個性「魔轟神」 作:グリムロ
「……ん、ぅ」
意識が浮かび上がる。微かなアルコールの匂い。どうやらうつ伏せにベッドに寝かされているようだった。
「痛っ……つぅ」
首を回して背中を見ると、私の羽がギプス的なモノで固定されているのが見える。多分折れてたんだろうなぁ。
「ん、起きたの?まだ動かないほうがいいよ」
逆に首を回すと、ベッドの脇に知らない女性が腰かけていた。年齢は大学生くらいだろうか。しばらく見つめあって、向こうが何かに気付いたようだ。
「あ、自己紹介! 私は
……うちに限らずどこの孤児院も慢性的な人員不足である。原因は家事スキルを持ってかつ面倒見もよく長時間勤務可能な人員が軒並み高齢で、新人がいないからだ。そんな中若い女性はかなり珍しいんじゃなかろうか、と思う。
「配属されていざ行ってみたら雰囲気が暗くて、聞いたら怪我した子がいるっていうからお見舞いと自己紹介も兼ねて来たの。……片方忘れてたけど」
ショートカットをふわりと揺らして虚意さんは無邪気に笑い、鞄から何かを取り出した。
「これね、お守り。あまり無理しちゃだめだよ」
んん。やっぱり心配かけたのだろうか?別に自分が怪我したわけじゃないのに気にしすぎでは、と思わなくもないが一先ず私はそれを受け取った。『無病息災』と刻まれている。
「善処、する」
「政治家みたいなこと言うんだねぇ。まあ、早く良くなって帰っておいで。みんな待ってるから」
「……わかった」
「ん、よろしい」
最後に私の頭をくしゃりと撫でて虚意さんは出て行った。
その日の夜。窓から月明りが差し込む病室。学校側の過失もあってか個室を用意されているから、内緒の話もできるってもので。私はカードを一枚取り出した
「召喚『魔轟神クシャノ』……久しぶり」
「うん、そろそろだと思っていたよ」
現れたのはクシャノ──眼鏡悪魔である。
「聞きたいことがあるの」
「いいとも」
「じゃあ、まず……私が捨てたものが何かわかる?」
「ああ、それは確か、ルビィラーダが『躁』だ。わかりやすく言うならハイテンション。躁鬱の躁だ」
「クシャノは?」
「僕のは……やめておこう。知らないほうがいい」
いくら問いただしても理由を答えてくれない、仕方なく私は諦めて次の質問に移った。
「これさ、ディアネイラのカードだったんだけど。黒ずんで文字が見えなくなってる」
「ああ、それは君の個性を使っていないからだ。召喚するのに君は構成要素を捨てていないだろ?」
彼の話を自分なりにかみ砕くと、ディアネイラに対応する私の要素を捨てていないから召喚できなくなっている、ということらしい。
「あんまり、ぴんと来ない」
「来なくていいと思うよ。そちらの方が幸せだ、なんたってディアネイラに割り振られた要素は狂気だからね」
それは前聞いた。できれば新しい情報が欲しかったんだけど……。
「あんまり詳しいこと、教えてくれないんだね」
「おそらく最も君に詳しいのは僕で、その僕がこう言っているんだ。諦めてはくれないか」
「まあ、いいけれど」
「うん、助かる」
クシャノはそういいつつ片手に持っていた本の装丁を撫でた。少しだけ見えたその本の中身は文字というより図形のような感じだ。どこかで見たような気がするが、何だったか。ぴんと来ないことばかりでどうにも……もやもやする。
▽
退院して、学校に復帰する初日。スイー、と私の身長からすると些か大きすぎる教室のドアの向こうは、どこか浮ついたような雰囲気に包まれていた。
「あ、真陣ちゃん」
「……おはよ、蛙吹さん」
「梅雨ちゃんでいいわ。怪我は大丈夫なのかしら」
「重傷じゃなかったし、治ったみたい。……で、何でみんなこんなテンション高いの?」
周りを見渡すと暑苦しいテンションで会話している人ばかり。何かあっただろうか。
「体育祭がもうすぐ開催されるせいね。昨日発表だったから」
聞けば雄英体育祭、今年は例年以上に一年生に注目が集まるであろうこととB組の宣戦布告によってやる気が爆発しているらしい。
「真陣ちゃんはそうでもなさそうね」
「私本人は運動神経、あまりよくないから……体育祭って言ってもいい成績は取れないと思う」
それにもしかしたらルビィラーダの所為かもしれないが、体育祭にあまり焦りを感じない。USJの時はほら、敵が来てたから緊張してたけど……体育祭は警備を五倍にして開催するっていうし、敵の襲撃は無いだろう。
そして私の身体能力は個性把握テストでわかるようにポンコツである。ディアネイラがいない以上綱引きとかの腕力重視競技があるとかなり厳しいのだ。うう……アシェンヴェイル……。個性を使えばまた会える可能性はある……?
「梅雨ちゃん、私を窓から投げ捨ててみてほしい」
梅雨ちゃんははっと何かに気付いたような顔をした。
「頭を強く打ったのね」
「……違う。違うから」
▽▽▽▽▽▽▽
ある日の夕方。台所にて。
「あら。牛乳、切れちゃった」
「それくらいなら今買ってきましょうか?私の個性なら時間もかからないですし」
「いいのかい?じゃあお願いね」
「はいなっ!お任せください!」
虚意 幹はそう言い残してその場から消え去った……と思うと、また現れた。
「……お財布忘れちゃいました」
「ふふ、せっかちなのね」
「うう……」
作者、農家ではありませんが三日ほど農作業をすることになりまして。今までエアコンの効いた室内で生活していたものですから炎天下の作業に慣れておらず普通に熱中症になりました。
投稿間隔がちょっと遅れ気味なのはそういう理由もあります。絶対魔獣戦線の短編二次創作に手を出したりしていたのが結構大きかったりしますが。
さて。作者はヒロアカのネーミングセンスが好きです。当て字みたいなやつね。そういう意味ではオリジナルですが『虚意』って苗字気に入ってます。この小説は名前でネタバレする仕様になっています。