェンヴェイルのみが知る。
*続かない思ったより見てくれる人がいたので続き書いてみる。
個性「魔轟神」
正確には「魔轟神クルス」。捨てられることによって墓地のレベル4以下の魔轟神の蘇生が可能。
この作品では「墓地」とは切り捨てたもの、あるいは可能性その他とする。主人公はTS転生することで性別上の「男」を捨てたので「墓地」から男らしい魔轟神としてランダムに選ばれたのがアシェンヴェイルだった。